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差別懸念、国策の傷深く「いまさら」補償断念…ハンセン病法施行1年(2020年11月14日配信『西日本新聞』)

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小学6年生時の通信簿のコピー。男性は10月から登校できなくなったが、12月まで出席したことになっている。感染が分かってから誰も家に遊びに来なくなったという(写真の一部を加工しています)

 ハンセン病の元患者家族に国が補償金を支払う法律が施行されてから約1年。申請件数は厚生労働省が推計する家族数の2割強と伸び悩んでいる。関東在住の元患者の男性(79)も、兄弟が補償金の申請をしていない。仕事や家庭を持ち、兄弟と交流を続けてきたが、その妻や子には元患者であることは隠したままという。誤った国策が当事者や家族に刻んだ傷は深く、問題解決への道はなお遠い。

 昨年11月に法律ができた後、男性は東北に住む弟に電話をかけた。横に妻がいた様子で、補償金の話をしても気のない返事。後日、弟は申請を断念すると伝えてきた。近くに住む兄も同じ結論だとし、「何の金か説明できない。いまさら病気のことを言えるわけがない」と話したという。

 男性は小学6年の時、教室で検査を受けさせられ、校長から登校しなくていいと告げられた。翌朝、母親が弟に「何を聞かれても知らないと言うんだよ」と戒めるのを聞き、「これから先、弟は誰にも話さないんだろうな」と思った。

 その後、療養所に入った男性。兄の結婚式には呼ばれず、数カ月後に手紙で知った。透明人間になったように感じたという。「早くに亡くなった父もハンセン病だった。遺伝と思われたくなかったのだろう」と兄の当時の心境を推し量る。

 都道府県が患者を探し、療養所に収容する「無らい県運動」が続いていた。薬で治る病気と分かっていたのに患者は隔離され、患者が出た家は白くなるほど消毒された。人々の差別意識が強くなる中、1951年には、山梨県で家族がハンセン病と診断されたことを苦に一家9人が服毒自殺した。男性が患者と分かったのはこの頃だ。

 兄や弟がどんな思いで生きてきたかは「聞けない」と男性は言う。28歳で療養所を出た後、故郷から離れた関東に一軒家を構え、おいやめいを自宅に招くなど交流を続けてきた。ただ、元患者であることは隠したままという。「不名誉なことだから。わざわざ言いたくない」。兄弟も同じ気持ちだと思う。

 元患者であることを妻子に話していない当事者の中には「知られたら離婚される」「重荷を背負わせたくない」と言う人もいるという。新型コロナウイルスの感染者やその家族などが誹謗(ひぼう)中傷を受けた問題もあり、男性の妻で元患者の女性(70)は「百数十万円の補償金のために負うリスクが大きすぎる。打ち明けられる環境が整っていない中で申請につなげるのは難しい」と話した。 (久知邦)

相談も減少傾向に

 昨年11月に施行されたハンセン病元患者家族補償法に基づく補償金の受給申請件数が、厚生労働省が推計する家族数約2万4千人の26・7%にとどまることが13日、同省のまとめで分かった。法施行から1年がたつが、直近1カ月の申請件数は過去最低。長年続いた差別への不安を解消する難しさがあらためて浮き彫りになっており、制度の周知や人権教育など息の長い取り組みが求められる。

 厚労省によると、昨年11月22日の法施行から今月11日までの約1年間の申請者数は6431件。1カ月間の新規の申請件数は、法施行直後は943件だったが、半年時点で553件に鈍り、直近では146件とさらに減少している。補償金に関する相談件数も同様に減少傾向が続いている。

 同法では元患者の親や子、配偶者などに180万円、きょうだいや同居の孫などに130万円を支給するよう定めている。請求期限は2024年11月21日だが、すでに認定されたのは5885件にとどまる。

 元患者やその家族であることを配偶者や子どもに明かしておらず、周囲に知られかねないという不安から申請をためらう人がいるとみられる。厚労省は全国の国立ハンセン病療養所などを通じて制度の周知を図っており、担当者は「本人の希望に応じた連絡の取り方にするなど細やかな配慮をしている。地道に伝えていくしかない」と話す。

 また、同法の施行を機に、人権教育の在り方などについて国と元患者、家族で協議する場が設けられたが、新型コロナウイルスの影響で1月以降、開かれていない。 (久知邦)

【ワードBOX】ハンセン病

 「らい菌」による感染症で感染力は弱い。明治時代から療養所への患者隔離が始まり、1931年の旧らい予防法で強制隔離を法制化。47年の治療薬開発後も、強制的な不妊・中絶手術など人権侵害が続いた。法律は96年に廃止。元患者らによる訴訟で熊本地裁は2001年、隔離政策の違憲性を認定した。19年6月には同地裁が家族への差別被害を認めて国への賠償を命じた。同年7月に安倍晋三前首相が控訴見送りを表明し、謝罪した。元患者の家族の精神的苦痛を慰謝するため、同年11月に最大180万円を支給する補償法が成立した。





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