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【寄稿】学術会議「民営化したら日本の未来に大きな危機」 白田佳子・東京国際大学特命教授(2020年12月1日配信『東京新聞』)

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白田佳子・東京国際大学特命教授

 井上信治科学技術担当相は11月26日、日本学術会議の梶田隆章会長らと会談し、学術会議を国の機関から切り離すことも検討するよう要請した。会議を非政府組織(NGO)や民営化にした場合、日本の科学アカデミーにどんな問題が生じうるのか。学術会議元幹事で、アジア学術会議元事務局長の白田佳子しらたよしこ東京国際大学特命教授は、東京新聞に寄稿し「国際学術会議やアジア学術会議への参加が困難になり、日本社会の未来にとっても大きな危機になる」との懸念を示した。

 寄稿文は次の通り。

◆「ナショナルアカデアカデミー」の意義

 日本学術会議に関わる議論が、「任命拒否」問題から「学術会議を国から独立させる」方向へかじが切られ始めている。
 
 井上科技担当相が、学術会議との会談後に、この「独立」について口にしたがそもそも政府の思惑は、当初から任命の問題ではなく、この「独立」にあったのではないか。

 学術会議が「ナショナルアカデミー」として、省庁を超え、直接、政府への提言を行うことの意義や効果が、政府だけでなく、国民にもきちんと伝わっていないと感じる。そこで、少し目線を変え「ナショナルアカデミー」の果たしてきた役割にまず言及したい。

◆世界的な科学者組織

 科学者組織には、国内だけでなく、世界的な科学者組織が存在する。大学等の研究者が、個人の研究成果を公表し、業績を積むための「学協会」と呼ばれる機関とは異なり、世界の科学者組織は、国境を越え、地球のあるべき姿を、科学者の視点から、議論する場として設けられてきた。

 具体的にどんな機関があるか。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、加盟国における教育、科学、文化の協力や交流を通じ、国際平和と人類の福祉の促進を目的として、国際連合の専門機関として設置された。

 国際社会科学協議会(ISSC)は、ユネスコの支援で設立。自然科学分野では、各国の学術機関や、自然科学に関する国際的な学会連合を、相互に連絡調整する組織として国際研究協議会(IRC)が作られ、31年に改組されて、国際学術連合会議(ICSU)ができた。

 2018年に、ISSCとICSUは、統合され、人文社会科学から自然科学に至る全ての科学者が一堂に会する国際学術会議(ISC)が設置された。これは、地球温暖化など、あらゆる領域における科学者が、分野を超えて人類の福祉に貢献するために、地球のあるべき姿を共に考えていく必要性がより重要となってきたからだ。

 ISCとは別にナショナルアカデミーのみで構成されるIAP(Inter Academy Partnership)と呼ばれる国際機関がある。IAPは、100カ国140以上の科学者組織から構成され、主に政策提言や科学教育の振興、保健衛生の向上など、重要テーマについて各国政府に対し、科学的な助言や勧告をおこなう。

◆学術会議が非政府組織になったら◆

 日本の学術会議は、1996年にIAPに加盟して以来、積極的に活動に参加し、執行役員も派遣しており、日本の存在感は十分、加盟各国に認識されており、2017年には、学術会議においてIAP主催による「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議」も開催された。

 今後、井上科技相が指摘するように、学術会議が「国から切り離され」、国の機関でなくなった場合、日本には、政府直下のナショナルアカデミーが存在しないことになる。そうなると、どのようなことが起きるのか。

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井上信治科学技術担当相

 IAPのようなナショナルアカデミーのみが会員となることができる国際機関から、まず、日本は脱退しなければならない。その場合、日本政府は、学術会議の替わりとなる組織を内閣府内に置き、日本政府として、世界の科学アカデミーに意見を発信し続ける必要がある。その場合、政府は、優れた意見を発信できる科学者組織を、政府内にどのように再編成するつもりなのか。

 国際アカデミーの1つにアジア諸国をとりまとめているアジア学術会議(SCA)がある。これまで紹介してきた国際科学者組織と最も異なる点は、アジア学術会議の事務局が、日本学術会議内に設置されているという点だ。

 米国の全米科学アカデミーや英国の英国王立協会などは、政府から独立しているため、ユネスコや国際学術会議などには、加盟できない。米国や英国などは、これらのアカデミーとは別に政府直轄の機関を作って対応している。

 学術会議を「国から切り離した」場合、国の機関として位置付けられる学術組織がなくなるため、日本はIAPやアジア学術会議、国際学術会議などに、これまでのように加盟し、リーダーシップを発揮できなくなる。

◆日本が主導して築いたアジア学術会議◆

 アジア学術会議は、アジア18の加盟国の大統領、首相などの直下にある32のナショナルアカデミーによって構成され、各国の政府への政策提言を行う機関だ。

 この起源は、日本の学術会議がアジア地域の各国との科学技術による連携を図る目的で立ち上げた「アジア学術会議―科学者フォーラム―」であり、2000年に改組し、設立された。

 毎年行われる大会は18の加盟国が持ち回りで開催し、主催国の代表を会長、次期主催国の代表を副会長とする事が定款で定められている。

 一方、実質的な運営を全て担っているのは、アジア学術会議分科会委員である学術会議の会員たちだ。私自身が、事務局長だった2011年から2014年の間に7カ国9つのナショナルアカデミーが新規に加盟、アジア開発銀行副総裁に、大会に参加してもらい、基調講演を行うなど規模も拡大した。

 未加盟国へのアプローチは当該国の大臣や首相を訪問し、アジア学術会議の趣旨、活動意義など、詳細を説明させてもらうところから始まる。各国の大臣などとの会談は、事務局が日本政府(内閣府)直下の学術会議に設置され、事務局長が日本学術会議の会員(分科会委員長)であることから可能となっている。

◆地球を守る取り組みを議論する重要な場
 
 学術会議が、民間や非政府組織となれば、その代表者が、当該国を訪問し、大臣との面談を行うのは当然困難になる。学術会議が離脱して、アジア学術会議の事務局を他国へ移転、または組織変更する場合には、加盟18カ国が集まり総会での審議が必要となる。

 国家間の交渉含め、内閣府や現地大使館も、学術会議と協働してきたが、膨大な事務局作業を引き受ける国が他にあるのだろうか。井上科技相は、こういった点を踏まえて発言しているのだろうか。

 アジア学術会議の定款には「登録は、国単位である」(定款1.1)と規定され、メンバーの組織は当該国の科学者組織を代表するナショナルアカデミーでなければならない。

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会談した日本学術会議の梶田隆章会長(左)と井上科学技術担当相(10月23日)

 もし、学術会議が「国から切り離された」機関となれば、当然に、アジア学術会議のメンバーの資格はなくなる。日本が立ち上げ、リーダーシップを発揮し、アジア諸国の連携を図ってきた、アジア学術会議自体の存続にもかかわる重大な危機だとして、再び、世界各国の科学者からも批判を浴びるだろう。

 アジア諸国の近年の発展は目まぐるしく科学面でも日本が見習う点は多い。現在議論が進んでいるSDGsについても、アジア学術会議では、すでに2014年には「地球の未来をみすえて(Future Earth)」をテーマに大会を開催、提言を公表した。科学の成果を社会へ還元することは科学者の使命だ。

 アジア学術会議は、アジア諸国の科学者が連携し、政治では、解決できない問題、地球を守る取り組みを議論する重要な場だ。アジア学術会議はもとより、世界の科学者が地球を守るために続けてきた真剣な議論に、日本が参加できなくなることは、日本社会の未来にとっても大きな危機になるのではないだろうか。

 白田佳子(しらた よしこ) 東京国際大学特命教授、博士(経営学)、会計学者。専門は、企業倒産予知、経営分析で倒産予知モデルSAF2002モデルの開発者。ほかに現在、ファミリーマート社外監査役、法務省法制審議会委員、東京国税局土地評価審議会会長などを務める。元日本航空国際線客室乗務員。日本学術会議の関係では、2008年9月~14年9月学術会議会員、第一部経営学委員会委員長。11年4月~12年10月、学術会議幹事、11年10月~14年2月アジア学術会議事務局長。




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