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コロナで疲弊する看護師の現実「世間はGo To楽しんでいるのに」(2020年12月6日配信『AERA.com』)

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 コロナ禍で看護師の「燃え尽き症候群」が懸念されている。極度のストレスや疲労などからくる徒労感や無力感で、仕事への意欲を失うケースもある。看護師不足が叫ばれるなか、さらなる離職は医療崩壊にもつながりかねない。患者の命を救うためにも、まずは看護師を守らなければならない。

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バーンアウトとは、身体的・精神的な疲労によって、エネルギーが奪い取られ疲れ果ててしまう状態。英語で「燃え尽きる」という意味。

 コロナの最前線で働くのは、ICUの看護師だけではない。3月から発熱外来を担当している看護師のTさん(30代)も、常に感染リスクと闘いながら患者と向き合っている。Tさんの医療機関では、一般外来に来た患者にまず看護師が問診し、熱や咳(せき)などの症状があった場合、発熱外来を一度、受診してもらうことになっている。

 発熱外来は救急外来の一角に作られていて、汚染エリア(レッドゾーン)とグリーンゾーンにわかれている。防護具を着ているときは、レッドゾーンから一歩も出られない。狭い閉鎖空間で、発熱や咳がある“コロナ疑い”の人たちを問診し、のどのぬぐい液を採取してPCR検査にまわす。

 陽性かもしれないと、不安を抱える受診者。なかには違う病気の可能性が高いが、熱などの症状があるため発熱外来に来た人もいる。「俺はコロナじゃない!」と怒りだす人に対して、検査の必要性を説き、不安を和らげるのも仕事だ。

 患者対応以外にも苦慮することがあった。

 Tさんの職場では発熱外来を受け持つ医師は、持ち回り制のため、呼吸器内科など内科系の医師だけでなく、耳鼻科や眼科などの医師も担当している。

「どの診療科の医師でも対応できるよう診察マニュアルはありましたが、読んでいない医師が多かったですね。ある診療科の医師は、呼吸器症状がある高齢の陽性患者さんに気管挿管するかしないかで悩み、呼吸器内科の医師に内線で相談していました」

 防護具の着脱もトレーニングは受けているものの着慣れていないので、汚染された部分にうっかり触ってしまうことも。

「『そうやって脱いじゃダメです』とか、私たちが教えていました」

こうしたコロナ禍での新たな業務が、想像以上に看護師の負担を重くし、バーンアウトのリスクを高めている。

 健康・医療心理学を専門とする大阪大学人間科学研究科の平井啓准教授は、「もともと看護師や介護福祉士などの職業は、バーンアウトしやすい」とした上で、コロナ禍では特に起こりやすい要素があると指摘する。

 一つは、通常より業務量が増えたことだ。先にも触れたが、汚染された器具の消毒や感染者の排せつ物・吐物の処理、コロナ病床の廊下やトイレの掃除をするのは看護師だ。防護具を着た状態でしなければならず、それだけ負担が増える。

 平井准教授は、さらにそこに経験不足が追い打ちをかけているという。

「ベテランの看護師さんなら技術も知識もあるので柔軟でこまやかな対応もできますが、まだ経験の浅い看護師さんだと、看護業務だけで精いっぱい。たった一人で感染患者に対応しなければならないとなると、プレッシャーも負担感も相当に大きいと考えられます」

 もう一つ、金銭面の問題も挙げられる。感染のリスクを抱えながら、感染者の命を守るという過酷な仕事でありながら、支払われている対価は十分とはいえない。日本医療労働組合連合会は11月25日に記者会見し、加盟する医療機関の44.3%で、年末一時金(冬のボーナス)が昨年より引き下げられるとの調査結果を明らかにした。

「(医療者は)この9カ月間、ずっと厳しい中で働いている。夏に続いて今回も一時金が引き下げられる。このような状況が続くと、責任感や使命感で働いている医療や介護従事者はこれ以上もたない」(森田進書記長)

 別の意味で「落ち込むことがある」と話すのが、先のTさんと同じ職場に勤めるKさん(30代)。

「看護師としてもっとも大事にしているのが、患者さんに共感して思いをくみ取ること。手を取って話を聞いてあげたいんですけれど、防護具を着ているので見えているのは目だけ。受診者と距離を置かなければいけないので、自分のやりたい看護ができません」

しかも、検査で陽性になれば、自宅に帰ることもできず、そのまま入院となり、病気が悪化すれば人工呼吸器が必要になる。そのまま最期を迎える人もいる。家族も患者に会えないままだ。

「『ちゃんとご飯は食べていますよ』と話していたおばあちゃんが、次の日には人工呼吸器が必要になり、亡くなってしまう。この病気じゃなかったら家族に会えていたでしょうし、もっといろいろなことができたと思う。無力感しかありません」

 こうした看護師らのメンタルを支える取り組みを、4月から実施しているのが、東京医科歯科大学病院(東京都文京区)だ。

 精神科や緩和ケア科、看護部、保健管理センターの医師や看護師からなるメンタルヘルスケアチームは、まず病院で仕事をするすべての職員、スタッフ約600人に面談を実施。その後も心身に不調を訴えるスタッフに対し、精神科医らがサポートを行っている。チームをまとめる精神科准教授の杉原玄一医師は、

「(最初に感染拡大した)あの時期は、使命感や責任感がなければ逃げ出したい環境。そこに立ち向かっていったスタッフは、強いストレスにさらされていました。一方で、この状況をみんなで乗り越えようという団結力のようなものがあったように思います」

 逆に、感染者数が落ち着いてきた夏ごろは、最初のころのような緊張感がなくなり、気力が湧かないような状態に変わってきたという。第3波で一度緩めた緊張の糸をもう一度、締め直さなければならない。「そうした気持ちの立て直しをできるかどうかが鍵」だと杉原さんは言う。

 全国で感染者数が過去最多を更新し続け、中等症や重症の患者も増えている。厚生労働省のまとめでは、病床数の逼迫(ひっぱく)の程度を示す「病床の使用率」は、11月18日現在、全国の14都道府県で20%を超えた。ただ、病床数自体は余裕があっても使えないという病院もある。前出の看護師のKさんはこう話す。

「コロナ病床が逼迫しているといいますが、うちの場合はコロナの影響で患者さんの受診控えが続いていて、病床自体は空きがあるんです。でもコロナに感染した患者さんを受け持つ、看護師らスタッフが不足しているからそこを使えないんです」

コロナ専用病床では中等症、重症問わず通常の病床よりも多く看護師が必要になる。コロナ以外の診療も続けつつ、感染患者も診なければならない。医療機関が単純にコロナ病床を増やせないのは、こうした事情もあるという。

 日本看護協会は、第3波に向けた対策の一つとして、近く看護職の相談窓口を設ける予定だ。4月20日からの約1カ月間も同様の相談窓口を設けており、800件を超える相談が寄せられた。うちメンタルヘルスの相談は70件弱で、「給与やボーナスが減額された」「誹謗(ひぼう)中傷がいまだになくならない」「世間がGo Toで楽しんでいるのに自分たちは旅行や会食さえできない」といった声があったという。協会の福井トシ子会長は、次のようなメッセージを出した。

「日本の医療現場は、看護職の献身的な努力と使命感で持ちこたえています。医療が崩壊すれば救うことのできる命も助からなくなります。看護職をはじめとする医療従事者を物心両面から支えてください」

 コロナの収束の先行きがまったく見えない中、「最後の砦(とりで)」となる看護師を守るための方策は必要だ。看護師のKさんの言葉を最後に記す。

「防護具を着ていると、『そんな格好で、よくがんばっているね』とか、『無理しないでね』とか言われることがあります。そういう言葉に励まされて、今日もがんばろうって思います」

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2020年12月11日号より抜粋




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