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感染拡大はGoToトラベルのせいじゃない? 菅政権はなぜ一時停止に踏み切ったのか(2020年12月17日配信『共同通信47NEWS』)

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新型コロナウイルス感染症対策本部終了後、記者団の取材に応じる菅首相=14日夜、首相官邸

 菅義偉首相が、年末年始の「GoToトラベル」を全国一斉に一時停止すると決めた。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための「勝負の3週間」が終わろうとするタイミングでの、突然の決断。年末年始の予定を決めていた多くの国民のみならず、菅首相が「支援したかった」はずの旅行業界までが大混乱に陥っている。首相の判断が遅れたことで、旅行業界の受けた傷はさらに深くなってしまった。(ジャーナリスト=尾中香尚里)

 ▽「停止」考えていないから一転

 「GoToトラベル一時停止」の発表は14日夜。そのわずか3日前の11日、菅首相はインターネットの動画配信サイト「ニコニコ生放送」で、一時停止について「まだそこまで考えていない」と語っていた。

 この日の放送では「ガースーです」発言ばかりに注目が集まった。だが印象深かったのは、この日の菅首相は官僚が作成した原稿を読むばかり(それもまともに読めない)の国会質疑と違い、かなり自然に「自分の言葉」で語っていたことだった。そしてその「自分の言葉」で、首相はこう言った。

「Go To トラベル」の全国一時停止が決まり、対応に追われる「飛鳥旅行」の社員=15日午後、東京都杉並区

 「いつの間にか『GoTo』が悪いことになってきている」

 違和感を覚える発言だった。

 ▽垣間見えた菅首相の不満

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会はこの日、感染状況が『ステージ3』に該当する地域で「感染状況が高止まりしている場合」などの条件をつけて、GoToの対象地域から除外することを求める提言を発表した。分科会はこれまでに何度も、感染拡大地域を対象にしたGoTo事業の見直しを提言していた。だが、菅首相が全く反応を示さないため、あえて対象を狭めて、少しでも首相が受け入れやすい案をひねり出したのだろう。

 そんな中での「『GoTo』が悪いことになってきている」発言。ここには「感染拡大を『GoToのせい』であるかのように主張する分科会や国民世論」への、菅首相自身の不満が垣間見えた。「私のやることは正しい。間違っているという方がおかしい」。そんな意識があるのではないか。筆者はそんな不安を抱いた。

そして今、この見方はあながち間違っていなかったのではないかと思う。

 GoToトラベルの一時停止を発表した14日、菅首相は「コロナ感染を何としても食い止める。そういう思いの中で自ら判断した」「年末年始は集中的に対策を講じられる時期だと思った」と記者団に語った。

 なるほど、一時停止は感染拡大を食い止めるための措置か。GoToトラベルが感染拡大に影響を及ぼしている可能性があると、ようやく認めたのか。そう思っていたら、加藤勝信官房長官は翌15日の記者会見で、GoToトラベルが「感染拡大の主要な要因であるとのエビデンス(証拠)は現在のところ存在しない」との認識は変わらないことを強調した。同じ日に閣議決定された2020年度第3次補正予算案には、GoToトラベル事業の延長に1兆311億円が積まれていた。

 ▽一時停止に踏み切った本当の理由


 ではなぜ菅首相は「感染を何としても食い止める」ために、あえて「GoToの一時停止」を選んだのか。感染拡大地域での外出自粛要請など、もっと直接に人の移動を止める策を、同時に打ち出すことをしなかったのか。

 考えられるのは内閣支持率の急落である。ニコニコ生放送の放送翌日の12日、毎日新聞と社会調査研究センターの世論調査で内閣支持率は40%と、17ポイントの急減を記録。不支持率が49%に達し、初めて支持率を上回った。菅政権のコロナ対策への評価については「評価しない」が62%と、前回の27%から2倍以上に跳ね上がった。

 菅首相がGoToトラベルの一時停止を模索し始めたのはこの日だったとされる。「これ以上行うと、全て『GoTo』に責任を負わされる」。首相は周囲にこう語ったという。

 菅首相のニコニコ生放送の発言と、その翌日の内閣支持率低下を受けての発言を合わせれば、一つの仮説が立てられる。つまり菅首相が、自分自身は「感染拡大の原因」だと考えてもいないGoToを一時停止させ、その他の感染防止策に手をつけなかったのは、単に「自分がGoToトラベルに固執したから内閣支持率が低下した」と批判されたくない、すなわち「自分のせいにされたくない」からだったのではないか。

今回の判断には、「感染拡大の防止」など、実は頭になかったのではないか。

 報道では「首相周辺」によるこんな言葉も伝えられた。「GoToを全国で一時停止することで、感染との因果関係がないことがはっきりするだろう」

 正直あぜんとした。これはどういうことなのだろう。菅首相は「GoTo」を止めても感染拡大は減らない、つまり感染拡大は「GoTo」のせいではない、それを証明するために一時停止に踏み切った、とでも言いたいのだろうか。

 「GoToは正しい政策だ。にもかかわらず分科会も国民も『止めよ』という。だったら止めてやろうじゃないか。それでも感染が拡大すれば、感染拡大はGoToのせいではないことが分かる。私が正しいと証明してやろうじゃないか」。まさか菅首相はこう言いたいのだろうか。

 感染を恐れる国民感情も、突然の方針転換で苦しみ、傷つく旅行業界のことも、感染拡大防止への有効な対策がなされないことに苦しむ医療従事者のことも後回しにして、ただ「自分のせいではない」と言いたい。そのために、いきなり一時停止を打ち出したのだろうか。

 そうだとすれば、こんな権力の使い方が、筆者はただ恐ろしい。

 ▽苦しいのは旅行業界だけではない

 報道では「一時的に経済との両立の旗を降ろす」という官邸幹部の発言も紹介された。しかし、なぜ「GoTo」を一時停止したら「経済支援をしない」ことになるのか。そもそも経済対策として「GoTo」一本しか考えていなかったことが、菅政権の間違いの始まりなのではないか。

 11月24日に公開した小欄「第3波の急拡大は「国民のせい」か」でも言及したが、GoTo事業とは「国民の移動を国が誘導する」ことで、初めて成り立つ経済対策だ。もし感染の拡大によって国民が自ら移動を避けるようになり、観光地から人の姿が消えたら、菅首相は旅行業界の支援をどうするつもりなのか。「国民の財布」に代わり、政府自身が財政支出によって、旅館や飲食店などを支えきる意思はあるのか。それともその時は、旅行業界の「自助」で何とかしろと考えていたのか。

「一時的に経済との両立の旗を降ろす」とは「GoToを止めろと言うなら、もう経済支援はしない」ということなのか。もしそうならば、それは国民への脅しである。

 感染の再拡大で、今すぐに政府の直接支援が求められている中小零細業者は、旅行業界に限らず多くの分野で大勢いる。しかし、菅政権がこうした人々への支援を真剣に考えている様子は、どうしても見えない。年明けの第3次補正予算を待つまでもなく、菅政権は閣議決定だけで支出できる予備費をまだ7兆円近く残しているが、菅首相がニコニコ生放送に出演した11日に閣議決定された予備費支出約3700億円のうち、実に3110億円がGoToトラベルの追加予算だった。ちなみに、低所得のひとり親世帯に対する臨時特別給付金に使われるのは737億円である。

 16日で発足から3カ月。この政権はやはり、何かがおかしい。




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