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週のはじめに考える 海底から見えた未来(2020年12月27日配信『東京新聞』-「社説」)

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特攻艇「震洋」の基地跡と震洋の模型=鹿児島県の加計呂麻島で

 鹿児島県の奄美地方には旧暦の3月3日に「サンガツサンチ」という年中行事があります。桃の節句ですが、地域によっては皆で浜に下りて海で遊ぶ日でもあります。この日に海に漬からないとカラスやフクロウになるという言い伝えもあるそうです。

 奄美や沖縄など南の島々では海のかなたに豊穣(ほうじょう)をもたらすニライカナイという異界があると、古くから信じられてきました。サンガツサンチは海への感謝や畏敬の念が今も脈々と伝わっているということの一つの表れなのでしょう。

 コロナ禍で多くの観光地が大打撃を受けた今年、奄美への客足も一時期は途絶えました。

◆コロナ禍で客足途絶え

 ふだんは観光客をサンゴ礁の楽園へと誘(いざな)っているダイビングショップのインストラクターたちは、違う形で、海と向き合いました。皆で海底のごみを拾ったのです。

 仕掛け人は、奄美大島の瀬戸内町を拠点に地域活性化などを手掛ける「ブルースクールデザイン」社長の河本雄太さん(39)でした。

 東京や大阪でショップなどダイビングにかかわる仕事をしてきた河本さんには「ダイビングインストラクターの価値を証明したい」という思いがありました。生活が安定せず「結婚するから辞める」と、仕事から離れていった仲間もいます。

 河本さんが奄美大島にかかわるきっかけとなったのは、障害者もダイビングが楽しめる、宿泊も含めた総合施設「ゼログラヴィティ」(同町)との出会いでした。障害者の付き添いは、経験を積んだインストラクターだからこそできる仕事です。海に潜ることで、障害者の世界もぐんと広がります。

 河本さんは、双方に誇りや喜びをもたらすこの施設の運営を担うことにしました。

 観光客が多すぎるというオーバーツーリズムに悩み始めていた町の観光業はコロナ禍で一転、存続の危機に陥りました。「客がいないことを前向きにとらえ、プロのダイバーが社会活動できる機会にしたい」。業者支援の意味合いも込め、海底清掃のアイデアが生まれました。町から河本さんの会社が委託を受ける形で、10月にスタートしました。

◆より良い社会を目指す

 地元の14のダイビング業者が参加。何トンという漁網などのごみを拾い集めました。70代、80代のショップのオーナーらが船を操縦し、若いダイバーと語らうことで世代間交流も生まれました。

 「この辺はかつてエンジンがかけられないくらい海藻がいっぱいあった」。半世紀にわたり海を見つめてきた大先輩の話を共有したことで、藻場を再生しようという機運が生まれました。生態系を豊かにし、二酸化炭素(CO2)の吸収も期待されます。

 コロナ禍により、経済、社会、環境のいずれもが持続可能な形で成長することを目指す国連のSDGs(持続可能な開発目標)を、期限とした2030年までに達成できるかが危ぶまれています。世界中で貧困や飢餓が、弱い立場の人々をよりいっそう苦しめ、格差があらわとなっています。

 一方で、経済などの立て直しにあたり、地球温暖化や社会課題への取り組みを強化し、コロナ前よりも良い社会を目指す、グリーンリカバリーと呼ばれる経済復興策も世界で広がりを見せています。

◆重層的に時を見つめて

 海を大切な存在として共に生きてきた奄美での、ダイバー発の動きはその潮流とも重なります。

 河本さんは清掃活動を通じて、町に残る戦跡も意識するようになりました。奄美大島の南西に位置する同町の加計呂麻島は、小説「死の棘(とげ)」の作家島尾敏雄が太平洋戦争末期に特攻艇「震洋」の部隊の指揮官として赴いた地でもあります。

 島には今も基地の跡が残っています。海底で撃墜された米軍機とみられる遺物が発見されたこともあります。

 「SDGsでは、バックキャスティング(未来のあるべき姿から逆算して今すべきことを考える手法)ということがよく言われるけど、過去の歴史から学ぶことも必要。資源の奪い合いから戦争は起こった」。今年は戦後七十五年の節目でもありました。

 過去・現在・未来。重層的に時を見つめ、今困っている人たちを取り残さないという前提のもと、より良い社会のありようを考え、粘り強く歩みを進めたいとの思いを強くする年の暮れです。




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Author:gogotamu2019
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