FC2ブログ

記事一覧

公安担当だったジャーナリスト・青木理氏がみた菅政権の本質 「戦後初の警察官僚に牛耳られた政権だ」(2020年12月31日配信『AERA.com』)

キャプチャ
ジャーナリストの青木理氏

 7年8カ月にわたる安倍政権が終わり、今年9月、菅義偉首相を戴いた菅政権が誕生した。だが、政権発足時に65%あった支持率は、わずか3カ月で39%まで下落(朝日新聞の世論調査)。GoToトラベル停止の判断の遅れなど、政府のコロナ対応に関する不満は日ごと高まっている。だが、それだけではない。菅首相をはじめ、政権幹部たちの「権力」に対する姿勢も疑問視されている。元共同通信記者で警備・公安担当などを務めたジャーナリストの青木理氏は「このままでは日本は警察国家になる」と警鐘を鳴らす。
*  *  *
――菅政権の支持率が急落しています。最初のつまずきは、10月に日本学術会議の会員6人の任命を拒否した「学術会議問題」が発覚したことだと思います。ただ、この問題は当時支持率には影響しておらず、菅首相は今でも「問題ない」と強気の姿勢を貫いています。

青木:学術会議の任命拒否は果たして「つまずき」でしょうか。安倍政権時代からの話ですが、内閣法制局長官や日銀総裁、果てはNHK会長などに至るまで、戦後の歴代政権がかろうじて自制してきた人事権を放埒に行使し、これまで積みあげてきた暗黙知ともいうべき矜持をいとも簡単に破壊してきました。安倍前首相と同様、菅首相も権力行使への畏れや謙抑性が著しく欠如した政治家です。あらためて指摘するまでもなく、前政権の官房長官として各種の人事を差配してきたのが菅氏ですから。

――6人の任命拒否には、杉田和博官房副長官が深く関与しているとされ、それを疑わせる資料も表沙汰になりました。

青木:杉田氏は、各省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」のトップも兼務しています。これも安倍政権時代から、官房長官だった菅首相と一体となって官僚の人事を動かしてきたわけですが、学術会議の任命拒否も菅首相と杉田氏の主導による典型的な「暗黙知の破壊行為」です。

 しかも政権はなぜこの6人を排除したのか。杉田氏は警察官僚出身で、ほぼ一貫して警備・公安畑を歩んできました。「国家にとって脅威」だと彼らが捉える組織、人物を監視し、取り締まりの対象としてきたわけです。それは必ずしも「国家」ではなく「時の政府」や「警察」にとっての「脅威」だったりもして、今回も6人がなんらかの「脅威」と捉えたのでしょう。巷間言われるように、安保法制や共謀罪、特定秘密保護法に異を唱えた学者を狙い打ちしたのかもしれません。

ところが菅政権は「人事に関することはコメントしない」という理屈で理由の開示を断固として拒否している。説明できないからでもあるでしょうが、一方で説明しないことの“効果”は侮れません。政権に排除された理由への疑心暗鬼や忖度が広がり、説明したとき以上の自粛や萎縮効果が期待できるからです。これは統治者にとって好都合でしょう。

 もう一点、警備・公安部門出身の元警察官僚にこれほど絶大な権限を握らせることの是非も考えるべきです。杉田氏だけでなく、警察庁出身で内閣情報官だった北村滋氏は、2019年9月から外交・安保政策の司令塔を担う国家安全保障局長に出世しています。つまり官僚人事から外交、安保分野に至るまで警察官僚出身者が牛耳っている。まぎれもなく戦後初めての事態です。

――警察と政治が一体化することの危険性は、戦前の特高警察の所業などからも明らかです。菅首相はそうしたことに無自覚なのでしょうか。もしくは危険性はわかっていながら、権力を誇示する“見せ方”として使っているのでしょうか。

青木:政治記者ではない僕に菅首相の内心はわかりませんし、さほど興味もありません。ただ、官房長官時代に菅氏の番記者だった毎日新聞の秋山信一記者は、最近の著作で「権力」に関する菅氏のこんなせりふを紹介しています。「重みと思うか、快感と思えるか」と。権力行使を「快感」と捉える為政者は非常に危うい。

 ふるさと納税制度に異を唱えて左遷された元総務官僚の平嶋彰英氏も、菅氏の権力に対する意識を垣間見たことがあるそうです。菅氏が総務副大臣の時代、平嶋さんを含めた総務省幹部と会食をした際の第一声が「俺は官僚を動かすのは人事だと思っている」だったと。

 その後に平嶋氏はふるさと納税をめぐって菅氏と対立しますが、最終的には菅氏の意向どおりに政策を立案した。なのに人事では制裁を受けた。要するに徹底した服従と忠誠を求めるタイプなのでしょう。平嶋氏は「あんなひどい政治家は初めてだった」と吐き捨てていました。

要するに安倍政権期、官房長官だった菅氏は徹底して安倍氏に尽くした。それと同じことを下(官僚)にも求めるんだろうと平嶋氏は言うんです。何かやれと指示されたら四の五の言わずにやる。いや、やれと指示などされる前に忖度して動く。それを「快感」と捉えるのが為政者としての菅氏の本質かもしれません。

――菅首相は「頑固だ」と評されることも多いですが、異を唱える周囲の意見には耳を傾けない頑なさが、判断の遅れにつながっていると見る向きもあります。感染者数が右肩上がりになる中で、GoToトラベルをなかなか停止しなかったのも、そうした菅首相の性格も関係しているように思います。

青木:これも僕には真相がわかりません。ただ、こうした為政者の振る舞いは、中長期的に見ていくと官僚組織はもとより、この国の社会から活力や創造性を失わせていくことに僕たちはもっと危機感を抱くべきです。異を唱えれば人事的な制裁を受けかねない官僚組織からは闊達な対案やアイデアが出てこなくなり、さまざまな専門的見地から政治に異論を唱えるべき学術会議のようなアカデミアも萎縮傾向を強めていきかねない。社会全体に忖度病が蔓延していく。人事権は大きな政治権力ですが、こうした使い方をしていると組織や社会はますます沈滞します。

――官僚だけでなく、メディアへの監視も強まっている気がします。11月下旬、首相官邸の情報発信を担う内閣広報室が、ニュースやワイドショーなどでの発言内容を記録した900ページ以上もの資料を作成していたことが報じられました。青木さんの発言も対象となっていたようです。

青木:まあ、あの程度のことは内閣情報調査室(内調)あたりが昔からやってきたことなので、さほど驚きません。「世論の動向」なるものをチェックし、政権にご注進しているわけです。そんなことに貴重な税金と人員を使うのはバカげた話ですが、それよりもはるかに怖いのは、杉田氏や北村氏の出身母体である警備・公安警察が擁する巨大な情報ネットワークです。以前、元文科事務次官の前川喜平氏が歌舞伎町の「出会い系バー」通いを大手紙に書き立てられましたが、この情報もそうした背景から出てきたと考えるべきでしょう。

全国津々浦々に30万人近い人員を配する警察組織内で、警備・公安部門は長く絶大な力を有してきました。かつては「反共」「防共」を最大のアイデンティティーとして主に共産党や新左翼、そのシンパをターゲットにした監視・取り締まり活動を行ってきましたが、90年前後に冷戦体制が終わり、国内では95年にオウム真理教事件などが起きると、公安警察の存在意義が疑問視されるようになった。

 その前後から警備・公安警察は「テロ対策」などに活動の重点を移すとともに、もっと幅広い政治動向の収集にあたるよう舵を切ってきたフシがあります。マスコミなどとも積極的に接触し、そこから情報を吸い上げたり、逆に情報を流したりするようになった。内調の仕事もその延長線上にあります。

 ただ、内調にさほどの調査能力はありません。強大なのは、やはり全国津々浦々に人員を擁する警察のネットワークです。たとえば杉田官房副長官が配下の警備・公安警察に「○○を調べられないか」と言えば、そのネットワークを動かすことができる。そこが元警察官僚の力の源泉です。これほどの力を有しているからこそ、戦後の警察組織は政治と一定の距離を置くことを原則とし、これも一応の暗黙知だったはずですが、現在は完全に官邸と一体化してしまっている。非常に危ういことです。

――一方で、かつての権力者の落日も目の当たりにしました。「桜を見る会」問題では、前日の夕食会の経費を補てんしていたとして、安倍前首相の公設秘書が政治資金規制法違反で略式起訴されました。安倍氏も検察から聴取され、国会でも追及を受けました。元農水相の吉川貴盛元衆院議員も大手鶏卵生産会社から現金を受け取った疑惑があり、表向きは健康状態を理由にして、議員辞職しました。吉川氏は二階派です。これらの不祥事は菅政権にもダメージとなると思われます。

青木:野党は来年の通常国会でも安倍氏を追及すると訴えていて、「秘書がやったこと」「私は知らなかった」という安倍氏の主張を額面どおりに受けとめている人は皆無に近いでしょう。また、年明けには吉川氏に対する検察捜査も本格化していきます。新型コロナの感染拡大にも歯止めがかからないなか、党内基盤が弱い菅政権が安泰とは思えませんし、安泰であるべきだとも思いませんが、野党が現在のような体たらくでは、明るい政治展望を描けないのも事実です。残念ですが、この国の政治状況は来年も暗いというしかありません。(構成=AERAdot.編集部・作田裕史)




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ