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パラリンピック走り幅跳び高田千明 暗闇で走る恐怖と闘いながら、息子のために金メダルを<現代の肖像>(2021年1月2日配信『AERA.com』)

吉井妙子

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1センチでも遠くへ──恐怖心をのみ込み、暗闇の中に身を投じる勇気が飛距離を伸ばす(写真/伊ケ崎忍)

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江戸川区陸上競技場で行われた「車いす陸上教室」のイベントにゲスト出演。千明は障碍者スポーツの理解を広めるため多くのイベントに参加している。スポーツには縁がないと思い込む障碍者に、汗をかく喜びを伝えたいという(写真/伊ケ崎忍)

 東京パラリンピックの走り幅跳びで出場が内定している高田千明。全盲の彼女にとっては、走って跳ぶことは恐怖との闘いだ。高校3年生で視力を完全に失った。それでも明るい性格は変わらない。両親の反対を押して、出産もし、母になった。走り幅跳びを始めたのは、パラリンピックで金メダルを取るため。息子に金メダルをかけることを、胸に誓っている。
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 闇夜の中にぽっかり浮かぶ晩秋の東京都・江戸川区陸上競技場。東京マラソン財団が開催する車いす陸上選手のイベントが行われているトラックの片隅で、長い髪を空中になびかせ走り幅跳びの練習をしている女性がいた。その傍らで長身の男性が手拍子を打ちながら何やら指示している。

 T11(全盲)クラスの走り幅跳びで、東京パラリンピックの出場が内定している高田千明(たかだちあき)(ほけんの窓口グループ=36)とコーチの大森盛一(しげかず)(48)だった。彼らは、新型コロナ禍で練習場の閉鎖が相次ぎ、このようなイベントがあるとゲスト出演する代わりに練習場を使わせてもらっていた。

 車いすがトラックを走るスピード音に耳を傾けていた千明が、「私もやってみたい」と大森に訴える。大森は「また始まった……」と苦笑いしつつ、「練習に集中しろ!」と一喝。千明はぺろりと舌を出す。千明の半端ない好奇心と外連味のない陽気な性格は、彼女の人生を切り開いてきた大きな武器でもあった。

 初めてパラリンピックに出場したのは2016年のリオデジャネイロ。陸上100メートルと走り幅跳びで出場し、100メートルは予選落ちしたものの、競技を始めてまだ3年の走り幅跳びで8位入賞。潜在能力の高さを見せつけた。

 走り幅跳びは恐怖との闘いと千明は言う。確かに私たちも目を閉じてイメージすれば、千明の恐怖感が理解できる。暗闇の中を20メートル以上も全力疾走し、どこにあるかわからない踏み切りで思い切り空中に身を投げ出し、そして身体を整え着地する。砂場にうまく着地できればいいが、少しでも踏み切りが逸れたら地面に叩きつけられ、大怪我を負いかねない。

しかも千明は、走り幅跳びという競技を、まだ微かに目が見えた子ども時代にもまったく目にしたことがなく、競技のイメージすらできなかった。そんな無謀ともいえる挑戦になぜ取り組んだのか。千明はケラケラ笑いながら言う。

「決まっているじゃないですか、パラリンピックで金メダルを取りたいからですよ。陸上100メートルの強豪選手は世界にたくさんいるけど、恐怖心が邪魔する走り幅跳びは競合選手が少ない。可能性の高い方を選ぶのは当然でしょ」

 全盲クラスの陸上100メートルと走り幅跳びで日本記録を持つ千明は、妻、母、会社員、大学講師など多面体の顔を持つ。一方、聴覚障碍者(ろう者)である夫の裕士(ゆうじ)(36)は、オリ・パラの翌年に開催されるデフリンピック(聴覚障碍者のオリンピック)に400メートルハードルやリレーで3大会出場している現役陸上選手。千明と裕士は、いわゆるスーパーアスリート夫婦でもあるのだ。

 この夫婦と話していると、二人が障碍者だということをつい忘れてしまう。レストランに入れば、目が見えない千明に代わって裕士がメニューを読み上げ、耳の聞こえない裕士に代わり千明が店員に注文する。そんな仕草があまりにも自然なため、千明につい「箸を取って」などと声をかけ、裕士には気遣いなく話しかけてしまう。

「二人で半分こずつ」。千明は自分たち夫婦のことをそう表現する。「私は裕士の耳、裕士は私の目。二人合わせて一人前」

 千明は目が見えないのに手話や指文字を使い、裕士は耳が聞こえないのに濁りのない日本語を操る。彼らと接しているとそれが当たり前のように思ってしまうが、そもそも、視覚障碍者が手話を使うことは少なく、聴覚障碍者が明瞭な発音を口にするのは稀といってもいい。

 人間の五感による情報判断の割合は、視覚が8~9割と言われている。多くの情報収集手段を失ってしまったはずの千明が、腹の底から湧き出るような笑顔を見せ、無謀ともいえる挑戦を可能にしてきた。艱難辛苦を鉄の胃袋でのみ込み、それを心の栄養としてさらに上を目指すという成長の循環を、千明は体得しているようにみえる。

(文・吉井妙子)

※記事の続きはAERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号でご覧いただけます。




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