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(論)コロナ特措法改正に関する論説(2021年1月3・6・・10・11・13・14・15・16・17・18・19・20・21・22・23・24・27・28・29・30・2月1・2・3・4・5・6・10・12・13・14・17・18日)

コロナまん延防止措置 宣言解除後の活用は疑問(2021年2月18日配信『茨城新聞』-「論説」)

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法が施行され、緊急事態宣言の前段の状況でも飲食店などに罰則付きの命令を出せる「まん延防止等重点措置」が新設された。都道府県知事は、一定の要件や手続きが必要な宣言の発令中でなくても、機動的に強い措置を取れるようになった。

 これを巡り、宣言回避のための予防措置という当初想定に対し、政府、知事らが宣言解除をスムーズにする「受け皿」に活用しようとする動きが顕在化した。解除のハードルが下がり、早すぎる解除がリバウンドを呼んでかえって収束が遠のく結果を招かないか心配だ。慎重な運用を求めたい。

 改正特措法は、緊急事態宣言下で休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者に命令を可能とし、違反の場合は30万円以下の過料を科す。宣言発令がなくても、政府が対象の区域、期間を定めるまん延防止措置の下で、時短違反に過料20万円以下を科せるようにした。

 ただ、措置の適用要件や国会の関与は法律に明記されず、政府は新規感染者数や医療提供体制の逼迫度などを踏まえて判断すると政令で決めたものの、基準はなお不明確で恣意(しい)的運用の懸念が残ると言わざるを得ない。

 緊急事態宣言は、感染状況が最も深刻な「ステージ4」(爆発的感染拡大)での発令、まん延防止措置は「ステージ3」(感染急増)での実施が想定される。政府、知事らはこれを目安とした上で総合的に判断するが、宣言発令中の10都府県の一部では感染者減少を受け解除を急ぐ「前のめり」な姿勢が目についた。

 経済再生を重視する吉村洋文大阪府知事は、宣言解除要請へ向け設定した独自基準2項目のうち、重症用病床使用率が未達にもかかわらず、直近1週間の新規感染者数がクリアしたと解除要請へ動きだした。意見を聞いた専門家6人中5人が反対して判断は先送りされているが、この間に吉村氏が宣言解除の後に移行するよう求めていたのが、まん延防止措置だ。

 この措置は初期の特措法改正案に「まん延防止策を講じないと緊急事態宣言発令を回避できないと判断した場合」に政府が決める「予防的措置」として登場。しかし法案審議の途中から、吉村氏らに呼応するように政府も「状況によっては使える」(西村康稔経済再生担当相)と解除後の適用に急に軸足を移した。宣言解除後のまん延防止措置への移行は、強い対策が継続されると説明でき、住民の不安感を和らげる効果が期待できる。このため宣言解除に前のめりだった知事らは解除を容易にする「クッション」に使おうとしたと見られても仕方あるまい。

 政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は宣言解除に関して「医療の負荷が軽くなることが、陽性者数(の減少)よりも大事だ」と指摘している。感染力の強い変異ウイルスも出現した。今、解除を急ぐことで「緩み」が生じて感染再拡大を招けば、収束を目指す努力が水泡に帰しかねない。医療に加え、感染経路調査に当たる保健所の負担が重いままでの解除は踏みとどまるべきだ。

 専門家が分科会に示しシミュレーションでも、東京都で2月初めに宣言解除し急速に経済活動を促進した場合、1日当たりの感染者500人程度の状況が、5月初めに1500人超に戻ってしまうという。焦りは禁物だ。



コロナまん延防止措置(2021年2月18日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆宣言解除後の適用は慎重に◆

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法が施行され、緊急事態宣言の前段の状況でも飲食店などに罰則付きの命令を出せる「まん延防止等重点措置」が新設された。都道府県知事は一定の要件や手続きが必要な宣言発令中でなくても、機動的に強い措置を取れるようになった。

 これを巡り、宣言回避のための予防措置という当初想定に対し、政府、知事らが宣言解除をスムーズにする「受け皿」に活用しようとする動きが顕在化した。解除のハードルが下がり、早すぎる解除がリバウンドを呼び、かえって収束が遠のく結果を招かないか心配だ。

 改正特措法は、緊急事態宣言下で休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者への命令を可能とし、違反の場合は30万円以下の過料を科す。宣言発令がなくても、政府が対象の区域、期間を定めるまん延防止措置の下で、時短違反に過料20万円以下を科せるようにした。

 ただ、措置の適用要件や国会の関与は明記されず、政府は新規感染者数や医療提供体制の逼(ひっ)迫(ぱく)度などを踏まえて判断すると政令で決めたものの、基準はなお不明確で、恣意(しい)的運用の懸念が残ると言わざるを得ない。

 緊急事態宣言は感染状況が最も深刻な「ステージ4」(爆発的感染拡大)での発令、まん延防止措置は「ステージ3」(感染急増)での実施が想定されている。政府、知事らはこれを目安とした上で総合的に判断するが、宣言発令中の10都府県の一部では感染者減少を受け解除を急ぐ「前のめり」な姿勢が目についた。

 経済再生を重視する吉村洋文大阪府知事は、宣言解除要請へ向け設定した独自基準2項目のうち、重症用病床使用率が未達にもかかわらず、直近1週間の新規感染者数がクリアしたと解除要請へ動きだした。

 意見を聞いた専門家6人中5人が反対して判断は先送りされたが、この間に吉村氏が宣言解除の後に移行するよう求めていたのが、まん延防止措置だ。

 この措置は当初、「予防的措置」として想定されていたが、法案審議の途中から解除後の適用に急に軸足を移した。

 宣言解除後のまん延防止措置への移行は、強い対策が継続されると説明でき、住民の不安感を和らげる効果が期待できる。このため宣言解除に前のめりだった知事らは解除を容易にする「クッション」に使おうとしたと見られても仕方あるまい。

 しかし今、解除を急ぐことで緩みが生じて感染再拡大を招けば、収束を目指す努力が水泡に帰す。医療に加え、感染経路調査に当たる保健所の負担が重いままでの解除は踏みとどまるべきだ。焦りは禁物だ。





コロナ対策強化 丁寧な説明欠かせない(2021年2月14日配信『北海道新聞』-「社説」)

 道はきのう、新型コロナウイルス対策期間を来月7日まで延長することを決めた。飲食店への時短要請を札幌・ススキノ地区から市内全域に拡大することが柱だ。

 来月から進学や人事異動で往来が活発化する。昨年も4月に道内第2波が発生した。感染の再拡大防止に向け、対策の継続と一部強化が欠かせないと判断した。

 だが道内の新規感染者数は9日連続で100人を下回る。札幌市内も今月に入り50人前後で推移し、減少傾向にある。

 感染状況が改善する中では分かりにくい対応と言うしかない。

 実効性を高めるためには、道民の理解と協力を得ることが不可欠なのは言うまでもなかろう。道は今回の対策の理由を丁寧に説明することが欠かせない。

 16日からは、札幌市内全域の飲食店に午後10時までの時短営業を要請し、支援金は一律1日2万円になる。

 札幌ではススキノ以外の飲食店も業績悪化に苦しむ。対象地域の拡大は不公平感の払拭(ふっしょく)となり、支援金は営業継続への後押しとなるだろう。

 一方で、ススキノの事業者には、対策期間の延長はさらなる経営圧迫要因だ。

 時短要請をはじめとする道の一連の対策は3カ月を超す。事業者への影響は大きくなっている。道は深刻に受け止めるべきだ。手厚い支援を検討する必要があろう。

 飲食店への時短要請では今回、解除の基準が示された。10万人当たりの新規感染者数が直近7日間の平均で15人未満が目標だ。13日現在、札幌市内は17・5人となっている。

 解除の判断は医療体制の逼迫(ひっぱく)状況も加味する。分かりやすさと透明性が求められる。

 また鈴木直道知事は全道を対象に飲食業の取引業界への支援策検討を表明した。早急に対応してもらいたい。

 外出自粛の要請は札幌と小樽を対象に月末まで続く。2市以外で警戒が緩まないか気がかりだ。釧路、江別などでクラスター(感染者集団)が発生している。各地で感染拡大の危険性が潜んでいる。

 ワクチン接種は近く始まるが、道民に行きわたるには時間を要する。引き続き感染防止への意識を維持してもらうことが重要だ。

 気がかりなのは、対策の長期化による緩みである。道は、道民に改めて感染防止への意識を高めてもらうよう、明快なメッセージを出すことが肝心だ。



コロナの改正法施行 私権制限の乱用許されぬ(2021年2月14日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策で罰則を導入した特別措置法と感染症法の改正法が施行された。

 感染封じ込めを理由に、知事が患者や事業者に対して強制的な手段を取ることが可能になる。協力の要請を基本としたこれまでの政策を転換した。

 国会では、私権制限の強化となる罰則の適用について野党から懸念が表明されたが、審議時間はわずか4日だった。あいまいな部分をどこまで明確にできるかが問われていたが、不十分なまま、成立からわずか10日後の施行という見切り発車となった。

 感染症対策のためといえども、憲法で保障されている国民の権利を制限することについては慎重であるべきだ。

罰則適用には不安多い

 特に懸念されるのは、患者や事業者の事情に十分配慮しないまま、罰則が適用されることにならないかという点だ。

 正当な理由がなく入院を拒否した患者には感染症法で過料が科される。だが、厚生労働省が「正当な理由」の例を示したのは法施行の直前だった。

 「患者本人やその家族に必要な介護や保育などが確保できない」「他の病気の治療が必要」を挙げている。だが、本人に障害がある場合など判断に迷う恐れがまだ残されている。個別の事情に柔軟に対応する目配りが欠かせない。

 罰則を科されても、不服申し立てができる権利の周知も必要だ。

 事業者が営業時間短縮や休業の命令に従わない場合にも、特措法で過料の対象となる。

 感染対策の実効性を高めるために必要だと説明されてきた。だが、1月からの緊急事態宣言下では事業者への「協力金」が増額されたこともあり、多くの事業者が要請に応じている。

 罰則に安易に頼るのではなく、事業規模や売り上げの減少に応じた支援策の拡充など、政府がもっと努力する余地が残されているのではないか。

 仮に命令・罰則を適用する場合でも、どの程度の感染抑制効果が得られるのかなど専門家の意見を踏まえて判断すべきだ。

 罰則が設けられたことによって、命令に従わない事業者を探し出そうとする「自粛警察」の動きが出たり、入院に応じられない患者が差別されたりしかねない。

 罰則の導入は全国知事会の要望で実現したものだが、見せしめ的に使うようなことは厳に慎まなければならない。

 改正特措法で新設された「まん延防止等重点措置」については、恣意(しい)的な運用にならないよう注意が必要だ。

 緊急事態宣言下でなくとも地域を限定して事業者への時短命令などができる。応じなかった場合の過料も設けられている。

 にもかかわらず、重点措置の要件は「ステージ3(感染急増)」で「感染が拡大し、医療の提供に支障が出るおそれがある」場合とされるにとどまり、あいまいだ。

解除判断を緩めぬよう


 重点措置の適否は国会で議論される。改正法の付帯決議では「速やかに報告する」とされたが、宣言と同様に事前報告とすべきだ。

 重点措置については、政府は当初想定していた宣言発令前だけでなく、宣言解除後も適用する方針を示している。

 だが、国会審議の中で突然出てきた話であり、適用する基準など議論が不十分だ。事業者への「協力金」の引き下げにつながらないかを野党がただしても、政府は明確な答弁を避けている。

 大阪府の吉村洋文知事は重点措置を利用して宣言の早期解除を図る考えを示してきた。

 解除が早すぎれば短期間で感染の再拡大を招き、経済にとってもマイナスの効果が生じるというシミュレーション結果も発表されている。

 日本医師会の中川俊男会長は重点措置は「宣言とは重みが違う」と指摘し、感染対策に緩みが出ることを懸念している。

 宣言をできるだけ早く解除したいという理由で重点措置が多用されるようなことは避けるべきだ。政府は解除の考え方を明確にして、自治体と緊密に連携しなければならない。

 今回の宣言発令で、強制力はなくとも1日当たりの新規感染者数は減少傾向に転じている。政府や自治体は、感染対策には国民と事業者の協力が欠かせないことを改めて肝に銘じるべきだ。



まん延防止措置 強制力行使の境が曖昧だ(2021年2月14日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 改正新型コロナ特別措置法が施行された。

 緊急事態宣言には至らない状況で発令する「まん延防止等重点措置」を新設している。都道府県知事が事業者に営業時間の短縮を命令し、従わない場合は過料を科す。

 強力な私権制限につながる。先だって政府が示した政令や基本的対処方針を見ても、どう運用するのか、罰則を適用するのか。一向にはっきりしない。

 重点措置は首相が発令する。知事は期間を定め、対象の区域や業種を絞り「営業時間の変更等」を要請、命令する。過料は20万円以下と規定した。

 政令は、都道府県で感染拡大や医療提供に支障が生じる恐れのある場合を発令要件とした。対処方針は「ステージ3・感染急増」を目安に据える。国会で政府は「ステージ2・漸増」でも適用はあり得ると説明していた。

 つまり、国と地方の意向次第で命令という法に基づく強制力を行使できる危うさが付きまとう。旧法の緊急事態宣言時より、行政権限はずっと強い。

 さらに政令は、都道府県にマスクを着けていない客の店への入場を禁じる措置を認めている。「お願い」のはずの国民の感染予防も強制色を帯び始めた。

 国と地方に事業者への財政支援を義務付けてはいる。いまの緊急事態宣言地域で飲食店に給付する1日6万円を最低でも確保するのか。政府は回答を避けている。これでは、経済的に困窮する人たちが増える懸念を拭えない。

 菅義偉政権は、緊急事態宣言の解除後に、対象地域を重点措置に移行する検討を始めた。発令や延長に期限のある緊急事態とは異なり、6カ月以内とする重点措置は何度でも延長できる。

 東京五輪を控え、三たびの宣言を避けたい政治的思惑から、重点措置を多用してはならない。発令するのなら、要請では効果が見込めない根拠を、政府と都道府県は十分に説明する必要があろう。現に新規感染者数はこのところ、全国的に減っている。

 併せて改定した感染症法にも、入院や行動歴調査を拒んだ人に過料を科す罰則を盛った。信頼を損ねれば、かえって国民の協力を妨げるとの声が絶えない。

 一連の法案を、わずか4日間の審議で成立させた国会の責任は重い。特措法の適用は新型コロナ感染症にとどまらない。感染「第3波」が落ち着いたところで議論を仕切り直し、事実上の時限立法にとどめるべきだ。



コロナ改定法施行-「(2021年2月14日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

強権行使でなく補償こそ必要

 新型コロナウイルス対応の改定特別措置法、改定感染症法が13日施行されました。緊急事態宣言のもとで事業者や国民を罰則で脅して行政の命令に従わせる規定が設けられました。「まん延防止等重点措置」も新設され、緊急事態宣言が出ていない段階でも罰則を科すことが可能となります。その一方、休業や営業時間短縮に応じた事業者への支援拡充はありません。国民の協力によって進めるべき感染症対策に逆行する法律です。

「防止」の名でも私権制限

 改定法は日本共産党や多くの医療・公衆衛生、法曹関係者の反対を押し切って国会で可決、成立させられました。

 改定感染症法では入院措置や疫学調査に応じない人に行政罰として過料を科すことができるようになりました。国会審議の中で政府は、入院拒否によって感染が広がった事実を示すことができず、立法の根拠が崩れていました。

 同法は民間医療機関に対して、厚生労働相や都道府県知事がコロナ患者の受け入れを勧告し、従わない場合に機関名を公表するとしています。医療機関の協力を得るために必要なのはコロナ危機による減収を国の責任で補填(ほてん)することです。制裁で脅して協力を得られるものではありません。

 改定特措法では、緊急事態宣言で営業自粛などの要請に応じない事業者に知事が命令を出し、従わない場合、30万円以下の過料を科します。まん延防止等重点措置では時短営業などの命令に従わない事業者に20万円以下の過料が科されます。

 重点措置は知事が市町村や地域を限定して実施します。緊急事態宣言が出される前や解除後も「防止」の名で罰則を振りかざして私権を制限できる仕組みです。

 どのような事態で発動されるかは政令に委ねられ、政府の裁量次第です。憲法で保障された私権を制限するというのに国会に諮りません。罰則で抑え込むやり方は差別、偏見を助長し、社会を分断させることにしかなりません。

 9日に閣議決定された政令では、重点措置で事業者に要請、命令できる事項は時短営業にとどまらず、従業員に対する検査受診の勧奨、入場者の整理、発熱者の入場禁止、消毒設備の設置など多岐にわたります。すでに多くの事業者が自ら実行している感染対策です。命令や罰則でなく、費用を公費でもつなどして事業者の協力に報いることこそ行政の役割です。

 改定特措法では緊急事態宣言、重点措置のいずれにも営業自粛、時短に対する補償の規定はありません。国、地方自治体が「支援に必要な財政上の措置を講ずる」とあるだけで、支援の規模はまったく不明確です。重点措置に基づく時短営業に対する支援が、ただでさえ不十分な緊急事態宣言の協力金を下回ることは許されません。

世論も罰則を支持せず

 時事通信の2月の世論調査では事業者への罰則について「不要」が49%で、「必要」の32%を上回りました。世論の批判を受けて政府は罰則について「人権に配慮した運用に努めたい」としています。そう言わざるをえないこと自体、改定法による人権侵害の危険性を示しています。強権的な運用を許してはなりません。「罰則ではなく補償を」の声を高める取り組みがいっそう重要です。





改正特措法施行 私権制限は極力慎重に(2021年2月13日配信『北海道新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対応での罰則強化などを柱とする改正特別措置法がきょう施行された。

 この日に合わせ、政府が検討していた緊急事態宣言の一部解除は見送られた。

 発令中の10都府県の感染者数は減少傾向にあるが、入院者数は高止まりし、病床の逼迫(ひっぱく)はなお改善していない。優先すべきは医療現場の負担を軽減することだ。

 これまでは経済に配慮するあまり、中途半端な対応が再拡大を招いた。繰り返してはならない。

 緊急事態宣言の解除は、多面的かつ十分な科学的根拠に基づいて見極めるべきだ。

 解除見送りはやむを得ない判断だが、私権制限は最小限にとどめる原則も忘れてはなるまい。

 その点で今回の法改正は問題が多い。曖昧な規定が多く、十分な歯止めがかけられていない。

 改正では、宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新設し、知事が営業時間の短縮要請などをできるようにした。

 しかし実施基準は「国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある」と不明確だ。

 その上、知事に認められる対策は政令で決められ、厚生労働相の判断で追加できる。国会承認は不要で、時の政権が恣意(しい)的に運用することへの懸念は拭えない。

 事業者への協力要請に関しては、既に特措法24条に基づき道や東京都などが休業要請してきた。

 緊急事態宣言に加え、まん延防止等重点措置も発令できるようになったことで、今後は三つの段階を組み合わせ、私権制限が長期間続くこともあり得る。

 段階的な感染対策は必要だが、改正前の法律でもさまざまな対策が実施できた。科学的データに基づかずに、緊急時であることを理由に法改正し、私権制限の範囲を広げていくことは認められない。

 さらなる問題は、時短命令などに応じない事業者や、入院を拒否した患者らに過料を科せるようにしたことだ。一方、損失に見合った十分な補償などについては条文に明記されなかった。

 行政側が経済的な責任を負わないまま、罰則を盾に私権制限を強いることは許されない。

 各種対策においては個々の事情に配慮し、国民に理解と協力を求めていく姿勢が大切だ。

 かつてハンセン病患者の強制収容などを巡っては重大な人権侵害があった。政府や自治体は偏見や差別を生まないよう、丁寧で正確な情報提供に努める必要もある。



改正特措法施行 適用要件もっと明確に(2021年2月13日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 営業時間短縮命令に従わない飲食店への行政罰などを盛り込んだ新型コロナウイルス対応の改正特別措置法が、きょう施行される。事業者の営業実態を正確に把握し、公平に運用できるのかなどの疑問を残したままのスタートとなる。

 施行に併せて政府が改定した基本的対処方針では、罰則適用は人権に十分配慮し慎重に行うとしたものの、要件は曖昧なままだ。私権を制限する以上、改正法が恣意(しい)的に運用されたり、不公平が生じたりしないよう明確化する必要がある。

 改正前は休業や営業時短を要請できるだけで、応じない事業者もあった。改正法では緊急事態宣言の前段階という位置付けで「まん延防止等重点措置」を新設。宣言発令時や重点措置の下で行政は時短命令を出し、従わない事業者には行政罰の過料を科すことができる。

 感染拡大を早めに抑え込もうという趣旨は理解できる。緊急事態宣言が都道府県単位で出されるのに対し、重点措置は市町村単位や繁華街などに限定することができる。より感染実態に即した対策が講じられることを期待する。ただ、実施する基準が明確とは言い難い。

 基本的対処方針によると、都道府県の特定区域から全域に感染拡大する可能性があり、医療提供体制に支障が生じる恐れがある場合、「ステージ3」(感染急増)にあることなどを踏まえて重点措置実施を判断する。一方、閣議決定された政令では、感染経路が分からない陽性者の割合も判断材料にするとしている。

 時短命令は憲法の保障する営業の自由を制約する。都道府県知事は他にも、イベントの入場者数制限なども要請できる。命令に違反した場合、緊急事態宣言下では30万円以下、重点措置下では20万円以下の過料が科される。

 罰則を導入してまで私権を制限する以上、より明確な適用要件を示す必要がある。併せて協力金の支給など、営業時短などで苦境に立たされる事業者への支援策を充実させることが求められる。

 政府は先月、11都府県に緊急事態宣言を再発令した際、時短要請に応じた飲食店への協力金を1日最大4万円から6万円に拡充した。しかし事業規模が大きい事業者からは不足だとの声も上がっている。罰則を科す前に協力が得られるように、事業者の不安や不満を取り除くことが重要だ。

 改正特措法は4日間の国会審議でスピード成立した。10都府県で緊急事態宣言が続く中、周知も不十分なままでの施行となった。感染抑制には国民の協力が不可欠だ。罰則適用は最後の手段にとどめるべきだ。

 罰則を設けたことで、国民の間に相互監視や中傷・差別といった風潮が強まることがあってはならない。慎重の上にも慎重な運用を求めたい。



【新型コロナ 改正特措法】支援の姿勢を明確に(2021年2月13日配信『福島民報』-「社説」)

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法は13日に施行された。新設された「まん延防止等重点措置」などに基づき、感染防止が図られる。国や県は、国民が納得して対策に応じられるよう、支援の姿勢をはっきりと示す必要がある。

 「まん延防止等重点措置」は、緊急事態宣言前の対応で、対象となった都道府県の知事は、飲食店などに営業時間の短縮や変更を求めることができる。従業員への検査・受診の勧奨、発熱がある人の店舗やイベント会場への入場禁止などの要請も可能になる。また市区町村単位など、限られた地域を対象とすることができるのも特徴だ。

 緊急事態宣言下だけでなく、その手前の段階で、悪化を食い止める態勢を整えることは重要だ。少しでも早く感染者の増加を抑えられれば、医療機関への負担を減らすことができる。さらに、現場の実態に見合った限定的な対策を講じることができれば、地域経済が受ける痛手は軽減される。

 ただ、まん延防止策の中心となる営業時間の短縮や変更を円滑に進めるには、経済的な支援が欠かせない。改正特措法では「事業者を支援するために必要な財政上の措置」を国や都道府県に義務付けているものの、具体的な内容ははっきりしていない。国会論議の中で野党は、経済的な支援の内容を明らかにするため「補償」を盛り込むよう求めたが、政府は「損失を算定して補償するのは極めて困難で時間がかかる」として応じず、最終的に「支援」という形に落ち着いた。

 政府が1月に11都県に緊急事態宣言を再発令した際は、時短要請に応じた飲食店への協力金を1日最大4万円から6万円に拡充した。県は独自に設定した緊急対策期間中、1日4万円の協力金を支給した。

 県内独自の緊急対策期間は十四日で終了するが、再び感染が拡大して、改正特措法に従った営業時間の短縮要請がなされる事態になれば、協力金の支給額が焦点となる。改正特措法では、知事の要請や指示が拒否された場合、「命令」を出す権限が新たに与えられた。命令に従わない事業者に対しては緊急事態宣言下で30万円以下、重点措置下では20万円以下の過料を科す行政罰が盛り込まれた。

 とはいえ、罰則で国民を押さえ付けるようなことがあってはならない。国は早急に「必要な財政上の措置」の中身を明確にし、事業者が不安なく時短要請などに応えられるようにすべきだ。



コロナ法施行 人権への配慮を怠るな(2021年2月13日配信『東京新聞』-「社説」)

 新型コロナ対策を強化する改正法がきょう施行された。新たな罰則に加え、緊急事態宣言に至る前でも対策を強化できる措置が導入されたが、人権侵害や過度の私権制限がないよう監視が必要だ。

 新たな罰則に関し、改正感染症法は正当な理由なく入院を拒否した感染者や保健所の疫学調査を拒んだ人に、改正新型コロナ特別措置法は営業短縮命令に従わない事業者に、それぞれ過料を科せるようになった。

 ただ運用基準は明確にされておらず、全国知事会は公平な運用のための指針を提示するよう求めている。罰則は人権にかかわる問題だ。政府は明確な指針を示し、透明性ある運用に努めなければならない。

 「まん延防止等重点措置」を講じる地域を指定する規定も新設された。緊急事態宣言の前後に感染拡大を抑えることを目的に、都道府県知事が原則、市町村単位で範囲と期間を指定する。

 知事は指定地域の事業者に営業短縮を要請することができ、従わない場合には命令できる。違反者には過料を科すこともできる。

 政府は政令で、適用基準を「都道府県において感染が拡大する恐れがある」「医療提供に支障が生ずる恐れがある」という2つの要件を満たす場合と定めた。

 感染症の状況は刻々と変化し、具体的な要件を定めにくい事情は理解する。ただ、重点措置も緊急事態宣言同様、私権を制限する内容だ。適用基準は曖昧にせず、詳細に定めることが必要だろう。

 知事は重点措置地域の事業者に対し、発熱していたりマスクを着けない人らの入店を禁じるよう求めることもできるようになった。

 事業者に強い対応を求める一方で、経営支援の具体策は見えてこない。補償措置を設けないまま行政罰を与えるのは、憲法が保障する財産権を侵害する恐れも指摘される。これでは事業者の協力が得られないのではないか。

 緊急事態宣言は政府にとって感染拡大を抑える最後の切り札ではあるが、経済へのダメージを考えると発令には慎重にならざるを得ない面もある。それ故、緊急事態宣言に代わり、重点措置が多用される可能性がある。

 重点措置は私権を制限する内容を含みながらも、国会の議決や報告は法律上、不要とされ、野党の要求で議院運営委員会に報告することになった経緯がある。

 人権侵害や、行き過ぎた私権制限や法律の運用はないのか。行政を監視する国会の責任は重い。





コロナ禍 支援の拡充/損失補償を打ち出すべきだ(2021年2月10日配信『河北新報』-「社説」)

 支援策と罰則をセットにして感染防止対策の実効性を高める。これが新型コロナウイルス対策特別措置法と感染症法の改正趣旨だと、菅義偉首相は強調した。

 改正法は今国会で成立し、13日に施行されるが、支援策はなお実効性に乏しく、事業者の経営不安は消えない。

 改正により都道府県知事が事業者に対し、時短営業や休業を命令することが可能になる。拒否した事業者には30万円以下の過料を科せると定めたが、補償措置を設けないまま行政罰を与えるのは、憲法が保障する財産権を侵害する恐れがある。

 憲法29条は「私有財産は正当な補償の下に、これらを公共のために用いることができる」と規定する。財産権の保障とともに、損失補償は憲法上の制度であることを明確にした。

 感染のまん延防止を目的とした公衆衛生のため、営業の自由を制約するのだ。改正特措法は、国や自治体が必要な財政上の措置を「効果的に講じる」と義務付けたが、具体性に欠ける。損失補償を併せて明記しなければ、憲法に違反するのではないか。

 改正特措法は、緊急事態宣言の前段階や解除後に集中的な対策を実施する「まん延防止等重点措置」を新設した。私権を制限し、宣言が発令されていなくても、知事が事業者に時短営業などを命令できる。違反した事業者への罰則は20万円以下の過料とした。

 政府は11都府県に宣言を再発令した際、時短要請に応じた飲食店への協力金を1日最大4万円から6万円に引き上げた。6万円は都内の平均的な飲食店で家賃などの固定費を賄える金額とされる。

 宣言の1カ月延長に伴い、飲食店などの取引先などを支援する一時金は、中堅・中小企業に対しては40万円から60万円に増額された。

 協力金や一時金の金額は、従業員数や店舗面積など経営規模を勘案していない。大小にかかわらず同じ額だ。固定費の大きい事業者には効果が薄く、経営の支えになっていない。

 飲食店は感染対策の急所と見なされ、時短要請を拒否した場合、店名公表の制裁も待ち受ける。

 底なしの苦境にあえぐ飲食店主らにペナルティーで圧力をかける。一方で、セットとして拡充すべき支援は心もとない。実効性を高めるためには、一律のばらまきではなく、損失に見合った補償を行う制度設計に改めるべきだ。

 政府は作業に時間がかかることを理由に、損失補償に難色を示した。持続化給付金を申請した事業者は、確定申告の書類と売上台帳の控えを提出しており、経営状況の確認は難しくないはずだ。

 コロナ禍に襲われて1年近く、事業者の多くが先細りの不安にさらされている。困窮の深刻さを直視し、支援の質を高めるべきである。





コロナ関連法改正 運用には透明性と慎重さが必要(2021年2月6日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法と改正感染症法が自民、立憲民主、公明、日本維新の会4党などの賛成多数で可決、成立した。13日に施行される。

営業時間短縮や休業の命令に従わない事業者や、入院を拒否した感染者らに罰則を科す。緊急事態宣言に至らない状況で時短要請などに応じない事業者への命令を可能にする「まん延防止等重点措置」を新設した。

当初案の懲役を含む刑事罰導入は与野党協議で行政罰の過料に修正されたが、私権制限を強め国民の自由な活動を縛る重大な法改正であることに変わりはない。しかし、適用要件が曖昧で恣意(しい)的な運用の懸念が拭えない。感染症の抑制には社会の理解と協力が欠かせない。運用には透明性の確保と慎重さが求められる。

まん延防止措置の実施は、感染状況を示す指標のうち「ステージ3」(感染急増)相当を想定していると西村康稔経済再生担当相は説明したが、発令要件は政府が定める政令に委ねられる。どんな要件になるかは曖昧なままだ。付帯決議に「速やかな国会報告」を盛り込んだが、法律で国会報告が義務付けられている緊急事態宣言の発令や延長時に比べて、権力行使の歯止めは弱い。

休業要請などに応じた事業者への支援内容も曖昧だ。「必要な財政上の措置」を講ずるとしたが、「補償」を明記しなかった。政府は損失を算定して補償するのは困難で時間がかかることを理由にしているが、支援が行き届かない恐れがある。現在実施しているような一律の支援は不公平感も根強い。規模や損失額などに即した柔軟な支援で事業者が要請に応じられる環境をつくらねばならない。

改正感染症法では入院を拒否したり入院先から逃げ出したりした感染者や、疫学調査を拒否した場合が過料の対象となる。罰則導入に伴い、保健所など現場は不安も多い。既に多忙を極めている中で負担が増すほか、調査対象者との信頼関係を損ない、業務に支障をきたす可能性がある。感染を隠したり、差別や偏見、いわゆる自粛警察など社会の分断を助長したりする恐れもある。実効性に疑問がつきかねない。

家族の介護などで入院したくてもできない、感染の急拡大で自宅や宿泊施設で亡くなる感染者がいる現状がある。罰則を前面に出すのではなく、病床の確保や感染者の支援などを優先すべきだ。

改正案を議論した厚生労働省専門部会では罰則導入について慎重、反対意見が多数を占めていたが、政府は「おおむね賛成だった」と説明していた。議論や説明は尽くされていない。審議はわずか4日間だけだった。拙速な立法で、懸念や問題点は多く残されたままだ。国会の責任も大きい。運用をしっかりと監視し、必要な見直しを怠ってはならない。





改正コロナ特措法/罰則だけでは協力得られぬ(2021年2月5日配信『福島民友新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を強化する改正特別措置法と改正感染症法が成立した。13日に施行される。知事の命令に応じない事業者、入院を拒否する感染者に過料を科す行政罰を設けたのが特徴だ。

 罰則を前面に押し出すだけでは、国民の協力は得られまい。政府や都道府県は、国民が感染対策に協力できるよう支援策の充実などを進めていくことが大切だ。

 罰則が適用されるのは、知事の営業時間短縮や休業の要請に応じず、より強い命令を受けたのに従わなかった場合だ。新型コロナに感染したのに入院などを拒否した場合も過料の対象となる。感染症改正案に当初盛り込まれていた入院拒否者などに対する刑事罰は、与野党の修正協議で削除された。

 両改正法の狙いは、罰則を設けることで県などが行う感染防止対策の実効性を高めることにある。ただ、政府は罰則の運用の目安などを明確にしていない。

 罰則は、感染対策に従わない事業者や人への抑止力として一定の効果が期待できるだろう。しかし、私権の制限については、極めて慎重でなければならない。

 罰則の実務の一部は、都道府県の担当部局や保健所が担う。人手が足りぬなかで、さらなる混乱を招かぬよう、適用基準を含めた運用指針を早期に示す必要がある。

 入院などの拒否への罰則で、感染が疑われても受診や検査を控えたり、陽性を隠そうとしたりする人が増えないかが心配だ。感染者の把握が難しくなれば、さらに感染が広がる要因となりかねない。

 政府には、感染している可能性のある人が安心して検査を受けられる環境づくりに向けて知恵を絞ることが求められる。

 改正法では、休業要請などに応じた事業者への補償が明記されなかった。衆院の付帯決議では、制限や要請などで減収した事業者に対する施策を十分に検討することが盛り込まれた。

 私権の制限は改正法に盛り込まれた一方で、補償は不透明なままだ。政府は、緊急事態宣言下や、宣言の前段階として新たに設けられたまん延防止措置下での事業者への支援策をあらかじめ示すなどしてほしい。

 国会で両法改正案が審議されているさなか、緊急事態宣言中の深夜に、与党の国会議員4人が東京・銀座のクラブで飲食していたことが明らかになった。国民の権利を制限する法案を審議する人たちが決まりをないがしろにしていては、感染対策の実効性は保てず、国民の理解も得られないことを肝に銘じるべきだ。



コロナ改正法/罰則より信頼回復が先だ(2021年2月5日配信『神戸新聞』-「社説」)

 強制力に頼らない日本の新型コロナウイルス対策が転換点を迎えた。

 営業時間短縮などに応じない事業者や入院を拒んだ感染者らに罰則を科す関連法の改正が自民、公明、立憲民主党、日本維新の会などの賛成で成立した。13日に施行される。

 改正感染症法では、入院先からの逃走や疫学調査の拒否も罰則の対象となる。改正特措法では、緊急事態宣言が出る前でも都道府県知事が事業者に時短などを命令できる「まん延防止重点措置」を新設した。


 当初案にあった懲役を含む刑事罰導入は与野党協議で行政罰の過料に修正されたが、罰則によって国民の権利と自由を制限する趣旨に変わりはない。にもかかわらず具体的な判断基準を政令に委ねるなど恣意(しい)的運用の懸念がぬぐえないのは問題だ。

 厚生労働省が、改正を議論する専門部会で罰則導入への慎重意見が多数を占めたのに国会では「おおむね了承を得た」と説明していたことも分かった。罰則ありきのずさんな対応と批判されても仕方がない。

 政府は懸念を受け止め、慎重な運用に徹しなければならない。

 菅義偉首相が「罰則とセット」と強調してきた事業者支援の中身は曖昧なままだ。実情に応じた柔軟な支援策を用意し、協力を得やすい環境を整える必要がある。

 まん延防止重点措置を巡っては、付帯決議で、発令要件の客観的な指標を明らかにし、実施する際は速やかな国会報告を求めている。

 だが、法的拘束力はない。緊急事態下とほぼ同等の強制力をもつ措置が政府や自治体の裁量で可能になるのではないか。法の本則できっちり歯止めをかけるのが筋である。

 罰則の実効性には、実務を担うことになる現場からも懐疑的な声が上がる。保健所の負担がさらに増えるばかりか、追跡調査の精度を左右する感染者との信頼関係を損ねかねない。罰則を恐れて検査を避けたり、感染を隠したりする人が増え、差別と偏見を助長する恐れもある。

 今は入院拒否どころか、感染の急拡大で入院できない待機者が大勢いる。罰則に頼る前に後手に回った政府の対応を反省し、自治体と連携して病床確保や保健所の業務支援など喫緊の対策に全力を挙げるべきだ。

 法改正論議のさなかに発覚した与党幹部の「銀座のクラブ」問題は、国民を縛る側の、危機感の乏しさと特権意識をさらけ出した。国民に理解を求めるなら、政治への信頼回復がなにより急務である。

 これだけの課題がありながら、決着を急いだ国会の責任も重い。法の運用を厳しく監視し、乱用を許さない。問題がある法は見直す。立法府の役割を怠ってはならない。



新型コロナ関連法 恣意的運用許されない(2021年2月5日配信『中国新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法と改正感染症法が、わずか4日の審議で成立した。営業時間短縮の命令に従わない事業者や入院措置に応じない人に罰則を科す。私権を制限するだけに時間をかけて議論を尽くすべきだった。結局、生煮えで多くの懸念が残された。

 感染の急拡大で、政府は先月緊急事態宣言を再発令した。しかし十分に抑え込むことができず、10都府県ではさらに1カ月の延長が決まった。罰則を盛り込んだ関連法で、手詰まりを打破したいのだろう。しかし実効性に疑問が残る。

 その一つが、入院拒否や疫学調査への協力拒否などに対する罰則の導入である。人権に関わる問題にもかかわらず、導入の根拠が不明だ。これまで入院拒否が何件あり、そのためにどの程度感染が広がったのかなどについて何も示されていない。

 国会で問われた田村憲久厚生労働相は、新型コロナ感染者が入院勧告に従わなかった事例を77の地方自治体で確認したと報告した。疫学調査に応じなかったケースも107の自治体で報告されたと述べた。しかし実数や拒否の理由の説明はなかった。それを検証しないまま、罰則で国民を脅すような方法では感染拡大を抑えられまい。

 罰則導入に伴う保健所の混乱も心配だ。入院を拒んだ人に罰金を科す場合、調査を担う保健所の負担がさらに増す。それでなくても現場は、長いコロナとの闘いを強いられている。

 改正案にあった懲役などの刑事罰こそ削除されたものの、罰則によって感染者差別やバッシングが過激化したり、感染を隠す人が出たりする恐れがある。

 新設された「まん延防止等重点措置」も全体像が見えない。緊急事態宣言に至る前段階で、都道府県知事が、繁華街や市町村単位のピンポイントで事業者に営業時間の変更などを要請できる。「正当な理由」なく応じない場合には、命令できることになった。

 では「正当な理由」とは何なのか。国会審議では明らかにならなかった。恣意(しい)的に運用されないか心配だ。

 そもそも、緊急事態宣言に至る前の段階を設ける必要があるのだろうか。市中感染が広がっている中で、ピンポイントでの措置に効果があるのか。さまざまな疑問が浮かぶ。

 違反者の公表や摘発など実際の運用を担う自治体が違反者をどうチェックするのかも見えてこない。自治体が時短営業要請をした飲食店などが、従っているかどうかを、職員が毎日全店舗見回ることは不可能だろう。

 罰則を振りかざす前に、政府にはすべきことがたくさんある。病床が足りず、入院したくてもできない患者がいる。自宅で待機中に亡くなる感染者もいる。そうした実態を改善せず、なぜ逆に入院を強制するような法改正を優先させたのか。菅義偉首相は説明すべきだ。

 菅首相が「罰則とセット」と強調していた事業者への財政支援も心もとない。額や対象は示さず、「経営への影響の度合い等を勘案」というあいまいな表現にとどまった。事業者は納得できないのではないか。

 憲法が保障する自由を制約することになる以上、政府は明確な運用基準や事業者への支援策を示すべきである。 



コロナ関連法改正(2021年2月5日配信『佐賀新聞』-「社説」)

過料でも逆効果が心配だ

 新型コロナウイルス特別措置法、感染症法の改正案は修正され、当初の政府案にあった入院拒否への懲役刑など刑事罰は行政罰の過料となり3日、成立した。営業時間短縮命令に従わない事業者への過料は減額した。

 犯罪的行為への制裁が本来の罰則だが、過料であれ科されるのは生活や雇用のため営業を続ける事業者や家庭の事情で入院できないコロナ患者らだ。罰則があることで検査を避けたり陽性判明を隠したりし感染を拡大させてしまう逆効果も心配される。政府は効果を検証し必要なら軌道修正をためらうべきではない。

 感染症法は、ハンセン病患者らを隔離し差別や偏見を生んだ歴史を「教訓として生かす」と前文に明記する。これに逆行するように、政府は改正案へ「入院措置を拒んだり入院先から逃亡したりした者は1年以下の懲役か100万円以下の罰金」「保健所の行動歴調査を正当な理由なく拒んだり虚偽回答したりした者は50万円以下の罰金」と刑事罰を盛り込んだ。

 また現行特措法は、私権制限を「必要最小限」と規定し、休業や時短の要請・指示に応じない事業者への罰則を設けていない。これに対し政府は「罰則で強制力を付与し実効的にする」(菅義偉首相)として改正案に緊急事態宣言下と、その前段の「まん延防止等重点措置」下で時短営業命令を拒んだ事業者へそれぞれ50万円以下、30万円以下の過料を設けた。

 「保護すべき感染者や事業者を罰則で威嚇する」(日弁連)と反発が広がり、与党議員の銀座のクラブ深夜訪問、厚生労働省の専門部会で罰則に慎重・反対意見が多数を占めたことが判明し法案は野党要求で大幅修正された。時短営業に応じた事業者らとの公平のため過料はやむを得ない面もあるが、過料も罰則であり本来はない方がいい。

 コロナ禍の日本は感染者や医療従事者への差別、「自粛警察」など同調圧力が顕在化している。入院拒否に罰則を設けることでこの風潮が強まりはしないか。社会防衛第一の感染者排除から人権尊重に転換した感染症法の精神を再確認し、今回の改正により人権侵害が広がらないよう政府は注意を怠るべきではない。

 疑問、懸念はまだある。法律違反の有無や保健所調査を拒む「正当な理由」は誰が確認するのか。刑事罰削除で警察の直接関与は想定されなくなった。既にパンク状態の知事や保健所に、さらに行政罰の調査、執行まで担わせるのは感染対策上、本末転倒ではないか。

 経済的理由で時短営業に応じられない人、家族の介護や育児のため入院できない感染者に協力を求めるには、財政支援、医療体制強化、介護・育児支援で協力しやすい環境を整える方が強制力より有効ではないか。特措法改正案は事業者支援を国や自治体に義務付けたがなお不十分だ。私権制限を強める以上、現状では実施していない損失額に応じた補償が必要との声も根強い。政府は実現可能性を追求すべきだ。

 新設のまん延防止措置には知事の命令権や罰則が規定されたが、実施は行政裁量に委ねられ国会監視も曖昧だ。一定の要件、手続きが必要な緊急事態宣言を発令せずに強制措置が取れ、権力行使に歯止めが効かない恐れもある。危機の中で急いだ法改正はあらが目立つ。施行後も慎重な運用を強く求めたい。(共同通信・古口健二)



[改正コロナ法] 運用上の疑問尽きない(2021年2月5日配信『南日本新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を強化する改正特別措置法と改正感染症法が、わずか4日間の審議でスピード成立した。13日に施行される。

 対策の実効性を高めるため、新たに罰則を設けた。感染抑止が期待される半面、私権制限を強め、国民の自由な行動を縛る法改正である。

 適用要件は曖昧なままで半煮えの印象が拭えない。政府は法適用の具体的基準を明確にした上で、運用には細心の注意を払わなければならない。

 改正特措法は緊急事態宣言下と、新設された「まん延防止等重点措置」下で時短営業命令などを拒んだ事業者に過料を科すと規定する。

 新たな措置は緊急事態宣言の前から都道府県知事が飲食店などに時短営業などを命じられる。ただ、発令要件は政府が決める政令に委ねられ、権力行使に歯止めが効かない恐れもある。

 ほかにも疑問点は積み残されたままだ。例えば、時短命令に従わない事業者をどう把握するのか。地元自治体が調査するにしても、特に都市部では極めて困難だ。罰則を科す上で公平性は保たれるのか。

 経済的理由などさまざまな事情で過料を覚悟して営業を続ける飲食店もあるだろう。その店に客が集中し、感染予防策とは相いれない状況を生み、混乱を招く可能性もある。

 政府は休業要請などに応じた事業者への「補償」の明記を見送った。実態に応じた迅速な対応が困難になることを理由に挙げるが、支援が行き届かなくなる恐れもあり不十分だ。

 損失額に応じた補償が必要との声は根強い。損失の算定は難しく時間もかかるだろうが、政府は実現の可能性を探ってほしい。

 一方、改正感染症法ではコロナ感染者が入院や疫学調査を拒否したり、入院先から逃亡したりした場合などが過料の対象となる。
しかし、家族の介護や育児があったり、差別や偏見を恐れたりして入院を拒む感染者もいるに違いない。どう対処するのか。

 過料を科す際には経緯を記した資料が必要で、作成を担うのは保健所などが想定されている。入院調整など業務が多忙を極める中、時間を割く余裕があるとは思えない。

 正当な理由なく病床確保の勧告に従わない病院の名前を公表できる規定も盛り込まれたが、医療機関側からは「横暴ではないか」との声も上がる。

 ハンセン病の元患者は、罰則規定が設けられたことに「ハンセン病の経験を省みず差別偏見を助長しかねない法律だ」と厳しく非難している。
 コロナ下では「自粛警察」など同調圧力が顕在化している。こうした風潮が一層強まる恐れはないか。政府は人権侵害が広がらないよう注視しなければならない。





コロナ法改正 責任転嫁の罰則強化だ(2021年2月4日配信『北海道新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対応での罰則強化を盛り込んだ改正特別措置法と改正感染症法がきのう、参院本会議で成立した。

 自民、公明、立憲民主、日本維新の会の4党などが賛成し、国民民主、共産両党は反対した。

 改正は営業時間短縮などに応じない事業者や、入院を拒否した感染者らに行政罰の過料を科すことが柱で、刑事罰の懲役刑や罰金は野党が猛反発して見送られた。

 そもそも罰則は感染抑止に資するのか。具体的なデータを用いた政府の説明はついぞなかった。

 それに審議はわずか4日間だ。

 論拠を欠く拙速な法改正とのそしりは免れまい。

 憲法は国民の広範な自由を保障する。罰則は厚生労働省の審議会でも多くの委員が反対していた。

 もともと法改正で急がれたのは、事業者への損失補償を担保することだった。政府・与党が法への明記を避けたのは本末転倒だ。

 政府は緊急事態を延長したが、効果的な対策は示せていない。

 今回の罰則導入は、後手が続く自らの失態を一段と苦境に陥る事業者らに責任転嫁するものだ。

 そもそも罰を科すにも東京都内だけで飲食店は約8万店ある。実態調査は難しく、公平な執行に課題は多い。時短や休業への協力を広げるには、損失に見合った補償を担保する方が現実的である。

 立憲民主は自民との協議で、事業者への支援は経営への影響度合いを勘案することを付帯決議に盛り込むことで折り合った。

 緊急事態宣言の前段階の措置についても、発令要件の明確化を付帯決議に記すことになった。

 だが決議に法的拘束力はない。

 与野党とも重要な規定と考えるなら法に明記するのが筋だ。もっと熟議を尽くすべきだった。

 法改正により、医療機関が感染者受け入れの勧告に従わない際は機関名を公表できるようになる。

 政府や都道府県に従わせるための権限強化が目立ち、医療機関側は恣意(しい)的な運用を不安視する。

 入院や保健所の調査を拒んだ人への罰則も問題が尽きない。

 仕事への影響などを心配し検査を避ける人が増えれば、感染実態が把握できなくなる恐れがある。

 保健所は警察への通報義務などが生じ、激務の中にさらなる負担を強いることになろう。

 かつてハンセン病患者らは強制収容によって多大な人権侵害を受けた。感染者は弱い立場にあり、個々の事情に配慮することが欠かせない。罰則適用は筋違いだ。



コロナ関連法の改正 罰則でなく支援を前面に(2021年2月4日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策の特別措置法と感染症法の改正案が国会で可決され、成立した。

 営業時間短縮や休業の命令に応じない事業者は、特措法で過料が科される。入院を拒否した患者に対しても、感染症法で罰則が設けられた。

 私権の制限を伴う重い法改正にもかかわらず、衆参両院での審議はわずか4日間にとどまった。自民党と立憲民主党が審議を前に修正内容で合意したためだが、議論は不十分で、多くの問題が積み残された。

 とりわけ懸念されるのは、時短などの命令に応じた事業者への財政支援が具体的に明記されていないことだ。両党の合意に基づき、国会では「経営への影響の度合いなどを勘案する」との付帯決議が採択されたが、政府は一貫して曖昧な答弁を続けている。

 事業規模や売り上げの減少に応じた支援が必要だ。政府が公平性に配慮した支援策を用意し、事業者が応じやすい環境を作ることが不可欠だ。

 感染症法では、事前の協議で懲役や罰金という刑事罰は削除されたが、行政罰の過料は残った。

 子育てや介護など家庭の事情で入院できない人もいる。罰則の適用は慎重でなければならない。政府はどのような理由があれば罰則の対象にならないのかを速やかに明確にし、国民の不安を解消する責任がある。

 罰則を導入することにより、感染者への差別や偏見を助長する恐れがある。検査を避ける人が増えることも懸念される。

 過料を科す上での手続きは、保健所が担う。だが、本来は住民に寄り添って健康を守るのが役割だ。住民との信頼関係が損なわれれば、日々の業務にも支障が出かねない。

 改正特措法では、緊急事態宣言が出ていなくても知事が時短などを命じられる「まん延防止等重点措置」が設けられた。しかし、発令要件や要請内容は曖昧だ。政令で定めるというが、国会審議でも明確にならなかった。恣意(しい)的な運用への歯止めが必要だ。

 コロナ対策は、国民の理解と協力が前提になる。きめ細かな支援や配慮を欠いたまま、罰則頼みで進めることは許されない。



改正特措法成立 罰則頼らず国民の理解求めよ(2021年2月4日配信『読売新聞』-「社説」)

 感染拡大を抑止するには、国民が納得して対策に協力することが不可欠である。政府や自治体は罰則を振りかざすことなく、対策の重要性に理解を求めていくべきだ。

 新型コロナウイルスへの対応を強化する新型インフルエンザ対策特別措置法と感染症法などの改正法が成立した。自民、公明両党や立憲民主党などが賛成した。

 改正法は、感染防止策の実効性を高めるため、特措法や感染症法に罰則を新設することが主眼だ。休業や営業時間短縮の命令に応じない事業者や、入院を拒否した感染者に対し、過料を科すことができるようになる。

 これまでは要請などにとどまっていたが、一定の強制力を持たせる改正だ。私権制限を強める以上、政府は、罰則の適用基準を国会答弁などで具体的に明示し、慎重に運用しなければならない。

 政府は当初、入院拒否に対する罰則として「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑事罰を盛り込んだ。保健所の調査に応じない人に対しても、刑事罰を適用するとしていた。

 ほかの法律の罰則とそろえたのだろうが、致死率が極端に高いわけではないコロナの特性を踏まえれば、厳しすぎるものだった。

 自民党と立憲民主党が修正協議を行い、行政罰である過料に改めて、金額も引き下げた。刑事罰を削除したのは妥当な判断である。与野党が歩み寄り、合意に至ったことは評価できよう。

 改正法は、緊急事態宣言前に予防策への協力を呼びかけるため、政府が「まん延防止等重点措置」を発令する規定を設けた。

 広範囲に感染が拡大する前から、メリハリのある対策を講じるのは有効だ。国民生活や経済への打撃を軽減するためにも、機動的に対処することが必要である。

 政府の立法作業が拙速だったことは否定できない。厚生労働省の審議会では、複数の専門家が「蔓延まんえん防止につながらない」として罰則に反対したが、法案の作成作業には反映されなかった。

 改正法は4日間の国会審議で成立し、罰則の必要性や効果に関する政府答弁も説得力を欠いた。政府・与党が、新年度予算案より優先させる異例の対応をとったことも影響しているのだろう。

 罰則が強調されると、感染を隠したり、感染者を差別したりする風潮を招くという指摘もある。政府や自治体は、病床確保や保健所の業務支援など、緊急性の高い施策に全力を挙げてもらいたい。



改正コロナ法 これで協力得られるか(2021年2月4日配信『東京新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を強化するための改正法が成立した。感染拡大の防止へ罰則を導入する一方、対策に不可欠な経営支援の内容はあいまいのままだ。罰則先行では実効性に期待はできまい。

 感染症法、新型コロナ特措法ともに私権を制限する内容で、運用には慎重であるべきだが、改正法はさらに強権的な内容となった。

 しかし、国会での審議はわずか四日間。感染症対策は迅速さが求められるとしても、人権問題につながりかねない法改正の議論としては十分とはいえない。

 感染症の抑え込みは、社会全体の協力を得て取り組まないと効果が上がらない。政府の強権的な対応は、その視点を欠いている。 

 特に、改正感染症法にある入院拒否や保健所の疫学調査を拒んだ人への罰則には疑問が残る。刑事罰に代わり行政罰の過料が導入されるが、罰則に変わりはない。

 入院を求められた感染者には、時給で働く非正規雇用の人もいるだろう。入院すれば10日以上に及び、その間、収入を得られなくなる。感染を職場に報告したり長期入院すれば解雇の不安もある。フリーランスにも収入補償はない。

 疫学調査は解雇を恐れ、調査対象であることさえも、職場に知られまいとする人もいるだろう。

 政府は、入院や疫学調査を拒否できる正当な理由を今後、定めると説明するが、立場の弱い人への配慮がうかがえない。むしろ、入院には給付金を出すくらいの発想が必要ではなかったか。

 刑事罰の場合、警察が対応するが、行政罰では保健所職員が対応しなければならず、ただでさえ過重な負担がさらに増えかねない。罰則導入が、保健所と患者らとの信頼関係を損ね、業務の支障となる可能性も否定できない。

 一方、改正特措法には営業を自粛しない事業者への罰則が入ったが、どんな場合が罰則対象となるのか、はっきりしない。

 政府は事業者への経営支援について、国会審議でも慎重な姿勢を崩さなかった。明確な支援策が示されなければ、営業自粛へ十分な協力は得られないだろう。

 緊急事態宣言の前でも営業時間短縮命令を認める「まん延防止等重点措置」が創設されたが、どんな場合が「重点措置」に当たるのかも現時点で明らかではない。

 審議を急いだせいか、改正法には多くの疑問が残る。その一つ一つに丁寧に答える謙虚な姿勢が政府になければ、感染防止に向けた国民の協力は得られまい。



【改正コロナ法】慎重な運用が求められる(2021年2月4日配信『高知新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を強化する改正法が成立した。

 入院拒否者に対する懲役刑や罰金を盛った政府案は国会提出後に自民、立憲民主など4党の修正協議で行政罰の過料に改められている。しかし罰則は盛り込まれ、私権制限は強化される。歯止めをどうかけるのかは不透明で、国会の監視が届くのか懸念が残る。

 感染収束が見通せず、対策が後手に回ることに菅政権は批判にさらされている。コロナ対策の立て直しや感染防止の観点から与野党が成立を急いだ。残った課題の多さは付帯決議に表れている。運用は慎重であるべきだ。

 新型コロナウイルス対応の改正特別措置法は、緊急事態宣言の前段階で「まん延防止等重点措置」を新設した。事業者に営業時間短縮などを命令し、応じなければ過料を科すことができる。私権制限が伴うにもかかわらず、発令要件は曖昧だ。政府は「ステージ3」(感染急増)を想定しているようだが、裁量にゆだねていては混乱を招きかねない。

 また、これまで緊急事態宣言下でも「要請」「指示」だった知事の権限が「命令」へと強化され、罰則が加わることになる。恣意(しい)的な適用が行われないか不安は根強く、客観的な基準は不可欠だ。

 付帯決議はこれらに言及し、国会への速やかな報告も求めてはいる。しかし法的拘束力はないだけに、国会の関与が弱まりかねない。

 時短営業に応じた飲食店などへの支援も課題のままだ。罰則の一方で補償の中身は明確ではない。経営規模の違いを無視した対応で済ますようでは納得は得られはしない。

 改正感染症法は入院拒否者に過料を科す。新型コロナ感染者が入院勧告に従わなかった事例や、積極的疫学調査に応じなかったケースがあるようだ。対策に実効性を持たせたいという思いは理解できる。

 しかし、罰則の効果は明らかではない。家庭の事情など、入院できない背景に目を向けずに一律の対応をとっても反発が強まるだけではないか。専門家にも罰則導入への慎重論は多く、対応する保健所職員の負担や今後の業務への悪影響を危惧する声がある。

 コロナ特措法に基づく緊急事態宣言は、発令中の栃木県を除く10都府県で1カ月延長される。新たな感染者数は減少傾向にあるものの、医療体制は逼迫(ひっぱく)している。

 先の臨時国会は「第3波」を迎えた昨年12月上旬に閉じ、国会でのコロナ対策の説明を避けてきた。1月の再発令時に菅義偉首相は、1カ月後には事態を改善させると意気込んだ。しかし、飲食店の時短営業や夜間の外出自粛の一方で昼間の人出の抑制にはつながらず、対策の緩みが指摘されている。

 早期収束への願いは誰もが同じだ。感染拡大で経済、社会活動は停滞している。後手に回ってきた対策に力を吹き込むのは強制ではない。科学的な知見に基づく施策と国民の理解が不可欠だ。



改正コロナ法 議論生煮え行政に丸投げ(2021年2月4日配信『西日本新聞』-「社説」)

 極めて危うい法改正と言わざるを得ない。根拠が不明確なまま罰則が導入され、感染対策に伴う補償規定といった肝心な点は明文化されなかった。

 新型コロナウイルス対策の推進を名目にした改正新型インフルエンザ等対策特別措置法などがきのう、国会で成立した。

 感染症法や検疫法を含め、現行法を幅広く見直す内容でありながら、審議は衆参両院で計4日間という異例の短さだ。

 改正法は、緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置」の新設を軸に、行政の感染対策に強制力を持たせることに主眼が置かれている。

 都道府県知事は重点措置の段階から時短営業の要請、命令、立ち入り検査などができる。これらの措置や保健所による入院勧告、疫学調査への協力を正当な理由なく拒んだ事業者や感染者には行政罰の過料を科す。

 ところが、重点措置を発令する際の詳しい基準や「正当な理由」の具体的要件は政令などで定めるとされ、判然としない。感染対策を機動的に進めるため行政に一定の裁量権を与えるとしても、これでは判断をほぼ丸投げしたに等しい。

 私権の制限を伴う法律が恣意(しい)的に運用される懸念が残る。罰則の導入で感染の事実を隠す人が逆に増え、感染者への差別や偏見が広がる恐れもある。

 医療関係者や法律の専門家の間では、改正法全体の中身や実効性を疑問視する声も多い。とりわけ問題なのは、要請に協力した事業者への補償が「支援に必要な財政上の措置を効果的に講じる」という曖昧な表現にとどまったことだ。

 こうした点を反映し、国会では異例といえる20項目以上の付帯決議が採択された。決議は、重点措置の客観的基準策定や発令時の国会報告、事業者の経営への影響を勘案した財政支援、人権に配慮した慎重な罰則運用などを政府に求めている。本来は国会で丁寧に議論し、条文に極力盛り込むべき事項である。改正法が生煮えのまま「見切り発車」される証左だろう。

 新型コロナ感染症への特措法適用は付則で2年間の時限措置とされてきた。改正法はそれを改め、特措法本体に基づく恒久的措置とした。これも大きな転換でありながら、その適否を巡る深い議論はなかった。

 むろん改正法の成立は政府のこれまでの失政を帳消しにするわけではない。次の課題であるワクチンの接種が遅れれば、感染拡大は続き、さらに難しい対応を迫られる可能性も高い。

 政府は決議を誠実に履行すると同時に、国民の多くが理解し納得できる法制度へとさらに見直しを進めていくべきだ。



コロナ改正法成立 不断の検証行い見直しを(2021年2月4日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 対策に応じない感染者や事業者への行政罰を新たに盛り込んだ新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正法が、成立した。

 当初案の刑事罰は削除されたものの、感染症対策に罰則を導入することは、これまで重ねて主張してきたように社会の不安や分断をかえって広げることになりかねない。さらに国民に協力義務を課すなら、セットで義務化すべき行政による医療体制の整備と協力事業者への補償は、今回の法改正でも不明確なままで、「官」の義務に甘く、「民」の義務に厳しいとの印象も強い。

 憲法が保障する私権の制限を強化する重要な法改正にもかかわらず、法案提出から半月足らずで採決されたその内容は妥当なのか。成立後も国会は不断の検証を行い、罰則削除も視野に入れた見直しを行うべきだ。

 政府は今回の罰則導入について「感染抑止の現場を知る知事たちの要請」として、全国知事会からの提言を大きな理由としていた。ところが、その現場の最前線に立つ全国保健所長会が、「住民と信頼関係を築くことが困難になる」と罰則に懸念を表明。136の医学会が加盟する日本医学会連合なども反対したほか、厚労省の専門部会でも反対・慎重の意見が多数を占めていたことが判明した。

 初代内務省衛生局長として日本の近代公衆衛生の礎を築いた長与専斎は、国民の理解に基づく自発的協力なしに感染症対策を強いても、「(対策を)ありがたしと感ずるものはなく、ついにその筋の指図を忌み嫌いて包み隠すの弊を生じたり」と自著に記している。こうした先人の教訓も踏まえた専門家たちの懸念を、審議でも払拭[ふっしょく]できないままでの成立だ。

 そもそも特措法の改正について政府は当初、新型コロナ収束後に対策の問題点などを検証した上で実施する方針だった。今回はその検証抜きで改正したのだから、改めて保健所など現場の声を聞くなどして見直すのは当然である。

 罰則の削除か、最低でも抑制的な運用を担保する仕組みが必要だ。ハンセン病問題においては、強制隔離政策を規定した「らい予防法」の見直しを怠ったことで、国会の立法不作為の責任が確定した。その反省も踏まえて対応してもらいたい。

 著書『サピエンス全史』が世界的ベストセラーとなった歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、一時的とされた緊急時の政策は、往々にして永続することになると警告する。その上でコロナ後の社会を見据え、私たちは今、私権を制限する全体主義的監視か、十分な情報共有などの権利拡大に基づく協力体制の構築か、どちらかの選択を迫られていると説く。

 「私たちはこの感染症の危機を他者のせいにして、憎しみを燃え上がらせることもできる」とする一方で、「他者に責任を負わせて非難する代わりに、みなで協力する道を選ぶこともできる」と、ハラリ氏。その展望を今回の法改正を考える座標軸としたい。



(罰則よりも、そのために汗をかく2021年2月4日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)


 知り合いのラーメン屋がもう1カ月休むと話していました。ひとりで店を回し、家賃もかからない。1日6万円の協力金で持ちこたえられるといいます

▼一方、それではやっていけない店も多い。場所によっては家賃も高額、規模によっては固定費だけでも大赤字。いつまでも行き届かない国の支援策に、飲食関連の業界からは「もう無理」「疲れ切った」という悲鳴が上がっています

▼10都府県で緊急事態が延長されました。切迫する現場は医療でも。コロナで容体が悪化した人や、救急患者も受け入れられないほどの病床不足。従事者の心身の疲弊。神奈川県内のある病院長は燃え尽きる寸前だと訴えます

▼社会的に弱い立場にある人たちの生きづらさにも拍車をかけています。生活の困窮や失業、置き去りにされ孤立していく恐怖や不安。市民団体による食料や生活物資の配布の場には、若者とともにお年寄りやシングルマザーの姿も

▼先日の国会。小池晃議員がそれぞれの実情に見合ったきめ細かな補償を政府に求めていました。罰則よりも、そのために汗をかくことが「国民のために働く内閣」ではないかと。しかし連日伝わるのは、おごりゆえの失態や不祥事ばかりです

▼集団感染したクルーズ船が帰港してから3日で1年。今も後遺症に苦しむ人がいます。1日の感染死者はいまだに最多をぬりかえています。人びとが苦境にあえぎ、命が失われていく日々。なのにこの政権からは、手を携えてそれを乗り切る意志も覚悟もみえません。





「駄々」(2021年2月3日配信『新潟日報』-「日報抄」)

 長く入院していたお母さんの一時帰宅が近づいてきた。楽しみで仕方なかったけれど、お母さんが体調を崩して延びてしまった。しょうがないと分かっていても、寂しくて、やりきれなくて、駄々をこねてしまう

▼ご存じの方も多いだろう。宮崎駿さんのアニメ映画「となりのトトロ」の一場面である。新型ウイルスの緊急事態宣言の対象地域では、映画の登場人物の心境に自らの胸の内を重ね合わせた人もいるだろうか。7日までだった緊急事態の期間が、栃木県を除き延長された

▼新たな感染者は漸減傾向にあるように見える。しかし医療機関の逼迫(ひっぱく)は解消されていない。重症患者もなお多い。医療崩壊の懸念が解消されなければ、宣言の延長もやむを得ないのだろう

▼それは分かる。分かっていても、やりきれない。飲食業をはじめ緊急事態宣言下で身をすり減らし、我慢を重ねてきた人からすれば、肩を落とさずにはいられまい。怒りを覚える人もいるだろう

▼このさなか、夜の銀座で酒を飲み、虚偽の説明をした国会議員もいたとなれば、なおさらだ。感染対策の特別措置法などの改正案には罰則がある。営業短縮の命令に従わず、駄々をこねる分からず屋は罰するということか。そんなルールを決める立場の人間がこの体たらくだ。他方、命令を拒む側にも言い分はあろう。必ずしも「駄々」とはいえまい

▼本県独自の「警報」も発令が続く。緊急事態の地域ほどでないにせよ、漂う空気の視界は悪い。この霧はいつ晴れるだろう。



コロナ法衆院通過 疑念は残されたままだ(2021年2月3日配信『琉球新報』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を強化するためのコロナ特別措置法と感染症法の改正案が衆院を通過し、3日には参院で成立する見込みだ。与野党の協議で修正が図られたが、強権によって患者を抑え込むことに変わりはなく、国民が納得できる内容とは言いがたい。疑念は残されたままだ。

 与野党間の修正協議によって感染症法に盛り込まれていた入院を拒む者への刑事罰は削除され、行政罰である50万円以下の過料に改めた。

 感染症法の改正案で人権上最も問題とされた刑事罰が修正協議によって削除されたのは当然である。それでも行政罰の規定は今なお国民との間に乖離(かいり)がある。

 刑事罰の削除について、立憲民主党の枝野幸男代表は「満点ではないが、前科者をつくるとんでもない部分を担当者の尽力で外せた」と成果を強調した。しかし、このような不十分な修正で納得してはならない。

 しかも、感染症法に罰則を導入する改正を論議した厚生労働省の専門部会で、委員の賛否にかかわらず、賛成の方向でまとめる「台本」を事務局が用意していたことが国会審議で判明している。罰則ありきで政府が法改正を進めようとしていたことは許しがたい。結局、国民の疑念と批判を浴びることになった。

 そもそも、今日のコロナウイルス感染症のまん延状態の一因に、ことごとく後手に回った政府の対応があるのではないか。

 稲正樹・元国際基督教大学教授ら70人余の憲法学者が出した声明で、コロナ特措法と感染症法の改正案に対し「政府の失策を個人責任に転嫁するものだ」と批判した。刑事罰を削除する一方で行政罰を科すことに関しても「修正がなされても、『罰則』を設ける妥当性の問題は解決されない」と断じている。国民感情に合致した指摘だと言えよう。

 コロナ特別措置法で新設する「まん延防止等重点措置」に関しても依然としてあいまいな点がある。

 緊急事態宣言の前段階に当たる「まん延防止等重点措置」の実施で感染状況に関する客観的基準を提示するよう付帯決議を採択した。恣意(しい)的な運用を避けるための対応だが、本来ならば特措法の本則で明記することで客観性のある厳格な運用を担保すべきだ。

 緊急事態宣言中の時短命令に応じなかった事業者への過料は50万円以下から30万円以下に修正されたが、それでも事業者に罰を科すことに変わりない。

 事業者への財政支援を行政に義務付けたが、具体性に乏しい。これではコロナ禍の中で経営難にあえぐ事業者は納得できない。

 修正協議で一定の前進があったものの、患者や事業者に罰則を科すという基本的な性格はそのまま温存された。このまま成立を許していいのか。与野党の慎重な対応を求めたい。





効果検証 必要なら修正も/コロナ関連法改正(2021年2月2日配信『東奥日報』-「時論」・『茨城新聞」-「論説)

 新型コロナウイルス特別措置法、感染症法の改正案は修正され、当初の政府案にあった入院拒否への懲役刑など刑事罰は行政罰の過料となり3日にも成立する。営業時間短縮命令に従わない事業者への過料は減額した。

 犯罪的行為への制裁が本来の罰則だが、過料であれ科されるのは生活や雇用のため営業を続ける事業者や家庭の事情で入院できないコロナ患者らだ。罰則があることで検査を避けたり陽性判明を隠したりし感染を拡大させてしまう逆効果も心配される。政府は効果を検証し必要なら軌道修正をためらうべきではない。

 感染症法は、ハンセン病患者らを隔離し差別や偏見を生んだ歴史を「教訓として生かす」と前文に明記する。これに逆行するように、政府は改正案へ「入院措置を拒んだり入院先から逃亡したりした者は1年以下の懲役か100万円以下の罰金」「保健所の行動歴調査を正当な理由なく拒んだり虚偽回答したりした者は50万円以下の罰金」と刑事罰を盛り込んだ。

 また現行特措法は、私権制限を「必要最小限」と規定し、休業や時短の要請・指示に応じない事業者への罰則を設けていない。これに対し政府は「罰則で強制力を付与し実効的にする」(菅義偉首相)として改正案に緊急事態宣言下と、その前段の「まん延防止等重点措置」下で時短営業命令を拒んだ事業者へそれぞれ50万円以下、30万円以下の過料を設けた。

 「保護すべき感染者や事業者を罰則で威嚇する」(日弁連)と反発が広がり、与党議員の銀座のクラブ深夜訪問、厚生労働省の専門部会で罰則に慎重・反対意見が多数を占めたことが判明し法案は野党要求で大幅修正された。時短営業に応じた事業者らとの公平のため過料はやむを得ない面もあるが、過料も罰則であり本来はない方がいい。

 コロナ禍の日本は感染者や医療従事者への差別、「自粛警察」など同調圧力が顕在化している。入院拒否に罰則を設けることでこの風潮が強まりはしないか。社会防衛第一の感染者排除から人権尊重に転換した感染症法の精神を再確認し、今回の改正により人権侵害が広がらないよう政府は注意を怠るべきではない。

 疑問、懸念はまだある。法律違反の有無や保健所調査を拒む「正当な理由」は誰が確認するのか。刑事罰削除で警察の直接関与は想定されなくなった。既にパンク状態の知事や保健所に、行政罰の調査、執行まで担わせるのは感染対策上、本末転倒ではないか。

 経済的理由で時短営業に応じられない人、家族の介護や育児のため入院できない感染者に協力を求めるには、財政支援、医療体制強化、介護・育児支援で協力しやすい環境を整える方が強制力より有効ではないか。特措法改正案は事業者支援を国や自治体に義務付けたがなお不十分だ。私権制限を強める以上、現状では実施していない損失額に応じた補償が必要との声も根強い。政府は実現可能性を追求すべきだ。

 新設のまん延防止措置には知事の命令権や罰則が規定されたが、実施は行政裁量に委ねられ国会監視も曖昧だ。一定の要件、手続きが必要な緊急事態宣言を発令せずに強制措置が取れ、権力行使に歯止めが効かない恐れもある。危機の中で急いだ法改正はあらが目立つ。施行後も慎重な運用を強く求めたい。



コロナ法衆院通過 国会の役割放棄に等しい(2021年2月2日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 先週末に審議入りしたばかりの新型コロナ特別措置法と感染症法の改定案が、早々に衆院を通過した。

 懲役や罰金の刑事罰は削られたものの、行政罰の過料は残っている。

 知事による要請や指示を「命令」に強化する必要性は不明瞭なままだ。どんな場合が違反に当たるのかも判然としない。強力な私権制限に歯止めをかける国会関与の仕組みも整っていない。

 詳細は政令で定める―と政府は繰り返す。このまま成立させては国会の責務を果たせない。

 特措法改定案は、緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新設している。

 首相が発令し、対象地域の知事が営業時間の短縮を要請・命令する。事業者が従わない場合は過料を科し、命令した事実も公表できる。要請や指示に抑えた現行の緊急事態宣言下より権限は強い。

 衆院内閣委員会で、政府は「休業や全面的な外出自粛は要請できない」と、まん延防止と緊急事態の違いを説明した。法案には「営業時間の変更等」とある。状況次第で「等」が拡大解釈される懸念は拭えない。

 実施期間は6カ月以内とする半面、延長回数に制限はない。期間2年以内、延長1年以内の緊急事態の代わりに多用されれば、一時的措置とは言えなくなる。

 首相と知事の裁量を大きく拡充するのに、改定案には国会への報告規定すらない。事業者への損失補償も確約していない。

 衆院内閣委は国会報告、事業者支援、発令基準の明確化など、27項目の付帯決議も採択した。決議は政府に配慮を求めるもので、法的拘束力はない。

 同様に知事に命令権を与える緊急事態宣言の発令と併せ、国会への報告ではなく、発令前の承認を条件とすべきだ。懸案に法本体で応えなければ、制約を受ける国民の理解は得られまい。

 感染症法改定案も、入院や行動歴調査を拒んだ人に過料を科す内容だ。差別を助長し、国民の協力を妨げると反対する声は強い。

 自民党と立憲民主党は、衆院で審議が始まる前に改定案の修正協議に臨んだ。公の審議で問題点を洗い出した後ならまだしも、刑事罰を削った程度で先に妥結した両党の責任は重い。

 緊急事態宣言の延長が避けられなくなった今の感染拡大は、政府の不作為が招いた結果だ。その責任を棚に上げて国民を縛ろうとする拙速なやり口に、国会が乗じてはならない。





ずれている(2021年2月1日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 アーケードに足を踏み入れると、「意外に人が多いな」というのが第一印象だった。それが午後8時を10分、20分と過ぎるうちに、はけで掃いたように消えていく。先週金曜日、熊本市中心部の夜の街である

▼横町に入れば数十メートル先まで人影のない所もあって、週末のこの時間とは思えない光景だ。時短要請の調査だろうか。熊本県、熊本市と記されたベストを着用した集団が、明かりのついた飲食店をのぞき込んでいる

▼「2月7日まで休業」との貼り紙をしている店も多い。「テナント募集中」の表示が目立つビルの向こうから、サイレンが鳴り響く。この街で15年間、生花店を営んできた店主から聞いた「救急車の音を聞くと知り合いでは、と胸騒ぎがするようになった」との言葉が浮かんだ

▼「去年の緊急事態宣言では皆、借金をしてしのいだ。いずれ収束すればという前向きの気持ちだった。けれども、2度目で先が見えなくなり、心が折れて…という話を聞くようになった」からだという

▼新たな支援策を期待していた国会では、逆に要請に従わない事業者に罰則との法改正案が出されて落胆した。「心を一つにして協力したい。でも政治家や役所の人たちと私たちの心は、ずれている」と店主

▼政府は首都圏などでの宣言延長の調整に入った。独自に宣言した熊本はどうするのか。延長の理由は、多くの人が自宅療養を余儀なくされている医療の逼迫[ひっぱく]だが、改正案では入院に応じない人に過料を科す。やはりずれている。至る所でずれている。





責任転嫁(2021年1月31日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 田舎で判事を務めていた男が思いがけず昇進し、意気揚々と新任地にやってくる。しかし、住まいの準備をしている最中に、はしごから落ち、横腹を窓の取っ手に打ち付けた。そのために内臓を痛め、容体は次第に悪化していく

▼「時に希望のはかない滴が輝くかと思うと、時には絶望の海が荒れ狂う」。トルストイの短編「イワン・イリッチの死」は、痛みの消えない原因が分からないことに戸惑い、不安を募らせていく男の様子を描く

▼それは新型コロナウイルスの感染者にも通じるものを感じる。症状が表れていながら入院先が見つからず、自宅やホテルでの療養を強いられれば、心細さはなおさらだ

▼共同通信の調べによると、入院や療養先が見つかっていない感染者が、緊急事態宣言の出ている11都府県で少なくとも1万5千人余(19日時点)に上る。しかも、自宅などで療養中に症状が悪化し、亡くなる人も相次ぐ。医療提供体制のいっそうの強化が必要なのは言うまでもない

▼にもかかわらず政府は感染症法を改正し、入院を拒否する感染者に懲役刑を科そうとした。重すぎるとの反発を受け撤回したが、罰金は過料として事実上残るようだ。後手後手の批判に背を向け感染拡大の責任を患者に転嫁するに等しい

▼これでは罰則から逃れようと感染を隠したり、PCR検査を避けたりする人が増えかねない。国民の不安は募るばかりだ。



コロナの法改正 国民から納得が得られる結論を(2021年1月31日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策で、新型コロナ特別措置法と感染症法の改正案が国会で審議入りした。時短営業や入院の拒否に対する罰則を巡って与野党が政府案の修正に合意しており、2月3日に成立見通しという。

 世論の反発が強い刑事罰は撤回したが行政罰は盛り込まれ、罰則によって強制力を持たせることに変わりはない。私権の制限を強化する重大な法改正であり、論点も多い。与野党は日程ありきではなく慎重に議論すべきだ。罰則は本当に感染防止に不可欠で効果があるのか。国民のこうした疑問や不安に向き合い、納得を得られる結論を見いださなければならない。

 野党立憲民主党が「過重だ」として刑事罰などに反対し、与党側が修正に応じた。特措法改正案は、都道府県知事による時短営業命令を拒んだ事業者に対する行政罰の過料を減額。入院拒否者に1年以下の懲役か100万円以下の罰金と定めていた感染症法改正案は、刑事罰を削除して過料に変更した。

 法改正は感染防止対策の実効性を高める狙いという。特措法改正案では罰則強化の一方、時短などに応じた事業者への支援は「財政上の措置を講ずる」と具体性を欠く。時短や休業に見合った補償がなく、やむを得ず営業する店も多い。罰則は事業者をさらに追い詰め、反発を招きかねない。損害に応じた公平な補償に努めてこそ事業者の協力が得られよう。

 特措法改正案では、緊急事態宣言の前段階に「まん延防止等重点措置」を新設する。知事の命令権限がある強い措置だが、行政の裁量に委ねられている。付帯決議で措置の判断基準を事前に明示するよう政府に求めるが法的拘束力はなく、恣意(しい)的な運用への懸念が拭えない。

 感染症法改正案では、知事の入院勧告を拒否した人らに過料を科す。しかし、政府は入院拒否の件数や感染拡大への影響を把握できておらず、法改正の根拠が不明確だ。そもそも病床不足で入院できず、自宅や宿泊施設で療養中に死亡する人が相次いでいる。入院拒否への罰則をうんぬんする前に、医療体制の強化を急ぐべきだろう。

 感染症法は、ハンセン病患者などに対する差別や偏見が存在した反省を踏まえ、患者を保護するのが基本だ。コロナ禍の日本では感染者や医療従事者への差別が問題化しており、罰則導入は差別を助長するとの不安も大きい。検査を避けたり、感染を隠したりするなど感染防止に逆効果となる恐れがある。

 与野党は法改正の必要性では一致しており、与党の譲歩は織り込み済みだった感がある。さらに緊急事態宣言下で自民、公明の党幹部が深夜に東京・銀座のクラブへ通うという不祥事も与党への逆風となった。厳罰化とつじつまの合わない軽率な振る舞いに、国民の厳しい視線が向けられていることを自覚すべきだ。修正に合意した立憲民主党にも説明責任がある。



苦境の居酒屋(2021年1月31日配信『高知新聞』-「小社会」)

 居酒屋で一杯やりながら人と話すのは、なぜ楽しいのだろう。次第にお酒が回って舌が滑らかになる。しらふでは聞けないことも、ざっくばらんに口を突いて出る。相手との距離が縮まるのがうれしい。

 居酒屋紀行の第一人者、太田和彦さんは「酒は会話の句読点」だと言う。杯を手に、相手の話をうんうんとうなずきながら聞く。何もなしで黙って聞いているより気が楽だろう。返事に困った時は一杯含んで間を持たせ、おもむろに話し始めることもできる。

 「酒を手にした会話はどこか余裕になり、風格すらみえてくる」。著書「みんな酒場で大きくなった」で語っている。人生の宝物のような時間が生まれる場所。それが居酒屋なのかもしれない。その苦境が深まっている。

 2020年に倒産した居酒屋は全国で189件に上り過去最多となった。むろん要因はコロナ禍。営業時間の短縮や宴会自粛が響いた。さらに国会で審議中のコロナ対策の法案では、時短要請に応じない事業者に過料が科される。

 「生きるために過料を払ってでも店を開けざるを得ない」。テレビ取材に苦しい胸の内を明かす店主の表情はゆがんでいた。政府の姿勢は罰則先行、補償は後回し。それを猛省し補償を拡充しなければ事業者は不安を拭えない。

 店先のちょうちんに灯がともり、ぽっとだいだい色に染まる。温かな光景が消えないように。なじみの店主の顔を思い浮かべつつ願う。



コロナ法改正審議 罰則より協力促す政策を(2021年1月31日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス感染拡大に対応する特別措置法と感染症法の改正案が、29日の衆院本会議で審議入りした。自民、立憲民主両党による事前の修正協議で、当初の政府案に盛り込まれていた入院拒否などへの刑事罰は全て削除されたものの、行政罰である過料は残った。

 行政罰であっても、違反者を罰することに変わりはない。医療の受け入れ態勢も、営業の時短要請などに応じた事業者への支援も十分とは言えない現状を考えれば、罰則の導入はバランスを欠く。

 菅義偉首相は「感染対策の実効性を高めるために必要な見直し」と強調する。だが、罰則による強制は検査拒否などを招く恐れがあり、感染症の封じ込めにつながるのか疑問が残る。必要なのは国民が納得し、積極的に協力できる政策だろう。国会では、さらなる修正も視野に議論を尽くすべきだ。

 感染症法の政府案には、入院拒否者に対し「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」を科す刑事罰が盛り込まれていた。患者らの人権尊重を掲げた同法の基本理念に反するもので、削除は当然の判断である。

 代わりに行政罰の「50万円以下の過料」を科す。疫学調査拒否者への「50万円以下の罰金」も「30万円以下の過料」に修正した。

 しかし、そもそも罰則導入の根拠となる「立法事実」が示されていないという問題がある。厚生労働省は、入院や調査を拒んだ具体例を現在調査中というが、順序が逆ではないか。

 改正案には、医学系の学会や保健師らの団体が相次いで罰則導入への反対を表明した。最前線で対応する全国保健所長会は「罰則を振りかざした脅しで住民の私権を制限することになれば、住民と信頼関係を築くことは困難になる」と、知事会とは立場を異にする意見書を厚労省に提出した。重く受け止めるべきだろう。

 厚労省が15日に開いた専門部会でも、罰則導入に慎重、反対意見が多数を占めていたことが、審議入り直前に判明した。なぜ、こうした声を伏せたまま罰則導入に至ったのか、政府はきちんと説明する責任がある。

 特措法改正案では、緊急事態宣言時に時短営業などの要請に応じない事業者に対し、都道府県知事が「命令」を出せると規定。拒めば過料を科すことができる。さらに、緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置」を新設し、知事に緊急事態と同様の権限を与えた。

 宣言下でも「要請」や「指示」にとどまっていた知事の権限が、大幅に強化される大転換である。政府は重点措置について、特定の地域と業種に絞って実施するとしているが、要件が不明確なままでは恣意[しい]的に運用されかねない。一方で、事業者が求めている実際の損害に応じた補償も義務付けていない。週明けから本格化する国会審議では、こうした問題点を一つ一つ吟味し、重点措置は必要なのか明らかにしてもらいたい。





修正コロナ法案 罰則より補償の明記を(2021年1月30日配信『北海道新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策を巡る特別措置法や感染症法など関連法の改正に向け、与党と立憲民主党などが政府案を修正することで合意し、きのう審議入りした。

 焦点の一つは、入院拒否や入院先から逃げた場合、刑事罰の懲役刑や罰金を科すかどうかだった。

 憲法は国民の幅広い自由を保障する。コロナ対応では個々人の事情を考慮することも欠かせない。

 野党の要求で政府案からすべての刑事罰を削除することになったのは当然だが、修正は不十分だ。

 罰則が感染抑止にどう資するかという議論を深めずに、営業時間短縮を命令された事業者などが応じない場合、行政罰の過料を科すことを立憲民主も容認した。

 修正で過料は減額されたが問題は額ではない。罰則の必要性だ。

 後手続きの政府対応を棚に上げ、苦境にある事業者などに責任を転嫁する法改正ではないのか。

 法改正の原案を諮った厚生労働省の審議会では、委員の大半が新たな罰則導入に反対していた。

 急ぐべきは、事業者などへの十分な損失補償と医療体制の改善だ。さらなる修正が必須である。

 与野党協議を経ても損失に見合った補償措置を政府や都道府県が講じることは明記されなかった。

 効果的な支援の実施を付帯決議と国会答弁で明確にするというが、努力目標の域を出ない。これでは事業者の不安は消えない。

 改正案には、緊急事態宣言の前段階でも知事が営業の時短などを求められる規定も盛り込まれた。

 発令時には国会報告することを付帯決議に明記することになったが、発令要件は曖昧なままで、恣意(しい)的に運用される懸念は残る。

 付帯決議は与野党の妥協手段として多用されてきた。しかし強制力はなく、盛り込まれた内容が形骸化するケースは多い。

 重要な規定は法に明記するのが筋だ。付帯決議では立法府の責任を十分に果たしたとは言えない。

 医療現場では重症化した人を受け入れる病床がなく、ホテルなどで死亡するケースが増えている。

 政府は具体的な改善策が求められているのに、改正案では医療機関への病床確保の協力要請を勧告に強めるなど行政の権限強化が目立つ。医療を施す側の視点を欠いては対策の実効性は高まるまい。

 緊急事態宣言下に、自民、公明両党の幹部が銀座のクラブなどに深夜までいたことが分かった。

 国民に外出や営業の自粛を求めるさなかに、言語道断である。

 両党は厳しく処分すべきだ。



ウイルス法改正 懸念残さぬ丁寧な審議を(2021年1月30日配信『新潟日報』-「社説」)

 罰則は軽くなったが、合意した修正案には課題や疑問がなお残されている。

 国民の不安を払拭(ふっしょく)し、感染収束に資する対策とするために、与野党は修正合意を土台に丁寧に議論を尽くし、懸念を解消してもらいたい。

 政府が国会に提出した新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案は、与野党の修正合意を受けて、29日の衆院本会議で審議入りした。

 修正協議の焦点だった「刑事罰」は全て削除された。

 感染症法改正案では当初盛り込まれた入院拒否者や疫学調査拒否者への刑事罰を削除し、行政罰の過料に改められた。

 刑事罰の適用は、患者を犯罪者扱いすることになり、感染症への差別や偏見を助長する恐れがある。

 病床が不足し、不安を抱えながら自宅待機を余儀なくされている患者は大勢いる。そうした現状への配慮も欠いている。

 感染症対策として妥当とは言えず、刑事罰の削除は当然だ。

 ただし、罰則があることに変わりはない。感染者を責めるようなやり方が対策として有効なのかどうか。

 患者を支援する保健所職員が、入院や調査の拒否を通告する立場にもなると想定され、支援にも支障が出かねない。

 新型ウイルス特措法改正案では、事業者が時短営業を拒んだ場合の過料は引き下げられたが、感染抑止の下に、憲法が保障する「営業の自由」などが制限されることになる。

 野党は事業規模に応じた支援が必要だと訴えている。ウイルス禍が長引き、きめ細かな支援を求めるのは理解できる。

 菅義偉首相は28日の参院予算委員会で「大規模店では支援が足りないという声は承知している」と答弁したが、損失補償には慎重なままだ。

 このままできちんと協力が得られるのか。支援の在り方についても再検討する必要がある。

 罰則を巡る議論で気掛かりなことも出てきた。

 厚生労働省の専門部会で、罰則導入に「慎重」や「反対」とする意見が多数を占めていたことが、厚労省が27日に公開した議事録で分かった。

 部会では専門家から実効性の担保や、罰則まで組み込むことへの疑問が相次いだという。

 菅首相はウイルス対策を巡り、「専門家に相談して決めた」と繰り返す。それなのに、罰則導入ではなぜ、専門家の多数意見通りとならなかったのか。

 ウイルス対策の議論がご都合主義的に進められているのではないかとの疑念も湧く。政府の明確な説明を求めたい。

 課題はほかにもある。

 緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置」は発令要件が不透明だ。国会の関与は「速やかな国会報告」を付帯決議に盛り込むことで合意したが、追認手続きにとどまる可能性が高いとの見方もある。

 国民の私権制限を強める改正案である。国会は緊張感を持って真摯(しんし)に審議してもらいたい。



礼を欠く相談(2021年1月30日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 身の上相談の回答者になってもらいたいという依頼は全て断っていたという。作家の故・吉行淳之介さんがエッセーで明かしている。気が進まない理由をサルトルの論文を引用して説明していた

▲相談者は相談する相手を選ぶときに自分の受ける助言の種類を既に決定しているものなのだ。「自分が権威を認めている相手に相談することによって、自分の考えについて安心感を得ようとしている」。相手は自分の考えと全く違う回答をすることはない。だから、そんな相談の「回答者になるのはバカらしい」

▲こちらも専門家が助言するのをバカらしく思うような対応である。新型コロナウイルス対策の感染症法改正案に盛り込まれた罰則を巡り、議論した厚生労働省の専門部会で慎重、反対意見が多数あったことが分かった。にもかかわらず政府は罰則を組み込んだ法案を出していた

▲政府としては法案を了承するという助言、回答だけを専門部会に求めていたのだろう。そういう「相談」は相手に礼を欠く。慎重、反対意見を国会に説明しなかったのも不誠実だ

▲吉行さんは身の上相談に懐疑的見方をした上で、人は自身が一切の責任を持って決断するよう説く。決断の際には潔い身の処し方を求める

▲今回、国会審議前に急きょ改正案の刑事罰が削除された経過をみると責任ある決断だったようには思えない。政策の中身と同時に政府、与党の身の処し方にも危うさを覚える。



【コロナ法案修正】私権制限への懸念が残る(2021年1月30日配信『高知新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策で修正された改正法案の審議が、昨日の衆院本会議で始まった。

 感染症法と新型コロナウイルス特別措置法の改正案を巡り、与野党は入院を拒否した患者に対する刑事罰を削除する修正で合意した。営業時間の短縮命令を拒んだ事業者などへの過料の額も引き下げた。

 改正案は罰則の是非が焦点だった。憲法で規定された人権や営業の自由を制約する重いテーマであるだけに、慎重な論議が求められていた。審議入り前に与党が野党に譲歩した。

 首都圏や京阪神は感染拡大と病床の逼迫(ひっぱく)で深刻な状況が続く。コロナ対応での「後手後手」批判を法案で打ち消したい思惑が与党にあったのは間違いない。だが自民、公明両党の幹部が深夜、東京・銀座のクラブを訪れていたと報じられ、世論の反発を招いたことが響いた。

 刑事罰こそ削除されたものの、法案には行政罰の過料が残る。罰則を設けることに、どれだけ効果があるか疑念は消えない。事業者に時短を命じるなら補償が必要なはずだが、その中身は明確ではない。私権制限への懸念は依然として残る。

 罰則を設けるなら、実効性を裏付ける根拠が必要だろう。入院拒否の患者がこれだけいて、罰則によってこうした効果が見込まれる、といったものである。それがなければ説得力はなく、国民も是非を判断しづらい。刑事罰が本当に必要だったのかさえ疑わしくなる。

 衆院予算委員会で、菅義偉首相は懲役刑を含めた罰則について問われ「全国知事会からの緊急提言を踏まえた」と述べている。

 しかし知事会は、業者への時短要請などに実効性をもたせる「罰則や営業停止処分」を求めたにすぎず、罰則に関して具体的な言及はない。知事会は罰則を運用する際の課題の検討も求めたが、政府で検討はされたのだろうか。

 罰則に専門家の反対や疑問が多かったことも分かった。厚生労働相の諮問機関、厚生科学審議会の感染症部会で「罰則をつくることでかえって(罰則を避けようとする人の)検査を妨げる可能性が高い」との指摘があった。そうした人が増えれば、社会に混乱が広がりかねない。

 知事会は提言で、時短要請を順守した事業者への協力金などの補償も求めている。事業者への補償に関して特措法改正案では当初の「必要な財政上の措置を講ずる」が修正の結果、「事業規模に応じた支援の在り方を検討」とされた。

 営業を制限され苦しくなる事業者が知りたいのは、協力した場合の補償の中身のはずだ。飲食店でもチェーン店と個人経営では経営規模が違う。補償内容も違って当然だろうが、今後の国会答弁や付帯決議で明確にするという。

 国民の行動を制限する法案だ。真摯(しんし)な論議が欠かせない。新型コロナの収束を目指すことで与野党の違いはなかろう。政府は丁寧な答弁を心掛けなければならない。



コロナ法の改正 疑問や不安さらに議論を(2021年1月30日配信『西日本新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスに対応した特別措置法や感染症法などの改正案が国会で審議入りした。与党と立憲民主党の修正協議の結果、入院や疫学調査の拒否に科す懲役や罰金を行政罰の過料に改め、時短営業を拒んだ場合の過料の額も引き下げるなど、罰則は軽減される方向だ。

 ただ、行政の権限を強化し、私権を制限する趣旨に変わりはなく、その根拠である立法事実はなお曖昧だ。法運用上の課題や不安も多く横たわる。国会でさらに詰めた議論が必要だ。

 修正協議では、罰則のほか、時短営業などに伴う事業者への補償、緊急事態宣言の前段階として新設する「まん延防止等重点措置」の発令要件などの在り方が焦点になった。

 罰則に関しては、野党側が刑事罰を含む重い規定は容認できないと強く主張し、全体として軽減された。一方で、明確な根拠が示されぬまま罰則自体はいずれも必要として残された。

 これまでに入院勧告や知事の要請を拒否した事例がどれだけあり、感染拡大にどう影響したのか。政府は結局、具体的なデータを示していない。改正案では、拒否について正当な理由がない場合に罰則を適用する。その「正当」とはどんな状況を指すのかも明示されていない。

 日弁連などは、こうした点から罰則の構成要件や対象者の範囲は不明確で不公正・不公平に適用される恐れが大きい、と指摘している。入院や疫学調査の拒否が「摘発」対象になれば、PCR検査を避けたり感染してもその事実を隠したりする人が逆に増え、むしろ感染の拡大や感染者への差別や偏見を助長する懸念もある。

 事業者への補償について、改正案は「国、自治体が事業者の支援に必要な財政措置を効果的に講じる」としている。これでは具体性に欠け、十分な補償規定とは言い難い。また、対象地域の知事に感染対策の権限を幅広く与える「まん延防止等重点措置」を発令する際の国会報告も義務付けられていない。

 これらは国会の付帯決議や政府答弁で趣旨を補足し、履行を担保するという。それだけで政策の実効性が期待できるのか。決議や答弁では努力目標との意味合いにとどまり、法的拘束力がないことも気掛かりだ。

 菅義偉内閣の支持率下落が続く中、政府、与党は国会審議前の異例の修正協議に応じてみせた。緊急事態宣言が出ても新規感染者は思うようには減らず、より強い対策を求める声やいら立ちも世論にはある。

 しかし、私権の制限を伴う立法に拙速は禁物だ。国会ではさらなる修正も含め、議論を尽くす姿勢こそが求められる。



コロナ法改定案(2021年1月30日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

罰則すべて削除し補償明記を

 新型コロナ対応の特別措置法や感染症法などの改定案が衆院で審議入りしました。感染症法改定案には当初、入院措置や疫学調査に応じない人に対する懲役や罰金の刑事罰が盛り込まれていましたが、世論と野党の反対を受けて刑事罰を削除し、行政罰の過料としました。しかし感染抑止の障害になることに変わりはありません。特措法改定案で営業自粛に応じない事業者に過料を科すことには「補償もせずに罰則か」と怒りの声があがっています。罰則はすべて削除すべきです。採決ありきで強行することは許されません。

専門家、現場の意見無視

 衆院本会議で菅義偉首相は、入院を拒否して感染を広げた事例を示すことができず、「そもそも罰則導入の立法事実がないのではないか」という日本共産党の塩川鉄也議員の質問に答えられませんでした。

 感染症法改定案で罰則を科すことには、公衆衛生を担う多くの専門家団体や現場が次々に反対の声明を発表しています。

 全国保健所長会は厚生労働省に提出した意見で、罰則で脅して住民の私権を制限すれば「信頼関係を築くことは困難になり、住民目線の支援に支障をきたす恐れがある」と述べています。罰則を恐れて検査結果を隠す人が増え、感染コントロールが困難になりかねないというのが公衆衛生関係者の共通した懸念です。

 誰がどのような理由で入院措置や調査を拒否したかを判断し、証拠を集めて処罰に向けた報告をする役割を保健所が負わされることに危惧が広がっています。衆院内閣委員会の参考人質疑で東京大学大学院の橋本英樹教授は保健所が「膨大な時間をとられる」「業務的にもたない」と訴えました。

 感染症法は患者の人権尊重をはっきりと規定しています。ハンセン病患者の強制隔離やエイズ患者差別への反省からです。公衆衛生関係の団体はいっせいに発表した声明でこの歴史的教訓を今一度認識すべきだと強調しました。日本公衆衛生看護学会は罰則導入が「倫理的に重大な問題をはらんでいます」と指摘しました。

 感染症法改定案について専門家の意見を聞いた厚労省の厚生科学審議会感染症部会で罰則賛成を明言したのは出席した委員18人のうち3人だけでした。11人が反対、懸念、慎重論を表明しました。にもかかわらず政府は「おおむね了承をいただいた」として、罰則を盛り込んだ感染症法改定案を国会に提出しました。専門家や現場の知見を聞きながら反対意見を無視する姿勢です。

憲法29条の趣旨を入れよ

 特措法改定案は、緊急事態宣言が出されたもとで営業自粛や時間短縮に応じなかった事業者に過料を科す規定を設けます。緊急事態宣言で時短営業を余儀なくされた飲食業者からは「1日6万円の協力金では店がもたない」と悲鳴があがっています。必要なことは休業や時間短縮をしても事業を続けられる十分な補償です。

 憲法第29条は財産権の不可侵を定め「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」としています。現行特措法には補償の規定がありません。新たに明記すべき条項は憲法のこの趣旨に基づく「正当な補償」です。罰則ではありません。





刑事罰の削除 実効性になお疑問残る(2021年1月30日配信『東京新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策の特別措置法などの改正案が審議入りした。与野党の修正協議で刑事罰が削除された代わりに、行政罰が導入された。罰則を伴う対策に実効性があるのか、なお疑問が残る。

 政府が閣議決定した感染症法改正案には、入院を拒否した感染者に「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」を科す罰則が盛り込まれていたが、自民、立憲民主両党は修正協議で、懲役刑を削除し、刑事罰の罰金も行政罰の過料に改めることで合意した。

 入院ができない事情がさまざま考えられる中での刑事罰適用は、人権問題にもなりかねない強権的な対応だ。人権に最も配慮することが求められる感染症法の理念に照らしても、削除は当然である。

 一方、行政罰の過料が妥当かどうかは、さらなる議論が必要だろう。罰則を科すことには変わりはないからだ。

 政府は入院拒否が感染を広げている具体的な事実や、罰則が感染拡大の防止に効果があるかどうかの根拠を示していない。国会審議の中で示す必要がある。

 特措法の改正案にある罰則導入も同様だ。

 営業時間の短縮などの要請に応じない事業者に対し、緊急事態宣言下では50万円以下、宣言が出される前の「まん延防止等重点措置」の場合は30万円以下の過料を科す罰則についても、金額を引き下げることで合意した。

 雇用を守り、経営を維持するために、営業せざるを得ない事業者は少なくない。額が下がったとはいえ、罰則はさらに追い詰めることにならないか。
 むしろ必要なのは、営業自粛に応じて経営を支える支援策だ。改正案は、行政に経営支援を義務付けたが、制度やルールはあいまいなままだ。これでは事業者には支援の中身が分からず、営業自粛に応じにくいのではないか。

 政府は営業自粛による損失補償を固く拒んでいる。事業者ごとの損失把握が困難な上、一律給付する協力金より、多くの財源が必要になるからだ。

 しかし、事業規模によって損失額が違う以上、実態に即した支援が必要だ。優先して検討すべきは罰則の導入ではなく、事業者への具体的な経営支援策ではないのか。

 今回の改正案が成立しても、新型コロナの感染拡大がすぐに収まるわけではなく、引き続き有効な手だてを検討することが必要だ。政府も与野党も、気を引き締めて国会審議に当たらねばならない。





コロナ対策に罰則/強権的手法に効果は望めぬ(2021年1月29日配信『河北新報』-「社説」)

 罰則を設けることが感染抑止に効果的なのか。政府は新型コロナウイルス対策に強制力を持たせようと、関連法の改正を目指している。

 与野党は感染症法改正案に盛り込まれた刑事罰を削除することで合意した。入院拒否者への「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」と保健所が行う疫学調査を拒んだ場合の「50万円以下の罰金」は行政罰の過料に変更する。

 野党側は「刑事罰は重すぎる」と改正案に反対し、与党が修正に応じた。

 一方、コロナ特別措置法改正案は、知事は時短営業などの要請に応じない事業者に従うよう「命令」できるとし、拒んだ場合は行政罰の過料を科すとの内容。金額は野党の要求で引き下げられたが、罰則規定は残った。

 前科がつく刑事罰は消えたが、制裁を盾に従わせようとする強権的な手法は、人権侵害の懸念が拭えない。禍根を残したと言わざるを得ない。

 感染症法は感染症が発生した際、国や自治体、医療機関、国民が取るべき対応を定める。改正案は当初、知事の入院勧告や保健所の調査を拒めば、刑事罰の罰金や懲役を科すと明記した。

 感染症法は、感染症を人権に配慮しながら抑え込む目的に反し、著しい人権侵害を生んだ。ハンセン病やエイズの患者、元患者、家族に対するいわれなき差別や偏見だ。

 罰則規定は法の理念にもとる。守られるべきは感染者だ。処罰対象者への誹謗(ひぼう)中傷を増長させる危険をはらむ。
 そもそも疑問が多い。入院勧告や調査の拒否がどこで何件あるのか。入院拒否は何人いて、感染源となったのか。改正の根拠が明確でない。

 仕事や子育て、介護に追われ、容易に入院や宿泊療養ができない人が大勢いる。入院拒否に正当な理由があるのかどうかを確認し、手続きを進める業務は誰が担うのか。保健所の負担をさらに重くすることはできまい。

 罰則導入の反作用も懸念される。罰則を恐れ検査を控える人が増えれば、感染の実態把握が進まなくなる。罰則を振りかざす前に、入院や保健所への協力の必要性を理解してもらう努力が重要だ。

 特措法改正案は、緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新設し、時短営業の命令に背いた事業者を過料の対象とした。

 現在は時短要請に応じた事業者に一律の協力金が支給されるが、事業規模に見合わないため、不公平感が顕著だ。その場しのぎではない着実な支援策を打ち出さなければ、事業者の反発は必至だ。

 与野党は改正案を2月初旬に成立させることで足並みをそろえていた。修正協議は当初から「落としどころ」を探ったふしがある。協議は日程ありきで進み、不十分だ。改正案は感染におびえる国民の意識と乖離(かいり)し、逆効果となる恐れがある。



コロナ法改正の審議 不安を拭う更なる修正を(2021年1月29日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス対策の特別措置法と感染症法の改正案について、自民党と立憲民主党が修正内容で合意した。

 焦点は、罰則の扱いだった。盛り込まれていた刑事罰は削除し、行政罰の過料は額を引き下げることになった。しかし、国民の不安を拭うには不十分だ。

 感染症法の政府案には、入院を拒否する患者に、刑事罰である懲役か罰金を科すことが盛り込まれていた。人権尊重を明記した法の理念に反するもので、削除は当然だ。行政罰である50万円以下の過料を科すという。

 だが、政府は入院拒否の実例がどれだけあるのかや、感染拡大との因果関係を説明していない。罰則を設けるのであれば、その根拠を示さなければならない。

 緊急事態宣言中に休業や営業時間短縮の命令に応じない事業者に科す特措法の過料は、50万円以下から30万円以下に下げる。しかし、応じた事業者への財政支援は「必要な措置を効果的に講じる」とするだけで、具体性に欠ける。

 両党は、政府の答弁や付帯決議で十分な支援を担保するよう政府に求めるというが、支援の内容を法案に明記すべきだ。

 宣言前でも強制的な措置を取ることができる「まん延防止等重点措置」が新設される。政府による発令の要件や知事による協力要請の内容は政令で定めるといい、恣意(しい)的な運用への懸念が残る。

 発令の際は政府に国会への報告を求める付帯決議をするというが、それだけでは安易な発令を防ぐには不十分だ。

 今回の改正は、強制力や罰則に頼らない感染症対策からの大きな政策転換になる。社会のあり方に関わる重要な問題だが、政府・与党の対応はずさんさが目立つ。

 厚生労働省の感染症部会では刑事罰に多くの反対意見が出た。それでも刑事罰を導入しようとした理由を政府は説明すべきだ。

 与党幹部2人は宣言下、深夜に東京・銀座のクラブに出入りしていた。これでは、外出自粛など犠牲を強いられている国民の理解を得るのは難しいだろう。

 国会で徹底した議論と修正を行う必要がある。国民が納得し、協力する状況を作らなければ、感染症の封じ込めはおぼつかない。



刑事罰の削除 強権頼みは変わらない(2021年1月29日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 批判すべきは権力をふるって感染症対策を進める政府の姿勢だ。

 自民党と立憲民主党が、感染症法改定案から、入院や疫学調査を拒否した感染者への刑事罰を削除することで合意した。

 いずれも行政罰の過料に変更する。新型コロナウイルス特別措置法の改定案では、新たに規定する営業時間短縮命令に従わない事業者への過料を引き下げる。

 当初案は、入院を拒否した感染者に「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」の刑事罰を科す内容だった。重罰なのに政府は法律改定の根拠となる立法事実を示せていなかった。

 衆院予算委員会では、菅義偉首相は「感染拡大防止策の実効性を高める」とし、全国知事会から「罰則導入の要請」があったことのみを理由として述べた。

 入院や調査を拒んだケースがどれだけあり、どんな問題が生じたのか。具体的なデータは不明だ。田村憲久厚生労働相も予算委で「網羅的には把握していない」と認めているのが実態である。

 刑事罰の削除は当然だ。拙速に改定案を提出した政府は猛省するべきだ。

 ただし、行政罰を残していては改定案の問題は解決しない。

 拒否した事実が不当といえるのか、だれが確認するのか。保健所や医療機関の負担が増え、罰則を恐れた感染者が潜在化する可能性もある。市民同士が監視し合い、行政に通報する「密告社会」になる危険性も否定できない。

 入院を拒否するのは、仕事や介護、育児などさまざまな理由があるだろう。一つ一つの問題に向き合い、安心して入院できる態勢をつくるのが行政の役割だ。

 感染症法は前文で「感染者の患者等の人権を尊重しつつ、良質かつ適切な医療の提供」を求めている。ハンセン病やエイズ(後天性免疫不全症候群)患者に対するいわれのない差別や偏見が生まれ、行政や医療がそれに加担したことが教訓となっている。

 罰則の導入は感染症法の趣旨に反する。刑事罰削除だけで合意した立民党の姿勢も問われる。過料の導入も撤回すべきだ。

 新型コロナ特措法改定案の事業者への過料も同様である。必要なのは時短営業でも経営が継続できる十分な補償を実施することだ。政府は自らの不十分な政策を、罰則の導入で埋めようとしている。

 感染症の対策は国民の理解と協力が不可欠である。「強権」では得られないことを政府は自覚しなければならない。



感染症法改正案 刑事罰削除は妥当な判断(2021年1月29日配信『北国新聞』-「社説」)

 感染症法改正案から、懲役刑や罰金などの刑事罰を削除する方向で与野党が合意したのは、妥当な判断だろう。厳しい罰則を設ければ、感染抑制の実効性が高まる一方で、罰則を恐れて自覚症状などがあっても、検査を受けなかったり、検査結果を隠したりするケースが多発する可能性がある。

 罰則導入が感染者への偏見や差別を助長する懸念もぬぐえない。もともと入院拒否を犯罪行為と見なす法改正には無理があった。懲役・罰金刑ではなく、行政罰の過料とするのは、適切な落とし所だったのではないか。

 新型コロナウイルスの感染拡大で新規感染者が急増し、首都圏や関西圏では早期の入院を希望しても病床不足で自宅療養を強いられる例が増えている。そんな状況下で、入院を拒んだり、病院から逃げ出したりする人がどれほどいるのかという疑問もある。

 厳しい刑事罰を科す前に、収入の減少や、育児、介護ができなくなることを恐れ、簡単には入院できない事情を抱える人々をどう救うかを考えてほしい。

 政府が閣議決定した改正案には、入院拒否者に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」、感染経路を割り出す保健所の疫学調査拒否者に50万円以下の罰金を科す規定が盛り込まれていた。これに対し、野党側は「重すぎる」として撤回を求め、自民党と修正協議を続けていた。

 刑事罰を削除する方向となったのは、自民、立憲民主両党の国対委員長会談の席だった。与野党がコロナ対策で幾度も協議を重ね、合意点を見いだしたのは好ましい変化だ。これからも党派を超えてコロナ禍に立ち向かう姿を国民に見せてほしい。

 緊急事態宣言下で、自民、公明両党の幹部が夜8時以降、銀座のクラブなどを訪れたことに批判が高まっているのは当然だ。国民には厳しく、身内には甘いという印象を持たれるのは、政府与党にとっても不本意だろう。

 国民が法改正に納得し、本気で協力する気にならねば、この危機を乗り越えられない。



コロナ法案修正協議 根本の問題は解消されず(2021年1月29日配信『琉球新報』-「社説」)

 新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正を巡り、自民、立憲民主両党は28日の幹事長会談で、入院拒否者らへの刑事罰を削除することなどで改正法案の修正に合意した。

 立場の弱い人や事業者ばかりを罰則の対象とし、法で威嚇して行政に従わせる構造が今回の法改正の根本的な問題点だ。修正によって問題点は解消されていない。このためコロナ対策としての実効性は大いに疑問である。

 最優先すべきは、全ての人に入院や疫学検査を提供できる検査・医療体制の整備である。緊急事態宣言の前に、国会に報告するだけで広範な権限を知事に与えるなど、国民の人権制約を正当化する法改正は見送るべきだ。

 コロナ特措法には、事業者への営業補償の規定がなく、営業自粛に安心して協力するのが難しいといった問題点があった。その欠陥を補うための改正であれば理解できるが、罰則を設けて強制的に対策に従わせるというのが今回の内容だ。私権の制限という危険性を伴い、罰則の程度を修正して済む話ではない。

 感染者に対して刑罰を設けるのは人権の侵害を招き、感染者に対する差別や偏見を助長する恐れが強かった。刑事罰の削除は当然だ。しかし、修正案は懲役刑を削除するが、罰金に代えて、行政罰である過料を科すことを残した。修正の効果に疑問を覚える。

 そもそも入院拒否の問題よりも、入院したくても受け入れ病床が足りず、自宅で亡くなってしまう事態の方が深刻だ。医療体制を巡る政府の無策を棚上げして罰則強化を急ぐなど後先が逆だ。

 感染者は安全な環境で治療を望むのであり、入院を拒否するのはのっぴきならない事情があるからだ。そうした事情に耳を傾けず罰を科すだけでは、感染を名乗り出ることはできない。感染者を見えなくするだけで、逆効果だ。

 営業時間短縮命令に従わない事業者に科す過料については、当初案から金額を引き下げることで修正合意した。とはいえ、休業できないほど経営的に追い込まれる事業者にいかに感染対策に協力してもらうかという、根本の問題が解消されたわけではない。

 営業補償を設けずに過料を科すことは財産権侵害の恐れがある。憲法29条の3項は「私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」とある。コロナ対策という公共の福祉のために営業の自由を制約するならば、改正特措法に損失への補償も同時に明記しなければ憲法違反になる。

 国民に不自由を強いる緊急事態宣言の発令下に、自民党の松本純国対委員長代理、公明党の遠山清彦幹事長代理が深夜、時短に応じていない銀座のクラブ入店が明らかになった。自らを律することができない政治家に、私権を制限する法改正を審議する資格などない。





コロナ対応の与野党合意を次に生かせ(2021年1月28日配信『日本経済新聞』-「社説」)

 与野党は28日、新型コロナウイルスに対応する感染症法と特別措置法の改正案の修正で合意した。刑事罰の削除と政府による国会報告など重要な論点での歩み寄りを評価したい。国家的課題で今後も建設的な議論と幅広い合意をめざす良い前例にしてほしい。

 修正協議は自民、立憲民主両党の国会対策委員長らが国会内で断続的に行い、その後の幹事長会談で正式に合意した。

 野党は感染症法改正について「懲役刑まで設けるのは到底容認できない」と批判してきた。

 感染者が入院を拒んだ場合の「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」、疫学調査拒否への「50万円以下の罰金」という刑事罰を撤回し、それぞれ行政罰である「50万円以下の過料」、「30万円以下の過料」に改める。

 特措法改正では、営業時間短縮や休業などの命令に従わなかった事業者への過料の上限を引き下げる。新設する「まん延防止等重点措置」に関しては、緊急事態宣言の発令の際に実施している政府の国会報告と同様の運用を付帯決議で担保する。

 感染の抑止に向けて国や自治体の判断の法的根拠を明確にし、一定の強制力をもたせる措置は必要だ。一方で私権の制限には国民に慎重論も根強く、政府・与党が罰則の軽減などを求める野党の要求を受け入れたのは妥当である。

 7年8カ月に及ぶ安倍前政権の下で、与野党の国会論戦は対立ばかりが際だった。政府は安全保障などの重点政策で当初方針にこだわり、野党も明確な対案を示すことなく政権の不祥事などの追及に軸足をおいてきた。

 新型コロナへの対応で、野党各党は2020年秋の臨時国会に独自の法改正案を共同提出した。政府・与党の幹部も野党の主張に耳を傾ける姿勢を示し、審議入りに先立つ政府案の修正と早期の成立に道筋がついた。

 今国会では菅義偉首相が準備した紙を読み上げたり、結論のみを短く答えたりして野党議員から再答弁を求められる場面が目立つ。与党内からも「答弁が簡潔すぎて国民に意図が十分に伝わっていない」との声がある。

 新たな感染症への対応で、多少の試行錯誤が伴うのはやむを得ない。首相や閣僚は何を重視して方針を決め、国民にどう行動してほしいのかをもっと分かりやすく発信していく必要がある。



コロナ病床確保/強制で実効上がるのか(2021年1月28日配信『山陰中央新報』-「論説」)

 人口当たり病床数が主要国で最多の日本は、新型コロナウイルス患者用の病床が逼迫(ひっぱく)し医療崩壊の危機にある。これに対し政府は、国や都道府県知事が病床確保を医療機関へ「勧告」できるようにし、正当な理由なく応じない場合は病院名を公表可能とする感染症法改正案を国会に提出、与野党で修正協議に入った。

 病床確保が進まない背景には日本の医療界特有の構造問題がある。感染症に対応できる人材、規模、設備を持つ公立・公的病院が少なく、中小の民間医療機関が多い現状では法的強制力ですぐに実効が上がるか疑問だ。

 今の危機を乗り切るには、医療界全体が総合力を結集できるよう連携態勢を構築することが優先だ。自治体と地域医療が早急にワンチームになれるよう政府は指導力を発揮してほしい。

 菅義偉首相は「ベッドは数多くあり民間病院に働き掛けている」と言うが、全国にある約90万病床のうち確保できたコロナ用は約2万8千床(約3%)にとどまる。コロナ患者を受け入れ可能な医療機関は公立病院で7割、公的病院では8割なのに対し全医療機関の7割を占める民間は2割なのが響いている。

 小規模な民間病院はコロナ用と一般用病床を隔てづらく、院内感染防止が難しい。専門性がある医師や看護師も少ない。受け入れれば他の病気の受診控えや風評被害で病院経営が揺らぐ上、民間は赤字になっても公的支援を期待しにくい。政府は1床当たり最大1950万円の財政支援で確保を促すが、協力困難な事情が民間病院にはある。

 一方、冬の大流行に備えた病床確保の必要性は早くから指摘されていた。厚生労働省が昨夏示した、ピーク時に全国で約2万7千床という確保目標は既に達成した。ただ昨夏の時点では1日当たりの新規感染者を2788人と想定したが、最近では5千人台の日が続き、入院待機中の死亡が各地で相次ぐ。さらなる病床確保は急務だ。

 だが対策は遅れた。東京都は緊急事態宣言の再発令後、コロナ病床の8割が埋まり、入院先などを調整中が7千人を超える逼迫のピークを迎えて、ようやく都立・公社の3病院を拠点にコロナ患者を集中的に受け入れる方針を表明した。もっと早く決断すべきだった。

 公立の大病院などは実質的にコロナ専門とし、民間病院はコロナ以外の患者に対応する。大病院に入院後、回復期に入り他人にうつす危険性がなくなったコロナ患者の転院も民間で受け入れる-などの役割分担、相互連携の枠組みも必要性が叫ばれ続けたが、最近やっと本格的検討に入った。

 今回の「勧告」導入は、大都市圏の厳しい現状に対応するためだ。協力可能なのにしない民間病院も一部にあり、自治体側は病床確保に苦悩している。だが中小病院への無理な強制力行使は、行政と医療機関が築いた信頼関係を壊しかねない。

 厚労省は地域の「かかりつけ医」を重視する政策を推進してきた。患者に身近な民間のかかりつけ医は、無駄な検査や投薬を減らし、医療の質や経済性を高められる利点がある。民間病院の多さはコロナの大流行で弱点が見えたが、長い目で見ればプラス面も大きい。

 官民連携で危機を克服するとともに、日本の良さを維持しつつ感染症に強い医療を実現する構造改革もしっかり進めたい。



コロナ禍の人権(2021年1月28日配信『佐賀新聞』-「論説」)

多様性を認め合おう

 なかなか収束の気配が見えない新型コロナウイルス。「自粛疲れ」と今後への不安からか、人々の心が乱れ、やり場のない思いを他者にぶつける傾向がさらに強まった気がする。佐賀県内でも学校に感染が広がり、誹謗(ひぼう)中傷が見られた。互いを責め、傷つけ合うことからプラス要素は生まれない。不安な状況はみな同じ。もう一度、「人権」について思いを巡らせたい。

 新型コロナ対策特別措置法と感染症法の改正案が今国会で審議される。気になるのはやはり、「罰則規定」。入院拒否者への刑事罰に加え、営業時間短縮の命令を拒んだ事業者に過料を科すとしている。

 有事の際、一定の権限をトップに与えるのは仕方のないことかもしれないが、罰則など強制力が強すぎるのはどうかと思う。「人権」という根本的な問題をはらむ。

 人権は一般的に「人が自分らしく生きるために必要な条件」と解釈される。思想信条の自由、行動の自由などさまざまな自由が保障されることで、人は「自分らしい生き方」を模索できる。日本の憲法も基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と規定する。

 もちろん、自由には「他者の人権を侵さない」という制約があり、権利と義務はセットでもある。全ての人が「自由」を主張すれば、当然、摩擦が起きるだろう。「個人の自由」と「社会の和」は両立が難しい点も多い。

 ただ「社会の和」という概念も漠然としていて、仮に「社会の大多数の人にとって心地よい状態」ととらえるならば、大多数の人と違う行動をとったり、考えたりする人は「少数者」となり、排除されてしまう。だから、少数者は自分が排除されることを恐れ、自分の思いを殺して多数派に合わせる。それが、生きづらさにつながっているのではないだろうか。

 国内で新型コロナの感染者が初めて確認されてから1年が過ぎた。この間、これまで当たり前と思っていた日常が意外にもろいことを痛感させられた。コロナに立ち向かうには、協力や団結、調和が求められ、一定の制約は甘受しなければならない。ただ、だからといって、協力しない人や和を乱す人を必要以上に責める権利はないだろう。コロナ対策特措法の改正で罰則規定を設けると、理由にかかわらず、「ルール違反者を責めていい」というイメージを子どもたちに与えかねず、いじめや差別を生む恐れさえある。

 最近の事例では、マスク着用を巡るトラブルについて考えさせられた。マスクをしないのはどうかと思うが、「鼻を覆う」「布製より不織布を」といった意見が出て、仮に正しいことであったとしても、社会の大多数になるようでは怖い。コロナ禍で「同調圧力」という言葉が使われ始めたが、突き詰めて考えると、それは多様性を認めない社会といえるのではないだろうか。

 法改正で義務が課せられるのは仕方ないかもしれないが、そこに人権侵害の側面はないのか、国会でも審議を尽くしてほしい。

 「思う」ことは自由だが、それを言葉や行動にするのは慎重であった方がいい。ちょっとした心がけで感情はコントロールできる。厳しい時だからこそ、多様性を認め、互いを高め合う社会を目指したい。(中島義彦)



意味のない行為(2021年1月28日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 帝政ロシアの時代、流刑地に送られた囚人たちの前には、バケツが二つ置かれたという。右のバケツに水がいっぱい張ってあり、それを左の空のバケツに移す。こんどは右のバケツに移して、また左のバケツへ…。この作業が果てしなく続く刑罰である

◆〈これが罪人にもっとも過酷であったのは、それが意味のない行為だったからである〉と哲学者の鷲田清一さんが書いている。個人や店舗への罰則強化を柱とした新型コロナ関連の法改正は、与野党の修正協議が難航している。感染防止の実効性を高めたいとはいえ、病むことは罪ではない。社会的制裁が病を隠し、差別を生んだ歴史を考えれば、罰則に意味があるとは思えない

◆こんなときに与党幹部は高級クラブで深夜まではしご酒。こうした方々に「国民は危機意識を持て」とムチ打たれようとしているわけか。国会で問われた首相は処分を明言した。罰則また罰則。あぁ

◆目、耳、鼻、口、皮膚…人間の感覚器はすべて外部に向けられていて、自分の内側には向いていない。だから、他人には厳しく、自分には甘くなってしまうのだとか

◆昨年末、全国の寺院の前に張られた教えを集めた「輝け!お寺の掲示板大賞」で最高賞に選ばれた言葉を思い返す。〈コロナより怖いのは人間だった〉。いまほど人の知恵が問われている時代はない。





法的強制力 実効上がるか/コロナ病床確保(2021年1月27日配信『東奥日報』-「時論」)

 人口当たり病床数が主要国で最多の日本は、新型コロナウイルス患者用の病床が逼迫(ひっぱく)し医療崩壊の危機にある。これに対し政府は、国や都道府県知事が病床確保を医療機関へ「勧告」できるようにし、正当な理由なく応じない場合は病院名を公表可能とする感染症法改正案を国会に提出、与野党で修正協議に入った。

 病床確保が進まない背景には日本の医療界特有の構造問題がある。感染症に対応できる人材、規模、設備を持つ公立・公的病院が少なく、中小の民間医療機関が多い現状では法的強制力ですぐに実効が上がるか疑問だ。

 今の危機を乗り切るには、医療界全体が総合力を結集できるよう連携態勢を構築することが優先だ。自治体と地域医療が早急にワンチームになれるよう政府はリーダーシップを発揮してほしい。

 菅義偉首相は「ベッドは数多くあり民間病院に働き掛けている」と言うが、全国にある約90万病床のうち確保できたコロナ用は約2万8千床(約3%)にとどまる。コロナ患者を受け入れ可能な医療機関は公立病院で7割、公的病院では8割なのに対し、全医療機関の7割を占める民間は2割なのが響いている。

 小規模な民間病院はコロナ用と一般用病床を隔てづらく、院内感染防止が難しい。専門性がある医師や看護師も少ない。受け入れれば他の病気の受診控えや風評被害で病院経営が揺らぐ上、民間は赤字になっても公的支援を期待しにくい。政府は1床当たり最大1950万円の財政支援で確保を促すが、協力困難な事情が民間病院にはある。

 一方、冬の大流行に備えた病床確保の必要性は早くから指摘されていた。厚生労働省が昨夏示した、ピーク時に全国で約2万7千床という確保目標は既に達成した。ただ昨夏の時点では1日当たりの新規感染者を2788人と想定したが、最近では5千人台の日が続き、入院待機中の死亡が各地で相次ぐ。さらなる病床確保は急務だ。

 だが対策は遅れた。東京都は緊急事態宣言の再発令後、コロナ病床の8割が埋まり、入院先などを調整中が7千人を超える逼迫のピークを迎えて、ようやく都立・公社の3病院を拠点にコロナ患者を集中的に受け入れる方針を表明した。もっと早く決断すべきだった。

 公立の大病院などは実質的にコロナ専門とし、民間病院はコロナ以外の患者に対応する。大病院に入院後、回復期に入り他人にうつす危険性がなくなったコロナ患者の転院も民間で受け入れる-などの役割分担、相互連携の必要性が叫ばれ続けたが、最近やっと本格的検討に入った。

 今回の「勧告」導入は、大都市圏の厳しい現状に対応するためだ。協力可能なのにしない民間病院も一部にあり、自治体側は病床確保に苦悩している。だが中小病院への無理な強制力行使は、行政と医療機関が築いた信頼関係を壊しかねない。

 厚労省は地域の「かかりつけ医」を重視する政策を推進してきた。民間のかかりつけ医は無駄な検査や投薬を減らし、医療の質や経済性を高められる利点がある。民間病院の多さはコロナの大流行で弱点が見えたが、長い目で見ればプラス面も大きい。

 官民連携で危機を克服すると共に、日本の良さを維持しつつ感染症に強い医療を実現する構造改革も進めたい。



感染症法改正案 懲役刑は削除が当然だ(2021年1月27日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染抑制が急がれる中、与野党は新型コロナ特別措置法と感染症法両改正案の修正協議に入った。野党は感染症法改正案に盛り込まれた罰則のうち、入院拒否者への懲役刑は重過ぎると批判。与党は懲役刑の削除を検討する。

 懲役刑という刑事罰の導入は、新型コロナへの恐怖心をあおる懸念がある。その結果、感染者に対する偏見、差別を助長することにつながりかねない。

 政府は罰則により感染拡大の抑制策の実効性を高めるとしてきた。しかし感染の可能性がある人が、差別を恐れて受診を避けることもあり得る。家庭や仕事の事情で入院できない人もいるだろう。必要なのは人権尊重と、それぞれの事情に応じたきめ細やかな支援であり、懲役刑の削除は当然だ。

 感染症法改正案で修正協議の対象となるのは、知事の入院勧告を拒否した感染者への1年以下の懲役か100万円以下の罰金、感染経路を割り出す保健所の行動歴調査を拒否した感染者への50万円以下の罰金―という罰則規定だ。

 専門家らからは、同法改正案の罰則は法の理念に反するとの指摘が相次いでいる。同法はハンセン病やエイズへの差別、偏見への反省に立ち、患者を社会から排除する政策から脱却。感染症予防と患者の人権尊重を目指し制定された。時代に逆行する法改正としてはならない。

 昨春の緊急事態宣言発令時は、知事の休業要請に従わない事業者が問題になった。全国知事会は昨年6月、特措法を改正して罰則を導入するよう提言。安倍前政権は、新型コロナ収束後に検討するとして、法改正を先送りした。菅政権も踏襲した。

 知事会は昨年12月、感染「第3波」を受けて再び特措法改正を提言。営業時間短縮の要請に際しての順守義務や営業停止処分、協力金制度などの必要性を訴えた。政府は感染急拡大に押される形で改正にかじを切ったが、もっと早い時期から慎重に検討するべきだった。罰則には知事の側からも疑問視する声があることは見逃せない。

 新型コロナ感染の拡大に伴い、大都市部を中心に医療提供体制が逼迫(ひっぱく)。入院先や宿泊療養先の調整が追い付かず自宅待機を余儀なくされている人が増え、自宅で亡くなる人も相次ぐ。今重要なのは罰則導入よりも、病床や医療スタッフを確保し、確実に入院できる医療体制を整備することだ。

 特措法改正案には緊急事態宣言の前段階に当たる「まん延防止等重点措置」が盛り込まれた。宣言下、防止措置下で営業時短の命令に応じない事業者に対し、ともに過料を科す内容だ。

 経営破綻を避けるためにやむなく営業を継続する場合もある。命令や過料は私権制限を伴う措置であり、野党は国会への報告義務を課すことで乱用を防ぐことを求めている。与党は柔軟に対応すべきだ。

キャプチャ



新型コロナ・特措法改正/実効性の確保へ議論尽くせ(2021年1月27日配信『福島民友新聞』-「社説」)

 政府が国会に提出した、新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を巡り、質疑と与野党の修正協議が始まった。

 深刻な感染拡大を抑え込むには、国民が法改正に納得し、対策に協力することが不可欠だ。政府、与野党は、感染抑止策の実効性を高められるよう、議論を尽くしてもらいたい。

 特措法改正案では、知事が飲食店などへの休業や営業時間短縮を命令でき、命令を拒んだ事業者には行政罰として過料を設けた。緊急事態宣言下で50万円以下、緊急事態宣言の前段階に当たる、新設の「まん延防止等重点措置」で30万円以下の過料を科す。

 昨年3月に成立した現行の特措法では、緊急事態宣言により、知事は飲食店や遊技場の事業者に施設の使用制限の要請や指示が可能だ。ただ要請に応じない場合にできる措置は事業者名の公表などに限られ、実効性が疑問視された。このため全国知事会は、要請を拒否した事業者への罰則規定を設けることを国に要望していた。

 強制力を持った規制は、私権の制限が伴う。罰則が感染抑止にどれほどの効果があるかを含め、政府は罰則規定の根拠などを丁寧に説明する必要がある。

 現在、11都府県に発令中の緊急事態宣言では、時短要請に応じた飲食店に1日当たり最大6万円の協力金が支給される。しかし事業規模に応じた形ではなく、多くの従業員を雇用している事業者からは不公平との指摘がある。

 菅義偉首相は特措法改正で「規制と罰則、給付金はセットで必要」と主張してきた。罰則を設けて休業や時短を強いるのであれば、十分な補償を講じることは当然だ。

 改正案では、国や自治体が「事業者への財政上の措置を講ずる」と記された。政府はどうすれば不公平感をなくし、全ての事業者に協力してもらえるかを検討し、支援内容を具体的に示すべきだ。

 感染症法改正案には刑事罰を設け、入院を拒否したり入院先から逃げたりすれば、1年以下の懲役か100万円以下の罰金とした。国や知事らが医療機関に感染者受け入れなどの協力を「勧告」できる規定も盛り込んだ。

 入院を強制することで、検査を拒む人が出てくることも考えられる。現状では病床が足りず、多くの人が自宅や宿泊施設での療養を余儀なくされており、病床確保を先に議論すべきだとの指摘もある。

 野党は懲役刑の撤回を求めており、与党は修正協議で削除に応じる構えだ。罰則ありきではない、柔軟な対応が求められる。



コロナ関連法の改正(2021年1月27日配信『福井新聞』-「録説」)

「罰則ありき」で進めるな

 政府が閣議決定した新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を巡る与野党協議が始まり、野党が5項目に関する具体的要求を説明し、与党は持ち帰った。野党がとりわけ、問題視しているのは感染症法改正案の罰則のうち、宿泊施設や自宅療養に応じず入院も拒否した患者に対する1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰を科すことの是非であり、与党も削除する方向で検討を進めるという。

 緊急事態宣言が再発令された11都府県では医療提供体制が逼迫(ひっぱく)し、入院できずに自宅療養を余儀なくされ、症状が悪化しても十分な措置を受けられず、亡くなる人も続出している。そんな中での刑事罰の新設は本末転倒との指摘もある。25日の衆院予算委員会で野党議員は「病床を確保できない政府こそ罰せられるべきだ」などと述べている。

 実効性の点でも疑問が残る。感染者を誰が逮捕し、どこに勾留するのか。思い出されるのは、昨年7月に窃盗罪で逮捕された自称ユーチューバーだ。感染を自覚しながら、旅行して感染を広め、揚げ句に身柄の確保に当たった警官らにも感染させた。改正案がそのまま成立すれば警官は命懸けの任務となりかねない。

 そもそも、政府は事例の集約や分析ができておらず法律の根拠となる「立法事実」が不明確なことなど問題点が多い。介護や育児のため入院などが現実的に困難な人たちも罰則を科すのか。介護や育児の支援強化や入院したくてもできない医療逼迫の解消が先決だ。

 特措法に新設する緊急事態の前段階の「まん延防止等重点措置」も唐突感が否めないが、入院拒否者への罰則などを含め、今月9日に全国知事会が要望した緊急提言に沿った形だ。独自に緊急事態宣言に匹敵する警戒情報などを発してきたが効果的でなかったことを受けての提言だろう。

 政府案の保健所による積極的疫学調査に対する罰則では、患者らが正当な理由なく虚偽答弁したりした場合は50万円以下の罰金を科すとしている。感染が爆発的に拡大している首都圏などでは、クラスター(感染者集団)や感染経路を追えないケースが頻発している。一方、福井県など感染が急拡大に至っていない地方では患者の情報が拡大抑止には欠かせない。

 ただ、「罰則ありき」では差別や偏見を助長しかねず、協力を得られなくなる恐れもある。営業時間の短縮に応じない事業者や入院などの協力要請に応じない医療施設もしかり。法施行に当たっては全国知事会が求める課題を含めた指針やガイドラインの提示は欠かせない。何より、手厚い財政措置など支援策の強化こそが問われている。



コロナ病床確保(2021年1月27日配信『佐賀新聞』-「論戦」)

強制で実効上がるの

 人口当たり病床数が主要国で最多の日本は、新型コロナウイルス患者用の病床が逼迫(ひっぱく)し医療崩壊の危機にある。これに対し政府は、国や都道府県知事が病床確保を医療機関へ「勧告」できるようにし、正当な理由なく応じない場合は病院名を公表可能とする感染症法改正案を国会に提出、与野党で修正協議に入った。

 病床確保が進まない背景には日本の医療界特有の構造問題がある。感染症に対応できる人材、規模、設備を持つ公立・公的病院が少なく、中小の民間医療機関が多い現状では法的強制力ですぐに実効が上がるか疑問だ。

 今の危機を乗り切るには、医療界全体が総合力を結集できるよう連携態勢を構築することが優先だ。自治体と地域医療が早急にワンチームになれるよう政府はリーダーシップを発揮してほしい。

 菅義偉首相は「ベッドは数多くあり民間病院に働き掛けている」と言うが、全国にある約90万病床のうち確保できたコロナ用は約2万8千床(約3%)にとどまる。コロナ患者を受け入れ可能な医療機関は公立病院で7割、公的病院では8割なのに対し、全医療機関の7割を占める民間は2割なのが響いている。

 小規模な民間病院はコロナ用と一般用病床を隔てづらく、院内感染防止が難しい。専門性がある医師や看護師も少ない。受け入れれば他の病気の受診控えや風評被害で病院経営が揺らぐ上、民間は赤字になっても公的支援を期待しにくい。政府は1床当たり最大1950万円の財政支援で確保を促すが、協力困難な事情が民間病院にはある。

 一方、冬の大流行に備えた病床確保の必要性は早くから指摘されていた。厚生労働省が昨夏示した、ピーク時に全国で約2万7千床という確保目標は既に達成した。ただ昨夏の時点では1日当たりの新規感染者を2788人と想定したが、最近では5千人台の日が続き、入院待機中の死亡が各地で相次ぐ。さらなる病床確保は急務だ。

 だが対策は遅れた。東京都は緊急事態宣言の再発令後、コロナ病床の8割が埋まり、入院先などを調整中が7千人を超える逼迫のピークを迎えて、ようやく都立・公社の3病院を拠点にコロナ患者を集中的に受け入れる方針を表明した。もっと早く決断すべきだった。

 公立の大病院などは実質的にコロナ専門とし、民間病院はコロナ以外の患者に対応する。大病院に入院後、回復期に入り他人にうつす危険性がなくなったコロナ患者の転院も民間で受け入れる―などの役割分担、相互連携の枠組みも必要性が叫ばれ続けたが、最近やっと本格的検討に入った。

 今回の「勧告」導入は、大都市圏の厳しい現状に対応するためだ。協力可能なのにしない民間病院も一部にあり、自治体側は病床確保に苦悩している。だが中小病院への無理な強制力行使は、行政と医療機関が築いた信頼関係を壊しかねない。

 厚労省は地域の「かかりつけ医」を重視する政策を推進してきた。患者に身近な民間のかかりつけ医は、無駄な検査や投薬を減らし、医療の質や経済性を高められる利点がある。民間病院の多さはコロナの大流行で弱点が見えたが、長い目で見ればプラス面も大きい。

 官民連携で危機を克服すると共に、日本の良さを維持しつつ感染症に強い医療を実現する構造改革もしっかり進めたい。(共同通信・古口健二)



コロナ関連法改正案 まだ懸念は払拭できない(2021年1月27日配信『琉球新報』-「社説」)

 私権の制限を盛り込んだ法改正案であり、国民の不安を払拭(ふっしょく)するような丁寧な説明が求められるはずだ。しかし、政府にその自覚があるとは思えない。これでは国民の懸念は膨らむばかりではないか。

 新型コロナ対策特措法と感染症法の改正案の審議が国会で始まった。法案にある事業者や患者に対する懲罰や過料が審議の焦点だ。

 緊急事態宣言を発し、事業者に営業時間の短縮を求めることは、新型コロナウイルス感染症を抑止する上で効果があろう。しかし、過料などの強制力がコロナ禍収束にどれほどの効果があるのか不明確だ。患者への懲役刑は人権上許されない。

 25日の衆院予算委員会で、感染症法改正案に盛り込まれた入院拒否者への懲役刑導入に関し、菅義偉首相は「感染者が医療機関から無断で抜け出した事案や、罰則を求める全国知事会の緊急提言を踏まえ、実効性を高めるために罰則を設けたい」と答弁した。

 そうであるならば感染者が医療機関を抜け出し、他人に害を及ぼすような事例がどれほどあるのか審議の場で明確に示すべきだ。

 与党は入院拒否者に対する懲役刑を削除する方向で検討に入った。営業時間短縮の命令を拒んだ事業者への過料についても減額を視野に入れるという。当然であろう。入院したくても入院できす自宅待機を強いられている患者や経営難にあえぐ事業者の立場を考えれば、懲役刑や過大な過料を課すべきでない。

 他にも気になることがある。新型コロナ対策特措法に盛り込む「まん延防止等重点措置」の扱いである。緊急事態宣言の前段階に当たるまん延防止等重点措置に関して、野党は指定要件の曖昧さや国会への事前報告義務がないことを批判している。

 仮に野党が求める国会への事前報告が認められたとしても、公平で誰もが納得できる運用ができるのか疑問が残る。事業者に営業時間短縮を求め、それに従わなければ過料を科すという罰則規定がある以上、国会における慎重な審議を踏まえた上でまん延防止等重点措置を発動すべきだ。

 与野党は26日に始まった両法改正案の修正協議は、入院拒否者への罰則規定や営業時間短縮命令を拒んだ事業者への過料など5項目について議題とする。コロナ禍を防ぐための法改正案ではあるが可決成立を急いでは禍根を残す。コロナ禍にあえぐ国民や事業者の苦境を踏まえ、修正には柔軟に対処してほしい。

 ワクチン接種で政府がマイナンバーの活用を検討していることも気がかりだ。河野太郎行政改革担当相は「接種の業務そのものにマイナンバーカードは必要ない」と答弁している。ではなぜ活用にこだわるのか。マイナンバーによる国民監視や情報流出が懸念される中では拙速だ。慎重に対応すべきだ。





「スピークイージー」。古いギャング映画ファンならご存じだろ…(2021年1月25日配信『東京新聞』-「筆洗」)

 「スピークイージー」。古いギャング映画ファンならご存じだろう。1920年代の米国。悪名高き禁酒法の時代に無許可で営業していたもぐりの酒場をそう呼んだ

▼この場合のイージーとは「落ち着いて」「あわてないで」というニュアンスか。大声で話せない場所なので「スピークイージー」。おおっぴらにはできない酒場である

▼コロナ対策の必要性は重々認めるとして、そのやり方に失敗した禁酒法を連想してしまう。政府が閣議決定した新型コロナウイルス特別措置法改正案である。飲食店などの事業者に対し、知事が休業や営業時間の短縮を命令でき、応じない場合は罰則を科す

▼感染対策として営業を厳しく規制したいのは分からないでもないが、本当に効果はあるのか。禁酒法の失敗でいえば、国が力ずくで禁止したところで、人は隠れて酒を飲み、売ったのである。スピークイージーは大繁盛し、密造酒でマフィアは大もうけした

▼罰則を科しても、残念ながら隠れて営業を続ける店は出てくる。生活のため、営業をやめるわけにはいかぬという事情があるのならば罰則よりも休業や時短営業に対する協力金を手厚くした方がまだ営業規制に応じやすかろう

▼今週から与野党の修正協議が始まる。危機の中では荒っぽい手法が認められやすいものだ。「スピークイージー」。「落ち着いて」議論していただきたい。



[コロナ関連法改正]罰則より正当な補償を(2021年1月25日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 罰則に偏った改正で、感染拡大に歯止めをかけられるのか。

 新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案が国会に提出された。

 どちらの改正案も罰則の導入が柱で、強権的に抑え込もうとする問題含みの内容だ。

 特措法には行政罰である過料が新設される。緊急事態宣言時に知事による休業や営業時間短縮の命令に従わなかった事業者に対し、50万円以下の過料を科せる、とした。

 緊急事態宣言の前段階で集中的な対策を実施するための「まん延防止等重点措置」も創設される。緊急事態を宣言していない地域でも、知事に命令権限を認め、違反した場合は30万円以下の過料を設けるという。ただ、「前段階」の措置についてこれまで議論がなく唐突感が否めない。

 どのような状況が「前段階」に当たるのかも曖昧だ。具体的要件は「政令」で定めるとされ、行政の裁量に委ねられている。国会への報告義務がないことにも疑問を感じざるを得ない。

 一方、罰則とセットと言いながら、時短などに応じた事業者への支援は不十分だ。国や自治体は必要な財政上の措置を「効果的に講ずるものとする」と明確さに欠ける。損失額に応じた補償は義務付けていない。これでは長引くコロナ禍で苦境にあえぐ事業者の理解を得るのは困難だ。

 共同通信社の全国電話世論調査では、罰則導入に48・7%が「反対」と答え、賛成を上回っている。政府は重く受け止めてほしい。

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 さらに問題なのは、刑事罰である罰金や懲役を盛り込んだ感染症法の改正案である。

 入院勧告を拒んだり入院先から逃亡したりした場合、1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科す。正当な理由なく保健所の行動歴調査を拒否したときも50万円以下の罰金という。行政罰とは異なり前科となる。

 ハンセン病家族訴訟の弁護団は「患者の人権を不当に侵害し憲法違反」と改正案に反対する声明を出した。罰則を伴う強制は「市民の恐怖や不安・差別をより一層助長することにもつながる」と懸念した。指摘はもっともだ。

 罰則を恐れて、自覚症状などがあっても検査を受けなかったり検査結果を隠したりすれば、感染抑止はかえって困難になり逆効果となる。

 そもそも入院を希望していても病床が足りず、自宅療養を強いられている感染者が大勢いる。入院を拒んだり病院から逃げたりした人が何人いるのかも示さず、罰則ありきでは受け入れられない。

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 政府のコロナ対応は「後手」続きだと批判されてきた。罰則導入の法改正によって慌てて取り繕おうとしているように見える。

 政府は2月初旬のスピード成立を目指しているという。コロナ対策は急務だが、私権制限の強化は慎重でなければならない。ワクチン接種の準備もあるのに、違反しているかどうか確認する作業を自治体が担うのも現実的でない。

 改正案は見直すべきだ。与野党の協議で徹底的に議論を深めてほしい。





コロナ関連法の改正案 失政覆い隠す罰則偏重だ(2021年1月24日配信『毎日新聞』-「社説」)


 新型コロナウイルス対策で、政府は感染封じ込めに強制的な手段を使えるよう方針転換しようとしている。

 感染症法とコロナ対策の特別措置法の改正案が閣議決定された。罰則の導入が柱で、政府・与党は2月上旬の成立を目指している。

 菅義偉政権のコロナ対応は後手に回ってきた。改正案からは、罰則に頼って事態の打開を図ろうとする政府の思惑が透けて見える。

 感染症法改正案では、宿泊施設や自宅での療養に応じず入院措置も拒否した患者に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。

 感染症法は患者への配慮を定めている。指示に従わなければ罰するというのは、人権尊重の基本理念に反するのではないか。特に身柄を拘束する懲役は行き過ぎだ。削除が必要だ。

 政府は療養せずに出歩くケースが問題だというが、具体例がどの程度あり、感染拡大にどう影響しているのかは不明なままだ。

 罰則導入が感染者への差別につながりかねないとの懸念も残っている。検査を避ける人が増えて、感染状況がつかみにくくなれば逆効果だ。

 特措法改正案では、知事による営業時間短縮などの命令に応じない事業者への罰則を盛り込んだ。

 緊急事態宣言の発令後は、50万円以下の過料を科せる。宣言前であっても、「まん延防止等重点措置」として30万円以下の過料を設けた。

 にもかかわらず、重点措置実施の要件や事業者に命じる対策はあいまいで、政令や知事の権限に委ねられている。国会への報告も定めがなく、チェックする体制が十分でない。

 感染症対策は政府が国民の理解と協力を得ることが欠かせない。

 強制力を持つ罰則を導入しようとするのであれば、政府は根拠を示して必要性を説明しなければならない。罰則の抑制効果とデメリットを比較考量することも求められる。違反を確認するため、自治体が人手を割けるかどうかも不透明だ。

 法案の成立を急ぎ、感染対策の失敗を覆い隠すようなやり方は論外だ。拙速を避け丁寧に審議することが、国会の責務だ。





コロナ法改正 罰則の必要性あるのか(2021年1月23日配信『北海道新聞』-「社説」)

 政府がきのう、新型コロナウイルス対策を巡り、罰則の強化を柱とする新型コロナ特別措置法や感染症法などの改正案を閣議決定し、国会に提出した。

 憲法は国民の幅広い自由を保障する。強制力を伴う私権制限は、慎重の上にも慎重を期すべきだ。

 政府・与党は来月上旬の成立を目指すが、あまりに拙速である。

 改正案では、知事による営業時間短縮や休業の命令に違反した事業者や、入院を拒否した感染者らへの罰則を新たに設けた。

 一方、要請・命令に応じた事業者への損失補償については明記を見送り、支援措置を講ずるとの内容にとどめた。これでは事業者の不安は解消されまい。

 支援の枠組みに関する法整備は昨年実現できたはずなのに、感染が急拡大してから動きだした。

 その上、行政側の責任は曖昧にしたまま、罰則を盾に、政府や自治体の命令に従わせるようなやり方は国民の理解を得られまい。

 後手批判を受けたこれまでの対策の検証も乏しい。力を入れるべき点がずれている。

 来週始まる野党との協議を通じ、修正することが欠かせない。

 そもそも罰則が感染抑止に資するのかはっきりしない。政府は休業要請や入院を拒否した実数を把握しておらず、罰則導入の科学的な根拠を示していないからだ。

 加えて公平な法の執行には課題も多い。飲食店は東京都内だけでも8万店を超す。命令違反の実態調査は極めて難しい。

 改正案では、緊急事態宣言の前段階でも知事が休業などの命令ができるようにした。しかし発令要件は明確でなく、恣意(しい)的に運用される懸念は拭えない。

 罰則の中でとりわけ問題なのは、時短命令違反などには行政罰の過料を科すのに対し、入院拒否者らには懲役刑を導入する点だ。

 コロナ感染者の中には、入院による仕事への影響や、周囲からの差別・偏見を心配する人もいる。

 個々の事情や不安に配慮せず、対策の強制力を強めるばかりでは、体調が悪くても検査を受けなかったり、健康状態を隠したりする人を増やすことにもなろう。

 今は、重症化しても入院できず死亡する人が相次いでいるのが実情だ。医療体制の整備が先である。

 かつて強制収容された結核やハンセン病の患者は、著しい人権侵害を受けた。その反省に立ち、感染症法には患者が置かれた状況を深く認識することが明記された。

 過ちを繰り返してはならない。



「いやだいやだよ…(2021年1月23日配信『毎日新聞』-「余録」)

 「いやだいやだよ じゅんさはいやだ じゅんさコレラの先走り チョイトチョイト」。1882(明治15)年のコレラの流行時にはやった俗謡だ。子どもたちが歌いながら、列をなして練り歩いたという

▲「コレラの先走り」とは感染者の「避病院」への移送を巡査が先導したためだ。強制隔離などの防疫に強権を振るった巡査は、不安におびえる民衆の反発の的となり、各地で衝突が続発した(奥武則(おく・たけのり)著「感染症と民衆」平凡社新書)

▲献身的な巡査の殉(じゅん)職(しょく)譚(たん)も伝えられているが、何しろ強制隔離先の避病院がひどかった。ろくな治療も受けられずに死を待つだけの場所として民衆に恐れられたのである。文明開化のダークサイドを浮き彫りにしたコレラの流行だった

▲さて医療が逼迫(ひっぱく)する今日のコロナ禍では入院したくても受け入れられず、自宅療養中に亡くなる例が相次ぐ。ちょっと驚いたのは、そんなさなかに入院を拒否する感染者に懲役刑を含む罰則を科す法改正案が閣議決定されたのである

▲政府は同時に営業制限に応じない業者に過料を科す法改正案も決めている。罰則の必要な局面はあろうが、事は重大な権利の制限だ。本来なら緊急事態宣言下であわてて決めるのでなく、平時に十分論議を尽くしておくべき話だった

▲感染症への不安が他人への攻撃性に転化するのは明治のコレラ騒動でもあった人の悲しいさがである。罰則の適否は今後国会で検討されるが、いつの時代も政治や社会の成熟のほどを映し出す感染症の流行だ。





入院拒否への刑事罰は厳しすぎないか(2021年1月22日配信『日本経済新聞』―「社説」)

政府は22日、新型コロナウイルス感染症に対応する特別措置法や感染症法などの改正案を閣議決定した。今国会で2月上旬の可決、成立をめざす。入院拒否に懲役刑を科せるなど厳しい罰則がある。人権上の懸念も出ており、修正を求める声に耳を傾けるべきだ。

特措法改正案は緊急事態宣言の前に首相が都道府県単位で発令できる「まん延防止等重点措置」の新設を明記した。対象地域の知事は時短営業の命令を出せる。

従わない飲食店への行政罰は宣言前で30万円以下、宣言下で50万円以下の過料とした。政府の支援策も明記しており、罰則を伴うのは理にかなう。

感染症法の改正案では、医療機関に患者の受け入れを勧告する権限を厚生労働相や知事に与える。応じなければ公表するとしたのは医療体制の改善に役立つだろう。

一方、知事の宿泊療養などの要請に従わず入院勧告や強制入院も拒否した感染者は、刑事罰の対象となる。1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科す。全国知事会の提言などを受けたものだが、行き過ぎとの声がある。

現行法は宿泊療養を想定せず、入院拒否に対する罰則もない。感染者が宿泊療養中に無断外出したり、入院中にタクシーで帰宅したりする例が相次いだことなどが、罰則のきっかけとなった。

日本では1897年公布の伝染病法の下で強制隔離が実施され、人権侵害が問題となった。1999年に、ようやく患者への適切な医療と人権尊重を明記した感染症法に置き換わった経緯がある。

懲役刑を伴う強制入院は感染症対策の大きな転換を意味する。伝染病法下の隔離や差別を思い起こさせ、慎重論が根強い。

刑事罰が本当に感染の拡大防止に役立つかも疑問だ。新型コロナは自身の感染に気づかない軽症・無症状者が広げる場合も多いとされる。罰則が厳しくても、そうした人の外出は止められない。

そもそも、現状は患者を受け入れる病床が不足している。宿泊療養者を診る医療者も足りず、自宅待機せざるを得ない人が多い。故意にウイルスを拡散し、公共の危険をもたらすのとは異なる。

このままでは検査を受けたがらない人や多少体調が悪くても隠す人が増え、感染対策上、逆効果になる恐れがある。政府・与党は野党などの意見も聞き、罰則規定の修正をためらうべきではない。





コロナ対策で刑事罰 強制より協力促す策を(2021年1月21日配信『中国新聞』-「社説」)

 政府はあす、新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を閣議決定する。2月初旬には成立させる考えだ。

 歯止めのかからぬ感染拡大を食い止める狙いに異存はあるまい。早期改正は全国知事会が早くから要望していた。しかしスケジュール優先で、拙速な議論のまま成立させてはならない。

 というのも、私権の制限強化が目立つからだ。政府対応がずっと後手後手に回り、国民から信頼されていないからといって、強権的手法に頼るのは筋違いも甚だしい。

 看過できないのは、感染症法改正案への刑事罰導入である。感染者が入院を拒んだり感染経路をたどるための調査を拒否したりしたら刑事罰を科す。入院拒否は「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」で、保健所の疫学調査を拒んだら「50万円以下の罰金」という。

 懲役まで必要なのか。生活のため働かざるを得ない人が検査を避けたり、感染を隠したりしかねない。結果的に感染防止に逆行することが懸念される。

 入院を拒んだ感染者がどれほどいたのか。保健所の聞き取りを拒否して調査にどんな支障があったのか。実際のデータを示して議論すべきである。

 菅義偉首相は先週の会見で調査拒否などの件数を問われても「たくさんあったという報告を受けた」と答えただけだった。これでは、なぜ刑事罰が必要なのか、国民を十分納得させることはできないだろう。

 改正案では、感染者の受け入れを医療機関に勧告できるよう知事や厚生労働相の権限を強化する。従わない場合は、病院名などを公表できるという。

 感染者の受け入れは、国公立の病院に集中しており、民間病院の受け入れを増やすのが狙いのようだ。ただ罰則を設けて強制するより、積極的に協力したいと思うよう環境を整える施策こそが求められる。

 特措法改正案に盛り込んだ「アメとムチ」にも疑問がある。緊急事態宣言に基づき、知事は休業や営業時間短縮を事業者に命令でき、応じた場合の財政支援を国や地方自治体に義務付けている。

 代わりに、拒否した事業者には行政罰の過料を科す。金額は緊急事態宣言下で50万円以下。また、知事による立ち入り検査を可能とする代わりに、拒否した場合も過料を科す、という。

 これで狙い通りの効果が上がるだろうか。なぜ事業者は休業や時短に応じられないのか、理由を調べて対策を練ることが近道ではないか。

 行政の裁量の余地が大きすぎることも問題だ。例えば緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を設けるが、どういう場合が当てはまるか曖昧だ。罰則を科すのに、国会によるチェックや、不服申し立てといった救済手続きがないのもバランスを著しく欠く。改正案の抜本的見直しが急がれる。

 国民の自由と権利に踏み込むのであれば、憲法との整合性を慎重に見定めなければならない。政府の甘い見通しや判断の遅れのツケを押し付け、制限を強めることは許されない。

 政府はまず、今までの対策がなぜうまく行かなかったのかを分析し、改善を進めるべきだ。そうしてこそ、国民の幅広い協力を得る一歩になる。 



「ナッジ」(2021年1月21日配信『南日本新聞』-「南風録」)

 床に足跡の印があれば、大方の人があまり深く考えずそこに立つだろう。コンビニやスーパーのレジ前なら自然とソーシャルディスタンス(社会的距離)が保たれ、新型コロナウイルス感染予防になる。

 こうした人々の動きをより良い方向へ導く「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の手法が注目されている。「軽く肘でつつく」といった意味の英語で、当事者の自由を尊重し、強制はしない。最適な選択をするよう、そっと背中を押すのが肝らしい。

 そんなさり気ないやり方では不十分と考えたか。政府は、感染者の入院拒否などに罰則を設ける法改正案を開会中の国会に提出する構えだ。菅義偉首相は先週、感染抑止にあらゆる手段を尽くすとし、国民に「徹底して行動を見直して」と呼び掛けた。

 感染収束の兆しが一向に見えない中で強い対策を打ち出し、効果を高める狙いに違いない。ただ、病床が足りずに入院できない感染者がいる状況で、入院を強制する法改正を急ぐのはちぐはぐな印象が拭えない。

 そもそも、感染予防と経済の両立にこだわった政府の対応が後手に回ったとの批判は根強い。危機に陥り、慌てて極端な措置に走ったのなら危うい。私権の制限には慎重な議論が不可欠だ。

 好ましい行動を思わず選びたくなるよう工夫するのがナッジの基本である。罰則を科して従わせる手法とどちらが効果的か、考えてほしい。





入院拒否に罰則 対策の優先順位が違う(2021年1月20日配信『東京新聞』-「社説」)

 罰則を設ければ感染拡大を抑えられるのか、疑問は膨らむ。政府は感染症法を改正し、入院勧告に従わない感染者らに罰則を導入する方針だという。強権的な手法は人権侵害の懸念が拭えない。

 後手に回る菅政権の対応のまずさをごまかし、新型コロナウイルス感染症拡大による混乱の責任を国民に押し付けるつもりなのか。

 感染症法は、感染症が発生した際、国や自治体、医療機関、国民が取るべき対応を定めている。行政に許される規制を定め、人権に配慮しながら感染症を抑え込むための法律である。

 新型コロナの感染拡大を受け、政府が今国会への提出を予定する改正案の柱が、罰則の新設だ。

 入院勧告を拒否した感染者や、保健所の疫学調査を拒んだ人に対して罰則を設ける。罰金や懲役などの刑事罰を想定している。
 しかし、懸念と疑問が湧く。

 かつて感染症に直面した社会はハンセン病やエイズの患者、元患者へのいわれなき差別・偏見など著しい人権侵害を生んだ。感染症法が患者らの人権尊重を明記しているのも、その反省からだ。

 行政の指示に従わないからといって、刑事罰を科す発想は、人権を軽視し、法の理念に反する。

 厚生労働省の審議会では、改正案の罰則創設に異論が相次いだ。厚労省は「おおむね了承された」としているが、議論が不十分だと言わざるを得ない。

 無症状で検査を受けない人からの感染は問題となっているが、入院を拒否した人がどれだけ感染を広げているのか、罰則に感染拡大を防ぐ効果がどれほどあるのか、厚労省は詳細なデータを示していない。行政罰の過料にしなかった理由も明らかではない。

 仕事や子育て、介護などの事情で、入院や宿泊療養ができない人もいるだろう。誰がどんな場合に罰則の対象となるのか、判断の基準づくりも容易ではない。

 罰則を恐れて検査や受診を控えることになれば、逆に感染を広げかねない。入院や保健所への協力がなぜ必要かを十分に理解してもらう努力こそ欠かせない。

 新型コロナ特措法も自粛要請に従わない事業者に過料などの罰則を設ける。自粛で雇用が失われ、生活苦に陥る状況の改善こそ先決ではないか。確実な経営支援策がなければ納得は得られまい。

 「未知の感染症」への対応は、国民の協力が最大の武器となるはずだ。一足飛びの罰則導入は、対策の優先順位を間違えている。



コロナ法改正案 罰則導入の根拠が曖昧だ(2021年1月20日配信『西日本新聞』-「社説」)

 国民個人の権利より行政の権限の強化に重点を置き、罰則の網を広げることで事態の収束を図る-。新型コロナウイルス対策で政府がまとめた特別措置法と感染症法の改正案は要約すれば、こんな内容である。

 法的なバランスや実効性に照らし、果たして妥当なのか。疑問の念が拭えない。政府には重ねて慎重な姿勢を求めたい。

 特措法の改正案は、緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置」の新設が柱だ。該当地域の都道府県知事はこの段階から飲食店などに対して休業や時短営業の要請、命令、立ち入り検査が可能になる。

 これらに応じない場合の罰則は重点措置下で30万円以下、緊急事態宣言下で50万円以下の過料(行政罰)としている。

 感染症法に関しては、入院の拒否や入院先からの逃走に懲役1年以下または100万円以下の罰金、感染経路の調査を拒んだ場合は50万円以下の罰金を科す規定などを新たに設ける。

 自治体による機動的な対策や疫学調査の促進は重要だ。しかし、私権を制限する強権的手法が法的に許容される根拠(立法事実)は曖昧で、危うさを指摘する声も広がる。知事による協力要請や入院勧告を拒む事例が過去にどれだけあり、感染拡大にどう影響したのか。政府は具体的データを示さず、詳細な調査も実施していないからだ。

 休業や時短営業に伴う協力金について改正案は「自治体の施策支援のため財政上の措置を講じる」としている。これも「支援」の義務化にとどまり、十分な補償を規定したものとは言い難い。

 飲食店などの事業者が倒産を避けるため営業にこだわるのは当然であり、休業や時短の強要は財産権の侵害に当たる場合もある。各地でコロナ患者の病床確保が困難になる中、入院の拒否に刑事罰を科すことも実態とずれた施策ではないか。

 感染症法は前文で、ハンセン病の隔離政策などが差別や偏見を生んだ教訓を生かし、人権尊重に努めるよう明記している。日本医学会連合はこれを踏まえ「歴史的に見ても強制的措置はデメリットが大きい」との声明を発表した。傾聴すべき指摘だろう。各種世論調査でも罰則を疑問視する声は少なくない。

 現状は国民が広くコロナ対策に協力し、感染しても安心して医療が受けられるよう図ることが先決である。要所は休業などへの効果的な補償と十分な病床確保である。罰則は改正案から切り離して冷静に議論を進める選択もあってしかるべきだ。

 菅義偉政権がここで独善に陥り、拙速に走るならば、国民の信頼は遠のく一方だろう。





北風と太陽(2021年1月19日配信『高知新聞』-「小社会」)

 「北風と太陽」はイソップ物語でも最も有名な話の一つだろう。旅人の外とうを脱がせようと、冷たい嵐を吹きつけた北風は失敗。太陽はじわりと暖め、旅人自らの意志で脱がせる。

 強制するより、じっくり説得した方が理想的という教訓だ。この寓話(ぐうわ)、ロシア語通訳でもあった作家の故米原万里さんが1990年代、ロシアになぞらえてユニークな解釈を書いている。

 旧ソ連の言論統制はあからさまな北風型。反体制派は北風の意志に逆らうことで「己の意志を明確に自覚した」。崩壊後は一応の太陽型になったが、なお問題があった。世論誘導が巧妙になり、人々は太陽の意志を「自分自身の意志と錯覚して外とうと帽子を脱いでいる」(「真昼の星空」)。

 政府の新型コロナ対策が私権を制限する「北風」になってきた。入院を拒んだ感染者らへの罰則導入。ただ、病床が足りずに入院できない感染者もいる。すべての患者を収容できる態勢を整える方が先では、と疑問がわく。

 営業時間短縮などの命令に従わない事業者にも過料を科すという。長引くコロナ禍に苦しい経営を強いられている事業者は多い。太陽のように困窮者を暖めるべき補償とのバランスはどうなるのか。

 通常国会が始まった。国民的な協力を得るには、説得力ある本来の「太陽型」が望ましいはず。焦りも見える首相は「旅人」である国民が納得して行動するメッセージを出せるだろうか。





コロナ特措法改正 私権制限は最小限にせよ(2021年1月18日配信『茨城新聞』-「論説」)

 政府は新型コロナウイルス特別措置法に基づく休業、時短要請に強制力を持たせるため罰則と財政支援を盛り込む改正案を通常国会に提出する。だが国民の財産権、生存権を保障する憲法上、たとえ危機時でも私権制限は最小限にするべきだ。

 そもそも特措法改正は、最初の緊急事態宣言が発令された昨春の第1波当時から全国知事会や与野党が要請していた。過去にないほど第3波が深刻化してから慌てて本格検討したのは、あまりに遅く大局観を欠いた対応と言わざるを得ない。

 現行法は要請に応じない事業者の店舗名公表や行政処分に当たる休業指示はできるが、罰則はない。全国知事会は宣言発令中の昨年4月、休業要請に応じない事業者に罰則規定を設ける対策強化を要望。大阪府のパチンコ店など一部で店名を公表しても営業を続けるケースがあり、実効性に疑問の声が出たためだ。同時に、休業要請に応じた事業者には国の責任での損失補償を求めたが、政府は当時「特措法に規定がない」と拒否。このため「知事ができるのは事実上お願いに近い」(吉村洋文大阪府知事)と罰則と補償の法制化が必要との声が高まった。

 しかし「事態収束後、特措法がより良い仕組みとなるよう検討する」とした安倍晋三前首相に続き菅義偉首相も腰が重かった。規制を強めれば経済再生が遠のく上、国は休業補償で財政支出が一層かさむ。それを懸念する政府は私権制限を「必要最小限とする」とした現行法規定を盾に先送りを続けた。罰則の是非はおくとしても、政府が財政支援に後ろ向きだったのは現場で奮闘する自治体や事業者に不誠実だ。その菅首相は年末の仕事納め直前に方向転換する。「給付金と罰則をセットにすれば実効性が上がる」として特措法改正案の国会提出、早期成立を表明。背景には観光支援事業「Go To トラベル」停止判断の遅れ、感染者が急増する中での内閣支持率急落があったのは間違いない。

 安倍前首相の「桜を見る会」問題再燃、吉川貴盛元農相の現金受領疑惑などもあり、冒頭から野党の追及激化が予想される国会を乗り切る「緩衝材」として特措法改正に飛びついた側面も強い。首相は方向転換するなら、従来の姿勢を自己検証し反省点を国民の前で説明した上でするべきだ。罰則とは本来、反社会的な犯罪行為をした悪意の人に科すものだ。家族や従業員の生活のため、あるいは経営破綻を避けようと、やむを得ず休業要請に応じられない人の「生きる権利」を抑制する罰則はできれば避けたい。行政罰である過料にとどめる政府案は妥当だ。

 政府は感染者が入院勧告を拒否した場合に刑事罰を科す感染症法改正も検討している。この罰則はさらに問題がある。家族の介護や育児のため入院治療が現実的に困難な人も多い。その人たちに罰則で強制するのか。介護、育児の支援強化や入院したくてもできない医療逼迫(ひっぱく)の解消が先決だ。

 民主国家の政治制度は「性善説」に立つべきではない。長い歴史の中では善意の政権ばかりとは限らない。「公共の福祉」を盾に政府が私権制限を強化できる前例が重なれば、将来、悪意の政権による権力乱用に道を開きかねない。戦前戦中の苦い経験を踏まえれば、基本的人権には幾重にも神経質になるべきだ。



コロナ対策の厳罰化 ハンセン病問題を教訓(2021年1月18日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が対策の実効性を高めるためとして、にわかに関連法の厳罰化を進めようとしている。

 今日召集される通常国会に、ともに罰則を盛り込んだ新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を提出する予定だ。感染症法の改正では、これまでも刑事罰の対象だった危険な病原体をみだりに拡散させ公共に危険を及ぼした場合など以外にも、感染者が入院勧告や保健所の調査に従わなかった場合などに、懲役刑や罰金刑を科す案が浮上している。

 感染症法はその基本理念で、患者らの人権の尊重を掲げている。その背景となったのが、強制隔離政策によって患者らが多大な人権侵害を受け、偏見差別を深刻化させる結果となったハンセン病問題の歴史に対する反省だった。今回の改正は、そうした教訓に照らしても妥当性があるのか。冷静に考える必要がある。

 「らい予防法」以上

 あらかじめ断っておきたいが、ハンセン病は、らい菌による慢性疾患で、感染力は弱く致死率もごく低い。急性の新型コロナウイルス感染症に単純に重ねることはできない。だが現在は容易に完治するハンセン病も、当初は有効な治療法がなく、病気への社会不安が強かった点では共通している。

 ハンセン病の強制隔離政策がエスカレートした一因には、医療自体が隔離され、隔離先の国立療養所長ら一握りの専門家によって政策が左右されたことがある。

 1951年、強制隔離政策を規定した「らい予防法」の改正を検討する国会で、療養所長たちは「手錠でもはめてから、捕まえて強制的に入れればいい」などと証言。これを受け、既に特効薬が導入されていたにもかかわらず、強制収容の規定は強化された。

 ただ、改正後の法律でも、入所を拒んだ人に対し、懲役刑まで科すような規定はなかった。そうした点においては、今回の感染症法改正案は「らい予防法」以上の厳罰化とも捉えられる。

 医学会連合が反対

 このような法改正の内容については、「らい予防法」とは対照的に、多くの専門家から反対の声が上がっている。

 日本医学会連合は緊急声明を出し、「厳罰を恐れるあまり、検査結果を隠すなどかえって感染コントロールが困難になることが想定される」と指摘。さらに「罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を引き起こすことにつながる」とした上で、「偏見・差別を抑止する対策を伴わずに、感染者個人に責任を負わせることは受け入れがたい」と訴えている。

 13日時点で、新型コロナの自宅療養者は全国で3万人を超えた。入院を望む人たちにも十分な受け皿がないのに、入院拒否の厳罰化を進めるのは矛盾していないか。

 政府は今回の感染症法改正で、病床確保のため、医療機関への協力要請を「勧告」に強める方針だが、泥縄的対応だろう。これもまた、感染抑止のための社会防衛策として隔離を強化しながら受け皿の療養所は収容数増加を優先し、医療環境は貧困だったハンセン病政策の過ちの歴史を想起させる。

 正しく恐れるため


 感染症は、抑止と人権のバランスをとるためにも、正しく恐れることが必要だとされる。そのためにも重要なのが、行政から国民に適切な情報を提供して、政策に対する納得と理解を得るリスクコミュニケーションである。

 ハンセン病では、強制隔離政策を進めるために、行政が国民に対して病気への恐怖を一方的にあおり続け、長く是正することなく放置した。

 新型コロナの場合はどうか。最初の緊急事態宣言の解除後は、収束前に「Go To」キャンペーンという抑止とは正反対の政策を実施。感染症法の位置付けでも新型コロナ感染症の危険度分類を緩めることが検討されていた。それが感染拡大に対する対応遅れへの批判が高まったとたん、ワクチン接種も視野に入ったこの時期に厳罰化を持ち出した。国民はその振幅の大きさに振り回されるばかりで、納得と理解を示しているとは思えない。

 政府は厳罰化について、全国知事会からの要請を理由の一つとしているが、知事会は刑事罰まで望んでいるのか。かつて各自治体が「無らい県運動」というハンセン病患者の強制収容を競った歴史も踏まえての要請なのか問いたい。

 国会も、ハンセン病政策の立法措置で過ちを犯した過去を胸に刻み、慎重に審議すべきだ。その審議において、これまで述べた多くの疑念が解消されない限り、法改正による厳罰化、特に刑事罰の対象拡大には賛同しがたい。





コロナで罰則導入(2021年1月17日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)


強権行使は感染抑止の妨げだ

 菅義偉政権が、新型コロナウイルス感染症対策で行政が出す勧告や命令に国民や事業者が従わない場合に罰則を科す方針を打ち出しました。18日召集の通常国会に感染症法・検疫法、新型インフルエンザ特別措置法の改定案を提出し規定を盛り込むことにしています。無為無策で感染拡大を招いたのは菅政権です。罰則を振りかざして国民に強要するやり方は言語道断です。強権行使は感染抑止の妨げにしかなりません。罰則導入は撤回すべきです。

分断を助長する法改定

 感染症法・検疫法の改定では、宿泊療養、自宅療養の要請に応じない陽性者に入院を勧告し、従わない人に懲役または罰金の刑事罰を科すといいます。しかし、今問題になっているのは、陽性判定を受けても入院できない人が相次いでいることです。宿泊療養施設も不足しています。自宅で死亡する人もいます。入院先や必要な施設の確保こそ政府の役目です。

 感染経路の調査に協力を拒否した場合にも刑事罰を科すとしています。いつどこで誰と会ったかはプライバシーにかかわります。個人情報の保護や差別の禁止など安心して調査に応じられる仕組みを政府が整えるべきです。罰則で脅しつければ、調査を行う保健所と対象者の信頼関係がなくなり、感染自体を隠す人が増えるのは目に見えています。刑事罰は役に立たないばかりか有害です。

 感染症法は国の責務として「感染症の患者等の人権を尊重しなければならない」と明記しています。ハンセン病やエイズの患者が差別を受けた歴史への反省からです。罰則導入は同法の趣旨に真っ向から反しています。日本医学会連合は緊急声明で「罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を惹起(じゃっき)する」とし、国民の協力を著しく妨げる恐れを指摘しました。真剣に受け止めるべき警告です。

 同法の改定では、国や都道府県が医療機関にコロナ患者を受け入れる病床の確保を勧告し、応じない場合、機関名を公表できるようにします。事実上の制裁です。コロナ患者の受け入れは医療機関に多大な負担を強いています。それ以外の病院もコロナ以外の患者を受け入れて地域の医療を支えています。菅政権は、医療機関の減収補填(ほてん)をかたくなに拒む態度こそ改めなければなりません。

 特措法の改定では、緊急事態宣言のもとで営業時間の短縮要請などに応じない事業者に行政罰である過料を科します。緊急事態宣言の前段階として「予防的措置」を新設し、この段階から過料を可能にします。

政府の支援は「努力」だけ

 事業者に対する国の支援については努力規定を設けるだけです。中小・小規模業者は緊急事態宣言のもとで補償なしに時短を余儀なくされています。政府による直接支援は1回だけの持続化給付金と家賃支援給付金、今回は1日最大6万円の協力金にすぎません。要請に応じた業者は事業継続の危機にひんしています。補償を拒み、従わなければ罰則―これで積極的に協力できるわけがありません。

 今求められるのは国民の連帯です。罰則導入など政府がすることではありません。感染拡大の責任を国民に押し付けるのではなく、政府自身が本来の役割を果たさなければ感染は抑えられません。





特措法改正案 罰則は感染抑止につながるか(2021年1月16日配『読売新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑える上で、飲食店に対する罰則は不可欠と言えるのか。導入の是非は、冷静に議論すべきである。

 政府は通常国会に、新型インフルエンザ対策特別措置法改正案を提出する方針だ。野党に協力を求め、早期成立を目指している。

 感染者が急増し、医療は逼迫ひっぱくしている。政府の対応は後手に回り、効果的な対策も限られている。政府としては、より強い対策を打ち出すことで、感染抑止に取り組む姿勢を強調したいのだろう。

 改正案の柱は罰則導入である。知事が事業者に対し、休業や営業時間短縮を命令できるようにし、応じない場合は過料を科す。協力した事業者には、財政支援を講じることも明記するという。

 現行法では、事業者の休業は自主的な協力が前提で、強制力はない。罰則の導入は、対策の実効性を高める狙いがあるのだろう。

 だが、私権制限を強めることには、慎重な検討が必要だ。罰則が感染対策につながるという合理的な根拠があるのか。政府は丁寧に説明せねばならない。

 罰則を含めた法改正を要望してきたのは、全国知事会である。

 現場で指揮を執る知事は強い権限を求めているのだろうが、飲食店の数は多く、罰則を公正に適用するのは容易ではない。政府と自治体が連携し、感染症対策への信頼感を高め、事業者の理解を得ることが先決ではないか。

 政府は、時短要請に応じた飲食店向けの協力金として、1日最大6万円を支給する考えだ。

 事業存続や従業員の雇用維持のため、要請に応じられないという事業者もあろう。政府は、適正な給付水準を詰めてもらいたい。

 政府は、感染症法を改正し、入院勧告に応じなかったり、入院先から抜け出したりした感染者に対し、懲役を含む刑事罰を定めることを検討している。

 罰則を設けて患者を隔離するのは、国民の差別感情を呼び起こしかねないという懸念がある。差別を恐れて受診せず、感染が分かっても隠すような人が出れば、対策としては逆効果だ。

 入院を強制すると言っても、医療機関や宿泊施設に空きがなく、自宅療養を余儀なくされる人が増えているのが実情である。政府や自治体は、病床確保や療養者への支援拡充を急ぐほうが大事だ。

 感染状況が悪化する中では、私権制限もやむを得ないとの判断に傾きがちだが、行き過ぎた法改正とならぬよう留意してほしい。



コロナ対策で罰則 私権の制限 慎重な議論が必要だ(2021年1月16日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 政府は新型コロナウイルス感染対策で、新型コロナ特別措置法と感染症法を改正し、行政の措置に強制力を持たせるよう罰則規定を盛り込む方針だ。18日召集の通常国会に両改正案を提出し、早期成立を目指す。

 現行の特措法では、事業者を対象とした感染拡大防止策に強制力がない。法改正で営業時間短縮などに応じない事業者に過料を科す。感染症法改正では、入院を拒否した感染者らへの刑事罰を検討している。

 罰則の導入は対策の実効性を担保するのが狙いだ。しかし、憲法上の財産権などを侵害する恐れがある。権利制限を必要最小限にするとの特措法の趣旨などを踏まえても、私権の制限には慎重であるべきだ。国会では拙速を避け、十分に議論することが求められる。

 政府はもともと特措法改正は感染状況が落ち着いてから取り組む考えで、昨秋の臨時国会では法案提出を見送った。だが、感染者急増で緊急事態宣言の再発令に追い込まれたことで、焦って急ごしらえで法改正しようとしている感が否めない。方針転換の理由や、罰則が必要な具体的根拠を説明すべきだ。

 現行法では都道府県知事による事業者への要請が基本で、応じない場合の措置も事業者名の公表にとどまる。事業者への補償規定もない。法改正で、事業者への財政支援と罰則をセットにして対策の効果を高めるという。緊急事態宣言発令の前段階に「予防的措置」を新設。予防的措置下、宣言下ともに、知事が要請に応じない事業者に「命令」でき、拒めば行政罰の過料を科すとした。

 要請に協力したくても、家族や従業員の生活のため、やむを得ず営業する事業者もいる。それでも罰則を科すのが妥当なのかが問われる。生活が保障されれば安心して協力できる。罰則導入より、時短営業などに伴う補償の法制化や支援策の充実を急ぐべきだろう。

 感染症法改正では、入院勧告を拒否した感染者に対し、刑事罰を科す方針だ。疫学調査を拒否したり、虚偽の内容を答えたりした感染者にも刑事罰を想定している。

 政府は現在、無症状や軽症の人には自宅やホテルでの療養を求めている。ただ、法的根拠がなく無断外出も起きている。療養に応じない場合、入院を勧告する仕組みという。だが、育児や介護といった家庭の事情で入院が難しい人もいるだろう。日本医学会連合が「罰則を伴う強制は恐怖や不安を引き起こし、感染症対策に不可欠な国民の協力を妨げる恐れがある」との声明を出すなど、反対意見が出ている。政府は重く受け止め、慎重に検討すべきだ。

 国内で感染が拡大し医療体制が危機に陥っているのは、政府の対応が後手後手に回っているためだ。事業者や国民につけを押しつけることなく、明確な戦略を持って感染拡大の抑止に全力を挙げる必要がある。





[コロナ罰則規定] 私権制限丁寧な議論を(2021年1月15日配信『南日本新聞』-「社説」)

 政府は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、感染症法と新型コロナ特別措置法の両改正案を週明けに始まる通常国会に提出する。

 感染症法には刑事罰の懲役刑、特措法には財政支援と行政罰の過料を盛り込む方針だ。罰則を伴うことで対策に実効性を持たせる狙いがある。

 だが、国民の財産権、生存権を保障する憲法上の観点から、私権制限は最小にとどめるべきである。丁寧な説明と審議を求めたい。

 感染症法改正案は、入院を拒否した感染者に対し1年以下の懲役または100万円以下の罰金を規定する方針だ。疫学調査を拒否したり、虚偽の内容を答えたりした感染者についても、6月以下の懲役または50万円以下の罰金を想定している。

 特措法改正案も、営業時間短縮などの要請に従わない事業者への罰則導入が議論の中心だ。緊急事態宣言下で50万円以下、宣言の前段階として新設する「予防的措置」では30万円以下の過料を科す方向で調整を進めるという。

 現行法では要請に応じない事業者の店舗名公表や行政処分に当たる休業指示はできるが、罰則はない。全国知事会は最初の緊急事態宣言が発令されていた昨年4月、休業要請に応じない事業者に罰則規定を設ける対策強化を要望した。実効性に疑問の声が出たためだ。

 同時に、休業要請に応じた事業者には国の責任での損失補償を求めたが、政府は当時「特措法に規定がない」と拒否。このため「知事ができるのは事実上お願いに近い」(吉村洋文大阪府知事)と罰則と補償の法制化が必要との声が高まった。

 ただ、入院を拒否する人の中には、育児や介護のため自宅を離れられない人がいるだろう。家族や従業員の生活のため、やむを得ず休業要請に応じられない人の「生きる権利」も守らなければならない。

 そういった人たちの生活を保障する財政支援や政策を罰則より優先し充実させていくべきではないか。

 政府が私権制限につながる法改正を急ぐ背景には、感染拡大を止められない焦りがある。「第3波」が深刻化してから慌てて本格検討したのは、あまりに大局観を欠いた対応と言わざるを得ない。

 菅義偉首相は首都圏1都3県に続き、福岡県など7府県にも緊急事態宣言を追加発令した。政府の対応を上回るスピードで感染が広がっているとはいえ、罰則の導入には私権制限とのバランスなど慎重な論議が欠かせない。

 「公共の福祉」を盾に、政府が私権制限を強化できる前例を重ねることで将来、悪意の政権による権力の乱用を招くことはないか。そんな視点も大事にしたい。





特措法改正案 強制より協力を基本に(2021年1月14日配信『秋田魁新報聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が首都圏の4都県に続き、大阪など7府県に発令された。深刻な感染拡大が続く中、政府はコロナ特措法改正案を通常国会に提出することになる。宣言再発令後に改正を行うのは菅政権にとって痛恨の極みといえよう。

 改正案は「罰則」と「支援」をセットに、特措法に基づく休業・時短要請に実効性を持たせるのが柱だ。概要によると要請に応じない事業者には知事が「命令」でき、拒めば行政罰の「過料」を科せられるとしている。強制力をもって私権制限できる改正案である。国会での審議には慎重さが求められる。

 感染拡大を食い止めるためとはいえ、休業や時短を受け入れるのは店舗などを経営する事業者側にとって死活問題だ。罰則の導入による「強制」に頼るのではなく、十分な補償によって「協力」を得る道を基本とすることが肝要ではないか。

 そもそも罰則規定の導入を含む特措法改正は、昨春の第1波の際に全国知事会から要望があった。休業・時短要請に応じない事業者があり、店名を公表しても営業が継続されたケースがあったためだ。

 休業・時短に協力した事業者に対しては自治体から「協力金」が支払われたが、金額がばらついた。そのため不公平との指摘もあった。知事会が改正を求めたのは当然だ。

 知事会の要望に当時の安倍政権は「事態収束後に検討」として改正には着手せず、それに続く菅政権も腰が重かった。昨秋の臨時国会へ法案を提案することなく、野党が改正案を提出して国会の延長を求めたにもかかわらず国会を閉じた。

 改正への動きは「第3波」が深刻化した昨年12月下旬になってようやく浮上した。消極的だった菅政権が改正を急がなくてはならないまでに追い詰められたようにも映る。

 緊急事態宣言発令の前段階として「予防的措置」を新設することも打ち出された。首相権限で迅速な対策を目指す狙いだという。しかしかえって混乱が生じる懸念はないか。まだ緊急事態までに至っていないというメッセージにどれほどの効果があるのか理解に苦しむ。必要な時に決然と宣言を発令しなければ危機感は伝わらない。

 政府は感染者が入院勧告を拒否した場合、刑事罰を科す感染症法改正案も検討している。実効性を追求して人権をおろそかにすることは許されない。この点は特に丁寧な議論が必要だ。

 特措法の改正に限らず、医療提供体制などが十分強化されてこなかったのが悔やまれる。しかし今は直面する危機を乗り越えるため、あらゆる対策を総動員して感染拡大を抑制するのが政権の責務だ。特措法改正もその対策の一翼を担うとすれば、知事らの声にもしっかり耳を傾けた上、与野党による迅速な国会審議を求めたい。



緊急宣言11都府県に 政治の意志示す時だ(2021年1月14日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 政府は新型コロナウイルスの緊急事態宣言を栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県に再発令した。発令地域は首都圏4都県と合わせ計11都府県となり、都市部中心に関東から九州までの広域に拡大した。菅義偉首相は首都圏に再発令する際、大阪などは感染者が減少傾向にあると評価していた。しかし、1週間もたたずに対象拡大に追い込まれた。見通しが甘かったと言わざるを得ない。ほかにも発令要請を検討中の県があり、全国的に広がる可能性もある。発令期間を1カ月弱の2月7日までにそろえたのも対策の「小出し」にならないか。

 若者らを中心に「行動変容」が進まず感染が収束しないのは、首相はじめ政府の政策、発言のメッセージが弱く、国民が危機感を共有できていないためだ。ウイルスが活性化する真冬の第3波は、これまでの経験則をはるかに超えている。事ここに至っては、経済活動を一時止めてでも感染拡大を抑え込むという政治の意志を示す段階だ。

 首相は正月休み明け時点では、宣言の大阪などへの対象拡大に否定的だった。年末に飲食店へのさらなる営業時間短縮要請を見送った首都圏の感染者数が「深刻」な水準と指摘する一方、「時短要請をした大阪は効果が出ている」と持ち上げていた。飲食店への対策さえ打てば成果が上がるとの短絡的な判断だった。ところが直後から大阪の1日の新規感染者は過去最多を連日更新。医療体制が逼迫(ひっぱく)し、当初慎重だった吉村洋文大阪府知事が発令要請に方針転換。大村秀章愛知県知事も年明けの感染急増を受け、政府に再発令が必要だとの認識を伝えていた。

 事態の急変に即応できていれば首都圏と同時の発令ができたのではないか。この判断の遅れは感染拡大を一層深刻化させかねない。政府は自治体との連携に穴がないか、改めて点検してほしい。

 首相が、2月7日までに成果が出なかった場合の対応を問われ「仮定のことは考えない」と述べたのも大いに疑問だ。国民にはそれぞれ生活設計があり、企業には事業計画がある。1カ月後に期間延長があるか否かの見通しは死活問題だ。飲食店中心の対策のみでは2月末にも東京の感染者は現状と同水準のままだとの専門家の試算もある。先々まで「仮定」して次の手を構想し、国民に説明責任を果たしながら協力を求めていくのは、政治が当然果たすべき義務であると強調したい。

 首相は昨年末、変異種がまん延する英国からの入国者を「1日1、2人だ」と述べた。実際には12月に1日約150人だ。これは異常事態に際し「たいしたことない」と考えてしまう「正常性バイアス」ではないか。「絶対に防ぐ」と繰り返してきた「爆発的感染」も今や主要な大都市圏で現実のものとなった。

 人の移動や接触を抑えきれなかった年末年始休みから2週間が過ぎる1月半ばには、さらに感染者数が膨らむ可能性も指摘される。政府の楽観的観測は「眉唾」だと国民はとうに気づいている。

首相は正常性バイアスを排し「最悪の想定」も開示しながら、それを防ぐため今国民が何をすべきかを理を尽くして語るべき時だ。そして対策の「逐次投入」で様子を見ては追加を繰り返す悪循環から脱し、飲食店以外にも対策の総動員を再検討すべきではないか。





私権の制限は最小限に/新型コロナ特措法改正(2021年1月13日配信『東奥日報』-「時論」・『佐賀新聞』-「論説」)

 政府は新型コロナウイルス特別措置法に基づく休業、時短要請に強制力を持たせるため罰則と財政支援を盛り込む改正案を通常国会に提出する。だが国民の財産権、生存権を保障する憲法上、たとえ危機時でも私権の制限は最小限にするべきだ。

 そもそも特措法改正は、最初の緊急事態宣言が発令された昨春の第1波当時から全国知事会や与野党が要請していた。過去にないほど第3波が深刻化してから慌てて本格検討したのは、あまりに遅く大局観を欠いた対応と言わざるを得ない。

 現行法は要請に応じない事業者の店舗名公表や行政処分に当たる休業指示はできるが罰則はない。全国知事会は宣言発令中の昨年4月、休業要請に応じない事業者に罰則規定を設ける対策強化を要望。大阪府のパチンコ店など一部で店名を公表しても営業を続けるケースがあり、実効性に疑問の声が出たためだ。

 同時に、休業要請に応じた事業者には国の責任での損失補償を求めたが、政府は当時「特措法に規定がない」と拒否。このため「知事ができるのは事実上お願いに近い」(吉村洋文大阪府知事)と罰則と補償の法制化が必要との声が高まった。

 しかし「事態収束後、特措法がより良い仕組みとなるよう検討する」とした安倍晋三前首相に続き菅義偉首相も腰が重かった。規制を強めれば経済再生が遠のく上、国は休業補償で財政支出が一層かさむ。それを懸念する政府は私権の制限を「必要最小限とする」とした現行法規定を盾に先送りを続けた。罰則の是非はおくとしても、政府が財政支援に後ろ向きだったのは現場で奮闘する自治体や事業者に不誠実だ。

 菅首相は年末の仕事納め直前に方向転換する。「給付金と罰則をセットにすれば実効性が上がる」として特措法改正案の国会提出、早期成立を表明。背景には観光支援事業「Go To トラベル」停止判断の遅れ、感染者が急増する中での内閣支持率急落があったのは間違いない。

 安倍前首相の「桜を見る会」問題再燃、吉川貴盛元農相の現金受領疑惑などもあり、野党の追及激化が予想される国会を乗り切る「緩衝材」として特措法改正に飛びついた側面も強い。首相は方向転換するなら従来の姿勢を自己検証し反省点を国民の前で説明した上でするべきだ。

 罰則は反社会的な犯罪行為をした悪意の人に科すもの。家族や従業員の生活のため、あるいは経営破綻を避けようと、やむを得ず休業要請に応じられない人の「生きる権利」を抑制する罰則はできれば避けたい。行政罰である過料にとどめる政府案は妥当だ。

 政府は感染者が入院勧告を拒否した場合に刑事罰を科す感染症法改正も検討している。この罰則はさらに問題がある。家族の介護や育児のため入院治療が困難な人も多い。その人たちに罰則で強制するのか。介護、育児の支援強化や入院したくてもできない医療逼迫(ひっぱく)の解消が先決だ。

 民主国家の政治制度は「性善説」に立つべきではない。長い歴史の中では善意の政権ばかりとは限らない。「公共の福祉」を盾に政府が私権の制限を強化できる前例が重なれば、将来、悪意の政権による権力乱用に道を開きかねない。戦前戦中の苦い経験を踏まえれば、基本的人権には幾重にも神経質になるべきだ。



コロナ対策と罰則 不安にあおられぬ議論を(2021年1月13日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス感染症対策で、政府が罰則の導入を検討している。18日召集の通常国会に関連法の改正案を提出する。

 入院勧告や保健所の調査に応じない人に、感染症法を改正して罰金を科すことを検討している。営業時間の短縮要請などに協力しない事業者には、コロナ対策の特措法を改正し過料を設ける方針だ。

 罰則は私権の制限に関わる問題だ。人権を尊重し、制限を必要最小限にすることが欠かせない。不安にあおられることなく冷静に議論すべきだ。

 感染症法では、患者が出歩いて感染を広げないよう入院を勧告できる。だが、病床の逼迫(ひっぱく)で宿泊や自宅療養をしている人が、無断で外出する例がある。

 この場合は入院を勧告し、応じなければ100万円以下の罰金を科す方向だという。感染拡大防止の実効性を高めるのが狙いだ。

 ただ、こうした例が対策に差し障るほど多いかは分かっていない。政府は実態を分析し、具体的に説明すべきだ。

 罰則導入は感染者への差別助長につながりかねない。体調が悪くても受診を控えるケースも想定される。家庭の事情で入院が難しい人もいる。しゃくし定規な対応は避ける必要がある。

 事業者への過料を検討するのは、営業時間短縮などの要請に応じない店が増えているためだ。

 だが、現行法でも要請より強い「指示」を出すことや店名公表が可能だ。まずはこうした対策を尽くし、その次の段階で罰則を考えるべきだ。

 協力を得にくいのは、事業者が自粛による経済的な打撃を恐れているからだろう。「協力金制度」を拡充する方が、罰則より効果を上げられるのではないか。

 感染拡大で不安が高まる中で罰則の議論をすると、どうしてもそれを強める方向に傾きがちだ。罰則を設けたとしても、感染が収束した段階で検証し、見直す必要がある。

 首都圏1都3県を対象に発令された緊急事態宣言は、大阪府など関西3府県にも拡大される。

 これまで、政府や自治体の対策には遅れが目立った。そのツケを事業者や国民に押しつけるような罰則の導入であってはならない。
コロナと店名公表 私刑誘発の姑息な悪手だ(2021年1月10日配信『産経新聞』-「主張」)

 新型コロナウイルスの感染抑制を目指し、政府は緊急事態宣言を発令した。難敵に立ち向かうためには国民が一丸となる必要があり、協力は惜しまない。

 そのためにも政府や自治体のトップには、政策に疑念を持たれることがないよう求めたい。

 一例を挙げれば、時短要請に応じない飲食店の店名公表の問題がある。

 根拠法の新型インフルエンザ等対策特別措置法による施設名の公表対象は、学校やデパート、ホテル、パチンコ店などに限定されていた。このため公表対象に飲食店を含めるよう、臨時閣議で政令を改正した。

 そもそも特措法に罰則規定はなく、公表の趣旨は感染防止のためその施設に行かないよう周知するためのものである。

 だが加藤勝信官房長官は政令改正の趣旨を「感染リスクの軽減をより実効的なものにするため」と説明し、東京都の小池百合子知事は「店舗名公表を検討せざるを得なくなることがないようにまずは協力いただきたい」と述べた。

 実効力とは公表による懲罰の代用であり、私刑の可能性で脅しているようなものだろう。

 本来は、特措法改正で補償や罰則規定を設けるのが筋である。

 政府は昨年来、法改正の必要性を認めながら「議論は感染の収束後」との姿勢を崩さず、機を逸し続けてきた。その不作為を政令改正による店名公表で埋めようというなら、姑息(こそく)に過ぎる。国民に権利制限や義務を課すことができるのは国会で成立した法律だけだ。政令にその効力はない。

 緊急事態宣言の発令に期待するのは、国民が危機感を共有するための強いメッセージである。時短の要請に応じない店名の公表は、私刑の容認や奨励と受け取られかねない。これが密告や「自粛警察」の横行を呼び、国民を分断させるような事態を招いては、感染収束への道などほど遠い。

 昨年4月の宣言発令時には休業指示に従わないとして一部のパチンコ店の店名が公表された。名前が公表されたパチンコ店には多くの客が集まり、「宣伝になっただけだ」との批判もあった。同様のケースは飲食店でもあり得る。

 政府・与党は罰則による強制力を付した特措法の改正を急ぎ、店名公表で店舗を従わせるような悪手は取り下げるべきだ。



コロナ禍と罰則 まず失政認め責任果たせ(2021年1月13日配信『西日本新聞』-「社説」)

 政府の対策は明らかに後手に回っている。事態は収束に向かうどころか深刻の度合いを深めている。責任を国民に転嫁し、私権を制限する法改正に走るのなら、本末転倒ではないか。

 新型コロナウイルスに対応した特別措置法のことだ。

 政府は、自治体が飲食店などに休業や時短営業の協力要請を行った場合の補償と、要請に応じない際の罰則をセットで設ける改正案作りを進めている。併せて、感染者が入院勧告を拒否すれば刑事罰を科す感染症法の改正も検討している。

 休業や時短に伴う補償を法に明記し、国の責任で行うことに異論はない。私たちはかねてその必要性を強く訴えてきた。自治体の財源は限られ、財政事情も地域ごとに異なる。このため自治体が協力要請に及び腰になったり、要請に伴う協力金の額や対象業種の範囲にばらつきが生じたりしているからだ。

 政府は昨年11月、コロナ対策の臨時交付金の中に「協力要請推進枠」を設けた。ただ活用には国との協議が必要で、自治体による機動的対応が可能なわけではない。こうした面も含め、協力要請に伴う補償の在り方を見直す法改正は急ぐべきだ。

 問題は罰則だ。特措法やこれに基づく政府の基本的対処方針は国民の権利制限を必要最小限にとどめる、としている。感染症法にも人権の尊重が明記してある。罰則導入にはあくまで慎重であるべきだ。野党の立憲民主党などは「罰則よりまずは十分な補償を」と訴えている。それがあれば多くの場合、協力を拒む理由がなくなるからだ。

 そもそも、要請への協力や入院の拒否が深刻と言えるほど多いわけではない。現下の感染拡大は、政府が一連のGoTo事業継続にこだわったことや補償規定の不備を放置してきた点が主な要因との見方が多い。

 共同通信の直近の世論調査では、菅義偉内閣の支持率が続落し、不支持が支持を初めて上回った。今回の緊急事態再宣言を「遅過ぎた」とみる人は79%、政府のコロナ対策を「評価しない」という人は68%に上った。

 菅首相は「専門家の意見」をコロナ対策の根拠としてきた。しかし旅行や飲食を喚起する事業の危うさと、医療体制の逼迫(ひっぱく)への懸念は早い段階から日本医師会などが示していた。それらを軽視した印象は否めない。

 特措法改正に当たり、政府は自らの責任を棚上げせず、正面から認めるべきだ。国会でも、それを踏まえた議論が必要だ。私たち国民が感染防止に引き続き協力することは当然として、何よりも今、問われているのは政府への信頼である。首相はそのことを肝に銘じるべきだ。





コロナに刑事罰 人権を侵害しかねない(2021年1月10日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 罰則の導入で政策の不備を覆い隠すつもりなのか。

 政府が新型コロナウイルスの感染拡大対策として、営業時間の短縮に応じない店舗に加え、療養や入院に従わない感染者に対しても、罰則を導入することを検討している。

 感染症法と新型コロナ特別措置法の改正案を、18日召集の通常国会に提出する方針という。

 営業の自由や私権の制限を伴う感染症の対策は、国民の理解を得て進めるべきだ。対策が浸透しない理由を検証し、補償やケアに重点を置くべきではないか。罰則に頼るのでは監視社会を招き、分断も加速しかねない。慎重に検討するべきである。

 政府が新たに検討を始めた罰則は、入院勧告を拒否した感染者が対象だ。罰則は刑事罰とし、感染症法を改正して、100万円以下の罰金を科す案を軸に検討しているとみられる。刑事罰を科すことは社会防衛に傾きすぎて、人権侵害につながりかねない。

 感染症法は知事が感染者を強制的に「入院させることができる」と規定する。現行法に罰則はなく、入院を拒否したり、入院先を抜け出したりしても罰則はない。

 入院拒否の理由は家族の問題など、さまざまあるとされる。安心して入院できるよう行政がケアする体制がつくられているのか。検証することが必要ではないか。

 軽症・無症状者が宿泊先や自宅療養中に抜け出した場合や、どこで誰から感染したかを調べる積極的疫学調査の拒否にも、刑事罰を設ける案が出ている。

 1人で自宅療養中の感染者に、食事などサポートができているのか。行動歴の調査ではプライバシーへの配慮が問題になろう。

 緊急事態宣言の発令後に、自治体の休業や営業時間の短縮要請に応じない事業者に対する罰則の導入も検討を続けている。

 現在は特措法45条に基づく要請や指示であれば、従わない場合に店名公表される。罰則がないため実効性が低いと指摘されてきた。

 営業の自由を制限するのなら、経営を継続できるだけの補償が欠かせない。政府は中小事業者に店舗ごとに1日6万円の協力金を支給する。額は店舗の規模に関係なく一律だ。十分な額とはいえないだろう。

 補償や支援が不十分なまま罰則を導入するのは政府の責任放棄である。前文で患者の人権尊重を求める感染症法や、国民の権利制限を「必要最小限」と定める特措法の趣旨を逸脱しかねない。



泥縄(2021年1月6日配信『高知新聞』-「小社会」)

 古典落語の演目に「本膳」がある。庄屋の祝い事に村の衆が招かれたが、誰も本膳の作法や礼式を知らない。手習いの師匠に教えてくれと相談すると、「今晩にはとても間に合わない」。宴席で皆に所作をまねさせるという話。

 最初は順調だったが、師匠が不覚にも里芋を箸でつかみ損ねると、皆も芋を転がし始める。鼻先に飯粒がつくと皆もつける。師匠がいいかげんにしろと隣の男の脇腹を肘で突くと、それも次々に伝わり、隣がいない最後の男が「お師匠さま、この肘はどこへやる?」。

 ことが起きてから慌てて準備しても間に合わない。そんな例えはいくつかある。のどが渇いてから井戸を掘る「渇に臨みて井をうがつ」。野党による政府のコロナ対策批判は「泥棒を捕らえて縄をなう」。つまり、泥縄だ。

 政府が今月始まる通常国会に、新型コロナ特措法の改正案を提出するという。特措法は知事による休業要請の強制力や、補償規定がないことが課題に挙がっていた。全国知事会が改正を求め始めたのは、昨春ごろだったか。

 もちろん、私権制限は憲法とも絡む重いテーマだ。だからこそ慎重に吟味するため、もっと早く議論が始まってもよかった。臨時国会を早々に閉じながら再度の緊急事態宣言が迫ってみると、なおさら対応に泥縄感が漂う。

 不祥事に幕を引こうと国会を閉じず、事前に井戸を掘り、縄をなう。政治は本来そうでなければ困る。



コロナ特措法改正/私権とのバランスに配慮を(2021年1月3日配信『河北新報』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染「第2波」がピークを越えた昨年秋、政府は冬にどう備えるか、具体的には年末年始を安心して過ごせるよう、対策を練ることに照準を合わせなければならなかった。

 医療体制の強化などやるべきことはたくさんあった。しかし、重点的に取り組んだのは観光支援事業「Go To トラベル」に、対象外だった東京都を加えることをはじめとする経済回復策だった。

 菅義偉首相は「Go To」が感染拡大を招いた証拠はないと主張するが、「第3波」を招き、多くの人が不安の中で新年を迎えた。
 「Go To」は世論の高まりを受け、先月28日から11日まで停止に追い込まれた。結果責任は大きいと言わざるを得ない。

 政府は新型コロナウイルス特別措置法の改正準備を進めている。今月召集の通常国会への提出を目指すという。

 特措法に基づいて昨年4月、政府は外出自粛などを求める緊急事態宣言を出したが罰則はなく、飲食店にも営業自粛を強制できない。今のままでは実効性が低いとの指摘があった。

 改正は全国知事会が再三求めてきた。感染対策の現場にある自治体として、もう少し権限が欲しいということだろう。

 最大の焦点で与野党が対立しそうなのは、休業や営業時間の短縮要請に応じない店への罰則規定を設けるかどうかだ。

 要請に応じた場合の協力金制度創設を盛り込むことや、緊急事態宣言の発令前でも自治体が臨時の医療施設を開設できるようにすることでは隔たりは小さい。

 罰則を設けるとなれば、飲食店にとっては死活問題だ。支給される協力金ではやっていけず、やむを得ず営業した店もある。公共の利益の下、生活権を奪うことが許されるのかどうか。

 特措法の改正について国会で議論することは必要であり、感染拡大が止まらない現状では早急に結論を出すことが求められる。

 だが、私権制限という憲法とも関わる重いテーマについて論議する時間が十分取れるかどうかが心もとない。

 まずは与野党で早期に合意できるところから改正を始めるべきだ。

 特措法改正の必要性については早い時期から指摘されていた。菅首相も官房長官時代の昨年7月、休業要請と補償をセットで実施すべきだと明言していた。

 及び腰だったのは、罰則などの強制力導入に対する世論の反発を恐れたためだ。第3波が到来し、対応が後手に回ったと批判を受け、方針転換したのが実情だろう。

 野党は共同で先月、独自の改正案を出している。審議もせずほったらかしにしたまま、国会を閉じた自民党の怠慢も指摘しておきたい。




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