FC2ブログ

記事一覧

(論)核問題(2021年1月3・4・7・11・14・21・22・23・24・25・29・2月1日)

START延長 核軍縮 新たな枠組みを(2021年2月1日配信『北海道新聞』-「社説」)

 米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間の延長で合意した。

 2011年に発効し、米ロ間に残る唯一の核軍縮の枠組みだが、5日に期限切れが迫っていた。

 失効すれば軍拡競争に拍車がかかる恐れがあった。土壇場で回避したことを歓迎したい。

 核弾頭は世界になお1万3千発以上あり、9割を米ロが保有している。両大国が軍縮に率先して取り組み、範を示せば他の保有国も続かざるを得ないはずだ。

 ただ、新STARTだけでは既存の条約を維持するにとどまり、不十分である。

 8月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。核保有国と非保有国の対立は深刻だが、米ロは軍拡を進める中国などを巻き込んだ核軍縮の枠組みづくりを主導する必要がある。

 新STARTは、双方が配備している戦略核弾頭の上限を1550発まで減らし、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など核運搬手段の総数を800に制限する。

 ロシアは5年延長を求めていたが、トランプ前政権は中国を含めた新たな枠組みを主張し、交渉は膠着(こうちゃく)状態に陥っていた。

 米ロは19年に中距離核戦力(INF)廃棄条約を失効させた。「使える核兵器」と称される小型核の開発も推進している。誤作動などでも偶発的な核戦争が勃発しかねず、危険極まりない。

 バイデン氏はオバマ元大統領が掲げた「核兵器なき世界」を引き継ぐことを打ち出している。

 その理想に向け、非核保有国が中心になって核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約を先月発効させた。軍縮交渉の停滞に業を煮やした結果である。

 米ロは不参加だが、廃絶を求める訴えに真摯(しんし)に応えるべきだ。

 中国の動向も鍵を握る。米国防総省によると、中国は核弾頭数を200発台前半から今後10年で倍増させるという。海洋進出に加えミサイル能力も増強させている。各国が警戒を強めている。

 NPT体制は保有国を米英仏ロ中の5カ国に限定した上で核軍縮を義務づける。中国も履行するのが当然である。

 北朝鮮やイランの核開発も懸念される。

 唯一の被爆国である日本は多国間の軍縮枠組みの構築に努め、保有国に核廃絶を働き掛ける責務がある。核禁止条約に加盟し、国際世論を高めていかねばならない。



核兵器禁止条約 「署名せず」が日本を守る(2021年2月1日配信『産経新聞』ー「主張」)

 核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁ずる核兵器禁止条約が、批准した50カ国・地域で発効した。

 日本はこの核禁条約に加わっていない。

 菅義偉首相は22日の国会で、「現実的に核軍縮を進める道筋の追求が適切であるとのわが国の立場に照らし、条約に署名する考えはない」と表明した。

 締約国による国際会議への日本のオブザーバー参加についても「慎重に見極める必要がある」と述べて距離を置いた。

 唯一の戦争被爆国として日本が核兵器廃絶や核軍縮を追求するのは当然である。

 だが、核禁条約では核廃絶や軍縮、平和の実現につながらない。日本が加われば、むしろ北朝鮮や中国、ロシアの核の脅威に一層さらされることになる。

 政府には、再び核の惨禍に見舞われないよう日本を守り抜く責務がある。菅首相が不署名の方針をとっていることは、国民を守る責務を果たすもので妥当だ。

 核禁条約には、核兵器の放棄や不保持の検証についての実効性ある規定はない。

 核保有国は一国も加わっていない。日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国、韓国など、米国の核抑止力(核の傘)を利用して自国の安全を保とうとしている国も署名していない。

 今の科学技術の水準では、外国からの核攻撃を防ぐ確実な方法は見つかっていない。核兵器による反撃力を自国または同盟国が持つことにより、核攻撃やその脅しを抑止することが必要だ。

 戦後の日本は冷戦期から今にいたるまで、核の脅威にさらされてきた。歴代政権は、国防に核抑止力が不可欠との立場をとってきた。それを自国では用意せず、日米安全保障条約に基づく米国の核戦力に依存してきた。

 核抑止の備えを一方的に解けば、放棄しない国の前で丸裸になる。もし全核保有国が放棄しても、その後に核武装する国やテロ組織が現れる恐れがある。

 核禁条約に加わることは結果的に、日本国民を核の脅威から守る核抑止力の効果を減じさせることになってしまう。

 日本は広島、長崎の悲劇を世界に伝え、核禁条約とは別の形で核軍縮を促す外交を進めるべきだ。北朝鮮の核・ミサイル戦力の放棄も強く迫らねばならない。



新START延長 中国を含む核軍備管理の前進を(2021年2月1日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 米国、ロシア両政府は新戦略兵器削減条約(新START)の5年延長で合意した。2月5日の期限切れを前に、米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が初めての電話会談で確認した。

 新STARTは二大核兵器国である両国間に唯一残っていた核軍縮の枠組みで、失効すれば軍拡競争に発展する恐れがあった。最悪の事態は回避されることになった。ただ、現状の維持にすぎず軍拡阻止の道筋は見えない。急速に軍拡を進める中国なども含む新たな軍備管理を前進させなければならない。

 新STARTは配備戦略核弾頭数を1550、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの運搬手段総数を800と、米ロ核軍縮史上最低水準まで制限し、2018年に目標を達成した。未配備の戦略核弾頭や、局地的な戦闘で使う短距離型の戦術核は条約の対象になっていない。

 米トランプ前政権はロシアの戦術核の数量公表と制限、軍備増強の著しい中国が参加する新たな枠組みを求め、新STARTの延長交渉は膠着(こうちゃく)状態になった。射程500~5500キロのミサイル保有を禁じた米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約も19年に失効し、核軍縮の動きは後退していた。新START延長はオバマ元大統領が掲げた「核兵器なき世界」の理想を引き継ぐバイデン政権の核軍縮を目指す一歩と言えよう。

 ただ、トランプ氏が強く固執した中国は、条約の制約を受けず、着々と核兵器の開発・配備を進めてきた。「中国と米国の核兵器は質、量ともに極めて大きな差がある」とし、南シナ海での影響力確保もにらみ、軍備増強を続ける姿勢を鮮明にしている。米国防総省は、中国が保有する核弾頭は今後10年間で少なくとも倍増すると推計している。中国が参加する枠組みの構築は不可欠だ。

 ロシアは交渉の多国間化に同意しつつ、参加は中国次第と主張、英国とフランスの参加も求め、米国の要求を封じようとしてきた。中国を含む多国間の交渉は容易ではない。北朝鮮は核兵器増強を表明している。

 米ロの両大統領は戦略的な安定に向けて、軍縮や安全保障問題で幅広く議論を進めることで一致したという。現在、世界の核兵器総数の9割を保有する両国はこれを機に関係を改善し、新たな軍縮の枠組みの検討につなげることが求められている。

 核兵器の開発や保有、使用、使用の威嚇を全面的に禁じた核兵器禁止条約が先月発効したが核保有国は参加していない。核保有を五大国に限った核拡散防止条約(NPT)再検討会議が8月に予定されている。前回の15年は最終文書をまとめられず決裂し、核保有国と非保有国の対立が改めて鮮明になった。バイデン政権の出方が注目されよう。核保有国と非保有国の橋渡し役を自任している日本も、軍縮へ積極的に役割を果たすべきだ。





終末時計、残り100秒(2021年1月29日配信『中国新聞』-「天風録」)

 新型コロナの陰で目立たないが、エイズウイルスも依然、世界中で猛威を振るう。ユニセフによると、おととしの1年で新たに感染した20歳未満の若者や子どもは約32万人に上った。100秒の間に1人の割合である

▲核戦争や気候変動による人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」も、史上最短の「100秒」で針を止めたまま。核兵器禁止条約が発効し、米国の新政権は地球温暖化防止のパリ協定へ復帰する。ことし早々、そんな朗報が相次いだというのに

▲コロナ禍への対応の誤りは、深刻な脅威への備えができていない表れ―。終末時計を掲載する米科学誌がアラーム音を響かせる。禁止条約に冷淡な被爆国政府にも聞こえていよう

▲ユニセフのエイズ報告書もやはり強く警鐘を鳴らす。もともと中西部アフリカや中南米・カリブ海諸国では子どもたちの検査や治療が満足に行き渡っていない上、コロナ対応が優先されて状況はさらに悪化していると

▲もし「コロナ収束時計」があったとしたら、大きく時を進める決め手はワクチンだろう。だが先進国の争奪戦が針を狂わせてしまいかねない。エイズ患者への支援とともに、地球上の隅々にあまねく届けたい。





【核禁止条約発効】政府は参加を検討せよ(2021年1月25日配信『高知新聞』-「社説」)

 「核兵器のない世界」を目指す上で歴史的な節目と言える。

 核兵器禁止条約が発効した。核兵器を非人道兵器とし、開発や保有、使用などを全面的に禁止する初の国際法規である。

 しかし、日本政府は「わが国のアプローチと異なる」として同条約に参加していない。

 日本は唯一の戦争被爆国であり、本来なら核廃絶の先頭に立つべき国だ。政府は同条約に背を向ける姿勢を改め、参加を検討するべきだ。

 同条約は、国連で2017年に122の国・地域の賛成で採択された。昨年10月、批准を終えた国・地域が発効に必要な50に達していた。

 現在批准しているのは52の国・地域で、いずれも核兵器の非保有国だ。中南米やアフリカ、オセアニアの小国が多い。

 核拡散防止条約(NPT)で核兵器の保有が認められている米英仏ロ中の五大国は参加を拒否している。

 NPT非加盟で核兵器を保有しているインドやパキスタン、イスラエル、北朝鮮も参加していない。

 これらの国に法的な順守義務はない。米国の「核の傘」に依存する日本や韓国、ドイツ、オーストラリアなども参加しておらず、同条約の実効性を疑う見方もある。

 しかし、国際規範として、核兵器は悪であり、違法であると明確に示した意義は大きい。核は不要という認識が国際社会全体に広まり、核保有国に核軍縮を促す包囲網になることを期待する。

 NPTが核保有国に義務付けている核軍縮は停滞している。それどころか、米中ロは核軍備を増強している。核の非保有国は業を煮やし、その大きな不満が核兵器禁止条約の制定につながった。

 国際世論を高め、条約が実現する推進力となったのは、広島、長崎の被爆者らの訴えだ。彼らが壮絶な被爆体験を伝えたことで、核の非人道性が多くの国に認識された。

 こうした経過で生まれた国際的な枠組みに日本が参加していない。そのことに疑問と矛盾を感じる国民は多いだろう。

 米国ではバイデン大統領が就任した。ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長や、イラン核合意に復帰を目指す考えを示すなど、方針転換の姿勢も見せている。

 今年8月には、NPT再検討会議が開かれる予定だ。日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うと主張している。

 しかし、日本が国連総会に提出してきた核兵器廃絶決議は昨年、棄権国が過去最多となった。核兵器禁止条約への不参加などが各国の失望を招いているとされる。

 菅義偉首相は同条約に「署名する考えはない」と断言し、第1回締約国会議へのオブザーバー参加も「慎重に見極める」としている。

 日本には「核兵器のない世界」への流れをリードする姿勢が求められている。主体的に行動し、被爆国にしかできない役割を果たさねばならない。





核禁止条約発効 廃絶へ世界動かす起点に(2021年1月24日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 核兵器と人類は共存できない―。ひとたび使われれば取り返しのつかない惨禍をもたらす核兵器の非人道性を厳しく問い、絶対的な否定を根幹に据えた条約だ。

 核兵器禁止条約が発効した。広島、長崎への原爆投下から75年余。被爆者の訴えが国際法として具現化され、効力を持った。非政府組織(NGO)、非核保有国との協働が生んだ成果である。

 「核のない世界」への道のりは険しい。核の拡散や核大国の軍拡によって、核兵器が使われる危険は増している。その状況を変え、核廃絶に向けて世界を動かしていく新たな起点にしたい。

 開発や使用だけでなく、威嚇を含め、核兵器に関わるあらゆる活動を禁止する。完全な廃絶こそが、いかなる場合にも再び使われないことを保証する唯一の方法だと条約は前文に記した。

 国連で122カ国・地域が賛成して採択されてから3年半を経ての発効である。核保有国はこの間、露骨な圧力をかけて発効を阻もうとした。米国は、批准した国に撤回を迫る書簡まで送った。

   保有国への包囲網

 それでも、署名、批准した国・地域は80を超す。中南米やアフリカのほか、核実験で被害を受けた南太平洋の国々が多い。大国に委ねていては進まない核廃絶への強い意思が見て取れる。

 唯一の戦争被爆国である日本は本来、世界のその動きを率先すべきだが、政府は条約化に背を向け続けてきた。国連での交渉会議の議論にさえ加わらず、初日に不参加を宣言して席を立った。

 核保有国と非保有国の橋渡し役を担い、段階的に核廃絶を進めるアプローチを取ると政府は言う。けれど、条約締結に動いた国々との対話も信頼も欠いたまま、どう橋渡しをするのか。どんな段階を踏むのかも見えない。

 条約の拘束力は締約国以外には及ばない。核保有国は参加を拒み、核をめぐる状況がすぐに変わるわけではない。とはいえ、核兵器が国際法によって明確に違法と位置づけられた意味は大きい。核を持つことの正当性を保有国は問われ、包囲網は確実に強まる。

   既存の体制を補完

 「保有国と非保有国の対立を深め、核廃絶を遠ざける」「既存の核軍縮の仕組みを損ない、核拡散防止条約(NPT)体制を弱体化させる」…。核保有国の側は言い立てる。激しい反発は禁止条約が持つ重みの裏返しでもある。

 NPTは核軍縮を保有国に義務づけている。5年ごとの再検討会議でも、完全廃棄する「明確な約束」を再確認してきた。たなざらしにしてNPTを空洞化させた責任を保有国は免れない。

 禁止条約もNPTも、核廃絶を目的とすることは変わらない。発効から半世紀を経たNPTの限界は明らかだ。新たな条約によって補完し、核軍縮の取り組みを強めていくことに何も矛盾はない。

 世界にはなお1万3千発以上の核弾頭がある。その9割を持つのは米国とロシアだ。2010年に新戦略兵器削減条約(新START)を締結した後、米ロの核軍縮交渉は滞り、新型兵器によって核戦力は増強されてきた。

 米国のバイデン新政権は、オバマ元大統領が掲げた「核なき世界」の目標を受け継ぎ、トランプ政権の核戦略を見直す考えを示している。新STARTの期限の延長にとどまらず、中国も加わる形で、核戦力をより広く削減する枠組みを設けるべきだ。

   「抑止」の名の脅威

 日本政府は、核廃絶を目指すと言う一方で、米国の核の力への依存を強めている。中国や北朝鮮の核軍備の増強を踏まえて、核抑止力を含む拡大抑止の維持・強化を安全保障戦略の柱に据え、米国の核戦力の削減に反対してきた。

 禁止条約は、抑止という名の下で核の脅威に覆われた世界のあり方を根本から問うている。日本は、核抑止に頼る姿勢を見直すことから始めなければならない。何より、主権者である国民は、戦争被爆国の政府が核抑止政策を取ることを受け入れていいのか。

 条約を核廃絶への力にできるかは、これからの取り組みにかかっている。今年は総選挙がある。議員や候補者に働きかけることは、政治を動かす一歩になる。

 国内の金融機関には、核兵器製造企業に融資しない方針を決めたところが既にある。利用している金融機関に確認し、促すのも、身近でできることの一つだ。

 発効に合わせて新たな動きも起きている。広島と長崎、東京の学生らが始めた「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」は、若者たちの声をSNSで発信する。国内外の高校生たちは、それぞれのメッセージをつないだ動画「ピースブックリレー」を公開した。

 核の傘の下にある現状をどうやって変え、条約に加わるか。政府が自ら動かないなら、市民の側から、社会を、政治を動かしたい。



核禁止条約発効 日本は背を向け続けるな(2021年1月24日配信『新潟日報』-「社説」)

 国際社会が「核なき世界」実現に向けて一歩を踏み出す歴史的転換点としたい。

 唯一の戦争被爆国である日本は条約に加わらず、背を向け続けている。そうした現状を改めてもらいたい。

 核兵器の開発や保有、使用を全面的に禁じる初めての国際条約である「核兵器禁止条約」が発効した。昨年10月、批准した国・地域が、発効に必要な50を超えていた。

 条約前文には「被爆者の受け入れがたい苦しみに留意する」と明記。広島、長崎の被爆者の苦難にも言及し、日本にとって重い意味を持つ。

 米英仏ロ中などの保有国は不参加で、条約の実効性には懐疑的な見方も根強い。とはいえ、核兵器を非合法化し「絶対悪」とする国際法規が効力を持ったことの意義は軽くあるまい。

 核禁止条約の訴えが今後国際社会に浸透することで、非人道的な核兵器使用の正当化はさらに困難になり、核軍縮につながることも期待できよう。

 むしろ、そうした形で条約を生かしていくことが求められるのではないか。

 条約推進国は、今年8月に延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議を前に参加国をさらに増やし、核保有国への圧力を強める考えだ。

 極めて残念なのは、米国の「核の傘」に頼る日本に、条約に関与しようとする姿勢が見えないことだ。

 菅義偉首相は記者会見や国会答弁で「条約に署名する考えはない」と繰り返し、日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役を担う」と説明している。

 条約制定の旗振り役となったオーストリアのクルツ首相はウィーンで開催される見通しの第1回締約国会議に「全ての国や団体を歓迎する」と述べ、日本など未署名国にもオブザーバー参加を促している。

 だが菅首相は、発効当日の22日も署名する考えはないと国会で答弁し、「現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求するのが適切」と会議へのオブザーバー参加にも慎重姿勢を示した。

 「橋渡し役」というなら会議のテーブルに着き、批准国の考えをしっかり把握することも意味があろう。

 与党内にも会議へのオブザーバー参加を求める声がある。効果的な「橋渡し」をするためにも参加を決断してほしい。

 米国でバイデン大統領が就任し、停滞する核軍縮の進展に期待もある。世界を襲った新型コロナウイルス禍で、保有国が核に費やす巨額の予算を疑問視する世論も広がった。

 国際情勢は変化している。日本政府はそうした流れも捉え、被爆国の責任を果たすべきだ。

 日本の行動を他の国々は注視しているはずだ。条約に及び腰の姿勢を続けては内外の期待や信頼を裏切ることになろう。

 「唯一の戦争被爆国でありながら無関心を貫くのは怠慢でしかない」。広島、長崎の被爆者の声に政府は真摯(しんし)に耳を傾け、行動しなければならない。



核禁止条約発効/人類共通のゴールに向かって(2021年1月24日配信『神戸新聞』-「社説」)

 核兵器の開発や保有、使用などを威嚇を含め全面的に禁じる核兵器禁止条約が発効した。原爆投下から75年余りの歳月をかけ、世界は「核ゼロ」へと新たな一歩を踏み出した。

 ただ、発効はあくまでもスタートラインにすぎない。米ロ中など核を保有する9カ国や米国の「核の傘」の下にいる日韓などは条約を否定しており、道のりは険しい。

 こうした国々を巻き込み、実効性を高めることが重要になる。唯一の被爆国である日本の姿勢が厳しく問われるのは言うまでもない。

 核廃絶は人類共通の宿願である。あらゆる国が立場の違いを超えて危機感を共有し、市民や非政府組織も交えて、ゴールへと着実に歩を進めるために知恵を出し合いたい。

       ◇

 核を巡る国際秩序は現在危機にひんしている。

 トランプ米前大統領は任期中、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から一方的に離脱した。「核体制の見直し(NPR)」で核の役割拡大を目指す方針を示し、小型核の開発を進めた。実戦使用もほのめかし、昨年11月には政権3回目となる臨界前核実験を実施している。

 米国に対抗するロシアと中国は核戦力の近代化を進め、北朝鮮も核開発を継続する。

 保有国を含む約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。

隣り合わせの危機

 地球上には米ロを中心に約1万3千発もの核兵器が現存している。1発でも広島、長崎に投下された原爆とは桁外れの威力があり、使い方次第で全人類を滅ぼすことができる。


 私たちはこうした状況の異常さと、核の本当の怖さをどこまで認識しているだろうか。

 キューバ危機など核戦争が寸前で回避されたことはこれまでに幾度もあった。米国内では1月上旬、連邦議事堂への乱入をあおるなど政権末期のトランプ氏の精神状態が危ぶまれ、核使用への懸念が高まったとされる。幸い何事もなかったが、世界が核の大惨事と隣り合わせにあることを改めて思い知らされる。

 広島、長崎に続く3度目の悲劇が起きていないのは幸運にすぎないと指摘する専門家は多い。

 禁止条約に背を向ける国々が依存する核抑止力は「幻想」とする見方もあり、「恐怖の均衡」はいつ崩れてもおかしくないと言える。核のリスクを根絶するには、NPTだけでは不十分だ。禁止条約と補完し合って運用する必要がある。

 一方、世界の核政策をリードする米国ではトランプ氏が退場し、新大統領にバイデン氏が就いた。大統領選の期間中、オバマ元大統領が掲げた「核なき世界」の目標を引き継ぐ意向を示し、核軍縮に前向きな姿勢を打ちだしている。

 ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題、イラン核合意への復帰、8月に見込まれるNPT再検討会議への対応…。バイデン氏には核を巡る喫緊の課題も多く待ち受ける。その対応を国際社会が注視している。

 日本の役割も重要だ。NPTは米ロ中英仏の核五大国に核軍縮交渉義務を定めている。菅義偉首相は、バイデン氏との初の首脳会談の際、その履行を強く迫るべきだ。禁止条約批准についても思考停止に陥らず、議題化するよう求める。

「旗」を高く掲げて

 米国の同盟国内では、小さいが見逃せない変化も起きている。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国で米国の「核の傘」に頼るベルギーは、昨年秋に発足した新政権が禁止条約を肯定的に評価し、「核軍縮に新たな弾みをつけることができるか検討する」と発表した。現段階では条約に参加する可能性は低いとみられるが、重要な一歩と言える。

 1年以内に開かれる締約国会議を巡っては、禁止条約の実現を長年訴えてきた被爆者だけでなく、批准国の間にも日本のオブザーバー参加を求める声が高まっている。核廃絶の先頭に立ち、保有国と非保有国の橋渡し役を担うというなら、首相は参加を決断すべきだ。

 核の存在は気候変動とともに人類の生存を脅かす問題である。加えて世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)という未曽有の危機の中にある。

 いまこそ、核廃絶という旗を一段と高く掲げたい。日本を含めた各国政府は、その旗を改めて目に焼き付け、ともに向かうべき道を導き出さねばならない。



核兵器禁止条約発効 廃絶に向け日本は主体的行動を(2021年1月24日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 全ての核兵器の廃絶へ一歩踏み出した。大切なのはこれからだ。核兵器なき世界の実現というゴールに到達するまで歩みを止めてはならない。

 核兵器禁止条約が発効した。核兵器の開発や保有、使用を全面的に非合法化し、廃絶を目指す初の国際法規である。2017年7月、国連で122カ国・地域の賛成で採択され、批准した国・地域は50を超える。

 しかし、米国やロシアなどの核保有国と、米国の「核の傘」の下にある日本は条約制定の交渉段階から参加しておらず、これらの国には条約の効力が及ばない。このため条約の実効性には懐疑的な見方もあるが、核兵器が明確に違法とされた意義は大きい。核保有国にとって核兵器使用の正当化が困難になったのは確かだろう。まずは条約発効を契機に国際社会として核保有国に核兵器を放棄するよう圧力を強めることが肝要だ。

 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記している。広島、長崎の被爆から75年半が経過し、核の惨禍が二度と繰り返されないよう被爆者らが訴え続けてきたからこそ条約発効に至った。条約成立の旗振り役だったオーストリアは、今年末にも同国首都ウィーンで開催される条約の第1回締約国会議に被爆者を招待する考えだ。会議を通じて国際社会は非人道兵器がもたらす悲劇を改めて胸に刻みたい。

 一方、核保有国は核戦力の近代化を図るなど軍縮に逆行している。米国のトランプ前政権は低出力の小型核開発を推進。イラン核合意から離脱し、イランは高濃度のウラン濃縮を再開した。中国が核戦力の増強を進める中、米国はロシアとの軍縮の枠組みに中国も入るよう呼び掛けたが、中国は拒否。米朝非核化交渉も頓挫したままだ。

 バイデン米大統領の動向が今後の核軍縮の行方を左右しそうだ。前政権の核兵器計画の見直しを検討し、イランとの新たな核交渉開始を模索する。米ロ間に唯一残された核軍縮条約、新戦略兵器削減条約(新START)延長も目指す。ただトランプ氏が破壊したものを元に戻すだけでも時間がかかり、軍拡競争に歯止めをかけられるかどうかは見通せない。

 日本は核兵器禁止条約に後ろ向きの姿勢のままだ。菅義偉首相は条約発効を受けて「条約に署名する考えはない」と述べ、「現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求するのが適切だ」と強調した。核保有国と非核保有国の「橋渡し」に努めるとするが、これまでに成果は上げられず、核軍縮への道筋も具体性を欠くと言わざるを得ない。

 大国の動向に対して受け身の態度を改め、主体的に行動する必要がある。まず締約国会議にオブザーバーで参加することを検討するべきだ。バイデン政権にも核軍縮を強く求めてもらいたい。唯一の戦争被爆国として核なき世界の実現をリードするのが日本の責務だ。



外堀を埋める(2021年1月24日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 城の外郭に巡らされた外堀。城が攻められるのを防ぐ上で極めて重要な役割を担っていた。大坂冬の陣の和議で豊臣氏が居城・大坂城の外堀を埋めることを許したことが同氏滅亡につながったことは有名だ。

 難攻不落といわれた鉄壁の要塞(ようさい)・大坂城も、堀がなければ実にもろいものだった。このエピソードそのままに「外堀を埋める」のことわざは「目的を達成するために周辺の障害から取り除いていく、あるいは、遠回しに既成事実をつくっていく」ことを意味する。

 核兵器の開発から使用まで、一切を非合法化した核兵器禁止条約が、おととい発効した。核兵器を非人道的で違法と断じる初の国際規範が生まれたことになる。画期的かつ歴史的なことだが、問題は52カ国・地域が批准したこの条約に加わろうとしない、核保有国である。

 「核抑止論」を主張してやまない保有国。現時点では廃絶どころか、いまだ事実上の核軍拡の状況にある。今後もそうやすやすと核を手放すとは考えられない。よって実効性の乏しさを指摘する声もあるが、核なき世界に向け、まさに外堀を埋めるものとなるという点で条約の意義は小さくはない。

 世界唯一の戦争被爆国である日本は、締約国会議へのオブザーバー参加にも慎重だ。政府が言い続ける「核保有国と非保有国の橋渡し役」。むろん、これも重要なことではある。ただその橋渡し役がいつまでも”堀の内側”でいいのかという疑問もまた残る。



禁止条約の発効(2021年1月24日配信『しんぶん赤旗』)

核廃絶へ新しい時代の始まり


 核兵器禁止条約が発効し、人類史上初めて核兵器を違法とする国際法が生まれました。歴史的な条約を力に、「核兵器のない世界」への道を切り開く、新しい時代が始まります。

被爆者の活動への賛辞

 「歴史の中に銘記される日になる」「希望の朝です」―禁止条約が発効した22日、被爆者から喜びの声が次々と上がりました。被爆者の長年の訴えが、世界の国々を突き動かし、禁止条約を実現したのです。アントニオ・グテレス国連事務総長は「発効はこれらの人々の長きにわたる活動への賛辞です」と述べました。

 発効は、核兵器廃絶をめざす諸国政府と市民社会の共同した取り組みの画期的成果でもあります。一部の大国が支配する世界に代わり、全ての国が主人公となる新たな世界が到来しつつあります。

 核保有国はいずれも、禁止条約への参加を拒んでいます。しかし、核兵器に固執する国々は今後、国際社会からさらに大きな圧力を受けていくことは明らかです。

 世界と各国社会に「核兵器は違法なもの」との共通認識が広がっていくなら、核保有や「核抑止力」を正当化する論拠の土台は掘り崩されていきます。

 核兵器の使用や開発の動きが、これまで以上に厳しく非難されるのは必至です。広島と長崎の原爆投下以来、世界の反核世論は、核兵器の使用を許しませんでした。禁止条約という法規範が、核使用の手を一層強く縛ることになります。米ロなどが核使用の「敷居」を低める言動を繰り返しているだけに、重要な意義があります。

 核保有国の軍事行動自体も制約されます。核兵器を搭載した艦船、航空機の領域内の航行の権利を米国に認めてきたパラオや核弾頭ミサイル実験場をロシアに提供してきたカザフスタンも禁止条約を批准しました。条約への参加国が増えるにつれて、核保有国の戦略はさまざまな障害に直面することは間違いありません。

 米国の核兵器を配備するヨーロッパの国々でも世論調査では6~7割が禁止条約の署名に賛成しています。米国でも若い世代の7割が「核兵器は不要」と回答しています。バイデン政権の「核抑止」政策が厳しく問われます。

 核兵器廃絶の実現には、さらなる努力が必要です。禁止条約の規定に基づき、年内にも条約の締約国会議が開催される予定です。市民社会も参加した条約推進のための新しいプロセスが開始されます。条約発効を実現した多数の国々と市民社会の共同をさらに力強く発展させ、「核兵器のない世界」への道を前進させていく時です。

参加する政権をつくろう


 唯一の戦争被爆国である日本の菅義偉政権が、世界の流れに背を向け続け、米国の「核の傘」を理由に条約参加を拒んでいることは、許し難い姿勢です。

 世論調査では、国民の圧倒的多数が禁止条約への参加を求めています。被爆国の国民の悲願に逆らう政権を続けさせるわけにはいきません。日本が条約に参加すれば、世界とアジアの情勢を前に進める大きな変化を生み出すことになるでしょう。

 日本共産党は、被爆者、反核平和運動と連帯し、核兵器禁止条約に署名・批准する新しい政権をつくるために全力を尽くします。





核禁止条約発効 参加が被爆国の責務だ(2021年1月23日配信『北海道新聞』-「社説」)

 核廃絶を求める全ての人の願いが、歴史的な一歩を踏み出した。

 核兵器禁止条約がきのう発効した。核兵器は非人道的な「絶対悪」だとして開発や保有、使用まで全面的に禁じる初の国際規範だ。

 国連で2017年に採択され、51カ国・地域が批准した。米国やロシアなどの核保有国は加盟していないが、核は違法であるとの国際世論は高まり、核軍縮を迫る圧力が今以上に強まるだろう。

 条約は広島、長崎の被爆者や連帯する市民たちの長年にわたる訴えが結実したものだ。唯一の被爆国として核廃絶を掲げてきた日本にとっても大きな達成であり、本来なら歓迎するのが当然である。

 ところが政府は、一貫してこの条約に背を向けている。広島、長崎両市長や被爆者団体は参加を強く求めているが、全く聞く耳を持とうとしない。

 政府は米国の「核の傘」に依存する硬直した姿勢を改めるべきだ。加盟して保有国に核廃絶を迫ることこそ、被爆国の責務である。

 核を巡る国際情勢は極めて厳しい。世界にはなお約1万3千発の核兵器が存在している。

 相互不信に基づく核抑止論を前提にする限り、軍拡競争には歯止めがない。使用の意図がなくても偶発的に核戦争が起きかねず、人類滅亡の危険と背中合わせだ。

 だからこそ、保有国の指導者は核廃絶へ踏み出す必要がある。核が関わる安全保障は国家単位でなく、人類全体の観点が不可欠だ。条約はそれを強く訴える。

 バイデン米大統領は、オバマ政権が掲げた「核なき世界」の理念を継承するとしている。来月に期限切れが迫るロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)については、延長を目指すとした。

 停滞していた米ロの核軍縮が、再び動きだすことを期待したい。

 米中間でも新冷戦と言われる対立が核軍拡を招き、北朝鮮は核開発を続けている。日本の平和と安全保障に直結する東アジアの情勢を見ても、核兵器禁止条約の重要性はますます高まっている。

 だが、菅義偉首相はきのうの参院本会議で「条約に署名する考えはない」と改めて表明したばかりか、発効後に開かれる締約国会議のオブザーバー参加にも慎重姿勢を示した。あまりに後ろ向きだ。

 核保有国と非核国の橋渡しに努めるとも繰り返したが、両者の対立が深刻化する中で何をしてきたのか。せめて会議には参加し、加盟国の訴えに耳を傾けるところから始めるべきである。



核兵器禁止条約発効/保有国に放棄促す圧力に(2021年1月23日配信『河北新報』-「社説」)

 この条約を高く掲げ、今度こそ「核なき世界」へ歩みを進めなければならない。

 核兵器禁止条約が、きのう発効した。条約締結を先導した非政府組織(NGO)「核廃絶国際キャンペーン」(ICAN)などの働き掛けにより昨年10月、批准する国が発効に必要な50カ国・地域に達していた。

 条約は核兵器を非人道的で違法と明記し、開発や保有、使用などを全面的に禁じる。核廃絶を目指す、初めての国際法規だ。前文で「全廃こそが、いかなる状況においても核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法である」とうたった。

 これまで世界の核軍縮を担ってきたのは核拡散防止条約(NPT)だ。米英仏ロ中の5カ国に核保有を認める代わりに、軍縮交渉を進めることを義務付けている。

 冷戦時代の妥協の産物とはいえ、核保有を是認していたのでは廃絶は実現できるわけがない。不参加国の核開発も止めることができず、今はイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮が保有する。

 世界にある核弾頭は昨年1月現在で推計1万3000発に上る。その9割を米国とロシアが占める。偶発的な核兵器使用の可能性を否定できないのが現状だ。

 保有国は核兵器が戦争の抑止力になると主張。核軍縮の必要性こそ認めるが、条約参加は拒否している。核を持つ優位性を失うことを意味するからだ。

 NPTが核兵器を「必要悪」と位置付けるのに対し、核禁止条約は「絶対悪」とした点で決定的に異なる。

 廃絶を進める具体的な方法は締約国会議で決まるが、法的拘束力が及ぶのは批准国だけだ。条約の実効性を考えると懐疑的な見方が強いのも事実だ。

 しかし、「核兵器は違法」とする国際規範ができたことには大きな意義がある。核を持ち続けることへの説明責任を求め、放棄を促す手だてを得たとも言える。

 賛同する国をさらに増やし、保有国の包囲網を作らなければならない。

 折しも、米国で「核なき世界」を提唱したオバマ元大統領の理念を継承するバイデン政権が発足した。保有国は「抑止論」から離れ、核廃絶へ行動を始めるべきだ。

 安全保障を米国の「核の傘」に頼る日本は条約に参加していない。菅義偉首相は開会中の国会で「条約に署名する考えはない」と改めて答弁。「現実的に核軍縮を追求するのが適切だ」と強調した。

 では、核軍縮に向けどう行動するのか。それがさっぱり伝わってこない。

 そもそも核禁止条約は、広島と長崎の被爆者の「核の惨禍は二度と繰り返さない」という願いを国際社会が具現化したものだ。日本は率先して動く責務があることを忘れてはならない。



核兵器禁止条約が発効 日本政府は態度変更を(2021年1月23日配信『茨城・佐賀新聞』-「論説」)

 核兵器の開発や製造、保有、使用、使用の威嚇などを包括的に禁じる核兵器禁止条約が発効した。核兵器を「絶対悪」とみなす人間道徳の高みから、抑止力を含む核の存在意義自体を全面否定する国際法は初めてだ。

 その原点は、人類で唯一、原爆攻撃を受けた広島、長崎の被爆体験だ。表面温度数千度の火球が突如目の前に現れ、爆心地周辺にいた者は巨大な爆風に飛ばされ、焼き尽くされる。わが身に何が起きているか分からないまま、無数の人が瞬時に人生を奪われた。きのこ雲が立ち上る中、市内の随所で火災が発生し、倒壊した建物の下敷きになり焼死した人も多い。目の前で苦しむ肉親や友人を残したまま、その場を立ち去らなくてはならなかった被爆者も少なくなかった。

「どうして自分だけが…」。何とか生き延びた無実の人が今もトラウマに苦しんでいる。条約発効を機に改めて、個々の被爆者を襲った75年前の非人道的な惨劇を胸に刻みたい。そしてこの条約に記された「被爆者の受け入れ難い苦しみ」に思いをはせたい。

「私の兄は爆心地から900メートルの木造家屋の中で胎内被爆した原爆小頭児です。まもなく75歳になりますが、今も簡単な計算すらできません」

 母親のおなかの中で放射線を浴び、生まれながら障害を負った原爆小頭症被爆者を支援する「きのこ会」の会長、長岡義夫さんは条約発効に合わせて声明文を発表した。「知的障害のある小頭症被爆者たちは、自らの口で『核兵器の廃絶』とは言いません。しかし、その存在そのもので、核兵器の非人道性を訴えています」。長岡さんの心の叫びに、この条約の意義を認めない核保有国、日本を含む「核の傘」の下にいる同盟国の指導者は耳を澄ましてほしい。

 核兵器禁止条約は、非核三原則を国是とし、被爆者がつむぎ続けた「反原爆」の思想に共感する日本の民意を体現した国際規範でもある。米エール大の研究者らが2019年夏に日本の市民を対象に行った世論調査が興味深い。単に同条約への賛否を問うのではなく、この条約が核抑止力を否定しており、核廃絶の検証手段にも不備がある点などを説明した上で意見を尋ねても、7割以上の人が条約を支持したという。

 米国の核抑止力を重視して条約交渉に参加せず背を向ける日本政府の姿勢とは裏腹に、被爆国市民の大多数が「人類は核と共存することはできない」(被爆者で倫理学者の故森滝市郎氏)との理念を共有している実情をうかがわせる。

 条約発効の原動力となったのは被爆者であり、支援者であり「核使用による壊滅的な人道上の結末」を早くから警告してきた医師らでもあった。

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)創設に加わったオーストラリアの医師で、35年前にノーベル平和賞を受賞した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の共同代表ティルマン・ラフ氏は語る。「核兵器が使われたら(被害者救済の)実効性ある人道的対応は不可能だ。核を廃絶するか、核がわれわれを消滅させるか、いずれかだ」

 米ロ関係の険悪化、北朝鮮核問題の深刻化、イラン核合意崩壊で核リスクは近年急速に高まった。被爆国を率いる菅義偉首相には明確な態度変更を求めたい。



核兵器禁止条約と日本 被爆者の思い継ぐ関与を(2021年1月23日配信『毎日新聞』-「社説」)

 核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約が発効した。この日にあたって忘れてならないのは、核兵器の災禍を国際社会に訴えてきた被爆者の活動だ。

 森重昭(しげあき)さんが広島で被爆したのは8歳のときだ。悲惨な体験を引きずりながら時が過ぎ、米兵にも犠牲者がいたことを知る。40歳に近づくころだった。

 証言を聞き取り、資料を読んで米兵12人の名前を割り出した。遺族を捜し当てる苦労もいとわなかった。「原爆の犠牲者に国籍は関係ない」という思いからだ。

 平和を願うひたむきな姿勢が米国との絆を深め、5年前に広島を訪れた当時のオバマ大統領との抱擁につながる。83歳の今も被爆死した捕虜の調査を続けている。

 核禁止条約が採択された翌年の2018年、国連でこう語った。「米国は持っている素晴らしい技術を人殺しではなく、平和のために使ってほしい」と。

オブザーバー参加必要

 この発言を日本政府はどう受け止めただろう。核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を自任しながら具体的な成果を出していない。

 唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶決議案を毎年、国連に提出する一方で、条約については米国の「核の傘」に頼っていることを理由に署名しない。

 核廃絶の理念は同じだと強調しつつ、「アプローチが異なる」と一蹴する。米国の顔色をうかがい、核軍縮に取り組むよう説得しようとしない。

 これでは「橋渡し役」は果たせまい。行き詰まった戦略をどう転換するか。

 中国や北朝鮮など東アジアの厳しい安全保障環境を踏まえ、核抑止力の強化が必要だという議論がある。だが、緊張が高まる今だからこそ、核兵器への依存度を減らすべきではないか。でなければ危険度は増すばかりだ。

 条約発効を機に、「核なき世界」に向かう道を改めて探らなければならない。

 まずは、条約の締約国会議にオブザーバーで参加することを検討すべきだ。傍聴だけか、発言権が与えられるかは、今後1年以内に開催される締約国会議で決まる。

 日本が参加するメリットは大きい。戦争被爆国としての道義的責任を果たすことができる。米国の他の同盟国にも参加の道を開くことになるだろう。

 条約の実施状況や核廃絶までのロードマップなどをめぐる議論にも参画できる。核抑止力に代わる安全保障のあり方も議論されよう。日本にとっても重大な課題だ。

 意見表明が認められるなら、原爆被害の状況を訴えることもできる。76年後の今も被爆者は13万人以上おり、後遺症に悩んでいる。

 原爆投下に伴う放射線の人体への影響はすべて解明されたわけではない。深刻な被害が長期化する実態を提起する場になるはずだ。

 オブザーバー参加を求める与党の公明党は将来的な批准も視野に入れる。そのためには、より多くの国々が集結できる環境づくりが必要となる。

米の政権交代を好機に

 日本が果たすべき役割は多い。8月には、新型コロナウイルス感染拡大で延期されていた核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が開かれる。

 NPTの無期限延長を決めた1995年の会議では核保有国が核実験全面禁止条約(CTBT)の制定を約束した。だが、米国などは批准しておらず、いまだ発効に至っていない。

 前回会議では、中東非核地帯構想をめぐる対立から最終文書が採択されなかった。米国などが強く抵抗したためだ。非核地帯が増えれば、それだけ核拡散の余地が狭まる。こうした取り組みを日本は積極的に後押しすべきだ。

 北朝鮮の核開発などアジアの安全保障環境の改善に向けて汗をかかなければならない。中国との信頼醸成を進め、緊張状態を緩和する努力も不可欠だ。

 核廃絶のカギを握るのは、核兵器の9割を保有する米露だ。両国は2月5日に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長に合意する必要がある。

 バイデン米大統領は核兵器の先制不使用を支持してきた。ハリス副大統領も上院議員時代に軍拡競争阻止の法案を提案している。

 核軍拡を推進したトランプ前政権からの交代を好機とし、核軍縮路線に転換するよう、米国への働きかけを強めるべきだ。



核禁条約発効 理想に一歩近づいた(2021年1月23日配信『東京新聞』-「社説」)

 核兵器の使用や保有などを全面的に禁止する、核兵器禁止条約が発効した。小さな一歩だが「核なき世界」に近づいた。唯一の戦争被爆国・日本は、理想実現に向けて協力を惜しんではならない。

 核兵器は最大級の非人道兵器であり、世界に1万3千発以上ある。しかし、包括的に禁止する条約はなかった。それだけに、条約発効には大きな意味がある。

 まず、核兵器への見方が大きく変わるだろう。条約が発効した国・地域において核兵器は、「力の象徴」ではなく「非合法」な存在となるからだ。

 核保有国が条約に反発するのは、この心理的効果を恐れてのことだ。核拡散防止条約(NPT)など、核軍縮の枠組みにも前向きな影響を与えるに違いない。

 この1年、世界の国々は新型コロナウイルスとの闘いが続き、200万人以上が犠牲となった。

 非政府組織(NGO)の試算によれば、核大国の米国が2019年に使った核軍備費を医療費に置き換えると、集中治療室のベッド30万床、人工呼吸器3万5千台などを用意できたという。

 核兵器をどれだけ多く持っていても、一人一人の命を守れるわけではない。コロナ禍から学んだこの教訓を心に刻みたい。

 条約には核保有国や核の傘に入っている国々が参加していない。そのため、核軍縮につながらないという否定的な意見もある。

 しかし、今では当たり前である奴隷制の否定や植民地の廃止、女性への参政権も、実現不可能と思われていた時代があった。

 現状に甘んじず、あえて高い理想を掲げることが、社会を変える力となる。このことは歴史が証明している。核兵器禁止も、決してあきらめてはなるまい。

 核を持つことで、戦争が避けられるという「抑止効果」を信じている人も少なくないだろう。

 即座に廃絶できないにしても、核の危険な均衡に、われわれの未来を託し続けていいのだろうか。

 年内にも条約の締約国会議が開かれ、核兵器廃棄の期限といった運用策が話し合われる。

 米国は核禁条約に反対しているが、バイデン新政権は予算削減のため、国防戦略における核兵器の役割を縮小する方針と伝えられている。取り組みに期待したい。

 日本政府は条約を無視する姿勢を改め、締約国会議にオブザーバー参加すべきだ。そして核なき世界の実現を望む日本と世界の人々の声に、耳を傾けてほしい。



唯一の被爆国にはうれしくもあり、悲しくもある1月22日(2021年1月23日配信『神戸新聞』-「正平調」)

 広島で被爆した歌人、田中祐子(さちこ)さんの一首にある。〈今日は何の日? 「八(ハ)・六(ム)の日です」と言いて爆笑 八月六日〉。昨夏、91歳で出版されたという歌集「命の極み」から引いた

◆何かの集会に居合わせたときの体験のようだが、何がおかしい-と腹の底からこみ上げる悔しさがひしひしと伝わってこよう。「原爆が落ちた日です」と言えない自分もまた情けないと、別の歌に詠まれている

◆〈「死にたい」と言う父母(ちちはは)の原爆で焼けし体に蛆(うじ)虫の湧く〉。できるなら忘れてしまいたい被爆の地獄を、田中さんは血を吐く思いで歌にしてきたという。戦争と原爆の悲惨を伝える、ただひたすらそのために

◆1月22日は何の日? 「いまある『核なき世界』の原点です」。近い将来、胸を張ってそう答えられるときが必ずや来ると信じたい。史上初めて、その開発や使用などすべてを禁じる核兵器禁止条約が発効した

◆〈世界中の国が反対しても日本だけは賛成しなくては核兵器禁止条約〉。歌人は願うものの、日本政府には参加の意思がないらしい。その理由がいかに語られたとしても、あまたの命の叫びでもある「ノーモア」の声の前では、うつろに響くだけだろう

◆唯一の被爆国にはうれしくもあり、悲しくもある1月22日となった。



核兵器禁止条約と日本 橋渡し役でなく主役に(2021年1月23日配信『中国新聞』-「社説」)

 核兵器禁止条約がきのう発効した。核兵器を違法とみなす価値観は国際社会でなお勢いを増すことだろう。広島・長崎への原爆投下から実に75年を超す歳月を要して、ようやく核なき世界への光明を見いだした。

 条約の前文には、核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)と核実験による被害者の受け入れ難い苦痛を心に留める―とある。原爆投下だけでなく、第2次大戦後の核開発を巡る被害に言及した点でも画期的だ。

 この条約については、核保有国も被爆国の日本も参加していないとして、核軍縮の実効性を疑問視する論調はあろう。

 しかし現時点の締約国・地域の中には、米仏の度重なる核実験によって生存を脅かされてきた太平洋諸国も含まれる。核開発が常に大国のエゴイズムで強行されてきたこと、そして核軍縮は一向に進まぬことへの憤りが条約という形になった。戦後世界の枠組みに鋭く「くさび」を打ち込んだといえよう。

 人類の生き残りへ歴史的な一歩だが、ゴールではない。

 条約の発効後、1年以内に締約国会議が開かれ、核廃棄の履行を検証する具体策を定めることになる。そこでは本来、核保有国の参加なしには十分な議論ができないのも事実だ。カナダ在住の被爆者サーロー節子さんが「批准国を増やし、条約の実効性を高めなければならない。困難な道はこれからだ」と、気を引き締める通りである。

 日本政府は後ろ向きの姿勢を転換すべきだと、私たちは主張してきた。だが歴史的な一日だったにもかかわらず、きのうの菅義偉首相の国会答弁は「条約に署名する考えはない」とそっけなかった。憤りさえ覚える。

 与党内でも要望が出ている、締約国会議へのオブザーバー参加さえ慎重な姿勢である。

 首相は「現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求するのが適切だ」とも述べたが、それはどのような道筋なのか。「橋渡し役」といった言葉で曖昧にする理屈ではなく、核なき世界の実現へ、日本は主役にならなければならない。

 まずはオブザーバー参加し、保有国ではなく非保有国の側に立つ意思を示してはどうか。将来の会議を広島や長崎で開催するよう提案すべきである。

 条約では核兵器の使用や実験の被害者への医療・心理、社会的、経済的支援や、核実験などで汚染された地域の環境改善も義務付けている。広島・長崎が蓄積してきた科学的な知見やノウハウを生かせるはずだ。

 日本の外交は米国の「核の傘(核抑止力)」を信じて疑わないが、私たちは納得できないでいる。河野太郎前外相は「条約に参加すれば、米国の核抑止力の正当性を損なう」と国会答弁している。だが核なき世界へ歩みが進むなら、核の傘の「正当性」もいずれ問われよう。

 折しも米大統領に就任したバイデン氏は、オバマ元大統領が掲げた「核兵器なき世界」の理念の継承を公言しており、核軍縮に前向きだと推察できる。核に依拠せぬ安全保障の道があり得ないとは断言できない。

 楽観は禁物だろう。核兵器は全世界に拡散している。それでも、この条約に希望を託そう。日本は、広島は何をしていたのか。そう詰問されないような次の時代にしなければなるまい。



総会決議から75年、やっと…(2021年1月23日配信『中国新聞』-「天風録」)

 終戦翌年の1月、初の国連総会が英ロンドンで開かれた。24日、記念すべき決議第1号を採択する。「原子力エネルギーの発見が引き起こした諸問題を扱う委員会の設置」である

▲戦時中とはいえ原爆を開発し、無辜(むこ)の市民の頭上に投下した。そうした愚行の後始末を考えることが、戦後の国際社会の出発点だったわけである。委員会は、各国の軍備から核兵器をなくす方策を提案するよう期待された。だが強国は背を向け、原水爆の開発競争に没頭していく

▲決議から75年。ついに核兵器禁止条約が発効した。一触即発だった東西冷戦の時代を振り返れば、隔世の感は強い。核のない世界の実現はまだこれからと思えば、「手放しでは喜べない」とこぼす被爆者の言葉が重い

▲真っ先に核兵器を手中にした5カ国は国連安保理の常任理事国でもある。そろって禁止条約にそっぽを向き、それでいて世界平和の担い手と自負する。大国のおこがましさこそが、核抑止論という虚構を生んだのでは

▲ヒロシマ・ナガサキの、きのこ雲の下の惨状を、ほかの誰にも体験させてはならない―。くだんの委員会が今も存続しているなら、被爆者の叫びと重なる結論をまとめるはずだ。



鬼(2021年1月23日配信『高知新聞』-「小社会」)

 公開中の映画版の人気は新年になっても続いているようだ。漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」。昨年末に日本記録を塗り替えた興行収入は先日、360億円を突破。単行本の売れ行きも好調という。
 
 時は大正時代、人と鬼との壮絶な戦いを描いた。設定も描写もよく練られた作品だが、日本では鬼退治はありがちな物語だ。なぜこれほど受けるのか、不思議な気がしないではない。

 「鬼との対決が新型コロナウイルスとの闘いに重なった」とみる識者もいる。民俗学者の小松和彦さんは一昨日の高知新聞の記事で、「鬼退治の物語がはやるのは、時代の裂け目なんです」と指摘していた。いずれにしても、不穏で、息苦しい時代を表しているのかもしれない。

 鬼は童話や古典によく登場する。古くから日本人に意識されてきた証しだろう。小松さんは著書で、鬼の姿形は時代とともに変化したが、「怪力・無慈悲・残虐という属性はほとんど変化していない」と紹介している。

 鬼のルーツをひもとくと、鬼とされたのは時の権力者の抵抗勢力などだったという。従わない人々を邪悪な存在にした。つまり、鬼をつくるのは他ならぬ人というわけだ。「鬼滅の刃」でも、鬼たちはもともと人だった。

 核兵器禁止条約が発効した。米英仏ロ中の核保有五大国や、米国の「核の傘」に依存する日本などは参加していない。核兵器ほど「怪力・無慈悲・残虐」なものはない。いまの世にも鬼はあふれている。



「核問題は超、自分事」。高校生が平和を願い…(2021年1月23日配信『新聞』-「春秋」)

 「我(わ)が魂はこの土に根差し/決して朽ちずに決して倒れずに」。長崎への原爆投下で黒焦げになりながら、芽吹き青葉を茂らせた「被爆クスノキ」を題材に、長崎出身の歌手福山雅治さんが作った「クスノキ」だ

▼この歌が流れる中、国内外の高校生がリレー形式でメッセージを伝える動画が投稿サイト「ユーチューブ」で公開されている。核兵器廃絶を目指す高校生平和大使らが制作した

▼「歴史を語り継ぎ平和を紡ぐ」(長崎)「核兵器の問題は、他人事じゃない。超、自分事」「核開発に使われるお金を、困っている人のために!」(佐賀)「まずは知ること」(静岡)

▼札幌のクラーク像の横では「世界に平和を 大志を抱け」。福島の女子生徒は住宅地にある放射線量率の測定器の前で訴える。「この機械がある日常に疑問を持ち続ける自分でありたいです」

▼核兵器の開発や保有、使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約が発効した。これを記念し動画は作られた。だが、核廃絶を求める大きなうねりから、日本政府は目を背け、条約への参加を拒む。米国の核の傘に守られているからだ

▼北朝鮮の核の脅威などを考えれば、すぐには難しいかもしれない。それでも背を向けたままでいいのか。「毎日何かに怯(おび)えることなく、みんなが笑顔になれる世界」(福岡)をと、決して朽ちず倒れずに平和を希求する真っすぐな問いから、目をそらしていいのか。



始まりの日(2021年1月23日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 むかしから「猫にマタタビ」というが、うちの猫に与えても、どういうわけか知らん顔をしている。誰にも好き嫌いはあるものである。ただちょっと、気になるニュースを見かけた

◆猫が寝っ転がって愛おしげに体をこすりつけるマタタビには、蚊を寄せつけないネぺタラクトールという物質が含まれる。茂みに隠れて獲物を狙う猫にとって「虫よけ薬」のようなものだと、岩手大などの研究グループが解明したという。どおりで、いつも家の中にいて食うに困らないわが愛猫には興味がわかないわけである

◆安穏と日々を過ごして、世界の厳しさを忘れてしまう。それは動物ばかりではないだろう。きのう核兵器禁止条約が発効した。国連採択から3年半、被爆者が訴え続けた願いがようやく実を結んだ。しかし、菅首相は「条約に署名する考えはない」と、これまで通りの国会答弁を繰り返した。米国の「核の傘」に守られ、核廃絶など関心の外のように見える

◆核の脅威を身近に知りながら、安穏と日々を送ってきたのは国民も同じである。「おい、橋渡しはどうなった?」。国際社会の問いかけに、もう知らん顔はできない

◆長崎で被爆した歌人、竹山広さんに印象深い一首がある。〈地上最後の核一発を廃棄せむ日に生き会へよわが三人子は〉。そんな未来を現実にする始まりの日である。(



核兵器禁止条約発効 「絶対悪」廃絶の転換点に(2021年1月23日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 「これが核兵器の終わりの始まりだ」。13歳の時に広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんが2017年7月、国連本部で語った言葉を思い出す。核兵器の開発や保有、使用を全面的に禁じることを初めて明文化した核兵器禁止条約が122カ国・地域の賛成で採択された日の演説である。

 それから3年半。条約は50を超える国や地域で批准され、22日に国際法としての効力を持った。国際社会が「核なき世界」に向けて歩み始める歴史的な転換点としなければならない。

 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記された。広島、長崎への原爆投下から70年以上もの時を要し、当の被爆者にとっては「ようやく」との思いに違いない。

 唯一の戦争被爆国である日本にとって意義深い条約だが、肝心の政府は不参加の立場を貫いている。菅義偉首相は22日の参院本会議でも「条約に署名する考えはない」と改めて明言。条約への参加を求める広島、長崎両市長や被爆者団体の声に耳を傾ける姿勢は見られない。締約国会議へのオブザーバー参加についても、同じ与党の公明党から検討を求める声があるにもかかわらず慎重姿勢を崩していない。

 日本は同盟国・米国の「核の傘」に依存。核保有を米英仏ロ中の5カ国のみに限る核拡散防止条約(NPT)を通じて核軍縮を進めるのが現実的との立場を取っているからだ。締約国とは核廃絶のゴールを共有するとしながらも、核保有国と非保有国との「橋渡し役」を担うとの説明を繰り返している。

 しかし、現実にはNPT体制で核軍縮が前に進んでいるとは言えない中、かたくなな姿勢を取るばかりでいいのだろうか。

 米国は核兵器の近代化を推進。ロシアは中・短距離の戦術核を増強しているとされる。中国も「核弾頭の数を10年間で倍増させる」と米国防総省は分析。北朝鮮などNPT未加盟国の動きもある。1発でも甚大な被害をもたらす核兵器が地球上にいまだ1万3千発以上存在していることを思えば、3発目の投下に対して改めて危機感を抱くべきだ。

 核兵器禁止条約は被爆者の声や非保有国が主体となって成立へと導いた。核軍縮を迫る圧力となるのは間違いないが、実効性を高めるには、条約に背を向けている核保有国を引き入れることが欠かせない。就任したバイデン米大統領は「核なき世界」の理念を継承し、核軍縮に前向きな姿勢を示している。これを機に新たな潮流をつくり出したい。

 英語で被爆体験を伝える活動を続けてきたサーローさんが古里を思い出すとき、目に浮かぶのは当時、4歳だったおいの姿という。小さな体は溶け、肉の塊に変わっていた。悲惨な経験を踏まえ、世界にこう訴えてきた。「核兵器は必要悪ではなく、絶対悪」。核保有国のリーダーらに率先してかみしめてもらいたい言葉だ。





核兵器禁止条約発効 核抑止力の呪縛抜け出せ(2021年1月22日配信『琉球新報』-「社説」)

 史上初めて核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約が、22日に発効する。核兵器の違法性が国際法によって規定され、「核なき世界」に向けた一歩を踏み出す。

 米ロ中英仏の核保有国が参加を拒否していることなど、実効性の課題はある。しかし、条約の発効により核廃絶が実現可能な目標だという認識が世界的に広がり、不参加国への批判が内外で高まることは間違いない。唯一の被爆国である日本こそが直ちに参加を決定し、核廃絶の実現を主導する必要がある。

 条約は、前文に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記している。広島、長崎への原爆投下から75年余り、原爆投下のむごさや非人道性を訴えてきた被爆体験者の活動が国際世論を動かし、条約の発効に至った意義を改めて確認したい。

 ところが、肝心の日本政府は米国の「核の傘」に配慮し、禁止条約に背を向けている。菅義偉首相は7日の記者会見で「条約に署名する考えはない」と断言した。

 日本が国連に毎年提出している核兵器廃絶決議でも禁止条約に触れないばかりか、核使用による壊滅的な人道上の結末に対する「深い懸念」の表明を、「認識する」の表現に弱めてまでいる。

 世界最大の核保有国である米国は、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、2月には新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れが迫っている。米ロ間の条約に縛られず核弾頭数を増やす中国への警戒感をあらわにし、際限ない軍拡競争が現実味を帯びている。

 五大国にだけ核保有を認めることを前提とした核拡散防止条約(NPT)体制にくみせず、北朝鮮やインド、パキスタン、イスラエルなどが事実上の核保有国と見なされている状況もある。

 沖縄も核の脅威と無縁ではない。INF廃棄条約の失効に伴い、米国は核弾頭搭載できる中距離ミサイル開発を再開し、南西諸島が配備地になるとの見方が強まっている。

 2020年1月時点の世界の核弾頭数は推定計1万3400発に上る。核兵器はひとたび使われれば互いの破滅を招くため、実際には「使えない兵器」と言われる。その兵器が地球上に大量に拡散する現状は、偶発的に核戦争を招くリスクを増大させる。

 核兵器の保有によって安全保障の均衡が保たれるという「核抑止力」は幻想であり、人類の脅威でしかない。

 日本は、戦争放棄と戦力不保持を憲法に掲げる国だ。核抑止の呪縛から抜け出し、禁止条約参加を世界に訴えていくことが使命だ。軍備増強で周辺国に脅威を与える中国に対しても、外交を通じて軍縮を毅然(きぜん)と迫ることが軍拡のエスカレーションを止め、日本の安全保障につながる。

 核兵器禁止条約という新たな国際合意の下で、徹底した核廃絶へと踏み出す時だ。





核禁条約発効へ 日本も一歩踏み出す時だ(2021年1月21日配信『西日本新聞』-「社説」)

 長崎を最後にこの75年間、核兵器が戦争で使われる惨劇は起きなかった。それは偶然の幸運でしかないのに、私たちは「核のある世界」を甘受していないだろうか。

 核兵器が使われない保証はどこにもない。それどころか、米国、ロシア、中国は開発を競い合い、新たに保有しようとする国も依然なくならない。

 こうした現実への危機感が結実し、核兵器を「非人道的な兵器」と断じて、違法と定めた核兵器禁止条約があす発効する。

■抑止力に頼る被爆国

 この条約を批准した51の国・地域の大半は途上国で、核戦争の脅威にさらされ、核実験に伴う苦難を強いられた。

 中南米では米国、ソ連の超大国の緊張が核戦争寸前まで高まった1962年のキューバ危機を受け、核兵器を禁じる条約を制定した。同様の条約を作る動きは南半球を中心に広がり、今や世界の過半数の国が「非核地帯」となった。核禁条約の背景にはこうした歴史がある。

 戦後日本はこれとは異なる道を歩んだ。唯一の戦争被爆国で核兵器廃絶を掲げながら、米国の核抑止力に依存する矛盾した立場を取り続けている。

 冷戦時代、日本は核大国ソ連に向き合う最前線だった。冷戦の終結後も北朝鮮が核開発に突き進み、米国と覇権を争う中国は核戦力を増強させる。軍備管理の枠組みがない東アジアで厳然たる脅威が存在する以上、安全保障政策には抑止力が不可欠という判断である。

 核禁条約についても、政府は核保有国が賛同しない現状からその効力には否定的で、署名もしない方針だ。実際、米国の「核の傘」に入る日本の安保政策は条約の趣旨に反し、参加は極めて厳しい。

 日本と同様、核抑止力を手放せない国は少なくない。にもかかわらず核禁条約が成立し、発効を迎えたのはなぜか。

 条約の制定の原動力となったのは非核地帯の国々とともに、長崎、広島の被爆者の訴えに突き動かされ「核なき世界」を希求する地球市民の存在である。

 この動きを主導した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))は2017年にノーベル平和賞を受けている。その後も条約の署名や批准を各国に強力に働き掛け、発効を実現させた。

 国際政治の力学にからめ捕られて身動きできない各国政府を動かすのはこうした市民の声である。気候変動問題と同様、このうねりを忘れてはならない。

■締約国会議に参加を


 米国のバイデン新大統領の就任はこうした潮流に追い風となる。昨年の選挙戦で「広島、長崎の恐怖を二度と繰り返さないため核兵器なき世界に近づけるよう取り組む」と語った。

 日本は核の恐ろしさを最も知る国である。世論調査でも6、7割が核禁条約に参加すべきと答えている。私たちも国際世論を先導する役割を担いたい。

 政府には核禁条約をいずれは批准する意思を表明し、核保有国に軍縮履行を促してほしい。核保有国と非保有国の「橋渡し役」を掲げるのであれば、1年以内に開かれる条約の締約国会議にオブザーバーで参加すべきだ。核の廃棄や検証、核実験被害者支援などが議題になる。豊富な知見を有する日本に果たせる役割は少なくない。

 「想像してほしい。大事な人が灰になった姿を、原子野で絶望に暮れる自分の姿を。その光景を胸に刻み、行動に移してほしい」。長崎で被爆し、うつぶせで苦しむ「赤い背中」の写真を携えて核廃絶を訴え続けた故谷口稜曄(すみてる)さんの遺言である。

 こうした声を原点に生まれた条約の発効だ。核廃絶は理想だと諦めてはならない。政府も私たちも、できない理由を探すのではなく、できることを考え、踏み出す時である。





核兵器禁止条約 廃絶への足取り強めたい(2021年1月14日配信『山陽新聞』-「社説」)

 核兵器を全面的に違法とする初の国際法「核兵器禁止条約」が22日発効する。廃絶に向けた大きな一歩であり、今年を「核なき世界」実現の新たな出発点にと願う。

 だが、核保有国や「核の傘」に依存する国は条約に背を向けたままだ。核拡散を懸念させる動きもあり、廃絶への道のりは依然険しい。

 禁止条約は、米中ロなど核保有五大国の間で核軍縮が進まないことへの対抗措置的な意味合いがある。そこには広島、長崎の被爆者や世界各地の核実験被害者らの切なる願いが込められている。

 しかし、現実は期待に逆行する動きが目につく。イランが年明け早々、ウランの濃縮度を20%に高める強硬策に出た。2015年に米欧など6カ国とイランが交わした核合意の上限(3・67%)を大幅に上回り、核兵器級のウラン製造を容易にするとされる。国際社会の懸念や非難が高まるのも当然だ。

 核合意を巡っては、トランプ米政権が18年に一方的に離脱。制裁がイラン経済を締め付ける。今回のイランの行動は、核合意に復帰する意向のバイデン次期米大統領から譲歩を引き出し、早期復帰と制裁解除を促す狙いだろう。

 だが、バイデン氏は復帰の前提にイランの合意義務履行を挙げており、強硬策は逆効果だ。敵対するイスラエルの軍事行動も招きかねない。早急な軌道修正を求めたい。米国や参加国も対話による核合意の再構築に努めてほしい。

 北朝鮮の動きも気になる。朝鮮労働党は党大会で金正恩(キムジョンウン)氏を党総書記に選出した。父や祖父と同じ肩書で権威を高め、国内の引き締めを図る狙いがあるのだろう。

 正恩氏は経済不振を認める一方、核・ミサイル開発の成果を誇示した。米国を「最大の主敵」として核戦力を強化すると表明。多様な戦術核兵器を開発し、超大型核弾頭の生産も続けるという。日本の安全保障にも脅威となる。

 とはいえ、北朝鮮も米新政権と対話の道を開きたい思いは強かろう。バイデン氏には対話と圧力で朝鮮半島の非核化を目指してほしい。

 世界には、米ロを中心に依然約1万3千発の核兵器があるとされる。人類の滅亡にもつながるだけに、国際協調で廃絶への足取りを強めたい。

 唯一の戦争被爆国である日本は、率先して取り組むべき立場にある。だが、禁止条約については「核の傘」を提供する米国に配慮して距離を置いている。保有国抜きでは実効性ある取り組みが不可能というのが理由だ。

 といって、事態を動かさなければ、保有国と非保有国の溝が広がり、核兵器の廃絶は遠のくばかりである。被爆者はじめ国内外から失望の声が聞かれる。

 条約発効後に、具体策を検討する締約国会議が開かれる。日本が双方の“橋渡し役”を自任するのならオブザーバー参加を検討すべきだ。





核兵器なき世界へ 連携し再スタートの年に(2021年1月11日配信熊本日日』-「社説」)

 2021年は年明け早々、核を巡る二つの大きな動きに注目が集まる。一つは、岐路に立つイラン核合意の行方。もう一つは、22日に迫る核兵器禁止条約の発効である。オバマ前米大統領が掲げた「核兵器なき世界」に向け、今こそ各国が連携し再スタートの年にしなければならない。

 核を巡る国際秩序はさまざまな要因で不安定化しており、立て直さなければ人類の未来が危うい。

賭けに出たイラン

 そんな中で4日、イランが核合意の制限を大幅に超過し、濃縮度20%のウラン製造という強硬策に踏み切った。ここまで高めれば技術的には核兵器級の90%に容易にたどり着くとされ、バイデン米新政権に制裁解除を迫る戦略である。20日の米政権交代を前に、保守強硬派が主導し賭けに出た。

 イランと米欧などとの間で核合意が成立したのは15年。イランが核開発の大幅制限を受け入れる見返りに、米欧などは厳しい経済制裁を解除する-というものだ。しかし、トランプ政権は、これを一方的に離脱。イランと敵対するイスラエルとアラブ諸国との関係正常化を仲介するなどイラン包囲網を形成し、圧力を強めてきた。

 イランの国内事情もある。イスラエルの関与が疑われるイラン人核科学者暗殺事件を機に、国会で多数派を占める保守強硬派が昨年12月、核開発の拡大を政府に義務付ける法律を成立させた。穏健派ロウハニ政権は、濃縮度引き上げを遅らせて米新政権との対話を模索しようとしたが押し切られた。

鍵を握る米新政権

 核合意に復帰しイラン核開発を制限する枠組みの再構築を目指すバイデン新政権は、この強硬策で思惑が外れた。米議会にはイランに厳しい意見が広く浸透。イランが求める制裁解除には慎重にならざるを得ない。バイデン氏は就任早々、難しい判断を迫られることになるが、速やかに復帰し次のステップに進んでほしい。関係国は復帰への環境づくりに努めるべきだ。

 というのも、イランは6月、穏健派ロウハニ氏の任期満了に伴う大統領選を予定。このままでは反米保守強硬派の政権が誕生する可能性も十分ある。対立か融和路線か、瀬戸際ともいえる。

 核を巡る不安定化要因である北朝鮮の存在も不気味だ。朝鮮中央通信は9日、金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党委員長がバイデン新政権を「最大の主敵」とし制圧、屈服させると、米国への対決姿勢を鮮明にしたと報じた。核戦力の増強方針も表明。核による先制攻撃を排除していないことが明らかになった。

 トランプ氏は米朝首脳会談を計3回行い、北朝鮮の核実験や大陸間弾道ミサイル発射実験は抑えたが、非核化は一向に進まなかった。イランでつまずけば、影響は北朝鮮にも及びかねない。

 一方、発効する核兵器禁止条約は核兵器を違法とする初の国際規範だ。製造、実験、配備、使用などを世界的に禁止。保有も禁じ、廃絶を掲げる。核保有国側は条約に縛られないとの立場だが、軍縮を迫る強い圧力になろう。

 そして何より、「核兵器なき世界」を宣言したオバマ前大統領時代の副大統領がバイデン氏である。実現は容易ではないが、発効は極めて大きな一歩である。

前文にヒバクシャ

 条約は前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とうたう。しかし、菅義偉首相は7日、条約に日本として署名しない考えを改めて表明。締結国会議へのオブザーバー参加も「慎重に見極める必要がある」とした。

 5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は昨年、コロナ禍で延期され、今年8月に開かれる予定。日本は「唯一の戦争被爆国」として、責務を果たすべきだ。





被爆地の役割 「警告」強く発し続けよ(2021年1月4日配信『中国新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界は今、危機に直面している。しかし地球規模の危機はほかにもある。

 米国の生物地理学者ジャレド・ダイアモンド氏は近著「危機と人類」で、「世界全体に害を及ぼしうる問題」として新種の伝染病や気候変動などと並んで「核兵器」を挙げている。

 今月22日、ついに核兵器禁止条約が発効する。核兵器の開発から保有、使用まで一切を禁止する初めての国際規範である。

 未知のウイルスと異なり、核兵器は人類が作り出したものだ。その脅威をなくすには、私たち人類の手で地球上から完全に廃絶するしかない。それは被爆地の積年の訴えであり、世界への「警告」でもある。条約の発効を、核の時代に終止符を打つための出発点にしなくてはならない。

 世界には今、1万3千発余りの核兵器が存在する。その大半を保有する米国とロシアは冷戦後、両国間で削減の努力を続けてきた。しかし近年は軍縮の約束を果たさず、小型核など「使える核」の開発に乗り出す。

 ただ条約が発効すれば、核兵器を持っていること自体が国際法違反となる。米国は昨年、複数の国に条約批准を撤回するよう圧力をかけたと報じられた。条約が保有国を追い詰めている証しだろう。

 核兵器禁止条約への支持は確実に広がっている。昨年の国連総会では、条約を支持する非保有国の演説が相次いだ。

 昨年9月には「核の傘」に依存する日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)でも元首脳や元閣僚が支持を表明し、自国の指導者に条約への参加を求める連名の公開書簡を発表した。

 問題は「唯一の戦争被爆国」だと強調しながら条約に背を向け、米国に「核の傘」を求める日本政府の姿勢だ。菅義偉首相は昨年、国連総会でのビデオ演説で「核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くす」としながら条約に全く触れなかった。国連に毎年提出する核兵器廃絶決議も文言を後退させている。米国への配慮とみられ、核なき世界を望む非保有国や市民から、批判を浴びるのも当然だ。

 昨夏の世論調査では72%の人が、日本政府は条約に「参加するべきだ」としている。政府に条約への参加を求める地方議会の意見書採択も続く。こうした声に応えるのが、政府の役割ではないか。

 ことし8月には、コロナ禍で延期された5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開催される。核兵器禁止条約締約国による会議も年内に開かれる。条約を足掛かりとし、保有国に核を手放させる―。そのためには被爆国政府の姿勢はますます重要になる。被爆地からもしっかりと働き掛けたい。

 核保有国や「核の傘」に頼る政府の姿勢を、簡単に変えることはできないという主張もあるだろう。しかし市民一人一人が声を上げ、力を合わせれば実を結ぶ。それを体現したのが核兵器禁止条約だ。

 発効は、76年前に幕を開けた核時代を終わらせるための歴史的な一歩である。

 「地獄のような苦しみをほかの誰にもさせてはならない」。そんな被爆者の訴えを私たちはしかと受け止め、「警告」を強く発していかねばならない。



禁止条約発効の年(2021年1月3日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

核兵器廃絶へ歴史的な前進を

 核兵器禁止条約が今月22日に発効します。年初から歴史的な条約発効という快挙で始まる2021年を、核兵器廃絶へ前進を遂げる画期の年にしていきましょう。

世界は大きく動き始めた

 核兵器はこれまで、被爆者をはじめ世界の多くの人々から「究極の悪」と厳しく非難されてきました。禁止条約発効によって、核兵器は道義的に許されないだけでなく、史上初めて違法化されることになります。核兵器を保有し、使用をふりかざす国は「無法者」とみなされ、「核の傘」に依存する国は、「共犯者」となります。

 禁止条約への国際的支持は広がり続けています。20年の国連総会では、多くの国が発効確定を歓迎する演説を行いました。各国に条約への参加を訴えた総会決議は130カ国の賛成で採択されました。条約採択(17年)に賛成した122カ国から前進しています。20近い国が批准の途上だと表明しました。現在51の批准国は21年中に70カ国を超える見通しです。この流れを押しとどめることはできません。核兵器に固執する勢力は一層追い詰められます。

 コロナ禍で延期された核不拡散条約(NPT)再検討会議が8月に開かれます。NPTが定めた核軍縮交渉の義務と核兵器廃絶の合意を核五大国に迫る重要な会議となります。禁止条約を力にした論戦、それを後押しする世論と運動の発展が求められます。

 年内には禁止条約の締約国会議が予定されています。核兵器廃絶へどのように進むのかを、市民社会の代表も交え議論されます。禁止条約を生み出した多数の非核国と市民社会の共同の流れがさらに大きく進展するでしょう。

 米ロ対立など核軍縮をめぐる情勢は厳しさもあります。しかし、大国による世界支配の時代は終わりを告げました。それは核大国の妨害を打ち破り、禁止条約発効を実現したことに示されました。条約発効が、核軍縮を前進させる力になることは間違いありません。

 禁止条約発効で、核兵器を拒否する流れは市民の運動に勢いを与え、各国の政治を変える力になるのは確実です。米国でも若い世代の核兵器廃絶支持は7割です。核抑止力に固執するバイデン次期政権の態度が、厳しく問われます。

 米国の同盟国も変化しています。北大西洋条約機構(NATO)加盟国と日韓の元首脳らが20年9月、禁止条約参加を訴えた書簡を発表し大きな反響をよびました。米国の核兵器が配備されているベルギーでは政権が交代し、新政権が禁止条約によって「核軍縮をさらに加速させる方法を模索」する方針を発表しました。同国民の8割近くが条約参加を支持しています。

背を向ける政府を変える

 唯一の戦争被爆国でありながら、禁止条約に背を向ける日本政府を変える時です。世論調査では6~7割の国民が禁止条約への参加を支持し、署名・批准を求める意見書を採択した自治体も500を超えました。国民の多数意思は明白です。「日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を求める署名」も各地で広がりをみせています。

 日本の禁止条約参加を実現する早道は、菅義偉・自公政権を倒し、署名・批准する新しい政権を樹立することです。総選挙で政権交代することは「核兵器のない世界」への大きな貢献につながります。




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ