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(論)五輪開催問題(2021年1月4・6・7・10・12・16・23・24・25・26・27・28・29・30・31・2月1・2・25・28・3月1・2・4・6・8・9・10・12・18・19・20・21・22・23・24・25・26・27・29日・4月8・11日)

コロナ下の聖火リレー 感染拡大時の対応明確に(2021年4月11日配信『毎日新聞』-「社説」)

 3月下旬から始まった東京オリンピックの聖火リレーに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が出始めている。

 大阪府は13、14日に予定していた府内全域の公道でのリレーを中止した。約180人のランナーは、一般観客を入れない万博記念公園の中を走る予定だ。

 今後も感染状況の悪化が懸念される。「まん延防止等重点措置」は大阪府など3府県に続き、東京都、京都府、沖縄県でも適用されることが決まった。

 大会組織委員会と各地の実行委員会は、感染拡大時の対応を明確にしておくべきだ。

 沿道ではすでに何度も密集ができて問題となっている。名古屋市では中心部の繁華街や熱田神宮に大勢の観衆が集まった。しかし、リレーは中断せずに続けられた。

 組織委は大勢の人が沿道に密集した場合、その区間のリレーを取りやめることもあると発表していた。だが、急に計画を変更することは容易ではない。

 ランナーの前を行くスポンサー企業の車両が大音量で音楽を流し、派手な宣伝をしていることにも、批判が相次いでいる。

 リレーが行われた三重県の鈴木英敬知事は「『盛り上げるぞ』という演出がすべて適切だったのか」と苦言を呈した。

 過剰な演出は「密状態」を助長しかねない。感染防止で大きな声も出せない中、お祭り騒ぎのような雰囲気を不快に思う人もいるだろう。配慮が必要だ。

 聖火リレーにスポンサーがついたのは、「商業五輪」の始まりと呼ばれる1984年ロサンゼルス五輪からだ。以来、企業からの多額の協賛金がリレーの運営を支えてきた。

 とはいえ、五輪の高潔なイメージが損なわれないよう、企業側には節度が求められる。

 島根県は、組織委の感染対策の不備などを理由に中止を一時検討した。最終的には、スポンサー車両の音量を下げるなどの対応を組織委が企業側と調整するという条件で実施することになった。

 リレーはまだ序盤だ。7月23日の開会式まであと100日以上続く。感染防止と注意喚起をさらに徹底し、計画を改善していく必要がある。





五輪組織委抗議 表現の自由侵しかねぬ(2021年4月8日配信『北海道新聞』-「社説」)

 五輪開会式の演出案を巡る問題を扱った週刊文春の報道に関し、東京五輪・パラリンピック組織委員会が、発行元の文芸春秋に対して掲載誌の回収やオンライン記事の削除を求めた。

 公的な組織としてはあまりに不見識な要求と言うしかない。

 組織委は「極めて機密性の高い情報」である演出案の報道は業務妨害などに当たるとするが、筋違いも甚だしい。

 開会式は巨額の公費を使う上、演出責任者の交代などが相次ぎ、社会的関心が高い。問題点や内情を報じるのは「国民の知る権利」に応える当然の行為と言える。

 組織委の抗議は「表現の自由」を侵しかねない点でも看過できない。掲載誌回収などの要求は即刻撤回するべきだ。

 今月1日発売の週刊文春は開会式の具体的な演出案とされる画像などを示し、政治家らによる出演者選定の要求があったと報じた。

 組織委は文春側に、今回の報道が演出案の価値を損なった上、代替案の作成にも時間や費用を要するとして抗議し、損害賠償を求める可能性を示唆した。さらに著作権侵害の恐れにも言及した。

 文春側は今回の報道は高い公共性や公益性があり、組織委の抗議は妥当性を欠くと反論した。

 開会式は五輪という国家プロジェクトの一環だ。多大な経費に税金が充てられることを踏まえれば、国民に対する情報公開は当然である。報道が公益にかなうのは、自明の理と言えよう。

 著作権を巡る組織委の主張にも首をかしげざるを得ない。報道を目的にするのであれば、著作物を正当な範囲内で利用することは広く認められているからだ。

 恫喝(どうかつ)まがいの手法を取る組織委の姿勢は言論封殺に通じる。週刊文春のみならずメディア全体を萎縮させかねず、ただちに改めなければならない。

 組織委が今回の報道に過剰とも見える反応を示すのは、国際オリンピック委員会(IOC)や放映権を握る米メディアとの関係悪化を懸念するからではないか。

 組織委の橋本聖子会長の姿勢も厳しく問われよう。

 女性蔑視発言で退任した森喜朗氏の後を継いだ橋本氏は就任時、「信頼回復に努める」と述べた。組織委の一連の対応は、かえって国民の不信を招きかねない。

 開会式まで100日余りに迫っている。組織委は五輪の本義に立ち返り、コロナ対策を含め選手本位の姿勢を示すべきだ。



聖火リレー 感染防止へ計画見直せ(2021年4月8日配信『東京新聞』-「社説」)

 東京五輪の聖火リレーが、新型コロナウイルス感染拡大のリスク要因になってはいないか。大勢の人出が確実な大都市の繁華街ではコースや通過時刻を変更するなど、抜本的な見直しが必要だ。

 3月25日に福島県をスタートした聖火リレーは北関東から中部に入り、現在三重県を通過中。初めての大都市圏となった名古屋市では、市内最大のターミナルJR名古屋駅周辺などで大観衆が密集状態になった。

 そもそもリレーは大会を事前に盛り上げるためのイベントだ。大会直前の今、リレーが感染拡大の一因になってしまったら、七月の大会開催すら危うくしてしまう。

 リレーのコースは、大会延期前の計画で地域の名所や大勢の人が集まる場所が選ばれた。

 しかし、コロナ禍が深刻化したにもかかわらず、計画の基本はほぼ変えていない。著名人の走行区間を少しずらすなどの小手先の対策では、大勢の人出が防げないことが証明された。

 リレーを見ようと集まる感染リスクに加え、観衆がその後、繁華街に繰り出して食事やカラオケによる感染が起きないか心配だ。

 思い出すのがGoToトラベルやGoToイートである。旅行のための移動や一人での食事自体は感染を広げないとしても、マスクを外し、他人と会食する機会が増えればリスクは高まる。専門家が重ねて警告してきたはずだ。

 2月下旬、GoToイートの食事券販売を再開した宮城県では感染者が急増し、3週間で販売停止に追い込まれた。販売再開と感染拡大の因果関係は不明だが、村井嘉浩知事は会見で「再開が気の緩みにつながった」と述べた。

 聖火リレーも同様ではないか。

 まん延防止等重点措置が適用された大阪市を含む府全体で、公道でのリレーを中止するのはやむを得ない。他の大都市でも繁華街を通る計画は大胆に見直すべきだ。縮小を検討している鳥取県の事例も地方都市には参考になる。

 一方、聖火リレーの意義を分かりにくくさせる演出には疑問を呈したい。ランナーを先導するスポンサー企業の派手な広告車の存在である。

 巨額の協賛金を負担する企業が大会応援団の一員であることは理解しても、大音量で音楽を流し、観衆に景品を配るのはやりすぎではないか。ランナーより目立っては本末転倒だ。

 地域の実情に合わせるなど、演出方法の再検討を求めたい。



東京五輪不参加 北朝鮮の孤立を避けねば(2021年4月8日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 北朝鮮が東京五輪・パラリンピックへの不参加を決めた。

 防疫のため、昨年1月末から国境を封鎖している。今回も、新型コロナウイルス感染症からの選手の保護を不参加の理由に挙げた。

 拉致問題や核問題の改善に向け五輪で北朝鮮と接触する―。日本政府のもくろみははずれた。

 ウイルスの流入に神経をとがらせる北朝鮮は、予防徹底を国民に呼びかけ、移動を厳しく制限している。平壌(ピョンヤン)駐在の外交官にも「超特級非常防疫措置」を通告し、各国は大使館の一時閉鎖や人員退避を余儀なくされている。

 中国に渡って拘束された北朝鮮兵士の身柄の引き取りを、感染を警戒して拒んだとされる。中国の工業団地で働く北朝鮮の女性たちも帰国できずにいる。

 感染を防ぐとした不参加の理由は、医療体制が脆弱(ぜいじゃく)とされる北朝鮮の本音に違いない。

 国境封鎖で経済は激しく落ち込んでいる。食料は払底し、電力や原料の不足から化学工場や鉱山の生産も止まり、失業者が増えていると伝わる。子どもたちは1年以上、学校に通えないままだ。

 日米韓は先日、安全保障担当の高官協議を開いた。北朝鮮の非核化に向け「一致団結した協力」を再確認し、国際社会に対北朝鮮の国連決議を完全履行するよう訴える声明を公表した。

 菅政権はこれに加え、北朝鮮相手の輸出入全面禁止と船舶の寄港を認めない独自制裁の2年間延長を決定している。こうした敵視姿勢も、北朝鮮が不参加を判断する要因になったろう。

 北朝鮮は3月25日に弾道ミサイル2発を発射した。金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党総書記は、再び核戦力を増強する構えでいる。看過できない状況ではあるものの、圧力強化だけが最善の策だろうか。

 子どもたちの栄養失調も懸念される北朝鮮への制裁を、むしろ一時的にでも緩和してはどうか。韓国と連携し、医療・衛生面の支援を申し出てもいい。北朝鮮を孤立させず、関係国との対話の席に着かせなければ、膠着(こうちゃく)した拉致や核問題の打開は望めない。

 不参加表明を受け、加藤勝信官房長官は、北朝鮮と「直接話す用意があるという姿勢は何ら変わらない」と述べた。菅首相に至っては、不参加の撤回もあり得るとの希望的観測を示している。

 政権が繰り返し強調する「主体的な取り組み」も、具体策を欠いては説得力はない。硬軟織り交ぜた外交が求められる。



意趣返し(2021年4月8日配信『新潟日報』-「日報抄」)

 驚きの高値である。人気ゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」が米国で競売にかけられ、ゲームソフトとしては史上最高の落札額となる66万ドル(約7300万円)で競り落とされた

▼持ち主は1986年にクリスマスプレゼントとして購入し、引き出しにしまったままにしていた。プラスチックの透明なパッケージに入った、ごく短期間に生産されたタイプで、未開封だったことが高値の背景にあるらしい

▼こちらは封印を解いたことを問題視しているようだ。東京五輪・パラリンピック組織委員会が、五輪開会式の演出案を内部資料の画像とともに報じた週刊文春などの発行元に掲載誌回収や資料破棄を求めた。著作権の侵害だと主張しているが、首をひねらざるを得ない

▼演出案が報じられたのは、開会式の演出の統括役がタレントの容姿を侮辱するメッセージを送っていた問題など、組織委の実態についての記事の一環だった。組織委の内情やセレモニーのあり方を考える上で、読者に提供された判断材料だったといえる

▼サプライズを含めた演出案は「秘中の秘」と言いたいのだろう。しかし著作権法は報道目的であれば著作物を正当な範囲内で利用することを認めている。今回の報道が著作権侵害だとする主張には無理がある。むしろ組織委の内幕を報じたメディアに対する意趣返しでは、と勘繰りたくなる

▼前会長の女性蔑視発言もあった。不都合な内情を封印しようとする姿勢は、五輪開催に向けた機運をそぐことになる。



【北朝鮮不参加】安全確保が五輪の基本(2021年4月8日配信『高知新聞』-「社説」)

 北朝鮮が東京五輪への不参加を表明した。パラリンピックの参加も見送る。世界的に流行する新型コロナウイルス感染症から選手を保護するためとしている。

 参加見送りを表明した初めての国となる。北朝鮮の政治的な思惑もありそうだが、日本では感染の再拡大やワクチン接種の遅れが指摘されるのも確かだ。ほかの国・地域に影響することも考えられるだけに、大会運営を巡る具体的な対策を示していくことが求められる。

 医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な北朝鮮は、新型コロナへの警戒感は極めて強いようだ。中国で感染が拡大した昨年1月末から国境を封鎖している。自国民の海外からの帰国さえ認めていないという。国内に感染者はいないと主張している。

 感染拡大前には、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が東京五輪への参加の意向を示し、南北合同チーム結成の合意もあった。しかし具体化はせず、感染拡大に伴い選手団派遣の可能性は低いという見方が広がっていた。

 五輪を通じて南北融和を後押ししてきた国際オリンピック委員会(IOC)にも打撃は大きい。

 その一方で北朝鮮による揺さぶりも見て取れる。聖火リレーが始まった日に日本海に向けて約1年ぶりに弾道ミサイルを発射した。この日には参加見送りも決めていたようだ。

 それを発表したのが、日本政府が閣議で北朝鮮への独自制裁を2年延長する決定をした日だった。タイミングを見ながらの行動となると、五輪期間中の挑発行為を警戒しなければならなくなる。

 日朝関係は冷え込んでいる。菅政権は、北朝鮮による日本人拉致問題を最重要課題と位置付ける。対話が途絶する中、東京五輪での接触も想定され、事態打開へとつながることが期待されたが、厳しくなった。

 ただ、開幕まで3カ月以上ある段階での不参加発表は、日本へ向けた政治的な意味合いが含まれるという見方もある。見誤らずに事態の好転へとつなげたい。

 北朝鮮では国境封鎖で経済難が深まっている。農業用の物資の不足や、電力不足による炭鉱や鉱山の生産停止などに陥っている。食料事情の悪化も伝えられる。北朝鮮側は否定しているが、国連などは子どもらの栄養失調の深刻化を懸念している。孤立していては国民生活の改善は望めはしない。

 他方、北朝鮮が東京五輪に突きつけた懸念は大会の骨格に関わるものであり、真剣に受け止めるべきことでもある。コロナ対策が焦点であることは間違いない。開催には科学的な判断に基づいた「安心安全」を確保することが基本となる。

 海外からの一般観客受け入れは既に断念した。変異株が広がる中、運営方式を柔軟に変更しながら、防疫を徹底することが不可欠だ。

 今夏の開催を望む国内世論が2割強に対し、中止は4割近い。国民の理解を高め、国内外の人々が納得できる感染対策を示して支持を得ていく必要がある。





組織委の抗議 報道の自由への威圧だ(2021年4月7日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 見過ごせない報道への圧力である。東京五輪組織委員会の見識を疑う。

 開会式の演出案を報じた週刊文春の記事に「厳重に抗議」し、掲載誌の回収とオンライン記事の全面削除を発行元の文芸春秋に求めた。組織委の内部資料を掲載したのは著作権を侵害し、業務を妨害するものだと主張している。

 著作権法は、時事の事件を報道する場合には著作物を正当な範囲内で利用できると定める。公表されていない内部資料だからといって、断りなく使えないとなれば、報道は成り立たなくなる。

 開会式の演出責任者を務めていた振付師のMIKIKO氏らが国際オリンピック委員会(IOC)に提示した演出案だ。記事は、MIKIKO氏がその後辞任した経緯に触れ、内部資料に記載された演出内容を取り上げるとともに一部の画像を掲載した。

 週刊文春の編集部は、開会式の内情を報じることには高い公共性があり、著作権法違反や業務妨害にはあたらないと反論した。多額の公費を投じる五輪が適切に運営されているか検証するのは報道機関の責務だと述べている。

 もっともな説明だ。組織委が著作権の侵害や業務妨害を持ち出すのはそもそも無理がある。それを承知で抗議したのなら、威圧する意図があるとしか思えない。

 組織委はまた、開会式の演出内容を「極めて機密性の高い秘密情報」だとし、文春が入手した内部資料を直ちに廃棄すること、今後は一切公表しないことも求めた。強硬な姿勢には、秘密の漏えいをことさらに印象づけて報道をけん制する狙いも見え隠れする。

 文春は今回の記事以前から、開閉会式をめぐる組織委内部の事情を報じていた。演出を統括する立場にあった佐々木宏氏は、女性タレントの容姿を侮辱する演出を提案していたことが明るみに出て、辞任に追い込まれている。

 内幕を暴く報道が組織委にとって目障りなのは察しがつく。だとしても、国家的な事業を担う組織の威光をかさに言論を封じることが許されるはずもない。文春だけでなく、ほかの報道機関にも組織委をめぐる報道をためらわせる圧力になりかねない。

 森喜朗前会長の女性蔑視発言であらわになった組織委の体質に厳しい目が向けられている。求められるのは、批判に向き合って説明する責任を果たし、組織と五輪運営の透明性を高めることだ。市民の知る権利に応える報道を妨げることではない。





五輪は首相の勇み足で開くものではない(2021年3月29日配信『日刊スポーツ』)ー「政界地獄耳」)

★ブラジルでは26日、新型コロナウイルスの変異種が猛威を振るい、新規感染者数が24時間で10万158人に達し、累積感染者は1240万4414人。同日発表の死者数は3650人。1日の平均死者数は2400人を超える。累計の死者数は24日に30万人を突破し、米国に次ぐ多さとなっている。その米国の新型コロナウイルス感染者数は24日、累計で3000万人を超えた。死者数は55万人弱。インド政府は27日、前日からの24時間の新規感染者が6万2000人を超えたと発表した。今年は2月末までは連日1万人台で推移してきたが、今月11日に2万人を上回るなど拡大が続く。米国、ブラジル、インド、フランスの順で感染者が多い。

★そのフランスもパリなどで20日から4週間の外出制限がスタート。3度目のロックダウンとなる。変異ウイルスが広がるドイツでは23日、ロックダウンを延長した。イタリアも15日から国の半分でロックダウンが始まり、学校も閉鎖された。新たな変異ウイルスはPCR検査で検知されず欧州は苦しんでいる。本来ならワクチンで先行する欧州や米国に落ち着きが出始めてもいいはずだが、米国の新規感染者が横ばいになった程度で効果は見えていない。

★一方、日本政府は聖火リレーを世界の反発を買いながらも推し進め、首相・菅義偉は26日の参院予算委員会でオリンピック(五輪)の開会式に米バイデン大統領を招待する考えを述べたものの、同日、間髪を入れず米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は「まだ(菅からの招待を)受けていない。大統領の今夏の外遊がどうなるかは予測できない」と困惑の表情を見せた。また首相は同委員会で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が東京五輪開会式に出席した場合「拉致問題の解決に資することであれば、私の仕事だと思っている。あらゆる可能性を考えて対応したい」と応じた。首相は絶えず「仮定の話にはお答えしない」としているが、この仮定の話にはすらすらと答えた。五輪は首相の勇み足で開くものではない。





五輪聖火リレー 開催機運を高められるか(2021年3月27日配信『新潟日報』-「社説」)

 新型コロナウイルス感染拡大で1年延期された東京五輪の聖火リレーが25日、東日本大震災から10年となった福島県からスタートした。

 感染を防ぎつつ、五輪開催の機運を高めることができるか。本番に向けた「試金石」と位置付けられよう。

 初日の第1走者は、震災が起きた2011年にサッカー女子ワールドカップ(W杯)で優勝した日本代表「なでしこジャパン」のメンバーが務め、アルビレックス新潟レディースの上尾野辺めぐみ選手も参加した。

 7月23日に東京・国立競技場で行われる開会式に向け、一般参加者や著名人ら約1万人が聖火を引き継ぎながら、121日間かけて列島を回る。

 本県では6月4、5の2日間、糸魚川市から村上市までの13区間、14市町村をリレーする。

 気掛かりなのは新型ウイルスの感染拡大だ。

 安全に実施できればノウハウは本番に生かせる。五輪への国民理解が広がる期待も持てる。逆に、クラスター(感染者集団)が発生すれば逆効果になる。

 緊急事態宣言は全面解除されたが、新規感染者数は各地で増加傾向だ。独自の緊急事態宣言を出している地方もある。

 ランナーやスタッフ、観客らが密になって感染を広げる事態は避けねばならない。大会組織委員会や各自治体は連携して万全の感染対策を講じてほしい。

 大会組織委は、密を避けるためインターネットのライブ中継の視聴を呼び掛けている。沿道の観客にはマスクの着用や、拍手での応援など注意事項の順守を求める。

 過度な密集が発生した場合には、当該場所の走行取りやめも検討する。住民も節度を持ってランナーを応援したい。

 聖火リレーは本来、多くの人を巻き込んで大会を盛り上げ、地域の特色を世界にアピールする狙いがある。

 ウイルス対策とのジレンマを抱えながら、その狙いをどう果たしていくのか。

 感染収束が見込めない中、五輪中止を望む声は根強い。

 大会組織委の森喜朗前会長の女性蔑視発言など、関係者による不適切な言動も五輪開催機運に水を差した。

 聖火リレーの実施も賛否が分かれ、予定されていた著名人の聖火ランナーの辞退が相次いでいる。自治体の中には、聖火リレーの中止やイベントの縮小を検討している例も出ている。

 こうした中で改めて思い起こしたいのは大会理念の「復興五輪」を象徴するイベントであることだ。

 10年を経ても震災復興は道半ばで、復興五輪に複雑な思いを抱く被災者は少なくない。

 震災避難者はいまなお4万1千人を超える。大半は東京電力福島第1原発事故でふるさとを追われた人たちだ。

 聖火リレーは「希望の道を、つなごう」をコンセプトにしている。リレーを通し、復興の現実と被災地の願いをしっかり見つめたい。



聖火リレー出発(2021年3月27日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆華美な演出凝らす必要ない◆

 政府が「復興五輪」をうたう東京五輪の聖火リレーが25日、福島県を出発した。7月23日に大会のシンボルとして国立競技場の聖火台にともされるまで、全国の859市区町村を巡る。

 著名人ランナーの辞退が相次ぐなど新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いているが、感染防止対策との両立を徹底し長い旅を無事に終えてほしい。本県では予定通り、4月25、26日、12市町を巡るコースで実施される。高千穂町を出発し、代表的な観光地を経由してえびの市にゴールする計約35キロを、約180人のランナーがつなぐ。

 1年の延期を経て準備の最終段階に入ろうとするタイミングで、大会組織委員会の会長と開閉会式の企画・演出統括責任者が辞任に追い込まれた。多分に個人の資質の問題であり、組織委の構造的な問題とは言えないが大会イメージは傷ついた。

 聖火リレーには600人もの「著名人ランナー」が参加する予定だ。イベントを盛り上げるには、人気のある芸能人らが加わった方が効果があるとの考えのようだ。当初はそれで問題なかったかもしれない。しかし、コロナ感染の深刻さを直視すれば、組織委は昨年中に計画見直しに乗り出すべきだった。沿道に密を引き起こす恐れがあると見通せたはずだ。

 今になって「過剰な密になったら、スキップして次に進みます」「できるだけインターネットの中継を見てください」と協力を要請している。大勢の観衆を呼び寄せる仕掛けをつくっておきながら、危険な状況になるかもしれないので来ないでほしいと言うのは、ちぐはぐな印象だ。海外からの観客を受け入れないと決めたときには、政府も東京都も組織委も「何よりも安全で安心に」と強調したが、この方針とも矛盾する。

 式典のエンターテインメント化が、ますます鮮明になってきた。前統括責任者は5年前、リオデジャネイロ五輪の閉会式で、人気ゲームのキャラクターを装った安倍晋三前首相を登場させ、その軽妙さと奇抜さが注目を集めた。辞任の原因となった言動は、その延長線上で笑いと奇抜さを追求するあまり、脱線を起こしたというほかない。

 ギリシャ・オリンピアの神殿跡で採火された聖火のトーチを掲げて走る、わが町の元五輪選手や市民を純粋に誇らしく、静かに見守りたいと願う市民も確実にいる。芸能人なしでも、立派で心温まる聖火リレーはできるのではないか。

 協賛企業が恐れるのは消費者でもある一般市民の反発だろう。華美な演出を凝らす必要はない。政府が本気なら、むしろ復興五輪に即した装いをさまざまな機会で考案すべきだ。





(2021年3月26日配信『秋田魁新報』-「北斗星」)

 1972年ミュンヘン五輪のレスリング金メダリスト柳田英明さん(74)=八郎潟町=は64年東京五輪の聖火ランナーを務めた。秋田商高2年生にして国体とインターハイで活躍したことが評価されての大役。これが五輪を目指すきっかけとなった

▼それから57年、今夏の東京五輪の聖火リレーが福島県からスタートした。121日間かけて約1万人のランナーが聖火をつなぐ。本県での聖火リレーは6月8、9日。柳田さんは全国でも数少ない2度目の聖火ランナーを務める

▼新型コロナウイルス感染拡大で1年延期となったリレーだ。「待ちに待った」と言いたいところだが、ためらってしまう。首都圏の緊急事態宣言が解除された後も新規感染者がじりじり増えている

▼独自の緊急事態宣言を出した宮城県では新規感染者が連日3桁と深刻だ。コロナへの懸念から五輪開催そのものに懐疑的な声が聞かれるのも仕方がないだろう

▼聖火リレーは五輪本番への機運を盛り上げるのが役割だ。可能な限り多くの人々に聖火を見てもらいたい。沿道でのマスク着用、声ではなく拍手による応援など感染防止対策を徹底し、安全安心なリレーを成功させなくては

▼柳田さんの半生をつづった本紙連載「時代を語る」(2月24日付)には身動きできないほどの人々に囲まれた当時の聖火リレーの写真が紹介された。いま同じ光景を目にするのは望むべくもない。それでも各ランナーには前回東京五輪に負けないエールを送りたい。



聖火リレー始まる 安全最優先が希望つなぐ(2021年3月26日配信『毎日新聞』-「社説」)

 東京オリンピックの聖火リレーが始まった。新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される中でのスタートだ。

 最大の課題は感染防止対策である。感染の状況次第では、中断やコースの変更に柔軟に応じる判断が求められる。

 聖火は47都道府県をめぐる。約1万人のランナーがリレーして東京・国立競技場へと運び、7月23日の開会式で点火される。

 東日本大震災からの「復興」が大会の意義に掲げられてきた。だが、新型コロナの影響で開催が1年延期され、大会を開くことが「コロナに打ち勝った証し」と強調されるにつれ、当初の理念はかすんでしまった。

 10年たっても自宅に戻れない人がいる。復興はまだ道半ばだ。被災者はどんな思いで東京五輪を見ているだろうか。

 福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」で出発式典が開かれ、大会組織委員会の橋本聖子会長は「東北の人々の不屈の精神に心から敬意を表します」と述べた。

 式典には一般客を入れず、来賓客を半数以下に減らす感染対策が取られた。リレーの全日程はインターネットで中継される予定だ。沿道に観衆が集まりすぎた場合はその区間のリレーを取りやめることもあるという。

 スケジュールの都合や密集ができることへの心配を理由に聖火ランナーを辞退する著名人が相次いでいる。島根県では丸山達也知事が感染対策の不備を指摘し、5月中旬に県内を通過するリレーの中止検討を表明した。

 こうした人々の不安や懸念もしっかりと受け止める必要がある。

 五輪憲章には「組織委員会は聖火をオリンピックスタジアムに運び入れる責任がある」と記されている。リレーは1936年ベルリン五輪から始まった。ナチスの政治宣伝の側面もあったとされるが、戦後は平和の理念を反映する行事として、継承されてきた。

 57年前の東京五輪では聖火が初めてアジア諸国をめぐり、まだ米国の統治下にあった沖縄を経て日本本土に引き継がれた。

 コロナ下で、五輪開催に対する国民の不安はなお大きい。希望の灯をつないでいくには、安全最優先の心構えが欠かせない。



聖火リレーが1936年のベルリ…(2021年3月26日配信『福井新聞』-「越山若水」)

 聖火リレーが1936年のベルリン大会で始まったことはよく知られる。古代と今とをオリンピアの火でつなぐアイデアをナチスが宣伝に使った。「軍事偵察を兼ねていた」説も根強い

▼では戦後初の夏季五輪だった48年ロンドン大会はどうだったか。聖火リレーはナチスのイメージが強いとして、廃止を訴える議論が当然のように起きた。一方で、リレーが醸し出す神聖な雰囲気を待ち望む人も多かった。そこで聖火の出発式にある仕掛けが施された

▼第1走者のギリシャ軍人が聖火の前に進み出て、まず足元に銃を置いた。次いで軍服を脱ぎ捨ててランニングウエア姿になりトーチに火を付けた。この演出により平和の象徴だと認知され、長く受け継がれてきたという(「オリンピックは平和の祭典」舛本直文著)

▼福島の聖火リレー出発式をテレビ中継で見た。式典に登場したお笑いコンビ・サンドウィッチマンのお二人は、東日本大震災の直後から支援活動を尽くす。「被災地のきれいな所も、まだ立ち入れない所があるのも見てほしい。世界に感謝を伝えたい」と語っていた

▼そして第2走者の地元高校生は「全世界の人たちが難局を乗り越えるため助け合わないと」との願いを胸に走った。歴史をつないできた聖火が人々の思いを担い列島を巡っていく。コロナ禍に遮られず国立競技場に無事到着することを祈りたい。



聖火リレー出発/国民の理解を得る五輪に(2021年3月26日配信『神戸新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された東京五輪の聖火リレーが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地である福島県からスタートした。

 聖火は五輪の開会式がある7月23日まで全国を巡る。兵庫県は5月23、24日に回る。コロナ禍における安全な大会運営の試金石となる。感染対策を徹底し、大会の理念である「復興五輪」を改めて世界に発信してもらいたい。

 聖火リレーは本来、開催都市以外の地域に大会の幕開けを告げる役目を担う。ところが感染は収まらず、緊急事態宣言は全面解除されたものの、変異株の広がりもあって国民の視線は冷ややかだ。聖火リレーの著名人ランナーの辞退も相次ぐ。

 出発式は一般客を入れずに簡素化した。沿道の人には密集回避やマスク着用、拍手での応援を呼びかけるほか、インターネットでのライブ中継の視聴を推奨する。感染を防ぎつつ機運を盛り上げるという難しい運営になるが、官民が連携し、安全最優先で完走することが責務だ。

 五輪・パラリンピックは、海外からの一般観客の受け入れを断念することが決まった。選手や国民の安全を考えると、国内への自由な入国を認めるのは現実的ではなく、受け入れ断念はやむを得ない。

 その結果、各国から集まった人が交流し、国際平和に貢献することは難しくなる。五輪本来の意義が十分に果たせないのは残念だが、選手第一の原点に戻り、五輪の理想を描き直す機会にしたい。

 大会組織委員会の橋本聖子会長は「今の時代にふさわしい方法で人々をつなぐことができるよう、具体的な仕掛けの検討も進める」と語った。動画サイト、会員制交流サイトなども駆使し、競技の感動や五輪の魅力を世界の人々が共有できるよう知恵を絞る必要がある。

 国内観客数の上限については、政府のイベント制限基準に合わせ、会場収容人数の50%にする方向で検討が進んでいるという。五輪は42会場で、史上最多の33競技339種目が行われる。全国から多くの人が行き交い、新たな感染拡大を招かないとも限らない。万全な対策はできるのかと不安視する人は少なくない。

 共同通信社による今月の世論調査では、今夏の五輪開催を望む人が23%だったのに対し、中止すべきとする人は、2月調査を5ポイント上回る40%だった。開催する場合、無観客がよいとする人も40%だった。

 政府や組織委はこうした声に耳を傾け、感染状況を見極めて、無観客開催の判断も視野に入れるべきだ。安全な運営の方法を再検討し、国民の理解を得なければならない。



聖火リレーとパンドラの箱(2021年3月26日配信『中国新聞』-「天風録」)

 全知全能の神ゼウスが主役のギリシャ神話で、脇役ながらプロメテウスの存在感は抜群だ。何しろ天上界の火をこっそり人間に分け与えたのだから。彼がいなかったら、今日のさまざまな文明は生まれず、近代五輪も聖火リレーも始まらなかった

▲怒ったゼウスはパンドラを地上に送り込む。彼女がつい、禁を破って箱を開けると、ありとあらゆる厄災が飛び散っていった。災害、飢え、貧困、戦争、感染症…。10年前、大地は揺れに揺れ、原子の火は制御を失う

▲その福島原発について前首相が「状況はコントロールされている」と大見えを切って東京五輪を誘致すれば、後継首相も「五輪は人類が新型コロナに打ち勝った証しだ」と。まるで開催にこぎつければ、災いは再び封じ込められると言わんばかり

▲せっかくなら五輪を盛り上げたい。でもウイルスとの闘いに終わりが見えないのが現実である。ワクチンにしても、五輪までの4カ月でいったい国民の何割に接種できるだろう。トップの言葉は勇まし過ぎやしないか

▲パンドラがふたをすぐ閉めたため、箱の中には「エルピス」が残ったとされる。それは「希望」とも「つらい未来の予知」とも解釈されるそうだ。 



五輪聖火リレー 安全かつ簡素な大会の試金石(2021年3月26日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された東京五輪の聖火リレーが福島県から始まった。聖火は121日かけて全国を巡り、7月23日の開会式で東京・国立競技場の聖火台にともされる。愛媛は4月21、22日に通過する。

 大会本番に向けた最大のイベントにひとまずこぎ着けたが、これで開催が確約されたわけではない。世界で新型コロナの感染収束のめどが立たず、五輪開催に否定的な声も尽きない。大会開催には国民の理解が欠かせず、聖火リレーの実施はその試金石となる。政府や関係者は感染防止策を強め、安全運営に徹しなければならない。

 聖火リレーは東日本大震災10年と重なった。「復興五輪」は招致段階から政府が掲げてきたスローガン。福島県沿岸部の自治体には今も帰還困難区域が設定されたままで復興は道半ばだが、それでも被災地は前へ進んできた。コロナ禍という非常時が加わる中でも困難に立ち向かう人々に思いを寄せ、連帯の力に変えていきたい。

 聖火は延期前の計画とほぼ同じルートをたどる。自治体や大会組織委員会は、密集を避けるよう呼び掛け、拍手での応援を求めている。人が集まりすぎた場合は、その区間のリレーを取りやめることも想定され、応援の際は感染防止行動に注意を払いたい。運営側は継続を優先するのではなく、安全第一の対応が求められる。

 聖火リレーを巡っては、著名人ランナーの辞退が相次ぐ。日程の都合がつかなくなったためとする人が目立つが、コロナ禍への懸念を挙げるケースもみられた。さらに島根県の丸山達也知事が2月、政府や東京都の感染対策が不十分だとして県内のリレーを中止する意向を表明。3月には鳥取県がパレードなどを縮小し、浮いた予算をコロナで苦境に陥っている飲食店支援に回す方針を示すなど取り巻く環境は依然として厳しい。

 東京五輪・パラリンピックは海外からの一般観客なしという極めて異例の形で開催されることが決まった。世界の新型コロナ感染者が再び増加に転じ、感染力が強いとされる変異株も広がる。外国人の新規入国を原則認めていない現状を考えれば、4カ月後に迫る大会時に、世界各地から数百万人規模の訪日客を迎えることが非現実的なのは確かだ。

 ただ、その代償はあまりに大きい。各国から人々が集い、国際交流や平和の推進に貢献するという五輪本来の意義が十分に果たされず、訪日客による経済効果の多くも失われる。大会開催に懐疑的な世論が好転するのは容易ではない。

 コロナ禍の下で五輪をやる意義が広く理解されることが肝心だ。近年の大会は華美になりすぎていたとの批判が根強い。安全を最優先し、簡素化を徹底した中で選手が力を発揮できる環境を整える。そんな五輪像が示せるかどうかが試されている。



桜の聖火(2021年3月26日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 桜前線が列島を駆け上がっている。桜は春の訪れに敏感で、平均気温が10度になると開花する。その等温線が北上するスピードは地域によって異なるが1日20キロほど。山あいはゆっくり3日で100メートル登るらしい。今年の桜は速足だから、そんな記録は軽々と塗り替えてゆくだろう

◆そろそろ前線が届きそうな福島にきのう、ピンクゴールドの桜が咲いた。東京五輪の聖火リレーが1年遅れでスタートを切った。佐賀市出身の吉岡徳仁さんがデザインしたトーチの火を、121日間にわたり約1万人がつなぐ。5月9、10日には県内を通過する

◆震災復興を掲げた祭典が、いつの間にか「ウイルス克服の証しに」と宗旨を変え、感染収束が見通せないまま本番は4カ月後に迫る。いまだ中止論がくすぶり、著名人のランナー辞退も相次ぐ。逆風の中でともった聖火は、どこか高揚感に乏しい

◆桜は元来その年の穀物の豊凶を占うものだった。もろく散りやすい花が長く美しさを保てば吉兆で、疫病など災いも鎮まると信じられた。トーチの桜は、どうか風がなぎますように、火が消えませんようにと、せつない祈りのようにも見える

◆江戸川柳に〈花咲いて八百八町酔いたりな〉とある。まだ花見の宴で浮かれてはいられないこの春、せめて列島を駆け巡る桜の聖火が人びとを酔わせてくれるといい。



東京五輪(2021年3月26日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

開催中止の決断を急ぐべきだ
 東京五輪の聖火リレーが福島県でスタートしました。7月23日までの121日間、全国各地を約1万人のランナーが走る計画です。新型コロナ感染が再び増加傾向をみせ、「第4波」への警戒が呼びかけられる中でのリレー開始に、国民は不安と懸念を強めています。五輪開催自体にも「中止」「延期」を求める声が国内外で広がっています。ところが菅義偉首相は聖火リレーで「機運を高めて」と開催に固執する姿勢を改めません。いま必要なのは、中止の決断に向けた議論を直ちに始めることです。

コロナ収束みえないのに
 聖火リレーは、辞退者が相次ぐ異例の事態となりました。理由はさまざまですが、森喜朗・前五輪組織委員会会長の「(新型コロナが)どういう形であろうと必ず大会を開催する」などの発言に抗議したタレントもいます。「コロナの収束がみえない中、聖火リレーや五輪・パラリンピックを実施することに疑問がある」と語る元選手もいます。コロナ禍での開催への根強い不信を反映しています。

 島根県知事は、政府や東京都のコロナ感染対策が立ち遅れていることに疑念を示し、「開催すべきではない」と表明しています。県内のリレーも中止を検討する姿勢を示しています。鳥取県は、リレーを縮小する方向で調整をしています。来県する関係者の人数を減らして感染拡大を防ぐとともに、リレーにかかる経費を減らして飲食店へのコロナ対策支援に回すとしています。リレーに人手と労力を割かれ、コロナ対策が手薄になることを危惧する自治体関係者も少なくありません。沿道に人が密集する恐れがあるリレーと感染抑止との両立は極めて困難です。

 今月20日、東京五輪では海外在住の一般観客の受け入れをしないことが決定しました。感染状況が見通せず、安全・安心を確保できないとの判断です。しかし、海外客の受け入れ中止だけでは安全の確保にはつながりません。一般客以外に選手、役員、メディアなどだけでも数万人規模の入国者が想定されます。世界的に流行している変異株に対処できる保証はありません。国内の一般客は数百万人にもなります。多くの人の移動は感染拡大のリスクを高めます。

 大会には1万人の医療従事者のほか、選手のけがなどに対応する病院30カ所が必要とされていますが、確保のめどはたっていません。医療現場からは、日本国内でのワクチン接種の体制も整っていないのに、とても五輪には手が回らないとの声が出ています。このまま開催すれば、コロナ感染を拡大する結果になりかねません。

内外の世論は中止・延期
 新聞通信調査会が5カ国で実施した聞き取りによる世論調査(20日発表)では、コロナが世界的に収束しない中での東京五輪は、「中止・延期すべきだ」との回答が圧倒的多数です。タイは95・6%、韓国は94・7%に上り、中国で8割以上、アメリカとフランスは7割以上を占めました。日本の複数のメディアの世論調査でも「中止・再延期」の答えは約7割です。

 国内外の声を踏まえるなら、「開催ありき」で突き進むことはできないはずです。判断をこれ以上先延ばしする時間的余裕はもうありません。一刻も早く開催中止を決め、コロナ対策に総力をあげることが求められます





聖火の守り神(2021年3月25日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 ギリシャ神話の竈(かまど)の神ヘスティアは、オリュンポス十二神の1柱である。アテナ、アルテミスと並ぶ三大処女神の一人でありながら、その活躍を伝える固有の神話はほとんどない

▼古代ギリシャの建物はメガロンと呼ばれる広間を中心に作られ、必ず丸いかまどがあった。その火の守り神がヘスティアだ。家庭の保護神だけに、おいそれと外出して大冒険を繰り広げるわけにはいかなかったということらしい(「火の神と精霊」新紀元社)

▼植民都市には母市から移送した聖火をともす祭壇があった。古代オリンピックが行われたオリンピアでもヘスティアの祭壇に火がともった。近代五輪の聖火の起源は安寧を願う神の祈りにあるといえる

▼東京五輪の聖火リレーがきょう福島県を起点に始まる。走者の辞退が相次ぎ、世論の盛り上がりを欠く中での実施となった。国威発揚のためナチスドイツが始めた行事でもある。平和や協調といった五輪の理念を見つめ直す必要があろう

▼コロナ感染を防ぐ対策も求められる。判断を一任された都道府県は重責を担う形だが、安全が最優先である

▼庭園の神プリアポスから昼寝中のヘスティアを守ったのは聖獣のロバだった。危険を察知し思い切りいななき、窮地から救った。ヘスティアにとっては外出を控えたいところだろうが、リレーの道中よからぬことが起きぬよう聖獣とともに見守っていただきたい。



聖火リレースタート/「希望のあかり」つながるか(2021年3月25日配信『新河北新報-「社説」)

 東京五輪の聖火リレーがきょう、福島県楢葉町、広野町のサッカー施設「Jヴィレッジ」をスタートする。7月23日に東京・国立競技場で行われる開会式に向け、121日間かけて全国を回る。

 新型コロナウイルスの影響で、国民の間には大会開催へ反対や不安が根強い。著名人ランナーの辞退も相次ぐ。大会組織委員会は、リレーを成功に導き、五輪への機運を高めたい考えだが、トラブル対応を誤れば、逆効果になりかねない。自治体と協力し、万全の対策が求められる。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地、福島県をスタートするリレーは、「復興五輪」を象徴するイベントでもあることを忘れてはならない。

 本来、沿道の鈴なりの観客に後押しされるはずの聖火リレーは、コロナ禍で変容を迫られている。

 組織委は「密にならないのであれば、積極的に観覧を」としながら、あくまで居住地付近での行動を呼び掛け、都道府県をまたぐ観覧は自粛を求める。インターネットでのライブ配信視聴も推奨する。

 仮に密が発生したと判断すれば、呼び掛けなどを行った上、走行を中止する可能性も明らかにしている。緊急事態宣言などが発令されている地域では、リレーを取りやめ、無観客でセレモニーだけを行う場合もあるという。

 リレーは組織委と各都道府県の実行委員会などが連携して実施するが、組織委側から感染対策や運用の指針がなかなか示されなかった。

 1カ月前に公表されたガイドラインでも、「密」の基準や走行中止を判断する条件、責任の所在などは明確にならず、組織委側の体制や「考え方」がまとめられたのは、今月に入ってからだ。後手に回った感は否めず、福島県の担当者は「遅すぎた」と批判する。

 組織委は「好事例や問題があった際の対応を、後に続くところと共有する」としており、序盤は手探りの対応を迫られることになる。立ち上がりでつまずけば、リレーだけでなく、大会への不安が一層膨らむ恐れがある。

 橋本聖子組織委会長は「復興は東京大会招致の源流」と強調する。聖火は延期決定前の昨年、ギリシャで採火され、東松島市の陸上自衛隊松島基地に到着。その後、宮城、岩手、福島の3県で、「復興の火」として展示された。トーチには、プレハブ仮設住宅で用いられたアルミニウムが再利用されている。

 3県では、被災から立ち直ろうとする人や、支援にかかわってきた人たちが走る。復興の先進地と途上にある地域の実情を世界に発信するとともに、支援への感謝を伝える機会でもある。

 「希望の道を、つなごう」。リレーのコンセプトがどう体現されるか、世界が注目している。



1939年に勃発した第2次世界大戦で、ヒ…(2021年3月25日配信『河北新報』-「河北春秋」)

 1939年に勃発した第2次世界大戦で、ヒトラーのナチスドイツ軍はチェコスロバキアに始まり、オーストリア、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリアへと攻め入った。この侵攻に、36年に開催されたベルリン五輪の聖火リレーが一役買ったという説がある

▼ドイツ政府は五輪史上初となる聖火リレーのためにルート途上の各国の道路事情を調査した。侵攻がリレーのルートを逆進したため、調査は軍事目的を兼ねていたというのだ。真偽はともかく、国威発揚の舞台となった五輪で聖火リレーが果たした役割は小さくない

▼こちらは盛り上がりに欠けた出立となりそうだ。東京五輪の聖火リレーがきょう、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」をスタートする。7月23日の開会式まで4カ月かけて全国を回る

▼最新の世論調査でも、コロナ禍の五輪開催に対して再延期や中止を求める声は約7割に上る。1都3県の緊急事態宣言が解除されたとはいえ、感染再拡大や変異株への不安は根強い

▼女性蔑視発言や女性の容姿を侮辱する開会式の演出案といった不祥事に加え、海外からの一般観客の受け入れ断念も影を落とす。「復興五輪」の理念がかすむ中、開催機運をどう高めていくのか。リレー走者たちが向かう先の視界は良好とはいえない。



【聖火リレースタート】県民の心を示そう(2021年3月25日配信『福島民報』-「論説」)

 一年延期となった東京五輪の聖火リレーがきょう二十五日、広野、楢葉両町にまたがるJヴィレッジからスタートする。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から十年を迎え、復興に向かう福島県の姿を世界に発信する好機となる。新型コロナウイルス感染症への対応も注目されており、七月の開幕まで続くリレーの手本を示したい。

 県内でのリレーは二十七日までの三日間、二十六市町村で実施される。二百六十五の走者枠が設けられ、合わせて約三百の個人・団体が走る。ルートは全県に及ぶ。津波被害に加え、原発事故の避難区域が設定された最大の被災地の浜通りや、度重なる水害に見舞われ、いまだ風評被害の残る中通り、会津地方を経て、郡山市の開成山公園でフィナーレを迎える。

 最大の課題はコロナ対策だ。Jヴィレッジでの出発式は無観客で行われ、各市町村で実施する式典も参加者が制限される。各会場では、感染対策に万全を期しながら、五輪ムードをいかに盛り上げるか工夫が求められる。

 沿道では、ようやく大舞台に立つ走者をできる限り応援したい。五輪組織委員会は、沿道の観覧客が肩を触れ合う程度に密接した状態や十分な間隔を空けずに複数列に重なり合っている場合を「密集」と定義した。「密集」と判断されれば、先導広報車や沿道のスタッフが移動を呼び掛けるが、解消しなければその区間や市町村単位の区間の取りやめを検討するという。

 沿道での県民の振る舞いは全国ばかりでなく世界から注目されるだろう。十年前の震災・原発事故発生直後、県民は避難所で食料などを受け取る際や給水車から水を補給する際に順番を守り、世界から称賛を受けた。混乱の中でも、周囲を思いやり、譲り合う精神は今回のリレーの場でも生かせるに違いない。復興の姿ばかりでなく、優しく、温かい県民性も伝えたい。

 聖火は百二十一日間かけて全国を巡り、七月二十三日の五輪開会式で聖火台に点火される。福島大特任准教授の前川直哉さんは、二十日付本紙に「聖火は福島を起点に、全国に散らばった被災地・被災者をつなぐためのリレー」と語った。

 県の二月八日現在のまとめでは、福島県を除く四十六都道府県で合わせて二万八千五百五人が避難生活を送る。福島から全国を巡る聖火には、全国に散らばる被災者と古里をつなぐ役割もあるのだと心に刻みたい。そして、避難生活の中の希望の光になることを願う。(安斎 康史)



花は咲く(2021年3月25日配信『福島民報』-「あぶくま抄」)

 桜の花芽は夏に形づくられた後、いったん休眠するが、冬の寒さで目覚めて成長が始まる。「休眠打破」と呼ばれる。厳しい冬を経なければ花は咲かない。つらい時間にも意味があることを教えてくれる。

 聖火リレーの延期決定からこの一年間は我慢の日々だった。きょう二十五日、福島県からスタートを切る。感染対策を徹底しながらという五輪史上、前例のない事態だ。沿道での観覧は可能だが、密集回避や大声を出さない応援など、さまざまな制限が課される。

 京セラ創業者の稲盛和夫さんは自著「京セラフィロソフィ」(サンマーク出版刊)で「率先垂範[そっせんすいはん]」の大切さを記す。意味は広辞苑に「人に先立って模範を示すこと」とある。仕事で部下や周囲の協力を得るには真っ先に自分で行動すべきと説く。職場だけに当てはまる教えではないだろう。

 聖火リレーの観客らの間で感染拡大が起きれば継続はできなくなり、五輪開催自体にも影響しかねない。最初にランナーが走る福島県で観覧する姿は全国の先例になる。ここはしっかりと行動で模範を示したい。後続がそれに倣えばきっと聖火は最後のランナーまで受け継がれる。その先に五輪成功という花が咲く。



聖火リレー出発 演出を凝らす必要はない(2021年3月25日配信『東奥日報』ー「時論」/『茨城新聞』/『山陰中央新報』-「論説」)

 東日本大震災と原発事故に見舞われた福島県では、多くの市民が10年後の今も希望を求めている。政府が「復興五輪」をうたう東京五輪の聖火リレーがその福島県から始まり、7月23日に大会のシンボルとして国立競技場の聖火台にともされるまで、全国の859市区町村を巡る。

 県内では7月4、5日の2日間、16市町村16区間で実施する。1日目はサッカー競技の会場である鹿嶋市の鹿島神宮を出発し、那珂湊おさかな市場(ひたちなか市)や袋田の滝(大子町)、日立市役所など県北・県央地域を巡る。2日目は県西・県南地域を回る。鬼怒川堤防決壊の碑(常総市)、牛久大仏(牛久市)などを走る。   観戦チケットを購入できなかった多くの人にとっては、わが町の沿道に立ち、聖火リレーに拍手を送るときこそが五輪を実感する瞬間となるだろう。

 1年の延期を経てようやく開催準備の最終段階に入るタイミングで、大会組織委員会の会長と開閉会式の企画・演出統括責任者が相次いで辞任に追い込まれた。

 前統括責任者は女性タレントの容姿を侮辱するような内容の演出を提案したことが分かり、強い批判を受けた。

 聖火リレーには600人もの「著名人ランナー」が参加する予定だ。イベントを盛り上げるには、一般市民だけでなく、人気のある芸能人や元選手が加わった方が効果があるとの考えのようだ。

 当初はそれで問題なかったかもしれない。しかし、コロナ感染の深刻さを直視すれば、組織委は昨年中に計画見直しに乗り出すべきだった。芸能人が五輪への関心が薄い市民の関心も高め、沿道に密を引き起こす恐れがあると見通せたはずだ。

 今になって「沿道が過剰な密になったら、スキップして次に進みます」「できるだけインターネットの中継を見てください」と市民に対して協力を要請している。自分たちで大勢の観衆を呼び寄せる仕掛けを作っておきながら、危険な状況になるかもしれないので来ないでほしいと言っても理解は得られない。

 海外からの観客を受け入れないと決めたときには、政府も東京都も組織委も「何よりも安全で安心に」と強調した。その方針と著名人ランナーの計画は矛盾する。

 式典のエンターテインメント化がますます鮮明になってきた。前統括責任者は5年前、リオデジャネイロ五輪の閉会式で、人気ゲームのキャラクターを装った安倍晋三前首相を登場させ、その軽妙さと奇抜さが注目を集めた。

 辞任の原因となった言動は、その延長線上で笑いと奇抜さを追求するあまり、許されない脱線を起こしたというほかない。

 笑いを誘う演出を全て否定するのは間違いだし、行き過ぎた堅苦しさが本来味わえるはずの楽しさを奪うのはごめんだ。

 しかし、ギリシャ・オリンピアの神殿跡で採火された聖火のトーチを掲げて走る、わが町の元五輪選手、若者、あるいは高齢の元気者を純粋に誇らしく、静かに見守りたいと願う市民も確実にいる。

 芸能人なしでも、立派で心温まる聖火リレーはできる。協賛企業が恐れるのは消費者でもある一般市民の反発だろう。演出をことさら凝らす必要はない。政府が本気なら、復興五輪に即した装いをさまざまな機会で考案すべきだ。



聖火リレー 世界再生の一歩としたい(2021年3月25日配信『産経新聞』-「主張」)

 東京五輪の聖火リレーは25日、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」で1年遅れのスタートを迎える。

 新型コロナウイルス禍の中、大会の開催に向けて日本が不退転の決意を世界に示す、意義深いイベントである。

 開会式が行われる7月23日の夜、国立競技場の聖火台に何としても「希望の火」を灯(とも)したい。

 そのためにも、全国の859市区町村を巡る聖火リレーは、関係者や観衆の安全を最優先に進めなければならない。

 聖火を無事に運ぶことは、新型コロナ禍の中で迎える東京大会の「安全、安心」を、世界に保証することにつながる。開催に懐疑的な国内世論を、歓迎ムードに変える転機にもなるだろう。

 Jヴィレッジでの出発式典は無観客で行われ、大会組織委員会はインターネットのライブ中継での応援も勧めている。

 しかし、聖火リレーは国民が五輪の開催を実感できる数少ないイベントだ。可能なかぎり、沿道で歓迎したい。

 運ぶ側と見守る側が、「3密回避」やマスクの着用、拍手による応援などを徹底すれば、121日間の日程も無事に乗り切れる。屋外である沿道での応援を、必要以上に恐れることはない。

 前回東京五輪の聖火はアテネで採火された後、中東やアジアの11都市を巡り、米軍統治下の沖縄に運ばれた。聖火がたどったルートには、政情不安や紛争を抱えた地域もあり、火薬庫の中を縫うような行程だったという。

 それでも聖火は各地で歓迎された。戦災からの復興を果たした東京に灯る火は、アジア各地の人々にとって「いつか自分たちの国でも」という希望でもあった。

 コロナ禍という困難の中で行われる今回の聖火リレーも、世界に向けて新たな希望を発信することができるはずだ。

 東京五輪の開催は、数々の自然災害や新型コロナ禍で傷ついた世界に再生をもたらす物語の第一歩になる。

 困難な状況の中でも、世界的なイベントを成し遂げたという日本の自信は、感染症に苦しむ世界の人々にとっても、光をもたらすはずだ。日本での聖火リレーが持つ最も大きな意味だろう。どんな向かい風にも消えない火があることを後世に語り継げるように。



聖火リレー(2021年3月25日配信『福井新聞』-「論説」)

国民の気持ちどう高める

 今年夏に延期となった東京五輪の聖火リレーがきょう福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」から始まる。昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大によりスタート2日前に中止になった。コロナ禍で大会に向けた機運はその後も醸成されていない。日本列島を巡る聖火が、少しでも大会と国民とを結ぶ役割を果たすよう願っている。

 聖火リレーは7月23日の五輪開会式まで121日間にわたり、全47都道府県を駆ける。福井県内も5月29、30日に全17市町を回るルートで行われる。

 Jヴィレッジでの出発式は無観客で実施されるが、大会組織委員会は、リレーを見ることの自粛は求めていない。「密を回避できるのであれば、ぜひ沿道で応援していただきたい」と、居住する都道府県内での観覧を推奨している。

 その際は、近くの人と適切な距離を取り、マスクを着用したうえで、大声は出さずに拍手で応援するよう呼びかけている。十分な間隔を空けずに列が重なり合い、一般通行に支障が生じかねない状態が解消されなければ、その区間の走行を中止することも検討する。

 呼びかけの一つ一つは感染予防対策として、今の日常生活の基本となっている振る舞いである。難しいことは何一つない。呼びかけを順守し、節度を持ってランナーの背を押したい。

 1964年の東京大会以来57年ぶりとなる「夏の聖火」をつなぐ大役を多くのランナーが果たす一方で、五輪の開催に疑問を抱き、その任を降りた人がいる。政府や東京都の新型コロナ対策が不十分だとして、聖火リレーの中止を検討している自治体もある。

 収束の見通しが立たないコロナ下で大会を開く意義は何なのか。菅義偉首相の「新型コロナに打ち勝った証しに」という言葉は、いわば後付けで、共感を得られるものではない。東京都も組織委も政府も、辞退したランナーの声に耳をふさぐことがあってはならない。組織委会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言や式典統括だった佐々木宏氏の女性タレント侮辱演出案により、大会のイメージは失墜するばかりである。国民が開催を望み、気持ちを高められるよう語りかけていかねばならない。

 聖火は古代ギリシャの家庭の炉の火が起源とされる。火には神が宿り、神殿にもともされた。そして町が新しくつくられると、神殿の火を分け、繁栄や平和を保ったという。その火を早く届けるためのたいまつの受け渡しが、聖火リレーとして受け継がれている。

 コロナ下の時代に私たちが受け継ぎ、次代に渡していくものとは―。列島をつなぐリレーの火を見ながら考えていきたい。



聖火リレー出発 新たな五輪像示すべきだ(2021年3月25日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 東京五輪の聖火リレーがきょう、東日本大震災の被災地・福島から始まる。約1万人のランナーが121日間かけて全国を巡り、つないだ聖火は7月23日の開会式で東京・国立競技場の聖火台にともされる。

 大会本番に向けた最大のイベントだが、待ちに待ったという高揚感は乏しい。新型コロナウイルスの感染対策で大々的なPRを避けてきた面もあろうが、大会組織委員会幹部の容認し難い言動による引責辞任が相次いだことも水を差したのではないか。

 海外からの一般観客の受け入れ断念も決まり、目指していた「完全な形」での五輪・パラリンピック開催はかなわなくなった。辞退者も相次ぐ中で参加を決意したランナーたちに気持ち良く走ってもらうためにも、大会組織委や政府は、開催の意義や新たな五輪像を改めて示すべきだ。

 海外客の受け入れ断念は、政府、東京都、大会組織委、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表による5者協議で合意した。変異株の出現を重く受け止め、安全安心な大会を実現するための苦渋の選択だ。

 選手らは入国後の行動が厳しく制限されるが、数百万人規模とされる観客の動きまでは把握できない。感染が広がるリスクを考えれば、やむを得ない判断だろう。

 とはいえ、失うものは大きい。

 五輪には206の国と地域から選手が参加する予定。多様な人々が集まる祝祭感の中で、多くの国際交流が生まれるはずだった。貴重な相互理解の機会を逸することは非常に残念だ。

 組織委の橋本聖子会長は「今の時代にふさわしい方法で人々をつなぐことができるよう、具体的な仕掛けを検討する」と語った。デジタル技術を駆使した新たな交流の形を、ぎりぎりまで追求してほしい。

 海外在住者向けチケットは63万枚が販売されており、すぐに払い戻しが始まる。ただ、各国の旅行代理店などが日本国内の宿泊や観光とセットにして販売したものもある。キャンセルに伴う混乱にも丁寧に対応してもらいたい。

 国内の観客数の上限は4月中に決まるが、現時点では収容人数の50%にとどめる案が検討されている。その際の経済的損失は1兆6千億円を超えるとの試算もある。五輪後のインバウンド戦略も練り直しが迫られよう。

 共同通信社が20、21日に実施した世論調査では、東京大会を今年夏に開くべきだとの回答は2割強にとどまる。感染拡大への不安が解消されない限り、国民の理解は得られないだろう。まずは変異株を踏まえた新たな感染防止策を、早急に示すべきだ。

 東京大会の観客規模は、今後の感染状況によって緩和もさらなる制限もあり得る。まずは聖火リレーを安全に運営することが、本番に向けた試金石となろう。ランナーは5月5、6日に県内を通過する。その頃には多くの懸念が払拭[ふっしょく]されていることを願いたい。



聖火リレー(2021年3月25日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 一昨年、本紙で連載した元陸上選手で1964年東京五輪の日本代表・岩下察男さん=宮崎市=の自分史「走却十三年」。ご本人はもちろんのこと、当時活躍した多くの一流選手の名勝負が、興味深かった。

 五輪直前の同年7月にあった日本選手権。5000メートルには岩下さんほか、マラソン代表の円谷幸吉、君原健二さんらが出場。円谷さんが日本記録を狙って飛び出したが、3000メートルすぎで止まってしまった。見ると、スパイクシューズが抜け、右足は素足だった。

 優勝は岩下さん、君原さんは5位、円谷さんは6位だった。3カ月後の東京五輪マラソン。円谷さんは陸上で唯一のメダル「銅」を獲得した。きょう福島県をスタートする聖火リレー。80歳になった君原さんは27日、早世した円谷さんの出身地である同県須賀川市を走る。

 東北地方のブロック紙河北新報の記事で知った。君原さんは現在、北九州市に住むが、福岡県からの打診を断って須賀川市を走るという。「円谷さんと共に尊い聖火を届けたい」と。賛否いろいろある今回の五輪だが、聖火ランナーを務める一人一人に、こうした思いがあるのは間違いないだろう。

 特に今も原発事故に苦しむ福島をはじめ、東北3県の人々には、複雑な思いが交錯しているようだ。だからこそ、これから聖火を迎える全国の各地では改めて被災地に対し強い思いを寄せたい。今大会の原点は「復興五輪」であったことを再度胸に刻みつつ。



[聖火リレー] 五輪開催への試金石だ(2021年3月25日配信『南日本新聞』-「社説」)

 東京五輪の聖火リレーが、きょう福島県からスタートする。4月27、28日の鹿児島県など全国をつなぎ、開会式の7月23日まで121日間にわたって約1万人のランナーが走る。

 新型コロナウイルスとの闘いに終わりが見えず、先日は五輪・パラリンピックとも海外からの一般観客を入れないことが決まった。国内でも大会の開催自体に悲観的な見方が収まらない中での出発である。

 それでも、聖火リレーは47都道府県859市区町村を巡る一大イベントとして、4カ月後に迫る五輪の試金石の役割を担う。沿道の応援をコントロールし、大会への機運を盛り上げるため、官民で協力して成功させたい。

 ランナーへの応募が重複を含め53万件を超えた聖火リレーだが、長引くコロナ禍で疑念を呈する意見も出ている。島根県の丸山達也知事は政府や東京都の感染対策が不十分だと指摘、県内のリレーを中止する意向を示す。

 共同通信社が先日実施した全国電話世論調査では、東京五輪・パラリンピックの今夏開催を望む人は23.2%だった。一方で中止するべきだとした人は39.8%に上り、否定的な声は依然、根強い。

 そんな中、政府、国際オリンピック委員会(IOC)などの代表による5者協議は、国外観客の受け入れを見送ることにした。五輪ならではの交流やにぎわいの場を失うのは残念だが、コロナに苦しむ世界の現実を直視すれば、やむを得ない判断だろう。

 大会の実現に向けて、次の重要な課題は、競技場の収容人員のどれぐらいの割合まで日本の観客を入れるかどうか、である。現時点では50%とする案を軸に検討されているとされ、4月にも5者協議で決めるという。

 判断に影響するとみられるのが、首都圏の緊急事態宣言解除後の日本全体の感染状況の推移だ。多くの人が沿道で応援する聖火リレーが大きく関わってくるのは間違いない。

 リレーでの感染拡大防止策として、大会組織委員会はランナーに走行2週間前から会食などを控えるほか、体調管理表の提出を求める。国民には居住地での応援自粛は要請しないものの、沿道の混雑を避けるため、インターネット中継の観覧も推奨する。

 組織委の武藤敏郎事務総長は聖火リレーが長期間にわたり、参加人数も多いことから、「恐らく陽性者は出るだろう」と予想。その上で「出たときにどう伝播(でんぱ)を防いだかが分かれば、国民の視線は変わる」とコロナ下での開催支持を広げたい考えだ。

 人々の不安を払拭(ふっしょく) するためには、トラブルが起きた際の臨機応変な対応と丁寧な発信が欠かせない。自治体を含む関係者には、しっかりと連携してリレーの運営に当たってもらいたい。





あすから聖火リレー/希望あふれる福島伝えよう(2021年3月24日配信『福島民友新聞』-「社説」)
 
 東京五輪の聖火リレーがあす、本県からスタートする。Jヴィレッジ(楢葉町、広野町)を出発する聖火は、7月23日の五輪開会式までの121日間で、約1万人のランナーがつないでいく。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う直前の延期から1年が経過したいまも、ウイルスが世界中で猛威を振るっている。感染防止対策を徹底した聖火リレーは、海外からも注視されている。

 大会組織委員会と県は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年が経過した本県の姿をありのまま伝え、コロナ禍で薄らいでいる「復興五輪」の理念を、多くの人が共有する機会にしなければならない。

 県内は3日間で26市町村の265区間、約51・7キロを巡る。PRランナーと公募枠、大会スポンサー枠の計約300人が聖火ランナーを務める。地元の小中学生ら445人も「サポートランナー」として後ろから追走する。

 復興のために地域で奮闘している人、スポーツなどの分野で活躍する人、本県の未来を担う若者など、さまざまなランナーが聖火をつなぐ。参加できなかった県民の思いも胸に力強く走ってほしい。

 大会組織委によるJヴィレッジでの出発式は無観客で、県が主催する相馬市での26日の出発式、市町村主催の関連行事は観客を入れて開催される。

 県内は沿道での観覧も規制はない。ただ観覧者が肩を触れ合うほど密接し、十分な間隔がなく複数の列に重なる場合は「密集」状態と判断し、移動や分散を呼び掛ける。再三の指導でも密集が改善されなかった場合、その区間でのリレーを取りやめる。

 聖火リレーは、五輪を身近に感じられる数少ない行事だ。県内での取り組みは46都道府県のモデルとなる。県や市町村は密集や混乱が生じないよう事前の呼び掛けを徹底し、観覧者も拍手での応援など注意事項を順守し、リレーを見守ってもらいたい。

 出発式や通過市町村では、地域の魅力や復興支援への感謝の気持ちを伝えるイベントなどが計画されている。Jヴィレッジなどは県産の花で飾り付けられ、リレーの一部区間では、浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」で製造された水素がトーチの燃料として使用される予定だ。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は聖火リレーについて「より良い未来を築けると全世界に示す象徴になる」と述べた。本県の未来が希望に満ちていることを伝える3日間にしたい。



あす聖火リレー(2021年3月24日配信『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 現れては、また雪にかき消されていた吾妻小富士の「種まきうさぎ」の輪郭がようやくはっきりし始めた。農業技術が進み、尺度は変わっているだろうが、昔はこのうさぎが姿を見せるのを待って農作業を始めていたとされる

 ▼哲学者の鷲田清一さんは、現代を「待つことができない社会」と評する。かつて「待つ」ことはありふれたことで、期待と不安の背反する思いが文化を醸成したという(「待つ」ということ・角川選書)

 ▼ちょうど1年前にさかのぼる。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、夏の東京五輪・パラリンピックを延期することが決まった。本県から始まるはずだった聖火リレーも、土壇場で中止となった

 ▼仕切り直しとなった聖火リレーがあす、Jヴィレッジを出発する。五輪開催への不安は依然として根強い状況にある。それでも、この日を信じ準備を進めてきた人たちの思いを背に、ランナーが県内を走り抜ける

 ▼鷲田さんは、待つことについて「希望が崩れたあとでも希望を養う最後の腐植土なのだろう」とも表現している。1年前よりも本県が前に進んだこと、成長したことはたくさんある。感謝の気持ちを込め、世界中の人たちに示す日が巡ってくる。



古代ギリシャでも…(2021年3月24日配信『毎日新聞』-「余録」)

 古代ギリシャでも祭典を盛り上げるたいまつのリレーはあったという。「ランパデドゥロミア」と呼ばれたそうだ。しかし、こと古代オリンピックでは聖火の採火も、リレーも、点火式も行われたことがない

▲オリンピアの迎賓館には常に「永遠の炎」がたかれていた。祭典の折には人々がいけにえをささげる祭壇でたく火をそこから採火していた。つまり聖火とは聖地でいつでも燃えている火だった(ペロテット著「古代オリンピック」)

▲太陽の光からの採火も、聖火リレーも、みな1936年のベルリン五輪から始まった。ナチスを古代ギリシャの栄光と結びつけたいヒトラー好みの演出だったが、戦後になっても聖火リレーは五輪を代表するイベントとして生き残る

▲昨年オリンピアで採火された聖火を7月23日の東京五輪開会式へと運ぶ聖火リレーが、あす福島県からスタートする。予定では全国859市区町村を約1万人の走者がリレーするが、すべては今後の各地のコロナ感染状況次第となる

▲あすも人気タレントが参加しながら、無観客での出発式となる。沿道の観客の密集が続けば中断する場合もあるとされ、著名人走者は公園など観客を制限できる場所を走るそうな。感染防止に異議はないが、はて何のためのリレーか

▲冷ややかな世論のなか“強行”ともみえる聖火の出発となるが、もちろん参加する走者や聖火の通過予定地では楽しみにしている方もおられよう。どうか密を避けての走者への声援、いや拍手をお願いする。



「お・も・て・な・し」(2021年3月24日配信『新潟日報』-「日報抄」)

 2013年9月、アルゼンチンで開かれた国際オリンピック委員会総会でのことだった。「お・も・て・な・し」。招致アピールで滝川クリステルさんはフランス語に交え、この日本語を紹介した

▼派手なジェスチャーが少し照れくさかったけれど、東京決定に歓喜したことを覚えている。この言葉は流行語大賞に選ばれ、五輪のキーワードにもなった。なのに海外からの観客受け入れ断念が決まるとは

▼数十万人を喜ばせるはずだった「おもてなし」はどうなる? 新型ウイルス禍のためとはいえ、ボランティアや観光関係者、スポーツ愛好者らの悔しさはいかばかりか

▼「おもてなしとは、見返りを求めない伝統のホスピタリティー精神」。滝川さんはこう訴えた。ただ、これまでを振り返ると、もてなす立場にはふさわしくない問題がいくつも持ち上がった

▼招致委員会の元理事長が買収疑惑でフランス当局の取り調べを受けた。新国立競技場はデザインが見直されエンブレムは盗用疑惑に揺れた。最近は大会組織委員会の会長が女性をさげすむ発言をし、開閉会式の統括役は優しさのかけらもない演出案を示し、ともに辞任した

▼02年のサッカーワールドカップではクロアチアが十日町市で事前合宿をした。その後も市民は交流を続け、この五輪もホストタウンとして支援する。感染禍の下、選手との直接のふれあいは難しいが、応援する心を届けたいと準備を続ける。さあ、エールをどう送ろうか。おもてなしの真価が問われている。



海外観客不在に 五輪の理念をどう伝える(2021年3月24日配信『山陽新聞』-「社説」)

 今夏に開催予定の東京五輪・パラリンピックは、海外からの一般観客の受け入れを断念する異例の形で行われることが決まった。政府や大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)など5者による協議で合意した。

 新型コロナウイルスの世界的感染に収束が見通せない状況下で、海外から日本への自由な入国を保証するのが困難との理由による。感染力が強いとされる変異株の広がりもあり、アスリートや国民の安全確保と不安を除く上でやむを得ない判断と言えよう。

 菅義偉首相は五輪・パラ開催に大きな期待を寄せてきた。コロナ禍で激減したインバウンド(訪日外国人客)を呼び戻し、経済再生の起爆剤にしたい思いからだ。今回の決定で旅行・観光業界などの痛手は大きかろう。

 だが、海外から大挙して日本を訪れる観客は、入国から出国まで徹底した管理下に置かれる選手とは異なり、行動を把握しにくい。感染が再拡大すれば、地域や医療体制に及ぼす影響は深刻だ。政権や大会に対する批判への危機感が断念へと向かわせた。

 裏返せば、固執してきた「完全な形」を崩してまでも開催に強い意欲を示したと言える。だが、コロナ禍での五輪・パラを危険視する声は根強い。開催ありきで突き進むことは慎むべきだ。

 大会を実施するためには、多くの課題をクリアしなければならない。海外在住者が購入したチケットは両大会合わせて約63万枚とされる。解約に伴って生じる収入減への手だてが求められよう。異例の事態を招いた理由や経緯の丁寧な説明も必要だ。

 一方で、スポンサーによる招待者の入国可否の問題もある。どこまで認めるのか。感染防止対策はどうするのか。一般海外観客との兼ね合いもあり、4月に示す予定の国内観客数の上限とともに注目される。状況の推移を踏まえた対応を望みたい。

 海外観客を断念しても、それで安全とは言えまい。全国から東京などの会場へ多くの人が動く。感染の再拡大を招かぬためにも、徹底した自己管理とともに医療体制の確保やワクチン接種の普及などに努めなければならない。

 五輪の理念は、各国から人々が集い、異文化などへの理解を深めて国際交流や平和の推進に貢献することにある。東京大会は「多様性と調和」を掲げる。

 そうした大会の意義を、海外観客が不在の中でどう世界に発信するのかも大きな課題だ。デジタル技術を駆使して、直接観戦できない人々に大会の楽しさや感動を伝える工夫が問われよう。

 25日から、いよいよ聖火リレーが始まる。これまで大会開催への取り組みを進める中で、理念を損なう問題が相次いで浮上した。原点に立ち返り、商業化や肥大化する大会の在り方とともに考える契機にしたい。



聖火リレー(2021年3月24日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 昨年末、東京電力福島第1原発を視察した際、日本サッカーの聖地「Jヴィレッジ」に宿泊した。広い敷地に複数のピッチやホテルなどを備える快適な施設だ。あす東京五輪の聖火リレーがここからスタートする

▲原発事故後は苦難の道のりだった。原発から約20キロ離れたJヴィレッジは収束作業の拠点に。当時の写真を見ると、緑の芝生は駐車場やプレハブ宿舎で埋め尽くされ、見る影もなかった。2年前に本来の姿を取り戻し、復興の象徴となっている

▲復興の明暗がよく見える場所でもある。周辺には住民が今も避難を続ける帰還困難区域が広がる。東京五輪は「復興五輪」を理念に掲げるが、原発事故からの復興は遠いのが現状。福島からの聖火リレー出発は歓迎一色ではない

▲その理念にしても、「新型コロナウイルスに打ち勝った証し」に軸が移った感がある。だが感染状況は厳しく、海外からの観客やボランティアの受け入れ断念が決まった

▲東京五輪を巡っては、大会組織委員会の会長や式典統括役が不祥事で相次ぎ辞任。世論は盛り上がっていない。肝心のコロナ収束も見通せず、これから大会本番までの道のりは困難で不透明だ

▲この状況下でも五輪を開催するなら、過度な演出を排し勝負の場に徹した運営になるはず。それは五輪本来の姿でもある。復興の象徴からスタートした先には「五輪自体の復興」が待つ―。そうなれば、災い転じてかもしれないが。



【海外観客断念】安全で簡素な五輪追求を(2021年3月24日配信『高知新聞』-「社説」)

 残念だが、やむを得ない判断だろう。東京五輪・パラリンピックで海外からの一般観客受け入れが断念された。

 世界的に新型コロナウイルスの感染状況が厳しい。日本は開催国として、国内外の人々が納得できる感染対策を示す必要に迫られている。

 今夏の開催に向けては、科学的な判断に基づいた「安全安心」が前提になる。国内の感染再拡大を食い止めながら、海外選手らを迎える体制づくりを急がねばならない。

 大会組織委員会と政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の5者協議で決まった。

 海外在住者向けチケットは計63万枚で、今後払い戻しに入る。海外在住の外国籍ボランティアの受け入れも原則的に見送る。

 国内観客の上限については、4月中に5者協議を再び行って方向性を決める。会場の収容人数の「50%」とする案を軸に検討されている。

 今回の決定は水際対策を厳しくする姿勢を示したものだ。とはいえ、大会本番は選手や大会関係者が数万人規模で来日すると見込まれる。

 いかに防疫措置を徹底できるか。変異株も念頭に置いて、期間中の検査体制の強化が欠かせない。

 地方での感染対策も重視しなければならない。全国各地で海外勢の事前合宿が計画されている。本県もチェコとシンガポールを受け入れる予定だ。組織委などは対策を担う自治体などを十分に支援し、受け入れ側の不安を払拭(ふっしょく)する必要がある。

 聖火リレーがあす、福島県から始まる。本来なら大会への機運が盛り上がる時期だが、依然として五輪開催に懐疑的な国内世論は根強い。

 共同通信の今月の全国電話世論調査では、今夏開催を望む人の割合は23・2%。一方、中止するべきだとした人は39・8%に上る。

 首都圏への緊急事態宣言は解除されたとはいえ、切り札とされるワクチン接種は十分に進んでいない。変異株も脅威となる中で、国民の感染再拡大への不安が「中止」世論につながっていると言えよう。

 国民の理解を少しずつでも広げていこうとするなら、組織委や政府は随時、最適と思われる運営方式に見直していくべきだ。競技ごとの実施方法や感染対策を、細やかに発信することなどが欠かせない。

 会場の収容人数も感染状況に応じて変わらざるを得ないだろう。どのくらいの感染レベルなら、無観客開催にするのか。国内外にさまざまな選択肢を示して、大会への支持を得ていくことが必要ではないか。

 今回の断念に伴い、観戦や交流の代替策にも工夫を凝らさなければならない。各国の人々が国際交流を深めたり、平和を推進したりする。それは五輪本来の大きな役割である。

 一方で、近年の五輪は華美になりすぎているとの批判も高まっていた。コロナ下の五輪は新しい形として、安全で簡素な大会を目指したい。スポーツ自体の魅力はそれでも十分に伝わるはずだ。



五輪聖火リレー 安全な大会への第一歩だ(2021年3月24日配信『西日本新聞』-「社説」)

 何のための五輪であり、東京大会なのか。再確認した上でスタートラインに立つべきだ。

 新型コロナウイルスの影響で1年延期となった東京五輪・パラリンピックの聖火リレーがあす、東日本大震災の被災地、福島県でスタートする。本来なら一気に大会本番のムードを盛り上げたいところだが、なかなかそうもいかない。

 リレーの実施自体が国内外の感染状況を見極めるため先週まで危ぶまれていた。加えて、海外の一般観客を受け入れないことを大会組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)などが決定した。

 五輪を契機にした国際交流の機会は失われ、来日客による経済効果も期待できないが、感染拡大を防ぎ、安全な大会を実現するには妥当な判断だろう。

 これまで国内では東京大会を「ウイルスに打ち勝った証し」と位置付けるといった前のめりの精神論が目立った。今回の判断はようやく現実を直視したとも言えるだろう。大会成功には国民の理解が不可欠であり、その土台として安全な大会実現へさらに万全を期してほしい。

 今後も、選手や関係者の受け入れ態勢を詰めていく必要がある。感染状況の推移によっては観客数の制限、無観客の選択もあり、中止の決断まで迫られる事態もあり得るだろう。医療提供体制も不十分な中、大会関係者の医療をいかに確保するかも難題だ。現実を踏まえた的確な判断が重要になる。

 聖火リレーにも大会同様の対応が求められる。安全な大会を実現する最初のハードルとなるだけでなく、成功と評価されれば大会の機運も高まるだろう。

 リレーは121日間で全国を巡る。沿道には多くの人が駆け付けるだろう。大会組織委によると、密集した場合は移動や分散を呼び掛け、状況によってその区間の中止も検討する。関係者に感染者が出たら代替の式典を無観客で開く可能性もある。継続を優先するようなことはせず、ネット中継を生かすなど臨機応変に対応してほしい。

 コロナの感染が日本より深刻な国は多い。予選ができない地域や種目もあり、このままでは公平な大会にならないとの指摘もある。中止や延期を求める声は国内外に根強い。そうした状況下で始まる聖火リレーは大会開催を確約するものではない。

 東京大会は、五輪に懸ける選手たちの熱い思いと、スポーツが私たちにもたらす多くの恩恵が実感できる場になろう。その実現のためにはコロナ対策に全力を注ぎ、今の日本にふさわしい大会を目指すしかない。聖火リレーのスタートは、その始まりでもある。





五輪海外客断念 安全の追求が開催国の責務だ(2021年3月23日配信『読売新聞』-「社説」)

 失うものは大きいが、安全な大会を実現するためには避けられない決断だと言えよう。新型コロナウイルスの感染再拡大を食い止め、開催をより確実なものとしたい。

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が、海外からの一般観客の受け入れを断念することで、政府や東京都、国際オリンピック委員会(IOC)などと合意した。海外向けに販売した63万枚のチケットは払い戻すという。

 五輪期間中の訪日客は100万人規模と見込まれていた。チケットの解約で、大会収入は大幅に減る。航空や宿泊などの業界が打撃を受け、国際交流の機会も失われよう。目指していた「完全な形」での開催はかなわなくなる。

 それでも現状をみれば、海外客を招くリスクはあまりに大きい。変異したコロナウイルスが世界中で猛威を振るい、感染者数は累計で1億2000万人を超えた。

 日本に入国後、厳しい行動制限がかかる選手らとは異なり、観客は動向を把握することすら難しい。海外客の受け入れ断念により、変異ウイルスの流入に伴う感染急拡大という恐れは小さくなる。

 ただ、これで開催が確約されたわけではない。大会を機に感染が拡大するとの懸念から、中止や延期を求める声は依然、根強い。感染対策を更に強化し、不安要素を着実に取り除かねばならない。

 当面は、感染の「第4波」を抑え込むことが最重要課題となる。検査を徹底し、病床や医療体制を戦略的に確保することが大切だ。国と自治体が連携し、ワクチン接種も円滑に進める必要がある。

 各種競技のテスト大会が4月に再開される。競技会場だけでなく、移動や宿泊など様々な場面で感染対策を入念に点検し、陽性者が出た際の対応力を高めてほしい。

 組織委は4月中に国内観客の収容人数の上限を示すという。感染状況を見極め、柔軟に対応すべきだ。来日する数万人の海外選手と大会関係者に、感染対策の徹底を図ることが重要になる。

 来日できない人も何らかの形で祭典の醍醐だいご味を味わえるよう、工夫を凝らしてもらいたい。

 組織委で不祥事が続いている。森喜朗・前会長の辞任に続き、開閉会式の演出統括者がタレントを侮辱する案を出したとして辞任した。五輪の理念を体現する式典には、世界の注目が集まる。早急に体制を立て直さねばならない。

 聖火リレーが25日に始まる。応援する側も感染対策を心がけ、4か月間の日程を乗り切りたい。



海外客見送り 五輪何のため、説明を(2021年3月23日配信『東京新聞』-「社説」)

 東京五輪・パラリンピックの新型コロナ対策として、海外からの観客受け入れ断念が決まった。経済効果は薄れ、世界の多様な人々との交流の機会も減る。何のための開催か、説明を求めたい。

 海外からの観客受け入れの見送りは日本政府が主導し、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などとの5者協議で合意した。

 最大の理由は新型コロナウイルス変異株への懸念である。世界保健機関(WHO)が危険視する英国など由来の株は従来型より感染力が強かったり、ワクチン効果が減ったりする懸念がある。

 国として厳しい水際対策に取り組む中、大会の観客だけを特別扱いにできず、入国見送りはやむを得ない。ただ、影響は甚大だ。

 海外からの観客は100万人とみられ、経済損失は宿泊や飲食などを中心に2000億円を超えるとの試算もある。地方も含め、特需を見込んで設備投資を進めたところは多く、落胆は大きいだろう。

 大規模な異文化交流の機会が失われることにもなる。外国人の案内を楽しみにしていたボランティアの意欲低下につながらないか。

 日本社会全体にとっても、価値観の異なる人々とのコミュニケーションが、国際化や活性化のカギになり得ただけに、残念だ。

 開幕4カ月前になってようやく固まった大会の形は、当初の期待とは大きく異なる。大会の恩恵や付加価値、得られると思っていた果実が次々にしぼみ、「何のために開催するのか」と、多くの人が疑問に思うだろう。

 大会は「スポーツには世界と未来を変える力がある」をビジョンに掲げ、政府や都、組織委の幹部らは「復興五輪」「コロナに打ち勝った証し」などと時流に合わせて美辞麗句を振りまいてきた。

 しかし、東日本大震災の被災地では人口減少が続き、事故原発の廃炉作業も遅れている。新型コロナの克服も道半ばだ。

 1兆6000億円もの巨費を投じる大会だ。政府や都、組織委は、開催の意義を国内外にあらためて説明する必要がある。

 25日には聖火リレーが福島県から始まるが、大会開催へのハードルは依然として高い。

 政府が昨年12月に打ち出した大会の感染防止対策は、変異株への懸念によって更新を迫られよう。「感染4波」の恐れがある中、多くの選手、国内の観客が安心できる、より実効性のある対策を講じることが急務だ。



五輪海外客断念 開催意義が問われている(2021年3月23日配信『新潟日報』-「社説」)

 スポーツを通した国際交流や平和の推進に貢献するという五輪本来の意義が十分果たされない異例の開催となる。

 海外観客を断念し、かつてない姿となってまでも開くことの意義が問われよう。

 東京五輪・パラリンピックで海外からの一般観客受け入れを断念することが決まった。

 大会組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)などの5者協議で合意した。

 新型コロナウイルスの変異株の感染が国内外で急速に広がっている状況を踏まえれば、妥当な判断だ。

 感染性が高いという変異株の広がりにより、特に欧州では感染「第3波」が襲来する深刻な事態となっている。

 国内では21日に緊急事態宣言が解除されたが、感染再拡大の恐れがある。切り札とされるワクチン接種も五輪までには行き渡らないとされる。

 海外向けのチケットは販売済みとなっており、ホテルのキャンセル料などを考慮すると、海外客の受け入れを巡る判断をこれ以上先送りすることはできなかったとみられる。

 本来、五輪やパラは、国籍や人種を超えた交流ができ、多様性を体感できる絶好の機会だ。しかし、海外客が国内を移動すれば感染リスクは高まる。

 ウイルス禍で苦境に陥り、大会開催に伴うインバウンド(訪日外国人客)需要に期待していた旅行業界へのダメージは大きいだろう。

 だが、海外客を受け入れ感染が拡大すれば、医療体制は逼迫(ひっぱく)し、経済の再生は困難になりかねない。

 今後焦点となるのは国内の観客数の制限だ。5者協議を再度開いて4月中に判断する方針で、会場の収容人数の「50%」案を軸に検討するとみられる。

 感染の動向を慎重に見極め、必要なら無観客や大会の中止、再延期も視野に入れ、しっかり議論してもらいたい。

 共同通信が20、21の両日に実施した世論調査では、今夏に開催するべきだとの回答は23・2%だったのに対し、中止するべきだは39・8%に上っている。多くの国民は依然として開催に懸念を抱いている。

 こうした状況下で、残念なのは、またも明らかになった大会関係者の差別的言動だ。

 五輪・パラ開閉会式の企画、演出統括役が昨年3月、式典に出演予定だったタレントの容姿を侮辱するような演出を関係者に提案していた。この統括役は事実関係を認め、辞任した。

 組織委では2月に女性蔑視発言で森喜朗前会長が引責辞任したばかりだ。

 あらゆる差別の解消をうたう五輪憲章を踏みにじる言動に海外からは再び厳しい視線が向けられている。

 25日には聖火リレーが福島県でスタートする。

 ウイルス禍の中で、東京五輪を開く意味はどこにあるのか。世界に何を発信する五輪としたいのか。そうしたビジョンを内外に示す責任がある。



五輪海外客断念 失われた意義、どう補う(2021年3月23日配信『中国新聞』-「社説」)


 東京五輪・パラリンピックに海外からの一般観客を受け入れないことが決まった。大会組織委員会や政府、国際オリンピック委員会(IOC)など5者の代表が合意した。

 世界中で変異株が広がるなど新型コロナウイルスの感染状況が依然厳しい現状を考えれば、当然の判断ではある。

 海外からは開催自体を危ぶむ声さえ出ていた。何としても開催するために、苦渋の選択をしたという面もあるのだろう。

 しかし、その影響や代償は大きい。まず訪日客による国内への経済効果がほぼ消える。

 さらに、世界各国の人々の出会いや相互理解を深める機会も失われる。スポーツを通した交流から平和な世界を目指す五輪の根本理念が薄らいでしまう。

 このまま五輪を開催する意義があるのか―。開催すること自体に、内外からそんな疑問の声も聞かれる。

 新聞通信調査会が海外5カ国で実施した世論調査では「中止すべきだ」と「延期すべきだ」という回答の合計がどの国でも7割を超えた。

 日本は改めて、開催の意義と新たな五輪像を提示し、発信する必要がありそうだ。

 また、海外客の受け入れを断念したからといって、大会開催が保証されるわけではない。

 各国要人やスポンサーら関係者はどういう扱いにするのか。そして何より、各国選手団の受け入れは大丈夫なのか。安全、安心な開催へ対策を練り、準備を進めねばならない。

 あさって福島県から聖火リレーがスタートする。開幕まで4カ月という時期に、海外客受け入れの断念が決められた。

 前例のない決定だ―。海外メディアは驚きと失望を込めて報じた。日本政府が「完全な形で開催する」と強調してきただけに衝撃は大きいようだ。

 選手たちからは「やむを得ない」といった冷静な受け止めが聞かれた。しかし経済界には失望が広がっている。

 海外客の滞在を見込んでいた宿泊業をはじめ、観光業界には相当な痛手となる。

 海外一般客を入れず、さらに観戦者も収容人数の半分に制限した場合、経済的損失は1兆6千億円以上という試算もある。五輪の海外観光客が日本を再訪する機会も失われるとみる。

 とはいえ東京五輪は、既に国際社会から冷ややかに見られていた。大会幹部の信じ難い言動が相次いだためだ。

 組織委前会長の森喜朗氏による女性蔑視とも取れる発言に続き、開閉会式の企画、演出の統括役である佐々木宏氏の不適切な演出案が明らかになった。出演予定だったタレントの容姿を侮辱する内容である。

 「多様性と調和」を大会ビジョンに掲げていながら、全く正反対の言動が相次ぐ。その意味で日本開催が疑問視されても仕方あるまい。

 人類が新型コロナに打ち勝った証しとして開催する―。菅義偉首相は事あるごとに繰り返してきたが、今はむなしく響く。開催による政権浮揚の思惑もあったのだろう。だが世界は安全に、無事に開催できるかどうかを注視している。

 コロナ対策を徹底することは最低限の責務である。レガシーどころか、汚点を残すような大会にしてはならない。 



海外五輪観客断念/熱を冷まさない努力を(2021年3月23日配信『山陰中央新報』-「論説」)

 新型コロナウイルスの世界的な感染収束が見通せない中、東京五輪・パラリンピックに海外からの一般観客を受け入れないことが決まった。

 政府、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表による5者協議は安全で安心な大会を実現するためにはやむを得ないと、正式に合意した。

 五輪には206の国と地域から選手が参加する。選手の家族や友人、熱心なファンは大会開催都市に足を運び、観客席で声援を送り、開催国の市民と競技場の周辺で、そして街角で小さな交流の輪をいくつも築く。

 五輪ならではの喜びにあふれた国際的なにぎわいを感じ取ることができなくなるのは残念だ。しかし、楽しい日常が失われた世界の現実を直視すれば、私たちも決定を受け入れざるを得ない。

 組織委の橋本聖子会長は時代にふさわしい方法で、人々をつなぐことができるよう具体的な検討を進めると語った。

 オンライン会議の技術などを想定し、楽しさと温かい気持ちをやりとりする交流の場をデジタル空間につくり出せないか、研究するとの意味だろう。五輪の理想は持ち続けたいとの意思表明とも受け取れる。

 大会に対する海外の期待と熱が冷めることがないよう、知恵を絞り、精いっぱいの努力を続けてほしい。

 海外在住のボランティアについても政府と組織委は当初、受け入れを見送る方針だった。しかし、特定の競技に精通し、陸上をはじめ各国際競技連盟から信頼されている人については、特別措置での入国が可能か検討に乗り出した。

 そうした経験豊かなボランティアはスムーズな競技運営に欠かせないとの認識が当事者間で共有されたのかもしれない。

 東京都など競技会場を抱える自治体は、空港や鉄道のターミナル駅などで、海外からの観客にきめ細かな案内をすることを主な目的とした都市ボランティアを確保している。当然、この計画も見直すことになるだろう。内定している人は気の毒だが、活動を諦めなければならないケースも出るのではないか。

 海外での一般向けチケットは63万枚が販売された。すぐに払い戻しの作業が始まる。各国の旅行代理店などが扱ったチケットには、組織委の責任が及ばない宿泊や日本国内の観光旅行とセットになっているものもある。

 キャンセルに伴う混乱が広がることを抑えるためにも、組織委は側面から支援できるものがあれば、できる範囲で情報を提供すべきだ。

 次に待ち受ける大きな課題は、日本の観客について競技場の収容人員の何パーセントまで認めるかの決定だ。政府のイベント制限の方針に沿ったものになり、現時点では50%とする案を軸に検討されている。

 4月中に再度5者協議を開いて上限を決め、ワクチンの接種が進むなどして国内の感染状況が改善すれば、5月か6月に50%以上に緩和する可能性もあるという。合理的な手続きではある。

 しかし、全ては日本全体、中でも首都圏での感染状況が今後どのように推移するかにかかっている。緊急事態宣言の解除で多くの市民が気を緩め、感染が拡大すれば、観客規模は逆に50%未満に制限されるかもしれない。市民の決意が試される。



海外五輪観客断念(2021年3月23日配信『佐賀新聞』-「論説」)

熱を冷まさない努力を

 新型コロナウイルスの世界的な感染収束が見通せない中、東京五輪・パラリンピックに海外からの一般観客を受け入れないことが決まった。

 政府、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表による5者協議は安全で安心な大会を実現するためにはやむを得ないと、正式に合意した。

 五輪には206の国と地域から選手が参加する。選手の家族や友人、熱心なファンは大会開催都市に足を運び、観客席で声援を送り、開催国の市民と競技場の周辺で、そして街角で小さな交流の輪をいくつも築く。

 五輪ならではの喜びにあふれた国際的なにぎわいを感じ取ることができなくなるのは残念だ。しかし、楽しい日常が失われた世界の現実を直視すれば、私たちも決定を受け入れざるを得ない。

 組織委の橋本聖子会長は時代にふさわしい方法で、人々をつなぐことができるよう具体的な検討を進めると語った。

 オンライン会議の技術などを想定し、楽しさと温かい気持ちをやりとりする交流の場をデジタル空間につくり出せないか、研究するとの意味だろう。五輪の理想は持ち続けたいとの意思表明とも受け取れる。

 大会に対する海外の期待と熱が冷めることがないよう、知恵を絞り、精いっぱいの努力を続けてほしい。

 海外在住の外国籍ボランティアについて、組織委は原則的に受け入れを断念すると発表した。しかし、一部の大会運営に不可欠なボランティアについては特別措置を講じて受け入れる方向で検討するという。

 そうした経験豊かなボランティアは必要だとの認識が当事者間で共有されたのだろう。日本在住のボランティアと共に頑張ってほしい。

 東京都など競技会場を抱える自治体は、空港や鉄道のターミナル駅などで、海外からの観客にきめ細かな案内をすることを主な目的とした都市ボランティアを確保している。当然、この計画も見直すことになるだろう。内定している人は気の毒だが、活動を諦めなければならないケースも出るのではないか。

 海外での一般向けチケットは63万枚が販売された。すぐに払い戻しの作業が始まる。各国の旅行代理店などが扱ったチケットには、組織委の責任が及ばない宿泊や日本国内の観光旅行とセットになっているものもある。

 キャンセルに伴う混乱が広がることを抑えるためにも、組織委は側面から支援できるものがあれば、できる範囲で情報を提供すべきだ。

 次に待ち受ける大きな課題は、日本の観客について競技場の収容人員の何パーセントまで認めるかの決定だ。政府のイベント制限の方針に沿ったものになり、現時点では50%とする案を軸に検討されている。

 4月中に再度5者協議を開いて上限を決め、ワクチンの接種が進むなどして国内の感染状況が改善すれば、5月か6月に50%以上に緩和する可能性もあるという。合理的な手続きではある。

 しかし、全ては日本全体、中でも首都圏での感染状況が今後どのように推移するかにかかっている。緊急事態宣言の解除で多くの市民が気を緩め、感染が拡大すれば、観客規模は逆に50%未満に制限されるかもしれない。市民の決意が試される。(共同通信・竹内浩)



多様性の尊重が開く新しい世界(2021年3月23日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 リオデジャネイロ五輪の女子柔道57キロ級で、金メダルを獲得したブラジルのラファエラ・シルバ選手が、胸を張った。「オリに閉じ込められていたサルが、チャンピオンになった」と。前回ロンドン五輪でメダルを逸し、「サルはオリの中にいろ」と、差別的な中傷を受けたことへの4年越しの反論だった

▼スラム街出身のシルバさんは黒人で、性的少数者でもあることを表明している。リオ五輪のテーマであった多様性の尊重が開く新しい世界を、まさしく体現する存在だった

▼そのリオ五輪の閉会式に当時の安倍晋三首相が、ゲームキャラクターにふんして登場した時、少々首をひねった。視覚的には面白いけれど、いったい何のメッセージを発しているのか、と。そんな疑問が先日、はっきり落胆と化した

▼「安倍マリオ」も手掛けていた式典統括役、佐々木宏氏の東京五輪開会式の演出案である。週刊文春によると、タレントの渡辺直美さんをブタ役とした内容には「宇宙人家族が飼っているブタ=オリンピッグが、オリの中で興奮している」との記述もあったという

▼大会組織委の森喜朗前会長に続く佐々木氏の辞任、そして海外観客の受け入れ断念も決まった。今夏の開催を控えて、東京五輪・パラリンピックは、重ねての仕切り直しである

▼大会運営は、さらなる簡素化を迫られることになるだろう。そのそぎ落とす作業の中で、私たちが世界に示したいテーマは何かを、改めて明確にしたい。少なくともオリの中への逆戻りではないはずだ。



海外五輪観客断念(2021年3月23日配信『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆期待と熱が維持できるか◆

 新型コロナウイルスの世界的な感染収束が見通せない中、東京五輪・パラリンピックに海外からの一般観客を受け入れないことが決まった。

 五輪には206の国と地域から選手が参加する。選手の家族や友人、熱心なファンは大会開催都市に足を運び、観客席で声援を送り、開催国の市民と小さな交流の輪を築く。五輪ならではの国際的なにぎわいを感じ取ることができなくなるのは残念だ。しかし、楽しい日常が失われた現実を直視すれば、決定も受け入れざるを得ない。

 大会組織委員会の橋本聖子会長は時代にふさわしい方法で、人々をつなぐことができるよう検討を進めると語った。オンライン会議の技術などを想定し、楽しさと温かい気持ちをやりとりする交流の場をデジタル空間につくり出せないか、研究するとの意味だろう。大会に対する海外の期待と熱が冷めることがないよう知恵を絞り、精いっぱいの努力を続けてほしい。

 海外在住の外国籍ボランティアについて、組織委は原則的に受け入れを断念すると発表した。しかし、一部の大会運営に不可欠なボランティアについては特別措置を講じて受け入れる方向で検討するという。そうした経験豊かなボランティアは必要だとの認識が当事者間で共有されたのだろう。日本在住のボランティアと共に頑張ってほしい。

 東京都など競技会場を抱える自治体は、空港や鉄道のターミナル駅などで、海外からの観客にきめ細かな案内をすることを主な目的とした都市ボランティアを確保している。当然、この計画も見直すことになる。

 海外での一般向けチケットは63万枚が販売された。すぐに払い戻しの作業が始まる。各国の旅行代理店などが扱ったチケットには、組織委の責任が及ばない宿泊や日本国内の観光旅行とセットになっているものもある。キャンセルに伴う混乱が広がらないよう、組織委はできる範囲で情報を提供すべきだ。

 次に待ち受ける課題は、日本の観客について競技場の収容人員の何%まで認めるかの決定だ。政府のイベント制限の方針に沿ったものになり、現時点では50%とする案を軸に検討されている。4月中に再度協議して上限を決め、ワクチンの接種が進むなどして国内の感染状況が改善すれば、5月か6月に50%以上に緩和する可能性もあるという。

 しかし、全ては日本全体、中でも首都圏での感染状況が今後どのように推移するかにかかっている。緊急事態宣言の解除によって感染が再拡大すれば、観客規模は逆に50%未満に制限されるかもしれない。市民の行動が試される。





五輪海外客断念 新たな大会の姿発信せよ(2021年3月22日配信『産経新聞』-「主張」)

 東京五輪・パラリンピックは、海外からの観客受け入れを断念した。新型コロナウイルス禍は収束せず、変異株が世界で猛威をふるう中で、極めて残念だが仕方のない判断といえるだろう。

 この機に、肥大化の一途をたどる五輪の、あるべき新たな姿を、東京から発信してほしい。

 五輪の醍醐味(だいごみ)は、世界の一流選手や観客が一堂に会するところにある。その興奮を日本は、2年前にラグビーの、2002年にはサッカーのワールドカップ開催で味わった。五輪では、より広範囲な世界の人々と交流を深め、互いの文化に触れあうことができるはずだった。その機会を失うことに失望は大きい。

 ただしこれで、五輪の主役である世界のトップアスリートを招き入れる光明を残すことができたと、前向きにとらえたい。

 自国ファンの歓声が直接届かない中で、彼ら彼女らに、どう持てる力を存分に発揮してもらうか。また、直接観戦がかなわない世界の五輪ファンに、どう会場の高揚を伝えるか。ここからは、工夫の勝負となる。

 大会組織委員会の橋本聖子会長は「来日できない選手の家族に何かしら楽しんでいただけることができないか。海外から見に来られなくても全員が参加できる大会にできないか」と話した。

 また、「テクノロジーを活用し、世界と一体感をもって歓迎されるようにしたい。それは日本の得意分野だ」とも述べた。

 この実現には、権利関係に厳格な国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)による一定の緩和も必要だ。異例な形での五輪開催であり、柔軟な対応を求めたい。

 五輪は世界最大の国際スポーツ競技会である。その原点に返って華美やぜい肉を廃す好機となる。過剰な演出がなくても、世界の最高峰を競う選手らの真剣勝負は、十分に感動を呼ぶはずだ。

 満員の観衆で各国選手を迎えるという理想的な姿は、現在の世界の感染状況をみれば望むべくもない。4月中には、国内の観客数や入国を許可する大会関係者の上限に方向性を示す。

 できるだけ多くの観客が入場できることを望むが、前提は新型コロナの感染状況だ。五輪開催の希望は、感染収束への切なる願いと同義である。



五輪・パラの海外客(2021年3月22日配信『福井新聞』-「論説」)

受け入れずとも残る課題

 今年夏の東京五輪・パラリンピックについて、海外からの観客受け入れを断念することになった。世界中から人々が集い、スポーツの祭典を通じて交流を深めることは大会の大きな意義だ。ボランティアはじめ、海外の人々へのもてなしを楽しみにしていた人には残念な結果だろう。しかし、この判断はやむを得まい。

 新型コロナウイルスをめぐっては、約130の国・地域でワクチン接種が始まっている。しかし、累計感染者数は世界で約1億2千万人を超え、収束の見通しは立たない。原則として外国人の新規入国を認めていない日本でも変異株の確認が相次いでおり、地域によっては感染再拡大の傾向もうかがえる。

 国内の観客に限定するとの結論に行き着くのは自然なことだ。むしろ、決定までに時間がかかりすぎた感がある。もっと早くに決めておけば、進められた対策はあったはずだ。

 インバウンド(訪日外国客)需要を喚起し、経済再生に結びつけたいとの期待を抱いた人もいたと思う。だが、海外からの観客に行動制限を課すのは難しい。入国後の隔離措置や公共交通機関の利用禁止といった策は現実的でなく、往来が感染拡大につながる恐れは十分にある。そうした不安を国民が抱いたままでの大会の成功などあり得ない。

 海外の観客を受け入れないにしても、開催に向けた課題は山積している。

 何よりも、観客数の上限設定は急がねばならない。会場の収容人数の「50%」とする案を軸に検討されているといい、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も交えた20日の5者協議では、上限の方向性を4月中に示すことを改めて確認した。

 バッハ会長は以前「(観客の上限判断は)5、6月の事態の進展も反映できるようにしたい」と、当初の4月から先送りする可能性を示していた。

 観客に関わる課題は、販売方法や払い戻し、再抽選などチケットに直接まつわるものにとどまらない。ボランティアや医療の体制、輸送の構築といった面にも及ぶ。ただでさえ時間は限られているのに、判断を延ばすのは混乱を大きくするだけだ。4月という当初の方針が守られたのは当然である。

 大会の1年延期で経費は約3000億円増えた。そのうえ約900億円ものチケット収入が減れば、大会組織委員会には痛手だろう。しかし、収容人数「50%」案にとらわれず、厳しい目で検討を続けてもらいたい。直前の感染状況によっては無観客も排除すべきでない。「完全な形」はもはやない。開催の大前提が安全・安心であることは、繰り返し唱えたい。



文士たちの五輪(2021年3月22日配信『高知新聞』-「小社会」)

 1964年の東京五輪は名だたる文士たちが随想を残し、「筆のオリンピック」ともいわれる。それらを網羅した講談社編「東京オリンピック」を読むと、作家の故菊村到さんが閉幕の日、〈やってみてよかった〉と書いている

 前回の五輪も、開催が決まった直後から国民がこぞって支持したわけではない。巨額の経費。施設や道路などの受け入れ態勢。多くの人々には国が背伸びしているようにも見え、当初は時期尚早論や返上論も語られた

 菊村さんは、作家たちの随想にも冷笑型と感動型があったとし、自らはどちらかといえば感動型だったと面白がる。五輪の開催は〈富士山に登るのと同じで、一度は、やってみるべきだろう。ただし二度やるのはバカだ〉
 
 軽妙にまとめた菊村さんも東京で2度目があり、感染症の直撃を受けるとは思いもしなかっただろう。大会組織委員会や政府などが、海外からの一般客受け入れを正式に断念した。国際交流や平和への貢献といった五輪本来の意義が、十分果たせそうにない雲行きだ

 政府には聖火リレーを前に国民の不安を拭う狙いがあったという。ただ、思惑通りに大会に懐疑的な世論は好転するのかどうか。見通しが立たないコロナ収束に加え、運営側に日本人の人権感覚が疑われるような不祥事が続く

 「やってみてよかった」と言える五輪への道。今度は富士山どころではない難峰に見えて仕方がない。





五輪海外客断念 開催可否の指標が必要(2021年3月21日配信『北海道新聞』-「社説」)

 東京五輪・パラリンピックの海外客受け入れ断念が決まった。

 大会組織委員会、東京都、政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の5者が合意した。

 新型コロナウイルスの感染状況を考えれば当然だが、むしろ、こだわってきた「完全な形」を崩してでも開催を目指す姿勢が鮮明になったのではないか。

 この先も難題が待ち受ける。開催ありきの姿勢を改めるべきだ。

 五輪を人の健康と生命に優先させてはならない。関係機関はそう肝に銘じ、開催の可否を判断する指標を早急に示す必要があろう。

 海外客へは60万枚超のチケットが販売済みという。通常の入国で課せられる2週間の隔離が免除される点などが問題視されていた。

 変異株感染も広がる現状を踏まえ日本側が海外客なしを申し出てIOCとIPCが受け入れた。

 菅義偉首相はこの五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と述べていた。

 海外客がいなくなり、この理念を実現できるのだろうか。

 客は入れなくても、選手やスタッフ、要人など数万人規模の入国が見込まれる。

 選手向け対策として組織委は4日ごとの検査などを定め、2月に行われたテニスの全豪オープンの運営も参考にする。

 しかし、千人規模の全豪オープンでも、感染者が確認されたチャーター機に同乗していた選手たちが隔離され、練習環境に差が出るなどの混乱があった。

 五輪ではより大規模かつ緻密な感染対策が欠かせない。

 国内客をどう制限するかは4月中に決めるという。五輪を感染拡大の引き金としないよう、無観客も選択肢に入れるべきだろう。

 1万人以上が必要とされた医療スタッフはコロナ対策で増員が不可避だが、確保の見通しは立っていない。医療現場は逼迫(ひっぱく)しており、協力を得るのは容易ではない。

 25日には聖火リレーが始まり、開幕は4カ月後に迫る。なのに開閉会式の演出統括者がタレントの容姿を侮辱するような案を出していたことが判明して辞任した。

 国民の五輪への視線は厳しさと冷ややかさを増している。

 国民の支持のない状況は選手たちも望んでいないはずだ。

 進むにしても退くにしても国民の理解が欠かせない。関係機関には安全優先の判断が求められる。



「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証…(2021年3月21日配信『河北新報』-「河北春秋」)

 「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして開催する」。1年延期された今夏の東京五輪・パラリンピックに向け、こう繰り返してきた菅義偉首相。現実と懸け離れた文言に、驚き、違和感を覚えた

▼誘致の際も同じ思いをした。当時の安倍晋三首相がスピーチで述べたのは「フクシマは制御されている」。東京電力福島第1原発事故の爪痕は大きく、多くの被災者が古里に戻れないままだというのに

▼反感を抱かせたのは、いずれも開催最優先の姿勢が見て取れたから。今の状況も変わりないように映る。新型コロナの感染が収まらない中、どうしたら開催できるかという視点から準備が進む

▼最大の課題とされた海外からの一般客の受け入れを断念することが決まった。25日には聖火リレーが福島県楢葉町、広野町のサッカー施設「Jヴィレッジ」をスタートする。共同通信社による2月の全国電話世論調査では、いまだ80%以上が今夏開催の見直しを求めている

▼「(大会を)中止にするべき時が来た」。今月初め、英紙タイムズにコラムが掲載された。「日本のみならず世界へのリスクは大き過ぎる」「いかなる対策を講じても人々は感染し、亡くなる人もいるだろう」とも。世界が抱く不安にどう応えるのか。課題は多く、責任も重い。



五輪式典統括辞任 立て直しへ価値観更新を(2021年3月21日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 東京五輪・パラリンピックの開閉会式の企画・演出を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が辞任した。出演予定だった女性タレントの容姿を侮辱する内容の演出をチームに提案していたことが週刊誌で報じられ、責任を取った。

 大会組織委員会では、森喜朗前会長が女性蔑視発言で2月に引責辞任したばかり。五輪開幕が約4カ月後に迫り、開催機運を盛り上げるべき時期に、さらなる失態である。

 運営に携わるリーダーの人権意識の低さを、世界中に印象付けてしまった。大きく傷ついた大会イメージを取り戻すことは容易ではない。組織委は古い価値観を更新し、大会ビジョンの一つである「多様性と調和」の実現に向けた立て直しを急ぐべきだ。

 佐々木氏の謝罪文によると、同氏は昨年3月、演出チームのメンバーに対し、タレントの容姿を動物に例えるプランをLINE(ライン)で提案した。こうした発想は、外見的特徴で人を評価するルッキズム(外見至上主義)に基づく差別や偏見である。「チーム内のざっくばらんなやりとり」といえども、許されないと認識すべきだろう。

 ただ、佐々木氏の提案はメンバーの批判を受け撤回された。せめてもの救いである。最初に女性メンバーが「気分よくないです」と問題提起し、他のメンバーも反対意見を出したという。

 意思決定の場に多様な人材が加わることの重要性が示されたのではないか。顔触れを整えるだけでは不十分で、自由に意見を出せる場の雰囲気や、異論を受け入れるトップや組織の柔軟さもそろって初めて、意義あるものになる。

 組織委の橋本聖子会長は、佐々木氏の言動を「あってはならない」と陳謝しつつも、開閉会式の演出は「一からつくり上げるのは困難」として、現プランを踏襲する方針を示した。

 時間がないとはいえ、一度信頼を失った人物のアイデアを残したままで、感動の晴れ舞台となるのだろうか。発信するメッセージが世界に響くだろうか。可能な限りの見直しを検討すべきだ。

 大会ビジョンに加え、誘致の際に旗印としてきた「復興五輪」の理念も大事にしたい。共同通信の調査では、東日本大震災で被災した住民の6割超が東京五輪を「復興に役立たない」と答えた。被災者も納得できる大会へ、仕切り直しの機会にもしたい。

 大会組織委はきのう、東京都、政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の5者協議を開き、海外からの観客受け入れ断念を正式に決めた。しかし、国内の観客の扱いなど課題はまだ残されており、そもそも大会開催には懐疑的な見方が広がっている。

 「国民に歓迎される大会」を実現するには、五輪に関わる全てのリーダーがコロナ禍での開催意義を問い直し、改めて国民の共感を得る必要がある。





五輪聖火リレー 感染防止へ柔軟対応を(2021年3月18日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 東京五輪の聖火リレー開始まであと1週間となった。25日に福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」(楢葉町、広野町)からスタートする。全国859市町村で約1万人が走り、121日間続く一大イベントである。

 リレーがきっかけで新型コロナウイルスの感染が拡大するようなことがあれば、五輪開催の可否にも影響しかねない。感染症対策は最重要課題だ。

 大会組織委員会は「3密回避」を基本とした対策の詳細を公表している。聖火ランナーは2週間前から会食を控え、体調管理表を提出。沿道の観覧者はマスクを着用し、大声を出さずに拍手で応援する―などの注意事項の順守を呼び掛けている。

 昨年は感染拡大により、聖火リレーがスタートする2日前に五輪・パラリンピックの延期が決まった。現在は感染者数が減少傾向にあるとはいえ、昨年春の最初の感染拡大期の水準を上回っている。

 懸念されるのは英国、南アフリカ、ブラジルなどで確認された変異型の感染者が国内でも出ていることだ。従来型よりも感染力が強いとされ、「第4波」を引き起こしかねない。

 聖火リレーの運営スタッフは400~500人と見込まれ、チームで全国を回る。ランナーにもスタッフにも観覧者にも、感染リスクが大きい状況となりやすい。

 聖火は本県では6月8、9日の2日間、14市町村を回る。聖火リレーは開催地以外で五輪を最も身近に感じられる機会であり、機運を高めるという大きな役割がある。無事に終われば大会開催に向けて大きな弾みがつくだろう。

 だがクラスター(感染者集団)が発生するようなら、五輪開催が危ぶまれる事態になる。組織委が聖火リレーを「リトマス試験紙」と捉えるのも当然だ。

 開幕まで約4カ月。著名人ランナーの辞退が相次ぎ、歓迎ムードが高まっているとは必ずしも言い難い。橋本聖子組織委会長は大会開催は決定済みとしながらも「国民に安心感を持っていただかない限り、開催は難しい。無理やり、何が何でも(開催する)との考えではない」と語った。前のめりに突き進みはしないという意味だろう。

 居住する都道府県以外での観覧は控えてもらうほか、沿道の密集を避けるため、インターネットのライブ中継の視聴を促している。過度の密集が発生した場合にはリレーを中断する可能性も示すなど、大会機運の盛り上げと感染防止の間で組織委の苦慮が続いている。

 1964年以来、57年ぶりの日本での夏季五輪となる。「希望の火」が全国に届けば素晴らしいことだ。一方で感染拡大は何としても避けなくてはならない。聖火は五輪のシンボルではあるが、感染防止が最優先だ。大会開催のためにも、状況によってはリレーの中止も含め柔軟に対応するべきだ。



「聖火リレーどころでは」(2021年3月18日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

「まつり」という言葉は「神を待つ」から生まれたそうだ。神の畏怖すべき力を借りたいとき、一生懸命に笛を吹いたりはやしたりして来訪を待つ。その「まつ」に「る」がついた動詞「まつる」の名詞形だという

▼「令和」を考案した国文学者中西進さんの著書『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮文庫)に教わった。待つといってもただ漠然と期待しながら過ごすのではなく、祭礼を執り行うことで、神様やその恩恵の到来を「まつ」ことだった

▼こちらを「まつり」と言っては世界中の競技者から怒られそうだが、巨大な祭典であることは間違いあるまい。4カ月後に迫った東京五輪である。何とかコロナ禍の収束を、と政府や組織委員会が神にすがる思いであろう点も共通するかも

▼その五輪を盛り上げようと、25日から聖火リレーがスタートする。約1万人が走り、121日間も続く一大イベントである。だが、五輪と同様行く手は険しそうだ。大相撲の正代関、歌手の五木ひろしさんら著名人ランナーの辞退が相次ぐ

▼その多くが「スケジュールの都合」を理由として挙げる。自分が走ることで感染拡大につながる「密」が生じるのでは、との懸念もあろう。組織委は観覧客が密集した場合の対応方針を公表したが、地方の現場の苦労は並大抵ではあるまい

▼さらに変異株の拡大で「聖火リレーどころでは」との声も。一方でわが町を聖火が走ると楽しみにしている方もいるだろう。何とも悩ましい状況に、こちらもつい神頼みしたくなる。





聖火リレー(2021年3月13日配信『高知新聞』-「小社会」)

 五輪の聖火は、ギリシャ神話でプロメテウスがゼウスの元から火を盗み、人類にもたらした逸話に由来するという。〈いにしへの神々の火は/海を越え荒野(あらの)をよぎり/はるばると渡り来て…〉。
 
 1964年の東京五輪に作家、佐藤春夫が寄せた大会賛歌の一節にある。聖火は4日間にわたって土佐路も走った。当時の高知新聞の見出しは「山峡に聖火はえて」「秋空にトーチたかく」と晴れやかだ。
 
 牧歌的な記事も見つけた。県内のリレーは初日、吾川郡内の中学校が終着点。校庭の聖火台には人だかりができた。〈中には、聖火で一服とわざわざタバコに火をとってうまそうに吸う若者の姿も〉。笑っていいのかどうか。若者の人生に五輪精神は宿っただろうか。
 
 57年後。近く始まる聖火リレーは、まだ晴れやかな気分で見られそうにない。感染症の動向が読めないままの見切り発車。辞退が相次ぐ著名人ランナーの一人、パラリンピック競泳金メダリストの秋山里奈さんは「命を最優先すべきだ」と訴える。
 
 首都圏の感染状況は下げ止まり、変異株も広がっている。五輪相がいう「ワクチン接種を前提としない安全安心な大会」は、検査の充実といった対策で実現可能なのか。いまひとつ伝わってこない。
 
 「人類が新型コロナに打ち勝った証しとして」。首相の言葉はいまなお空疎だ。科学的な説明に納得して聖火を見たいもの。精神論だけでは神々も助けてくれまい。





五輪の海外観客/受け入れ断念の判断急げ(2021年3月10日配信『神戸新聞』-「社説」)

 今夏に開催予定の東京五輪・パラリンピックに海外から来日する観客について、政府が受け入れを見送る方向で調整を進めている。

 国内の新型コロナウイルスの感染状況は厳しい。首都圏4都県に発令された緊急事態宣言は2週間延長された。兵庫など関西3府県では解除されたものの、神戸市などで飲食店への時短要請が続く。変異株が検出された地域も拡大している。

 通常であれば五輪には200を超える国と地域から1万人以上が参加する。これに加え、海外から多数の観客が入国すればどうなるか。政府の慎重姿勢は当然だろう。

 大会組織委員会の橋本聖子会長は、政府、東京都、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表との5者協議で、3月中に方針を決める考えを示した。断念するならちゅうちょせずに判断し、それもできるだけ急ぐべきだ。

 一方で国内の観客は入場させる見通しだ。各会場の入場者数の上限は4月中に判断するという。観客数は国内イベントの上限規制を参考にするというが、一般の競技大会などと同じ扱いでよいだろうか。

 東京五輪では史上最多の33競技339種目が42の会場で行われる。上限制限を設けたとしても、かなりの観客数となる。その後にはパラリンピックが続く。全国各地の人が首都圏と行き来して、それがさらなる感染拡大につながる可能性は否定できない。

 大会中、最も懸念される問題の一つは医療体制の逼迫(ひっぱく)である。

 選手や関係者らの中でクラスター(感染者集団)の発生などがあれば、医療現場が混乱する恐れがある。一般市民の医療にも影響を及ぼしかねない。五輪の開催について国民の理解を求めるなら、観客の上限規制にとどまらず、無観客での開催を真剣に検討する必要がある。

 同時に、医療を中心に可能な限り安全な大会運営の方針を固め、早期に国民に示してもらいたい。

 今月25日には福島県で聖火リレーがスタートするが、リレーに加わる予定だった著名人の辞退が相次いでいる。感染につながる行為を避けたいとの思いがあるとみられる。感染状況によっては、実施方法の見直しも柔軟に行わねばならない。

 政府は五輪・パラリンピックに海外や国内各地からの観客を集め、観光需要を回復させることを目指してきた。無観客になればチケット収入などは得られない。

 しかし五輪後に感染状況が悪化すれば、国全体の経済の停滞はより深刻になるのではないか。政府には大局的な視点で、何が最も国益になるのかを見定めた判断を求めたい。





五輪海外客受け入れ 安全安心が大前提 冷静な判断(2021年3月9日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 政府は、東京五輪・パラリンピックで海外からの一般客の受け入れを見送る方向で調整している。月内にも正式に決まる見通し。大会組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)のトップによる5者協議を再び開いて決定するという。

 国内外の新型コロナウイルスの厳しい感染状況を踏まえ、受け入れは難しいという見方がある。安心して安全な大会を開くことが大前提だ。政府は冷静な状況分析で、受け入れの可否を判断しなければならない。

 昨年11月、菅義偉首相はIOCのバッハ会長との会談で「観客の参加を想定した、さまざまな検討を進めている」と述べ、海外からの観客受け入れを前提に準備を進めてきた。

 だが12月以降、新型コロナの変異株が出現し、状況が変わった。今後の感染状況や水際措置を見通せなくなり、日本側では海外からの観客は難しいとの見方が広がったようだ。観客は、選手村と競技会場などとの往復となる選手やコーチと異なり、大会中の行動範囲の制限が困難だ。感染防止の観点から、海外からの受け入れを慎重に判断する必要があるのは確かだろう。

 海外客の受け入れを見送ることになれば、観光需要を回復させ経済再生につなげようとする政権のシナリオは見直しを迫られる。観客数を削減することになればチケット収入も減少し、組織委にとっても致命的な打撃となる。しかし安全で安心な大会運営が最優先事項であり、国内の医療体制が万全だと言い切れなければ海外から観客を受け入れることはできない。専門家による科学的な知見を踏まえ、感染状況を見極めて最終判断することが肝要だ。

 一方、日本国内の観客の入場は許可される見通しで、会場の観客数の上限は4月中に判断するという。上限は政府のイベント制限の方針に準じて決定することになる。現在、緊急事態宣言の対象地域では会場の定員の50%か5千人のいずれか少ない方が上限。解除地域では定員の50%以内であれば1万人まで入場可能となっている。

 上限の人数は、今後の新型コロナの感染状況により決まるのだろう。ただ、観客数をある程度制限する対応は避けられないのではないか。感染状況が大きく改善すれば上限の引き上げも可能だが、さらに深刻化すれば無観客を想定に入れる必要も出てくる。会場での感染防止対策に万全を期すため、観客数についてはあらゆる選択肢を排除せず決断してもらいたい。

 他にも、懸案の変異株に対応するため大会関係者の行動管理や、報道陣を含めた関係者の人数削減など決定する必要がある対策は多い。五輪の今夏開催に懐疑的な見方が広がる現状を踏まえて組織委は、開催までの課題と対策について、国内外に説得力を持つ丁寧な説明を続けなければならない。





五輪・パラの海外観客 合理的な説明が必要だ(2021年3月8日配信『茨城新聞』-「論説」)

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長、東京都知事、五輪相、国際オリンピック委員会(IOC)会長、国際パラリンピック委員会会長の5者が協議して、何よりも安全で安心な大会の開催を目指すことを確認した。これを受け、政府は海外からの観客を受け入れない方向で調整に入った。

 米国や欧州などでは新型コロナウイルスのワクチンの接種が進む。高齢者では感染者数を下げる効果が確認されるようになった。

 それでも、感染が世界的にいつ、どのように収束するか見通しはまだつかない。オリパラの開催を機に、感染が再拡大するような事態を招いてはならないし、開催国には参加選手の感染リスクを限りなくゼロに近づける責任がある。

 政府は思い切った対応が必要だと判断したのだろう。

 海外分のチケットは100万枚近くが既に販売されたようだ。海外からの観戦客は受け入れないと政府が正式に決定すれば、チケット購入者には大きな失望が広がるのではないか。

 日本よりも感染者が少ない国、あるいはワクチンの接種が進む国からは不満の声が上がるかもしれない。日本ではまだ一般へのワクチンの接種が始まっていないのに、日本のチケット購入者は観戦が認められ、われわれは観戦の権利を放棄しなければならないのかと。

 大会組織委は感染拡大を受けて昨年、国内のチケット購入者に対しては、放棄して払い戻しを希望するかどうかを尋ねた。現状は大多数の人が保持している。

 そのような選択肢は海外でのチケット購入者には提示されない。日本国内を優遇する差別的な決定だと感じる人がいるかもしれない。

 これとは別に、IOC協賛企業が確保したチケットを持つ人は、日本にやって来て大会を観戦することが許される見通しとなった。IOCの確立されたビジネスの一環らしい。

 海外の一般のチケット購入者はこの対応に対しても、差別や格差を感じ取るのではないか。

 五輪の競技運営に携わる陸上や水泳などの各国際競技連盟からは、数多くの役員や審判がやってくる。また、各国の中継を担う放送権者と報道記者は合わせて2万人を超える規模となりそうだ。

 海外から一般観客だけを受け入れないとなれば、ここは丁寧な説明が必要だ。

 日本では多くの人が外出を控え、仕事の規模縮小を余儀なくされ、収入が減っている。国民がさらなる苦境に陥ることがないよう、万全を期すための対応だと政府は強調するかもしれない。

 しかし、対外的にはどこまでも合理的で具体的な根拠を示し、幅広い理解と納得を得なければならない。

 政府は3月25日に迫った国内での五輪聖火リレーの開始前に、海外からの観客の受け入れ断念を決めたいようだが、チケット購入者の理解を得るのに時間がかかるようなら、かたくなにここを期限とすべきではない。

 感染がやまない中でも、世界には五輪を楽しみにしている市民が数多くいる。五輪は言うまでもなく国境を越えた、世界で最も注目される社会的なイベントだ。

 開催国は課題の解決に、国際的な視野を持つことが求められる。





五輪海外客見送りへ 今後も安全優先の判断を(2021年3月6日配信『毎日新聞』ー「社説」)

 東京オリンピック・パラリンピックは、海外客の受け入れが見送られることになりそうだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長や大会組織委員会の橋本聖子会長ら関係機関代表者による協議で認識が一致した。聖火リレーが始まる今月末までに正式決定する。

 100万人規模の海外客が入国すれば、新型コロナウイルスの感染がさらに広がり、変異ウイルスが持ち込まれる可能性もある。

 五輪は本来、世界中の人々が友好を深める場となる。だが、現状を考えれば、海外客見送りの判断は妥当だ。

 政府には海外客による観光需要を景気回復のきっかけにしたい思惑があったのだろう。しかし、感染収束のめどは立たず、判断が先送りされてきた。

 2月の共同通信の世論調査では今夏の開催を求める意見は14・5%にとどまり、ボランティアや聖火ランナーの辞退も相次いでいる。英紙が「中止する時が来た」とするコラムを掲載するなど、海外にも厳しい見方がある。

 海外客見送りには、国内外の不安を払拭(ふっしょく)し、開催への支持を回復したい狙いもあるようだ。

 受け入れ断念が決まれば、次の課題は国内の観客制限に移る。こちらは国内スポーツの状況を参考に4月末までに決定する予定だ。

 現在、観客数は緊急事態宣言の対象地域では「上限5000人」か「収容率50%以下」の少ない方と決められている。宣言が解除されても、一定の観客制限は避けられないだろう。

 今後の感染状況次第では、無観客開催の決断を迫られることも考えられる。

 観客を大幅に減らせば、チケット購入者を再抽選で絞り込み、外れた人には払い戻す必要が出てくる。チケット収入の減少だけでなく、警備やボランティア、輸送、宿泊など計画の修正も求められる。だが、時間は限られている。

 数万人に及ぶ選手や役員、メディア関係者らの感染防止策も細部を詰めなければならない。

 観客問題も含めた今後の対応について、橋本会長は「科学的知見も踏まえ、丁寧に決めていく」と話す。これからも社会の安全を優先して判断していく必要がある。



五輪の海外観客(2021年3月6日配信『佐賀新聞』-「論説」)

合理的な説明が必要だ

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長、東京都知事、五輪相、国際オリンピック委員会(IOC)会長、国際パラリンピック委員会会長の5者が協議して、何よりも安全で安心な大会の開催を目指すことを確認した。これを受け、政府は海外からの観客を受け入れない方向で調整に入った。

 米国や欧州などでは新型コロナウイルスのワクチンの接種が進む。高齢者では感染者数を下げる効果が確認されるようになった。

 それでも、感染が世界的にいつ、どのように収束するか見通しはまだつかない。オリパラの開催を機に、感染が再拡大するような事態を招いてはならないし、開催国には参加選手の感染リスクを限りなくゼロに近づける責任がある。

 政府は思い切った対応が必要だと判断したのだろう。

 海外分のチケットは100万枚近くが既に販売されたようだ。海外からの観戦客は受け入れないと政府が正式に決定すれば、チケット購入者には大きな失望が広がるのではないか。

 日本よりも感染者が少ない国、あるいはワクチンの接種が進む国からは不満の声が上がるかもしれない。日本ではまだ一般へのワクチンの接種が始まっていないのに、日本のチケット購入者は観戦が認められ、われわれは観戦の権利を放棄しなければならないのかと。

 大会組織委は感染拡大を受けて昨年、国内のチケット購入者に対しては、放棄して払い戻しを希望するかどうかを尋ねた。現状は大多数の人が保持している。

 そのような選択肢は海外でのチケット購入者には提示されない。日本国内を優遇する差別的な決定だと感じる人がいるかもしれない。

 これとは別に、IOC協賛企業が確保したチケットを持つ人は、日本にやって来て大会を観戦することが許される見通しとなった。IOCの確立されたビジネスの一環らしい。

 海外の一般のチケット購入者はこの対応に対しても、差別や格差を感じ取るのではないか。

 五輪の競技運営に携わる陸上や水泳などの各国際競技連盟からは、数多くの役員や審判がやってくる。また、各国の中継を担う放送権者と報道記者は合わせて2万人を超える規模となりそうだ。

 海外から一般観客だけを受け入れないとなれば、ここは丁寧な説明が必要だ。

 日本では多くの人が外出を控え、仕事の規模縮小を余儀なくされ、収入が減っている。国民がさらなる苦境に陥ることがないよう、万全を期すための対応だと政府は強調するかもしれない。

 しかし、対外的にはどこまでも合理的で具体的な根拠を示し、幅広い理解と納得を得なければならない。

 政府は3月25日に迫った国内での五輪聖火リレーの開始前に、海外からの観客の受け入れ断念を決めたいようだが、チケット購入者の理解を得るのに時間がかかるようなら、かたくなにここを期限とすべきではない。

 感染がやまない中でも、世界には五輪を楽しみにしている市民が数多くいる。五輪は言うまでもなく国境を越えた、世界で最も注目される社会的なイベントだ。

 開催国は課題の解決に、国際的な視野を持つことが求められる。(共同通信・竹内浩)





「五輪は人生そのもの」(2021年3月4日配信『秋田魁新報』-「北斗星」)

 記録的な大雪に見舞われたこの冬、行政による除雪の在り方は県民の大きな関心事となった。車の通行が多い幹線道路優先で、歩道や生活道路は後回しになりがち。不便もあるが、半ばやむを得ないと思っていた

▼「存在しない女たち」(河出書房新社)という本には、歩道などの除雪を優先するようになったスウェーデンの自治体が紹介されている。女性は徒歩で移動することが男性より多い。スウェーデン北部では冬に滑って転び、負傷する歩行者の数は自動車運転者の3倍。その大多数は女性だった

キャプチャ

▼除雪の優先順位を入れ替えたところ、けが人が減り、医療費縮減などの効果もあった。同書は従来の除雪が故意に女性を犠牲にしていたわけではないとも指摘。計画策定に女性が関わっていなかったのが問題とする。女性参画の重要さを教えられる

▼前会長の女性蔑視発言で男性中心の体質払拭(ふっしょく)が求められる東京五輪・パラリンピック組織委員会。仙北市出身の荒木田裕子さんが副会長に就任した。1976年のモントリオール五輪で金メダルに輝いたバレーボール女子日本代表だ

▼海外で指導者を務め、2012年のロンドン五輪では日本女子のマネジャー。「五輪は人生そのもの」と語る豊富な経験を生かし、男女平等の理念を体現する大会にしてほしい

▼組織委は新理事に女性12人を選出。女性40%の目標を一気に達成した。男性中心の組織が見落としていた課題がないか活発に議論し、機運を盛り上げたい。



組織委の新体制 男女平等どう実現するか(2021年3月4日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 東京五輪・パラリンピック組織委員会が、新たに12人の女性理事を選任した。新会長の橋本聖子氏が組織改革の柱に掲げる「男女平等」の具体化だ。

 五輪マラソン金メダリストの高橋尚子氏ら元アスリートのほか、公衆衛生やスポーツ史とジェンダーの研究者、企業経営者、元官僚、弁護士らが名を連ねる。

 女性理事は19人に増え、全体の42%余になる。スポーツ庁が競技団体の運営指針に掲げる「40%以上」の目標に添った。

 陣容を整えたことは実行への第一歩にすぎない。男女平等が明確な形となって表れてこなくては、急場しのぎの数合わせとのそしりを免れない。残された時間は限られる。活発な討議をいかに深められるかが問われる。

 コロナ禍の収束が見通せず、開催自体に懐疑的な声が国内外で高まっている。ボランティアや、今月下旬に開始が迫った聖火リレーの出走辞退も相次いでいる。

 選手、観客の感染対策は可能なのか。準備期間が残り少なくなる中、明確な基準をもって安全な大会運営の道筋が示されなくては、国民は納得できないだろう。

 現職理事は1人を除いて留任する。以前から「多すぎる」と指摘されてきた理事は45人に膨らむ。女性の数を確保するため、上限を定めた定款を急きょ改定した。異例の大所帯だ。方針をどうまとめていけるのか懸念がある。

 森喜朗前会長の女性蔑視発言によって損なった大会のイメージ、国際社会や国民からの信頼を回復することが急務だ。人種や性別、障害の有無など、あらゆる違いを尊重する大会ビジョンの「多様性と調和」を、説得力をもって発信したい。

 森氏の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委の女性はわきまえている」との発言は、異論を封じ、根回しで物事を進めようとする組織の体質をあらわにした。

 トップの意向を追認するだけなら信頼は取り戻せない。多様な意見を前提に、意思決定の透明性を高めることが欠かせない。新理事たちは多くの課題に市民目線で向き合い、発言してほしい。

 橋本氏の新会長選考過程では、議論が一切公開されず、組織委の閉鎖性が浮き彫りとなった。今回の新理事も、どういう基準で選ばれたのかが不明確だ。

 大会のあり方や理念をめぐり、各理事の考えが明らかにされてよいはずだ。組織委はその機会を設定する必要がある。



ワクチンなくても東京五輪開催最優先(2021年3月4日配信『日刊スポーツ』ー「政界地獄耳」)

★2日、自民党幹事長・二階俊博は「別に、ワクチンと衆議院の解散は関係あるようではありますが、ワクチンで衆議院を解散するとかしないとかっていうことは別に考えておりません」と発言。その一方で「解散する場合は、想定される諸課題はできるだけ解決して国民の理解を得られるような状況を作っていくことが大事だ。解散は総理の一存で決めることだが、幹事長の立場としては明日あってもいいように準備している」とした。

★前段の発言が踏み込みすぎたと見えて、途中で修正を加えた発言だが、二階の言うように、今自民党が気にしているのはワクチンではなく、東京五輪開催の起爆剤を都議選と衆院選にどう利用するかだろう。思えば1年前も3月下旬に五輪の1年延期を決め、そこから事実上の本格的コロナ対策が始まったといえ、それが初動の遅れとして尾を引いている。先手先手で動きたいとの発想がそういわせたのだろう。

★今回、五輪の聖火リレーは25日にスタートする。世論の中には五輪の中止、または無観客試合を想定している向きも多いだろうが、政府が大騒ぎして組織委員長を決めたり、ほかのスポーツイベントの観客定員を下げて実施にこだわっているのは何としても、いびつながらも「五輪」なるものを強引にでも実現する方針に変わりがないからだろう。ワクチンの接種がなくても五輪の開催と国内観客の観戦の実現は何とかまとめたいとの思惑だ。先月には警察庁から全国に五輪警備の応援警官の動員は予定通りとの通達が出た。つまり既に五輪はアスリートファーストなどではなく、IOCを含め、日本政府の威信のかかる政治イベントになったといえる。その実現のためならば医療専門家の懸念よりもワクチン接種よりも優先されるべきは五輪ということになる。五輪成功という結果が選挙勝利を呼ぶということか。それならばコロナと本気で闘うべきではないのか。





東京五輪聖火リレー 感染防止最優先で判断を(2021年3月2日配信『琉球新報』-「社説」)

 東京五輪組織委員会が、25日にスタートする国内聖火リレーの新型コロナウイルス感染症対策を発表した。観客には居住する都道府県以外での観覧は控えてもらうほか、沿道の密集を避けるためネットのライブ中継の視聴を促す。著名人は入場制限ができる競技場などで走る方針だ。

 聖火リレーを巡っては、島根県の丸山達也知事が、政府や東京都の新型コロナ対策が不十分であることを理由に県内のリレーを中止する意向を表明したり、芸能人が参加を辞退したりするなど疑問視する見方が広がっている。

 新型コロナ感染者の全国合計数は減少傾向にあるが、収束にはほど遠い。国民へのワクチン接種がいつ完了するかも未定で、感染が再び拡大する懸念は拭えない。五輪だけでなく聖火リレーも感染防止を最優先させ、延期や中止を含めて柔軟に判断すべきだ。

 五輪組織委は「安全最優先で進めていく」として感染防止に万全を尽くす考えだが、全国や地域のリレー期間中の感染状況を予測するのは難しい。五輪本番の状況予測も同様だ。組織委関係者は、聖火リレーを大会に向けた「リトマス試験紙」と位置付ける。リレーを通して感染が広がるような事態になれば、五輪そのものの開催判断に影響する。

 五輪開催ありきだと、無観客など安全な運営方法に議論が集まりがちだが、重要なのは感染の抑制と世論の支持だ。聖火リレーも、これらを基に開催可否を判断すべきだ。

 感染の抑制は引き続き予断を許さない。頼みの綱はワクチンだが、高齢者への接種が4月に始まるものの、多くの自治体で65歳未満の住民が接種できるのは7月以降の見通しだ。五輪開会式が行われる予定の7月23日の段階で大半の国民が接種できていない。

 共同通信が1月に実施した世論調査では、東京五輪の「中止」と「再延期」を合わせた見直し派は80・1%に上った。その後、五輪組織委会長を務めていた森喜朗氏が女性を蔑視する発言をした。さらに森氏は聖火リレーの運営方法について「有名人は田んぼを走ったらいいんじゃないか」とも述べた。五輪や聖火リレーに対する国民の歓迎ムードは一層冷めているだろう。

 コロナ禍は地域によって事情が異なる。聖火リレーの費用負担を疑問視した丸山島根県知事の見解は理解できる。聖火リレーは5月に沖縄県内も通過する予定で、沿道の密集回避のため走行予定時刻は直前まで非公表だ。感染抑制は県内でも問われる。

 五輪では選手同士の交流は厳しく制限される予定だ。異なる国や地域の人と交流するという五輪の理念は果たせない。日本各地の魅力を国内外に発信するという聖火リレーの目的も限定的になる。それらの側面からみても、開催に前のめりになるべきではない。アスリートだけでなく国民の安全を大切にする姿勢や判断こそが肝要だ。



五輪開催に不可欠な指導力(2021年3月1日配信『琉球新報』-「金口木舌」)

 派手なものは望まない。必要な機能を備えた車を購入するつもりで70万円を家計から捻出してもらった。小さい方が環境にも優しい

▼だが見積もりが甘く、実際にかかるのは4倍の約300万円。家族は納得せず、計画は諦めざるを得なかった。家計の話に置き換えたら、東京五輪の中止はやむを得ないかもしれない

▼「コンパクト五輪」の経費は7千億円のはずだったが、会計検査院は暑さ対策や道路整備費など関連経費を含めると3兆円を超えると指摘。コロナ禍の中、五輪よりも国民への支援をより手厚くしてほしいというのが多くの人の本音だろう

▼共同通信の1月の世論調査では「中止」と「再延期」を合わせた見直し派は80・1%。膨大な費用に加え、大会組織委員会の森喜朗前会長の失言と辞任、その後の透明性を欠く後任決定など一連のドタバタで完全に民心は離れつつある

▼最優先にすべきは国民の命と安全。開催にこだわるなら、1月にエジプトで開かれたハンドボール世界選手権にならい、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため無観客、PCR検査の徹底で開催する方法もある

▼それでも当初の「過少申告」には明確な説明が必要だ。五輪に乗じて私腹を肥やす人がいるのではないかという疑念が国民の間に膨らんでいる。菅義偉首相は今一度、政府の「五輪家計簿」を点検し直してはどうだろう。





五輪の利用(2021年2月28日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 評論家小林秀雄は1936年のベルリン五輪の記録映画に興奮したようだ。エッセー「オリムピア」にこうある

▼「映画を見て非常に気持ちがよかった。(中略)健康というものはいいものだ。肉体というものは美しいものだ」。砲丸投げのシーンを思いながら「精神が全く肉体と化する瞬間」に息をのみ、鍛え上げられた身体が躍動し爆発するその一瞬を「実に鮮やかな光景である」と記した

▼選手はこの日のために厳しい練習を積み、最高のパフォーマンスへと集中する。それは昔も今も変わらない。ただ、この五輪は選手の思いとは別に、初めて政治利用されたことで知られる。ヒトラー率いるドイツは「ナチスの栄光を誇示する手段として十二分に活用した」(池井優「スポーツの政治的利用」慶応義塾大学法学研究会)

▼小林が見た映画もその一つだ。宣伝のための事務所も海外40カ国に置き、パンフレットは13カ国語で作成して、約140万部を世界中に配布したという。五輪は政治的独立を掲げていた。にもかかわらずだ

▼それから85年。この間、五輪が政治に翻弄(ほんろう)される場面は何度もあった。今夏開催予定の東京五輪も政治介入が指摘された。大会組織委会長の辞任劇でのことである▼コロナ禍の行方は見通せないが、政府が何とか開催し、今年の選挙も見据えて政権浮揚につなげようと考えているなら、かつての行いと変わるまい。





東京五輪まで5カ月(2021年2月25日配信『佐賀新聞』-「論説」)

スポーツの意義再考を

 東京五輪の開幕まで5カ月を切った。新型コロナウイルスの収束が見えない中、無事に開催できるか。「安全・安心」の確保が大前提だが、国民の機運の盛り上がりも不可欠。「スポーツ」の意義、五輪の在り方をどう考えるか、根本的な問題が問われている。

 「スポーツ」の語源を調べると、「desport(デスポール)」という言葉が出てくる。その意味は「楽しみ」「遊び」「気晴らし」。スポーツはもともと遊びの要素が強かったが、ルールを設け、勝敗をつけるようになった。人間には「闘争本能」があり、それを満たすため、実際に傷つけ合わない形でスポーツが発展した、とも解釈できる。五輪が「平和の祭典」といわれるのも、文字通りそういう見方があるからだろう。

 無益な争いは不要だが、競争自体は悪いことではない。互いの良さを認め、ルールに基づいて勝負する。その結果、一人一人の能力が伸びれば、社会にとっても有益だ。音楽や絵画などの芸術は人の心を豊かにし、安らぎを与えてくれるが、スポーツは人に生きる活力を与えてくれると感じる。

 スポーツは勝敗が重視されがちだが、勝者しかスポーツを楽しめないのかといったら、そうではない。敗者が努力を重ね、次は勝とうとすることに意義があり、その過程に楽しみもある。

 一方で、「行き過ぎた勝利至上主義」がスポーツや五輪本来の意義をゆがめてきた面はあり、検証が必要だ。注目度が高まるほど商業主義に傾き、選手に勝利ばかりを求める。人は失敗する生き物なのに、失敗を認めない傾向が強まる。その結果、選手に過度の重圧を与えてしまう。

 この一年、東京五輪に限らず、さまざまなスポーツ大会が延期や中止、変更を余儀なくされた。思ったことは、スポーツの意義をもう一度見つめ直す必要があるのではないかということだ。

 佐賀県は決して大きな県ではないが、サッカーのサガン鳥栖、バレーボールの久光スプリングス、ハンドボールのトヨタ紡織九州レッドトルネード、バスケットボールの佐賀バルーナーズと、国内トップレベルで活躍するチームが多い。勝利はもちろんうれしいが、負けたからといって選手を責める人は少ないだろう。ファンが見ているのは「全力を尽くしたか」ということであり、ひたむきなプレーに力をもらう機会が身近にあることは、とても幸せなことだ。

 ほとんどのスポーツは、一瞬のうちに勝負がきまる。選手はその一瞬に全力を尽くせるよう準備する。4年に1度の五輪は、その準備の長さを思うだけで大変である。だからこそ機運を盛り上げ、知恵を出し合い、東京五輪の成功につなげたいと思う。

 もちろん、スポーツへの関心が薄い人はいる。「五輪より安全が大事」と思う人も多いだろう。ただ、自分とは異なる価値観を全く受け入れないのではなく、理解しようとする姿勢は、この問題に限らず必要なことだ。

 五輪は人々が一つにまとまる絶好の機会。開催までの課題を関係者だけの問題ととらえず、自分にも何かできないか考えてみたい。各競技にかけるアスリートの思いに寄り添い、スポーツの意義を改めて考えることは、その一つではないだろうか。(中島義彦)



東京五輪開催へワクチン以上の策とは?(2021年2月25日配信『日刊スポーツ』ー「政界地獄耳」)

★19日の衆院予算委員会で立憲民主党・玄葉光一郎が質問に立った。「五輪開催時に世界からくるアスリートたちはワクチンを接種してくるのか」と問うと、五輪相・丸川珠代は「IOCはワクチン接種を推奨しているが、国によってアスリートの接種順位が異なっている。国の判断だ。現状ではそれぞれの国で確保されたワクチンの承認の条件もおそらく異なるだろう」。玄葉は「もしワクチンを打ってこなかった方がいた場合は2週間隔離するなどの防護措置はあるのか」と問うと丸川は「接種をしてこなくても安心・安全な大会を遂行できるよう、さまざまな措置を取らせていただく」。

★そんな方法は一体あるのか。どんなものなのかぜひ伺いたい。五輪相がこの時期に安心・安全な措置をする大会とはどんなものなのか。大変興味深い。玄葉は続ける。「中国のワクチン外交などが目立つ中で、途上国に対してしっかり接種できる体制を整えるというのは、私たちにとっても自分事だと考えなければいけない。そのためにCOVAXという枠組みがある。国家の経済力にかかわらずワクチンへの平等なアクセスを確保する。日本は既に個別契約でワクチンを確保しているから日本人分は確保してある。COVAXにお願いしていた分は不要になる可能性もある。それらを途上国に回していくなど含めやっていくべきではないか」。COVAXは、世界保健機関(WHO)などのワクチンの世界共同購入・配分計画だ。

★元外相らしい質問だが、丸川はワクチンより安全・安心な策があるようだし、ワクチン担当相・河野太郎はワクチン接種のスケジュールを発表しては訂正と謝罪を繰り返し、国内の接種のめどすら立っていない。河野は24日の衆院内閣委員会で、ワクチンの接種計画について「今夏の東京五輪・パラリンピックは考慮せずに策定する」と明言した。五輪開催があったとしても国民にワクチンが接種されるのは年内に間に合うかどうかだろう。既に世界70を超える国や地域で接種が始まっている中、日本の遅れは異常だ。COVAXに配給を頼むのは日本かもしれない。





五輪まで半年/国民が納得できる判断を(2021年2月2日配信『神戸新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された東京五輪・パラリンピックが、開幕まで半年を切った。

 しかし、国内では11都府県に再発令された緊急事態宣言の延長が検討され、世界の感染者は1億人を超えた。収束の気配が見えない中、国内外に見直し論が広がっている。


 菅義偉首相は「五輪を人類がウイルスに打ち勝った証しに」と述べ、開催への強い意欲を示す。東京開催を追求するなら、政府と大会組織委員会は現実を直視し、新たな五輪のかたちを見いださねばならない。

 政府が期待を寄せるのが、日本でも4月以降に高齢者から接種開始が見込まれるワクチンだ。ただ、供給量の確保や効果には不確定要素が少なくない。「集団免疫」が獲得されるまでには時間がかかるとの指摘もあり、ワクチン頼みの計画はリスクが高いと言わざるを得ない。

 政府、与党や国際オリンピック委員会(IOC)の内部からも開催を危ぶむ声が表立って出始めた。感染拡大は選手の代表選考や強化計画にも影響している。各国の競技団体や選手からの慎重論も予想される。

 国内世論はさらに厳しさを増している。1月、共同通信社が実施した全国電話世論調査では、「中止するべき」との回答が35%、「再延期するべき」は45%だった。国民の多くが何らかの見直しを求めていることは間違いない。

 当初は2年延期して2022年開催案もあった。だが組織委の森喜朗会長は再延期は「絶対不可能」と述べ、その理由を東京都や関係省庁などから組織委への出向期間延長が難しいためとする。その説明で国民が納得できるだろうか。

 IOCも再延期には否定的だ。今後の開催都市との調整や施設の確保などでハードルは極めて高いが、政府と組織委はIOCと議論を深め、あらゆる可能性を探る必要がある。

 もう一つの焦点は観客動員の判断だ。政府は観客の規模、海外からの受け入れ可否について3月ごろに判断するという。

 だが、現状は水際対策の強化でスポーツ関連の入国特例も一時停止されている。国民の安全と安心を優先するなら、少なくとも観客を国内に限る判断はやむを得ないのではないか。同時に、無観客での開催についても早急に検討するべきだ。

 医療体制がさらに逼迫(ひっぱく)するとの懸念もある。選手らの感染症対応に1万人が必要とされる医療スタッフを集められるのか、それによって地域医療に支障が生じないか。

 どんな状況になれば安全な大会運営が可能か。選択肢を示し、国民に開かれた議論を進めなければ、五輪を受け入れる世論は生まれない。





東京五輪 かたくな開催、結局金か(2021年2月1日配信『日刊スポーツ』ー政界地獄耳」)

★朝日新聞が先月の23、24日に実施した世論調査で、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの再延期もしくは中止と答えた人が86%にのぼった。いくら何でも政府や五輪関係者が言う「できる」というものの根拠がない。首相・菅義偉の「コロナに打ち勝った証しとして開催する」は「東日本大震災の復興五輪」とともにこれでは絵に描いた餅だ。今でも応援したい、この目で世界のトップアスリートの姿や記録を見たいという本音はぐっとこらえて国民が厳しいと言っているのだ。

★アスリートにとっても試合はしたいが国民の応援なくして五輪といえるのかという思いだろう。「出場するので先にワクチンを打たせてほしい」というアスリートもいないだろう。今国会の代表質問で立憲民主党代表・枝野幸男は「本当に実施や参加が可能であるのかを各国のオリンピック委員会や競技団体と協議するなど、万一の事態に備えたプランBはどのように検討し、準備しているのでしょうか」と問うた。では、五輪関係者が「プランBはない」というプランBは本当にないのだろうか。政治家は情報網と共にさまざまな知恵を持つ。いろいろ聞いてみると五輪関係者ではない議員の方がプランBのアイデアが豊富だ。

★ある自民党議員は「コロナ禍で東京の次の開催地・パリの五輪会場準備も進んでいないようだ。単純に2024年のパリ大会を遅らせて、24年に東京大会をスライドして行うとすればいい。パリもその方が助かるはずだ」。すると先週、24年パリ五輪組織委員会は「東京で何が起きても24年大会は問題なく行われるだろう。パリの24年大会は東京の運命とは関係ない」と図ったようにけん制した。

★コロナ禍という前例のない世界規模の問題に、前例を踏襲しようとする政府も知恵がなさすぎるが、ここまでかたくなだと、最後は金銭問題ではないかと勘繰りたくなる。スポーツの力をはき違えたのはどこからか。





東京五輪半年 現実受け止め議論深めよ(2021年1月31日配信『新潟日報』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染収束の気配がうかがえない中、7月23日の開幕まで半年を切った東京五輪・パラリンピックについて、国民の間に見直し論が広がっている。

 1月上旬に行った共同通信の世論調査によると、今夏の開催に賛同したのは14%にとどまった。一方で、「中止」と「再延期」を合わせた見直し派は80%に上った。

 だが、開催の決定権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府、組織委員会は開催に前のめりで、国民意識とは距離があるようだ。

 今後は感染状況をにらみながら、開催の可否や、開催は無観客にするのか、外国人も含めある程度の観客を入れるのかなど、主催者側はさまざまな判断を迫られることになろう。

 選択肢を明示し、国民にとって分かりやすく、オープンな形で議論を進めてほしい。

 予定通りの開催がベストなのはもちろんだが、その上で不安の解消が見込めない状況が続くなら、中止や再延期もためらうべきではない。

 11都府県を対象とした2月7日までの緊急事態宣言は、延長は避けられないとの見方が強まっている。

 五輪開催までにワクチン接種が国内外に十分行き渡る見通しもまだ立っていない。

 見直し派が多いのは、開催による感染拡大の恐れに加え、医療提供体制がさらに逼迫(ひっぱく)するとの不安が強いからだろう。

 五輪開催中は、選手らへの感染症対応で医療スタッフ1万人の確保が必要とされる。

 菅義偉首相は「まずは新型コロナウイルスの克服に全力を尽くし、安全安心な大会を実現する」との一点張りだ。

 橋本聖子五輪担当相も「地域医療に支障が生じてはならない。協力する医療機関の負担軽減も含めて準備する」としているが、具体案は示していない。

 国民の多くが今夏の開催に消極的な現実から目を背けているのではないか。

 こうした中で、組織委の森喜朗会長は無観客での開催も選択肢から排除せず、「いろんな形を想定している」との考えを明らかにした。

 森会長と電話会談したIOCのバッハ会長は中止や再延期の可能性を改めて否定し、「どう開催するかに焦点を当てなければいけない」と述べている。

 いずれも、開催に備える上で当然の認識だ。

 あらゆる選択肢をテーブルに上げ、どういう状況でどういう方法なら開催が可能かを洗い出してほしい。

 もはや安倍晋三前首相が唱えた「完全な形」にこだわるのは現実的とはいえない。

 聖火リレーは3月25日に福島県からスタートする予定だ。政府や組織委はこの頃に観客の受け入れなどについて判断するとみられている。

 選手ももどかしい思いを持っているに違いない。現実を踏まえて議論を尽くし、丁寧に情報を提供してほしい。





どうなる五輪(2021年1月30日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 「人が恐れているものは希望するものよりも簡単に近づいてくる」とは、古代ローマの喜劇作家で詩人のプブリリウス・シルスの残した言葉。喜劇の才能が認められ、奴隷の身分から解放されたという人だ。

 開幕予定日まで半年を切り、開催か延期か中止かが注目される東京五輪・パラリンピック。コロナ禍の先行きが不透明な中、開催に向けて準備に取り組む多くの関係者には敬意を表する。だが、延期や中止の可否を判断する立場の人間には心もとなさを禁じ得ない。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「7月の開幕を疑う理由はない」と強調。菅義偉首相は、今なお「人類が新型コロナに打ち勝った証しとしての五輪」というコンセプトを掲げ続ける。強い決意の表れなのだろうが世論とのギャップの大きさが否めない。

 観客の有無といった具体的なやり方はさておいて、「とりあえずは開催」という潮目が変わったのは、従来の1・7倍ともいわれる強い感染力を持つウイルス変異種の出現だった。これにより、外国選手の入国を認めるスポーツの特例措置も一時停止せざるを得なくなるなど状況は大きく変わった。

 「ワクチンが普及すれば」「気温の上昇で感染リスクが低下すれば」。プブリリウスの格言ではないが、日本政府やIOCなどが持つこれらの「希望」を、変異種拡大という「恐れ」が凌駕(りょうが)しているのは事実だ。悩ましい状況下で、決断の時は刻一刻と迫る。





「オリンピック、オリンピック。こう…(2021年1月29日配信『福井新聞』-「越山若水」)

 「オリンピック、オリンピック。こう聞いただけでも、わたしたちの心はおどります」。1957年から使われた小学6年生の国語教科書に掲載されていた文章の一節である

▼国際オリンピック委員会(IOC)総会で英字紙主幹だった平沢和重氏が「五輪の旗」と題したこの教材を紹介し、「日本では学校でオリンピックを学んでおり、全ての国民がオリンピック精神を理解している」と訴えた。このスピーチは委員に強い印象を与え、64年の東京大会の決定に寄与したという

▼福井県教育博物館の特別展「オリンピック・パラリンピックと教科書」で、エピソードとして紹介されている。開催国の世論の盛り上がりが招致決定の鍵だったことがうかがえる。2回目の東京五輪招致も世論の後押しがあった。ただ、新型コロナウイルスの影響で今夏の五輪開催を求める世論が急速にしぼんできた

▼共同通信が1月に行った国内の世論調査によると「中止」「再延期」を合わせた見直し派は8割を超えている。とはいえ、ワクチンの普及に期待するIOCのバッハ会長は中止、再延期の可能性を会見で否定し「全ての人に、忍耐と理解を求めたい」と語った

▼「人類がウイルスに打ち勝った証し」(菅義偉首相)として開催できるといいが、安心や安全を確保して、開幕を心待ちする日が到来するには、なお大きな山が立ちはだかる。



今夏の東京五輪(2021年1月29日配信『しんぶん赤旗』ー「主張」)

開催やめコロナ収束に集中を

 1年延期され、今年7月23日に開幕予定の東京五輪・パラリンピックまで半年を切りました。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、感染力がより強いとされる変異株も発生し、五輪開催に対する不安や危惧、反対の声が高まっています。国内では医療体制が逼迫(ひっぱく)し、今月7日に緊急事態宣言が再び出されるなど、五輪の延期を決めた時以上に事態は深刻です。今夏の五輪は中止を決断し、あらゆる力をコロナ収束のために集中することが必要です。

「残念だけど、難しい」

 今夏の五輪開催の是非をめぐっては、今月の各種世論調査で、「再延期」と「中止」を求める声が合わせて約8割に上っています。▽「朝日」は「再び延期」51%、「中止」35%▽産経・FNNは「再延期せざるを得ない」28・7%、「中止もやむを得ない」55・4%―などとなっています。

 日本オリンピック委員会(JOC)理事で元柔道選手の山口香さんは、国民の大半が五輪の再延期・中止を求めていることについて「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出や変異型への懸念もあり、『残念だけど、難しい』というのが冷静で、現実的な感覚なのだろう」と語っています(「朝日」26日付)。

 ところが、政府は東京五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」(菅義偉首相)にするとして開催に固執し続けています。

 前出の山口さんが「国民を置いてきぼりにした前のめりの姿勢は、五輪開催でスポーツ本来の価値を実現するのではなく、政治とか経済とか、別の理由や思惑があるのだろうと冷めた目で見られていると思う」と指摘するように、政府の方針が国民の感覚とかけ離れていることは明らかです。

 今夏の五輪開催にはさまざまな問題があります。

 ▽ワクチンは一部の国で接種が始まったものの、世界保健機関(WHO)は今年中に集団免疫を達成することはあり得ないとしており、ワクチン頼みの開催は展望できない▽各国の感染状況による練習環境の違いや、ワクチン接種でも先進国と途上国の格差があり、「アスリート・ファースト(選手第一)」の立場からも開催の条件はない▽五輪開催には当初から「1万人程度」(橋本聖子五輪相)の医療スタッフが予定されており、これにコロナ対策を加えればより大規模な体制が必要とされるが、半年後にそれだけのスタッフを五輪に振り向けるのは非現実的―などです。

 菅首相は7日に緊急事態宣言を出した際、ワクチンの普及によって「(五輪開催に対する)国民の雰囲気も変わってくるのではないか」と述べていました。ところが、ワクチン頼みが無理なのが分かると、根拠も示さず「ワクチンを前提としなくても安全・安心な大会を開催」(21日)すると言い出しました。あまりに無責任です。

根本から再検討すべきだ

 五輪憲章は「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と述べています。政府は「開催ありき」の立場を改め、その是非を根本から再検討し、東京都や大会組織委員会、IOC(国際オリンピック委員会)などと協議を開始すべきです。





東京五輪あと半年 安全最優先する判断を(2021年1月28日配信『秋田魁新報』-「社説」)

 東京五輪は開幕まで半年を切った。新型コロナウイルス収束が見通せず、国内外で大会中止や再延期を求める声も高まる。政府や国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会は今後、観客受け入れの可否などを巡る難しい判断を迫られる。

 国内では11都府県に緊急事態宣言が発令される中、重症者の増加などにより医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が続く。ウイルス変異種も確認され、感染拡大への不安は増す一方だ。

 世界ではコロナ感染者が1億人を超えた。昨年11月上旬に5千万人に達してから約2カ月半で倍増している。

 国内外の感染状況を見れば、東京五輪とその1カ月後に予定されるパラリンピック開催を危ぶむ声が高まるのは当然だ。最新の共同通信の世論調査では今夏開催の「中止」「再延期」を合わせ、見直しを求める回答が8割を占めた。感染拡大が続く中で予定通りの開催を求めるのはもはや少数派だ。

 「再延期」との回答は約45%あった。しかし再延期は競技会場の確保をやり直す必要があり、多額の費用を要する。今後予定されている大会との日程調整も大きな困難を伴う。

 各国選手は不安を抱きつつも、「開催への希望」を語っている。課題は山積していても開催の方策がないわけではない。国内外で各種競技大会が無観客で開かれ、ファンはテレビや新聞などのメディアを通して選手の活躍に接し、熱い応援を送っている。

 昨秋以降、観客受け入れを想定してきた政府だが、最近見直しの動きがある。「無観客」開催を選択肢に加え「50%」「上限なし」と合わせた3案での検討を始めた。夏に感染が収束しているという見通しが立たない中では、感染リスクを減らすための無観客も現実的な選択肢ではないか。

 菅義偉首相は施政方針演説で「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして」世界中に希望と勇気を届ける大会を実現すると述べた。しかし繰り返されるこの言葉は足元の厳しい現状から懸け離れている。より現実的に即した言葉と選択が求められよう。

 3月上旬にはIOCの総会(アテネ)が開催される計画。25日には福島県から聖火リレーがスタートする予定だ。残された時間は限られている。

 開催が危機に直面するいま、海外の観客を呼び込む経済効果に固執してはいられない。無観客による感染リスク軽減で中止を回避できるのであれば、その可能性を探る検討を急ぎたい。

 安全安心を最優先することが何より求められる。ワクチン接種の早期実施はもちろん、観客受け入れの可否の判断、変異種の脅威を防ぐ対策などを明確に示すことが必要だ。国内外に渦巻く不安を払拭(ふっしょく)しなければ、選手らの希望をかなえることはできない。



東京五輪まで半年 現実に即して開催を巡る議論を(2021年1月28日配信『愛媛新聞』-「社説」

 新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからない中、東京五輪まで半年を切った。日本政府や大会組織委員会などは7月開催の立場を崩していないが、現実は厳しさを増している。

 国内外で懐疑的な見方が強まり、国内の世論調査では再延期や中止を求める回答が計8割を超えた。予定通りの開催への賛同は1割台しかいない。祝祭ムードにはほど遠く、このままでは開催意義を失う恐れがある。政府や関係機関は大会の安全確保を第一に、観客制限や中止などあらゆる選択肢をオープンな形で議論すべきだ。ここに至っても開催決意を語るだけでは選手や国民の不安は拭えない。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「代替案はない」と強調。菅義偉首相も開催への意欲を重ねて表明している。仮に中止や再延期となれば、努力してきた選手たちの目標を奪い、多額の開催経費を肩代わりする国民の喪失感も計り知れない。感染を拡大させないことが担保できるのなら当然開催すべきだ。だが、世界中から人々を迎えるにあたって現状はかなり心もとない。

 政府は、緊急事態宣言とビジネス往来停止に合わせ、1月中旬からスポーツ選手やスタッフらの入国特例措置を中断している。連日のように新規感染者が過去最多を更新し、感染力が強いとされるウイルスの変異種も確認された。来月7日に期限を迎える宣言が延期されれば、選手や関係者の入国ができない状況が続く。1年延期を決めた昨年3月よりも環境は厳しい。

 開催を目指すとすれば、従来の祭典の姿は変わらざるを得ない。政府は観客数について無観客、上限なし、50%の3案の検討に入った。それでも損失は甚大で無観客の場合、チケット収入はゼロとなり、経済効果もさほど見込めまい。

 主役であるアスリートがそろうのかどうか懸念も尽きない。自国での選考会は進まず、感染状況が深刻な国が参加を見送る事態もあり得る。そんな情勢下で強行しても公平性は保てず、真の世界一を決める大会と呼ぶには疑問符がつくだろう。

 異文化の人たちと触れ合うことも五輪の大切な意義だ。しかし、国際交流の場である選手村は感染防止のため、滞在期間が厳しく制限される予定。東日本大震災の被災地でも復興をアピールするはずだった選手や訪日客との交流も見通せない。復興五輪の理念も揺らぎつつある。

 ワクチン接種が普及すれば、事態が好転する期待はあるものの、供給が遅れ気味となっている。首相は「ワクチンを前提としなくても安全、安心な大会を開催できるよう準備を進める」と表明したが、具体策は見えない。まずは緊急事態宣言を脱した上で、感染拡大防止に資する開催基準を明示しなければならない。時間的猶予は少ない。現実を直視した議論を詰め、国民と参加国の理解を得るのは開催国の責務である。





五輪まで半年 選手は声を上げよう(2021年1月27日配信『茨城新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染が世界で広がり続ける中、国際オリンピック委員会(IOC)はたとえ無観客でも、1年延期した東京五輪をこの夏に開催したいと強い意欲を示した。

 バッハ会長は開催まで半年となったタイミングで、約100人のIOC委員、選手を派遣する206の国内オリンピック委員会、競技運営に責任を持つ33の国際競技連盟に、その意向を説明し了解を取り付けた。

 再延期は技術的に極めて難しい。中止はIOCの深刻な財務状況悪化に直結するから論外。五輪ファミリー全体で基本方針を確認する必要を感じたのだろう。

 IOCは政府、東京都、大会組織委員会の日本側3者にも観客の規模について「無観客」「50%」「上限なし」の3案を検討するよう要請した。

 これまでの流れから、IOCは世界保健機関(WHO)の、日本側は感染症専門家の意見を聞きながら、連携して観客規模を決めるとみられる。

 開催に懐疑的な見方は国内外で多い。共同通信の全国電話世論調査では、五輪・パラリンピック開催について「中止すべきだ」と「再延期すべきだ」は合わせて80.1%だった。

 しかし、IOCはこうした意見を自身の政策決定に反映することはないようだ。ここは釈然としない。

 IOCが耳を傾けるのは、自分たちの最大の財産でもある五輪選手の声だ。その発言には、延期が決まった昨年とは明らかに違う姿勢がみられるようになってきた。

 体操の内村航平選手は市民と五輪関係者の両方を念頭に置いたのだろう。「できないとは思わないで、どうすればできるかという方向に考えを変えてほしい」と昨年秋の国際大会で訴えた。

 選手の健康保護の観点から開催中止を昨年春に唱え、IOCを突き動かすきっかけを作ったギリシャの陸上金メダリスト、ステファニディ選手は今は「無観客でも開催の方が中止よりはいい」と話す。

 日本側はコロナ対策費を含め総額1兆6千億円を超える予算を組み、開催準備をほぼ整えている。中止となれば、投資の大半は無駄になり、波及効果を含めた経済的な損失は極めて大きなものになるだろう。日本側もなんとか開催の実現にこぎつけたいに違いない。

 五輪の準備は巨大な歯車を回すようにして進む。組織委は数千人の人員が活動している。都と国、民間企業から募った人員をこれ以上、出向元に戻さずに留め置くわけにはいかないのだろう。

 コーチらを含め約1万8千人を収容する選手村は、本来ならば既にマンションとして市民の生活基盤となっているはずだった。都内の臨海部で同様の規模の土地を新たに確保するのは至難の業だ。

 都の医療体制は感染対応で極めて厳しい状況となっている。約1万1千人の五輪参加選手の感染対応は何とか進められても、数百万人の五輪観戦客の感染対策と医療ケアは難しくなった。

 この夏に五輪を開催できるとすれば、感染が収束に向かい、医療体制を脅かす恐れがない無観客、もしくは無観客に近い規模が条件ではないか。

 こうした状況の中、自分はどう考えるのか。人生を左右するかもしれない今こそ、もっと多くの選手が声を上げるべきだ。





祈りのときはもう過ぎた(2021年1月26日配信『神戸新聞』-「正平調」)

 古来より言葉には霊力が宿ると信じられた。罪をはらいたまえ。けがれをはらいたまえ。唱えれば、きっとその通りになる。それが呪文であったり、神にささげる祝詞であったりした

◆先代の安倍首相から今の菅首相に引き継がれて繰り返されるその言葉も、次第に呪文の様相を帯びてきている。「人類がウイルスに打ち勝った証しとして」…東京五輪を開催したい、というあの言い回しである

◆字面は勇壮でも、コロナ対応で逆風にさらされる総理の口から棒読みで発せられると、むしろ不安が増す。IOCのバッハ会長も「プランB(代替案)はない」と中止や再延期を否定した。これまた祈りに近い

◆たとえワクチン接種が始まったとしても、わずか半年後に世界のアスリートが一堂に集う「Tokyo」の姿は想像しづらい。五輪会場で活動する医療従事者の確保も必要と聞けば「ムリかな」と心がつぶやく

◆それでも開催に向けて日夜汗する関係者がいる。何より一生に一度であろう自国五輪の舞台に立つため、ほかの多くを犠牲にしてきた選手の気持ちを思えば「どうにかしてでも」と心のてんびんはそちらに傾く

◆なるほど、その手があったか-と膝を打つプランは出てこぬものか。決断が迫る。祈りのときはもう過ぎた。



【東京五輪】現実に即した議論進めよ(2021年1月26日配信『高知新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月23日の東京五輪開会式まで半年を切った。

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、共同通信のインタビューに「7月に開幕しないと信じる理由は現段階で何もない」と、中止や再延期の可能性を否定する発言をした。日本政府も開催の姿勢である。

 昨年7月からの1年延期を挟んで、関係機関はこれまで長期にわたって準備作業を積み重ねてきた。その努力と苦労は評価しなければならない。

 しかし、世界では依然として感染が広がっている。予断を許さない状況が続く。新型コロナに対する国内外の不安は膨らんでいるのが現実といっていい。

 4年に1度の「平和の祭典」を楽しみに待っている人は多かろう。一方で、感染を心配する人、コロナ禍で生活に影響が及んでいる人、不断の対応が続く医療従事者らの心境は果たしてどうだろう。

 開催するの一点張りでいいのか、懸念せざるを得ない。開催に当たっては、各国国民の理解が欠かせないのではないか。

 1月初旬の共同通信による世論調査では、今夏の東京五輪・パラリンピックについて「中止するべきだ」が35・3%、「再延期するべきだ」が44・8%で、計80・1%が見直すよう求めた。五輪よりコロナ対策を重視する考え方の裏返しとみていいだろう。

 現実に基づいて議論を進めるべきではないか。再延期や中止を含め、あらゆる選択肢を排除せずに、早急に検討するよう求める。

 先日は英紙の報道によって波紋が広がった。タイムズが東京発の記事で「日本政府が中止せざるを得ないと内々に結論付けた」と報じたからだ。政府は否定し、報道の打ち消しに追われた。

 海外にも開催への疑問が少なくないことの一端ではないか。参加選手は約1万1千人の予定だ。関係者や観客の入国と国内移動、ボランティアも合わせたスタッフら大勢のPCR検査、感染予防策など開催に向け不安要素は数多い。

 政府内には無観客で開催する案が出てきた。競い合う選手をはじめ、本来五輪は交流の場であるはずなのだが、選手村は感染防止のため、入村は競技開始5日前から、退去は競技終了後2日までと滞在期間を制限する方針も示されている。

 選手の間には不安や疑問など、さまざまな考えがあるはずだ。陸上女子1万メートル代表の新谷仁美選手は、テレビ取材に対し「アスリートとしては賛成、一国民としては反対」と率直に心境を語っていた。

 年齢や体力から東京五輪を競技人生の締めくくりと位置付ける選手は複雑な心境だろう。

 「人類がコロナウイルスに打ち勝った証しとして」。安倍政権から続いてきた前のめりの決意ではなく、誰もが納得できる方向を示すべき時である。 



あと半年(2021年1月26日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 「男はつらいよ」シリーズで寅さんを演じ続けた渥美清さんに、イメージを一新しようと企画された幻の映画があったという。東京五輪が終わったあと、次の大会を目指して練習に励む選手の中に、金メダル確実と評判の砲丸投げの女性がいた。なんとこれが渥美さん

◆性別を間違えられて育ったこの主人公、美人の陸上選手を見かけると、気が散って成績が振るわない…。やっぱり寅さんみたいな話だが、「こんな下品なもの、渥美にやらせられるか」と松竹の社長が怒って撮影は見送られた。脚本家の早坂暁さんが回想している

◆1年延期された東京五輪の開幕まで半年を切った。コロナ収束の気配は見えず、世論調査では8割が「この夏は無理では」と危ぶんでいる。英紙まで「内々に中止を決めた」と報じた。喜劇映画の主役どころではなく、選手たちは心穏やかではいられまい

◆「人類がコロナに打ち勝った証しに」と政府は威勢がいいわりに、選手の感染防止策や観客を制限するかどうか、具体像ははっきりしない。国民が希望を抱く確かな道筋はいつ見えるだろう

◆「ボクサーはいいよな」。渥美さんは語ったという。「タオルを投げてくれる人がいるからね。役者は自分で投げなきゃならないから」。コロナ禍の祭典もまさか、そのタイミングを計っているとは思いたくないのだが。





変異種の拡大、悲観論に拍車を掛ける(2021年1月25日配信『東奥日報』-「天地人」)

 東京五輪・パラリンピックの開幕まで半年を切ったというのに、世界で新型コロナの猛威は衰えず、国内外で開催を危ぶむ声が高まるばかり。感染力が強い変異種の拡大も悲観論に拍車を掛ける。

 中止や再延期を否定する国際オリンピック委員会(IOC)は、観客について「安全が最優先という点でタブーはない」との見解を示し、無観客での開催も選択肢として認めた。政府も国内外でのワクチン普及を開催の前提条件にしない方針を示し、「無観客」「上限なし」「50%」の3案を検討し始めた。

 無観客開催をめざすとしても、世界的に代表選考会の開催が難航している競技があるうえ、感染が深刻な国からは参加できない選手が出てくる可能性もある。コロナ対策を最優先課題とするバイデン米大統領が、スポーツ大国としてコロナ禍の五輪にどう対応するのかも気になる。

 最近の各種世論調査では「中止」「再延期」を合わせた見直し論が8割前後に上る。現実を冷静に見ている国民にとって、コロナ対策の徹底が最優先なのは明らかだ。

 緊急事態宣言が再発令された大都市では感染収束はなお見通せず、医療体制が逼迫(ひっぱく)。在宅療養中に容体が急変して亡くなる人も後を絶たない。たとえどんな形で五輪が開催されようとも、最低限のこととして、日常の医療体制を圧迫するような事態だけは避けなければなるまい。



東京五輪まで半年 現実見据えた議論足りぬ(2021年1月25日配信『毎日新聞ー「社説」』)

 7月23日開幕予定の東京オリンピックまで半年を切った。だが、新型コロナウイルスの世界的流行は依然続いており、開催を巡る不安が国内外で高まっている。

 外国の金メダリストや国際オリンピック委員会(IOC)の関係者からは、開催への懐疑論が出始めている。海外メディアでは中止の可能性に言及する報道も増えてきた。

 今月上旬の共同通信の世論調査では、中止や再延期を求める声が約8割を占めた。競技の現場でも日本代表の遠征や合宿が中止されるケースが相次いでいる。

 IOCのトーマス・バッハ会長は「(大会は)トンネルの終わりの光となる」と強気の姿勢で、大会組織委員会の森喜朗会長も「長い夜も必ず朝は来る」と語る。

 菅義偉首相は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」と開催の決意を繰り返し、国会では「ワクチンを前提としなくても開催できるよう準備を進めている」と答弁した。だが、大会のコロナ対策に責任を持つ政府の説明としては具体性と説得力を欠く。

 何より今は現実を見据えた議論を急いで進める必要がある。

 最優先で検討すべき課題は明らかだ。訪日客も含めた観客制限の可否と、選手や関係者の感染防止策である。

 昨年、政府は海外からも観客を受け入れ、14日間の隔離措置を免除して公共交通機関の利用を認める案を示した。

 だが、世界中から人々が集まれば、感染がさらに拡大する危険性がある。変異ウイルスの侵入も予想される。

 昨年以降、欧米のプロスポーツの多くが無観客で実施されている。五輪も、無観客開催や観客を日本在住者に限定した方法が望ましいとの意見が出ている。

 感染防止策では、隔離した環境に選手らを滞在させ、競技会場と宿舎を往復するだけの「バブル」方式を採用するアイデアもある。

 どのような取り組みが可能なのかを検討するうえでは、深刻化するコロナの感染状況への細心の注意が欠かせない。

 3月25日からは聖火リレーが始まる予定だ。開催への危機感、関係者の具体的な動きが見えない現状を早く改めなければならない。



五輪まで半年 開催の可否問い直せ(2021年1月25日配信『東京新聞』-「社説」)

 東京五輪の開会式まで半年となった。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、開催に反対する世論が強まっている。政府や東京都、大会組織委員会は開催の可否を根本的に問い直すべきだ。

 一月に共同通信が行った世論調査では「開催するべき」は約14%で、昨年十二月から半減した。「再延期」と「中止」は計八割で、今夏の開催を否定している。
 11都府県が二度目の緊急事態下にある。全国の1日の死者が100人超に達する日もあり、1年延期を決めた昨年3月より状況は悪い。一般市民へのワクチン接種開始も五月ごろとされ、国民の大会不安は当然である。

 海外でも感染状況が深刻な国は多く、大会参加選手を決める予選が行えるかどうか見通せない。不参加を唱える国が出ることも予想される。

 これまで政府や都、組織委は「人類がウイルスに打ち勝った証しに」と言い続けてきた。「満員の競技場で全競技を行い、多くの観光客を入国させる」という最善プランに固執したことが、不安を招いた一因ではないか。

 遅まきながら、感染状況に応じた縮小案や中止案について検討し、準備状況や影響予測なども含めて公表する。その上で、どの案を選ぶか丁寧に説明するべきだ。

 開催する場合は、感染防止対策に相当の困難を伴う。現行の対策は大ざっぱな中間整理にすぎない。パラリンピックと合わせて1万人超の選手、約8万人のボランティア、多くの観衆らが計30日間、複雑に行動する全シーンに対応しているとは言い難い。
 
 また1年延期とコロナ禍が重なり、ボランティアと医療スタッフを確保できるか判然としない。

 観客の入場制限の有無も今春まで結論を先送りしている。限定的な規模の大会となり、チケット収入が減れば大会収支は悪化する。観光客が来日しなければ、経済効果も乏しい。

 どんな形であれ開催するための大前提は、感染拡大を抑え緊急事態を早期に解消することだ。

 一方、中止する場合は約3千億円の追加支出は抑えられるが、支出済みと考えられる約1兆3千億円の開催経費、新設施設が意義を失う。チケット収入はゼロで、特需を当て込む観光や警備業界なども打撃を受ける。

 聖火リレーの開始は3月25日。それに間に合うよう方針を国内外に説明し、理解を得ようとするなら、残り時間は少ない。





東京五輪半年前 着地点探る議論が必要(2021年1月24日配信『北海道新聞』-「社説」)

 1年延期された東京五輪の開幕まで半年を切った。

 しかし、新型コロナウイルス感染拡大に国内外で歯止めがかかっていない。開催への懐疑論が広がり、国内世論も反対が多数だ。

 このままでは五輪の負のイメージが増しかねない。選手たちに後ろめたさを抱かせてしまうような状況が続くことにもなる。

 国際オリンピック委員会(IOC)と政府、東京都、大会組織委員会は、感染状況や社会情勢を踏まえた率直な議論を行うことが肝要だろう。

 観客制限のほか、中止や再延期も含めあらゆる選択肢を俎上(そじょう)にのせ、それらの是非をオープンに検討する。そうして国民が納得できる結論を導き出してほしい。

 開催の決定権を持つIOCのバッハ会長は21日のインタビューで「7月に開幕しないと信じる理由は現段階で何もない」と述べ中止や再延期の可能性を否定した。

 菅義偉首相も、通常国会の施政方針演説で「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとしたい」と、改めて開催への意欲を示している。

 だが、いずれも希望的観測だ。

 政府はワクチンを五輪の前提としないとの考えを最近強調しだしたが、ワクチンの普及が安全な開催に重要なのは言うまでもない。

 先行する米英でさえ広く行き渡るのは1年以上先とみられ、日本は一般の人への接種が五輪に間に合うかは見通せない。感染力の強い変異種も出現している。

 IOC委員からは開催に「確信が持てない」との声も上がり、今月上旬の共同通信の世論調査では8割超が再延期か中止を求めた。

 「必ずやる」と決意ばかり言うのではなく、こういった厳しい現実を直視する姿勢がIOCはじめ関係機関には欠かせない。

 その上で、観客制限のあり方や開催の可否について多角的に検討するべきだ。

 1万人超の選手を万全に隔離できるかや、医療機関の協力が得られるかも課題になる。医療関係者の意見も参考にする必要があるのではないか。

 コロナ禍に五輪を開く意義も必然的に考えることになるだろう。平和への寄与という五輪の理念を再確認する機会としたい。

 こうした議論を見える形で深めながら着地点を探ることが、進むにしても退くにしても、国民の理解を得る上では不可欠だ。

 議論がないまま開催ありきで進むことは避けなければならない。



「人々や選手の健康を最優先に」「東京は2…(2021年1月24日配信『河北新報』-「河北春秋」)

 「人々や選手の健康を最優先に」「東京は24年、パリは28年、ロサンゼルスは32年にずらしてはどうか」。東京五輪・パラリンピックの開催を危ぶむ声が、世界の現役選手やメダリストからまた上がりだした

▼昨年3月を思い出す。新型コロナウイルスの感染が収まらない中、かたくなに開催を目指した国や国際オリンピック委員会(IOC)。各国の選手や競技団体からの要請が相次ぎ、ようやく1年延期となった。あの時と比べて今の状況はどうか。より深刻だ

▼共同通信社の今月の全国電話世論調査によると、「今夏に開催するべきだ」は14・1%にとどまる。「再延期」は44・8%、「中止」は35・3%だった。大会組織委員会の森喜朗会長は講演で、前二つを足して「6割の方は五輪をやるべきだという判断。心強い」と述べた。立場は分かるが、苦し過ぎる解釈だろう

▼難題は海外からの観客をどう迎え入れるかだ。選手と違い、宿泊先はばらばらで移動も公共交通機関が基本。「感染拡大の最大のリスクになり得る」。健康状態や滞在先などを一元管理するスマートフォン向けアプリの導入を検討しているが、実効性を疑問視する声は多い

▼他にも課題は山積している。東京五輪開催まで半年を切った。策を講じる時間はあまりにも短い。



五輪まで半年(2021年1月24日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 過去の五輪にも困難を乗り越 えて開催した大会があった。有名なのは1920年、ベルギーのアントワープ大会。新型コロナウイルス禍の昨今、重ね合わせる東京大会関係者は少なくない

▲開催の正式決定は前年の19年。第1次大戦終結の翌年で、スペイン風邪の流行も完全には収束していなかった。それでも開催にこぎつけ、平和の祭典としての形も整えた。5大陸の連帯を示す五輪旗を最初に掲げ、フェアプレーを誓う選手宣誓も初めて取り入れた

▲大舞台を用意する上で、大事なのは選手が力を出し切れることだ。安定した世が欠かせないと当時の人々も胸に刻んだのだろう。さて、東京五輪まで半年を切った。新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、開催を危ぶむ声が高まっている

▲日本政府は7月開催の前提を崩しておらず、無観客も視野にあるようだ。だが肝心の選手は来てくれるだろうか。自国での選考会は進まず、コンディションへの影響を懸念し、ワクチン接種に慎重なアスリートもいる

▲1年延期が決まった昨年3月よりも状況は厳しいように見える。感染力が強いとされるウイルスの変異種も出現。疲労困憊(こんぱい)の医療現場に「さらなる訪日外国人患者の受け入れ想定を」とはとても言えない

▲五輪の意義を広めたアントワープ大会から約1世紀。不安を抱えたまま、ぎりぎりまで開催を目指す日本の姿が五輪史にどう刻まれるのか。今は心配の方が先立つ。



東京五輪まで半年、ワクチンは「魔法の水」か(2021年1月24日配信『西日本新聞』-「春秋」)

 スポーツ医学が未熟な昔、ラグビーの試合によく「魔法の水」が登場した。やかんに入ったただの水だが、倒れた選手の頭にかけると、なぜかむっくりと起き上がりプレーに戻っていった

▼そんな水の魔法のような話を以前、バルセロナ五輪女子マラソン代表だった小鴨由水(こかもゆみ)さんから伺った。マラソンで最もきついのは30キロすぎ。酷使した肉体は限界寸前。そこで給水すると

▼「一口飲んだ瞬間、水分が手の指の先まで毛細血管を通じサーッと体内に満ちていくのが分かります」と小鴨さん。実感できず「二日酔いの朝に飲む水のような感じですか」と尋ね失笑された

▼小鴨さんが脱水症状でふらふらになってゴールしたバルセロナから29年。東京五輪開幕まで昨日で残り半年を切った。コロナ禍で1年延期が発表され10カ月たつが、事態は好転しない。直近の世論調査では8割が中止か再延期を求めた

▼ただ全てを五輪に懸けてきた選手や、震災復興を五輪に重ねる被災者を思うと万策を尽くし何とか開けないか。なのに菅義偉首相は「人類がコロナに打ち勝った証しに」と前政権と同じ空虚なフレーズを述べるだけ。無観客でも開催するのか。変異種発生国の選手も受け入れるのか。具体的な運営計画はおろか肝心のトップの覚悟が見えない

▼国はワクチンの一般接種を5月に始めるという。時期は遅いが、五輪開催への「魔法の水」になるよう祈るばかりだ。



「五輪を嫌われ者にしないでほしい」(2021年1月24日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)

 東京五輪が延期された昨年、マラソンメダリストの有森裕子さんがこんなことを語っていました。「私たちのスポーツというのは、ちゃんとした社会のもとで成り立っている」

▼社会が落ち着かないのに、スポーツのことだけを考えて五輪開催には価値があると言い続けるのは、ちょっと違う主張ではないか。開くからには何か明るく栄え、育まれるものが生まれなければ、やる意味はないと思うと

▼東京五輪の開幕が半年後に迫りました。ウイルスの感染拡大で緊急事態のさなかにある日本社会。医療や仕事をはじめ、命とくらしを守る懸命な日々が続きます。国民の多くが今夏の開催に反対するなか、選手たちは戸惑いや不安を抱えています

▼「五輪を嫌われ者にしないでほしい」。日本オリンピック委員会の山口香理事は、開催の判断が長引くほど国民の気持ちが五輪から離れていくと新聞に語っています。中ぶらりんの状態や選手の準備不足を心配し、「国の説明が足りない」とも訴えています

▼複雑な思いは現役からも。カヌー五輪代表の羽根田卓也選手は、まずは自分自身がコロナの収束に最大限尽くすことだと。パラリンピックの土田和歌子選手は「いまは命を優先するべき。命が約束された世の中であってこそスポーツが成り立つ」

▼望まれない五輪ならば開く意味がないと、はっきり口にする選手も。みずからの失政で感染を広げた菅首相は根拠も示さず、開催にしがみつくばかりです。このままでは選手や五輪も浮かばれません。





東京五輪まで半年/実現への道筋早く打ち出せ(2021年1月23日配信『福島民友新聞』-「社説」)
 
 新型コロナウイルスの影響で、1年延期された東京五輪の開幕まで半年となった。

 感染の急拡大と医療体制の逼迫(ひっぱく)で、東京を含む11都府県で緊急事態宣言が再発令されている。国内外から五輪開催を危ぶむ声が出ているなか、菅義偉首相は国会の施政方針演説で「感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現する」と、開催へ強い決意を示した。

 わずか半年で完全収束は難しい状況だ。1年前は感染に不安を抱いた多くの競技団体や選手から声が上がり、延期が決まった。

 大会を実現するには、現在の感染拡大を抑え込み、選手や観客、ボランティアなどの安全・安心を確保することが大前提となる。政府や大会組織委員会、東京都などは、開催を不安視する世論の理解が得られるよう、観客の有無などを含む大会の開催方針や具体的な方向性を早期に決定すべきだ。

 開幕まで全国を巡る聖火リレーは3月25日にJヴィレッジ(楢葉町、広野町)を出発し、3日間で県内26市町村を通過する。セレモニーなどは簡素化が検討されており、大会組織委と県は、リレーの実施方法や沿道の密集対策などについて調整を進めている。

 スタートまでに残された時間は少ない。早急に具体的な実施内容を明示し、各市町村などが円滑に準備できる態勢を整えてほしい。

 福島市のあづま球場では開会式に先立ち、7月21日にソフトボール競技が始まる。選手らの検査や出入国の仕組み、競技会場などでの感染症対策は昨年12月に大枠が決まり、大会運営について具体的な検討が進められている。

 現時点では、最大の観客動員を前提にする必要がある。県や福島市はあらゆる事態を想定した、柔軟な対応が求められる。

 各国の選手団は、大会直前に時差調整や練習などで、国内のホストタウンに滞在する計画だ。県内9市町村が11カ国のホストタウンに登録されている。

 しかし選手の入国後の待機期間中の活動や行動ルールなどが決まっておらず、県内のホストタウンも、相手国との調整などが進んでいない。各自治体の受け入れ準備への支援も必要だ。

 東京五輪・パラリンピックは「復興五輪」が大会理念だ。東日本大震災の復興の姿を世界に発信し、これまでの支援への感謝のメッセージを伝える機会になる。

 政府や大会組織委は、復興五輪が大会の最も重要な柱であることを忘れず、コロナ禍の克服に全力を挙げなければならない。



五輪まで半年(2021年1月23日配信『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 40年にわたり週刊少年ジャンプに連載された人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」には、4年に1度だけ登場する名物キャラクターがいた。日暮熟睡男(ねるお)。起きているのは夏季五輪の時だけ。あとの4年間はひたすら眠り続ける

 ▼モスクワ五輪から、連載が終了した2016年のリオデジャネイロ五輪まで毎回登場した。ずっと寝ているだけなのに解雇されないのは、目覚めるたびに超能力を発揮し、難事件を解決しているからという設定だ

 ▼昨年夏、この漫画が読み切りで復活した際にも彼が出てきた。しかし、東京五輪が延期されている。彼が五輪のないことで混乱すると、超能力を暴走させて、大惨事を引き起こす恐れがある。周囲の面々はまだ2019年だとごまかして、彼を寝床に戻すことにした

 ▼今から思えば、五輪の延期が決まった昨年3月はまだ混乱の入り口だった。1年近くたっても、ウイルスの勢いは衰える気配を見せない。開催を危ぶんだり、疑問視したりする声が国内外から聞こえるのは事実だ

 ▼漫画は、主人公両さんが「来年出る(予定)かも」と、読者に手を振りながら終わっている。五輪の開会式まで、きょうで半年。期待と不安が同居する日々が続く。



五輪まで半年 臆測に惑わされず準備を(2021年1月23日配信『産経新聞』-「主張」)

 東京五輪は国民が前を向くための希望であり、厄介者にしたくはない。開幕までの残り半年、日本の責務は粛々と開催準備を進めることだ。

 大会の1年延期を強いた新型コロナウイルス禍は、国内で収束の気配が見えず、変異種の世界的な広がりも人々の不安をあおっている。

 今夏の開催可否をめぐり悲観論や臆測も飛び交っているが、大会組織委員会と東京都は惑わされてはならない。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「7月に開幕しないと信じる理由は、現段階で何もない。だからプランB(代替案)もない」と述べ、中止や再延期を否定した。この姿勢を支持したい。

 コロナ禍の中で、スポーツ界は競技大会の新たな開催方法を模索し、知見を積み重ねてきた。選手を外部から完全に隔離する手法は各地で成果を挙げている。五輪の期間中は選手村での滞在時間も大幅に短縮される。水際対策の徹底と併せ、日本での感染リスクを抑え込むことは、海外選手らにとって安心材料となるはずだ。

 国際体操連盟(FIG)会長でIOC委員の渡辺守成氏は産経新聞の取材に対し、「この逆境で五輪を成功させたら日本のプレゼンス(存在感)は上がる」と述べ、中止により日本が失うものの方が多いとの見解も示した。

 同感である。東京が掲げる「安全・安心」な大会の実現は、今後の五輪にとっても新たなモデルとなる。そのためにも日本はまず、国内の感染状況を沈静化させなければならない。

 昨年3月に東京大会の1年延期を提案したのは、安倍晋三前首相だった。IOCをうなずかせたのは、日本なら大会の「安全・安心」を確保できるという信用があったからだ。今夏の開催は世界への「公約」であり、いまは菅義偉政権が責任を負っている。

 首相は国会の施政方針演説で、「感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進める」と述べた。

 その決意が本物なら、感染抑止のための法整備や施策を急ぐべきである。

 五輪開催への具体的な道筋を示し、日本の安全性を世界に発信してもらいたい。国民は一日も早く、前を向きたいのだ。



その根拠を示してもらいたい(2021年1月23日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

<オリンピック反対論者の主張にも理はあるが、(中略)やっぱりこれをやってよかった>。作家の三島由紀夫は、1964年にアジアで初めて開催された東京五輪の開会式を見て、率直にそう思ったと書いている

▼聖火について述べるのに、日本人の宗教感覚から説き起こすところが三島らしい。<聖火台に点ぜられた聖火は、再び東洋と西洋を結ぶ火だともいえる>と、高揚感あふれる文章である(『1964年の東京オリンピック』河出書房新社)

▼三島のように「これをやってよかった」と心から思えるのだろうか。世界的なコロナ禍を受け史上初めて延期された東京五輪の開幕まで、きょうで半年となった。延期が決まったのは昨年3月。五輪への逆風は、そのころ以上のようである

▼国内感染者の累計は30万人を超えた。重症者も今月に入って1週間に100人のペースで増加。医療現場は限界に近づく。それでも菅義偉首相は判で押したように「人類がコロナに打ち勝った証し」として実現を目指すと繰り返すばかりだ

▼そもそも、そういうせりふは打ち勝った後に言うものでは。今のところどう見ても負け続けのよう。首相はさらに、国内外でのワクチン普及は五輪開催の前提条件ではない、とも述べた。ワクチンなしでどうやって安全な大会ができるのか

▼首相の説明力不足は今に始まった話ではないが、安全安心な五輪が実現可能というなら、その根拠を示してもらいたいものである。借り物ではなく、私たちの心に響く自らの言葉で。





東京五輪 中止も想定すべきでは(2021年1月18日配信『中国新聞』-「社説」)

 今年夏まで開催を1年遅らせた東京五輪・パラリンピックに再び暗雲が垂れ込めている。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないためだ。

 国内の感染者が累計で30万人を超え、政府は特別措置法に基づく緊急事態宣言を11都府県に再発令せざるを得なくなった。

 それでも、菅義偉首相は開催に固執する。「人類が新型コロナに打ち勝った証しとして、実現するとの決意の下、準備を進める」と年頭会見でも述べた。大会組織委員会の森喜朗委員長も「あくまで進めていく」と強気の姿勢を崩していない。

 ただ世界では、そんな楽観的な考えとは正反対の意見が広まりつつある。「今夏の開催見通しが日々厳しさを増し、第2次大戦後では初の中止に追い込まれる可能性がある」。米国の有力紙ニューヨーク・タイムズや、ブルームバーグ通信は先週末、そう伝えた。

 中止になれば、自国開催を励みにしている国内のアスリートや関係者を失望させるだろう。世界トップの力と技を間近で見たいと心待ちにするスポーツ愛好者も信じたくはあるまい。

 しかし安全な開催は不可能だとの声が、国際オリンピック委員会(IOC)の中でさえ、出始めている。例えば最古参のIOC委員、カナダのディック・パウンド氏は「開催に確信が持てない」と述べたという。

 感染急拡大は世界でも昨年秋以降、欧米を中心に深刻になっているからだ。感染者は9500万人に迫り、昨年9月の3倍に。日本では2月下旬の開始を目指すワクチン接種を始めた国もあるが、感染の収まる見通しは立っていない。これでは半年後とはいえ、安全な開催を確信できないのも無理はなかろう。

 「3密」を避けられない競技や合宿など、スポーツには感染リスクが伴う。実際に今月、相撲界では力士たちが共同生活する部屋で集団感染が発生した。水球では、日本代表候補合宿に参加していた選手が陽性と判定され、合宿は中止となった。

 コロナ禍は、五輪に対する国民の期待もしぼませている。今月上旬の全国世論調査では「中止すべきだ」と「再延期すべきだ」が合わせて8割を超えた。

 再延期すべきだとの私見を表明したメダリストもいる。ボートで「金」を4個得た英国のマシュー・ピンセント氏は「順番変更を求め、2024年まで延期すべきだ」という。開催を4年ずつずらし、パリを28年、ロサンゼルスは32年とする案だ。調整は簡単ではなかろうが、検討に値するのではないか。

 ここに来て日本政府からも懐疑的な意見が出てきた。河野太郎行政改革担当相である。「最善を尽くす必要があるが、どちらに転ぶかは分からない」とロイター通信の取材に答えた。日本の閣僚が五輪中止の可能性に言及したとして、フランス紙などでも報じられた。

 3月にはテスト大会や聖火リレーが予定されている。五輪の中止も含め、政府はあらゆる可能性を想定して対応策の検討を急ぐべきである。開催にこだわるなら、感染者をいつまでにどれだけ減らすか。目標や達成状況を明らかにしながら、国民の理解を得る必要がある。データや具体的根拠も示さず、開催の決意ばかり語っても、冷めかけた国民の心に火はつくまい。 





森喜朗と神と政策と…(2021年1月16日配信『日刊スポーツ』ー「政界地獄耳」)

★東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの開催を巡り組織委員会会長・森喜朗が迷走している。森は12日、インターネットで講演し今夏に延期された大会をさらに1年延期することについては東京都や関係省庁からの出向者の期間を延長できないとして「絶対不可能だ」とした。つまり理由は組織委員会の組織の問題だという。「あとは毎日毎日神様にお祈りする。天を敬う。それしかない」としたが、昨年末、12月24日の国内競技団体向けの協議会でも森は冒頭のあいさつで五輪の観客の取り扱いについて触れ「無観客となるのか、どれだけのお客さんが入るのか、無制限で行けるのかは天との勝負。神様がどれだけ味方していただけるかだ」とした。

★その森は12日、新年の職員向けのあいさつで「家内がスマホをみると、私の悪口ばかりだったそうだ。首相・菅義偉以上だった。長い人生で初めて。2000~01年の森内閣でもこんなにひどくなかった」と話した。それはそうだ。森内閣でITインフラを整えたので、当時はネットで国民の声があふれることはなかった。

★加えて2000年5月15日、時の首相・森は「神道政治連盟国会議員懇談会」結成30周年記念祝賀会のあいさつで、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知をしていただく」「いずれにしてもこのとき天命が下ったのかなと思いました。総理大臣になりました時、まさにこう申し上げました。まさに天の配剤だろうと。だからこそ、恥ずかしいことをしてはならない、まさにお天とう様が見てござる、神様が見ていらっしゃるんだということを1つだけ、大事にしながら政治があやまちにならないよう、しっかりと頑張っていきたいと思います」とあいさつ。いわゆる神の国発言で首相の資質が問われた。その批判は他の失言も相まってすさまじいものになった。ただ、当時から今まで森が頼るものは神様だということに変わりはないことだ。国民の批判は神頼みではなく合理的で科学的な政策判断だ。





五輪開催、政権の主張に国民がクギ(2021年1月12日配信『日刊スポーツ』ー「政界地獄耳」)

★世論調査が万能とは思わないが、国民の一つの指標にはなるだろう。政治家にとっては占いのようなもので数字がよければ信ずるし、悪ければ無視したい。だが侮ってはいけない。1月の各メディアの世論調査が出始めた。TBSのJNN世論調査で、菅内閣の支持率は先月より14・3ポイント下落して41・0%となり、不支持率は55・9%と、支持と不支持が前回調査から逆転した。共同通信では先月調査より9・0ポイント下落し、支持率は41・3%。不支持率は42・8%で、不支持と支持が拮抗(きっこう)した。いずれも政権には打撃だが、就任当初の数字が高かった分、その落胆が大きいということだろうか。

★不支持理由のトップは、共同が「首相に指導力がない」で41・2%。TBSは「政策に期待できない」で、37・6%だった。コロナ対策の無策や決定の遅さ、強引なGo To トラベルの施行と批判があっても止めない判断の鈍さや、世論動向が読み切れない判断力に批判があるようだ。それにしても下落率が高い。今年総選挙がある年と考えれば、先手先手が政権には必要だろうが、国民はそう見ていないのが分かる。

★18日から通常国会が始まり、まずは3次補正予算の審議がある。大盤振る舞いだけでは国民は納得しまい。本予算の審議入りは来月からだろうが、この調子で政権はもつのだろうか。同時に来月までには1年延期した東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非が問われるタイミングもやってくるだろう。TBSでは「開催できると思わない」が81%、共同では「再延期するべきだ」が44・8%で、「中止するべきだ」が35・3%だ。首相・菅義偉の言う「感染対策を万全にし、安全・安心な大会を実現したい」や、2月下旬を目指す新型コロナウイルスのワクチン接種開始などで「国民の雰囲気も変わってくるのではないか」(7日の会見)という主張に、国民がくぎを刺したことになる。政権運営は厳しさを増す。





市井のリアリズム(2021年1月10日配信『日本経済新聞』-「社説」)

 大戦末期の1945年6月8日。政府は御前会議を開いた。ドイツの降伏を受け、現実的な対応を決める時期にきていたのである。会議には、国力の現状や世界情勢を率直に示す資料も提出された。しかし新たにまとまった戦争指導大綱には、結局その気配もなかった。

▼「七生尽忠の信念を源力とし、地の利、人の和をもってあくまで戦争を完遂し……」。文書はこんな言葉の羅列である。リアルな数字や予測を前にしながら、誰もが思考停止に陥ったのだ。あの戦争をめぐっては、こういう「空気」に支配されたような場面が少なくない。それはしかし、遠い昔の出来事と言い切れようか。

▼この夏の東京五輪・パラリンピックを、通常どおり開催するという発言をしばしば聞く。菅首相も「コロナに打ち勝った証しとして」なる常套(じょうとう)句をよく口にする。もちろんそうなれば喜ばしいが、聖火リレーの走り出す3月はすぐそこだ。日本と世界の感染状況を直視すれば、もう「空気」に浸ってばかりではいられまい。

▼各種世論調査を眺めると、今夏の開催を望む人は少数派である。これが市井のリアリズムだろう。かくなるうえは国も都も、さまざまなパターンを想定して本音の議論をかわす務めがあるはずだ。ちなみに、かの「戦争完遂」大綱のあと、昭和天皇は生々しい報告を聞き驚愕(きょうがく)したという。そのときからやっと局面は開けた。



東京五輪・パラ 安全の確保こそ最優先に(2021年1月10日配信『山陽新聞』-「社説」)

 「世界中に希望と勇気を届けるためしっかり準備を進める」。年頭会見で菅義偉首相は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い今夏に1年延期された東京五輪・パラリンピック開催への決意を語った。

 しかし、コロナ禍を巡る状況は開催地の東京を中心に一段と厳しさを増している。米欧などで始まったワクチン接種の効果に期待がかかる一方で開催を危ぶむ声も多い。先行きの不透明さは拭えない。

 大会日程は五輪が7月23日~8月8日、パラは8月24日~9月5日。3月には聖火リレーが始まる。大会は「簡素化」を基本に据える。開閉会式は華美な演出を避け、コロナ禍の時代に見合う式典へ刷新を図るという。

 コロナ対策では、海外選手の受け入れに際して入国前や入国時、滞在中にウイルス検査を実施。行動範囲を選手村や競技会場に限り、感染を防ぐなどとしている。

 昨年の延期決定は選手に大きな衝撃を与えた。それを乗り越え、新たな照準を今夏に合わせ練習に励んできた。スポーツへの情熱と、ひたむきな努力をたたえたい。

 そうした選手の心情を思えば、今度こそ世界の“晴れ舞台”で存分に力を発揮してほしい。パラ大会は障害者への理解や、バリアフリー社会の実現などにつなげる意義も担う。見る側も最高レベルの競い合いや感動のドラマを味わいたいのはやまやまだ。

 とはいえ、大会への逆風は強い。政府は、感染者の急増で医療体制が逼迫(ひっぱく)している東京などに緊急事態宣言を再発令した。加えて、英国などで発見された感染力が強い「変異種」も各国に広がり追い打ちをかける。国民の不安は募るばかりだ。

 政府や大会組織委員会などが期待するのが、ワクチンの接種である。日本でも2月下旬までに開始予定で、菅氏は「国民も良い雰囲気に変わるだろう」とするが、先は見通しづらい。再発令で感染を抑えられなければ、開催へのさらなる暗雲となろう。

 当面の大きな焦点が、今春までに扱いを決める海外からの観客受け入れの可否だ。選手は行動範囲が限られて厳格に管理できるのに対し、観戦以外にも観光で各地に行くことも考えられ、感染拡大のリスクを負う。しっかり議論を煮詰めてほしい。

 選手の安全を守る上で医療体制の整備も欠かせない。発熱外来などを設けるため必要人員は当初予想を上回る。医療従事者がコロナ対応に追われる中での確保は難しく、政府や組織委は原則無償から手当支給に方針転換した。妥当な判断だが、難航しそうだ。

 五輪・パラ開催を模索する際、最優先に据えるべきは安全の確保であり、国民の理解と協力だ。開催の可否などの判断に当たっては現状を直視した上で明確な説明が欠かせない。まずは直面する感染拡大の歯止めへ、国を挙げて取り組みを強めたい。





東京五輪・パラ 現実直視して最終判断を(2021年1月7日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年延期された東京五輪・パラリンピックも、開幕まで半年余りとなった。しかし、収束が期待された感染は国内外でこれまでにない広がりを見せ、大会を取り巻く逆風は弱まるどころか、さらに強まっている。

 欧米を中心とした感染者は、世界で8千万人を超えた。地球人口の1%を上回り、100人に1人以上が陽性となった計算だ。感染力の高い変異種出現の報告も相次いでいる。開催地の東京都と、埼玉、千葉、神奈川の周辺3県にはコロナ特措法に基づく緊急事態宣言が再発令される。

 厳しい状況を打開し、安全な五輪を開催できる環境をつくり出すのに残された時間は少ない。国際オリンピック委員会(IOC)などには、現実を直視した最終判断を求めたい。開催するのであれば、各国が一丸となって最大限の感染防止策を講じるべきだ。

 政府は昨年12月、五輪開催に向けたコロナ対策の中間整理を公表した。それによると、選手村に滞在する選手らには、原則96~120時間の間隔でウイルス定期検査を実施する。海外からの観客については、スマートフォンのアプリなどで行動や健康状態を把握することを検討する。

 ただ、これらの対策を具体化するには、さらに検討を重ねる必要がある。習慣の異なる国々から訪れる大会関係者や観客がマスク着用の原則を一律に守れるかどうかなど、実効性も未知数と言わざるを得ない。

 当面の大きな焦点は、春に判断することになっている海外からの観客受け入れの可否だ。選手らについては、行動範囲を選手村や会場に限定するなど厳格に管理することができる。だが、観客の滞在場所や行動は、アプリで把握できたとしても制限まで加えるのは極めて難しいと考えられる。

 五輪に競技人生を懸けてきた選手や、テレビ中継を心待ちにしている世界中の人々のことを考えれば、国内の観客に限定することや、無観客での開催も検討すべき時期に来ているのではないか。

 選手らに対するワクチンの接種は、急いで広めれば予期せぬ健康被害をもたらす恐れがある。切り札として過度に期待するのは避けるべきだろう。

 共同通信社が昨年12月に実施した全国電話世論調査によると、今夏の五輪を開催すべきだとした回答が31・6%だったのに対し、再延期と中止を求める回答は計61・2%に上った。4日の年頭記者会見で五輪に触れた菅義偉首相は、「世界中に希望と勇気を届けるとの決意の下、準備を進める」と訴えたが、国民の支持がない限り大会の成功は望めまい。

 コロナ禍をいつまでに、どの程度まで沈静化させれば、どのような形の五輪が開催できるのか。開催の是非を冷静に判断するためにも具体的な指標が欠かせない。政府にはIOCなどと早急に協議し、複数のプランの中から納得いく結論を導いてもらいたい。





五輪イヤー幕開け(2021年1月6日配信『福島民報』-「あぶくま抄」)

 各国・地域の英雄が集いしのぎを削る。四年に一度の大舞台ながら、たったの数秒で決着がつく種目もある。選手は人生を懸けて情熱を注ぎ、努力を重ねる。五十七年ぶり二度目となる東京五輪開幕まで二百日を切った。

 四年ごとに開催する理由は諸説ある。国際オリンピック委員会(IOC)の情報サイトは、古代ギリシャの暦[こよみ]に由来するのを最も有力な説と示す。当初は暦の周期に合わせ八年間隔だったが、これが後に半分になった。近代五輪が始まった一八九六(明治二十九)年以降、延期は初めてで予断を許さない異例の夏が迫る。

 世界最高峰の戦いに臨む県勢は、仕上げの段階に移る。バドミントンの桃田賢斗さん(富岡高出身)は海外遠征先での交通事故を経て、約十一カ月ぶりの実戦で復活優勝を飾った。金メダルを見据える二十六歳は多くの苦難と向き合い、力を蓄えている。

 五輪の閉会式で、さまざまな国の選手が肩を並べる「平和の行進」は、戦後の一九六四(昭和三十九)年に開かれた前回東京大会から広まった。見る人を勇気付け、力を与えるのがスポーツの祭典の目指す姿だ。新しい様式の中で、再び日本発の伝統が生まれてほしい。



東京五輪 今こそ「聖火灯す」覚悟を 後世の指針となる足跡残そう(2021年1月6日配信『産経新聞』ー「主張」)

 東京や神奈川など1都3県で緊急事態宣言の再発令が検討されている今こそ、日本の底力が問われている。国立競技場に「今度こそ、聖火を灯(とも)す」という強い意志を世界に示し続けたい。

 新型コロナウイルス禍で延期となった東京五輪は7月23日に開幕し、8月24日にはパラリンピックでも熱戦の号砲が鳴る。9月5日のパラ閉幕まで乗り切ってこそ、東京大会は「成功」したと胸を張れる。日本は「勝負の8カ月間」を迎えたと言っていい。

 ≪競技者の声が聞きたい≫

 新型コロナの変異種の国内流行も懸念される。今夏の五輪開催に批判があるのはやむを得ない。

 だが、思い出してほしい。2013年9月に東京大会の開催権を勝ち取ったときの高揚感は、日本中の人々の心を一つに束ねた。

 開催準備の中で、日本は障害の有無や老若にかかわりなく、誰もが暮らしやすい社会へと変わろうとしている。パラリンピックの大きな功績だろう。

 「おもてなし」は流行語になり、国民の意識は外に向けて開かれた。五輪の開催決定が、ボランティア文化の定着に果たした役割は大きい。19年秋のラグビー・ワールドカップ日本大会が「最高の大会」と賛美されるのは、国を挙げた訪日客の歓待が世界に認められた証しだ。

 五輪・パラには社会の形を変える力がある。その主役であることに、アスリートはもっと誇りを持ってほしい。

 昨年11月に東京都内で行われた体操の国際大会で、五輪2大会連続金メダルの内村航平は「国民のみなさんには、どうやったら(東京五輪が)できるか、どうにかできるように考えを変えてほしい」と切実な声を上げた。

 残念なのは、内村の訴えに続くアスリートがほとんど見当たらないことだ。観客を感染症の危険にさらしたくないとの思いは理解できる。開催を望む意思表示が、身勝手と受け取られることを懸念しているのも理解できる。

 だが、五輪開催は社会経済活動の活性化の延長線上にある。社会を覆う閉塞(へいそく)感を打ち破る上でも、アスリートが前傾姿勢を示すことには何の違和感もない。

 バドミントン男子のエース桃田賢斗は開幕まで200日となった4日、大会組織委員会の公式サイトで「自分のことだけではなく、バドミントン界のためにも金メダルを取らないといけない」とのメッセージを出した。

 桃田は5年前の不祥事で、一度は表舞台から姿を消している。社会奉仕活動と鍛錬の日々、昨年の事故で負った大けがを経て復帰を果たした。今年に入り、PCR検査で陽性となったのは残念だが、「再チャレンジ」を期す人々にとっては模範となろう。

 スポーツの力を体現する人が先頭に立ってこそ、五輪開催論も説得力を伴う。前向きな世論を喚起するためには、競技現場からの発信が不可欠だ。アスリートは大舞台で何を見せ、われわれの記憶に何を残してくれるのかを語ってほしい。スポーツの価値を守り抜く覚悟を見せてほしいのだ。

 ≪コロナ対策には万全を≫

 選手や大会関係者、観客の健康や安全が最優先されるべきなのは言うまでもない。960億円を充てる東京大会のコロナ対策費は、国と都が分担する。

 延期に伴う追加経費は2940億円となり、開催経費の総額は1兆6440億円に膨らんだ。組織委などには引き続き、経費削減に向けて取り組んでもらいたいが、感染防止策など必要な支出を惜しんではならない。

 昨年11月に行われた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は東京大会について、「人類の力強さと新型コロナに打ち勝つ世界の結束の証しとして、来年に主催するとの日本の決意を称賛する」とする首脳宣言を出した。

 その文脈からすれば、東京大会は「日本の五輪」という一国のイベントではなく、世界が結束して成功させなければならない祭典だといえる。聖火は世界の国々にとっての「希望の火」であり、日本が必ず灯すという意志を発信し続ければ、世界の賛同と協力は得られよう。

 「日本だからこそ開催できた」と後世の指針になるような足跡を残せれば理想的だ。日本の総力を挙げて開催準備を進め、興奮と感動の大会を作り上げたい。





五輪展望(2021年1月4日配信『茨城・佐賀新聞』-「論説」)

交流の機会に目配りを

 世界の多くの選手は新型コロナウイルスの感染再拡大の状況を心配しながら、ワクチンの接種が英国や米国などで始まったことに希望を見いだそうとしているのではないか。1年延期となった東京五輪・パラリンピックはこの夏、果たして開催できるだろうか。

 国際オリンピック委員会(IOC)は再延期しないという。世界での感染が今後、よほど深刻なものとならない限り五輪を開催する決意だ。たとえ無観客でも開催の可能性を模索するとみられる。有力放送権者も同じ考えだといわれる。

 4年を一区切りとする五輪サイクルで、IOCは放送権料とスポンサー契約などにより約6千億円の収入がある。その大半は夏季五輪を開催することで確保している。

 この収入は五輪を構成する各国際競技連盟、206の国内オリンピック委員会、さらに五輪開催都市の大会組織委員会に分配される。分配金はいわば五輪運動という身体の各器官に届く血液だ。

 IOCにはこのメカニズムを動かし続ける責務がある。多くの国際競技連盟は昨年、さまざまな大会が中止に追い込まれ、財務状況が急速に悪化した。その厳しい現実を直視すればなおさらだ。

 IOCが昨年、延期を決定したときは練習すらできなくなった選手と、選手を支援する国内五輪委が次々に延期すべきだと声を上げ、それに突き動かされた面がある。

 しかし、現在はそのような主張は聞こえない。万が一この夏も開催できなければ、五輪の舞台に一度も立つことなく引退の危機に直面する選手もいるだろう。状況が改善するのをじっと待つしかないのは選手も同じだ。

 政府、東京都、組織委による大会予算の組み直し作業が終わった。準備を既に整えながら使用できなくなった仮設施設などがあり、借り上げていた会場の使用契約を延長する費用、さらにコロナ対策費が重くのしかかり、追加支出は2940億円と膨らんだ。

 いくら誰も予想し得なかった事態とはいえ、政府も東京都もこれ以上は公費を投入できないだろう。組織委はチケット収入を900億円と見込んでいるため、無観客もしくはそれに近い小規模な観客となれば赤字のピンチだ。

 さまざまな費目で切り詰めの努力が求められるのは当然だ。五輪の開閉会式では華美な演出はしないと決めた。3月に始まる国内聖火リレーでは著名人の起用を見送ることも視野に入れている。

 8万人を確保する予定だった競技関連のボランティアも縮減の方向となった。どれも賢明な検討だ。

 しかし、ブレーキを強く踏みすぎて開催都市を中心に市民を温かく包み、喜びにあふれた雰囲気が醸し出されないということになれば、それは五輪の理想ではない。それどころか、さまざまな交流の機会が閉ざされれば五輪の価値は損なわれる。

 聖火リレーは各市町村が五輪とつながることを実感できる貴重な機会だ。また、各国の選手団は大会直前に時差調整と練習のため、キャンプ地として全国のホストタウンに滞在する予定だ。各自治体は市民との交流を楽しみにしている。

 その多くは大会予算とは別枠だが、組織委はこうした準備にも適切な目配りをして、市民が五輪精神を実感できるよう温かく見守ってほしい。(共同通信・竹内浩)




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