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広島地検の若手検事はなぜ自ら命を絶ったのか(2021年1月6日配信『東洋経済オンライン』)

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検事の自殺が相次いでいることを、法務省はどう受け止めているのか(撮影:尾形文繁)

 2019年12月10日。広島地検で29歳の若手検事が自ら命を絶った。「河井案里氏陣営疑惑で、同地検が捜査着手」と報じられる約20日前のことだ。

 この若手検事は検事に任官された後、東京地検で新任検事としての勤務を終え、広島地検に配属された「新任明け」の検事だった。当時、公判部に所属していて、河井事件には直接関わっていない。

■「司法修習生以下」と叱責


 関係者によると、検事はその日、担当する事件の公判が午後に予定されていたが、出勤時間になっても地検に姿を見せなかった。不審に思った事務官が自宅に向かうと、すでにぐったりした状態で亡くなっていた。状況から自殺は明らかだったという。部屋には、「検察官にあるまじき行為をして申し訳ありません」とのメモも残されていた。

 若手検事はなぜ、自ら命を絶ったのか。親しい友人とのLINEのやりとりの中に、それを示唆するメッセージが残されていた。

 「久し振りに決裁で、(上司である次席検事から)色々言われたわ。『お前がそもそもこの事件を理解してなくて証拠構造整理できてねーじゃねーか。お前は今までどういうつもりで公判検事やってきてんだ』とか。机バンバンみたいな感じになったわ。『話にならない。』と」(2019年12月2日)

 この日、若手検事の様子を間近に見ていた同僚がいる。同じ公判部で机を並べていた橋詰悠佑氏だ。同氏は2020年7月に検事を退官し、現在は都内で弁護士として活動している。

 「苦労して書き上げ、部長もOKを出した論告(検察官の意見陳述)を(広島地検のナンバー2である)次席検事に決裁を求めに行ったところ、激しい叱責を受けたそうです。彼は自席に戻るなり、司法修習生以下と言われたと、悔しそうに言っていました」

友人宛のメッセージで明かした心中

 厳しい司法試験をパスし、誇りを持って仕事に臨んでいた若手検事。直属の上司である公判部長の決裁は通ったはずなのに、その上の次席検事から厳しい叱責を受けたことに、強いわだかまりと無力感を覚えたのだろうか。友人に送ったメッセージでは、心の内をこう吐露している。

厳しい司法試験をパスし、誇りを持って仕事に臨んでいた若手検事。直属の上司である公判部長の決裁は通ったはずなのに、その上の次席検事から厳しい叱責を受けたことに、強いわだかまりと無力感を覚えたのだろうか。友人に送ったメッセージでは、心の内をこう吐露している。

「P(検事)なったの間違ったかな。ダメだ」(2019年12月4日)

「泣きすぎだな。」(同6日)

「明日からに、怖さを感じている俺は、もはや末期なんだろうか」(同8日)

調査結果に職員から不満の声

広島地検は若手検事の死を受けて内部調査に乗り出し、総務部長がヒアリングを始めた。しかし、身内による調査に疑問の声が上がったため、代わって上級庁にあたる広島高検が、公判部をはじめとして関係職員へヒアリングなどを行った。

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自殺した広島地検の若手検事のLINEには、生々しいやりとりが残されていた(遺族提供、プライバシー保護のため一部をモザイク処理しています)

地検の職員らにその結果が伝えられたのは、2020年3月のことだった。地検の総務部長らが現場職員に口頭で「原因はよくわからない。体調不良を訴えていたので、それが原因かもしれない」と説明した。

橋詰氏によれば、この説明に対し、「誰がこんな結果に納得するのか」と不満の声を上げる地検の職員が少なくなかったという。

公判部に所属する検事は、刑事部で起訴された事件を引き継ぎ、被告が犯した罪に相応する判決を得るために裁判に立ち会い、事件の立証をするのが仕事だ。裁判所に起訴事実を認めてもらうため、十分な論理構成を整えた書類を作成しなくてはならない。とりわけ被告側が争う姿勢を見せた場合は、それを覆すだけの準備が必要で、業務量もおのずから増えていく。橋詰氏が言う。

「亡くなった検事は作業に手のかかる事案を数多く担当していました。勤務時間は公判部でも相当多かったはずです。それでも当時の公判部長は、『何とかしてね』という趣旨を言うだけで、業務を割り振るなどの配慮はありませんでした。私も、彼の様子がおかしかったことをもっと深刻に受け止めるべきでした」

上司は若手検事をサポートすべきだった

元検察官で、広島地検の特別刑事部長、長崎地検の次席検事なども務めた郷原信郎弁護士が指摘する。

「広島地検くらいの規模で、公判部長がいったん決裁したものに次席が直接叱責を加えるというのは、私が長崎で次席をやっていた経験からすると、ありえないことです。まして亡くなった検事は新任明けの若手です。思うような仕事ができていないと感じたら、上司は叱責するより、サポートするべきではないか」

勤務時間は「手書き」で申告

検察官は、1人ひとりの検事が検察権を行使できる「独任制官庁」であるとされている。郷原氏によると、そのため、検事は任官とともに管理職相当となり、勤務時間を自己管理することが求められる。とくに2009年に裁判員制度が始まってからは、裁判の期間中、連日証人尋問が続き、公判部の検事の負担も大きくなりがちだという。

一方、広島地検では勤務時間を手書きで申告していたため、「過小申告はざらで、深夜まで仕事をしたり、休日に職場に出たりしても正確に(勤務時間を)申告できる人は少なかったのではないか」(橋詰氏)という。

ビジネスパーソンらの自殺問題に取り組む神田東クリニックの公認心理師、佐倉健史氏はこう話す。

「上意下達と言われる職場では、若い人は自分の仕事のペースがつかめない。結局、睡眠時間を削ることになり、メンタルへの影響も大きくなります。最高裁の判例(2000年の電通事件判決)では、予見可能性があったのに、社員が自殺する危機回避努力を怠ったとして、会社の安全配慮義務違反が認められています。パワハラは論外ですが、判例に照らしても、本人の変化に上司は気づくべきです。検察のように、外からの目が入りにくく、中からも声を上げにくい職場では、幹部の評価制度に踏み込んでいかないと、職場文化は変わらないかもしれません」

過去2年で4人が自殺、問われる検察組織の実態

実は検事の自殺は、今回ばかりではない。検察官の数は全国で2000人に満たないが、橋詰氏が調べたところ、2018年~2019年の2年間だけでも4人の検事が自ら命を絶ち、過去10年間にさかのぼればその数はさらに増える。

例えば、2012年4月に大阪地検堺支部、2018年1月には徳島地検、同年10月には福岡地検小倉支部で若い検事が自殺しており、2019年1月には高知地検中村支部で支部長を務める検事が自殺している。橋詰氏によれば、その中には異動希望を無視されたうえ、上司に意見すると、「検察官を辞めてしまえ」という趣旨の発言を受けた検事もいるという。

警察庁の統計によると、近年、勤務上の問題を理由とした自殺は減少傾向にある。2011年に全国で2689人にのぼったその数は、2019年には1949人にまで減っている。パワハラの問題が厳しく問い直され、各企業で労務管理の見直しが進んだ結果とされる。

佐倉氏は、「検察内部で複数の自殺者が出ている中で、それを組織としていかに受け止め、いかに改善しようとするのかを組織内外に示し、実行して検証していく姿勢が問われる」と指摘する。

遺族は公務災害の申し立てへ

亡くなった若手検事の父親が取材に応じ、こう話す。

「息子が職場で使用していたパソコンや遺品の確認は私たちが立ち会うこともなく行われ、息子の同僚に当時の状況について話を聞きたいと申し出ましたが、認められませんでした。検察による調査にあたってLINEのやりとりを提出し、『叱責をする前に決裁した直属の上司を交えて議論すべきだったのではないか』と文書で指摘しましたが、広島高検の総務部長からは『自ら命を絶った原因はよくわからない』との説明を口頭で受けただけでした」

こうした対応に納得できない思いを持つ父親は、近く一般企業の労災にあたる「公務災害」の認定を求めて広島地検に申し立てを行う予定だという。

「上司から必要な指導を受けることは当然あると思いますが、息子は上司にいい加減な態度で臨む人間では決してありません。いったい何があったのか、事実をはっきりさせたい。検察にもしっかりとした対応を取ってもらいたいと考えています」(父親)

今回の件について、亡くなった検事の勤務実態がどうなっていたのか、パワハラはなかったのかなどについて広島地検に取材を申し入れたが、同地検の広報官は質問状の受け取りすら拒否し、「当庁からは一切、お答えいたしかねます」とするのみだった。

一方、法務省刑事局は取材に対して、「個人のプライバシーに関わる事例であり、お答えは差し控えさせていただいております。(労務管理については)各検察庁において、法令等に基づいて適切に行っているものと承知しています」と回答した。




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