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(論)自殺に関する論説(2021年1月10・23・24・28・2月12・14・16・17・21・22・24・3月1・6・16・22・30・31日)

[高1自殺提言] 県教委は迅速に実行を(2021年3月31日配信『南日本新聞』-「社説」)

 鹿児島市の県立高校1年の田中拓海さん=当時(15)=が2014年8月に自殺した問題で、有識者でつくるいじめ再発防止検討会は最終提言をまとめ、塩田康一知事に報告した。

 学校などの対応を「情報共有も体制も不十分で場当たり的」と批判した上で、いじめ防止策を有効に機能させるための機関の常設などを求めた。

 いじめは学校現場で日常的に起き、被害者は不登校や自殺に追い込まれかねない。県教育委員会は検討会の提言を速やかに実行に移すべきである。

 提言は自殺発生後の県教委の判断について「国の指針に沿わない対応だった」と指摘した。文部科学省の指針では、いじめ自殺の疑いがある場合、原則として外部専門家を加えた組織が「詳細調査」を行うとしている。

 だが、県教委は「学校生活に関係する要素が自殺の背景にあることを否定できない状態だったにもかかわらず、詳細調査への移行を判断しなかった」。結果的に詳細調査を決定したのは自殺発生の10カ月後だった。

 遺族の要望を受けて設置された県総務部の再調査委員会が、自殺は学校でのいじめが影響したと認定したのは発生から4年半後の19年3月である。県教委の初動のまずさが自殺の経緯や背景の解明を遅らせたのではないか。

 さらに、提言は学校側が調査の経過や結果を遺族に説明する場を設けなかったことなどが信頼関係の構築を困難にしたとし、組織的な取り組みの必要性に言及した。学校や県教委は自殺など重大な事態が起きた際の対応の在り方を検討し、教職員で共有することが欠かせない。

 こうした状況を改善するために、提言は自殺など過去の重大事態の当事者や関係者から生の声を聴く教員研修の実施を求めた。また、県教委のいじめ防止などの対策が実効的に行われるために継続的に検証する機関の設置も盛り込んだ。

 いずれも、再発防止に有効な手段となり得るだろう。他の自治体の取り組みや専門家の意見を参考にしながら、より充実した研修内容や機関づくりに努めてもらいたい。

 いじめ防止対策推進法は、いじめを「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義している。たとえ軽い気持ちでも、冷やかしたり、からかったりすれば相手を深く傷つけることになりかねない。児童生徒が受け止め方の違いを学ぶ機会を設けることも大切だろう。

 県内の公立小中高校で19年度に認知されたいじめ件数は前年度より2600件余り増え、6年ぶりに1万件を超えた。県民一人一人が身近な問題として関心を高め、県教委や学校のこれからの取り組みを注意深く見守っていかなければならない。





子どもの自殺増加 SOS、どう察知するか(2021年3月30日配信『中国新聞』-「社説」)

 自殺対策強化月間の今月、政府は自治体、関係団体とともに相談事業や啓発活動などに取り組んでいる。自殺者が増えており、昨年は前年比912人増の2万1081人を数えた。新型コロナウイルスによる経済状況の悪化などが影響したのは明らかだ。困窮者への支援策やきめ細かな対応が求められる。

 中でも、注意を払わねばならないのは子どもの自殺である。1980年以降で最多の499人にも上った。

 コロナ禍でさまざまな不安を感じ、悩みを抱え込んでいるのだろう。誰に、どう相談していいか、分からないのかもしれない。子どもの小さな変化やSOSを、学校や家族、地域が見逃さず、察知してやりたい。そのための仕組みや相談態勢を早急につくらねばならない。

 昨年、自ら命を絶った小学生は14人で中学生146人、高校生が339人だった。女子の増加率が高く、女子高校生は前年から倍以上に増えている。

 昨年6月から目立っていた。原因は進路の悩みが最も多く、学業不振、親子関係の不和などと続く。女子高校生では、うつ病など病気の影響が最も多かった。これまでとは違った背景が考えられそうだ。政府は専門家や支援にあたるNPO法人などと詳しく分析する必要がある。

 昨年は長期の休校があり、部活や外出ができず、自宅にこもらざるを得なかった。友人と会えず、先の見えぬ我慢の日々に子どもたちは相当なストレスを抱えたに違いない。

 コロナ禍で家族間の緊張が高まるなど社会不安が複合的に影響したとみる専門家もいる。一斉休校が学校や友人関係などの「居場所」をなくし、孤立を深めた可能性がある。悩みを打ち明ける相手をなくしたのではないか。同時に、周囲が子どもの変化に気付く機会も失われた。一斉休校はその意味でも検証されねばならない。

 苦しい時に誰かに打ち明けたり、助けを求めたりすることは決して恥ずかしいことではないと伝える必要がある。また、電話やインターネットで気軽に相談できる窓口があることを知らない子どもが多いに違いない。

 文部科学省は児童生徒向けの自殺予防啓発動画を作成した。「君は君のままでいい」というアニメーションだ。動画投稿サイトで流しており、24時間子供SOSダイヤルTel0120―0―78310(なやみ言おう)や周囲への相談を促す。

 文科省は小中学生に1人1台のタブレット端末整備を進めてもいる。自宅で過ごす児童生徒の変化を教師が察知するなど自殺予防にも有用と期待する。

 しかしそれで十分とはいかない。何より、私たち大人の側に子どもの小さな変化やSOSを見逃さず、声を掛け、受けとめる姿勢が求められる。

 新学年がスタートする季節になった。緊急事態宣言が首都圏でも解除されるなど自粛緩和ムードが広がっており、外出する子どもたちも増えた。とはいえいまだ収束は見通せず、社会も元通りになってはいない。新しい環境へ踏み出すことに不安を覚える子どもは多いだろう。

 小中高生の自殺をなくすには子どもへの目配りはもちろん、コロナ禍で困窮する家庭などへの支援も不可欠だ。社会全体で真剣に取り組む必要がある。 





いじめ自殺認定 コロナ禍の考慮も重要(2021年3月24日配信『北海道新聞』-「社説」)

 登別市内で昨年6月、中学1年の男子生徒が転落死したことについて、市教委が設けた第三者委員会は、部活動でのいじめとコロナ禍による不安など複合的な要因で自殺に至った、と認定した。

 未来ある13歳はなぜ自ら命を絶たなければならなかったのか。教師をはじめ周囲の大人はどこかで手を差し伸べられなかったか。くみ取るべき教訓は多い。

 臨床心理士や弁護士らでつくる第三者委は関係者への聴取など調査を重ねた。概要とはいえ報告書を公表した点は評価できよう。

 いじめはどこでも起きる可能性がある。しかもコロナ禍による負担は全ての子供に重くのし掛かっている。教育関係者を含め大人はその前提に立ち、再発を防ぐ手だてを急がなければならない。

 第三者委などによると、生徒は中学入学後、コロナ禍で長期休校に入った。不安から長時間、ゲームや会員制交流サイト(SNS)に接し、成績や体力が落ちた。

 休校明けの6月から始めた部活動では、体形や技量をからかわれていた。第三者委はこうしたいじめなどの外面的要因と、コロナ禍や将来への不安などの内面的要因を自殺の理由に挙げている。

 学校側の問題や再発防止策に触れていないが、部活動の顧問が生徒へのからかいを認識していたほか、生徒は自殺直前に校内で悩みを見せていた。その兆候をつかみ切れなかったことは悔やまれる。

 教職員は校内の消毒などコロナ対策に忙殺されていた。だとしても最優先するべきは生徒の命だと意識することが重要だったろう。

 外出自粛などによる家庭での虐待リスクの高まりを考えれば、相談窓口の拡充や地域で見守る体制づくりは必要だ。子供が困った時に自らSOSを出せるよう教えることも忘れてはならない。

 2013年施行のいじめ防止対策推進法は児童生徒が重大な被害を受けた際、教委や学校が調査組織を設置するよう義務付ける。

 だが被害を訴えても調査に至らなかったり、遺族が調査結果に納得しなかったりする例は多い。登別では遺族の要請も踏まえ速やかに対応できた。参考になろう。

 今回の報告書概要は「真面目で優しい子ほど追い込まれるが、フォローすべき私たち大人が救えなかった」と記し、当事者の痛みに寄り添った姿勢がにじむ。

 生徒の無念や遺族の悲しみを胸に刻み、再発防止につなげるためにも、可能な範囲で報告書全文を公表するよう市教委に求めたい。



絶望と光の窓(2021年3月24日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 漢字学者の白川静さんの「常用字解」(平凡社)によると、絶望の「絶」という字は、左右に分離すると「色糸」になり、「絶景」のように「このうえもなく」という意味もあるという

▼糸を絶つという「絶」の字に相反する意味があるのは暗示的である。自著でそう指摘したのは柳田邦男さんだ。明日への望みが絶たれたように見えても、心が成長する転機になり得る可能性を秘めるかもしれぬと紹介した

▼ただし、条件がある。柳田さんは「暗闇の中で転機の光をもたらす窓はどこにあるのか」と問いかける。生きることに絶望した人が、明日につながる糸を見つけ出すことは容易ではないからだ

▼そこに光の窓はあったのだろうか。自宅アパートから転落し亡くなった登別市の中学1年生のことだ。市教委が設置した第三者委員会は、からかいなどのいじめを中心とした外的要因とコロナ禍の休校による不安などの内的要因により、生徒が自ら命を絶ったと結論を出した

▼自我に目覚め社会とつながり始める思春期は、細い線の上を歩くようなものだ。周囲にはささいに見えることでも当事者には重しとなり、バランスを崩すこともある

▼第三者委員会は「(子どもを)フォローすべきは大人であり、教育機関や地域を含む社会である」と訴えた。絶望は日々の生活に潜む。そこに光の窓はあるか。社会を構成するすべての大人が問われている。





[運動部主将自殺調査]「追い込む指導」許さぬ(2021年3月22日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 「高校の部活動、とりわけ部活動顧問との関係を中心としたストレスの可能性が高い」

 運動部主将だった県立高校2年の男子生徒が自ら命を絶ったことを受け、県教育委員会が設置した第三者調査チームは自殺の原因をこう結論付けた。

 発表された報告書(概要版)によると、顧問だった男性教諭は、生徒が主将になったころから叱(しっ)責(せき)が厳しくなった。「キャプテンを辞めろ」といった発言で精神的に負担を与えていた可能性を指摘する。

 顧問は生徒との連絡にLINE(ライン)を多用し、迅速な対応を求めていた。やりとりは夜中まで続くこともあり、生徒は帰宅した後もイヤホンを着け、連絡があったかどうか意識せざるを得なかったという。

 指導者と部員という絶対的な力関係が、部活中だけでなく、休息すべき帰宅後の時間にも持ち込まれていたのだ。

 生徒の携帯電話のLINEには、顧問からの荒い言葉遣いが残っていた。こうした状況が日常的に続けば、精神的な疲弊は避けられないだろう。LINEという閉じられた空間で夜中までやりとりを続けることも非常識だ。

 顧問が提出したLINEの履歴からは、精神的な負担を与える言葉がことごとく削除されていた。恐らく自分でも不適切だと感じたのだろうが事実の隠(いん)蔽(ぺい)ではないか。

 生徒が亡くなった今、その尊厳を守るには顧問が包み隠さず明かす必要があるのに、あまりにも不誠実だ。

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 報告書によると、この顧問は過去にも別の生徒に不適切な言動をしていたことも分かっている。

 顧問から授業中に不適切な言葉を受けた女子生徒が不登校になっていた。顧問から鼻に指を入れられたり、いきなり技を掛けられたりした、と女子部員から副顧問に相談が寄せられたこともあった。

 校長は顧問に注意したというが、報告書は「調査や十分な対応がなされた様子がない」と断じている。生徒のSOSに対する感度の鈍さに怒りを覚える。

 「しっかり対応すれば息子の死は防げたのかもしれない」と生徒の親が不信感を抱くのは当然だ。

 文部科学省の部活指導のガイドラインでは、顧問の教員だけに運営や指導を任せず、学校組織全体で考えるよう求めている。しかし実態は顧問が一人で指導を担い、学校は不適切な指導を把握できなかった。その責任は重い。

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 第三者チームの調査期間は2週間余り。報告書でも認めている通り十分な期間ではない。調査対象も遺族を除きわずか18人にとどまっている。

 なぜ顧問は生徒を過度に追い詰めたのか、学級担任ら他の教員は生徒にどう関わっていたのか、など不明な点は残る。県教委は調査を続け事実を明らかにしてもらいたい。

 報告書は、部活動の特別推薦入学者が提出する「活動継続確約書」が生徒を追い詰める要因になっていた、などの問題点を指摘する。制度の見直しといった改善策も示している。再発防止への一歩として着実な実行を求めたい。



「健康」(2021年3月22日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)

 人にやさしいドラマでした。重松清さんの小説を原作にした「きよしこ」。吃音(きつおん)を抱えながら、誰かとつながり合って成長していく少年の姿を温かく描きました。大切なことを伝えるために

▼生きづらさに悩む人たちを励ましてきた重松さん。かつて小池晃さんとの対談で国民の生存権を保障する憲法25条の「健康で文化的な」生活の意味を語っていました。自分の居場所や安らげる場所があり、安らげる人間関係がある。そういうのを全部含めて「健康」だと

▼コロナ禍で女性の自殺が急増―。去年の自殺者は2万1000人をこえ、リーマン・ショック直後の2009年以来の増加に転じました。とくに女性は前年比で15%増と深刻で、高校生までの子どもの自殺も過去最悪となっています

▼ウイルス拡大による経済活動や日常生活へのしわ寄せ。それが女性や若い世代に大きく影響していると専門家は指摘します。非正規で仕事を失い、貧困や孤立、絶望にあえぐ状況はひろがっています

▼渦巻く不安のなかで、政府はすべての緊急事態宣言を解きました。これまでの対策を反省し、封じ込めの手だてを打つつもりはあるのか。気のゆるみや自粛といった国民に責任を押しつけることばかりでは…

▼うつろな表情で原稿を棒読みするだけの菅首相。「(マスクなんて)いつまでやるの」と記者に食ってかかる麻生副総理。こんな面々に、重松さんの小説のような人を独りぼっちにさせない世をつくることはできません。命を守る政治をともに早く。





取り返しがつかない(2021年3月16日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 ダンテは叙事詩「神曲」で自殺について「残忍な魂が肉体から分かれる時、そこから魂自身で己を根こそぎにしてきた」と表した。自分自身に対して残虐な行為を働いたという意味だ

▼ノーベル賞作家の大江健三郎さんは、身近にいた義兄の映画監督を自殺で失った経験を持つ。かなり衝撃を受けたようだ。後にエッセーで「あのようにすばらしい容姿と知的能力と豊かな感情を持った人間が、自分のその全部を壊してしまった!」と記した(「『自分の木』の下で」朝日文庫)

▼当事者の心の深層はなかなかつかめない。ただギリギリのところまで追い込まれなければ、自ら命を絶つ行為には及ばないはずだ。しかも子供がこうした状況に置かれたとするなら、胸が締め付けられる

▼昨年自殺した小中高校生は479人に上った。1980年以降で最多だ。コロナ禍が影響したのは言うまでもない。貧困や孤立が深刻化し学業や進路など将来への不安を募らせたからだろうか。精神疾患に陥ったケースもあったという▼相談できる人がそばにいれば、一言でも声を掛けられていれば、踏みとどまったかもしれない。そんな思いを強くする

▼大江さんは子供の自殺を、殺人と同じ「取り返しがつかないこと」として、「あってはならない、それが『原則』だ」と訴えている。暴力は他人にも自分にも、振るってはならないのだと。大切な命を守りたい。





「無為自然」(2021年3月6日配信『福井新聞』ー「越山若水」)

 中国哲学が専門のある大学教授は、最初の講義で新入生にこんな話をする。「そんなに頑張らなくていいんだよ」。老子はそう説いていると教えると、学生はホッとするという

▼その大学はかなりの名門で、中学・高校時代はずっと真面目に勉強し、倒れ込むように入ってくる学生が多い。つまり常にアクセルを踏みっぱなしだった彼らに、ブレーキの存在を知らしめた。必死に受験勉強してきただけに価値観をぶち壊されるほどの衝撃らしい

▼老子は「学を絶てば憂いなし」と言った。知識が増えるほど悩みの種も増えるが、学問をやめてしまえば心配事はなくなる。「温故知新」のように勉強や努力を奨励する孔子に対し、老子が提唱するのは「無為自然」。知識や欲望を捨てありのままに生きよと諭した

▼「このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる」(湯浅邦弘著、宝島社)で知った話だが、「頑張らなくていい」のひと言をぜひ伝えたい人たちがいる。深刻化する新型コロナウイルス感染で、生活環境の激変や貧困などで社会的に孤立状況にある人が増えている

▼昨年の自殺者は2万1千人を超え11年ぶりに増加。特に女性は過去5年で最多の7千人に達した。政府もようやく孤独担当相を配置し、省庁横断で取り組む態勢を整えた。生きづらいと思う人たちに寄り添い、支援の手を差し伸べる優しさが求められる。





こわばった背中(2021年3月1日配信『佐賀新聞』-「有明抄」)

 背中には表情がある。楽しそうに揺れているときもあれば、さびしげにたたずんで見えるときもある。不思議に感情が伝わる

◆山あいの農村で、主婦たちが「からだほぐし」の教室を開いていた。手伝いに訪れた演出家の竹内敏晴さんは、隅で一人、からだを固くして座っている女性を見かけた。ひどく苦しそうなので横になるよう声をかけ、背中にてのひらを当ててみた。〈ざらざらの、涸(か)れ果てた川床のような、冷え切った感じが、腹までしみてくるようだった〉。人の背中がこれほど荒れ果てるものかと驚いたという

◆5、6人に手伝ってもらい、その背中に手を当てた。みな、彼女が嫁いできてからの苦労を知る人たちだった。日が暮れかかるまで、そうして手で温めていると、彼女は静かに泣きはじめた。やがて泣きやんだとき、背中はわずかなやわらかさを取り戻していた(『癒える力』)

◆長引くコロナ禍で私たちの体もこわばり、悲鳴を上げている。外出できないストレス、失業や経営難…。昨年、自ら命を絶った人が11年ぶりに増加に転じたという。人と人とが遠ざけられ、SOSさえ届かない

◆つながりの薄れた社会はもろいものである。今月は自殺対策強化月間。温もりの通った手をそっと差し伸べる隣人でありたい。冷たくなった背中に、誰も自分では手が届かないのだから。





感染禍と自殺増 孤立させない対策を急げ(2021年2月24日配信『新潟日報』-「社説」)

 新型コロナウイルス禍で社会に不安が広がり、自ら命を絶つ人が増加している。特に、女性や子どもといった弱い立場にある人の急増が目立つ。

 支援や相談の窓口と、悩み苦しんでいる人を確実につなぎ、孤立を防いで命を救う取り組みを急がねばならない。

 2020年の自殺者が全国で2万919人となり、19年の確定値に比べ750人(3・7%)増えたことが警察庁の自殺統計(速報値)で分かった。

 厚生労働省のデータでは本県は424人(同)で前年より16人増えている。前年を超えたのは全国、本県とも09年以来だ。

 全国の内訳を見ると男性が多いが、減少傾向にある。一方、女性は過去5年で最多だった。

 ウイルス禍の中で雇用は急速に悪化している。非正規労働を中心に解雇や雇い止めが進み、女性が影響を強く受けている。

 女性の完全失業者は昨年11月で72万人に上る。民間シンクタンクの推計ではさらに90万人の女性が、休業手当を受け取れないまま勤務時間が半分以下になる「実質的な失業」状態にあるとみられている。

 生活が苦しいのに支援が届かず、困難を抱えた人たちが潜在化している恐れがある。

 子どもの自殺も多い。文部科学省によると20年に全国で479人の小中高生が亡くなり、統計のある1980年以降で最多となった。女子高校生は138人で前年より倍増した。

 原因や動機の上位に学業不振や進路の悩みがあるのは例年と同じだが、急増とウイルス禍は無関係ではないだろう。

 内閣府の調査では、ドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数は昨年4月から12月までの合計で14万7277件に上り、既に2019年度の約12万件を大きく上回っている。

 DVがある家庭では児童虐待も起きている場合が多い。

 外出自粛などで生活が様変わりし、家庭内にストレスがたまりやすくなっている。そうした中で居場所をなくし「望まない孤独」に悩む女性や子どもが増えているのではないか。

 特定非営利活動法人が運営するチャット相談には、パートを解雇され、育児ストレスと経済的な行き詰まりを抱えたシングルマザーらが切実な声を寄せてきているという。

 複雑化している悩みをワンストップで相談でき、公的な制度に速やかにつながることができる支援態勢を急いで整えなければならない。

 政府は、厚労省や文科省の職員らを集めた孤独・孤立対策担当室を新設した。担当相も置き、ウイルス禍で増加する自殺や貧困など孤独問題への取り組みを本格化させた。

 本県では高齢者の自殺も多い。年齢や性別を問わない幅広い対策が不可欠だ。

 ウイルス禍の中で人と直接触れ合う機会が長期にわたり失われている。会えずにいる人とは電話やメールなどで連絡を取り合い、悩みや変化に早く気付けるよう一人一人が心掛けたい。





子どもの自殺 心のSOSを見逃すな(2021年2月22日配信『北海道新聞』-「社説」)

 自ら命を絶つ子どもたちが後をたたない。異常な事態だ。

 文部科学省によると、昨年1年間に自殺した児童生徒の数は前年比で約4割増の479人(暫定値)に上り、過去最多だった。

 小中高生がいずれも増え、女子高校生は138人と倍増した。特に一斉休校明けの6月と、短縮した夏休み明けの8月が多かった。

 専門家は「先の見えないコロナ禍での進路、学業への悩みや、長期休みによる家庭内でのストレス増加なども要因」とみている。

 学校や保護者は子どもたちに寄り添い、小さなSOSも見逃さない繊細さが求められる。

 自殺を防ぐには、より早く気づき手を差し伸べることが大切だ。

 自殺の増加は昨年6月ごろから顕著となったが、国の対応は相談窓口の周知や学校への見守り強化の呼びかけなどで、十分とは言えなかった。検証し、今後の対策に生かさなければならない。

 自殺した児童生徒の内訳は小学生14人、中学生136人、高校生329人で、原因は進路の悩み、学業不振、親子関係の不和が多かった。うつ病など病気の影響が例年より増加傾向にある。

 子どもの自殺を考える上で重要な要素がある。家庭と学校に居場所がない「孤立感」と、自分は生きる意味がないと感じる「無価値感」だ。共にコロナ禍でより深刻さを増しているという。

 一斉休校などによって自宅で過ごす時間が増え、虐待リスクの高まりも指摘されてきた。家庭のことは外からは見えにくい。学校は児童相談所などの専門機関との密接な連携が欠かせない。

 政府は会員制交流サイト(SNS)を活用した相談体制の整備を進めている。対面や電話を苦手とする子どもたちの受け皿になろう。これを窓口に長期的な支援を構築していくことが肝要だ。

 子どもたちは助けを求める方法や相談窓口を知らない場合も多いとされる。学校で実際にSOSの出し方などを教えてほしい。

 道内でも民間団体などが見守りや声掛けにより自殺を未然に防ぐ「ゲートキーパー」の養成に取り組んでいる。国などは活動への支援に加え、周知も急ぎたい。

 参議院自民党は19日、若者や女性、生活困窮者への積極的な訪問支援など相談体制の拡充などを政府に求めた。

 コロナ禍の収束までは自殺リスクが高い状態が続く可能性がある。社会全体の問題としてとらえ、命を守る取り組みを広げたい。



自殺遺族への賠償請求 重い負担減らす仕組みを(2021年2月22日配信『毎日新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルス感染の収束が見通せない中、自殺の増加が懸念されている。防止策を講じるとともに、これまで見過ごされてきた遺族の経済的な負担にも目を向け、支援する必要がある。

 2006年に施行された自殺対策基本法は遺族らの名誉や生活に十分配慮するよう求めている。

 だが賃貸住宅で命を絶った場合に遺族が家主から多額の損害賠償を要求されるケースが目立つ。

 例えば部屋のリフォーム代に加え、新しい借り手が見つからないという理由で数年分の家賃を請求される。「おはらい料」を求められることもある。

 請求額が数百万円に上る場合も多い。だが、どこに相談していいか分からず、そのまま応じてしまう遺族が少なくない。

 肉親が自殺した人の精神的負担は計り知れない。そのうえ、経済面でも過重な負担を強いられれば、さらに追い詰められる。

 こうした状況を変えようと、弁護士の有志が10年に「自死遺族支援弁護団」を作り、活動を続けている。法的な知識の乏しい遺族の相談に乗り、家主との交渉や裁判を通じて、請求額を減額させてきた。しかし遺族と家主とのトラブルは依然として絶えない。

 自殺に対する長年の意識が影響している。自殺が社会から忌み嫌われるという理由から、不動産の価値が下がるという考えだ。

 そもそも「自分の意思で命を粗末にした行為」という偏見が背景にある。だが世界保健機関(WHO)によると、自殺した人のほとんどは何らかの精神障害の状態だったとされている。

 病死と区別し、家主が多額の賠償を求めるのは妥当なのか。裁判所も近年、遺族側に立った判断を示すようになってきたという。

 行政も遺族の相談窓口を設けたり、対応のガイドラインを作ったりすることが求められる。家主の経済的負担を減らすため、一定の家賃収入を補償する保険制度の充実も必要だ。

 自殺をめぐっては、生命保険の支払いが滞るなど、遺族に重い負担がかかるケースはほかにもある。改善すべき点は多い。

 遺族の心のケアはもちろん、経済的な負担を減らす仕組みを作らなければならない。



[運動部主将自殺]とても指導とは呼べぬ(2021年2月22日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 学校教育の一環である部活動で、将来ある高校生が自らの命を絶つまで追い詰められていた。本人の絶望と遺族の無念さを思うと、やりきれなさと怒りがこみ上げてくる。

 県立高校で運動部の主将を務めていた2年生の男子生徒が、自殺していたことが分かった。

 部の顧問の男性教諭による日常的な厳しい叱(しっ)責(せき)が原因だった可能性が高い。「キャプテンやめろ」「部活やめろ」といった威圧的な言葉のほか「使えない」「カス」などの暴言もあったという。

 校長と顧問は遺族を訪ね「指導が間違っていた」と謝罪した。では、顧問と生徒との間で何があったのか、明らかにする必要がある。

 生徒は小学1年から競技を始め全国大会に出場した経験もある。高校には、子どもの頃から知っていた顧問の誘いを受け推薦入学した。生徒にとって顧問が絶対的存在だったことは想像に難くない。

 入学後、顧問の対応は厳しくなり、大会で成績が振るわないと心ない言葉を掛けられたという。母親に「どうやったら怒られないか」と相談したこともあった。死の前日も後輩の前で叱責された。

 楽しくてのめり込んでいた競技が苦しみになる。果たしてこれが「指導」と言えるのか。見えてきたのは勝利至上主義の行き過ぎた部活動指導のありようだ。

 個人の尊厳はないがしろにされ絶対服従を強いられる。そこには生徒の主体性を尊重して成長を促す、教育的な姿勢が感じられない。

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 部活動の指導を巡っては、2012年に大阪市立高バスケットボール部主将の男子生徒が顧問から体罰や暴言を受けて自殺し、社会問題化した。

 文部科学省は学校の運動部活動の指導について指針をまとめた。勝利至上主義を否定し、体罰やパワハラ、特定の子どもに過度な肉体的・精神的負荷を与える行為は認められないとする内容だ。

 顧問の態度が指針に反するのは疑いようもない。

 気になるのは、高校側がこの問題を把握して止めることができなかったか、である。

 県教育委員会は、生徒が所属していた部には副顧問もいたが「校外などへの引率程度で、日頃の指導にはノータッチ」と説明する。だとしても顧問の不適切な言動を知らなかった、とは考えにくい。

 教員相互や管理職による健全なチェック体制が機能していたか検証する必要がある。

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 バレーボール女子元日本代表の益子直美さんは、学生時代に監督の暴言で萎縮した体験からパワハラ指導を否定する。与えられた厳しさではなく、自分で目標を立てチャレンジすることで成長できる、という指摘はもっともだ。

 県教委は弁護士らによる第三者チームを立ち上げた。原因解明とともに再発防止策を探り具体的に示してほしい。特定の学校、特定の部だけの問題ではないからだ。

 過度の厳しさを「熱心な指導」と捉えがちな風潮は部活動で今も残る。体罰や暴言によらない指導技術こそ磨くべきである。





子どもの自殺最多 コロナ禍の対策を早急に(2021年2月21日配信『山陽新聞』-「社説」)

 極めて深刻な事態である。昨年1年間に自ら命を絶った小中高校生が479人に上り、統計のある1980年以降最多となった。

 前年比で約4割増え、新型コロナウイルス禍に伴う社会変化の影響が懸念される。助けが必要な子どもたちへの支援を急がなければならない。

 文部科学省がまとめたデータによると特に高校生女子で急増し、前年比2倍超の138人だった。高校生男子は191人、中学生は男女計136人、小学生は同14人。原因・動機は進路の悩み、学業不振、親子関係の不和が上位で前年と大差はなかった。

 月別では8月が前年同月の2倍超で最も多い。夏休み明け前後は例年、子どもの自殺が増えるとされるが、昨年はコロナ禍による一斉休校があり、学習の遅れを取り戻そうと夏休みを縮めて8月中に授業を再開する地域が多かった。次いで学校が本格的に再開した6月が多く、以降は高止まりしている。

 文科省はこれまでと異なる傾向が見られるとして支援団体への聞き取りなどを行う方針だ。いまだ感染の収束は見通せず、将来への不安など自殺リスクの高い状態が続く可能性がある。背景の分析を急ぎ、有効な対策につなげることが欠かせない。

 予防策として文科省は、若年層にスマートフォンが普及していることから会員制交流サイト(SNS)を活用した相談体制の整備を進めている。相談先の選択肢が増えれば助けも求めやすくなろう。

 ただSNSは手軽に他人とつながれる半面、それを悪用した犯罪に巻き込まれる危険も増す「もろ刃の剣」と言える。思い出されるのは2017年、「死にたい」などと発信した高校生3人を含む9人が神奈川県座間市で殺害された事件である。適切な相談相手に確実にアクセスできるよう、取り組みには細心の注意を払ってもらいたい。

 若年層の自殺の多さはコロナ禍以前も問題となっていた。国民全体では年々減少しているのに対し、小中高校生では増加傾向が続く。国連児童基金(ユニセフ)が15~19年の統計を基に38カ国の「子どもの幸福度」を測った調査で、自殺率の高い日本の精神的幸福度は37位。「困った時に頼れる人がいる」と答えた割合も最低レベルだった。

 人との接触が制限される中で支援がしづらい面はある。だが自殺予防は子どもたちの変調をいかに早く察知し、手を差し伸べられるかが鍵になる。全国の小中学生1人1台の整備が進んでいるタブレット端末を活用したり、スクールカウンセラーらによる心のケアを強化したりするなど、支援体制を社会全体でつくっていく必要がある。

 夜間・休日を含め全国から無料でかけられる「24時間子供SOSダイヤル(0120―0―78310(なやみ言おう))」など、頼っていい場所があることももっと周知していきたい。





日本の子供たちが置かれている苦しい状況(2021年2月17日配信『産経新聞』-「産経抄」)

 幕末から明治にかけて日本を訪れた多くの外国人は、当時の日本人が子供たちを慈しむ気風に感嘆の声を上げたものだ。大森貝塚を発見したことで知られる米国の動物学者、エドワード・モースもその一人である。

▼滞在記の『日本その日その日』にこんな記述がある。「世界中で日本ほど、子供が親切に取扱われ、そして子供の為に深い注意が払われる国はない。ニコニコしている所から判断すると、子供達は朝から晩まで幸福であるらしい」。日本は「子供の天国」だともいっている。

▼そんなモースが知ったら、さぞ失望し悲しむことだろう。文部科学省によると、昨年に自殺した小中高生は479人に上り、統計のある昭和55年以降で最多となった。なかでも女子高生の自殺者は138人で、前年より71人も増えている。原因や動機については、学業不振や進路に関する悩みが上位だった。

▼新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校などが影響していると推察できる。ただコロナ禍によって、世界中の若者が迷惑を被っている。欧米諸国に比べて感染者も死者も少なく抑えてきた日本でなぜ、ことさら多くの若者が死を選ばなければならないのか。

▼日本の子供たちが置かれている苦しい状況は、ユニセフ(国連児童基金)が昨夏に公表したデータにも表れていた。38カ国の子供たちを対象に「幸福度」を調査したものだ。日本は「身体的健康」では1位ながら、「精神的幸福度」はなんと37位、総合順位は20位だった。

▼若い世代の死因の第1位が自殺という統計もある。これは先進7カ国(G7)で日本にだけ見られる現象だという。天国どころではない。子供と若者に希望を与えられない国は、先進国を名乗る資格さえなくなってしまう。

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増える女性の自殺 経済支援と心のケアを(2021年2月14日配信『茨城新聞』-「論説」)

 女性の自殺者が増えている。1月に警察庁が公表した自殺統計(速報値)によると、2020年の自殺者は全国で2万919人となり、19年の確定値から750人増加。前年を上回ったのは09年以来で、男女別では、男性は11年連続減少だが、女性は増加に転じ過去5年で最多となった。茨城県の自殺者も前年から21人増加して479人となった。原因・動機は、うつ病などの「健康問題」(同394人増)や親子・夫婦関係の不和など「家庭問題」(同57人増)が増えた。厚生労働省自殺対策推進室は「コロナ禍がさまざまに影響している」と分析する。

「茨城いのちの電話」の20年の総受信件数1万5095件のうち自殺傾向は10・5%で、前年の8・6%を上回った。通常は24時間態勢で水戸市とつくば市の2カ所で、心の悩みを抱える人から相談を受けてきたが、コロナの感染拡大に伴い午前8時から午後10時までに短縮した。事務局は「夜に電話をかけたい人は増えていると思う。コロナの影響で相談が受けられないのは心苦しい」と話す。

 非正規職の女性が仕事を失い経済的に追い詰められて電話をかけてくるほか、外出自粛で孤立し苦しさを訴えてきた人もいる。

 働く女性はパートやアルバイト、派遣社員など非正規が少なくない。コロナ禍による景気悪化で休業を理由に収入を減らされたり、解雇・雇い止めにあったりするケースが多い。主婦では感染を恐れて家族がこもりがちになり、家事や子育て、介護の負担が増し、DVのリスクにもさらされる。特にシングルマザーは困窮状態から抜け出すのが難しい。感染収束の兆しはいまだに見えず、行政や民間団体の相談窓口には「眠れない」「死にたい」など悲痛な声が後を絶たない。

 茨城県独自の緊急事態宣言は2月末まで延期された。重症者数が高止まりするなど医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が解消できなかったためだ。引き続き不要不急の外出自粛や飲食店の午後8時までの営業時間短縮などが要請されている。特に非正規で働く女性が多い宿泊・飲食、生活・娯楽、卸売・小売各業種は大きな打撃を受けている。県は影響が大きい分野への経済支援を充実させるとともに、協力金や取引先支援の一時金について、国の宣言対象地域と同様の支援を継続して国に求めていく必要がある。

 経済支援と同時に心のケアも重要だ。行動自粛によって対面でコミュニケーションを取る機会が減り、悩みを抱える人たちの孤立感は深まっている。問題解決に至らなくても話すことで落ち着きを取り戻すことはできる。相談窓口の充実が重要だ。若者を中心に会員制交流サイト(SNS)利用者が増え、相談内容も多様化していることから、茨城いのちの電話は4月から無料通信アプリ「LINE(ライン)」を導入する予定だ。

 原宿カウンセリングセンターの信田さよ子所長は、本紙「現論」で「なんとなくメンタルの不調を感じたら、だらしないと自分を責めたりせずに当然のことだとして受け入れよう。アルコールを飲んで忘れようとせず、そんな自分を言葉にして聴いてくれる人や場所を確保しよう」と呼び掛ける。

 メンタルの不調は「自助」では解決できない。家庭や職場など身近なところで心身の不調を訴える人がいたらとにかく話を聴こう。それだけで救われる人たちがいる。





自殺者の増加 コロナ禍での孤立を防ぐ支援を(2021年2月12日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 新型コロナウイルスの流行が深刻な影響を与えている表れといえよう。2020年の自殺者数(暫定値)は2万1077人に上り、リーマン・ショック後の09年以来11年ぶりに増加に転じた。19年の確定値から908人増えた。愛媛は6人増の236人。

 女性と小中高生の増加が顕著になっている。男性は1万4052人と依然多いものの11年連続減少した。一方、女性は934人増え7025人。小中高校生は140人多い479人で1980年以降最も多くなった。

 自殺の背景には複合的要因があるとされるが、コロナ禍で社会や経済の停滞によるしわ寄せを弱い立場の人ほど受けやすくなっている。人との接触を減らす感染対策や外出自粛などの影響で孤立が深まり、不安やストレスを1人で抱え込みやすい状況にある。追い詰められる人がないよう、行政や関連機関などは支援を尽くさなければならない。

 女性は、特にコロナの影響が大きい宿泊・飲食業や生活・娯楽サービス業などで働く比率が高い。非正規で働く人が多く、昨年の減少数は男性の約2倍の50万人だった。約90万人のパート・アルバイト女性が「実質的な休業状態」にあるとする推計もある。雇用の不安定さが打撃を与えている。「ひとり親支援協会」はひとり親の7割が収入減に陥っているとのアンケート結果を発表した。

 さらに外出自粛や休校などにより、家事や育児の負担も増えている。内閣府によるとドメスティックバイオレンス(DV)被害者の相談件数は4~11月の各月で前年比約1.4倍~1.6倍に増加し、8カ月間の合計は約13万2千件で過去最多となった。家庭内でトラブルを抱えていた女性が逃げ場をなくしている可能性がある。

 こうした現状を踏まえ内閣府の有識者研究会は11月、「『女性不況』の様相が確認される」と指摘。DVや性暴力、自殺の相談体制強化やひとり親支援などを緊急提言した。

 小中高生の自殺は一斉休校明けの5月ごろから増え、8月は前年の倍以上に増えた。国立成育医療研究センターが9~10月に小学生から高校生までの約2100人に聞いた結果では、約7割がストレス反応を示した。有名人の自殺の影響も指摘されている。家庭や学校、地域などが連携し、SOSのサインを見逃さない目配りが求められる。

 従来、過重労働が指摘されてきた医療従事者はコロナ禍で強いストレスにさらされている。リモート授業の大学生や高齢者の孤立も見過ごせない。こうした状況では周囲が異変に気づく機会も減っている。先月、コロナで自宅療養中の30代女性が自殺した。感染者への心のケアも必要だ。コロナ禍が長期化し先行きの見えない不安などで自殺者の増加が懸念される。それぞれの人に応じた包括的な支援で命を守らなければならない。



女性の自殺急増 命の支援網広げ連鎖断て(2021年2月12日配信『西日本新聞』-「社説」)

 長引く新型コロナウイルス禍が悲劇の連鎖を引き起こしている。政府はこの数字も重く受け止め、きめ細かな原因分析と対策の拡充に乗り出すべきだ。

 2020年の自殺者数(警察庁速報値)が2万919人に達し、前年を750人上回った。かつて年3万人を超えていた自殺者は19年までは10年連続で減少した。それが増加に転じた最大の要因は女性の苦境だ。

 自殺者は男性が前年比135人減の1万3943人だったのに対し、女性は同885人増の6976人だった。月単位でみると、女性は昨年6月以降、毎月前年を上回り、10月は20~50代を中心に前年の1・9倍の879人が命を絶っている。

 主な動機は、うつ病などの健康問題や夫婦不和といった家庭問題とみられている。ただ誘発要因として「コロナ禍がさまざまに影響した可能性がある」(厚生労働省)という。

 女性が多く就業する飲食業や観光業は感染拡大で大きな打撃を受け、解雇や雇い止めが相次いだ。生活不安や外出自粛によるストレスなどに起因する家庭内暴力も増えている。在宅勤務の広がりで女性の家事や育児の負担は増したとの声も多い。

 東京でコロナに感染して療養中だった女性の自殺が先月報じられた。「周囲に迷惑をかけた」という趣旨のメモがあったという。痛ましい出来事だ。

 一方、昨年(1~11月)の小中高校生の自殺は440人で、過去最多だった1986年(年間401人)を上回った。休校による学業の遅れ、友人関係の喪失、受験への不安などが要因として指摘されている。

 政府は企業への持続化給付金や休業支援金、低利融資といったさまざまな緊急措置を進めているが、対応は追い付かず期間延長や増額を迫られている。各種相談窓口をはじめセーフティーネットが十分に行き届いているか早急に点検してほしい。

 学校現場ではスクールカウンセラーや「SOSの出し方」教育などを通じた自殺防止の取り組みをいま一度推進したい。

 コロナ禍は人と人の距離を遠ざけ、社会に閉塞(へいそく)感や孤立感を広げている。人同士の接触が減り、悩みを持つ人のSOSは察知されにくい状況にある。

 自殺は従来、男性が7割を占め、女性に特化した施策は重要課題とされてこなかった。それが盲点になったとも言える。対策全般を見詰め直すべきだ。

 菅義偉首相が折に触れて強調する「自助」には限界がある。命を守るには何よりも「公助」が欠かせない。地域社会の中で私たちが周囲の人々の苦境に目を向け、寄り添っていく「共助」の大切さも再認識したい。





11年ぶりに自殺者増加 コロナ下こそ届く支援を(2021年1月28日配信『毎日新聞』-「社説」)

 昨年の自殺者数が政府の速報値で2万919人に上り、11年ぶりに増加に転じた。

 中でも女性と小中高生の増加が目立つ。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済や社会が停滞した影響をより大きく受けたとみられる。

 女性は約7000人で男性の半数程度だが、前年に比べ約15%増えた。11年連続で減少した男性とは対照的な結果だ。

 非正規で働く人が多く、経済悪化のしわ寄せを受けやすい。外出自粛でドメスティックバイオレンス(DV)が増えたことなども影響したとみられる。

 子どもの中ではとりわけ、高校生が急増した。厚生労働省によると進路の悩みや学業不振などが要因というが、学校の一斉休校などで家庭内のストレスが増した可能性も指摘されている。

 自殺対策では、変調を早期に察知し手を差し伸べることが大切だ。コロナ下で人との接触が制限され、取り組みが難しくなった面もある。

 感染拡大の「第3波」は続いており、支援の拡充が欠かせない。

 コロナ禍でうつを誘発するような要因が増えている。速やかな受診につながるよう周囲の人が支えてほしい。

 自宅で療養する患者の見守りも強化が求められる。医療従事者は激務が続いており、精神面でケアする仕組みが重要だ。

 自殺増加の要因は感染拡大の影響だけではない。NPOの調査では、自殺した人の多くがさまざまな悩みを抱え、7割が何らかの相談窓口を利用していた。自治体が果たすべき役割は大きい。

 東京都足立区は行政サービスの窓口で相談者の困りごとを受け止め、関係部署につなぐきめ細かな取り組みをしている。自殺につながる兆候に気づけるよう、窓口担当者には研修を実施してきた。

 若者対策として、インターネットで「死にたい」と検索した人に、自動的に相談窓口を表示する仕組みを導入したところもある。

 経済の低迷が長引けば、自殺者がさらに増える恐れがある。福祉や教育、雇用など多分野が連携した対策が必要だ。政府や自治体はコロナ下の制約を乗り越え、支援が届くよう手を尽くすべきだ。





コロナと自殺増 きめ細かい支援で孤立を防げ(2021年1月26日配信『読売新聞』-「社説」)

 長引く新型コロナウイルスの流行が、女性や子供の暮らしに深刻な影響を与えたためだろう。

 厚生労働省によると、昨年の自殺者数は2万919人で、前年を750人上回った。リーマン・ショック後の2009年以来、11年ぶりの増加となる。速報値のため、更に増える可能性があるという。

 男性の自殺者は前年より減った一方で、女性は14・5%増えた。働く女性の増加が目立っている。再度の緊急事態宣言で、女性の就業が多い飲食や宿泊業界が打撃を受けている。昨年、非正規で働く女性は月平均約50万人減った。

 在宅勤務の広がりで、育児や介護の負担も増している。昨年の家庭内暴力の相談は前年より5割増えたという。困窮家庭や一人親家庭を官民で支え、事態の悪化を食い止めねばならない。

 孤独感が理由とみられる自殺が増えた点は見過ごせない。感染を避けるため家に閉じこもり、孤立している高齢者は多い。地域の見守りを手厚くする必要がある。

 児童生徒や大学生は昨年1~11月、前年比84人増の916人に上った。小中高生は過去最多の440人が自ら命を絶った。

 親との不和や進路、学業不振を苦に自殺した子供が多いという。長引く休校で学校になじめず、授業についていけない。学校にも家庭にも居場所がない。そんな子供が増えているのではないか。

 つらい、苦しいと感じた時に、周囲の大人に相談する方法を教える「SOSの出し方教育」に力を入れるべきだ。若者が相談しやすいように、SNSを活用した窓口の拡充を急いでもらいたい。

 自殺対策に取り組むNPOの調査では、自殺した人は平均四つの悩みを抱えていた。借金や人間関係、病気などの問題が連鎖的に悪化し、精神的に追い詰められて死を選ぶケースが多いという。

 自殺者の7割が、一度は医療機関や相談窓口を訪れていたという調査結果もある。相談内容からリスクの高い人を見極め、包括的な支援につなげることが重要だ。

 求められる支援は年代や性別、地域によって異なる。国や自治体は自殺の背景を詳細に調査し、実態の把握に努めねばならない。

 自治体やハローワークの担当者のほか、弁護士や精神科医らを交えたワンストップ型の相談会を開いている地域もある。相談を待つのではなく、苦境にある人には積極的に支援を届けてほしい。

 家庭や職場、学校で周囲に目を配り、救える命を増やしたい。





「今日空晴レヌ」が待ち遠しい(2021年1月24日配信『中国新聞』-「天風録」)

 これほど私蔵の作品ばかり集めた展覧会は覚えがない。JR三原駅前の三原市民ギャラリーで開催中の「生誕100年 内田皓夫(てるお)展」。民芸運動に連なる型染め作家が、いかに地元で親しまれていたか、しのばれる

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▲切り絵のような型紙を彫り、和紙や布を染めた作品の脇にマッチ箱や絵はがき、ブックカバーが並ぶ。どれも、ほのぼのとして飽きない。額入りや掛け軸にし、朝な夕な眺めて心を遊ばせれば、幸せなひとときだろう

▲コロナ禍の憂さ晴らしに足を延ばしたせいか、太陽をあしらった小品の1行が心に染みた。〈今日空晴レヌ〉。内田さんの師で民芸運動の父、柳宗悦(むねよし)の断章らしい。胸のつかえも一緒に「さあ晴れた」と言える日は、いつになるのやら

▲この世をはかなみ、先立つ人が増えているらしい。このところ右肩下がりだった警察庁の自殺統計が11年ぶりに前年を上回った。とりわけ女性と子どもの数が目立つ。何ともやるせない

▲雨降りが続けば、誰もが青空を心待ちにする。しかし心の空、それも自分以外の心模様を気に掛ける人が少ないのはなぜ―。例の断章を柳自身は、そんなふうに解題している。忘れないよう、胸の画布に留めておく。



力の入れどころがずれていないか(2021年1月24日配信『熊本日日新聞』-「新生面」)

 やはり、コロナが影響したということか。昨年1年間の全国の自殺者は2万919人に上り、11年ぶりに前年を上回った。このニュースを伝えた昨日の本紙朝刊に、それを象徴するような痛ましいケースも載っていた

▼コロナに感染し、自宅療養中だった東京都内の30代女性が今月、自殺していた。夫と娘と暮らしていて、「娘にうつしてしまったのではないか」との悩みをつづったメモが残されていたという

▼感染者増加で病床確保が難しくなっていくのに伴って、自宅療養を余儀なくされる人が増えている。厚生労働省のまとめによると、先月23日には全国で9524人だったが今月20日は3万5394人と、わずか1カ月ほどで3倍以上になった

▼これだけ数が増えてくると、行政はそれぞれの体調を把握していくのが精いっぱいで、精神面のケアにまでなかなか手は回るまい。自殺した女性も、自宅療養だったことが要因になったかもしれないと思うとやり切れない

▼自殺もそうだが、防ぎたいのは自宅や宿泊施設で療養中に症状が悪化して亡くなることだ。その場で症状の急変を把握できる「パルスオキシメーター」という医療機器がある。自宅などで療養する人に届ける対策を進めてほしい

▼政府は入院を拒否した感染者への罰則を盛り込んだ感染症法改正案などを閣議決定した。しかし、今心配なのは感染して入院が必要ならすぐ入院できるかということだ。それも解消しないのに入院拒否したら罰則とは。力の入れどころがずれていないか。





自殺者増加 救える命にもっと手を(2021年1月23日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 昨年1年間に自ら命を絶った人が2万919人に上った。前年を上回ったのは2009年以来となる。

 男性はわずかに減った半面、コロナ禍の影響が深刻化した下半期で女性が増えた。小中高校の子どもたちは過去最多となっている。

 派遣やパートなど非正規雇用の割合は労働者全体の4割近くを占める。新型コロナ感染の拡大に伴う解雇や雇い止めは、非正規が多い女性に集中した。

 ひとり親世帯や子育て中の共働き世帯、単身の女性の家計を直撃し、困窮に拍車をかけている。

 むろん、自殺が増えた原因を経済だけに求められない。病気や災害で親を亡くした子どもらを支援する「あしなが育英会」の玉井義臣会長は、遺族の窮乏を前に「人は貧しさだけではなかなか死にません。お金と同じか、それ以上に大切なのが心のよりどころです」と訴えていた。

 外出自粛やリモートワークの普及で家族関係が密になった。家事や育児の負担増に加え、家族が抱えるストレスに向き合う役割も女性に偏っている。

 顔を合わせて集まり、相談できる機会は減り、孤立しがちな単身者を含め、女性たちは「はけ口」を失っている。

 子どもたちが命を絶つ原因として、自宅にいるストレスや成績不振が挙がっている。家庭の経済事情や親の心の状態も影響しているのではないだろうか。

 菅義偉政権は、ひとり親世帯への追加給付や緊急小口資金の返済免除延長といった、決して十分ではない対策を誇示する。女性や子どもへのしわ寄せは、コロナ禍の前からあった格差の問題に手を打たずにきた結果だ。その反省に立ち、救える命を最優先で守る具体策を示していない。

 「頼れるところがない」と訴える人々の声に、NPOが懸命に応じている。子ども食堂も全国で急増し、弁当や食料の宅配に切り替えて支援を続ける。学校では、子どものストレス反応を早期にくみ取る試みが始まった。

 暮らしの現場を預かる地方自治体は、民間団体の取り組みを十分に下支えする必要がある。子どもは衝動性が高いとも指摘される。学校との連携を密に、専門家の配置にも力を入れてほしい。

 何げない会話を交わす一本の電話が、手紙やメールが、思い詰めた気持ちを和らげることがある。近しい人たちと声をかけ合い、悩みを打ち明け合う関係を、それぞれが大切にしたい。





女性の自殺者急増/弱者救済のアクセルを踏め(2021年1月10日配信『河北新報』-「社説」)

 2010年以降、10年連続で減少していた自殺者数が、増加に転じることが確実視されている。20年は11月までの暫定値で前年同期比550人増の1万9225人に上り、特に女性の自殺が急増している。急変の原因、背景は明らかであり、対策は一刻の猶予も許されない。

 警察庁の自殺統計によると、20年の月別自殺者数は新型コロナウイルス流行第1波後の7月以降、前年を上回る状況が続いている。年間累計は10月末の時点で前年同期を超えた。

 11月までの数値を見ると、男性は1万2841人で前年を202人下回った。一方、女性は6384人で752人増え、特に8月は45・0%増の673人、10月は88・6%増の879人に達した。極めて憂慮すべき事態だ。

 厚生労働省がまとめた10月分のデータからうかがえるのは、自殺した女性の職業の中でも事務員(33人)や医療・保健従事者(26人)、販売店員(22人)、飲食店員(16人)が目立つことだ。

 また、19歳以下が計20人なのに対し、20~70代の各年代と80歳以上は、いずれも100人台とおしなべて多い。20~40代はそれぞれ、前年同月比で約2倍だったことも特徴だ。

 総務省の労働力調査に、女性の自殺者増を解き明かす一端を見いだすことができる。

 19年は好調な雇用情勢を背景に全ての月で前年同月を上回ったが、20年は状況が一変。パートやアルバイトなどの非正規労働者数は、全国に緊急事態宣言が発令される前の3月に減り始めた。7月は比較可能な14年1月以来、最大の131万人のマイナスを記録した。

 最新の11月分の調査結果によると、非正規労働者数は前年同月に比べ62万人減の2124万人で、9カ月連続のマイナスとなった。これらの数字から浮かび上がるのは、女性の経済的な困窮にほかならない。

 新型コロナの感染がみたび拡大し、政府は7日、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県に新型コロナ特別措置法に基づく緊急事態を宣言した。

 飲食店に午後8時までの営業時間短縮を要請したほか、午後8時以降の不要不急の外出自粛も求めた。飲食店、観光関連などのサービス業に従事する割合が多い女性の働く場が失われ、窮地に追い込まれることが想定される。

 生活保護や失業給付、雇用調整助成といった既存の支援事業を組み合わせつつ、生活の維持を支援する施策が求められる。緊急的なセーフティーネットを用意し、ミクロの視点で「体感不安」を払拭(ふっしょく)する必要がある。

 菅義偉首相は昨年10月、所信表明演説の締めくくりに自身が目指す社会像を「『自助・共助・公助』そして『絆』」と表現した。しかし今、自助や共助に頼る時間はない。




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