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緊急事態宣言の効果は限定的。危惧される「緊急事態慣れ」(2021年1月24日配信『Yahooニュース』)

原田隆之 | 筑波大学教授

緊急事態宣言発令の効果

 首都圏に2度目の緊急事態宣言が発令されてから2週間余りが過ぎました。気になる感染状況ですが、全国や東京都では実効再生産数はわずかに1を切り始めたものの、埼玉県や千葉県などでは依然として1を超えています(『東洋経済オンライン「新型コロナウイルス 国内感染の状況」制作:荻原和樹』)。

 つまり、感染はまだ高止まりで、宣言の効果はほとんど出ていないと言えるでしょう。政府関係者は延長を視野に入れた検討に着手したと報じられています。

 目標であった「ステージ3」に戻ること、あるいは都内の1日当たりの感染者数が500人を切るには、この状態だとあと何か月もかかるという見通しすら出ています。このままずるずると「緊急事態宣言」が続くのでは、もはやそれは緊急でも何でもない「新しい不自由な日常」になってしまいます。

 そのとき懸念されるのは、「緊急事態慣れ」です。もはや人々は、今が「緊急事態」だとは思わず、生活様式にも緩みが出て漫然と元の生活に戻ってしまい、政府や専門家が何を言っても聞き流してしまうということにもなりかねません。心理的には「どうせ何をしても変わらない」といったあきらめが前面に出て、「我慢の限界」「我慢を続けるのがばからしい」といった努力の放棄にもつながるかもしれません。

 今回の緊急事態宣言が発令される直前、私はYahoo!ニュースに「人々はなぜ行動変容できないか・・・再度の緊急事態宣言の前に考えるべきこと」という記事をアップしました。そこでは、メッセージの出し方を工夫しないと、前回のような効果は得られないことを警告しましたが、残念ながら今まさにそのとおりのことが起こっています。

改めて人々の行動を分析すると

 緊急事態宣言発令後の人々の様子を振り返ると、2つの事実が見えてきました。

 1つ目は、政府の要請を守る人と守らない人に分かれているということです。ニュースで流される繁華街や駅前の様子を見ると、たしかに人通りは減少しています。多くの人は、外出を控えていることがわかります。

 しかし、前回ほどではないということは、要請を守らない人や軽視する一部の人がいるということです。

 2つ目は、同じ人でも要請を守るときと守らないときがあるということです。前回の緊急事態宣言のときは、期間を通してほぼ自粛要請が守られていました。したがって、街から人の流れが長い期間途絶えたし、テレワークも続いたのです。

 一方、今回はそうではありません。夜8時以降は出歩かなくても、その前ならいいだろうと考えて昼間や夕方に大勢で食事をする人がいます。また、「先週の週末は家にいたから、今度は出かけよう」などと考える人もいます。テレワークを導入する会社も減っているのか、電車の混雑はそれほど緩和されたように思えません。

 このように「中途半端」としか言いようのない状況であるため、感染減少もまさに中途半端なままなのです。

何が悪かったのか

 では、なぜこのような事態になっているのでしょうか。その原因はすでに前回の記事で触れたことと重なるので、詳しくはそちらをお読みいただいたうえで、簡単に列挙すると以下のようになります。

そもそも要請されていることは、人間の習性に反したことばかりだから
自分や周囲が感染していない人には「楽観主義バイアス」が強まっているから
感染による害が実感できず、自粛による害のほうが目立つから
それまでGoToによって旅行や外食が奨励されていたことと矛盾するから
心理的コストの大きな行動(面倒なことや抵抗感のあること)を回避したいから
 ほかにも、「恐怖メッセージ」や陳腐なスローガン一辺倒のメッセージの出し方では、もはや国民の賛同を得られないことも指摘しました。さらに、菅総理をはじめ外食をやめることのできない政治家の言うことは、空々しく響いてしまうことも事実です。

失敗したメッセージ

 現時点で再度、現在の状況を分析してみると、新たに次のようなことが指摘できます。

 第一に、悪者やスケープゴートを作るやり方には、弊害が大きいということです。最初の緊急事態宣言では、パチンコ店が槍玉に上がり、その後は若者や夜の街が標的にされました。現在は、居酒屋やバーなどをはじめとする飲食店がターゲットとなっています。

 たしかにこれらの場所では感染の危険が大きいのかもしれません。事実、かつて新宿歌舞伎町ではクラスターが発生しました。感染者には若い世代が目立ちます。飲酒のうえでの会話には、飛沫感染のリスクが高まります。

 しかし、このような方法は反発を生みます。悪者にされて喜ぶ人はいません。緊急事態宣言が長引くと、もはや要請を拒絶する店が出てくるのは時間の問題でしょう。「医療を守るために飲食店をつぶすのか」という声も聞こえてきています。

 さらに、もっと危険なのは、標的にされていない人々が「自分たちは安全」「自分には関係ない」と思ってしまうことです。パチンコもしない、夜の街にも行かない、8時以降に飲み歩くこともしない、しかし昼にファミレスや喫茶店でマスクを外して大声で会話をする、こういう人々を見るのはめずらしいことではありません。それは若者だけではありません。

 このように、あまり限定的なメッセージを出すと、それにあてはまらない人がメッセージをスルーしてしまうという危険性があります。

 第二に、今回の緊急事態宣言では、地域や対象が限定的です。まず首都圏1都3県に宣言が出され、その後地域が拡大されましたが、全国的な発令はされていません。前回は、まず7都道府県に出され、9日後に全国に拡大されています。

 また、最初は「夜8時以降の不要不急の外出は控えるように」と言っていたのが、あとであわてて「昼間も避けて」などと修正しました。このように徐々に対象やメッセージを拡大していく方法は、悪手です。経済的な打撃をできるだけ少なくしようという意図は理解します。しかし、逆に最初はガーンと厳しくしておいて、徐々に緩和していくほうが効果的で、結果的には経済的ダメージも小さくて済むように思います。

 なぜならば、ゆるやかな緊急事態宣言は、好ましくない「メタメッセージ」を伝えてしまうからです。「メタメッセージ」というのは、伝えようとしていること以外の余計なメッセージのことです。

 最初に甘い対策やメッセージしか出さないと、すでにコロナ慣れしている人々、前回の緊急事態のことを覚えている人々には、意図せずとも「今回の宣言は大したことないですよ」という「メタメッセージ」を伝えてしまいます。

 その結果、人々は「ちょっとくらい従わなくても大丈夫かな」などと軽く受け止めてしまい、十分な心構えができません。それが冒頭に述べたような「緊急事態慣れ」につながってしまい、人出もさほど減少しない状態がずるずると続くのです。

 逆に、厳しいところから始めると、そこでは「今は本当に大変な事態である」という「メタメッセージ」が伝わり、緊張感が生まれ気持ちが引き締まります。まさに前回、初めて経験する緊急事態のときがそうだったのです。

 そして、状況に応じて徐々に緩和することで、それがインセンティブになり、もう少し頑張ろうという気持ちになれるし、何より心が明るくなります。

 逆に今のように、徐々に制限が拡大されていくと、感染は減らず、心も暗くなる一方です。前回の記事でも述べたことですが、人は「得」より「損失」のほうにより敏感に反応するからです。

再度の提言

 ここから言えることは、感染症対策を効果的に講じるためには、感染症の専門家だけに任せておくことに限界があるということです。

 もちろん、「何をすべきか」という点に関しては、エビデンスに基づいている限り、これらの専門家の言うことが一番正しいのだと思います。

 しかし、するべきことを「どのように伝えるべきか」という点に関しては、やはり人間の心理や行動を熟知した心理学、行動経済学など行動科学の専門家の知見を取り入れるべきでしょう。

 たとえば、よりメッセージの効果を高めるためには、「要請を守る人と守らない人の違いは何か」「同じ人でも要請を守るときも守らないときの違いは何か」などを詳細に分析する必要があるでしょう。

 また、状況が明らかに前回とは変わっているのに、前回うまくいったからといって、今回もうまくいくとは限らないのです。人間の心は状況に応じて、すばやく変化するからです。その時々の心理状態に合わせて、一番効果的なメッセージの出し方を組み合わせることが大切です。

 特に、今の行動が明るい未来につながると確信できるようなメッセージを出すべきなのです。暗い顔をした政治家が繰り返す恐怖メッセージの連呼よりも、われわれは希望に満ちた明るいメッセージを聞きたいのです。

原田隆之
筑波大学教授
筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。




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