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(論)愛知リコール署名不正(2021年2月3・8・9・10・18・19・20・23・25・26・27・28・3月1・2・14・17・25・27・30日・4月10日)

名古屋市長選 訴えの違いに耳澄ませ(2021年4月10日配信『東京新聞』-「社説」)

 名古屋市長選が明日、告示される。リコール不正事件の捜査が続く中での異例の選挙戦。河村たかし市長と横井利明元市議による事実上の一騎打ちの構図だ。訴えの違いにしっかり耳を澄ませたい

 河村氏は3期の評価について「名古屋をどえりゃー面白くした。130点」と自画自賛する。

 確かに、河村氏が、市や市議会のなれ合い体質に切り込んできたことや、7年連続で達成した待機児童ゼロなどは評価できる。しかし、議会に既得権層のレッテルを貼り、「庶民革命」を掲げる自身との対立をあおる政治手法であったことも否定できない。さらに、市内で蒸気機関車(SL)を走らせる構想など奇抜な政策で結実したものはほぼない。

 これに対し、市議として河村市政と対峙(たいじ)してきた横井氏は「今の名古屋は未来の絵姿を全く描けていない」と批判し、「名古屋市は近隣自治体から孤立している」と警鐘を鳴らす。

 公約に目を移せば、河村氏は4期目を目指す理由に「庶民革命の総仕上げ」を挙げる。「日本一のコロナ対策」や、中学校で実現した常勤スクールカウンセラーを全小学校に拡大し「子どもを1人も死なせない名古屋」を実現することを訴える。

 一方、横井氏はコロナ対策として「全市民への2万円の商品券の配布」を打ちだし、河村氏の「市長給与年800万円」に対して「年544万円」を公約。民間からの女性副市長登用も訴える。

 横井氏は「2万円の商品券」について「市の基金を活用すれば財源的に可能」というが、基金の8割は市債返済の目的で積み立てられている。コロナ対策の財源として一時活用する妥当性などについて、丁寧に説明すべきだろう。

 河村氏はこの政策を「愚民政治。買収」と批判してきたが、結局、電子マネー決済をした場合、2万円を上限にポイント還元する対抗策を打ち出した。コロナ対策の経済支援は無論重要だが、選挙向けに急ごしらえした「ばらまき競争」であれば、横井氏への批判は自身にも向けられよう。

 河村氏はリコール不正について独自の「中間報告」を出したが、具体的に自身がどうリコール運動に関わり、不正を防ぐ機会がなかったのかなど、さらに説明責任を果たす必要がある。それはそれとして、名古屋は日本を代表する大都市の一つだ。かじ取り役としてその将来をどう導いていくのか。各候補には明確に示してほしい。





愛知の署名偽造 不正の構図の徹底解明を(2021年3月30日配信『山陽新聞』-「社説」)

 愛知県の大村秀章知事に対するリコール(解職請求)運動は、大量の偽の署名が選挙管理委員会に提出されていたことが分かり、異例の展開をたどっている。

 何らかの名簿を見て、アルバイトが署名用紙に他人の氏名や住所を書き写していたことも報道で明らかになった。地方自治法違反の疑いで、県警は先週、リコール運動の事務局が入っていた建物を家宅捜索するなど捜査を進めている。「民意」が捏造(ねつぞう)されていたのなら、あまりに悪質と言わざるを得ない。

 リコール運動は美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が呼び掛けた。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の展示作品と、実行委員会会長を務めた大村氏の対応を批判。河村たかし名古屋市長らも運動を支援していた。

 高須氏は運動組織として政治団体「100万人リコールの会」を設立し、元県議が事務局長を務め、事務局にはボランティアら約20人が在籍していたという。昨年8月から署名を集め、同11月に約43万5千人分を選管に提出したが、住民投票実施に必要な法定数の半分程度にとどまり、リコールは成立しなかった。

 今年2月、県選管は提出された署名の8割以上が無効と発表した。無効な署名のうち9割は、複数の人物が何人分もまとめて書いたとみられる筆跡だった。選挙人名簿に登録されていない人や、既に死亡している人の名前も大量に含まれていたというから、ずさんさに驚く。

 その後の報道で、偽の署名は動員されたアルバイトが書いていたことが明らかになった。名古屋市の広告関連会社がアルバイトを募集し、昨年10月、佐賀市内の貸会議室で何らかの名簿から署名用紙に氏名や住所を書き写したという。署名運動が期限を迎える時期で、署名が低調だったため、水増ししようとした可能性が指摘されている。

 高須氏や河村氏は不正への自身の関与を否定しているが、「知らなかった」では済まされまい。県警の捜査に全面協力するのはもちろん、運動を主導した当事者として積極的に実態を調べ、説明責任を果たすべきだ。

 広告関連会社が事務局から「人を集めてくれ」と頼まれ、約470万円で業務を受注したとの報道もある。クラウドファンディングなどで事務局が調達した多額の資金の使途を明らかにしなければならない。アルバイトが書き写したとされる名簿の出どころも、はっきりさせる必要があるだろう。

 リコールは、住民が自分たちの選んだ首長や議員が不適当なら、任期途中でも解職を求めることができる重要な制度だ。不正が行われていたとすれば、民主主義の根幹が揺らぐ。県警は捜査を尽くし、不正の構図を徹底的に解明してもらいたい。





名古屋市長選 「安月給」競争ではなく(2021年3月27日配信『東京新聞』ー「社説」)

 4月11日告示の名古屋市長選は、河村たかし市長と横井利明市議を軸とする戦いの構図が固まった。リコール不正事件の渦中での異例の選挙となるが、市民に目を向けた政策を熱く語ってほしい。

 愛知県知事のリコール(解職請求)運動をめぐる不正署名事件で、愛知県警はリコール活動団体旧事務所の家宅捜索に踏み切った。

 河村市長は出馬表明の際に「選挙は関係ないですよ。わしはこんなことやるはずないんで」と述べた。だが、自身が深く関与したリコール運動に不正の目が向けられている中での選挙だけに、もっと当事者意識をもって説明責任を果たすべきであろう。

 市長は2011年の市議会リコールで集め、自らの政治団体が管理する約3万4000人の「受任者名簿」のデータを今回のリコールで活動団体に提供したことを認めている。確かに政治団体は個人情報の利用目的を制限されていないが、市民からは「本来の目的とは違う利用だ」との批判もある。市長は「(選挙と)関係ない」のひと言で片付けず、自身の言動や市民からの疑問について丁寧に説明したうえで選挙にのぞんでほしい。

 横井氏は、リコール不正について積極的に取り上げない姿勢を示しているが、民主主義の根幹を揺るがす大問題であることは間違いない。選挙での論戦を真相究明の一助にすることも重要である。

 一方、河村市長の看板公約である「年800万円の市長給与」に対し、横井氏は愛知県の労働者平均年収を基に「年544万円」を打ち出した。河村氏は横井氏が市議報酬削減に反対してきたことを指摘し「選挙のためだけに言う愚民政治」と批判した。

 河村氏の初当選以降4回の同市長選では、「庶民革命」を掲げる河村氏の「市長給与800万円」などの公約が有権者に強烈な印象を与えてきた。そのあおりで、街の未来像や財政再建など別の重要課題がかすんでしまい、市長選びの主要争点にならない選挙が続いてきたことも否定できない。

 その意味で、今回も「安月給」競争が最大の争点になるようでは困る。「544万円」を提起した横井氏も「給与論争を終わりにするため」と言っており、それは本意ではあるまい。

 市民が求めるのは、派手な政策や新奇なアイデアのアピール合戦より、コロナ対策など市民の暮らしに関わる切実な課題に目を向け、地に足のついた政策で競う論争だろう。





名古屋市長選 リコール不正も焦点だ(2021年3月17日配信『東京新聞』-「社説」)

 ようやく名古屋市長選の構図が見えてきた。河村たかし市長は去就を明らかにしていないが、横井利明市議が出馬表明した。告示は4月11日に迫っており、市民の選択には活発な論戦が必要だ。

 署名偽造が発覚した愛知県知事のリコール(解職請求)運動を支援した河村市長への責任追及が市議会で続く。そのため、告示まで1カ月を切っても現職が出馬、不出馬を明らかにしないという異例の情勢の中で、事実上の選挙戦が幕を開けることになる。

 自民党の横井市議は16日、記者団に「東海地方のリーダーとしてけん引していく名古屋へと変える努力をしていきたい。民主主義を根底からくつがえす(リコール不正)問題にも危機感を持っている」と述べ、出馬を表明した。

 市長選にはすでに、市民団体副代表の尾形慶子氏が立候補を表明している。15日にあった立候補予定者説明会には、河村陣営や共産党などでつくる「革新市政の会」関係者らが出席した。

 リコール不正も焦点となる選挙だが、4月25日の投開票日まで残された時間は少ない。

 横井氏は当選8期目のベテランで、市議会の論客として、リコール問題でも市長の責任追及の先頭に立つ。10年前に河村市長が主導した市議会リコールの際には、議長として市長と対決した。

 市長も市議も住民の直接投票によって選ばれるのが地方自治の「二元代表制」である。「庶民革命」を掲げた河村市政は、市議会を庶民の敵対勢力である既得権益層とアピールする政治手法をとってきた。もしも、河村市長が出馬するなら、河村流の手法が真に市民のためになる政治なのかどうか、大いに議論をしてほしい。

 各候補者に聞きたいのは、街の未来像である。リニア中央新幹線の品川−名古屋間の開業は、当初予定の2027年より遅れるのは必至だ。その影響をもろに受け、見直しも余儀なくされる名古屋駅前整備や、最大の繁華街である栄との一体開発などのビジョンを示すべきである。

 リコール署名集めの不正は民主主義を揺るがす大問題である。河村市長がその運動に深く関わった以上、市民への説明責任を果たすのは出馬の大前提である。

 河村市長には、連続3期を超える多選禁止の条例案を議会に提案した経緯もある。否決はされたが、あえて4期目に向けた出馬に踏み切るのなら、この点についても明確な説明が必要であろう。





愛知の署名偽造 地方自治揺るがす不正(2021年3月14日配信『北海道新聞』-「社説」)

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)を目指した署名集めを巡り、県選挙管理委員会は提出された署名のうち8割を無効と判断した。署名偽造の情報に基づいて調査した。

 リコールは有権者の一定の署名があれば首長や議員の解職、議会の解散を問うことができる仕組みだ。署名偽造は、住民の民意を反映させる地方自治制度の根幹を揺るがすゆゆしき事態と言える。

 この問題では、リコール運動事務局から依頼を受けた広告関連会社が、佐賀県内でアルバイトに署名を偽造させた疑いがある。

 署名活動は昨年、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が主導して行った。名古屋市の河村たかし市長も支援した。両氏は偽造問題への関与を否定するが、率先して真相の究明を行うべきだ。

 リコールや条例制定に向けた署名集めは各地で行われている。有権者に保障された直接請求権を適切に運用するためにも、再発防止策の検討が必要だろう。

 大村知事へのリコール運動は、2019年の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の開催を巡り、高須氏が知事の対応に反発したことが発端となった。

 約86万人の署名を集める必要があるのに対し、実際に提出したのは約43万人分だった。リコールは成立しなかった。

 県選管の調査で、提出分の8割にあたる約36万人分が無効と判明し、このうち9割は複数の人物が一人で何人分も署名したとみられる。極めて悪質な行為と言える。

 大村知事と対立する河村市長は、自らの事務所で管理する名簿を事務局に提供していた。かつて主導した名古屋市議会のリコール運動で集めたものだ。

 市民を代表する市長として適切な行動であったか疑問である。

 県選管の告発を受け、地方自治法違反の疑いで捜査する県警は、すでに広告関連会社社長から任意で事情を聴くなど捜査を進めている。全容の解明に全力を挙げてもらいたい。

 リコールでの署名集めは違法行為が行われないことが前提になっている。今回の偽造は個人の見識に頼っている現行制度の限界を浮き彫りにしたとも言える。

 国と地方自治体は、有識者も交えて偽造が行われた経緯を詳細に調査して、同様の事態が繰り返されないような対策を講じたい。

 その一例として、本人確認の徹底によるなりすまし防止なども検討に値する。





愛知リコール不正 署名の大量偽造 徹底的な解明を(2021年3月2日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動で、県選挙管理委員会の調査によると提出された約43万5千人分の署名のうち8割超に当たる約36万2千人分に不正が疑われ、無効と判断された。無効署名の9割は複数の人物が何人分も書いたとみられる筆跡だった。署名が始まった時点での故人も約8千人分含まれていた。

 県選管は、署名が大量に偽造された疑いがあるとして地方自治法違反容疑で容疑者不詳のまま県警に告発。県警は県内の各市区町村の選管に提出された署名簿を押収するなど捜査している。大量偽造で指示役の存在や組織的な関与が疑われている。署名偽造は、住民が直接民意を表す直接請求制度を揺るがす極めて悪質な行為である。経緯などを含め、事実を徹底的に解明しなければならない。

 運動は美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が主導。一昨年開催された芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で展示された昭和天皇を巡る映像作品などを問題視し、実行委員会会長だった大村知事の責任を問うとして昨年8月に始め、名古屋市の河村たかし市長が支援していた。署名は11月に提出され、住民投票実施に必要な法定数の半分ほどだった。

 名古屋市の広告関連会社が運動事務局の指示でアルバイトを募集し、佐賀県内で他人の氏名や住所を書かせた疑惑が浮上している。関係者によると、会社側は事務局から470万円で受注し、人件費などで約1500万円を支出したとみられ、会社側は発注書を県警に提出している。

 本来、署名数が住民投票実施に必要な法定数に届かなければ選管による署名の審査は行われない。今回は審査対象外だったが、不正な署名があったとの指摘があり選管が調査した。バイトが動員されたとされる時期は運動が期限を迎える時期と重なっており、運動の実績を誇示するために署名を積み増したとの見方も出ている。

 高須氏、河村氏はともに不正への関与を否定している。河村氏は、10年に自身が主導した名古屋市議会のリコール運動で集めた名簿のうち約3万人分を事務局に提供していた。署名偽造への流用はなかったとするが、運動に協力し、混乱を招いた責任は免れない。田中孝博事務局長も不正への関与を否定している。田中氏は、次期衆院選で日本維新の会から公認候補となる支部長に選任されていたが先日辞退した。運動に大きく関わった人たちは不正関与を一方的に否定するだけではなく積極的に実態を調べ、説明責任を果たすべきだ。

 署名活動はリコール運動だけではなく、さまざまな民意を示す手段である。今回の不正はそうした署名活動への信頼を傷つけるものだ。誰が何のために不正をしたのか。真相を解明し、責任の所在を明らかにしなければならない。



リコール不正(2021年3月2日配信『山陰中央新報・佐賀新聞』-「論説」)

頰かむりは許されない

 これは民意の改ざん・捏造(ねつぞう)だ。民主主義を冒瀆(ぼうとく)し、破壊させる言語道断の行為である。なぜ起きたのか。警察が徹底捜査するのはもちろん、運動を主導した者も、洗いざらい調査し、真相を解明して責任の所在を明確にしなければならない。

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡って、提出署名の8割超が無効と判断された問題は、県選挙管理委員会の刑事告発を受け、県警が地方自治法違反の疑いで署名簿の押収など本格的な捜査に乗り出す事態に発展した。

 リコール運動は、大村知事が実行委員会会長を務めた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」がきっかけだ。展示された昭和天皇に関する映像作品などに猛反発した美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが大村氏の責任を問うため、昨年8月に始めた。

 名古屋市の河村たかし市長が支援したほか、運動の事務局長は次期衆院選に立候補を予定していた日本維新の会の支部長(支部長を25日に辞退)。大阪府の吉村洋文知事も「取り組みには賛成だ。応援する」とエールを送っていた。

 2カ月の運動期間を経て県内64選管に提出された署名は、リコールの賛否を問う住民投票実施に必要な約86万6千人の半数程度の約43万5千人にとどまった。県選管は2月1日、この署名の83・2%に、同一人物によるものや選挙人名簿に登録されていない人など、不正が疑われるとの調査結果を発表した。

 さらに、署名が始まった時点で既に亡くなっていた約8千人分の名前も含まれていたというのだから、極めて悪質だ。これほどの大がかりな不正だけに、何らかの組織的な関与があったと見るのは当然だろう。

 関係者によると、名古屋市の広告関連会社が、事務局から請け負い、人材紹介会社を通じてアルバイトを雇ったとされる。アルバイトは佐賀市内の貸会議室に集まり、事前に用意された愛知県民の名簿を基に、住所や氏名を書き写した疑いが持たれている。従事した人は、現場の担当者が大村知事を「悪い人」と説明し、業務の内容を口外しないとの誓約書にもサインさせたと証言している。

 自治体の首長のリコール請求は、地方自治が民意に基づき行われているか、任期途中であっても住民が監視する権利を保障した制度といえ、地方自治法で規定されている。つまり民主主義の根幹をなす仕組みだ。

 不正の発覚を受け、高須氏は「明確に何の関係もない。そう信じている」と関与を否定する。事務局長も「発注も依頼もしていない」と話しているが、広告関連会社は運動事務局幹部の名前が記されたアルバイト募集に関する発注書を県警に提出している。捜査・調査の焦点は、誰が署名偽造を指示したのか、どこから金が支出されたのか、となろう。

 アルバイトを雇い、偽の署名を「大量生産」する行為は、地方自治、民主主義を守るための制度を台無しにしてしまう住民への背信行為だ。

 高須氏はじめ、署名集めの街頭に立った河村市長らは、事態の重大性をもっと深刻に受け止め、自らも積極的に調査し、説明責任を果たすことが求められている。警察任せの頰かむりは決して許されない。(共同通信・橋詰邦弘)





リコール不正 頬かむりは許されない(2021年3月1日配信『茨城新聞』-「論説」)

 これは民意の改ざん・捏造(ねつぞう)だ。民主主義を冒涜(ぼうとく)し、破壊させる言語道断の行為である。なぜ起きたのか。警察が徹底捜査するのはもちろん、運動を主導した者も、洗いざらい調査し、真相を解明して責任の所在を明確にしなければならない。

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡って、提出署名の8割超が無効と判断された問題は、県選挙管理委員会の刑事告発を受け、県警が地方自治法違反の疑いで署名簿の押収など本格的な捜査に乗り出す事態に発展した。

 リコール運動は、大村知事が実行委員会会長を務めた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」がきっかけだ。展示された昭和天皇に関する映像作品などに猛反発した美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが大村氏の責任を問うため、昨年8月に始めた。

 名古屋市の河村たかし市長が支援したほか、運動の事務局長は次期衆院選に立候補を予定していた日本維新の会の支部長(支部長を25日に辞退)。大阪府の吉村洋文知事も「取り組みには賛成だ。応援する」とエールを送っていた。

 2カ月の運動期間を経て県内64選管に提出された署名は、リコールの賛否を問う住民投票実施に必要な約86万6千人の半数程度の約43万5千人にとどまった。県選管は2月1日、この署名の83・2%に、同一人物によるものや選挙人名簿に登録されていない人など、不正が疑われるとの調査結果を発表した。さらに、署名が始まった時点で既に亡くなっていた約8千人分の名前も含まれていたというのだから、極めて悪質だ。これほどの大がかりな不正だけに、何らかの組織的な関与があったと見るのは当然だろう。

 関係者によると、名古屋市の広告関連会社が、事務局から請け負い、人材紹介会社を通じてアルバイトを雇ったとされる 。アルバイトは佐賀市内の貸会議室に集まり、事前に用意された愛知県民の名簿を基に、住所や氏名を書き写した疑いが持たれている。従事した人は、現場の担当者が大村知事を「悪い人」と説明し、業務の内容を口外しないとの誓約書にもサインさせたと証言している。

 自治体の首長のリコール請求は、地方自治が民意に基づき行われているか、任期途中であっても住民が監視する権利 を保障した制度といえ、地方自治法で規定されている。つまり民主主義の根幹をなす仕組みだ。

 不正の発覚を受け、高須氏は「明確に何の関係もない。そう信じている」と関与を否定する。事務局長も「発注も依頼もしていない」と話しているが、広告関連会社は運動事務局幹部の名前が記されたアルバイト募集に関する発注書を県警に提出している。捜査・調査の焦点は、誰が署名偽造を指示したのか、どこから金が支出されたのか、となろう。

 アルバイトを雇い、偽の署名を「大量生産」する行為は、地方自治、民主主義を守るための制度を台無しにしてしまう住民への背信行為だ。高須氏はじめ、署名集めの街頭に立った河村市長らは、事態の重大性をもっと深刻に受け止め、自らも積極的に調査し、説明責任を果たすことが求められている。警察任せの頬かむりは決して許されない。



愛知の署名偽造/リコール運動の裏で何が(2021年3月1日配信『神戸新聞』-「社説」)

 愛知県の大村秀章知事に対するリコール(解職請求)運動で、県選挙管理委員会に提出された署名約43万5千人分のうち、8割超に当たる36万2千人分が無効とされた。前代未聞の事態である。

 他人の名前を勝手に書くなど、偽造された疑いが濃厚という。人材紹介会社を通して、佐賀県でアルバイトが名簿から名前を書き写す作業に動員されたとの証言もある。愛知県議や県内の市議が名前を使われ、既に亡くなっている人も8千人分含まれるなど、耳を疑う話ばかりだ。

 署名の偽造は民主主義の根幹を揺るがしかねない大問題である。県選管は容疑者不詳のまま、地方自治法違反容疑で愛知県警に告発し、県警は関係者から事情聴取するなど強制捜査に乗りだした。全力を挙げて真相を解明しなければならない。

 リコール運動は、美容外科「高須クリニック」の高須克弥(かつや)院長が主導して、昨年8月から署名集めを始めた。河村たかし名古屋市長も支援し、11月に選管に名簿を提出した。

 現職知事の解職は、住民投票で賛否を問うことができる。愛知県の場合、同法の規定で約86万6千人分の署名を集める必要があるが、提出名簿はその半分ほどにとどまり、リコールは不成立に終わった。

 ただ、「不正な署名があった」との情報が寄せられ、不成立にもかかわらず選管が署名の真偽をチェックする、異例の展開になった。

 その結果、筆跡が同一とみられる例が次々に見つかり、最終的に無効と判定された署名の9割に達した。選挙人名簿に記載のない名前も4割を占め、組織的に大量の「水増し」が行われた疑いが強まっている。

 発端は、一昨年開催された芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、慰安婦をモチーフにした少女像や昭和天皇に関する映像作品などを高須氏らが問題視したことだった。実行委員会会長を務めた大村知事の対応を批判し、河村市長も賛同して解職請求の署名運動に発展した。

 地方自治のリコール制度は、有権者が首長などの責任を問う直接請求の一つで、間接民主主義を補う重要な仕組みだ。全国では、住民運動で疑惑を指摘された市長や議員らが辞職に追い込まれた例もある。

 それだけに、制度悪用は有権者に対する背信行為と言うしかない。高須氏や河村市長は不正への関与を否定するが、「自分たちも被害者」と言うだけでは説得力を欠く。自ら事実を明らかにするよう努め、県民への説明責任を果たすべきだ。

 捜査には時間がかかるだろうが、徹底的に調べてもらいたい。中途半端な幕引きでは、日本の地方自治の歴史に重大な汚点を残す。





人数の町(2021年2月28日配信『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 借金取りに追われる男が知らない男に助けられ、ある町に連れて行かれる。衣食住が満たされる町。住民に課される仕事はインターネットへの大量の書き込みと、投票所で指示された候補者に投票すること。

 昨年秋に公開された映画「人数の町」。主人公を演じるのは、人気俳優の中村倫也さんだ。住民にはネットへ書き込む内容の意味も、投票の目的も明かされない。彼らの知らないところで着々と進む多数派工作。住民は何も考えなければ楽に生きられるのだが…。

 この映画を地で行くような現実の話だ。愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る不正署名問題。佐賀市内で署名偽造のアルバイトをした20代の女性は、およそ600人分の氏名や住所を書き写した。「愛知のリコールの話とは思いもしなかった」という。

 書き写す名前を間違えても「気にしないで」と言われ、業務内容を口外しないとの誓約書にサインさせられた。さすがに変だと思っただろう。同県内の選挙管理委員会に提出された約43万5千人分の署名のうち8割を超える分に不正が疑われるという。8千人分は故人の名前だったというから驚く。

 このバイトの時給は900円で一般的な相場だ。だが求人アプリの「名簿の書き換え作業」の文言に違和感を覚えるべきだったというのは酷か。悪意なき人がいつの間にか「人数」の一人になっていた今回の件。映画と違うのは後味の悪さだけが残ることだ。





イーハトーブの署名活動(2021年2月27日配信『北海道新聞』-「卓上四季」)

 5年前の春のことだ。老舗百貨店の閉店の危機に高校生たちが立ち上がった。市民の憩いの場の大食堂だけでも残せないか。街頭やネットを通じた署名活動は3カ月で1万人近くを集めた。岩手県花巻市の「マルカン百貨店」のお話だ

▼「無責任な夢物語だ」。誹謗(ひぼう)や中傷もあった。それでも、「中心施設がなくなったら花巻はもっと寂れてしまう」と丁寧に訴えた危機感は、周囲の大人を動かす。地元の若手経営者が運営を引き継ぎ、資金集めに奔走。閉店の翌年大食堂は復活した(「マルカン大食堂の奇跡」双葉社)

キャプチャ

▼一人一人の思いが込められた署名には社会を動かす力がある。支援が広がったのも、高校生の真摯(しんし)な願いと地域を思う市民の行動にうそがなかったからだろう

▼大村秀章愛知県知事の解職請求運動の不正署名問題で、県警は地方自治法違反の疑いで捜査を始めた。名古屋市の広告関連会社が募集したアルバイトが佐賀で偽造した疑いがある。県選管は約8割の署名を疑問視していた

▼個人の政治的意志を捏造(ねつぞう)する暴挙であり、住民自治の根幹を揺るがす事態だ。徹底的究明と厳正な処罰は免れまい

▼知行合一を主張した王陽明は、行いは道徳的規範に合致しなければならず、心の不善をも克服する厳しさが求められると説いた。その実践を目指したのが宮沢賢治だ。「イーハトーブ」ゆかりの地に学ぶことも多い偽造事件である。



署名(2021年2月27日配信『愛媛新聞』-「地軸」)

 1795年に生まれ、首都ウィーンで公文書を筆写する小官吏。その名はオーストリア帝国の人々によく知られていた。警察も手を焼くほどに

▲建物や塔、遺跡、山頂の石、木、至る所に自分の名を書きまくったからだ。ピンとはねた美しい飾り書体で「J・キュゼラーク来たる」。雨でも流れないテンペラ絵の具やくぎを使って

▲ドナウ川にかかる新しい橋を渡り初めした皇帝の目に入ったのはくだんの署名。後日、王宮に呼ばれ、皇帝からねぎらいと、その筆を文書室で生かすよう言われたという。退出した部屋で警察は例に漏れず署名を見つけた

▲ドイツ文学者・エッセイストの故池内紀さんはこういった人物を多数紹介している。「読書の裏通り」で出会った歴史に埋もれた人々。偉人とは違った数奇な人生の魅力がある。キュゼラークの所業は現代では犯罪だろうが

▲今、署名が問題になっている。愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動で選挙管理委員会に提出された約43万5千人分の署名の8割以上が無効と判断された。そのうち9割が複数の人物が何人分も書いたとみられ、故人約8千人分も含まれていた

▲キュゼラークが署名魔になった理由は一説に失恋、一説に詩人になる夢の挫折が挙げられている。その人生の空白部分は想像する面白みがある。一方、不正署名問題はうやむやでは許されない。民主主義の制度を損ないかねない異常な事態である。



リコール署名偽造 全容解明し責任の追及を(2021年2月27日配信『熊本日日新聞』-「社説」)

 大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)運動を巡る不正署名問題で、名古屋市の広告関連会社が運動団体の指示でアルバイトを動員し、佐賀県内で大量の署名を偽造した疑いが浮上している。

 この問題では、昨年11月に愛知県選挙管理委員会に提出された約43万5千人分の署名の8割超に不正が疑われ、無効と判断されている。大規模な組織的不正だとすれば、民主主義の根幹を揺るがす前代未聞の事態だ。

 県選管の告発を受けた県警は、広告関連会社の社長から事情を聴くなどして、地方自治法違反の疑いで捜査を進めている。誰が何のために大量の偽造署名を指示したのか、全容を明らかにし、責任を追及してほしい。

 リコール運動は、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で昭和天皇に関する映像作品などの展示を巡る大村知事の対応を問題視した美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が主導し、名古屋市の河村たかし市長が支援した。結局、署名は解職の賛否を問う住民投票実施に必要な法定数に遠く届かなかったが、低調な運動への危機感から水増しに走ったのではないかとの見方も出ている。

 運動参加者の一部から不正署名が多数あるとの情報が寄せられ、県選管は昨年12月から調査。同一人物による署名と疑われるものに加え、選挙人名簿に登録されていない人や死亡者の署名も多いことが分かった。複数の愛知県議や県内の市議らが「無断で名前を書かれた」と証言しており、弥富市議5人が名古屋地検に刑事告訴する事態にもなっている。

 広告関連会社の幹部は、運動事務局の指示だったと周囲に説明している。これに対し、高須氏と田中孝博事務局長は22日の記者会見で、偽造への事務局の関与はないと明言。高須氏は「何者かが運動を妨害するために偽の署名を紛れ込ませた」などとして告発状を名古屋地検に提出した。

 署名の8割超に不正があったことに、運動の責任者として気づかなかったのだろうか。疑惑を晴らしたいのであれば、県警の捜査に全面協力すべきだ。

 運動団体はクラウドファンディングで約4千万円の運動資金を集めたとされている。アルバイトの報酬に使われていないかなど、資金の使途も明らかにしてほしい。

 河村市長も関与を否定しているが、自身の事務所で管理している約3万人分の名簿を事務局に提供するなど、影響力のある公職者の立場で積極的に運動を支援している。市民が納得いく説明責任を果たす必要がある。

 大量の偽造署名は、住民の意思で地方自治体の首長を解職できるという直接民主制への信頼を失墜させかねない重大な事案だ。真相がうやむやになれば、リコール制度自体に汚点を残しかねない。

 組織的関与があった可能性は高く、今後は県警の捜査が焦点になる。悪質な違法行為の再発を防ぐためにも、徹底した捜査で責任の所在を明確にしてもらいたい。



[愛知リコール不正] 署名の「捏造」解明急げ(2021年2月27日配信『沖縄タイムス』-「社説」)

 住民による直接請求制度の根幹を揺るがし、民主主義をないがしろにする異常事態である。

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡り、提出された署名が大量に偽造された疑いが持たれる問題は、県選挙管理委員会が地方自治法違反容疑で刑事告発する事態となった。

 県選管の調査によると、提出された約43万5千人分の署名のうち、8割超に当たる約36万2千人分が無効と判断された。極めて悪質だ。

 そのうち約90%は、複数の人が何人分も書いたとみられる筆跡だった。署名集めが始まった時点で、既に亡くなっていた人の署名も約8千人分含まれている。署名集めを担う「受任者」に、故人がなっている事例もあったという。

 おそらく古い名簿などを基に書き写したと想定される。不正の規模からみて組織的な動きがあった可能性が高い。誰が指示し、何のために、どのようにして行ったのか。

 リコール運動は、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」での昭和天皇に関する映像作品などの展示について、実行委員会会長を務めた大村知事の対応を問題視したものだ。

 美容外科「高須クリニック」院長の高須克弥氏が主導し、河村たかし名古屋市長も支援した。

 両氏とも不正への関わりを否定している。だが、たとえ知らなかったとしても道義的責任は免れない。運動に関わった当事者としての自覚を持ち、率先して捜査に協力してもらいたい。

■    ■

 署名活動を巡っては、名古屋市の広告関連会社が運動事務局の指示でアルバイトを集め、昨年10月に佐賀市内で他人の氏名や住所を書かせた疑いがあることが浮上した。

 アルバイトに応じた女性が共同通信の取材に証言した。用意された名簿を基に、愛知県民約600人分の氏名や住所を署名簿に書き写したという。50人以上が集まっていた。担当者は、業務内容を口外しないとの誓約書にもサインさせていたという。

 金銭を払って署名が書き写されていたとすれば、民意の捏(ねつ)造(ぞう)に他ならない。

 運動事務局の事務局長は「発注も依頼もしていない」と関与を否定するが、関係者によると、広告関連会社は人件費などで約1500万円支出したとされる。

 会社側はアルバイト募集に関する発注書を県警へ提出している。資金の流れの解明を急いでほしい。

■    ■

 地方自治体の首長らを解職できるリコール制度は、住民直接参加の制度として認められているものの、一定数の署名が必要と法律で定められている。選挙によって選ばれた人を解職するのは、それだけの重みがあるということだ。

 社会問題や政策へ民意を示す一般的な署名活動も、ルールにのっとることが前提となる。

 今回の「不正」は、まっとうな署名活動にも不信感を与えかねない卑劣な行為だ。徹底的な捜査で真相を追及し、責任の所在を明らかにしてもらいたい。





愛知リコール強制捜査 組織的関与の疑惑解明を(2021年2月26日配信『毎日新聞』-「社説」)

 悪質かつ大規模な、民主主義への挑戦に等しい行為だ。徹底した解明が必要である。

 愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)を巡る不正署名問題で、愛知県警が強制捜査に着手した。家宅捜索を行い、各選管にあった署名簿を押収した。

 署名集めは、美容外科院長の高須克弥氏を運動団体の会長として昨秋に行われた。約43万人分のうち約8割が無効と判明した。そのうち約9割は、同じ人が何回も書いたとみられる。

 異様な事実が、次々と明らかになっている。なかには約8000人分もの亡くなった人の「署名」が含まれていた。

 しかも、関係者によると、名古屋市の広告関連会社が下請け会社を通じてアルバイトを募集し、佐賀県にある会議室に集め、署名簿に他人の名前を書かせていたという。金銭を介して名簿を偽造したとすれば、言語道断だ。

 業者が仲介したのであれば相当の経費が必要であり、何者かが仕組んだ組織的な偽造とみることが自然だ。だれが指揮をし、資金を提供したのか。

 署名は、大村氏と敵対する河村たかし名古屋市長が全面支援した。河村氏は過去に自らが主導した市議会解散請求で署名集めを担った「受任者」の名簿を、今回の運動団体に貸与していた。

 偽造にあたっては、何らかの名簿が原本に使われた可能性がある。どのような経緯で何の書類が悪用されたかも解明すべきだ。

 リコール運動に限らず、署名活動は民意や意見を示す手段として、幅広く用いられる。今回の不正はこうした活動全般への信頼に傷をつけかねない。

 にもかかわらず、高須氏や河村氏の言動は、混乱を招いた責任を感じているようにみえない。

 高須氏や団体事務局幹部は不正への関与を否定している。だが、

疑惑が指摘されてからも、徹底した実態調査をしてこなかった。名簿の管理方法などを、もっと具体的に説明すべきだ。

 河村氏も「僕も被害者」と語るなど、まるで人ごとのような言いぶりだ。過去の名簿類まで貸して協力した以上、まぎれもない当事者だ。署名が混乱を生んだ政治的責任を自覚しなければならない。





【愛知署名偽造】不正の構図の徹底解明を(2021年2月25日配信『高知新聞』-「社説」)

 住民が地方行政を監視することは大切であり、リコール(解職請求)は有権者の意思を直接行政に反映させる手段となる。ただし、厳格に行われ、公正性が維持されなければ大きな混乱を招いてしまう。

 愛知県の大村秀章知事のリコール運動を巡る署名偽造問題で、愛知県警は地方自治法違反の疑いで強制捜査に乗り出した。県内の各市区町村の選挙管理委員会を家宅捜索し、運動事務局が選管に提出した署名簿の押収を始めた。

 不正は許されない。間接民主制を補完する直接請求制度の根幹を揺るがす事態であり、事実関係の徹底解明を期待する。

 リコール運動は、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で展示された昭和天皇に関する映像作品などを美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が問題視し、実行委員会会長を務めた大村氏の責任を問うとして主導した。名古屋市の河村たかし市長も支援した。

 各選管に提出した署名は約43万5千人分で、住民投票実施に必要な法定数の半分ほどにとどまった。高須氏は健康悪化を理由に運動の終了を表明している。

 県選管の調査では、提出された署名の8割超が無効と判断されている。その多さにまず驚く。そのうち9割ほどが、複数の人物が何人分も書いたとみられる筆跡だった。既に亡くなった人の署名も約8千人分あり、署名集めを担う「受任者」になっている事例もあるというから、随分と荒っぽい対応だ。

 署名数が法定数を下回った場合、通常は選管による署名の審査は行われない。しかし、不正があったとの指摘を受けて調査に乗り出し、その結果に基づいて県選管が県警に告発した。制度の根幹に関わる問題であり、再発防止の観点からもこうした姿勢は重要だ。

 リコール運動を巡り、名古屋市の広告関連会社が事務局の指示でアルバイトを募集し、佐賀県内で他人の氏名や住所を書かせたとの疑惑が浮上している。数百万円で請け負ったとの報道もある。誰がどういう指示系統で行ったかを明確にする必要がある。

 バイトの動員は、運動が実施期限を迎える時期に当たるようだ。署名が低調だったため水増ししたとみられる。署名審査が行われないとの判断から、実績誇示へ膨らませたとの見方もある。高須氏、河村氏らは関与を否定している。

 リコール制度は、地方自治が民意に基づいて運営されるよう、有権者が直接権利を行使する。もちろん無条件に権利行使できるわけではなく、多数の住民の意思に基づいて請求されるものだ。それを偽造するなどあってはならない。

 この制度を巡っては、署名の必要数や収集期間、住民投票の成立要件などさまざまな論点がある。議論を重ねて、制度をより良いものにしていかねばならない。不正は制度の否定であり、民主主義の根幹を揺るがせてしまう。





民意を捏造((2021年2月23日配信『しんぶん赤旗』ー「潮流」)

 労働者に選挙権を。19世紀前半のイギリスで起きたチャーティスト運動は最初の組織的な労働運動といわれます。選挙の民主化を要求した人民憲章(ピープルズ・チャーター)を掲げたことから、そう呼ばれました

▼10時間労働制の実現にもつながった全国的な大運動。それを支えたのは数百万人の名が連なった請願書でした。今の署名運動のはしりです。日本では明治期の国会開設運動がその始まりといいます

▼戦後の原水爆禁止運動をはじめ、さまざまな問題に草の根の意見を反映させるために集めてきた署名。たゆまぬ地道な努力は、主権者である国民の意識とともに政治や社会に変化をもたらしてきました

▼8割をこす署名が無効―。愛知県知事のリコール運動で大量の不正署名が見つかりました。大村知事は「民主主義の根幹を揺るがす由々しき事態だ」として、関係者に説明責任を果たすよう求めています

▼遠く佐賀で雇った100人近いアルバイトがひたすら赤の他人の名前や住所を書き写す。関係者の証言からは組織的な不正がうかがえます。もともとリコールは高須クリニック院長や河村たかし名古屋市長が扇動。芸術祭で自分たちの気にいらない展示を認めたから解職するという、本来の趣旨にも反したものです。ところが河村市長は謝るどころか「ぼくも被害者」と責任逃れ

▼民意を捏造(ねつぞう)してまで我を押し通す。他人になりすまして投票するに等しい悪質さ。ひと筆にみずからの意思を込める署名運動さえおとしめた罪は深い。





日本の「自治」の歴史に泥を塗る愚行の張本人はさて誰か(2021年2月20日配信『毎日新聞』-「余録」)

 「一味神水(いちみじんすい)」とは中世の郷村で一揆の団結のために行った誓約の儀式である。誓いを破れば恐ろしい神罰が下ると書かれた誓紙に参加者が署名をして燃やす。その灰を神前に供えた水に入れ、一同回し飲みした

▲神罰を意識しての署名の儀式はおどろおどろしいものがあったろう。村落の要求の実現をめざす一致団結は日本の住民自治の原形といえようか。江戸時代の百姓一揆では首謀者が分からないよう署名を円形に連ねた連判状が作られた

▲さいわい命がけで名を記した昔とは違う今日の地方自治だが、住民個々の意思を示す署名が神聖なものであるのは今昔変わりない。その住民の署名が、時給950円の報酬を受けたアルバイトにより大量偽造された仰天の事件である

▲大村秀章(おおむら・ひであき)愛知県知事の解職請求(リコール)で不正署名が大量に見つかったこの事件だ。美術展への知事の対応をめぐり医師の高須克弥(たかす・かつや)氏が主導した同リコールでは署名の8割以上が県選管に無効とされ、大半が偽造署名とみられた

▲すでに県選管は地方自治法違反の疑いで県警に刑事告発した。驚くことに、大量の署名偽造は名古屋の広告関連会社が募集したアルバイトにより佐賀市で行われていたらしい。バイト募集はリコール事務局の依頼によると同社はいう

▲高須氏や、共にリコールを主導した河村(かわむら)たかし名古屋市長は不正への関与を否定しているが、まずは自ら真相を調べて住民に報告すべきである。日本の「自治」の歴史に泥を塗る愚行の張本人はさて誰か。



総務省接待 事実を公表して疑惑に答えよ(2021年2月20日配信『読売新聞』-「社説」)

 政治家の家族を特別扱いして接待に応じたのであれば、行政に対する国民の信頼は失われる。総務省は真摯しんしな姿勢で事実関係を解明すべきだ。

 総務省の谷脇康彦総務審議官ら幹部4人が、放送関連会社に勤める菅首相の長男から接待を受けていたことが明らかになった。

 武田総務相は、秋本芳徳情報流通行政局長ら2人を事実上更迭した。政府は近く調査結果を公表し、関係者を処分する方針だ。

 国家公務員倫理法に基づく倫理規程は、利害関係者からの接待や金品の贈与を禁じている。厳正に対処せねばならない。

 総務省によると、4人は2016年から延べ12回、長男が勤務する東北新社から接待を受けた。タクシーチケットや贈答品を受け取ったこともあったという。

 民間の事業に関して強い権限を行使する公務員が、利害関係がある業者と適切な距離を保たなければならないのは当然である。総務省は、会食した経緯などを詳しく調べてもらいたい。

 秋本氏は19日の衆院予算委員会で、長男について「利害関係者ではないと思い込んでいた。認識に甘さがあった」と語った。

 放送事業を巡る意見交換があったのではないかと野党が追及したのに対し、秋本氏は「話題に上った記憶はない」と述べていた。だが、詳細な発言内容を週刊誌が報じると、一転して認めた。

 東北新社は総務省が許認可権を持つ衛星放送を手がけており、利害関係があるのは自明だろう。虚偽の国会答弁や曖昧な説明で、問題を矮(わい)小(しょう)化しようとしたのであれば、看過できない。

 度重なる接待を通じて、東北新社が手がける業務に有利な取り計らいがされた事実はなかったか。処分するだけでなく、国会できちんと説明することが重要だ。

 首相が長男について「完全に別人格だ」と述べ、総務省と長男個人の問題だという認識を強調しているのは腑ふに落ちない。

 長男は首相が総務相の時に秘書官を務め、その後、東北新社に就職している。政府の要職にある以上、自らの影響力が及ぶ行政分野に、家族を関与させないように律するのが筋である。

 世襲政治を厳しく批判してきた首相が、人ごとのような対応に終始し、身内に甘い姿勢をとれば、国民の理解は得られまい。

 首相の身内が関わる問題だからといって官僚が事実を隠すことは許されない。首相は誠実に対処し、疑念を払(ふっ)拭(しょく)する必要がある。





リコール不正 到底納得できぬ説明だ(2021年2月19日配信『東京新聞』-「社説」)

 愛知県知事へのリコール運動で多数のアルバイトが署名を偽造していたことが明るみに出た。組織的不正も疑われる由々しき事態だが、運動を主導した3氏の説明は到底納得できるものではない。

 名古屋市の広告関連会社からリコール(解職請求)関連のはがき配布を請け負った下請け会社が、佐賀市内の貸会議室でアルバイトを動員し、愛知県民の名前や住所が掲載された名簿をリコール活動団体の署名簿に書き写す作業をさせたという。

 問題の署名は議会請願署名などと違い、地方自治法に基づき民意によって不適格な公職者を解職できるリコール成立の要件である。

 愛知県選管に提出された署名約43万5千筆のうち約83%に無効の疑いがある。同選管は、偽造の可能性がある署名提出について地方自治法違反の疑いで、同県警に容疑者不詳で刑事告発した。

 金銭を使ったリコール署名偽造事件となれば前代未聞である。他人になりすまして投票するのと同じくらい悪質であり、民主主義の根幹を揺るがす不正だ。捜査機関は断固として事実を究明し、違法行為の責任を追及してほしい。

 活動団体関係者から署名書き写しを依頼されたとする下請け会社と、関与を否定する団体事務局の言い分が食い違うなど、不可解な部分が多い。活動団体の田中孝博事務局長は記者会見で、佐賀での署名書き写しについて「(何者かが)妨害で紛れ込ませる意図があったと確信している」と述べたが、その根拠は示せなかった。

 運動を主導した美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長や田中氏がなすべきは、この異様な事態の迅速かつ完全な調査である。活動団体はクラウドファンディングで約4千万円を集めたともいう。アルバイトの報酬に使われていないかなど、その使途を含め、調査結果を透明性をもって公開することが社会的責任であろう。

 街頭活動などで運動を支援した河村たかし名古屋市長も説明責任を果たしているとは言い難い。18日に開会した市議会2月定例会で新年度予算案などについて提案説明したが、リコール不正にひと言も触れず、議員から「極めて遺憾だ」と批判を浴びた。

 議会終了後、市長は記者団に「説明責任は尽くす。提案説明で言うのは場違いだと思った」と釈明した。影響力の大きい公職者だけに、市民の民主的権利を傷つけた不正の全容解明に向け、当事者意識をもって対応すべきである。



伊勢参りの喜六、清八が大坂から…(2021年2月19日配信『山陽新聞』-「滴一滴」)

 伊勢参りの喜六、清八が大坂からの道中、飯屋に寄って、酒を注文する。この村には「むらさめ」「にわさめ」「じきさめ」という3種類の銘酒がある、と店のおやじは言う

▼上方落語の「煮売屋」である。村を出るとさめるのが「むらさめ」、庭に出たらさめるのが「にわさめ」、飲んでいるそばからさめるのが「じきさめ」だ、と

▼あきれた清八が「酒の中にぎょうさん、水を混ぜるんやろ」と追及するが、おやじは負けていない。「いいや、水の中に酒を混ぜます」

▼これは「じきさめ」並みの水増しだろうか。愛知県の大村秀章知事のリコールに向け、選挙管理委員会に提出された約43万5千人分の署名のうち、83・2%が無効とされた問題だ

▼そもそも、署名は住民投票の実施に必要な数の半分ほどにとどまった。広告関連会社が多くのアルバイトを集めて、偽の名前を書き込ませた疑いも明らかになった。県選管が刑事告発しており、速やかな事実関係の解明が望まれる

▼リコールを主導したメンバーは不正への関与を否定し、支援した名古屋市の河村たかし市長は「私も被害者」と訴えた。ならば、自ら謎を解く努力も必要だろう。リコール制度の根幹をゆがめる問題であり、愛知県民でなくても無関心ではいられない。世の関心は「じきにさめる」と高をくくっているとしたら甘い。





醜態を演じている(2021年2月18日配信『日本経済新聞』ー「春秋」)

 社会党からは浅沼稲次郎が駆けつけてきた。防戦に必死の自民党が送り込んだのは大野伴睦、石井光次郎という大物だ。1957年暮れ、福岡県は革新系の団体が起こした知事リコールに揺れた。解職賛成、反対両派の争いは過熱し、応援団が続々やってきたのである。

▼年明けに提出された署名は87万余。当時の法定数を超えていたものの、無効分を差し引くとそこには届かず、結局リコールは不成立に終わった。さて、時はずいぶん流れたが、都道府県知事の解職請求成立のケースは一件もない。厳密な手続きのもと、膨大な数の署名を集めなければならないからハードルが実は高いのだ。

▼愛知県の大村秀章知事のリコールを求めた運動は、その壁に挑んだ……のだろうが、中身はあきれた代物だったようである。約43万の署名のうち8割強に不正があったことがわかり、警察が捜査を始めた。広告関連会社がアルバイトを募集し、偽の署名を大量に書かせていた疑いも浮上している。インチキにもほどがある。

▼運動を担った面々は不正への関与を否定し、応援団の強力メンバーだった河村たかし名古屋市長も自らは被害者だと嘆く。だれがどうやってこれほどの犯行に及んだのか、捜査を徹底してもらいたい。かの福岡県の騒動は、戦後10年あまりの時期の話だ。成熟したはずのこの社会が、それどころではない醜態を演じている。



歌手の美空ひばりさんはサインをあまりしない人だったそうだ。…(2021年2月18日配信『東京新聞』-「筆洗」)

 歌手の美空ひばりさんはサインをあまりしない人だったそうだ。ひばり映画を撮影している時、助監督はそのサイン嫌いに泣かされた

▼ロケ先でお世話になった人や役所の観光課、宿泊先の旅館などから大量のひばりさんのサインを頼まれる。むげに断ることもできない。どうしたか。ひばりさんに一枚だけ色紙を書いてもらう。それを手本に助監督全員で色紙に書き写していたそうだ。山田洋次監督の下で助監督を長く務めた鈴木敏夫さんが先輩から聞いた話として書いていた

▼今なら笑い話だろうが、こちらの悪質な偽造には青ざめる。愛知県知事へのリコール(解職請求)運動をめぐる不正署名問題である

▼解職請求に必要な署名簿を不心得者がアルバイトを動員して、偽造していたという。愛知県民の名と住所のある名簿を手に入れ、引き写させていたらしい。署名簿に偽造署名があることは以前から指摘され、名前を勝手に使われたとの声も出ていたが、こんな「からくり」があったのか

▼リコールは住民の意思を確かめる手続きで、その署名を偽造することは住民の心を偽造することに他なるまい。選挙でいえば自分の投票用紙が使われ、支持していない候補に一票を勝手に投じられたようなものである

▼民主主義のルールを揺るがしかねない偽造と、それに手を染めた曲がった心を思えば、今宵(こよい)は「悲しい酒」となる。





愛知のリコール不正 許されぬ、卑劣な行為だ(2021年2月10日配信『中国新聞』-「社説」)

 民主主義と地方自治制度を揺るがす悪質な行為が明らかとなった。愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡り、選挙管理委員会に提出された署名約43万人分のうち、実に83%が不正なものであり、無効と判断されたのだ。

 36万2千人分にも上る規模から見て、組織的な不正に違いあるまい。事態を重く見た県選管が地方自治法違反容疑で刑事告発を検討しているのも当然だ。経緯や意図などを明らかにし、厳しく罰さねばならない。

 署名には住所や名前、生年月日に加え、押印もしくは指印が要る。県選管の調査によると、無効と判断した署名の約9割が同一の筆跡とみられ、半数近くは選挙人名簿に登録されていない人の署名だった。既に亡くなった人の名前も含まれていた。信じ難い内容の不正である。

 古い選挙人名簿や各種団体の名簿を悪用した可能性がある。取りまとめ役の指示による組織的な偽造が疑われる。

 リコール運動は昨年8月、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が呼び掛けた。芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の展示作品などに不満を持ち、大村知事の対応を批判していた。さらに名古屋市の河村たかし市長も運動に加わった。

 大村知事解職の賛否を問う住民投票の実施には、約86万6千人分の署名が必要であり、当初から難しいのではないかという見方が強かった。

 11月、県内の各選管に署名を提出した高須氏は、その時点で「感触では80万以上は集まったと思う」と述べていた。しかし実際には署名は約43万5千人分で、必要な法定数の半分ほどにとどまった。しかも、そのほとんどが不正な署名だと今回判断されたのである。

 不正の狙いについて専門家は「リコール運動が支持を集めたと誇示するために水増ししたのではないか」と分析する。一定の成果があったと印象づけて、知事への圧力を強める意図とすれば、脅迫まがいの行為ともいえる。

 名前を無断で署名に使われたとして、同県弥富市の市議5人が容疑者不詳の告訴状をすでに名古屋地検に送っている。署名には別人の指印が押されていたという。5人のうち1人は署名集めを担う「受任者」としても記載され、複数人の署名を集めたことになっていた。

 「民意の偽造」ともいうべき悪質な行為である。警察の捜査に委ねるしかあるまい。

 リコール運動を主導した高須氏は、「不正の指示や黙認をしたことはない」と関与を否定。一方、不正が判明した調査結果には「選管があら探しをした結果だ」と述べる。また、河村氏は「私も被害者だ」などと主張している。

 何者かが勝手に不正を働いたのであり、自分に責任はないと言いたいのだろう。とはいえ、運動の主導者として、少なくとも道義的責任は自覚すべきではないか。誰が、なぜ不正をしたのか。実態を解明する責任もあるはずだ。

 地方自治法は署名の偽造に、3年以下の懲役などの罰則を設ける。直接請求制度の一つであるリコールは住民の権利で、重い意義を持つためだ。それを軽んじた今回の不正は極めて卑劣であり、許してはならない。





リコールの不正 地方自治の根幹を損なう(2021年2月9日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 県知事の解職を求めて提出された署名の8割以上に偽造の疑いがあるという。地方自治の重要な柱である直接請求の制度を根幹から揺るがす行為だ。

 愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)を目指した署名である。県選挙管理委員会は、提出されていた署名43万5千人余の83%にあたる36万2千人分以上を無効と判断した。

 そのおよそ9割は、本人ではない人物がいくつも名前を書いた疑いがある。明らかに同じ筆跡の署名が次から次に出てきたと関係者は証言している。しかも、不正な署名の半分近くは、選挙人名簿に登録されていない人だった。

 既に亡くなっている人の名前もあり、古い選挙人名簿や各種団体の名簿が悪用された可能性が指摘されている。組織的な指示や関与があった疑いが拭えない。

 発端は、一昨年に開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」だ。企画展の作品を問題視した美容外科院長の高須克弥氏らが、実行委員会の会長だった大村知事のリコール運動を起こした。

 リコールは、地方自治法が定める住民の直接請求制度の一つだ。公務員の選定・罷免を国民固有の権利とする憲法の理念に基づき、一定数の署名を集めて請求すれば住民投票で解職の是非を問える。首長と議員の二元代表制を補完し、住民の意思を地方自治に反映させる仕組みである。

 署名の偽造は、3年以下の懲役か禁錮または50万円以下の罰金が科される。公選法が定める投票の偽造の罰則と同様であることも、制度の重みを表す。県選管が刑事告発を検討しているほか、県内の市議らは既に、勝手に名前を書かれたとして地検に告訴した。

 署名は法定数の86万6千人余に達せず、解職の請求は成立しなかった。だからといって、うやむやにするわけにいかない。事実を徹底して洗い出し、厳しく責任を問わなければならない。

 高須氏は、不正を指示したり、黙認したりはしていないと関与を否定する一方、なぜこれほどの不正が生じたのかを調べる姿勢は見せていない。署名活動への「妨害だった」などと根拠もなく述べるのは責任逃れとしか映らない。

 名古屋市の河村たかし市長や大阪府の吉村洋文知事は、同調した責任を免れない。とりわけ、企画展をめぐって大村知事と対立した河村氏は、何度も街頭演説に立って署名集めを全面支援した。「僕は被害者だ」と頬かむりして済ますことはできない。







愛知リコール署名不正 まずは実態解明の徹底だ(2021年2月8日配信『毎日新聞』-「社説」)

 住民による直接請求制度への信頼を揺るがしかねない深刻な事態である。

 愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)を目指した運動で、提出された署名の約8割が無効とみられる不正が判明した。

 事実とすれば、民意の大規模な偽造と言える行為だ。県選挙管理委員会は、刑事告発も含めた対応を検討している。

 リコール署名活動は、大村知事の解職を求めて行われ、美容外科院長の高須克弥氏が代表を務めた。解職の是非を問う住民投票を行うためには、約87万人の署名が必要だった。提出は約43万人分にとどまったため、リコール自体は不成立だった。

 だが、署名に不正があったとの情報があり、県選管が調査した。その結果、署名の83%の36万人分が無効とみられると判断した。筆跡などから同じ人が何回も書いた疑いのある署名が、そのうち約9割に達した。選挙人名簿に登録のない署名も大量にみつかった。

 署名活動は、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展を巡る大村知事の対応を問題視した。知事と対立している河村たかし名古屋市長も全面支援した。

 リコールは、首長と地方議員を住民が直接選ぶ二元代表制を補完するものだ。一定の署名があれば、住民投票で解職や議会解散の是非が判断される。総務省によると、130回以上の投票実施例がある。不成立に終わったとはいえ、こんな不正が繰り返されれば、制度への不信感を広げかねない。

 高須氏は記者会見で「(不正を)指示も、黙認したこともない」と関与を全面的に否定している。運動の進め方などをさらに点検し、説明すべきだ。河村氏も、署名を後押ししてきた責任をもっと自覚する必要がある。

 地方自治法は署名の偽造に罰則を設けている。県選管が刑事告発した場合、捜査当局が実態解明に乗り出すことになる。

 今回の事態に関し、なりすまし署名を防ぐ対策など、制度面の見直しを求める声も聞かれる。

 ただし、長年のリコールの実績に照らしても、特殊なケースだ。誰がなぜ、どのように不正に関与したのか。まずは、徹底的な原因究明が必要だ。



許されぬリコール署名の不正(2021年2月8日配信『日本経済新聞』ー「社説」)

 愛知県に提出された大村秀章知事の解職請求(リコール)の署名の83%に無効の疑いがあると県選挙管理委員会が発表した。地方自治制度への信頼を揺るがしかねない異例の事態だ。警察による徹底的な捜査を求めたい。

 リコールは、住民の一定数の署名が集まった場合、自治体の首長の解職や地方議会の解散を問う住民投票を実施する仕組みだ。

 今回の署名運動は、2019年に開催された芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展への知事の対応を批判する勢力が展開した。住民投票をするには約87万筆の署名が必要だが、提出は約43万筆にとどまった。

 県選管が署名簿の記載の確認をしたところ、選挙人名簿にない氏名が多数みつかったほか、同一の筆跡で何人分も書いたとおぼしき署名もあったという。

 住民でない人が街頭で呼び掛けられてルールをよく知らずに署名することはままある。だが、これほど大規模な無効は前例がない。知事への批判を実態よりも過大にみせるため、署名を水増ししたと疑われても仕方あるまい。

 署名を呼び掛けた企業経営者は組織ぐるみの不正の可能性について「指示も、黙認したこともない」と否定している。このまま水掛け論を続けるよりも、捜査当局の手に委ねるべきである。地方自治法は、署名の偽造や毀損があった場合、最大で「3年以下の懲役」に処すとしている。

 選挙で信任を得た首長が就任後に暴走することがないとは言い切れない。リコールは、それに歯止めをかける重要なツールだが、民意を改めて問うからには、そうそう簡単に発動するものでもない。だから、署名集めという高いハードルを設けているのだ。

 今回のような事態を放置すれば、面白半分に署名運動をして世の中を騒がせる人が次々と出てこないともかぎらない。将来のリコール運動がすべて白眼視されるようになっては困る。きちんと白黒をつけてほしい。



リコール不正 誰が、なぜ、を究明せよ(2021年2月3日配信『中日新聞』-「社説」)

 愛知県で民主主義の根幹を揺るがす事態が明らかになった。知事のリコールを求めた署名の8割余に無効の可能性があるという。県選挙管理委員会などは事実関係の徹底究明に全力を挙げるべきだ。

 同県選管は、「高須クリニック」の高須克弥院長らが大村秀章愛知県知事のリコールに向け提出した署名の約83%に不正が疑われるとの調査結果を公表。地方自治法違反での刑事告発も検討する。

 リコールは同法で定められた直接請求制度の一つである。原則として有権者の3分の1以上の請求で、知事ら公職者の解職を求めることができる有権者にとって強力かつ重要な権能である。

 それだけに、署名の大半に不正が疑われることは前代未聞であり、断じてあってはならない。大村知事が会見で「民主主義の根幹を揺るがす由々しき事態だ」と厳しく批判したのはもっともだ。

 県選管の調査によると、県内64の選管に提出された約43万5千人分の署名(住民投票実施に必要な法定数は約86万6千人)のうち約36万2千人分が無効と判断された。一筆の署名に複数の不正が確認されたケースが多く、複数の人が何筆も書いたと疑われる署名が全体の9割もあるほか、選挙人名簿に登録されていない者の署名も5割近くあった。

 民主主義の基本は公平な選挙である。それを補完するのが、住民投票で公職者を解職することもできるリコールだと言える。

 今回の不正は、こうした民主的な制度を愚弄(ぐろう)するものである。県選管などの調査にリコールを推し進めた側が協力すべきであるのはもちろん、告発がなされた場合に捜査機関は、誰がなぜこのような大掛かりな不正をしたか、全容解明に全力を挙げてほしい。

 地方自治法は署名の偽造に3年以下の懲役などを科すと定める。公選法による不正投票の罰則と同じであるのは、民主主義を守るうえでリコールに選挙と同等の価値を置くからであろう。

 リコールは、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で展示された昭和天皇に関する映像作品などを巡る大村知事の対応を問題視して高須院長が主導した。

 展示をめぐり大村知事と対立してきた名古屋市の河村たかし市長は高須院長と街頭演説をするなど強く支援した。河村市長は自身や事務所の関与について「全くない」と否定したが、市議会2月定例会での追及は必至だ。しっかりと説明責任を果たすべきである。






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