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(論)着床前診断(2021年2月14日・3月9日)

着床前診断拡大 「命の選別」の懸念拭えぬ(2021年3月9日配信『新潟日報』-「社説」)

 病気が遺伝したらと不安に思う親の気持ちは分かる。だが、「生命の選別」につながる懸念も拭えない。学会でも反対論があることを踏まえれば、慎重に議論すべきだ。

 重い遺伝性の病気が子どもに伝わらないように受精卵を選別する検査「着床前診断」を巡り、日本産科婦人科学会(日産婦)が検査対象疾患を拡大する最終案を示した。

 着床前診断は、体外受精によってできた受精卵から一部の細胞を取り出し、染色体や遺伝子を調べる検査だ。正常だった受精卵を選んで子宮に戻し、出産につなげる。

 日産婦はこれまで、検査の対象を成人になるまでに命が危ぶまれる重い疾患に限り、承認してきた。

 2015年まで、筋肉が次第に低下する遺伝性の「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」など計125件の実施を認めた。いずれも日産婦が1件ずつ審査に当たってきた。

 最終案は、現時点で有効な治療法がなかったり、負担の大きな治療が必要とされたりするといった条件に緩和された。

 重い遺伝性疾患の定義も見直し、「成人に達する以前に日常生活を著しく損なう状態」のうち「成人に達する以前に」との年齢条件を削除した。

 診断の対象拡大の議論は、19年に遺伝性の目のがん「網膜芽細胞腫」の患者が申請したことがきっかけだ。この病気は、命への危険はないものの、失明や眼球摘出の恐れがある。

 こうした例について、申請を認めるかどうか意見が分かれ、日産婦は計3回の審議会で対象拡大の提案に踏み切った。

 これに対し、日本神経学会は年齢条件の削除に反対を表明した。今は有効な治療法がなくても、将来的には治療可能になるかもしれないとした上で「当事者の人権に関わる深刻な問題だ」と指摘した。

 対象の拡大が、当該の病気や障害がある人の命を否定するかのような考えにつながりかねないと見ているからだ。重く受け止めるべき指摘だろう。

 日産婦は、審査の在り方も見直す方針で、検査実施の可否は当該の医療機関が開く倫理委員会で判断する案を示した。日産婦は意見書をまとめ、担当医に提出するにとどめる。

 審議会では「医療機関によって判断に差が出るのではないか」といった疑問も示された。倫理委に専門家を配置できないケースも考えられる。

 日産婦は今後、関連する学会や患者会などの意見を聞いた上で、正式に対応を決める方針だ。懸念を残したまま、拡大ありきで突き進んではならない。

 着床前診断を巡っては、ダウン症などの染色体異常が分かるようになった。これについても命の選別になる懸念がある。

 不妊治療の一つである体外受精は、妊娠、出産の高齢化を背景に増加している。

 生命倫理の問題について関連学会が議論を深め、最終方針をまとめてほしい。





着床前診断拡大 社会が追いついているか(2021年2月14日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 重い病気が子に遺伝しないよう、体外受精した受精卵の遺伝子などを調べる「着床前診断」について、日本産科婦人科学会が対象の拡大案を示した。

 健康な子を望む夫婦の願いがかなえられるとの考え方がある一方で、「命の選別」につながりかねないとの指摘がある技術だ。

 昨年1月から開いた計3回の審議は終了したが、反対意見も出ていた。学会は今後、関連する学会や患者団体の意見を聞いた上で最終報告をまとめる方針だ。

 歯止めは利くのか。生命の根幹に関わる技術の進歩とどう向き合うか。社会全体で考えるべき問題なのに、関心が十分に高まっているとは言えない。

 審議は公開で行われ、医学に限らず人文社会科学の分野からも意見を聞くなど、学会も工夫してきた。当初予定していた審議回数が終わったからと結論を急ぐことなく、慎重に対応してほしい。

 着床前診断はこれまで、成人になる前に日常生活を著しく損なう状態になったり、命が危ぶまれたりする遺伝病を対象に、学会が1例ずつ審査して認めてきた。

 案では、対象疾患を「現時点で有効な治療法がない」といった条件に拡大したほか、成人後に発症するケースも含めるとした。

 日本神経学会は、今は治療法がなくても将来は治療が可能かもしれないとして、成人になる前との要件の削除に反対している。

 何をもって事前に排除できるほど重い病気や障害と考えるか。線引きは容易でない。個々の倫理観にも深く関わる問題だ。

 今回の議論は、失明の恐れがある遺伝性の目のがんを対象とすべきか、意見が分かれたことがきっかけになった。案が示す条件では対象になる可能性がある。

 審議では、目のがんが息子に遺伝したという女性が、実施を認めてほしいと強く訴える場面もあった。当事者の思いは真剣に受け止めていく必要がある。

 同時に欠かせないのが、適用の拡大が社会に及ぼす影響を考えていく視点だ。対象の疾患を抱えて生きる人を否定するような考え方につながってはならない。

 生まれる前に障害などを知る手段には「新出生前診断」がある。妊婦の血液検査だけで胎児の異常が分かるため、産科婦人科学会が認定した施設以外でも広がり、厚生労働省の専門委員会が実施体制などの議論を始めている。

 着床前診断も含め、生殖医療の在り方をもっと広く議論できる場を整えていくべきではないか。




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