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国保料払えず「見放された」 コロナ特例はどこへ? 失業者の訴え(2021年2月17日配信『毎日新聞』)

深掘り 町野幸

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新型コロナウイルス禍で職を失い、国保料を支払うことができずに困窮する女性=1月22日午後、町野幸撮影

 「国民健康保険料(国保料)が払えない」。新型コロナウイルス禍で収入が減ったり、職を失ったりしたことで、国保料の支払いに困る人が増えている。コロナ禍で始まった政府の支援制度は多岐にわたり、国保料の減免措置もあるが、窓口となる市区町村の段階で適用されないケースがあるようだ。困った人を助ける新型コロナ対策がなぜスムーズに機能しないのか。【町野幸】

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 「(国保料を)払えない場合は財産を調査します」「差し押さえも検討します」

 コロナ禍の昨年4月に失業した東京都町田市に住む女性(50)は昨夏、市役所の窓口でこう告げられた。失業に伴い、会社の健康保険から国保に切り替えたが、生活が苦しくなったため、支払い猶予を相談。職員の事務的な対応に「見放された気がした」。

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 女性によると、担当者は「たとえ家賃を払えなくなっても、税金(国保料)を払うのは国民の義務だ」と主張。4月に退職した後の分と合わせ、5万円超の保険料を今年3月までに支払うよう迫られた。

 政府はコロナ禍の家計支援として数々の特例を設けている。総務省は昨年4月、一定の減収者を対象に国保料を含む地方税の徴収を1年猶予する制度を設け、厚生労働省も収入が3割以上減少した国保加入者に対し、市区町村が保険料を減免できる特例措置を実施している。

 にもかかわらず、なぜ女性はこの特例を受けられなかったのか。政府は「我々(政府)は支払い猶予の特例を使うよう市区町村にお願いする立場。適用するかは市区町村の判断だ」(総務省企画課)としている。

 では、町田市はどうか。取材に「個人情報なので答えられない」とした上で、「市は丁寧に対応しているが、もしかすると、やりとりの中でそう受け止められてしまったことはあるかもしれない」と回答した。今年2月上旬、相談を受けた市議が同伴して再交渉。その結果、納付期限が来ていない1期分のみ支払いが猶予される見込みとなった。

 国保料の猶予や減免を受けられないという悲鳴は、この女性に限らない。全国商工団体連合会には、コロナ禍で所得が基準以上減ったにもかかわらず、自治体が猶予や減免に応じてくれないという相談が少なくとも数十件寄せられているという。市区町村で窓口対応をする職員が制度を熟知していない可能性もあり、医療や福祉団体、労組などで作る中央社会保障推進協議会の山口一秀事務局長は「自治体の窓口には任期付きの非正規雇用の職員も多い。柔軟な対応ができない場合がある」と指摘する。

 自治体が徴収を強化する背景には、厳しい国保財政もある。国保を運営する財源は、50%が加入者が支払う保険料。残りは41%を国庫、9%を都道府県が負担し、加入者からの保険料は市区町村が都道府県に納付する仕組みだ。少子高齢化の下で国の社会保障費が増え続ける中、政府は国保の収納率が向上した都道府県や市区町村に「インセンティブ」として交付金を与えており、自治体の「徴収強化」を後押ししている。

 国保の加入者数は後期高齢者制度への移行もあって減少傾向にある。だが、新型コロナが長期化して雇用情勢が悪化すれば、加入者が増える可能性もある。社会保障制度に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「国保の加入者にはアルバイトやパートの人も多いが、加入者の減収が深刻化すれば前年度の収入が基準となる国保料の支払いはさらに難しくなる。国保を維持するには、国費の投入額を増やすしかない」と話している。

制度の周知不足が「泣き寝入り」生む

 コロナ禍で失職しながら、国の支援を受けることにも苦心した東京都町田市の女性(50)。行政の冷ややかな対応からは、制度を知らない「情報弱者」が泣き寝入りする社会が浮かぶ。

 女性は都内の病院で7年以上、正社員として勤務。失職の発端は2020年3月、院内で新型コロナの陽性者が出たことだった。以降、毎日の検温が義務づけられたが、女性は元々、体温が37度台と高め。病院側が「36・5度」程度でないと出勤を認めないルールを設けたため、自宅待機を命じられた。自費で別の病院に通い、「健康状態に問題なし」との診断書を3回、書いてもらったが、出勤は許されなかった。「自己管理が悪い」と責められた末、自宅に退職届が送られてきた。4月半ば、「自己都合退職」で職場を去った。

 退職後は一定期間、失業保険の給付金をもらえるが、その制度は複雑だ。「自己都合退職」と「会社都合退職」があり、「会社都合」なら申請から最短7日で給付金を得られるが、「自己都合」では2カ月以上かかり、給付額も少なくなる。国保料も「会社都合」なら最長2年間、軽減される制度がある。

 厚労省によると、コロナ禍の解雇・雇い止めの人数(見込み含む)は累計8万人を突破。だが、会社側は「会社都合退職」を避け、従業員に「自己都合退職」を迫るケースも多い。「首切り」のイメージなどで会社の評判が落ちたり、解雇しないことを条件に支給される助成金がもらえなくなったりするなどのデメリットがあるためだ。事実上、退職を強制されたにもかかわらず「自己都合退職」を受け入れた女性は「長い間、会社ともめるのを避けたかった」と話す。

 わらにもすがる思いで出向いたハローワークでは、退職に至った事情が考慮された。離職理由を「特定理由離職者(正当な理由のある自己都合退職)」に変更。給付開始までの期間の短縮や国保料の軽減が認められた。失業給付金のほか、コロナ禍に対応した生活福祉資金特例貸付制度も利用し、緊急小口資金と総合支援資金を上限いっぱいまで活用した。それでも貯金は底を突きかけ、失業給付金の受給期間も終了。新しい職探しも難航し、1月半ばまでに応募した44件全てで不採用だった。

 市役所に出向いて国保料の支払い猶予を求めたのは、そんな「ギリギリの生活」に陥っていた時期だった。コロナ禍では光熱費の支払いを猶予する民間の特例もあり、担当者からは「電気代やガス代などは支払いを猶予してくれる。その分を国保料に回すこともできる」と迫られた。隣のブースでも相談者の高齢女性に国保料の支払いを迫る職員を目撃した。冷ややかな対応にショックを受け、「精神的に極限まで追い詰められた」と振り返る。

 個人や企業を救う新型コロナ支援策は、その執行の遅さが問題となっている。申請手続きの複雑さや窓口の人員不足、デジタル化の遅れといった旧態依然の体制が指摘されているが、制度の周知不足も深刻だ。減収中の労働者に賃金の8割を補償する「休業支援金制度」について、野村総合研究所が昨年12月に実施した調査によると、対象者の6割近くが「知らなかった」と回答。武田佳奈上級コンサルタントは「行政は、対象であるにもかかわらず支援の行き届いていないケースを想定し、具体的な例示をしながら情報発信していく必要がある」と指摘する。

 「国保料を徴収するのはマニュアル通りだろう。だが、好きでこの状況に陥ったわけではない。一人一人の事情に寄り添って対応してほしい」。コロナ禍の今も「平時モード」の行政に振り回された女性は、そう訴えている。【町野幸】




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