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不安が生むコロナ差別 感染「自業自得」日本が突出 近畿大准教授・村山綾さん(2021年2月17日配信『毎日新聞』)

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近畿大准教授・村山綾さん=本人提供

 新型コロナウイルス感染症の出口が見通せない中、感染者や医療従事者への差別は今も続いている。「コロナ差別」の心理について、「公正世界信念」というキーワードを通じて読み解く村山綾・近畿大准教授(社会心理学)に聞いた。

 国内で感染者が確認されてからすでに1年以上。だが今月に入っても、佐賀県では、集団感染のあった県立高校の生徒への差別で、県教職員組合などから県に差別防止対策の要望があった。静岡県でも感染者集団が出た介護・福祉施設への差別をめぐり、社会福祉団体が声明を出している。日本医師会も、昨年10月からの3カ月に医療従事者への嫌がらせや差別が約700件確認されたという調査結果を今月発表した。

 村山さんは、「コロナ差別」の背景に「善い行いに良い結果が、悪い行いには罰が伴う」という心理がある、とみる。

 「こうした因果応報的なルールによって秩序ある安定した世界が成立している、と信じる傾向を社会心理学で『公正世界信念』と呼びます」。この信念のもとでは、犯罪の横行など何らかの要因でその世界が脅かされると、その不安から自分が信じる「安定した世界」観を守ろうという心理が働く。結果、被害者を「あなたにも落ち度があったはず」と非難し、加害者には「自分とは別の世界の人間」と非人間化して厳罰を求め、従来の世界観を肯定するメカニズムが生まれる。

 「コロナ禍で、感染者は『被害者非難』と『加害者の非人間化』の両方の対象になってしまう可能性があります」。何の落ち度もない人が感染するような「無秩序」は信じたい世界ではないため、「感染した本人に何らかの原因があった」と思い込む。同時に、感染を広げる潜在的加害者とみなすことで、「自分とは別の世界の人間」と切り離し、安心を得ようとする。こうして「コロナ差別」が心理的に正当化されていくわけだ。

 もともと「公正世界信念」という概念は欧米で生まれた。公正な世界を信じるからこそ人はこつこつと努力を積み重ねることができ、結果、個々の主観的な幸福感につながる面もある。「先進国のように社会が比較的安定していると、このような信念を維持しやすいでしょう。逆に内戦など、目の前の状況が毎日変わるような社会では、こうした信念は持ちづらいかもしれない。安定していた社会でも、コロナ禍で先が見えない不安から、感染という不幸に見舞われた人に責任を押しつけることで差別の問題が生じてしまう」

 感染者への差別は、症状を感じた人が検査や受診に消極的になる傾向を生み、結果として感染拡大を招く。ただでさえ疲弊した医療現場に対する差別・排斥は、医師・看護師の精神的ダメージを増幅させ、医療崩壊の要因にもなり得る。

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ツイッターで「コロナ差別」の解消を訴える法務省人権擁護局のアカウント

 だが、コロナ差別は先進国共通の傾向か、というと必ずしもそうではないようだ。

 三浦麻子・大阪大教授らのグループによる昨年3~4月のインターネット調査では、「コロナに感染する人は自業自得」と考える人が、調査5カ国で日本が突出して高かった。各国400~約500人対象の質問では、「非常にそう思う」「やや~」「どちらかといえば~」のいずれかを選んだ割合は、米1%、英1・49%、イタリア2・51%、中国4・83%に対して日本は11・5%に上った。

 村山さんによると、こうした傾向の背景には、長期的視点で物事を捉えられるかどうか、といった要因も考えられるという。「感染症の不安を乗り切る際に、『感染者は自業自得』と考えるのではなく、『今はつらい時だが、そのうちきっとよくなる』と考えて不安を解消する手段もあります。しかし日本人は、例えばこの視点の維持に有効な『信仰心』を持たない人が大半を占める。将来のポジティブなことを想像して現在の不安な状況を乗り切るのが苦手なのかもしれません」

中傷防ぐ法整備を


 国会では3日、新型コロナウイルス対策の改正特別措置法など関連法が成立した。焦点の罰則規定では、与党が当初考えていた刑事罰は見送られたが、営業時間短縮命令を拒んだ事業者や入院拒否者、疫学調査拒否者にそれぞれ20万~50万円以下の過料を科す規定が盛り込まれた。だが、村山さんはその効果については懐疑的だ。

 「悪いことをした人、というレッテルがいったん貼られてしまうと、差別されても仕方ない、と排斥を助長する危険性があります。仮に、何らかの入院できない事情があった場合、陽性判定を恐れて検査しない、苦しくても病院に行かない、という人が出るかもしれない」。罰則が症状悪化、感染拡大に結びつく危険性は否めない。「感染した人を追いかけて罰を与えるやり方より、感染していない人がこれ以上感染しない方策を考える方が前向きだと思います」

 コロナ差別に政府や自治体はどうすべきか。「ひとつは、しかるべき立場の人が言葉で『差別は決して許されない』というメッセージを出すこと」と村山さん。米国では、バイデン大統領が就任直後の1月、コロナ禍で拡大したアジア系米国人らへの差別に政府機関が対応するよう大統領令を出した。ホワイトハウスでの会見で、アジア系排斥の動きを「ヘイトクライム(差別に基づく犯罪)」と非難している。日本でも、法務省人権擁護局が「差別や偏見を思いやりやエールに!」をキャッチフレーズに、コロナ差別解消を訴えるが、村山さんは「偏見はやめよう、では難しい」と言う。

 社会心理学では「差別」と「偏見」は異なる概念だ。それまでの知識・経験を土台に、特定の社会的カテゴリー(医師、看護師など)の人たちに抱くイメージ(ステレオタイプ)に、好き嫌いなどの感情が伴ったものが「偏見」と定義される。「差別」は、「偏見」や「ステレオタイプ」に基づいて、そのカテゴリーの人たちに対して、何らかの行動を起こすことを指す。

 「私たちは誰でも偏見を持つ可能性はあり、偏見やステレオタイプは表に出ない限り社会問題ではない、と現状では割り切るしかない。偏見を差別という実際の行動につなげないよう、そこで止める方策を考えることです。こういう場面でこそ、ネットなどでの差別・誹謗(ひぼう)中傷行為にアカウント凍結を科すなど、自治体の条例を含む法律や制度を通した対応が実質的に機能するのでは」。東京都では昨年4月に成立した条例で、感染者・医療従事者に「不当な差別的取り扱いをしてはならない」と規定。同様の条例がその後も長野、岐阜、沖縄、鳥取などの県で成立し、市レベルにも広がっているが、具体的な罰則はない。

 誰もが「コロナ差別」と無縁とは言えない社会で、市民ひとりひとりに求められる振る舞いは何か。「先の三浦先生の調査を見ても、『感染は自業自得』という人は9人に1人で、多くは感染者差別に否定的なはず。井戸端会議などで、先に感染者への差別発言が出たら言い返すのはしんどい。そういう話になる前に『差別は嫌ですね』と言っておくといいのでは」

 地域社会や職場などで感染者が出た場合に不安を高めないよう、シミュレーションしておくことも大事だ。「ウイルスもある種の自然災害。火事や地震・津波の避難訓練のように、あらかじめ備えておくことが必要だと思います」【井田純】

村山綾(むらやま・あや)さん
 1979年生まれ、高知県出身。日本学術振興会・関西学院大特別研究員などを経て2019年から現職。主な研究テーマは、犯罪被害者・加害者に対する一般市民の反応など。著作に「偏見や差別はなぜ起こる?」(共著、ちとせプレス)など。


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