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「まるで犯罪者」 特殊詐欺の被害者に裁判所から勾引状…なぜ?(2021年2月19日配信『毎日新聞』)

スクープ 玉井滉大

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宇都宮地裁足利支部・足利簡裁=栃木県足利市丸山町で2021年2月17日午後2時17分、太田穣撮影

 宇都宮地裁足利支部で開かれている特殊詐欺事件の公判で、証人として出廷を求められた被害者の男性(87)が、妻の介護を理由に拒んだところ、「勾引(こういん)状」が出され、強制的に裁判所へ連れて行かれそうになった。被害者に勾引状が出るのは異例。「何も悪いことをしていないのに、まるで犯罪者のようだ」。男性は毎日新聞の取材に怒りに声を震わせた。なぜこんな事態になってしまったのか。【玉井滉大】

 栃木県佐野市に住む男性の自宅のチャイムが鳴ったのは1月下旬のこと。玄関の引き戸を開けると、スーツを着た検察官ら5人が立っていた。「出廷していただくため、お迎えに参りました」。その手には勾引状があった。被告や証人を強制的に出廷させるために裁判所が出す命令書だ。

 「行けないって言っているでしょ。妻の介護があって手が離せないんだ」。男性は拒んだが、検察官も引かない。「出廷は義務です。事情があるのは承知していますが、なんとか出てもらえませんか」。押し問答の末、男性は力ずくで戸を閉め鍵をかけた。この間約3分。検察官は勾引状を男性に示すこともできず引き揚げた。

 男性は昨年6月、特殊詐欺事件に巻き込まれそうになった。起訴状などによると、事件の概要はこうだ。

 男性宅に銀行員などを名乗る複数の男から、資産状況などを聞き出そうとする「アポ電(アポイントメント電話)」がかかってきた。信用した男性は暗証番号などを伝え、「銀行員」がキャッシュカードを受け取りに来るのを待った。

 数時間後、「受け取り役」とされる被告(23)が逮捕される。男性宅近くの駅で待機しているときに、警察官から職務質問を受けたのだった。当時、佐野市内では複数のアポ電が確認されており、県警が警戒中だった。逮捕後、男性は被害者として県警の聴取に応じ、被害状況を細かく説明した。

 被告は捜査段階で容疑を認め、窃盗未遂罪で起訴された。だが、昨年8月の初公判で一転して無罪を主張した。

 弁護側は、男性がアポ電の内容などを証言した供述調書を証拠として採用することに「不同意」とした。刑事訴訟法では、供述調書は原則、弁護側の同意がなければ証拠にできない。検察側は、法廷で男性にもう一度被害状況を説明してもらうために証人尋問を請求しなければならなくなった。

 これを受け、裁判所は出廷を命じる「召喚状」を男性に送った。しかし、男性は応じなかった。2回目の召喚状が出されたが、やはり男性は応じなかった。

 男性には出廷できない理由があった。妻が数年前に口腔(こうくう)がんの手術をし、あごの骨を切除し、サポートがなければ食事をすることができない。足の状態も悪く歩けないため、現在は車椅子で生活しており、つきっきりでの介護が必要だった。

 他にも事情があった。同居している50代の長男のことだ。仕事はしていない。以前、男性が家を空けた際、生活費として家に置いていた100万円を無断で持って行かれたことがあった。「今度は全財産を取られるかもしれない。そうしたらどうやって生活していけばいいのか……」。妻の介護と長男への不安から家を長時間、離れられないのだ。

 しかし、1月、裁判所から勾引状が出る。検察側は勾引状の執行を回避するため、男性宅を10回近く訪れ、説得を試みた。弁護側にも事情を説明したが、不同意の姿勢は変わらなかった。そして、玄関前での押し問答の日があったのだった。

 捜査関係者の心中は複雑だった。「本来は手錠をかけたり鍵を壊したりしてでも連れて行かなければならない。だが家族の事情がある高齢男性に強制することは常識に反し、けがをさせてしまえば問題になる。本当はやりたくない」

 結局、勾引状が執行できなかったため、検察側は2月の公判で再度、男性の供述調書を証拠採用するよう求めた。弁護側の不同意の姿勢は変わらなかったが、裁判所は証拠採用を決めた。男性の事情に配慮したとみられる。

 結果的に男性が出廷する必要はなくなった。それでも男性の憤りは収まらない。「被害状況は何度も説明してきた。本当にここまでする必要があるのだろうか」

 弁護側は毎日新聞の取材に対し、男性の供述調書を不同意とした理由については「答えられない」と話した。論告求刑公判は24日、判決は3月17日の予定。

   ◇  ◇

元検事の高井康行弁護士の話
 被害者である証人に勾引状が出ることは珍しく、執行できなかったことも珍しい。勾引状が出た場合、普通は手錠をかけてでも連れて行くが、今回は被害者で、87歳であることを考えると、検察官がちゅうちょするのは当然で、執行できなかったのもやむを得ない。弁護人が事実関係を争う場合、検察官が請求した証拠を不同意とすることは自然ではあるが、その結果が被告に有利になるとは限らない。事件によっては被害者を出廷させることで、裁判官の心証が悪くなることもある。今回のような状況で検察官が弁護側に事情を説明し、同意を求めることはあってしかるべきことだ。弁護側は供述調書の信用性を留保し、証拠として取り調べること自体には同意してもよかったのではないか。




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