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東京五輪ボランティア辞退者からみた「森・二階発言」の問題点(2021年2月24日配信『NEWSポストセブン』)

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東京五輪組織委員会、森喜朗氏の後任は女性の橋本聖子氏(時事通信フォト)

 7月23日開幕予定の東京五輪だが、ここにきてボランティア辞退者が続出している。いうまでもなく、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会での森喜朗五輪組織委員会会長(当時)による、女性蔑視発言がきっかけである。大きな批判を浴びて発言の撤回会見をしたがおさまらず、会長辞任となった。ライターの森鷹久氏が、辞退した元東京五輪ボランティアの人たちに、それぞれの理由を聞いた。

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自民党の二階俊博幹事長(左)

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 東京五輪の聖火リレーもじきに始まるというタイミングで、組織委員会の森喜朗会長が辞任した。きっかけは、世界中で報じられたとおり「女性理事がいると会議が長くなる」といった内容などの女性蔑視発言だった。地位も権力もある人間が、雑に決めつけた発言をすると社会的な意味を持つので危険だと理解できていないだけでなく、何より、今では多くの国民が変えていかなければならぬと考えている事柄について、いくらなんでも、あまりにふさわしくない発言だったという他ない。

 そしてもう一つ。森元会長の発言を受けて、自由民主党・二階俊博幹事長の無神経な発言があった。

「そんなこと(後に『そのようなこと』と訂正)ですぐ辞めると瞬間には言っても、協力して立派に(大会を)仕上げましょうとなるのではないか」「また落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と、辞退を申し出た人たちの意見表明を取るに足らないと考えていることを隠しもしなかった。

 権力を持つ者は、庶民の意見や気持ちなど無視してよいと考えているかのようなこの発言は、我が国の無神経な現実をそのままズバリ表現するモノだった。大手紙社会部記者の解説。

「二階氏は徹底して森氏擁護の姿勢を崩さず、辞退者が出始めると『新たなボランティアを募集、追加せざるを得ない』と記者に話したのです。真意が別にある、と言い訳をしていますが、庶民を見下しているようにさえ見え、若い記者らは『まさに老害だ』と囁いていました」(大手紙記者)

 騒動を受けて、オリンピックボランティアが実に970人(2月中旬時点)も辞退することになったのだが、コトの重大さを、彼らがわかっているとは到底思えない。「辞退者」に事情を聞いたところ、聞こえてくるのは怒りを通り越した嘆きばかりだ。

「20代で職場関係の悩みから心を病み、クビ同然で会社を追われ、地元に帰ってきたんです。数年間、引きこもりのような生活をしていましたが、5年前にウェブコンサル会社を起業。地元商店街の活性化や商店のネット通販支援などの業務で売り上げは好調、再チャレンジに成功した記念にと、ボランティアに志願したんですね」

 関西地方在住のコンサル会社代表・宮崎和士さん(仮名・40代)は「シティキャスト」として、東京五輪ボランティアに参加する予定だった。五輪を訪れる世界中からの客を、街中や会場近くに立って「アテンド」するという仕事で、勉強中だった英語の学習にも力が入り、コロナ禍でも歯を食いしばりながら間近な「夢」を目標に、自分に喝を入れながら働いた。

そんな「夢」に、間も無く手が届きそうだった時、テレビから聞こえてきたのは、二階幹事長の先の発言だった。

「コロナでオリンピックが中止になるんじゃないかと気が気でなかったところに、森さんの失言。そして二階さんの発言ですよ。私もかつて、代わりならいくらでもいるからさっさと辞めろ、と上司からパワハラを言われ続けておかしくなったんです。会社のために仕事をしたいという気持ちは強かったんですが。ボランティアが、結果的に二階さんのような人たちの為になってしまうと考えた時、吐き気がしてきたんです」(宮崎さん)

 嫌な記憶がフラッシュバックしていた宮崎さん、二階氏の発言はあくまでも一部の権力者たちの言葉であって、東京五輪の理念は別だと、割り切って考えることができなかった。海外の人の目には、ボランティアをする日本人が「今の日本」を肯定しているかのように映るのではないか、そんな疑いが浮上し始めたタイミングで「辞退者続出」のニュースが流れ始めた。それに触発され、すぐに事務局に連絡を入れたが、担当者からは引き止めの言葉一つなく、あっさり辞退の手続きは処理された。

「全身の力が抜けるような感じ、昔の自分に戻ってしまいそうな……。目標がなくなり、今まで通り仕事をするモチベーションが出ません」(宮崎さん)

 宮崎さんは、五輪に過度な期待を寄せていたようにも見える。しかし、東京五輪は多くの人がぼんやりと抱く理想の実現を引き受けることで盛り上げられてきた側面がある。それを、実態がないのだから期待するなと権力側から切り捨てられてしまったら、五輪への感情もマイナスになりかねない。「五輪のために、世界のために」と抱いてきた夢は、呆気なく裏切られてしまった格好だ。

 また、森氏と二階氏は共に与党・自民党の重鎮であり、保守派閥の最重要人物でもある。今回の騒動を受け、ネット上でも保守派の言論人を中心に、二人を擁護する言説が発信されている。一方、保守派であっても二人の発言は容認できないというのは、千葉県の総合病院に勤務する医療関係者の原明里さん(仮名・30代)。彼女もまた、東京五輪のボランティアに志願していたが、つい先日「辞退」を決めた。

「田舎育ちのためか、昔から保守的な考え方に共感を覚えていました。女性は話が長いという森さんの発言も、なんとなくわかるし、メディアは『切り取り』をしているように思います。それでも、対外的に日本を貶めるような表現を、あの立場で仰るのはどうなのかと違和感しかありません」(原さん)

 そしてトドメを刺したのが、やはり二階氏の発言だったと話す。

「コロナ禍以降、医療従事者を応援しようといいながら、今の政府は長い間、何もやってくれませんでした。私の病院にもコロナ患者がいて、今年の初め頃まで、不眠不休で働いたこともありました。同僚は何人も辞めましたが、院長は『やめるなら辞めろ』『(この病院で)仕事をしたいという人はたくさんいる』と強気で、数万円の手当をくれただけ。会社も政府も一緒なんだ、国全体がそうではないのか、そう考えた時、ボランティアに参加することが情けなくなってきたんです。あの人たちは保守派と言っても、自分と身の回りを守りたいだけ。そのために弱い者から搾取しているだけじゃないかと」(原さん)

 大会組織委員会や東京都によれば、辞退者は森・二階発言以降急増しており、1000人を超えるのも時間の問題だという。そして、森氏の後任に五輪相の橋本聖子氏が着任したが、周囲からの圧力に耐えられず、女性を据えればよいだろうと考えた結論にしか見えないのは、筆者だけではないだろう。辞退したボランティアに「戻ってきて欲しい」という旨の発言もあったが、それは虫が良すぎる、というもの。

 東京五輪ボランティアにはホテルも交通費も用意されず、自分で都合をつけるしかない。決してよいとはいえない条件のもと、かねてより「ブラックボランティア」と指摘されてきたにも関わらず、それでも「五輪を成功させたい」と協力を惜しまなかった人たちでさえ、辞退しているという現実。女性、若者、労働者にとって「生きづらい国だ」と宣伝し続けていることに、彼らはいつ気がつくのだろうか。




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