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(論)ゴーン被告(2021年3月4日)

夜逃げ屋(2021年3月4日配信『日本経済新聞』ー「春秋」)

 バブルがはじけた1990年代。借金の厳しい取り立てに窮した債務者の逃亡を請け負うプロ集団の活躍を描いた映画シリーズが話題になった。中村雅俊さん主演の「夜逃げ屋本舗」である。後にテレビドラマ化され、こちらも人気を博したからご記憶の方も多いはず。

▼脚本がよくできている。夜逃げ専門引っ越し業者の社名は「ミッドナイト・ラン」。借金をめぐる法律の知識、例えば、連帯保証や消滅時効、破産手続きなども物語の流れのなかで解説してくれる。こわもてのヤミ金融業者の非情な「追い込み」を目の当たりにすれば、生活苦にあえぐ債務者に共感したくなるのが人情だ。

▼この「夜逃げ屋」は、巨額の報酬をせしめたようだ。依頼人は債務者ならぬ金満家。保釈中の日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告の海外逃亡を手引きした米国人の身柄が日本に移送された。米陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員だ。空港の保安検査の不備を事前に調べあげて、自家用ジェットで深夜に高飛びさせた。

▼日本の「人質司法」に苦しむゴーン被告に共感したのだという。本当だろうか。保釈条件では、被告は特定の情報端末しか利用できなかったはず。国内にもカネで動いた協力者がいたのか。夜逃げビジネスの闇が解明されれば……。ハリウッドに事件の映画化を打診したという富豪の自己弁護の脚本など見向きもされまい。



ゴーン被告 破廉恥な逃亡劇の解明を(2021年3月4日配信『産経新聞』ー「主張」)

 元日産自動車会長、カルロス・ゴーン被告の海外逃亡を手助けしたとして、東京地検特捜部が犯人隠避の疑いで米国人親子2人を逮捕した。ゴーン被告の国外逃亡には、入管難民法違反容疑で逮捕状が出ている。

 ゴーン被告は逃亡先のレバノンで悠々自適の生活を送り、日本の司法制度などに対する身勝手な批判を繰り返している。自伝の執筆や映画製作に意欲をみせるなど英雄気取りだが、本来は特別背任などの罪で公判の被告席にいなければならなかった立場である。

 ゴーン被告は海外渡航を禁じた保釈条件を破った。莫大(ばくだい)な資産を背景に、元米軍特殊部隊の「脱出のプロ」である父親とその息子を超高額の報酬で雇い、楽器の箱に隠れてプライベートジェットで違法に出国した。

 当時の森雅子法相は「旅券を提示せず不法に逃亡したのは子供たちにも説明できない信義にもとる行為だ」と述べ、法務省のホームページに日英仏語で掲載した。法の存在を顧みない、まさに破廉恥な逃亡劇だったといえる。

 米国人親子の取り調べや公判を通じてゴーン被告逃亡の全容を解明し、その不当性と日本の立場を全世界に向けて発信してほしい。これはいわば、ゴーン被告に向けた国際情報戦でもある。

 米国人親子は、日本側の求めにより昨年5月、米当局に身柄を拘束された。米マサチューセッツ州の連邦地裁が日本への身柄引き渡しは可能だと判断し、米国務省が移送承認の決定を通知した。弁護側の差し止め申し立ても同地裁が棄却し、ボストン連邦高裁、最高裁がこれを支持した。米国司法の公正公平な判断を評価したい。

 移送の根拠は日米犯罪人引渡条約だ。日本政府は国際刑事警察機構(ICPO)を通じてゴーン被告の身柄拘束を要請中だが、レバノン側は否定的である。レバノンとの間に犯罪人引渡条約はないが粘り強く交渉を続けてほしい。

 そもそもゴーン被告の保釈判断は妥当だったのか。改めて検証すべきだ。保釈の要件は逃走や証拠隠滅のおそれがない場合に限られるが、逃走したではないか。結果をみれば判断の誤りは明白だ。

 折しも公選法違反の罪で公判中の元法相、河井克行被告の保釈が認められた。保釈の条件は緩和される傾向にあるが、そのあり方についても再考すべきである。



手ごわい相手(2021年3月4日配信『東京新聞』-「筆洗」)

 米国の音楽界でも「軍歌」がヒットチャートの頂点にのぼりつめるのは異例だったという。ベトナム戦争下の一九六六年、日本では「悲しき戦場」の題名で知られることになる歌は5週連続で1位になっている。米陸軍特殊部隊への賛歌「グリーンベレーのバラード」である

▼命知らずの兵士たちの勇敢さが、「アメリカで最高の人々」などの賛辞とともに歌詞で繰り返される。さびには「100人が試され、緑のベレー帽を勝ち取るのはたった3人」とある。破壊工作などの特殊作戦で敵国を震え上がらせるグリーンベレーが、英雄であり、エリートの誇りを持った異例の存在であることを示すような歌であろう

▼日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡を助けた疑いで、米国から、元グリーンベレー隊員のマイケル・テイラー容疑者が日本に移送された。米メディアによれば、169人の候補者の中から3人に残り、特殊部隊に入った人物だ

▼人の奪還などを得意とするプロであり、勇名もはせているという。ゴーン被告脱出のためにITや空港の警備、海上での活動など、専門家を集めていたと米メディアにはある。映画を思わせる活動ぶりだ

▼捕虜になっても、最後の一人になっても決して屈するなと、米国の「特殊部隊信条」にあるそうだ(『世界の特殊部隊』)

▼東京地検特捜部は手ごわい相手に向き合うようだ。

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