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日本のジェンダー平等へ「一つ一つの小さな差別への気付きが大切」 元最高裁判事の桜井龍子さん(2021年3月5日配信『東京新聞』)

 日本のジェンダー平等が進まない要因の一つとして、司法判断の場における女性割合の低さが指摘される。憲法の番人とされる最高裁判所の判事のうち女性は15人中2人だけ。最高裁では、女性に多い性被害や、家族のあり方を問う訴訟も扱う。元最高裁判事の桜井龍子さん(74)は「男女半々が理想。当面30%を目標とすべきだ」と指摘する。課題と展望について話を聞いた。(砂本紅年)

◆女性判事が増えない理由

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インタビューに答える元最高裁判事の桜井龍子さん
―最高裁に女性判事が少ない状況が続いています。

 最高裁の女性判事が初めて誕生した1994年以降、女性が0~1人の時代が続きました。私が最高裁に入った2008年も、女性は私1人でした。数年後には増え、女性3人の時代が約4年ありました。最高裁の事件のほとんどは小法廷で完結します。3つある各小法廷に女性が1人ずつ入り、意見を出せる形になっていたので、そのまま女性が少しずつ増えることを期待していましたが、今は2人で私の在任中より減ってしまいました。

―なぜ女性判事が増えないのでしょうか。

 一つには、選任手続きの複雑さがあります。形式的には内閣が任命権を持っていますが、慣行として裁判官、弁護士、検察官、行政官、学識経験者と出身ごとの枠が決まっていて、事実上、各出身母体が選んで内閣に推薦します。各母体の事情もありますし、判事の入れ替えがない年もあるなど推薦時期のばらつきもあります。行政官と学者の枠は出身母体がないので、内閣に100%任命権があることになりますが、他は内閣だけで女性を任命するのが難しいといえます。

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 03年、政府は「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度に」と目標を掲げましたが、女性候補者の何十倍もいる男性候補者を押しのけて女性を登用するインセンティブは働かなかったようです。

 ですが、日本の人口構成と同様、最高裁の判事は、男女半々であるのが理想です。当面は30%が現実的な目標。つまり、15人の判事のうち5人は女性で占めるべきだと思っています。

―女性判事がいることで何が変わるのでしょう。

 性差によって判決の判断が変わるとは思いませんが、性差別に根ざした事案では、判断基準の違いが出ると感じたことがあります。それが、妊娠後に降格されるなど不利益な扱いを受けるマタハラや、セクハラの訴訟を担当した時。私の専門分野でもあったので丁寧に審理し、高裁の判決をひっくり返し、女性の雇用環境にプラスになる判決を出すことができました。

 2015年の夫婦別姓訴訟も、男女による判断の違いがありました。夫婦が同じ姓を名乗ると定めた民法750条の規定について、女性3人は「違憲」でまとまり、男性のうち2人も違憲の判断でしたが、他の10人の男性を納得させるような理論が展開できず、反論の形で少数意見をつけるほかありませんでした。

◆別姓を選べず自身も不利益

―自身、別姓が選べないことでの苦労をした経験があります。

 30代後半に結婚し、それまでの仕事の実績は旧姓の「藤井」に全部くっついていました。結婚後も旧姓を通称として使い続けましたが、最高裁判事就任当時は、最高裁での通称使用は認められておらず、仕方なく戸籍名の「桜井」で認証を受けました。(注:最高裁は2017年9月から、全国の裁判所が作成する判決や決定など裁判文書で、裁判官や書記官の旧姓使用を認めている)。ネットで私のことを調べたと思われる有名な評論家の方に「どういう業績があるのか全く分からない、どこの馬の骨かわからない女を最高裁の裁判官にするとはけしからん」といった内容の記事を書かれたことがあります。それまで使っていなかった名前で調べられても見つかるわけがない。知人でも、私と同一人物と分かっていない人がいるなど、不利益を被りました。

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インタビューに答える元最高裁判事の桜井龍子さん

 選択的夫婦別姓については「旧姓使用が広く認められれば導入の必要はない」という反対論がありますが、旧姓を使用していても「本名は戸籍名だけど、通称で旧姓を使っています」といちいち説明しなければならない煩わしさや、ダブルスタンダードで生きているようなすっきりしない気分もつきまといます。

 「親子で姓が違うと、家族の一体感がなくなる」とも言われますが、社会的に通称で通っている人は、戸籍上の姓は子どもと一緒かもしれないけど、普段の生活では違う姓になっています。この場合も、親子で姓が違うということにならないのか疑問です。
―変化の兆しはあるのでしょうか。

 最高裁も、女性判事が少ない現状に問題意識はあると思いますが、最高裁だけで判断できる裁判官枠、いわゆる内部登用による女性判事がいまだに実現していないのが一番残念です。諸外国を見ると、女性登用は公的部門が率先して進めています。任命権を持つ内閣も、各母体から推薦された候補者の中にしかるべき女性がいれば、優先して選んでいただくことが望まれます。

◆森発言の議論は「歴史」も踏まえて

―日本社会のジェンダー問題をめぐっては、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の発言で、あらためて議論が活発になっています。

 この問題については、歴史的な流れも知っていただきたいと思います。戦後からしばらくの時代を、私は「保護の時代」と呼んでいます。女性は「か弱く、能力が低いから一定時間以上の残業や深夜勤務、危険な作業などをさせてはいけない」という保護すべき対象であり、就業制限がたくさんありました。

 それが変化したのが、1986年の男女雇用機会均等法施行から。同時に国連の女性差別撤廃条約が批准され、女性は保護の対象ではなく、平等に扱うべき対象だという考え方が理念として日本社会に導入されました。

 均等法後を「平等の時代」と呼んでいますが、当時の男女平等は、民間企業が総合職制度を導入したことに象徴されるように、「男性と同じような働き方、考え方、立ち居振る舞いができる女性は男性と平等に扱いましょう」という考え方でした。森さんの発言も、この時代の考え方です。

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インタビューに答える元最高裁判事の桜井龍子さん

 長い間、日本の男社会が築き上げてきた日本の秩序や慣行を吸収し、忖度(そんたく)してわきまえ、男性と同じように能力を発揮して仕事をするような、少数の女性だけを平等に扱う、ということです。だから、民間の総合職は増えず、辞める女性も多いという結果が出てしまった。

 その後、リーマン・ショックや東日本大震災で、日本経済が大きなダメージを受けました。国際化やIT化が進展し、従来のような日本の組織構造では生き残れないという問題も突きつけられました。そこで出てきた回答が「ダイバーシティ」。女性や外国人、障害のある人など従来の正規雇用の男性とは違った価値観で意見を言ったり行動したりする人たちを積極的に活用していくことで、閉塞(へいそく)感に満ちた企業文化、社会構造を変えなければ生き残れないという時代になったのです。

 その具体的な政策の表れが15年の女性活躍推進法と捉えていいと思います。森さんは、主観的には自分は女性蔑視の発言と思わなかったと前の時代の考え方でおっしゃったのですが、女性が多様な経験や視点を持って企業経営に参画することが必要とされる時代であり、むしろ会議の時に発言をして時間が長くなることを女性活躍推進法は期待しているのです。会議に出て「わきまえなさい」「空気を読みなさい」では、女性が入る意味はありません。男性と同じ立ち居振る舞いしかできない女性なら意味がないのです。

 私も会議では必ず意見を言うようにしています。今もって会議の中で女性は私1人か2人ということが多く、自分が参加している意味は、男性は言えないだろう、言わないだろうという意見を、その団体や日本社会の役に立つと思うことであれば発言することです。企業の社長にもたまに「女性の社外取締役に入ってもらったけど、とんちんかんなことしか言わない」とおっしゃる方がいますが、空気を読まない発言こそ今の社会に必要なのです。異論を出しやすくするためにも女性の数は全体で1~2人だけではなく、一定割合入れることが大切です。

―多くの分野で女性の参画をさらに加速し、男女格差をなくしていくために必要なことは。

 大阪大の招聘(しょうへい)教授時代、中国や韓国の女性問題を研究し、特に韓国には何度も行って、いろいろな研究者と議論し、徹底的に調べました。そこで感じたのは両国と比べても日本は、男性も頭が古い人が多いですが、女性にも多いことです。

 職場の問題は、男女雇用機会均等法、育児休業法などで、少しずつ男女平等の考え方が浸透してきました。でも、家族の問題になると、女性自身も性別役割分担意識に引きずられることが多い。日本の女性は韓国や中国の女性に比べると自立度合いが低く、自己主張も控えめ。ジェンダー指数を引き上げられなかった原因の一つではないかと思います。

◆言うべきことを言わなければ

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インタビューに答える元最高裁判事の桜井龍子さん

―女性自身が意識を変えるためには。


 一つ一つの小さな差別に気づくことが大切です。たとえば「男勝り」という言葉。私もよく若いころ、男性上司にこう言われると、「そんなふうに認められたのか」と喜んだものです。でも、よく考えてみると、男性が上位にあって女性は下位という構図を前提にした言葉です。下位の女性にもかかわらず、上位の男性をしのぐほど仕事ができるという意味です。こうした差別的なニュアンスを持つ言葉や考え方、制度は、気付かないうちに差別社会の構造の一つになっていて、別の差別を再生産します。

 夫婦同姓を定めた民法750条も差別的な意識をつくるはたらきをしつつあります。戦後、制定された時は非常に男女平等で民主的な条文だったのでしょう。赤松良子さんという大先輩が当時、東京大の同級生の男性と結婚する際、「新しい民法750条という条文は、2人で話し合ってどちらかの姓にしようということだから」と、一説にはサイコロかじゃんけんで、赤松さんの姓に決めたそうです。

 それが75年たって96%が男性の姓に変えている結果を見ると、やっぱり平等な条文とは今や言えないという話ですよね。当初は非常に良いと言われた条文だって、男女格差が解消されない社会構造が続き、再婚や離婚でいろんな家族の形が増える中、合理性を失っているわけです。

 別姓を望む人たちの苦痛や不利益、権利侵害を放置してもなお、同一姓のみの制度を維持しなければならない強い合理性があるのか。こうしたことを一つずつ議論して変えなければ、日本のジェンダーギャップ指数はいつまでたっても上がりません。

―男性へのメッセージを。

 男性自身が従来の閉塞感に満ちた行動や発言パターンを自ら脱していかなければいけませんが、出世欲などから上司に逆らえない、無理な命令でも従うという人も多い。稼ぎ手は自分だけで「妻子を路頭に迷わせられない」という気持ちもあるでしょう。だから女性が自立し、双方が稼ぎ手となれば、男性の忖度文化やわきまえ文化にも穴があくと思います。言うべきことを言わなければ、日本社会の活性化に寄与しません。

 ▽桜井龍子(さくらい・りゅうこ) 1970年、労働省入省。婦人福祉課長時代、育児休業法の制定に携わる。勤労者福祉部長、官房審議官などをへて、98年女性局長。2001年退官後、九州大、大阪大大学院などで客員教授などを歴任。08年から17年まで最高裁判所判事。




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