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週のはじめに考える 市場の不条理に抗う(2021年3月7日配信『東京新聞』ー「社説」)

 「うちの預金量が増えているんですよ」。首都圏に基盤を置く城南信用金庫の川本恭治理事長が、首をかしげながら打ち明けてくれました。

 信金にとっての最優先課題はコロナ禍で苦境に喘(あえ)ぐ地域企業への支援です。コロナ関連の倒産は増え続け、解雇も二月末で九万人を超えました。信金が取引する多くの企業や店も資金繰りに苦しんでいます。この状況下で預金が増えているのは確かに不可解です。

◆明と暗の差が大きい

 実は城南信金で起きていることはデータで裏付けられています。日銀が昨年12月に公表した資金循環統計によると、家計の金融資産は1901兆円と過去最大を記録。金融資産の半分以上を占める現金と預金も過去最大で、このうち約9割が預金です。

 この数字は、人々が将来不安から消費を抑制し、手持ち資金を金融機関に預けている実態を映し出していると考えられています。

 それでも日銀の黒田東彦総裁は景気について「基調としては持ち直している」と述べています。この言葉に共感する人は少ないでしょう。

 コロナ禍でも好決算を維持している企業は存在します。ライフスタイルの変化を機敏にとらえて、新たな商機を見いだした企業もあります。この結果、経済全体としては「思ったほど悪くない」との見方も可能です。

 しかしコロナ禍では修復が不可能なほど打撃を受けた企業や店が膨大な数に上っています。明と暗の差が大きすぎるのが「コロナ経済」の特徴です。

 事業者ベースの明暗が鮮明になったということは、そこで働く人々の暮らしの格差も一段と広がったことを意味しています。

 仕事、住宅、教育…。生活の基盤まで失いつつある人が増えています。だから「虎の子の資金は預金して守ろう」と考える人が増えるのはむしろ自然なのです。

◆個人投資家たちの反乱

 1月、米国で興味深いできごとがありました。

 SNS(会員制交流サイト)で集まった個人投資家たちがゲームソフト販売会社の株を一気に購入して株価が急騰したのです。

 株を買い進めたのには理由があります。ヘッジファンドと呼ばれるプロの投資家がその株を空売りしてもうけようとしたのです。

 値下がり確実な株を証券会社などから借りて売り、ある程度経て安値になったところで買い戻し差額でもうける手法です。だが株価が急騰したために、その投資家は高値での買い戻しを余儀なくされて損をしてしまったのです。

 経済の取材をしていると、時として市場をコントロールする当局側に立ったような感情におそわれることがあります。

 今回も市場が動揺して一時株価が急落したため「素人集団の行為にはやはり規制が必要」との考えが頭をよぎりました。だが−。
 金融市場で実際に運用に関わるのは、富裕層から資金運用を頼まれたプロたちです。市場が活況を呈せば富裕層はさらに富み、委託された側も手数料がたくさん入る仕組みです。

 市場が暴落した場合、金の出し手や運用者が損をするのは当然です。ところが暴落の規模が大きいと市場とは関係のない人々も影響を受けてしまうのです。

 株価が大きく落ちれば企業経営者は動揺し、設備投資を手控え賃金や雇用を抑制します。その結果、不況が起きます。

 SNSで集まった人々の怒りの矛先は、こうした市場が持つ不条理と、その背後でうごめく富裕層らに向いているのです。

 富裕層や彼らを相手にビジネスをする投資家たちは、市場の外にいる人々の暮らしなど気にも留めません。だが今回、歯牙にもかけていなかった人々に突然、牙をむかれ一敗地にまみれたのです。

 日本でも株価は乱高下気味ですが、その水準が現実の経済実態とかけ離れていることは指摘するまでもありません。もちろん暴落の危険も常にはらんでいます。

 財政出動とそれを後押しする金融緩和で市場には膨大な資金が流れ込んでいます。コロナ禍で苦しむ人々を救うための資金です。

◆気持ちはよく分かる

 だが一部の金持ちや投資のプロはその環境を利用してもうけようと目の色を変えています。彼らの投機的な動きで市場が動揺すれば、政策効果も消えかねない。信金など地域金融機関が懸命に小さな会社や店を支えようとしても押し流されてしまうでしょう。

 SNSを通じた大量の株購入については「株価操縦では」との指摘もあります。ただ、それなら空売りを仕掛けた側にも同じことが言えるのではないか。

 今は市場の不条理に抗(あらが)った彼らに「気持ちはよく分かる」と声を掛けたいと思っています。




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Author:gogotamu2019
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