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元NHKの敏腕記者2人が「特ダネは目的でなく“手段”」と語る理由(2021年3月9日配信現代ビジネス『』)

 報道記者として大事なことは、ビジネスや恋愛においても当てはまる――。そんな大胆な主張の本が発売された。元NHK記者で、森友学園事件でスクープを連発した相澤冬樹氏による『真実をつかむ』(角川新書)だ。

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 ちょうど同時期に発売された『最高の質問力』(PHP研究所)の著者であり、相澤氏のNHK時代の先輩でもある鎌田靖氏との対談が実現した。テーマは記者に必要なもの。2人は必ずしも記者に向いているわけではなかったと話す。

 〈構成〉神田桂一

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相澤冬樹
大阪日日新聞記者。1962年宮崎県生まれ。東大法学部卒業後、87年にNHK入局。2017年、東住吉冤罪事件を扱ったNHKスペシャルで取材を担当。18年、森友事件の取材を担当した。NHKを退職は多方面で取材、執筆をしている。著書に『安倍官邸vs.NHK』。共著に『私は真実が知りたい』がある。
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鎌田靖
ジャーナリスト。1957年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、81年記者としてNHKに入局。報道局社会部で検察などを担当後、93年神戸放送局デスクなどを経て、2005年から解説委員。「週刊こどもニュース」のお父さん役、「NHKスペシャル」キャスターなどを務める。15年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。16年NHK解説副委員長。17年退社後、フリー。現在TBS「ひるおび!」などに出演。
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実は、人と話すのが苦手だった

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相澤冬樹氏(左)と鎌田靖氏(撮影:坂本慎平)

 ――記者に必要なものとして、コミュニケーション能力があげられると思います。しかしお二人とも、本では、「人見知りだった」「人と話すのが苦手だった」と書かれています。

 相澤:私は今でも苦手で、克服したとは言えないのですが。鎌田さんの著書『最高の質問力』に人見知りと書いてあるのを読んで、正直意外だと思いました。そうだったのか、と。

 阪神淡路大震災のとき、私と鎌田さんがいたNHK神戸局の建物も被害にあったので、小学校の跡地にプレハブを立てて取材していました。そこに男性が話したいと言っていきなり入って来たんです。そのとき、さっと鎌田さんが立ち上がって相手をしたんです。それを見て、凄いと思いました。一記者の私はそのとき、「今からすぐ取材に出るから」と自分に言い訳をして応対しなかったんです。

 鎌田さんはNHKで僕の6年先輩ですが、「6年後、鎌田さんみたいに考えて行動できるのか」とよく思いながら仕事をしていました。そんな人見知りな私も、今では記者の仕事は天職だと思っています。

 鎌田:こんなに褒めていただいて、もっと早く言ってほしかった(笑)。

 僕は今でもこの仕事を選んでよかったのかと迷います。入局当初、愛知県警担当で特ダネ(同業他社が知らないネタ)がとれなくて随分苦しみました。それがいいかどうかは別問題なのですが、警部補に半ば同情で教えてもらったこともありました。

 相澤:それとちょっと似た話があるんです。私の同期の北澤くんという記者がいまして、『真実をつかむ』にも出てきます。彼の初任地は前橋でしたが、当時は日航機墜落事故の原因を群馬県警が捜査中で、その過程を彼が取材していました。

 群馬は地元紙の上毛新聞が強くて、NHKは毎回抜かれまくっていた(特ダネを他社に奪われること)んですけど、当時、上毛新聞の群馬県警サブキャップが作家の横山秀夫さんでした。

 ある日まだ1年生だった北澤くんが、不甲斐なくて記者クラブのデスクで泣いていたんです。すると、横山さんが寄ってきて「北澤、どうしたんだ? いいこともあるよ」と肩をたたいて慰めてくれたそうです。それなのに、翌日また上毛新聞に抜かれた(笑)。「同情するならネタをくれ!」と彼は叫んだそうです。

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相澤冬樹氏(左)と鎌田靖氏(撮影:坂本慎平)

カラッとしている「理想の上司」

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鎌田靖氏(撮影:坂本慎平)

 ――NHK神戸局で、鎌田さんは相澤さんの上司でいらっしゃいました。

 相澤:神戸に赴任したとき、デスクだった鎌田さんから「3ヶ月待つ」と言われました。つまり「3ヵ月以内に結果を示せ」ということです。でも1年くらい成果が出ませんでした。2年目に突入して調子が出てきて、やがて大震災が起こりました。要するに鎌田さんは、最初はかましますが、あとは見守ってくれるんです。

 鎌田:神戸に異動するまで(花形部署である)東京の社会部にいた僕としては、「なんで俺が神戸に飛ばされるんだ…」という思いはありました(笑)。でも神戸で相澤に出会って、東京の事件取材の水準を彼に全部教えようと思いました。

 相澤:鎌田さんは要求水準が高い上に短気なのですが、でも怒ったことをすぐ忘れるんです。だからカラッとしていてあとに引かない。ある意味理想の上司で、他の記者もそう思っていたと思います。これは報道の世界の話だけじゃない。どこでも同じだと思いますね。そういう上司だと部下は挫けずにやっていける。

早く報じることに意味はあるのか?

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相澤冬樹氏(撮影:坂本慎平)

 ――部下を評価するのも上司の仕事ですが、他社より早く報じることが記者にとって一番の能力、評価のポイントになっている現状があります。でも、「それにどれだけの意味があるのか」という疑問もあるかと思います。

 鎌田:阪神淡路大震災が起こったとき、私は神戸の自宅にいました。すぐに出勤したんですけど、もうすでに床に書類が散乱していた。庶務の女性が片付けに来てくれたので、「書類は全部捨ててください」と言ってしまいました。

 でも、片付けてもらった後によくよく見てみると、自分の夜回り(取材対象者が帰宅した時間を狙って会いに行くこと)の記録や、取材メモがそっくりデスクからなくなっていた。そのとき、取材したときの思い出が色々とよみがえってきて、「全部捨ててください」と言ったのを後悔しました。結局見つかりませんでしたね。

 そのとき、悟ったんです。一瞬の特ダネ情報も大事だけど、今、目の前で起こっている大地震のように、10年、20年単位で追いかけるテーマのほうが重要なんじゃないかと。直感、いや、神様が教えてくれたのかもわからないですけど。それ以来、特ダネにあまりこだわらなくなりました。

 相澤:震災から1週間経つまでは、(救援活動にあたる)兵庫県警本部に泊まりっぱなしでした。でも、ようやく神戸と大阪をつなぐ船が出るようになって、鎌田さんから、「1回大阪に行って休め」と言われたんです。

 つまり、「これは1週間では終わらない」「10年がかりの仕事になる」という意味のことを、鎌田さんはその当時から部下に伝えていたんです。

 鎌田:お互い褒めまくっていてあまり面白くない(笑)。相澤は、戦友なんです。

特ダネは、目的ではなく「手段」

 相澤:特ダネについては、神戸にいるときに鎌田さんが言っていた言葉を覚えています。

 「『いずれは分かる話なのに1分1秒を争って何の意味があるのか』というのは素人の議論だから聞きたくない」

 私は正直、1分1秒を争う特ダネはあんまり意味がないと思うんです。でも、その先に隠されている、もしくは当局が隠したいと思っている情報をどうやって取ってくるか考えた時に、そういう1分1秒先の情報を取れなければ、向こうが一生隠したいと思っている情報も取れない。そのための訓練だと考えたら、特ダネにも意味はあると思っています。でも特ダネ自体を目標にしたらダメで、あくまでも手段なんです。

 鎌田:しんどい思いをしないと本当の情報は取れない、と僕は思いますね。警察取材や検察取材では、基本向こうは話したがらないんです。そういう人から無理矢理話を聞いてくるというトレーニングをしておかないと、その次のステップに進めない。
問題なのは取材のプロセスです。

 昨年話題になりましたけども、検事と麻雀をやることが、相手と仲良くなって信頼関係を築いて、ネタをとるための行動だというのなら、記事というアウトプットをちゃんと見せなければならないと思います。ただ仲良くなって終わりなら、意味がない。それはただの目的であって、手段ではない。

 ――先ほど相澤さんは記者が天職だとおっしゃいました。特ダネを「手段」として取材相手に深く切り込む、そのような記者に一番必要なものはなんだと思われますか。

 相澤:本当の意味で天職だと思えたのは、2016年夏に司法担当記者になってからです。それまでは、「なんで自分は記者をやっているのだろう」と思っていました。でも、司法担当をやるなかで、色々見えてくるものがあったんです。

 例えば、裁判で原告が勝訴したとしても、それで当事者たちはハッピーエンドじゃない。そこから長い人生があります。仕事というもの、特に人を相手にする仕事は基本的に全部似ているのかなと思ったり。そういうことを考えられるようになったとき、本当に天職だなと思えましたね。

 記者にとって一番必要なもの、というよりすべての業種に当てはまることですけど、「相手の立場になって考える」ということです。そうしないとうまくいかない。恋愛にも、同じことが言えると思います。だから『真実をつかむ』もビジネス本であり、恋愛本だと言っているんです。

鎌田 靖(ジャーナリスト)/相澤 冬樹(大阪日日新聞記者)




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