FC2ブログ

記事一覧

減額され、申請は通りにくい…菅首相が胸を張る「生活保護」があまりに空虚すぎる(2021年3月9日配信『現代ビジネス』)

キャプチャ2
2月22日、衝撃的な判決が下った

 菅義偉首相が国会審議で野党から再度の特別定額給付金の実施を問われ、実施を否定するとともに、政府のセーフティネットとしては「最終的に生活保護がある」と胸を張った。その生活保護が今、大きく揺れている。

奨学金で借金600万…女子大生風俗嬢「その後の現実」➡ここをクリック

 2月22日、生活保護に関する衝撃的な判決が大阪地裁で下った。国が2013年8月から実施した生活保護費の引き下げについて、「生活保護費の減額処分は違法」として、国に処分を取り消す判決が出たのだ。

 国が2013年から3回にわたり、平均6.5%、最大で10%の生活保護費の引き下げを行ったことに対して、全国29都道府県で1000人近い原告による集団訴訟が行われている。

 この訴訟は大阪府内で生活保護を受けている42人が、国と大阪府の12市を相手取って、「生活保護費の引き下げは生存権を保障した憲法25条に違反する」としたものだ。

 判決で森鍵一(もりかぎ・はじめ)裁判長は、生活保護費の引き下げの理由となった「デフレ調整」について整合性に欠いていると指摘した。

 厚生労働省は生活保護費の引き下げにあたり、08年から11年の物価下落を反映させたとしているが、この点について、08年は原油価格や穀物物価が急騰した「特異な物価上昇」が起きた年で、これをベースにそれ以降の消費者物価指数の下落を生活保護費の引き下げ基準としたことは、客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、生活保護法3条、同8条2項の規定に違反しているとした。

 さらに、生活保護費の算定で厚労省が、生活保護利用者が購入することの少ないテレビやパソコンの価格変動を取り入れていることに対して、消費者物価指数よりも大きな下落率となると指摘し、生活保護利用者の消費実態に合っていないため、合理性に乏しいとした。

 この勝訴を受け、原告団は国・厚労省、大阪の12市に対して、「控訴をしないように」と働きかけているが、大阪の市側は国と協議の結果、控訴の方向で検討を進めている。

日本では「受給」の壁が相当高い

 一方で、厚労省はこの「生活保護費引き下げ違憲訴訟」と同時進行で、「生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会」を開催し、生活保護基準の見直しに着手している。

 検討会では、1.最低限度の生活を送るために必要な水準について、2.最低限度の生活を送るために必要な水準を検証・検討するための手法について、3.現行の生活扶助基準の基本的な枠組みと展開後の基準額の評価について、4.現行の検証手法の課題に対する改善方法について、検討が進められている。

 新型コロナ禍での生活保護について筆者は、1月31日の「新型コロナ対策、菅首相の『最終的に生活保護がある』発言の大きな落とし穴」で、様々な問題点を指摘した。

 この中で、08年のリーマンショック以降、失業などの経済的な危機に陥った世帯が急増したことで、生活保護利用者が増加したことをあげ、新型コロナ禍でも生活保護利用者が増加する可能性を指摘した。

 半面、生活保護の受給資格がある人のうち、何人が生活保護を受けているのかの比率である「補足率」は、欧米の70~80%に対して、日本は2018年時点で22.9%と非常に低いことをあげ、日本の生活保護を受けるのは相当に難しいと述べた。

 その理由の一つとして、生活保護の申請の際に行われる親族に対しての「扶養照会」をあげた。

ほんの少し、利用しやすくなったが…

キャプチャ

 「扶養照会」は申請を受け付けた自治体が親族に対して、援助の可能性について確認するもので、欧米諸国では扶養照会の対象は、“親と子どもの1親等以内”がほとんどだが、日本では“3親等”まで行われているため、様々な調査で「生活保護を申請していることを親族に知られるのが恥ずかしい・嫌だ」との回答が多く、国会でも問題となった。

 2月26日、厚労省は自治体に対して「扶養照会」の運用方法の見直しを通知した。

 これまで親族と音信不通など連絡を取っていない期間を「20年間」としていたが、「10年間」に短縮したほか、親族によりDV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待を受けた場合、親族が70歳以上の高齢者である場合、親族と相続などで対立し関係が著しく悪化している場合には、扶養照会の必要をなしとした。

 ほんの少しではあるが、生活保護が利用しやすくなったのかもしれない。

 しかし、2020年中の生活保護利用は、やはり簡単ではなかったようだ。生活保護利用者数は年初から年末にかけて減少し、12月に若干増加しているのみ(表1)。

 生活保護は申請から14日以内に利用の可否を申請者に通知することになっている。ただ、申請者の資産内容など各種の調査に日数を要するため、14日以内に回答が来ることはほとんどない。

 しかし、法律上30日以内に可否を通知することが決められているため、判断が30日以上になることはない。

 2020年の生活保護申請件数の総数は22万3622件と、比較可能な2013年以降で初めて前年比で増加した。申請件数が増加しながら、生活保護利用者が減少しているということは、申請の許可が厳しいものを表わしている。

 ところが、保護世帯数は年末にかけて増加している(表2)。これは何を意味しているのか。

若い世代にも必要な「生活保護」

 複数人の世帯であれば、世帯数の増加は利用者数の増加に結び付く。つまり、世帯数が増加しながら、利用者数が減少しているということは、単身者世帯の増加を意味する。

 生活保護の世帯類型では、高齢者世帯(単身世帯、2人以上の世帯)、高齢者を除く世帯(母子世帯、障害者・傷病者世帯、その他世帯)に分類されている。

 今、生活保護利用世帯の50%以上は高齢者世帯だ。その高齢者世帯の動向には大きな変化はない。一方で増加を続けているのは、その他の世帯だ。その他の世帯には失業などによる経済的困窮が該当する。

 それを裏付けるように、生活保護の扶助の種類には生活扶助、住宅扶助、教育扶助、介護扶助、医療扶助、その他の扶助があるが、増加が著しいのは生活扶助となっている。生活扶助とは、日常生活に必要な食費・被服費・光熱費等の補助である。

 筆者の知り合いにもいるが、「新型コロナの影響で仕事をなくし、風俗で働くことにした」という書き込みがSNSには多く見られる。

 菅首相が胸を張るように生活保護が政府のセーフティネットの役割を果たしているならば、現在進められている生活保護基準の見直しは、若い世代(高齢者を除く単身者世代)がそのセーフティネットを使い、生活の再建に機能するような形で見直されることを切に願う。

鷲尾 香一(ジャーナリスト)




スポンサーサイト



プロフィール

gogotamu2019

Author:gogotamu2019
障害福祉・政治・平和問題の最新ニュース・論説紹介

最新記事

カテゴリ