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<声をつないで>「銭湯行けない」深い心の傷 支援団体代表が語る性的DVの実態(2021年3月14日配信『毎日新聞』)

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性的DV被害について語る「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」の正井礼子代表理事=神戸市内で2021年2月17日午後0時21分、反橋希美撮影

 その女性は銭湯を前にして言った。「信じてもらえないかもしれないですけど、私は夫と別れてから怖くて裸になれないんです」

 配偶者間の性暴力はドメスティックバイオレンス(DV)の中でも表に出づらく、刑事事件になるのは極めてまれだ。認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」(神戸市)の代表理事、正井礼子さん(71)は「被害者に深い心の傷を残す性的DVの実態を知ってほしい」と語る。

 専業主婦だった正井さんは1992年、ウィメンズネットを結成。95年の阪神大震災後、夫や恋人から心身への暴力を受けている女性たちの悩みを多く聞くようになった。

 性暴力の深刻さに気づいたのは約20年前。DV被害者の集いに来ていた、ある女性との出会いがきっかけだった。

 女性は、10年近く前に別居した夫から毎晩のように髪をつかまれ、性行為を強要されていた。心身の調子を崩して病院を受診しても「夫婦間のこと」と理解してもらえず、誰にも相談できなかった、と明かした。ある日、相談機関に同行した帰りに銭湯の前を通りかかった。疲れを癒やせればと、正井さんが「お湯にゆっくりつかって帰ったら?」と声をかけると、女性は「裸になれないから」と断った。服を脱ぐと記憶がよみがえるため、入浴は髪を洗う時だけで下着をまとったままシャワーで済ませている、という。

 正井さんは「女性は『自分の体が、ここにあるという実感を持てない』と話していました。モノのように扱われ、人間としての尊厳を体ごと奪われている感覚だったのではないでしょうか」と語る。

 屋外や子どもの前で性行為を迫られる、求めを拒むと殴られる――。その後もウィメンズネットには、性暴力にまつわる相談が多く寄せられた。「初めは身体的暴力や精神的暴力を訴え、性被害について話さない人がほとんどです」と正井さんは言う。恥ずかしさに加え「結婚したら夫の要求に応じるものだと夫婦とも思い込み、意に沿わない行為が性暴力だと認識していない」からだ。

 配偶者間の性暴力は、社会的にも認知されていない。ある女性は夫の暴力的な性行為で大量出血し、運ばれた病院で「それはDVですよ」と看護師に指摘された。裁判所に接近禁止の保護命令を申請したが、裁判官に「妻なら拒否できたはずだ」と却下されたという。

 刑事事件化するのも極めてまれだ。2017年の内閣府調査では、無理やり性行為をされたことのある女性は7・8%。相手は「配偶者や元配偶者」が最多の26・2%だった。一方、19年の警察庁の統計によると、強制性交等罪で検挙された1275件のうち配偶者間は13件。支配的な関係の中で継続的に行われるケースが多いため、暴行や脅迫の立証がネックになる。また警察にDVを相談しても、生命の危険性から性暴力より身体的暴力が着目されるという。

 法務省では性犯罪に関する刑法改正に向けた議論が大詰めを迎え、被害者や支援者から同意のない性行為を罰する「不同意性交罪」の創設を求める声が上がる。欧州評議会で採択され、ドイツなど30カ国以上が批准するイスタンブール条約(女性に対する暴力及びドメスティックバイオレンスの防止条約・14年発効)では、配偶者間でも不同意性交を処罰する規定を設けるよう義務づけられている。

 「日本でも、夫婦や恋人間で同意のない性行為を許さない規定が必要。日常的にレイプが繰り返され、トラウマを負う人たちをこれ以上増やさないために社会で考える時です」。正井さんの願いだ。

 ◇刑法改正の論点として議論を

 DV被害者を支援するNPO法人「全国女性シェルターネット」(東京都)は2月、性的DVの深刻な実態を明らかにし、被害者を支援する政策を求める声明をホームページで発表した。

 「激しい暴力で避妊できず10回中絶した」「性行為の動画を撮られた」「異物を挿入され、医療機関で取り出す治療を受けた」「夫の仕事相手との性交を強要された」――。加盟する約60団体の相談記録や被害者の手記から集めたという被害実態は壮絶だ。

 声明では、DV防止法の保護命令の対象に性的DVを含めることや、恋人や夫婦間の支配関係を考慮した犯罪類型の創設、人工妊娠中絶で配偶者の同意を不要とすることなどを提言した。

 全国女性シェルターネットの北仲千里共同代表は「性的DVの被害は支援者の間ではよく知られていたが、当事者も語りにくいため、真正面から取り上げられてこなかった。配偶者間の性暴力を禁じる他国の例も参考に、刑法改正の論点として議論してほしい」と話している。【反橋希美】




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