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マスク生活 難聴者不安 さらに聞き取りにくく 特性知り会話に工夫を

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難聴を知らせる張り紙をし、タクシー運転手の仕事をする斉藤現さん

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たむら・こういち。1952年長野県生まれ。日本医科大学大学院医学研究科修了。元東京逓信病院病理診断科部長、日本医科大学客員教授。40歳から進行性の感音難聴となり、人工内耳と補聴器を利用。現在は聴覚障害者4級。都内を中心に、自身の経験に基づいた聴覚障害の特性を伝える講演を行う。

 10人に1人は聞こえに問題があるとの調査もある難聴。コロナ禍でマスクの着用が定着し、聴覚に障害がある人は聞き取りにくさがさらに増している。仕事や家庭生活などで会話が聞き取れなければ、困る場面が少なからず出てくる。当事者らの話を聞き、どうしたらいいか、解決策を考えた。

■会議で「自分だけ分からず」

 「私は、難聴です。ゆっくり話してください」

 タクシー運転手で、重い難聴がある札幌市の斉藤現さん(65)は、乗客の目に付きやすいよう車内に張り紙をして、理解を求める。

 補聴器は付けているが、目的地をうまく聞き取れず、2、3度聞き返すことは珍しくない。札幌の地名、「澄川」と「新川」を聞き間違えて逆方向に向かってしまったこともある。

 以前は歯科技工士だったが仕事が減り、タクシー運転手に転職して4年たつ。コロナ禍で乗客がマスクをしているため「言葉がこもって、さらに聞き取りにくくなった」といい、筆談で乗り切る日々。斉藤さんは「お客さまの協力でなんとか働けています」と話す。

 聞こえにくさを抱える人は意外に多い。日本補聴器工業会(東京)が3年おきに1万人以上に行っている調査によると、2018年は自己申告による難聴者が約1割に上った。加齢に伴う難聴も含まれ、75歳以上は約4割を占めた。

 なぜ聞こえにくくなるのか。札医大教授(耳鼻咽喉科学)の高野賢一さん(45)によると、難聴は主に伝音難聴と感音難聴に分けられる=図=。伝音難聴は、音の振動を伝える外耳や中耳がダメージを受け、耳をふさいだ時のように音が聞こえにくくなる。感音難聴は、音を感じる内耳や聞こえの神経の異常による。

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 内耳の蝸牛(かぎゅう)には、音を受け取り脳に伝える有毛細胞があり、入り口は高音域を、奥に行くほど低音域を拾う。加齢や騒音による難聴で高音を聞き取りにくくなるのは、この有毛細胞が傷つくためとされる。高野さんは「有毛細胞は繊細で、一度損傷したら回復は難しい」と注意を呼び掛ける。

 難聴者は、聞き取れない部分を唇の動きや表情を見る「読話」で補う。しかし、コロナ禍でマスクを外せる場面は少ない。民間団体「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」(東京)が今年1月に、聴覚障害者111人に行った調査では、マスクの着用で約8割が生活に不便や不安を感じていた。「全員がマスクをしている会議で、自分だけ情報が得られない」「声(の大きさ)が半減する」などの悩みを訴える声もあった。

 感音難聴がある札幌市の主婦橋本順子さん(72)は、特に病院で困ることが多いという。「マスクを着けた看護師や医師の言葉は全く聞き取れず不安です。自分の体のことなのに」とこぼす。

 札幌市中途失聴・難聴者協会長の花田裕芳さん(63)は、難聴の人との会話について「筆談や音声文字化アプリ『UDトーク』など、目で見て会話の内容が分かるようなコミュニケーションを試してほしい」と呼び掛けている。

■ゆっくり、はきはき 別の表現も使って 難聴の病理医・田村浩一さん

 難聴者とのコミュニケーションにはどんな工夫が必要なのか。聴覚障害について講演活動を行い、自身も40歳で遺伝性の感音難聴となった東京逓信病院の非常勤病理医、田村浩一さん(68)に難聴の特性や会話のコツを聞いた。

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 ――難聴には、主に伝音難聴と感音難聴の2タイプがあります。

 「音が小さく聞こえる症状は両方に共通します。感音難聴はこれに加え、聞き取りやすい音とそうでない音があり、言葉を捉えにくくなります」

 ――具体的には。


 「五十音は高音と低音の組み合わせで構成されます。例えば『し(shi)』のshは高音、iは低音です。感音難聴で、高音が苦手な人は『7月(しちがつ)』を『1月(いちがつ)』と聞き間違えます。苦手な音域の言葉が続くと、日本語でも外国語のように聞こえてしまいます」=図=

 ――感音難聴があると懇親会やパーティーなど、にぎやかな場所での会話が苦手になると聞きます。

 「感音難聴の人は、聴きたい音だけを選別して聞き取ることが難しく、大きな音で音楽が鳴っている居酒屋や複数が同時に話すパーティーなど、騒がしい場所では孤立しがちです。また、聞こえた音を言語として認識するのに時間がかかるため、早口で話されてもついていけなくなります」

 ――会話では、どんな点に気をつけたらいいでしょう。


 「難聴者に大声で話しかけても伝わらない時は、聞き取れない音が、大音量になることでさらにゆがみ、異常な音になっている可能性があります。あとは、聞き取りやすい音ばかり強調されて、言葉を正確に把握できていないのかも。雨具の『かっぱ』を『葉っぱ』や『タッパ』と聞き間違えている時に、『かっぱ』と大声で連呼しても伝わりません。『“か”は、缶詰の“か”』と説明したり、レインコートと英語に言い換えたりすると効果的です」

 ――聴覚障害が外見からは分かりにくいことも、コミュニケーションがうまくいかない一因では。


 「中軽度の難聴者や中途失聴者の多くは普通に話せるので、『聞こえているはず』という誤解を受けやすいです。聞き取りにくそうなそぶりをしていたら、『私の声は聞き取りにくいですか』と尋ねてみてください。そのうえで、ゆっくり、はきはきと話してください。重要なことは文字で伝えるようにしましょう」

 ――難聴であることは話し相手に伝えた方がいいのでしょうか。


 「難聴は恥ずかしいことではありません。会話の内容が分からないまま聞こえたふりをせず、難聴を打ち明け、『少し大きい声で、ゆっくり話して』と伝えてみましょう。また、会話が聞き取れなかった時に『え?』『聞こえません』と言うと、言葉を捉えていないことが伝わりません。例えば、『春は暖かい』という文のうち、『春』が聞き取れなかったら、『何が暖かいの?』と具体的に質問してみましょう。うまくコミュニケーションできるよう、お互い工夫できるといいですね」

<編集後記> 記者は16年前、小学3年の春に突然、難聴になった。朝、私を起こしに来た両親の声に気付かず、体を強く揺すられたのを覚えている。中耳炎をこじらせたようで、20日ほどの入院で中軽度の難聴まで回復した。いまは補聴器を付けて日常生活を送っている。

 「病院の待合室で、いつ呼ばれるかと気が抜けない」「聞こえない時は愛想笑いでごまかす」―。取材で聞いた体験談は、どれも身に覚えのある話だった。でもそれも、田村さんが説明するように、当事者の努力と周囲の理解があれば、解消できることが多いと感じた。

 難聴を含め、目に見えない障害は、同じ境遇の人を見つけるのが難しい。取材では、札幌市中途失聴・難聴者協会に入会して、心が軽くなったという人もいた。困ったことは1人で抱え込まず、積極的に関連団体に相談してほしい。(田口友博)




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