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「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第2回 混迷深まる名古屋城木造化(2021年4月7日配信『THE PAGE』)

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今年3月から金のシャチホコが地上展示のため降ろされた名古屋城の天守閣(筆者撮影)

「市長主導の木造復元ではうまくいかない。私達は11人乗りのエレベーターを検討している」「市長が言うように天守が先、石垣が後では何年かかっても木造復元などできない」

「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第1回 「河村流ポピュリズム」の是非

 今年3月8日の名古屋市議会本会議。自民党の浅井正仁市議は、名古屋城木造復元事業のトップである松雄俊憲・観光文化交流局長が関係者にこうした内容のメールを送っていたことを暴露した。

 名古屋城の木造復元は、河村たかし名古屋市長が2009年の初当選後に言い出し、2013年や2017年の市長選でも公約に掲げた河村市長の目玉事業だ。にもかかわらず、なぜ市幹部がトップの意向に背くようなメールを送っているのだろうか。

事業のこれまでの経緯

 河村市長が強いこだわりを示すこの事業だが、今から6年近く前の2015年6月の市議会で実現に疑義が出されると、市民からも「木造は火災に弱く危険。違法建築だ」という反対意見が出始める。

 その年8月、「市長が全責任を取るので全力で取り組め」という指示書が市の担当者あてに出され、2016年になると竹中工務店からエレベーターや避難階段などを備えたプランが示される。しかし、今度は河村市長が「これでは復元ではない」と提案を拒否。これにより、当初東京オリンピックに合わせて2020年の竣工を予定していたが、2年の竣工延長が決まる。

 2017年5月には「石垣の調査・保存を優先すべき」との専門家意見が出る。国の特別史跡である名古屋城は、文化庁の許可がないと建て替えはできない。しかし、専門家同様に石垣を重視する文化庁からはいつまでたっても許可が出ない。

 しびれを切らした河村市長は2019年2月、突如、「建て替えでなく天守解体を先行する」として文化庁を訪問。しかしやはり文化庁から解体許可が出ることはなく、半年後には2022年の竣工予定もあきらめることになる。

 さらに資料館建設工事中に誤って地下遺跡を壊してしまう重大事故(2020年3月)や石垣裏にあるモルタル落下事故(2020年10月)が発生。そして、2020年11月には、本丸西の内堀調査で、幻の西小天守関連と思しき新たな地下遺構が発見される。

 そんな中で送られたのが、前述のメールだった。

「昔のままの復元」にこだわる河村市長

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城内で展示されている金シャチ(筆者撮影)

 頑ななまでに「昔のままの復元」にこだわる河村市長。そもそも現在の名古屋城天守閣は、第二次世界大戦時の空襲で焼失したものを、今から60年ほど前の1959(昭和34)年、市民の寄付によって二度と燃えることのないようにと、鉄筋コンクリート製で再建したものだ。

 河村市長は豊富に残された戦前の史料を基に「復元」し、再建された本丸御殿とともに名古屋のシンボルとして観光の目玉としたい考えだが、現代の建築物としては必要となる耐震・耐火・バリアフリーといった設備を持たない「昔のままの復元」に対する強いこだわりが、事業の停滞を招いていることは間違いないだろう。

 許認可権を持つ文化庁は19年8月に文書で「復元」の基準を示し、さらに20年6月には古い鉄筋コンクリートの天守にも文化財としての価値を認め、その保存等に関する文書も出している。これらは名古屋城問題を意識してのこと、と思わざるを得ない。ちなみに文化庁の基準では史実にない避難階段等を追加した場合を「復元的整備」という。

名古屋市は「耐震・耐火・バリアフリーで」

 今年1月に開かれた木造復元に関する市民説明会で、河村市長は「元の遺跡の真上に建てること、豊富な資料に基づいて建てること、木造であること」の3要素を満たせば「復元」だと発言しているが、文化庁の基準を理解したうえでの発言だろうか。一方で、名古屋市は「耐震補強をし、スプリンクラーなどをつけ、障害者が昇降可能な負荷設備も導入する」と明言した。

 後日、あらためてこの件について名古屋市に問い合わせると、「地震に対する安全性や災害時の避難に要する設備については付加し、大天守の5階から4階には救助袋式避難ハッチを、4階から3階には階段を1カ所付加する」「それらは構造を変更することなく、取り外せば昔のままの状態になるようにして文化庁のいう復元基準を達成したい」との返答があった。

 つまり河村市長がこだわる「昔のままの復元」ではなく、耐震・耐火で避難用階段などが追加され、昇降装置がついた木造天守を造る計画であることが初めて明らかになったわけだ。これは「復元的整備」であり「復元」ではないだろう。しかしこうしたことはほとんど報道されておらず、そのためか、すでに市民の関心も薄くなってしまった。

選挙の争点にならなくても…

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木造建て替えを推進する集会でバンザイする河村市長と支援者ら(2016年7月、筆者撮影)

「いよいよ実現!名古屋城木造本物復元」「事業前進」――。

 自身がこだわる「昔のままの復元」「天守取り壊し先行」を文化庁が許可する見込みはほとんどなくなっている河村市長は、今回の市長選の政策の片隅で、こう書いている。一方、対抗馬である元自民党市議の横井利明氏も、小さく「4年間完全停滞した木造復元事業を実現」と書いているだけ。横井氏は木造復元には賛成してきたが、これまでの経緯などから、文化庁が建て替え許可の検討を始めるまでにはまだまだ相当な時間がかかることをよく理解しているからこそ、目立たないように書くしかなかったのだろう。 

 名古屋城木造復元事業の事業費は505億円超とされ、市はこれを市債でまかない、入場料で返済する計画だった。しかし、50年間、月平均で約30万人以上もの入場者を集めないとこの計画は実現できず、昨今の情勢を見る限り、現実味はない。

 その一方で、2019年度末までに、すでに69億6800万円あまりがこの事業に投じられており、既に購入済みの2000本を超える木材の保管費用だけでも年間約1億円が必要だ。しかも木材の購入は今も続いている。実現の目処もたたないまま経費だけがかかっている状態だ。

 名古屋城の木造復元問題は、市民の関心が薄く、今回の選挙戦の大きな争点にはならないかもしれない。しかし、候補者、そして次期の名古屋市のかじ取り役が何らかの結論を出さなければならない問題であることは間違いないだろう。

(歴史ライター・水野誠志朗/nameken)

   *

 4月11日告示、25日投開票の名古屋市長選を前に、河村市政の12年を検証する連載。第2回は、名古屋城の木造復元をめぐる問題を振り返った。最終回となる第3回は、本来、首長にとって重要なはずの防災や環境などについて考えていきたい。




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