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録音した「ぶら下がりに行くぞ」…超老老介護の自殺幇助(2021年4月8日配信『産経新聞』)

キャプチャ
自殺幇助事件の現場となった公園の鉄棒=大阪市東成区

 大阪市東成区の公園で昨年11月、手押し車に妻=当時(80)=の遺体を乗せて運ぶ男(85)の姿が目撃された。「将来を悲観した認知症の妻の自殺を手助けした。自分も死ぬつもりだった」。逮捕後の調べに男はそう明かし、弁護側も「超老老介護」に疲弊し、やむにやまれぬ思いで心中を図った事件だとして裁判所に情状酌量を求めた。ただ、検察側が読み上げた息子や娘の意見陳述書には、男に妻の後を追う意思はなく、父のモラハラが母に死を強要したとつづられていた。

5年前に認知症発症

 「高齢の男性が手押し車に女性を座らせて運んでいるが、何かおかしい」

 昨年11月23日未明、110番を受けて公園に到着した警察官は、意識不明の状態の女性を手押し車の上で発見。首にはひもで絞められたような痕があり、病院で死亡が確認された。大阪府警は近くにいた男を殺人容疑で逮捕。その後、大阪地検が自殺幇助(ほうじょ)の罪で起訴した。

 大阪地裁で開かれた公判に男は車いす姿で入廷。約5年前に認知症となった妻と2人暮らしで、自宅介護を続けていた▽先が見通せず2人で自殺を決めた▽準備したひもを鉄棒にかけて妻の自殺を手助けした-ことなど、事件の経緯を説明する検察官の言葉をうなずきながら、落ち着いた様子で聞いていた。

 だが、次の公判では様子が一変。検察官が息子らの意見陳述書の読み上げに入ると、男は車いすの肘掛けの上で腕をぷるぷると震わせ、怒りをあらわにした。

日常的に妻を服従


 《被告(男)の言うことはほぼすべてが嘘。自分自身は自殺するつもりはなかった》《母に自殺願望はなかったが、(被告に)「死ねといわれている」と話していた》《モラハラのDV殺人だ》

息子らによると、男は日常的に妻を服従させており、「年寄りは早く死んだほうがいい」「自分の人生は自分でけりをつける」と公言してはばからなかった。息子らは介護が必要な母を心配し、施設の利用や家族によるサポートを勧めたが、男はかたくなに拒絶した。長女は「2人きりの生活で、母は『死にたい』と思いこまされたのではないか」と推測する。

 法廷では、男がICレコーダーでひそかに録音していたという事件当日の様子も、反訳した上で詳細に読み上げられた。

 妻《死にたい。私だけが死んだらいいんか》

 男《ぶら下がりに行くぞ。もう行かなあかん》

 男《ここに首入れろ。ちゃんと首入ってるか》

3世帯に1世帯の割合に

 法廷で男は、録音した理由について「死ぬことを強要したわけではなく、妻自身が自分で死を選んだことを残しておきたかった」と説明。「介護にくたびれ過ぎた。もう終わりたい、妻も終わりたいはずやと思った」とも語った。

 検察側は、「自殺の準備はすべて被告(男)が行った。被告(男)の関与がなければ妻は自殺しなかった可能性がある」と厳しく指摘。これに対し弁護側は、男が妻の介護を一手に引き受けた経緯を訴え、寛大な判決を求めた。

 地裁は今年3月、「自殺の遂行を主導し果たした役割は大きい」としながらも、「介護に疲弊していたことは否定できない」として懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。

 厚生労働省の調査によると、この夫婦のように介護する側とされる側がともに75歳以上となる「超老老介護」の割合は令和元年、家族間で介護する世帯の中では過去最高の33・1%を記録。介護をめぐる問題は、もはや人ごとではない時代になってきている。




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