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ニンジンジュース出し続け、夫の叫びで目が覚める…善意だから歯止め聞かない「寄り添いハラスメント」(2021年4月10日配信『AERA.com』)

荒川龍

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谷島さん(左奥)が大阪市内にひらいた社会実験カフェバー「カラクリLab.(ラボ)」。がんをカジュアルに語れる場所として人気だが、現在はコロナ禍で休業中(写真:谷島雄一郎さん提供)

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「スキルス胃がんの患者会を作りたい」という故・轟哲也さん(左)の気持ちに寄り添い、妻の浩美さんは尽力。哲也さんの遺志を継ぎ、がんについて正しく知る大切さを伝えている(写真:本人提供)

 身近な人ががんなどの病気になった場合、助けになりたいと思うのはごく自然な感情だ。だが、善意から発せられた「両親より先に死ぬのは親不孝」「弱気になってはダメ」「これで治る」という言動が、相手を傷つけることもある。AERA 2021年4月12日号の記事を紹介する。

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「寄り添う」とはどんな意味ですかと聞かれたら、多くの人が「困っている人を支えること」、あるいは「体をぴたりとそばに寄せること」と答えるはずだ。いずれにしても、善意にあふれ、繊細で、やさしい印象が強い。しかし、大阪ガス勤務でがん経験者の谷島雄一郎さん(43)は、こう語る。

「『寄り添う』の延長線上にある励ましや共感、忠告は、相手が善意のつもりであっても、がん経験者や家族が傷つけられることがあります。つまり、寄り添われる側から見れば、時に諸刃の剣にもなりかねない、正解がなくて、悩ましい言葉なんです」

 谷島さんががんと診断を受けたのは、34歳のとき。長女の誕生に際し、生命保険を手厚くしようと受けた健康診断で発覚し、10万人に1~2人程度の希少がんであるGIST(消化管間質腫瘍)と診断された。

 長女誕生の4カ月後には肺に転移。翌年1月に食道を全摘し、肺も一部切除したが、約1年後に再発した。以降、谷島さんは計6回の手術を経験。完治の望めない現状だから、年3、4回の定期検診の前後は、特に神経が過敏になる。そんな時は身近な人であれ、見ず知らずの他人であれ、善意のつもりで発せられた言葉に傷つくことも少なくない。

 約7年前のこと。谷島さんはがんのイベントに参加した際、面識のない年配の女性から「私の夫もがんになりましたが、克服できました。ご両親より早く死ぬのは本当に親不孝だから、頑張ってください」と話しかけられた。

 他人から言われるまでもなく、幼い娘や妻を遺し、両親より先に旅立つ可能性は、もっとも直視したくないものだった。彼はざわつく気持ちを抑えて「頑張ります」と答えた。

■「頑張ります」「ありがとう」無難に対応するしかない

 大抵の場合はそこで話は収まるのだが、その女性は眉間に小さなしわを寄せてこう続けた。

「私には20代の一人息子がいて、その存在は本当にかけがえない。そのせいか、谷島さんのご両親のご心配もすごくわかる気がして、だからがんに絶対に負けないでほしいんです」

 谷島さんはその執拗さにカチンときて、つい反論してしまったという。

「お気持ちはうれしいんですけど、両親より先に死ぬかどうかは、僕がいくら頑張っても、どうしようもないことですよね?」

 努めて穏やかな口調でそう伝えると、やっと相手も気づいたらしく、バツが悪そうな表情になって黙り込んだ。谷島さんはこう振り返る。

「善意の発言だとは思いますが、そう言われた僕がどう感じるのかまでは想像できてないんです」

 こうした経験は他にもある。たとえば、「がんは治る時代だから弱気になっちゃダメ」という言葉。そんなことは知っている。だが、自分には当てはまらないから、一時的な気休めは逆につらくなる。

 友人知人から送られてくる有名人のがん克服記事もそうだ。病状には個人差がある。それなのに、部位もステージも違う人の記事に添えられた「救いになると思って」「支えになれば」という言葉に違和感を覚える。

「『自分はいいことをしてあげている』という陶酔感のようなものを感じることもあり、複雑な気持ちにさせられましたね」(谷島さん)

「大丈夫だよ、私なんて……」という発言もそうだ。がんを告白すると、自分の病気について語り始める人は少なくない。だが、悩みやつらさはその人固有のもので、他人の不幸話を聞いても心は軽くならない。

 谷島さんは2015年から、がん経験を新しい価値に変える「ダカラコソクリエイト」というプロジェクトを立ち上げ、がん経験者やさまざまな分野の協力者と共に活動している。そのなかでも「善意の言葉とわかっていても、傷つくことがある」「善意の押し付けがつらい」という話題になることがあった。

 19年に谷島さんが大阪市内に開いた不定期営業の「がんについて語らなくても、隠さなくてもいい」カフェバーでも、この話になった。善意なのであからさまには反論しづらい。だから「頑張ります」「ありがとうございます」と答えて、相手の感情を損ねずに無難に対応するしかない、というのが経験者の感想だった。

■相手の心に土足で踏み込む 自己満足だと気が付いた

 そこで谷島さんは、こうした周囲の言動を「寄り添いハラスメント」と命名し、がんの啓発活動を続けるグリーンルーペプロジェクト主催のウェブセミナーで今年2月に発表した。

「寄り添うことは肯定的な印象が強く、ハラスメント的な側面ががん経験者以外にはなかなか伝わりづらい。言葉を作ることで社会に広めていければと思いました」(谷島さん)

 身近にがんなどの病気の人がいた場合、自分の気持ちを押し付けず、いざというときに話しかけやすい雰囲気を作り、相手が不安に思う点を取り除いてあげるだけで寄り添いにつながると、谷島さんは語る。

「入院中の僕は、職場や家庭を失うかもしれないことが、最大のストレスでした。それに対して妻は『何があっても支えるから』、信頼する上司は『お金のことも含めて何でも相談しろ』と言葉をかけてくれました。それですごく救われました」

 がん研究会有明病院腫瘍精神科部長の清水研(けん)医師(49)は、このセミナーに出席し、「寄り添いハラスメント」という言葉を広めていく意義を感じたという。

「そもそも他人に寄り添うことは、とても難しいこと。善意であるために歯止めが利きにくく、時には相手を傷つけてしまうことさえあります。それらの注意点を社会で共有する上で、訴求力のある言葉だと思います」

 精神科医としてがん患者や家族を支える清水医師もまた、かつては「患者に寄り添うには、本人の気持ちを聞き出すことが必要」と思い込み、相手の心に土足で踏み込んでしまったという。

「患者さんのために試行錯誤してきたつもりでしたが、実際には自分が役に立てていないことを認めたくなかったのではないか、ただの自己満足ではないかと気づいたんです」

 現在は、患者に何かを提案する際は常に、「このことは本当に患者さんの役に立つのか、自己満足ではないか?」と自問自答を繰り返す。

「相手の気持ちがわからない間はもどかしいですが、『あなたを気にかけているし、手伝えることがあれば何でも言ってほしい』と伝えて、見守るほうが無難です」(清水医師)

 患者にとってもっとも身近な存在である家族も、「寄り添いハラスメント」とは無縁ではない。前出のグリーンルーペプロジェクト発起人代表である轟(とどろき)浩美さん(58)は、自身の経験をこう振り返る。

「今思うと、私も亡くなった夫に対してハラスメントをしていたかもしれません」

■ニンジンジュースを出し続け 夫の叫びで目が覚める

 轟さんは16年、スキルス胃がんで夫の哲也さんを54歳で亡くしている。主治医から「余命は月単位」と言われたのは13年12月だった。

「私だけは夫の命をけっして諦めない。どんなことがあっても彼を助けようと思いました」(轟さん)

 自分の料理や健康管理に原因があったのではないか、そんな自責感情にも苦しめられた。その失敗を取り返そうと、轟さんは告知後の半年間で、“がんに効く”というキノコや海藻類、無農薬のニンジンジュースなど10以上の民間療法を手当たり次第に試した。

「本を乱読して探すんですが、周囲からも善意で『〇〇ががんに効くらしい』という情報が寄せられました。私の情報と重複するものがあると、『やっぱり○○はいいんだ!』と思い込んだりして。玉石混交の情報にどんどん溺れていきました」(同)

 夫は妻がすすめるものを、黙々と食べ続けた。だが、胃がんの症状が出る中、ニンジンジュースを毎日2、3杯飲み続けることは、体の負担でしかなかった。抗がん剤治療の副作用で口内炎だらけになり、痛みで口を開けられないこともあった。それでも轟さんは、毎日何本ものニンジンをミキサーにかけ続けた。痩せて体力が落ちた夫はある夜、ニンジンジュースを作る轟さんに向かってこう叫んだ。

「いい加減にしてくれ! 君は誰のためにやっているんだ。僕のことなんて見てないじゃないか。お願いだから病気を、治療を、科学を理解してくれ」

 轟さんは驚きのあまりに自宅を飛び出し、街を一晩中さまよった。夫に寄り添っているつもりが、寄り添ってくれていたのは夫のほうだった。彼は「妻に後悔が残らないように」と無理をしていたのだ。自分の愚かさをただ噛みしめるしかなかった。

「夫を失いたくないという一心で頑張っていたつもりでしたけど、実際には私は自分がやりたいことを次々と試していただけだったんです」

 轟さんは夫が望まない民間療法はやめ、今度こそ本当に彼に寄り添おうと決心した。スキルス胃がんの患者会設立に向けて動き始めた夫に協力し、14年10月に「希望の会」を発足。その後はNPO法人となり、夫の他界後は彼女が理事長を引き継いだ。夫は亡くなる20日前まで講演活動を続けたという。「彼は社会に爪痕を残そうとしていました。彼が命をかけた活動を共に進める日々は、まさに二人三脚でした。その人の考えを尊重し、信じて、見守ること。転びそうになったらさっと支える。それが本当の意味で、寄り添うことだと学びました」

 困っている相手がいたら、助けてあげたい、力になりたいと思うのは自然な感情だ。だが、それを相手が望んでいない場合は、ストレスを与えることになる。前出の谷島さんは、病気に向き合う人に接する際の心構えを、次のように話す。

「自分がしたいことではなく、相手のストレスを取り除き、望むことの手助けをする。がんだけでなく、すべての病気や人間関係において、言えることではないでしょうか」(谷島さん)

(ルポライター・荒川龍)

※AERA 2021年4月12日号




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