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水俣病の健康調査 いつまで先延ばしするのか(2019年8月31日配信『熊本日日新聞』ー「社説」)

 国が不知火海周辺住民の健康調査を実施しようとしない中、公式確認から63年を過ぎても、水俣病被害の全容は一向に明らかになっていない。このほど判明した水俣病特別措置法(特措法)を巡る裁判の資料によって、そのことが改めて浮き彫りになった。

 特措法で定めた健康調査をいつまで先延ばしするつもりなのか。国の姿勢は、もはや行政の「不作為」と言われても仕方がない。早急に調査を始めるべきだ。

 資料は、未認定患者の救済策を定めた特措法を巡る裁判で、被告側の国と熊本県が熊本地裁などに提出。救済策が対象とする地域以外のエリアで救済された人たちの居住地が、多数記されていた。

 県はこれまで地名の詳細を明らかにせず、総数を「3761人」と公表。具体的地名が分かったのは初めてだ。注目すべきは不知火海沿岸だけでなく、山間部なども含まれていたことである。

 資料から第一に指摘できるのは、最初の対象地域の線引きに無理があったということだ。蒲島郁夫知事は28日、救済の対象地域について「過去の訴訟の和解所見や被害者団体との協議を踏まえて決めた」と強調した。だが、その線引きは基本的に、認定患者の存在を基に決められたものである。

 水俣病事件では、病気発生地の共同体の中で認定申請を抑制する力が働いてきた。原因企業への配慮、漁業への風評被害や差別などを避けるためだ。被害はあっても本人が名乗り出なければ、患者が発生したことにはならない。だからこそ被害の全容把握には積極的な調査が必要になるが、それが実施されていないこともあって、現実の被害が常に行政の想定を上回ってきた。

 直近の特措法でもそれは繰り返された。線引きの外とされたことで「魚の多食」を証明できず、救済から漏れた人たちが裁判で国・県と争っている。

 第二に対象地域外の地名の特定によって、山間部での被害が裏付けられた。例えば芦北町の黒岩地区や鹿児島県伊佐市には、行商人や旧国鉄線のルートによって、不知火海の魚が流通したとされてきた。そこで生まれ育った人たちが救済されたことで、端的に被害の広がりが確認された。県は今回の資料で全地名を明らかにしたわけではなく、原告側が質問した地点に限って該当者数などを回答した。被害解明を進めるためには、全ての地点を開示すべきだ。

 こうした特措法救済の結果により、健康調査の必要性はさらに高まったと言えよう。2009年施行の特措法は、不知火海周辺の住民をくまなく対象とし、被害の広がりを探る調査を「速やか」に実施・公表するよう政府に課した。だが環境省は「手法を開発中」と称し、いまだに実施していない。

 すでに法施行から10年。被害者は一貫して早急な実施を求めてきた。不作為状態がこのまま続けば、国は新たな訴訟を抱えることにもなりかねない。責任を強く自覚すべきである。




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