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「生活保護の辞退届と知らず押印」視覚障害者が市と対立(2019年9月1日配信『朝日新聞』)


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松阪市役所に提出された「保護辞退届」の写し

 視覚障害のある三重県松阪市の男性(43)が、同意していない内容で代筆、捺印(なついん)がされた書類をもとに生活保護の申請を取り下げさせられた、と訴えている。市側は「同意を得たからこそ書類が残っている」との立場で、真っ向から主張が食い違う。何があったのか。

 男性によると、失明したのは約10年前で、ホームヘルパーなどの手を借りながらアパートで一人暮らしを送る。障害年金だけでは生活が苦しく、2014年7月、生活保護を申請した。

 ところが、受給決定の直後に民間の医療保険を解約し忘れていたことがわかり、支給を打ち切られた。このため、保険を解約した上で、15年11月に再び生活保護を申請した。

 翌12月、市職員らが男性宅を訪れ、「離れて暮らす母親の援助が受けられるはずだ」と説明し、申請を取り下げるよう求めた。この際、1枚の文書がヘルパーの代筆で作られた。

 文書のタイトルは「保護辞退届」。「母がこれまで通り援助してくれるため、生活保護の申請を取り下げる」という内容と男性の名前、代筆者であるヘルパーの名前が全て手書きで書かれ、男性の押印がある。

 だが、男性は自らの意思を反映したものではない、と主張する。

 「元々母から援助を受けられないから、生活保護の申請が通ったはず。それなのに、今回は母が援助をすると言っているという説明が信じられなかった」

 申請の取り下げを求める市側に対し、納得のいかない男性は「それなら『却下』の手続きをしてほしい、と伝えた」と言う。却下であれば、行政の手続きとして不服の申し立てができるからだ。「その場で文書の読み上げはなく、てっきり却下の書類だと思っていた」と話す。

 後日、トラブルを相談した県議から「却下ならその場でサインを求められるはずがない」と聞いて情報公開請求したところ、文書が辞退届だったと知った。

 市側の見解は異なる。

 生活保護を担当する保護課は「当時のやりとりは確認のしようがない」と前置きした上で、「第三者のヘルパーが代筆していることからも、男性が納得していることがわかる。対応に問題はなかった」と説明する。あらためて経緯は調べない考えだ。

 同市では、生活保護の受給要件を満たさないことが判明した場合、自主的に取り下げてもらうことが大半で、却下の措置を取ることはほとんどないという。

 代筆をしたヘルパーは取材に「辞退と却下の違いが分からず、特に注意を払うべきものだとは思わずに書いてしまった」と話す。

 詳しい弁護士の見解は

 生活保護に詳しい森弘典弁護士(愛知県弁護士会)は「一般的に、トラブルを避けたい役所は不服申し立てがされる可能性がある却下を避け、辞退届を書かせる傾向がある」と話す。今回のケースについては、「本人が却下を求めているのであれば、公正なやり方ではなかった可能性がある」と指摘する。

 厚生労働省の通知では「『辞退届』が有効となるためには、それが本人の任意かつ真摯(しんし)な意思に基づくものであることが必要」と明記されている。森弁護士は「点字で書いてもらったり、職員が説明をしたことを示すメモを残したりするなどの対応が必要だった」と指摘する。

 視覚障害者団体でつくる日本盲人会連合によると、日常生活では自筆で署名を求められる場面が多く、代筆、代読に関する相談が多く寄せられているという。

 自らも視覚障害者で、会長を務める竹下義樹弁護士(京都弁護士会)は、トラブルを防ぐため、複数の立会人による代筆、代読の実施や、司法書士や行政書士など一定の資格者による代筆、代読を提案する。

 特に、権利義務に関わる契約書などを当事者に説明する場合、法的な知識は不可欠だと指摘。「正しい知識があり、責任を負える人が代行する制度があればトラブルは激減するはず」と話す。




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