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両陛下に伝えた「正直に生きる」 水俣病語り部の願い(2019年4月30日配信『朝日新聞』)

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水俣病の犠牲になった祖父の写真を示す緒方正実さん=2019年4月18日午後4時29分、熊本県水俣市の水俣病資料館

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水俣病資料館を訪れ、語り部の会の緒方正実さん(右)の話を聞く天皇、皇后両陛下=2013年10月27日午後3時38分、熊本県水俣市

 「代替わり」する5月1日、水俣病は公式確認から63年を迎える。天皇、皇后両陛下はかつて熊本県水俣市を訪れ、患者の声に耳を傾けた。そのとき言葉をかけられた患者の一人は、自身の生き様を語り継いでいく決意を新たにした。

 「原因企業チッソだけが悪いとも、2歳の時に高濃度の水銀に汚染されているのを知りながら見捨てた行政だけが悪いとも思っていない。水俣病と向き合わず、ごまかし続けてきた私が一番悪かった……。これからは正直に生きます」

 語り部の緒方正実さん(61)は今月4日、5年半前に両陛下に伝えた言葉を、水俣市を訪れた熊本県の新規採用職員に明かした。水俣病と向き合うまでに長い時間を要した自分に誓った「正直に生きる」という講話のテーマは、あの日から変わっていない。

 両陛下は2013年10月、「全国豊かな海づくり大会」で初めて水俣を訪れた。水俣病資料館で患者や家族と懇談し、緒方さんが代表して約17分間、講話をした。その年の春に「両陛下にお伝えしたいことがある」と関係者に頼んだところ、「ぜひ語り部の講話を聞かせてほしいとのことです」と返事があった。原稿をまとめて宮内庁側に伝えた後、県を通じ、天皇陛下の意向として「緒方さんの人生でつらかったこと、緒方家のことをお聞きしたい」と話が進んだ。

 「日本が戦後復興をめざすなか、経済を優先し、尊い生命を犠牲にしてしまったことは、日本の失敗だと思います」「水俣病はいろんな問題を残し、決して終わっていないことを知っていただきたい」

 両陛下と自分のイスの間は1・7メートル。まばたきもせず、時にうなずき、時に悲しそうな表情を見せながら静かに聴いてくれた。「まだつらかったことがあると思います」と問いかけられているように思え、「同じ人間として、向かい合っていただいた」と感じた。

 講話が終わり、天皇陛下が口を開いた。「やはり真実に生きるということができる社会を、みんなでつくっていきたいものだと改めて思いました」「今後の日本が、自分が正しくあることができる社会になっていく、そうなればと思っています」。1分ほどの言葉。まさか、そして思った。

 「正直に生きるという水俣病を乗り越えるための生き方を、認めて下さった」
     ◇
 平成が始まった1989年、緒方さんは建具職人として独立し、市内に新居を構えた。当時31歳。祖父は激しいけいれんを伴う急性劇症型の水俣病で死去。父親も認定申請の準備中に心不全で亡くした。自身もしびれや頭痛に悩まされたが、差別を恐れ、水俣病の話題は一切口にしなかった。新聞に水俣病訴訟の記事があると、抜き取って家族に見せなかった。

 そんな姿勢を変えたのは、長女の一言だった。教師をめざす長女には幼い頃から「正直に生きなさい」と声を掛けて励ましてきた。大学進学が決まった長女から告げられた。「お父さんも正直に生きてね」

 自分の水俣病と向き合わず、娘に正直に生きなさいと言う私は何なのか――。

 96年、水俣病被害者に対する政治解決策に申請したが、非該当。公害健康被害補償法に基づく患者認定を初申請した97年以降、申請は4度棄却され、その後国の不服審査会で逆転裁決。患者認定された2007年に語り部となった。以来、講話は600回を超えた。苦しかったことや失ったことだけでなく、さまざまな人との出会いがあったことなども伝えてきた。

 「両陛下が被災地や水俣病患者に寄り添われたことは、どれだけ救いになったか計り知れない」と言う緒方さん。即位を控える皇太子さまと雅子さまへも思いをはせる。「一度、水俣を訪問して肌で感じてほしい」。もし、その願いがかなったら……。

 「私に限らず、水俣病の事実と真実を聞いていただきたいと思う一人です」
     ◇
 毎年5月1日に営まれる水俣病犠牲者慰霊式は新天皇の即位日と重なるため、今年、日程を10月19日に変更。1日は例年会場となっている水俣病慰霊の碑前に献花台が置かれる(午前10時~午後2時)。患者団体「水俣病互助会」の慰霊祭は今年も1日午後1時半から、水俣市袋の「乙女塚」で。犠牲となったすべての命に祈りを捧げる。

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水俣病慰霊の碑(碑文)
不知火の海に在るすべての御霊よ
二度とこの悲劇は繰り返しません
安らかにお眠りください








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Author:gogotamu2019
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