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「身の丈」発言/文科相にふさわしくない(2019年10月31日配信『神戸新聞』ー「社説」)

 教育の機会均等に責任を負う行政のトップとして許しがたい発言だ。

 萩生田光一文部科学相が、2020年度から大学入試共通テストで導入される英語の民間検定試験で「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」とテレビ番組で述べた。

 民間試験を巡っては、家計状況や居住地によって不公平が生じるとの懸念が根強い。その点を質問された際の答えである。ネット上で「貧乏人は高望みするなということか」といった反発が広がり、きのうになって発言を撤回した。

 撤回して済む問題ではない。受験を控えた高校生や保護者の不安をあおった責任は重い。批判を真摯(しんし)に受け止め、問題点の改善に全力を挙げるべきだ。当事者の不安解消に努めねばならない。

 英語の民間試験は、文科省が認定する6団体7種類から一定期間内に2回まで受けられる。受験料が2万円を超える試験があったり、会場が都市部に限られたりするため、都会に住む高所得世帯の生徒が有利になる可能性が指摘されている。

 萩生田氏は同番組で、裕福な家庭の子は練習のため何度も受けられるかもしれないと認めた上で、「『あいつ予備校に通ってずるい』というのと同じ」との見方も示した。経済事情による不公平は仕方ないといわんばかりだ。

 教育基本法は、憲法に基づき「国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならない」と定めている。その執行を担い、格差是正に努めるべき文科相にふさわしいのか、閣僚の資質を疑わざるを得ない。

 萩生田氏は今月初めにも、民間試験の活用方針が未定の大学が多いことに関連して「初年度は精度向上期間だ」と発言し、受験生を実験台にするつもりかと批判を浴びた。

 一連の発言は、萩生田氏の見識不足だけでなく、入試制度そのものが抱える不公平さをさらけ出す結果となった。懸念が解消されないまま導入に突き進めば、犠牲になるのは受験生である。

 全国高等学校長協会は、民間試験の問題点が解消される見通しが立たないなどとして開始の延期を求めている。導入見送りも含めて、再検討する機会ではないか。

 そんな中、河野太郎防衛相から相次ぐ台風被害に関連し「私はよく雨男と言われた。防衛相になってから既に台風は三つ」との発言が飛び出した。多くの死者・行方不明者が出ているというのに軽率すぎる。

 不安や苦しみに直面する人たちへの思いやりに欠ける点で、萩生田氏と共通する。安倍政権の緩みは極めて深刻だ。



プロジェクト不滅の法則2019年10月31日配信『神戸新聞』ー「正平調」)

 「ともしび」という詩がある。作者は岡山市に住む草野詔子さん。5年前の神戸新聞文芸で、詩部門の特選になった

◆長い戦争が終わった夜、家々に明かりがつく様子を描き、こう続けている。〈いつの時代も/裸電球さえ/換えたことのない人が/大事な事を決める〉。世情を知らない政治への不信と読んだ

◆萩生田(はぎうだ)文科相の「身の丈」発言が波紋を広げる。大学入試共通テストで導入される英語の民間検定試験を巡る発言だ。暮らし向きや住んでいる場所で不公平になるのに、「身の丈に合わせて頑張って」はない

◆文科相は発言を撤回して終わりにしたいようだ。これでは教育現場や受験生は最初から最後まで置いてけぼりである。裸電球さえ…ではないが、現場の苦労を知ることなく大事なことを決める。やりきれない話だ

◆細菌学者・野口英世の逸話を思い出す。成績がいいのに、家が貧しくて進学できそうにない。そう知った人が学資などを工面し、道が開けた。可能性の扉を開ける機会がどれだけ大事か。そう教わる話である。さて新制度に設けた扉はみんなに公平か

◆霞が関に「プロジェクト不滅の法則」がある。一度決めると止まらないという法則だ。でも、今回はちょっと止めよう。若者たちの人生がかかっている。




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