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首相秘書官の差別発言、なぜ毎日は「オフレコ破り」できたか 過去に「首相の頭が悪いから」「放射能つけたぞ」など(2023年2月8日配信『NEWSポストセブン 』)

 性的少数者や同性婚をめぐる差別的な発言があったとして、岸田文雄首相は首相秘書官だった荒井勝喜氏を更迭した。問題の発言は、2月3日夜に記者約10人が参加していたという「オフレコ取材」で飛び出したものだった。記者団が「録音・録画しない」「発言内容を実名で報じない」を前提とした場での発言だったが、毎日新聞が報じたことで公になったのだ。

 問題発言を報じた毎日新聞の〈オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」〉(2月4日配信)によると、オフレコ取材は毎日新聞を含む報道各社の記者約10人が参加していた。岸田首相が2月1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について「社会が変わってしまう課題だ」と答弁したことについて質問された流れで、荒井氏が発した。一連の発言を現場にいた毎日新聞政治部の記者が首相官邸キャップを通じて東京本社政治部に報告し、本社編集編成局で協議した結果、重大な問題だと判断したという。だが、オフレコという取材対象と記者との約束を破ることになるため、荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、2月3日22時57分に記事をニュースサイトに掲載。荒井氏は3日深夜に再度、オンレコで記者団の取材に応じ、発言を撤回、謝罪した。

 政権中枢の取材対象との関係よりも、重大な問題を広く報じることを選んだ毎日新聞の「オフレコ破り」には、賛否の声があがっている。全国紙の元政治部デスクが語る。

「今回報じられた発言は、同性婚について岸田首相の『社会が変わってしまう』発言を解説する首相秘書官の発言として見過ごせないものでした。政治家発言の揚げ足取りのようなものではなく、むしろその場にいた毎日新聞の記者以外は問題意識を抱かなかったのかと驚きです。オフレコ破りとはいえ、事前に荒井氏に報道する旨を通告するなどプロセスも踏んでいますし、よくやったと思います。

 もっとも、最初に報じた毎日新聞の記事には現場にいた記者ではなく官邸キャップの署名がついていますが、オフレコ取材の場にいる記者たちは中堅以下がほとんどです。本来は、その場で問題発言について真意を問う、抗議をするなどして議論すれば違った形にできたはずですが、定例化したようなオフレコ取材に慣れきった記者だと、即座に反応することはできないのが実情です。さらにそれを報じるとなるとハードルは高い。

 こうしてオフレコを報じることの是非や、オフレコ取材の功罪については、過去にも議論が紛糾しています」

 これまでも、政権幹部のオフレコ取材の内容が報道され、騒動になったケースはあった。

 1995年10月、防衛施設庁長官が記者団とのオフレコの記者懇談で、沖縄の米軍基地強制使用問題について「(当時の村山富市)首相の頭が悪いから」と発言したことが報じられ、辞任した。同年11月にも総務庁長官がオフレコ懇談で「植民地時代、日本は韓国に良いこともした」と発言し、長官を辞任した。

 2002年には福田康夫官房長官(当時)がオフレコの記者懇談で「非核三原則」見直しに言及したことが「政府首脳」発言として報じられ、後に自身の発言だと認めた。

 続く2009年3月、漆間巌官房副長官(当時)がオフレコ懇談で西松建設の巨額違法献金事件の捜査について「自民党議員に波及する可能性はないと思う」と発言した。

 2011年はとくにオフレコ取材に関する議論が活発化した年でもあった。同年7月、松本龍復興担当相(当時)が宮城県庁で知事と会談する際、先に応接室で待たされた格好になった松本氏が「お客さんが来る時は、自分が入ってからお客さんを呼べ」と発言した後に報道陣に「今の最後の言葉はオフレコです。いいですか? 皆さん。書いたらもうその社は終わりだから」と“オフレコ恫喝”した。東北放送(TBS系)が先陣を切り、連日大きく報じられる事態となった。被災地訪問での「知恵を出さないやつは助けない」発言などの問題もあり、就任してわずか9日で引責辞任となった。
 
 同年9月、福島第1原発周辺の視察を終えた鉢呂吉雄経済産業相(当時)が東京・赤坂の衆院議員宿舎玄関ホールで記者団に「放射能をつけたぞ」という趣旨の発言をし、フジテレビが最初に報じた。鉢呂氏は会見での「死の町」発言もあり辞任した。

 同年11月には、当時の沖縄防衛局長が飲食店での記者懇談で、米軍普天間飛行場の辺野古移設に関して「犯す前に、犯しますよと言いますか」と発言したことを、翌日に琉球新報が報じた。オフレコ発言だが、事前に沖縄防衛局に通告した上で、報道に踏み切ったという。その後、全国紙が裏付け取材などをして同日夕刊で報じた。

 前出の元政治部デスクが語る。

「今回の秘書官の発言を報じた毎日新聞といえば、『桜を見る会』をめぐり安倍晋三元首相が追及を受けていた2019年11月と12月に飲食店で行なわれた安倍首相と内閣記者会(首相官邸記者クラブ)の記者との懇談会に、朝日新聞、読売新聞、共同通信など大半の社が出席するなかで欠席したことが話題になりました。その理由については紙面(2020年1月4日付)で〈懇談会は完全オフレコが条件です。懇談会での説明で少しでもメディアの追及が弱まればとの狙いがあったと思いますが、我々は説明を求めている立場なので出席することはできないと判断しました〉と当時の政治部長が語っていました。毎日新聞は、オフレコを理由に言論を封じるようなことに否定的な姿勢です。

 どんなに公共性、公益性にかなう、報じるに値するような問題発言があったとしても、“オフレコ破り”はそれまで記者たちが築いた信頼関係を壊す可能性が高く、今後の取材にも影響するため、社内でも強い反発が出てきます。それでも行けという局の了承がないとなかなかできません。オフレコでも報じるべきか否か、今後もこの議論は続くでしょう」




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