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【大崎事件再審認めず】法改正議論 待ったなし 新証拠の評価、検察の抗告…日弁連「えん罪の防止・救済へ全力尽くす」(2023年6月7日配信『水俣病』)

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再審法改正の必要性を訴える大崎事件など再審事件弁護団のメンバーら=5月30日、東京都の日本弁護士連合会

 2023年に入って全国の再審請求審で大きな前進が見られた。2月に日野町事件(滋賀)で大阪高裁が再審開始決定を維持。袴田事件(静岡)は検察が最高裁への特別抗告を断念し、3月に再審が確定した。相次ぐ開始方向の決定が出る中で迎える大崎事件の福岡高裁宮崎支部の判断にも「追い風」が期待された。

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「不当決定」と訴え抗議の行進をする支援者=5日午前、宮崎市の福岡高裁宮崎支部

 5月30日、日本弁護士連合会が開いた報道向けセミナーには3事件の弁護団の一員らが集結した。日弁連再審法改正実現本部本部長代行で大崎事件弁護団の鴨志田祐美事務局長は「高裁の3事件の決定が再審法改正の大きな原動力になる」と意気込みを語った。

 刑事訴訟法に再審規定は19カ条しかなく、70年以上改正されていない。そのことがえん罪被害者の早期救済の障害になっている。証拠開示の問題や検察官の抗告など各事件を通して浮かび上がる課題からも明らかだ。各弁護団は実例を説明し、早期改正を訴えた。

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 大崎事件の最初の再審開始決定は21年前、第1次請求の鹿児島地裁(02年)で出されたが、上級審が取り消し、開かずの扉のままだ。3次では地裁(17年)・高裁支部(18年)と相次ぎ再審決定が出たものの、最高裁が抗告理由はないとしながら職権で調査し決定を取り消した。

 「最高裁の異例の手法で衝撃的な展開となった。下級審への影響は大きい」。元判事で袴田事件弁護団の水野智幸弁護士(法政大学法科大学院教授)は昨年6月、元裁判官10人の連名で4次請求を棄却した鹿地裁決定に抗議声明を出した。

 声明では、個々の新証拠の価値に限界があると指摘するだけで旧証拠との総合評価が不十分と批判。今回の高裁支部決定も「共犯者とされた親族の自白や目撃供述の信用性を強固と評価した最高裁決定を前提に結論ありきの感がある。地裁に続き正当に総合評価されていない」とみる。

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 最高裁が1975年に再審に関する原則を示した「白鳥決定」では、新証拠と他の全ての証拠を総合的に判断し、「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則を再審請求にも適用するとした。

 しかし、その後の判例では新証拠を単体で評価したり、新証拠と直接関連する旧証拠のみと再評価したりするなど解釈にブレがある。日弁連が2月に法務省に提出した改正意見書では、白鳥決定の趣旨の明文化を柱の一つに掲げる。

 請求が棄却された5日、日弁連は会長名で「到底是認できない。無罪への支援を続けるとともに、再審法改正、えん罪の防止・救済の制度改革に全力を尽くす」との声明を出した。

 長期間にわたって司法に翻弄(ほんろう)され続けている3事件の経緯を見るだけでも、法制度の不備は露呈している。法改正の議論は待ったなしだ。

(連載「届かぬ思い~大崎事件再審請求㊥より」)



大崎再審事件で、木谷明、石塚章夫、原田國男ら元裁判官が、鹿児島地裁棄却決定に抗議声明

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大崎事件の再審開始を認めなかった鹿児島地裁決定を受け、記者会見で抗議する元東京高裁判事の木谷明弁護士(右から2番目)ら(2022年6月22日、東京・霞が関の司法記者クラブにて。写真提供:時事通信社)

 6月22日、鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、大崎事件第4次再審請求について、再審開始を認めない判断をした。弁護団は6月27日、鹿児島地裁の判断を承服できないとして福岡高裁宮崎支部に即時抗告した。

 鹿児島地裁の判断に対して、このままでは司法の信頼が揺らぎかねないと強い危機感をもった木谷明、石塚章夫、原田國男ら10名の元裁判官が連名で、6月22日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見して、抗議の声明を出した。その中には、2014年静岡地裁で袴田事件の再審開始を決定した村山浩昭元裁判官もいる。

 同声明は、1980年代に免田事件など四大死刑再審無罪を導いた最高裁の白鳥・財田川決定──「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審請求手続にも適用されること、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、既に提出されている証拠(旧証拠)と新たに提出された証拠(新証拠)を総合して判断すべきこと──の意義を確認するとともに、棄却決定をつぎのように分析する。

 「個々の新証拠について証拠価値に限界があることを指摘するばかりで、旧証拠との総合評価を全くしていません。本件の旧証拠についてはこれまでの累次の再審請求審において多くの問題が指摘されてきており、その証明力自体が相当程度減殺されている状態でした。したがって、今回の新証拠とこのような旧証拠を総合評価すれば、違った結論に至るはずのものでした。このようなことが続けば、最高裁の白鳥・財田川決定が判例変更の手続を経ることなくして事実上変更されてしまうのではないか」という強い危機感を表明している。

 また、「『誤って有罪判決を受けた者を苦しみから救済する』という裁判所の崇高な使命の自覚を読み取ることができず、先の最高裁決定(第3次再審請求で、1・2審の再審開始決定を覆した決定)を深く検討することなく無批判に追従したものと考えざるを得ません」と厳しく批判している。

 このように、具体的な再審請求審の判断について、元裁判官らが批判的な声明を出したことはこれまでなかったことである。

 なお、再審法改正をめざす市民の会、日本国民救援会および日弁連がそれぞれ抗議声明を出している。

声明

令和4年6月22日
元裁判官有志一同

 本日、鹿児島地裁は、大崎事件第4次再審請求事件について再審請求を棄却する決定を下しました。

 今回の再審請求に先立つ第3次再審請求では、1・2審の再審開始決定が、こともあろうに、特別抗告審である最高裁によって覆されるという異例かつ衝撃的な展開でした。しかし、それにも拘わらず、今回の再審請求において弁護団から提出された新証拠は、被害者の死因に関する新たな有力な見方を示すなど、確定判決の事実認定に合理的疑いを惹起するに十分なものとみられていました。

 今回の再審請求を審理した裁判所は、弁護団の主張に耳を傾け誠実に審理を遂げたように見えました。しかし、今回示された決定文からは、「誤って有罪判決を受けた者を苦しみから救済する」という裁判所の崇高な使命の自覚を読み取ることができず、先の最高裁決定を深く検討することなく無批判に追従したものと考えざるを得ません。

 刑事裁判の最大の役割は「無実の者を処罰しない」ことです。多くの裁判官は、日常の実務において、このことを自覚して日常の仕事をしているものと信じます。しかし、「人間のする裁判に誤りはつきもの」であることを忘れてはなりません。優れた裁判官が十分慎重に判断したはずの事件においても、裁判官が「人間」である以上、誤りが生ずることは避けがたいのです。したがって、いったん処罰された者も、新たな証拠によって合理的疑いが生ずる限り、再審手続によって救済されるべきものです。確定した裁判の権威を護るために、無理やり再審請求を棄却するようなことは、絶対に許されません。

 最高裁の白鳥・財田川決定は、このことを意識して、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審請求手続にも適用されることを明言しました。その上で、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、既に提出されている証拠(旧証拠)と新たに提出された証拠(新証拠)を総合して判断すべきことをも明言したのです。

 ところが、今回の棄却決定は、個々の新証拠について証拠価値に限界があることを指摘するばかりで、旧証拠との総合評価を全くしていません。本件の旧証拠についてはこれまでの累次の再審請求審において多くの問題が指摘されてきており、その証明力自体が相当程度減殺されている状態でした。したがって、今回の新証拠とこのような旧証拠を総合評価すれば、違った結論に至るはずのものでした。このようなことが続けば、最高裁の白鳥・財田川決定が判例変更の手続を経ることなくして事実上変更されてしまうのではないかという強い危機感を抱きます。

以上

別紙「元裁判官有志一同」名簿

青木孝之 弁護士 元東京地方裁判所判事補(現一橋大学法学部教授)
石塚章夫 弁護士 元福岡高等裁判所部総括判事
井戸謙一 弁護士 元大阪高等裁判所判事
木谷 明 弁護士 元東京高等裁判所部総括判事(元法政大学法科大学院教授)
原田國男 弁護士 元東京高等裁判所部総括判事(元慶應義塾大学法科大学院教授)
水野智幸 弁護士 元千葉地方裁判所判事(現法政大学法科大学院教授)
村山浩昭 弁護士 元大阪高等裁判所部総括判事
森野俊彦 弁護士 元福岡高等裁判所部総括判事
安原 浩 弁護士 元松山家庭裁判所所長
八束和廣 弁護士 元横浜家庭裁判所所長

大崎事件第4次再審請求

 1979年10月15日、鹿児島県大崎町の自宅併設の牛小屋の堆肥置き場で、当時42歳で農業を営む被害者が遺体で発見された。被害者は、同月12日の夕方、酒に酔った状態で自転車事故を起こし農道脇の溝に転落していた。前後不覚の被害者は、同日午後9時頃近隣住民2名によって自宅に運ばれてきた。原口アヤ子さんが、アヤ子さんの元夫、義弟を含めた計3名で共謀して同日午後11時頃、被害者を殺害し、翌午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で牛小屋に遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫してアヤ子さんは無罪を主張していたにもかかわらず、「共犯者」とされたその余の3名の自白、義弟の妻の供述を主な証拠として、アヤ子さんに懲役10年の有罪判決が下された。アヤ子さんは服役後、再審請求をした。これまで2回の再審開始決定がなされたが、いずれも上級審で覆された。

 第4次再審請求で、弁護側は「絞殺ではなく事故死」との立場から、被害者は牛小屋に遺棄される前の午後9時には、すでに死んでいたとする救急救命医の澤野誠・埼玉医科大高度救命救急センター長の鑑定を提出した。アヤ子さんらが午後11時ごろ、タオルで絞殺したとする共犯者自白と死亡時刻という客観的証拠が一致せず、自白は信用できないとするものである。

 しかし、鹿児島地裁決定では、鑑定は解剖時に撮影された写真や解剖医の法廷証言から、推論を重ねて結論を導いていると指摘。事故で頸椎を損傷し自宅に運びこまれた時にはすでに死亡していた可能性は否定できないとして証明力を限定的に認めたものの、死因や死亡時間を決定的に推定できないとし、絞殺に合理的な疑いは生じないと判断した。

 また、近隣住民2名の供述に矛盾があるとする稲葉および大橋・高木鑑定も、同供述の信用性を減殺するものではないと退けた。





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