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死に方ってのは生き方です 永六輔「大往生」は今も問う(2019年11月23日配信『朝日新聞』)

 3年前、83歳で亡くなった永六輔さんの『大往生』。刊行から四半世紀を経てなお刷りを重ねるベストセラーは、高齢化がさらに進む社会に問いかけ続ける。あなたはどう死にますか。それまで、どう生きますか――。

いちどは断られたが

 「ありがとう。でも本を書くというのが苦手で……。ラジオ屋の永六輔」

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永六輔さん

 1992年5月、岩波新書の編集長だった坂巻克巳さん(72)のもとに、はがきが届いた。文面はこれだけ。執筆依頼への返答だった。

 「社員食堂での会話がきっかけです。前夜のテレビ番組で永さんが『明るい死に方講座』という題で話した内容が面白くて。笑わせて泣かせる話だった。同僚もたまたま見ていて、ぜひ本にすべきと言ってくれた」

 いちどは断られた坂巻さんだが、なんとか面会をとりつけたとき、永さんはすっかり乗り気になっていた。現在まで101刷、累計245万部という岩波新書最大のヒット作りはこうして始まった。

 「当初は死に方に絞ったのですが、永さんはそこに至る老いや病という過程をぜんぶ書いてきました。それこそが大往生なわけで、生活の質を保ったまま死ぬにはどうしたらよいかと考える内容になった。中高年の読者が、自分たちの本と受け止めてくれました」と、編集を手がけた井上一夫さん(71)は振り返る。

 刊行当時、女性の平均寿命は80歳を軽く超え、男性も70代後半に延びていた。90年刊の山崎章郎著『病院で死ぬということ』がベストセラーになり、91年には東海大病院安楽死事件が起きた。「延命治療」や、延命のため何本ものチューブにつながれるさまを表した「スパゲティシンドローム」といった言葉が社会的な関心を集めていた。

 書店では死についての本が一角を占めた。「その中でも庶民の言葉を集めた切り口が新しかった。暗さを感じさせない死生観が、ふだん本を手にしない人にもとっつきやすくて、新書の幅と読者層を広げました」。永さんと同い年の出版コンサルタント、能勢仁(まさし)さん(86)はそう分析する。

隣の部屋へ行くくらいの気楽さで

 ノンフィクション作家の柳田邦男さん(83)は「お坊さんが従容(しょうよう)として死に就くといった印象の『大往生』という言葉を、永さんはもっと軽やかで、日常的で、いわばふすまを開けて隣の部屋に行くくらいの気楽さで死を迎える、という意味で使ったんでしょう」と話す。

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柳田邦男さん

 1994年刊行のこの本は、時代のシンボルとしての役割を果たしたと柳田さんは言う。80~90年代、様々な人が闘病記を著すようになり、並行して医療者の側も終末期医療に取り組み始めた。

 その背景には、例えばがんの告知が当たり前になったり、医療界や国が緩和ケアの大切さに気づいたりといった医療現場の大きな変化があった。そうして一人ひとりが、自分はどのように死を迎えるかを考えるようになった。柳田さんはそれを「死を創(つく)る時代」と呼ぶ。

 「在宅ケアや在宅死も徐々に広がっている今日、『死を創る』ことの重要性はより大きくなっています。人生を大河物語ととらえて、その残された最終章をどう生き、どう死を迎えるか、そんな考え方がとても大事ではないでしょうか」

「ピンピンコロリ」が願い

 『大往生』から四半世紀。「老後2千万円問題」が示すように、高齢者を取り巻く環境は厳しさを増している。

 「夢をもってもいられない時代かもしれませんね」と語るのは千葉市の弁護士、渥美雅子さん(79)。アマチュアのシニア劇団「PPK48」を5年前に立ち上げた。「でも、最後まで夢と目標をもって生きてほしいんです」

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舞台の稽古をするPPK48のメンバー。週に一度、4時間に及ぶ稽古はハードだ=2019年11月、千葉市、大野洋介撮影

 「PPK」は「ピンピンコロリ」の頭文字。健康で長生きしたいという願いを劇団の名にとった。99歳から65歳までの23人が毎週木曜、稽古に励む。69歳の高橋清代表はまだ若手だ。「歌もダンスもセリフを覚えるのもけっこう大変。頭も使うし認知症予防にもなるかな」と笑う。

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舞台の稽古をするPPK48のメンバー。三波豊和さんが舞台の演出をしている=千葉市、大野洋介撮影

 「ピンピンコロリを世界語に!」。長野県飯田市に住む北沢豊治さん(79)の名刺には、そう刷り込まれている。この言葉の生みの親だ。

 高校の体育教師だった北沢さんは同県高森町に社会教育主事として派遣され、健康づくりやスポーツ振興に取り組んだ。「地域のお年寄りと話すと、健康で長生きして、死ぬときはあっさり死にたいと口をそろえるんですね。ピンピンコロリですねと私が言うと、そのとおりです、と」

 高齢者も日々の暮らしに取り込める体操を考案し、指導に努めた。79年、県の体育学会で「高森町におけるPPK運動」と題して発表。翌年には全国の学会でも発表した。

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「ピンピンコロリ」の生みの親、北沢豊治さん。長野県高森町の「ピンピンコロリ地蔵」の前で

 厚生労働省の2016年の推計では「ピンピン」と日常を過ごせる健康寿命は男性72歳、女性は74歳。平均寿命とはそれぞれ9年近くと12年余りの開きがあった。その間の生き方、支え方こそを考えるべきだとして「ピンピンコロリ」を批判する向きもある。

 だが「ピンピン」の時間を少しでも延ばそうと、お年寄りは今日も汗をかく。この夏も、北沢さんのもとには高知県の村から視察団が訪れた。「ピンピンコロリ」は今も高齢者をとらえて離さない。

 『大往生』に収録された無名人語録は191に上る。中にこんな言葉があった。

 「死に方ってのは、生き方です」

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「大往生」(岩波新書)

本の内容

 旅先などで聞いた名もない人々の言葉を集めた「老い」「病い」「死」の3章を軸に、いずみたく氏、中村八大氏ら逝った友を追悼する「仲間」、住職だった亡父に向けた「父」の計5章で構成。あとがきに代えて自分への弔辞を収めたのが著者らしい。

老いと寿命にまつわる戦後の出来事

1947年 平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳

 81年 がんが脳梗塞(こうそく)など脳血管疾患を抜き死因トップに

 94年 『大往生』刊行

2010年 国勢調査などにもとづく都道府県別平均寿命で、7回連続で女性の1位だった沖縄を長野が抜いてトップに。15年には、男性1位の長野を滋賀が抜いて初のトップになった

 12年 9月15日の「老人の日」に100歳以上になる高齢者が初めて5万人を突破する見通しと厚労省が発表

 16年 永六輔さん死去。83歳

 17年 65歳以上が総人口に占める割合(高齢化率)が27.7%に

 18年 平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳。老衰が脳血管疾患を抜いて死因3位に

 19年 16年の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳と厚労省が推計




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