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まるで犯罪者扱い「成年後見人」で地獄見た家族(2019年12月22日配信『東洋経済オンライン』)

認知症の夫を支える妻のあまりに過酷な現実

奥野 修司 : ノンフィクション作家


認知症の人を介護する家族の間で成年後見制度が大きな問題になっています。

ある日、家族が認知症とわかったら? かつては特別な人に起こる特別な出来事と思われていた認知症だが、その数は急速に増えてきており、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるという予測もあるほど。もはや、ひとごとではない状況になりつつあるのだ。

もしも親やパートナー、あるいは自分自身が、認知症と診断されたらどうするべきか。おそらく多くの人が、その時初めて認知症について真面目に調べ、考え始めることだろう。手っ取り早くネットで検索をかけ、対応方法を考えるかもしない。しかし、認知症の症状は十人十色、そしてその対応方法もまたさまざまなのだ。

ノンフィクション作家の奥野修司氏は、これまで多くの認知症当事者や家族を取材することで、認知症のリアルな実情、そして問題点を見つめてきた。家族がよかれと思ってした選択が、結果的に当事者や家族を不幸にしまう例も多くある。今回は、おそらく多くの人が信頼できる制度と思い込んでいる「成年後見制度」の問題点について、最新の著書『なぜか笑顔になれる認知症介護』より抜粋して紹介する。

誰も知らない成年後見制度の実態

認知症の人を介護する家族の間で成年後見制度が大きな問題になっている。

成年後見制度とは、認知症や精神障害があると判断能力が衰えるため、家庭裁判所の監督の下で本人を支援する制度である。そのために特定の人を後見人に選ぶのだが、後見人は本人に代わって財産管理(預貯金や現金、不動産の管理)と身上監護(施設入所の契約等、生活や看護の支援)を行うことになっている。

後見人の候補になれるのは家族や弁護士、司法書士、社会福祉士などである。

理念として、保護を受ける方の(1)自己決定権の尊重、(2)残存能力の活用、 (3)ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で普通に生活ができる)を挙げていて、なんとなくよさそうに見えるのだが、どうも現場は違うらしい。

地獄の成年後見制度

数年前のことだが、父親が認知症になって定期預金が解約できず、成年後見制度を使っていた友人がいて、「あれは地獄だよ」と言っていたのを思い出した。

そこで、今もこの制度のおかげで困っているという大阪府の山崎直子(仮名)さんに改めて聞いたのだが、話を聞いてあぜんとしてしまった。認知症のことを無視した法律によって、善意の家族が苦しめられているとしか言いようがないのである。

成年後見制度を使うきっかけ

直子さんのご主人がアルツハイマー型認知症と診断されたのは10年ほど前だった。証券会社に勤めるサラリーマンだったが、診断と同時に休職になり、数カ月後に退職させられたという。

成年後見制度を使うきっかけは単純だった。症状の進行でご主人がうまくしゃべれなくなり、自分の名前も書けなくなってきたとき、ふと、ご主人の実家の土地が兄妹で共有になっていたことに気づいた。兄妹仲は悪くなかったのだが、いずれ相続となったときにサインができなかったら困るだろうと思い、銀行に相談したら、後見人をつけたほうがいいと勧められたのである。

「とくに郵便局は、本人の確認がうるさいとも聞いていたし、後見人をつけたら、私が代理になって何でもコトが進むと思ったんです」

診断から6年経った2014年、直子さん自身が成年後見人候補として「申し立て」を申請した。ところが、裁判官が直子さんの後見人を認めたのは身上監護だけで、財産管理は司法書士を指名したのだ。これが直子さんの「地獄」の始まりだった。

「まず、預貯金はぜんぶ整理させられました。もちろん定期預金は解約です。かけたときの利息がよかったし、もう少しで満期になるから待ってほしいとお願いしたのに、解約させられて信託に預けることになりました。

昔、主人が私の体を案じてかけてくれた保険も、主人が払っているということで、4つのうち2つは解約させられました。私が倒れたら残された子供たちが困ると訴えたのですが、やはり駄目でしたね。のちに私は事故で腕をケガしたのですが、この時解約したせいで給付を受けられなかったのです。

また主人は、重度の傷害になったら一時金が出る保険をかけていて、私が受取人だったのに、これも主人の信託に入れられたんです。生活費に必要ですからといっても、後見人は認めてくれません。

私たちに残された口座は郵便貯金と銀行預金の2つですが、郵便貯金は介護費用の引き落としだけで、キャッシュカードは破棄させられ、自由に使えません。先日も間違って入金したら引き出せないのです。銀行の口座には予備のお金200万円だけ残し、年金と信託から毎月の生活費として15万円が振り込まれるようになりました。これが普段の生活に使える唯一の口座です」

「家族は悪いことをする」という決めつけ

これを決めたのが、後見人に指名された地元の司法書士だった。この司法書士、認知症のことも介護のことも知らない。なにしろ、認知症になったらお金をくすねられてもわからないから、家族は必ず悪いことをすると思っているのだ。

生活費として決めた月15万円も、山崎家がどんな生活をしているか、聞いたわけではなかった。2人の娘がまだ学生だから、月15万円ではかなり厳しかったという。

「スーパーに行っても、買おうかやめようか、そればっかり心配していました。半額セールのシールなんか付いていたらすぐ買いました。なるべくお金をかけないように、自転車で農家を回って野菜を買いに行ったこともあります。なんでこんなことをしないといけないのか、悔しくて仕方がなかったです」

直子さんは、定期預金を解約させられて損しただけではない。認知症に無知な司法書士に、後見人ということで年間30万円の報酬を払うことになったのだ。それだけではない。裁判所がご主人の症状の鑑定を求めたら〈費用は5万円から10万円程度〉払わなければならなかった。

まるで犯罪者扱いの日々

認知症になった人の財産を守る法律が、逆に財産をかすめ取っているようなものである。認知症の人を抱えた家族は、これからどんなお金がかかるかわからず、不安を抱えているのに、なんだかんだと高額の報酬を請求されるのはどう考えてもおかしい。直子さんが「まるで詐欺に引っかかったみたい」というのは正直な感覚だろう。

では、またそれに見合った制度になっているのかというと、直子さんは「とんでもない!」と憤った。

「認知症になっても、外出したら楽しいから、ときどき主人を外食に連れて行ったり、家族で旅行したりします。外に出ると、ほんとに目がキラキラしてくるんです。だけど裁判所は、食事代は割り勘で、預金から払うのは本人分だけ、というんです。

主人がドアを壊した時もそうでした。『あなたたちも一緒に生活してるんだから、ご主人だけの修理費と違います』なんて。電気代はどうするんですかと訊いたら、『使った割合で割って』みたいなことを言うから、バカじゃないかと思いました。

これまで主人の給料で生活してきて、私や娘がお金を持っているはずがないのに、どうやって払うんですか。すると、私が後見人になったんだから、申請すれば3万円もらえますよって言うんです。裁判所がくれるわけでもなし、結局は主人のお金ですよ。本人は守られても、家族が守られない制度なんですね」

まるで犯罪者扱いだ。たとえ家族でも、被後見人の財産を盗むかもしれないと考えるのだろう。「財産がらみで事件が起こっているのかもしれませんが、一律に同じようにされたら困ります」と直子さんは言った。

普段の買い物はもちろん領収書をもらって管理してるが、10万円以上は、逐一、裁判所にお伺いを立てなければならないという。

3カ月後に後見人変更を申し出た

後見人になった司法書士があんまり理不尽なことを言うので、3カ月経った時に、どれほど精神的につらい思いをしているかをるるつづったうえで、後見人の変更を申し出た。

新しい裁判官はさすがに事情を察したのか、財産管理も直子さんに変更してくれたそうだ。家族が後見人になると成年後見監督人(司法書士など)がつくことが多いが、直子さんは単独で後見人に選任された。もし監督人がついていたら、また20万円以上の報酬を支払わなければならなかっただろう。

では直子さんが後見人になって楽になったのだろうか。

「嫌な司法書士の顔を見ないですむことと、生活費が15万円から20万円になっただけで、お金が自由に使えないことは同じです。私たちのお金なのに、自由に使えないなんてほんとにバカらしいです。なんで『使っていいですか』と、他人にお伺いを立てないといけないのですか。

そのうえ通帳から株から生活費まで、全部誰かに見られているんです。それも自由に使えないように管理されている。裁判官の機嫌を悪くして監督人をつけられたら困るから必死にやってますが、なんとかしてほしいです」

抜けられないアリ地獄の制度

私は、「そんなに大変だったら、やめたいと言ったらどうなんですか」と言った。

「そりゃ、やめたいです。だけど、一度この制度を利用したら絶対にやめられない、アリ地獄なんです。やめることができるのは、裁判官と複数の医者が立会いのもとで、本人が『やめたい』と言ったときだそうです。だから『お父ちゃん、しゃべって!』と毎日手を合わせています。たった一回勘違いしただけで、生涯監視されるなんて、なんでこんな厄介なことに巻き込まれたんやろね」

本来、成年後見制度は介護保険制度とセットのはずだが、国が介護保険制度を準備している段階で知らなかったため、あわてて禁治産制度をベースに制度化したと聞いたことがある。それなのに、冒頭であげた「3つの理念」を掲げているのだから、なんともおかしな法律なのである。

直子さんの体験から学べるとしたら、家族の関係がごく普通なら、成年後見制度など利用すべきでないということだ。利用していいのは、家族の中によからぬ者が入り込み、財産を奪おうとしているときだけだろう。

それにしても、なぜ直子さんはいきなり「地獄」に放り込まれたのだろう。欠陥だらけの法律を放置してきた国に責任があるのはもちろんだが、銀行も直子さんも含め、この制度のことをあまりにも知らなすぎたからだ。知らないことは、思わぬ悲劇を招きかねないということである。



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内容紹介
■これだけで本人も家族もラクになる!■

超高齢化社会が進行する現在、もはや認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、誰にでも起こりうる身近な病気となっています。
認知症500万人時代はもう目前に迫っており、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるという予測もあります。
本書では、家族が認知症になった場面を念頭に、認知症介護でおきがちな失敗や勘違いを、実際の当事者たちの取材を通してリアルに紹介。知らないがゆえに失敗した例、後悔してしまった体験を紹介しながら、手遅れにならないための認知症への備え方、介護の対処の仕方を紹介します。


■「はじめに」より■

「認知症になったら介護が大変だ」というのはよく聞く話である。実際、家族の心労はとても大きく、それだけ苦労が多いのは事実だろう。だが、もしかすると、私たちは認知症のことをよく知らずに介護して、余計な苦労を背負っているのかもしれない。

(中略)

介護を楽にしたいなら、まず認知症とはどういうものかを知ることではないだろうか。これまで認知症についてあまり考えたことがないなら、いまある認知症についてのイメージや先入観をまず白紙にすることだろう。認知症を知るという事は、家族の介護を楽にするだけではない。万が一、学んだ本人が認知症になったとしても、その後の生き方に大きく役立ってくれるはずである。

(中略)

本書では、これだけは知っておきたいと思われるものを、多くの人の協力を
得てまとめてみた。介護を考えている方の一助になればと思う。

内容(「BOOK」データベースより)
これだけで本人も家族もラクになる!「認知症=絶望」ではない。認知症との正しい付き合い方、心構え。

著者について
奥野 修司
大阪府生まれ。ノンフィクション作家。立命館大学卒業。1978年から南米で日系移民を調査する。帰国後、フリージャーナリストとして活躍。1998年、「28年前の『酒鬼薔薇』は今」で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で、2005年に講談社ノンフイクション賞を、2006年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『満足死』『心にナイフをしのばせて』『放射能に抗う』『がん治療革命』『魂でもいいから、側にいて』『ゆかいな認知症』など著作多数。共著に『丹野智文 笑顔で生きる 認知症とともに』『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』。

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