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優生社会を問う 地域で暮らす/上 障害者拒み、共生遠く 入居者「どこに住めば」(2019年12月23日配信『毎日新聞』)

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「運営反対」などと書かれたのぼり旗が立ち並ぶ道を歩くグループホームの男性。「やっとたどり着いた場所なのに」と語った=横浜市都筑区で

 障害者施設を巡り、過去5年間に少なくとも全国で68件の建設反対運動が起きていた。障害者差別解消法の施行から3年がたったが、依然としていわれのない差別に苦しむ障害者の実態が見えてきた。障害のあるなしに関係なく市民がともに暮らす社会の実現への課題を探るため、現場を歩いた。

 「運営反対」「地域住民の安全を守れ」――。今年11月、横浜市都筑区の住宅街に建てられた障害者グループホーム(GH)周辺の民家十数軒には、こう書かれた30本以上の大きな黄色いのぼり旗が並んでいた。

 このGHは、同市が2018年3月に設置を認めた。運営事業所で訪問看護サービスを展開する「モアナケア…



障害者施設反対68件 21都府県、中止・変更 毎日新聞調査(2019年12月23日配信『毎日新聞』)

 グループホーム(GH)などの障害者施設が住民の反対で建設できなくなったり、建設予定地の変更を余儀なくされたりしたケースが、過去5年間に少なくとも全国21都府県で計68件起きていたことが毎日新聞の調査で明らかになった。
 
 反対運動が起きても施設を運営する事業者に任せ、県や自治体などが対応しなかったケースが32件あった。

 障害者が地域の中で暮らせるよう厚生労働省はGHの整備を進めているが、誤解や偏見に基づくあつれきが各地で頻発している実態が浮かんだ。



知的障がい者施設の運営会社vsセレブタウン、入居反対に意外な芸能人(2019年6月12日配信『週刊女性PRIME』)

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拒絶されているグループホーム。窓はブラックミラーのため、中の様子をうかがうことはできない

 豪華な邸宅が目立つセレブタウンの一角に、知的障がい者らが暮らす施設が認可・建設された。入居前の施設周辺には「子どもの安全を守れ」と幟がはためき、反対運動は収束しそうもない。住民は「運営会社への不信感がある」と言い、住民説明会にはあの俳優の姿も……。

 言い分は真っ向から対立し、解決の糸口が見えない。

 住民バトルの舞台になっているのは、横浜市都筑区に開設予定の知的障がい者や精神障がい者の少人数グループホーム。運営会社『モアナケア』側の説明不足に不信感を募らせている地域住民が、反対運動を繰り広げている。

 運営会社と入居予定者の家族は5月24日、横浜市に紛争解決を申し立てた。『障害者差別解消法』(2016年施行)を基に作られた市の条例による手続きで、このような申し立ては全国初という。

 反対派が地域に配った文書には《事前説明会は法律で義務づけられていないようだが、ほとんどの事業者は建設前に説明会を開催し、住民から理解を得たうえで建設、運営を開始》などと記されている。

 対する運営会社の弁護士は、

「施設に対して説明を求める発想が差別です。“建てる前に説明しろ”と言いますが、それはすべきでないことです」

 と指摘する。さらに、

「いろいろな理由をつけて反対、反対と言います。決して“差別している”“偏見がある”とは言いませんが、(反対運動を)行っていることが差別なんです」

 と迫りながら、

「第1の責任は行政にあります。自治体が責任を持ち住民に対し、啓蒙啓発、協力態勢を作る必要があります。障がいのある人が地域で普通に暮らせるように差別はいけないという視点で方向性を示し、リードしてもらいたい」

 と横浜市に注文する。

 昨年9月に建物の建設に着工した後、住民は説明会を要求。自治会や行政を間に挟むなどして、昨年12月、今年1月、2月の計3回実施した。そこでの運営会社の対応が、住民側の態度を硬化させた。

「私たちの地域には障がい者も暮らしていますし、差別や偏見はありません。福祉や障がいについて地域で勉強もしています。問題にしているのはこの運営会社です」

 そう指摘する古参住民は、説明会の際の横暴な対応にあきれ果てたという。

「運営会社の社長から“こっちはいいことやっているんだ! お前らボランティアしろ!”と怒鳴られ“差別だ!”と威圧されました」

 と不快そうに振り返り、

「『外で肩を叩いてくるかもしれません』とか『事件事故が起きないとは100%約束できない』『施設の外で何か起こったら当事者同士で解決してくれ』など、住民の不安をあおる発言をするんです」

 同じ説明会に参加した60代の男性も、「社長が声を荒らげ、障がい者が近隣の家に入っても責任は取れない、と言い切るなど横柄だった」と上から目線の物言いに嫌悪感を抱いたという。そして、

「あくまで事業者の説明が不足していることが問題。この事業者には撤退してほしい」と付け加える。地域の一員として住民とうまくやれる事業者であれば歓迎するという意見は、多くの住民が口にした。要するに“ノー・モアナケア”ということだ。

 前出の運営側弁護士も、

「ボタンの掛け違い、売り言葉に買い言葉、そんなところもあったと思います。施設自体が反対されているので、防衛的に対応したことがあったかもしれません」

地元住民のリアルな声

 一帯は閑静な住宅地で、グループホームから徒歩1~2分圏内に幼稚園、小学校、中学校が隣接し、約2000人の子どもたちが通園・通学している。そのため反対派住民が立てている幟には、「子どもたちの安全を守れ」という不安も書かれている。

 近隣に住む40代女性は、

「外出中に付き添いもなく、入居される障がい者のレベルがわからないことが不安です」

 と本音を明かす。

「突然、奇声を上げられたり夜道で出てこられたらびっくりするかも」(30代主婦)

 小学生の子どもを持つ40代女性は、

「子どもは学校終わりに習い事もあるので、帰宅途中が本当に心配です。過去に子どもが障がい者にいたずらされたという経験があるので……」

 その一方で、「障がい者の行き場がなくなるので反対運動は間違っている」(80代女性)、「管理がしっかりしていれば問題ない」(20代主婦)、「障がい者との交流は子どもたちにも勉強になる」(60代男性)という賛成の声もある。

 施設は新築2階建ての戸建てで、1階2階にそれぞれ5室ずつ居室があり、最大10人が暮らせる。スタッフは24時間常駐するが、外出時に付き添いはない。許可が下りればもう1棟建て、さらに10人を受け入れる計画で、同市内で最大規模だという。

 地域には、「おしどり夫婦」として知られている俳優の渡辺裕之(63)・原日出子(59)夫妻一家も居住している。

「住民説明会には渡辺さんの姿がありました。3回ともすべて出席されていて、ビデオカメラを回していることもありました」(出席者)

 住民バトルに巻き込まれた形だが、関心の高さがうかがえる。自宅のインターホン越しに渡辺は、実に申し訳なさそうな口調で応じてくれた。

「私も実のところ、事情がよくわかってないんですよ。(賛否を)お話しできる立場にはありません。みなさんが決定したことに任せています」

 今年3月、横浜市に提出された約700筆の反対署名に、渡辺夫妻のものが含まれていたかどうかは不明だ。

 説明会は3月以降開かれることなく、市による紛争解決の相談対応と斡旋に、問題解決はゆだねられている。

 訪問介護で実績を積み、今回初めて障がい者施設の運営に乗り出す『モアナケア』の社長は、入居予定者について、

「通院し、自分のことは自分でできる人です。基本的には自立し、仕事などにも行ける方です。介護や特別な支援が必要な方ではありません」

 と説明したうえで、反対する住民の要求について、

「障がいを公にするのは個人のプライバシーにもあたります。入居者にとって、ここは自宅です。家の中を見せますか? 住人の事情を伝えますか? 障がい者だからとそれを求めるのは差別です」

 と不快感を示す。さらに、

「説明会では“コミュニティーが壊れる”“地価が下がる”“ワケあり物件になる”という声も上がりました。一方で理解を示してくれた人もいました。長い時間をかけて理解してもらうしかないと思っています。一緒に地域の掃除をしたり、行事に参加するなどして地域とも連携をとっていきたいと考えています」

 と幸せな決着を希望し、

「撤退はありません」

 と力強く断言した。

 反対派の「事業運営者の撤退がゴールだ」(60代男性)という主張とは温度差がある。

 前出・弁護士は、

「まずは旗(反対運動の幟)を降ろしてもらいたいです。刺激的な言動は障がい者の負担になります。地域で一緒に生活し実際の姿を見て、理解をしてもらいたい」

 横浜市の担当者は、

「斡旋などの期日は決まっていません。両者がひざを突き合わせて対話し、歩み寄れる方向に導きたい」

 と述べるにとどまった。

 運営会社にも地域住民にも新住民の障がい者にも幸せな結末を迎えるには相互理解と許容する心が不可欠だ。



横浜の障害者施設(2019年5月25日配信『毎日新聞』-「神奈川版」)

開設反対 弁護団、解決求め申し立て 

 横浜市内にある精神障害者向けのグループホーム開設に対する住民の反対運動を巡り、同ホームの代理人弁護士らで結成する弁護団が24日、市障害を理由とする差別に関する相談対応等に関する条例に基づき、市に対して相談とあっせんの申し出書を提出した。事態の解決に向けて対応するよう求めている。

 同ホームは訪問介護などを行う「モアナケア」が運営主体で、定員は10人。横浜市都筑区にあり、1月に完成して3月に開設予定だったが、昨年末ごろから周辺住民の間で運営に反対する…



障害者施設「反対は差別」 全国初、紛争解決申し立て 横浜市のグループホーム(2019年5月24日配信『共同通信』)

横浜市に開設予定の知的障害者や精神障害者のグループホームに近隣住民が反対するのは差別にあたるとして、運営会社と入居予定者の家族が24日、市に紛争解決のための相談対応とあっせんの申し立てを行った。

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近隣住民から反対運動が起きている横浜市で開設予定のグループホーム(22日)=共同

 2016年施行の障害者差別解消法を基に作られた市の条例による手続き。同様の反対運動は各地で起きているが、内閣府などによると申し立ては全国初とみられる。市の担当者は「対応は検討中」としている。

 国は精神障害者らが隔離された施設や病院ではなく、地域で暮らせるようにする方針を打ち出している。少人数のグループホームは重要な受け皿で、横浜市の対応が注目される。

 申立書やホームを運営する「モアナケア」(同市)によると、都筑区に開設予定のグループホームは最大約20人が入居でき、職員が常駐して生活を支援する。住民の要望で昨年12月以降、地元説明会を繰り返し開いた。

 今年3月下旬以降、付近に「子供たちの安全を守れ」と書かれたのぼりや看板が立てられ、5月中旬の内覧会でも住民らが拡声器で反対を訴えた。同社は当初3月開設を目指していたが、市の提案を受けて延期し、6月開設に向け準備。市の承認を待っている。

 1月に地元の自治会長名で同社に出された質問状には「登下校の子供が多いが、問題が起こる可能性があるとは思わなかったのか」「夜、入居者が奇声を発することはないか」などと記載。説明会では開設に理解を示す住民もいたが、同社が障害者施設の運営経験がない点や、事前の説明が不足している点に批判が上がった。

 申立書は「反対運動は、障害のある人の入居予定がない共同住宅では起こりえない。違法な差別行為だ」と指摘。市が開設を認めない場合も差別にあたるとしている。

 モアナケア執行役員の篠田富子さんは「障害は人ごとだと思っている人が多い。もっと理解が進んで、誰もが暮らしやすい地域になってほしい」と話した。



「開設反対は差別」 精神障害者GHに住民が反対運動(2019年5月24日配信『神奈川新聞』)

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グループホームの隣接地に掲げられた「運営反対」を訴えるのぼり=横浜市都筑区

 横浜市都筑区荏田南に開設予定の精神障害者らのグループホーム(GH)に近隣住民が反対するのは差別に当たるとして、運営会社や入居予定者の家族が24日、紛争を解決するための相談対応とあっせんを市に申し立てた。2016年施行の障害者差別解消法を基に制定された市の条例による手続きで、市によると、GHの開設反対が理由の申し立ては初めて。

 市役所で同日、会社や家族の弁護団が会見した。

 弁護団によると、GHは精神障害者ら10人が共同生活を送る施設。訪問介護サービスなどを展開する「モアナケア」(同区)が18年3月、市から設置を承認された。施設は既に完成し、今年6月1日の開設に向けて現在、市のGH指定を待っている。

 弁護団によると、地元の自治会長から地域住民に説明するよう求められ、同社は18年12月と19年1月、説明会を開催。出席者から「不動産価値が下がるのでは」との声が上がったという。

 説明会後の19年3月には、「住民の安全を守れ」「地域住民を無視するな」などと書かれたのぼりが施設周辺の10カ所以上に立てられ、開設に反対する署名約700筆が市に提出された。

 同社は今年5月に内覧会を開いたが、住民ら約30人がのぼりを掲げ、拡声器で「運営反対。子どもたちの安全を守ろう」などと繰り返し、主張した。

 弁護団は、障害者差別解消法にはGHなど障害者関連施設の開設に関し、国や自治体が「周辺住民の同意を求めないことを徹底する」との付帯決議があることを説明した上で、「(反対する住民の主張は)『危険な精神障害者はわれわれの街に来るな』というメッセージで、根拠のない差別感情だ」と指摘。「市が率先し、問題の解決に努力してほしい」と強調した。

 市障害企画課は「地域で起きた事実を受け止め、まずは当事者の相談に応じる。法律の啓発をするのがわれわれの仕事で、きちんと対応していく」としている。

 一方で、運営会社は当初、4月1日の開設を目指していたが、申請を一度取り下げたという。その理由について、弁護団は会見で「市から『こんな状況でホームができると思うか。やめた方がいい』と指導を受けた」と主張。これに対し、市側は「『入居者のことを考えて今の状態で大丈夫か』とは言ったが、指導はしていない」とした。

「運動残念」「説明責任を」

 グループホーム(GH)は横浜市都筑区の住宅街の一角に位置する。6月1日の開設を目指す中、周囲には反対する近隣住民ののぼりが掲げられ、看板も立つ。

 「モアナケア 運営反対」。GH隣接地には黄色の布に黒字で記された10本余りののぼりが並ぶ。反対住民の家々の敷地内にも同じのぼりが掲げられている。

 弁護団によると、今月18日に内覧会を開催した。当日の様子を見たという区内の女性は「GH前で多くの住民がのぼりを掲げ、『子どもの安全を守りたい』などと訴えていた。『施設を飛び出した入居者が家に入ってくるのではないか』とも聞いた」と振り返り、「こういった運動が起きて残念」と話す。

 一方、反対住民らが施設近くに設置した看板では反対理由を施設側への「不信感」とする。近くに住む男性は「きちんと運営できるのか。施設側は説明責任を果たしてほしい」と話した。

◆障害者差別解消法 障害の有無で分け隔てられることがないよう、国や自治体、民間事業者が差別解消に向けて取り組むべき措置を定めた法律。2016年4月に施行された。14条では国や自治体に、障害がある人や関係者からの差別に関する相談に応じ、紛争の防止や解決のために必要な体制を整備するよう求めている。横浜市などの自治体はこれに基づき、条例で具体的な手続きを定めている。



偏見どう向き合う 横浜・障害者施設建設断念(2016年11月7日配信『神奈川新聞』)

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つどいで「差別のない明るい地域を目指していきたい」と語る清水さん=横浜市瀬谷区

 知的障害者のグループホーム建設に反対する看板が、4年にわたり掲げられた横浜市瀬谷区の運上野地区。建設断念から約10カ月が過ぎた今も、地元は一部住民から噴出した差別への向き合い方を模索している。「ここは誰もが安心して暮らせない地域なのか」。自問を続けながらも、6日に開いた集いでは、中学生の言葉に希望を見いだすことができた。偏った価値観に抗する力は、確かに息づいていた-。直面した問題が、社会を変える一歩になろうとしている。

 「本当に心が痛く、難しい問題ばかりだった」

 阿久和北部連合自治会事務局長の清水靖枝さん(73)は、反対住民の説得を続けてきた日々を振り返る。

 昨年3月には、自治会役員と反対住民、市などが同席した研修会を開催。知的障害がある子の親が「私が死んでからも、子どもが地域で安心して暮らせるため必要な施設なんです」と訴えても、反対住民側は「通学路の安全が脅かされる」「近隣施設とトラブルが起きる」と主張し、溝は深まるばかりだった。

 グループホーム建設への抗議は、「絶対反対」と書かれた幅約2メートルの看板が複数枚、生活道路に並んだ。反対署名は地元の自治会長名で呼び掛けられ、地権者に「近くの別の土地で」と代替案を持ちかけても「ここで建設できなければ障害者を否定することになる」とされ、答えを見いだすことはできなかった。

 今も地域に残る悔しさや葛藤。「ホーム建設を当たり前に受け入れていける土壌を常につくっておくにはどうしたらいいか」。建設計画があった地区に隣接する原中前自治会長の真下弘さん(50)も、自らに問い掛けている。

               ◇

 〈自分のことばかりになってしまい、障害者に対して『迷惑』というような考え方をするのは、絶対にダメだと思いました〉

 6日、市立原中学校で開いた「見守り合いのつどい」で、同中2年の生徒(14)は、本年度の同区中学生作文コンテストの入賞作品を朗読。車いすの利用者がいたバス待ちの列で「急いでいるのに迷惑だ」と声を上げた大人を目の当たりにした経験から、「大人になっても、差別はいけないという気持ちをずっと忘れずにいたい」と話した。

 地域に差し込んだ一筋の光。4月には障害者差別解消法が施行されたが、清水さんが実感するのは「どんな法制度があっても、結局は個人がどう考え行動するかが全て」ということ。だからこそ、力を込める。

 「この子たちが大人になった時、同じ問題に直面しても、きっと反対運動に立ち向かってくれるはず。そうした温かい思いを、まちの中で育て続けたい」



建設断念 障害者差別と看板(上) 反対運動 なぜ“成就”(2016年10月16日配信『神奈川新聞』)

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横浜市瀬谷区の運上野地区に掲出されていた看板。「絶対反対」には赤い塗料を使い、主張を強調していた(画像の一部を修整しています)

 「知的障害者ホーム建設 絶対反対」-。そんな文言が記された複数の手書き看板が4年にわたって掲げられ続けた地域が、横浜市瀬谷区にある。知的障害者グループホームの建設計画に対する、近隣住民の強烈な意思表示。関係者の多くは「障害者差別だ」と憤り、地域で暮らす障害者やその家族は心を深く傷つけられた。今年1月、看板は撤去された。だがそれは、地権者側が建設を断念したからだった。障害者差別の解消が叫ばれる中で“成就”した、市内でも異例の反対運動。この地域で一体、何が起きていたのか。 

「多くの近隣住民は実情を知らない」

 「プロとして、敗北だ」

 知的障害者グループホームを運営する予定だった社会福祉法人「同愛会」(横浜市保土ケ谷区)の高山和彦理事長(70)は、悔しさをにじませる。38年前に設立、市内を中心に障害福祉と高齢福祉分野で幅広く事業を展開してきた法人にとって、反対運動で建設を断念したのは初めてのことだった。

 建設予定地の所有者である佐々木佳郎さん(76)=同市磯子区=の無念さは、それ以上だ。

 佐々木さんは医師として県立こども医療センター(同市南区)に勤務、障害のある子を持つ親が抱く「親亡き後」への憂いに触れていた。相鉄線三ツ境駅から1キロほど南、同市瀬谷区阿久和西の運上野(うんじょうの)地区に所有するアパート2棟が老朽化し、新たな土地活用を模索する中、こうした親の不安を解消し残された子どもの幸せを支えることが、自身にできる最後の社会貢献と見定めた。

 だがその思いは、「許しがたい偏見と差別」(佐々木さん)によって断たれてしまった。

埋まらぬ溝

 建設計画は、不動産業者が同愛会と佐々木さんを仲介する形で2010年ごろから具体化。12年3月までの開所を目指し、市の建設費補助金交付の内定も得た。11年夏、地盤調査など建設に向けた準備が始まった。

 反対の声は、建設予定地近くの住民からすぐに上がった。当初は「事前説明がないまま工事が始まった」という主張だったが、知的障害者グループホームが建つと知ると、様相は一変した。

 「(近隣にある)寺院・乗馬クラブ・自動車修理工場などへの無断侵入によるトラブルの発生が予想される」、「事件が起きた場合、知的障害者は判断能力がないため裁判で無罪となり、被害者は泣き寝入りする」、「近くに幼稚園・小中学校の通学路がある」、「子どもが外で安全・自由に遊べなくなる」、「地域の不動産評価の下落が予想される」-。住民は次々と反対理由を挙げた。これまでのアパート管理の不適切さや業者側の不誠実な対応も、理由として強調した。

 11年11月には、地元の運上野自治会長名で、「建設中止依頼」が文書で横浜市宛てに提出された。同時期、建設中止を求める署名活動も自治会長名で行われた。「差別、偏見の気持ちは全くない」。署名協力の依頼文には、そう記されていた。

 同愛会や不動産業者は複数回、近隣住民らへの説明会を開いた。翌12年2月の説明会には市も同席、知的障害者への理解を求めた。だが、溝は埋まらなかった。

 反対する住民が自宅の塀など建設予定地周辺に看板を掲げ始めたのは、市の説明会から1週間ほど後。一時は10枚を超え、運上野地区を南北に貫く「かまくらみち」から見える位置にも幅2メートルほどの看板が出された。市などが撤去を求めたが、反対住民は「外せば建設されてしまう」と応じなかった。

苦渋の「撤退」

 佐々木さんのもとに12年夏、「地域住民代表」の反対住民3人から内容証明郵便が届いている。「明るく、平和な、楽しい生活が、ホーム建設によって破壊されるのではないかと不安」となったことを看板掲出の理由とし、身体障害者グループホームや老人ホーム、保育園なら協力すると主張。反対住民の一人による土地の買い取りを示唆して「話し合いによる円満解決」を求めた。

 これに対し佐々木さんは建設中止を前提にした話し合いへの参加を拒否、「障害者が安心して生活できるよう温かく見守ることが地域の役割」と返信した。

 同愛会の高山理事長は「事前説明がない」と手続き論を持ち出す反対住民に対し、「その必要はない」という姿勢を貫いた。施設ではなく「住居」であるグループホームの建設に近隣の同意は法的に必要がない上、「健常者なら、家を建て居住するのに近隣に説明したり同意を得たりしない。障害者だって同じ」との考えからだ。

 一方で、障害者が安心して暮らしていくためには、地元自治会に加入し日常のごみ出しを受け入れてもらうなど、地域との良好な関係が不可欠で、反対を押し切っての建設はできないとの認識だった。

 ただ高山理事長は「対話を重ねることで、いずれ理解は得られる」と踏んでいた。これまでの施設建設でもさまざまな反対はあったが、話し合いを繰り返して合意点を見つけ、完成後は地域と良好な関係を築いてきた実績があったからだ。

 だが事態は進展のないまま4年が過ぎた。この間、市と地権者側、反対住民の協議は2度、市側と反対住民の協議は1度行われた。

 昨年12月、高山理事長は「周囲に受け入れられる状況ではなく、運営はできない」と撤退を表明。運営ノウハウを持たない佐々木さんは「本当に諦めてよいのか」と悩みつつ、承諾せざるを得なかった。

 「建設断念」は年が明けた今年1月、市から反対住民に伝えられ、同月中にすべての看板が撤去された。

葬られる「差別」

 反対していた一人で、建設予定地のすぐ南側で乗馬クラブを経営する男性は看板撤去後、神奈川新聞社の取材に対し「障害者が近くに来ると、危険リスクがゼロにならない」と語った。施設内に無断で立ち入った知的障害者とみられる男性が大声を上げて馬を驚かせることがあるといい、「何かあったら、誰が補償してくれるのか」と強調し、続けた。「自分は知的障害者の乗馬体験にも協力している。知的障害者のことは理解している」

 建設を思い立ってから6年が経過、「障害者とその親を安心させたい」という信念を最後まで貫けなかった佐々木さんは、悔しさを募らせ、こう訴える。「多くの近隣住民は実情を知らない。このままでは、差別が建設断念の原因だったことが闇に葬られ、反対運動が“成功体験”として記憶されてしまう。それで、いいわけがない」





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