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車いすの私、大丸で笑顔になれた仕事 いじめ退職越えて(2019年12月28日配信『朝日新聞』)

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広くない店内でも車いすを巧みに操作し、笑顔で接客する中久保希穂さん=2019年12月8日、大阪市北区

 車いすユーザーの販売員が、大丸梅田店(大阪市)に誕生した。同店では初めてで、周辺のデパートも例がないという。当人にとっては、いくつもの困難を乗り越えてつかんだ念願の接客の仕事。「こうした事例がニュースにならない、当たり前の世の中になってほしい」と願う。

 大丸梅田店5階に11月にオープンした「ムーンド バイ エルピーシー」。最先端の生理用品やデリケートゾーンのケアグッズが並ぶ店内を中久保希穂(きほ)さん(28)が電動車いすで行き来し、商品に見入る客に熱心に説明する。「ようやく営業トークがスムーズになってきた」と笑顔を浮かべる。

 中久保さんは脳性まひの後遺症で、幼いときから歩行がままならない。小学生の頃の夢は「渋谷のギャルになる」。地元・大阪の高校に進み、ビジュアル系バンドに夢中になり、友だちと写真シールを撮りまくる「ギャル生活」を満喫した。自分の障害を深く意識することはなかった。

 だが進学でつまずいた。美容師か化粧品売り場の美容部員になろうと専門学校を探したが、車いすの学生を受け入れるところはなかった。高校卒業後は事務職に就き、一人暮らしを始めた。

 「障害者だからってなめられたくない」。そんな思いからサービス残業もいとわずにがむしゃらに働いた。23歳になり、3カ所目の職場に移ってしばらくすると異変を感じた。朝、布団から起き上がれない。うつ病だった。

職場のいじめ、入院も

 引き金は職場でのいじめだった。陰口を言われたり、小さなミスで揚げ足を取られたり。中久保さんは一人旅を楽しみ、好みの男性に自分から声をかけるような積極的な性格だ。「周りは車いすのかわいそうな人と思って接していたのに、堂々としている私のことが鼻についたのかもしれない」。他者の視線が気になり、家に引きこもった。食欲もなく、30キロ台までやせた。

 たまに躁(そう)状態に転じると買い物の欲求が抑えきれなくなった。クレジットカードの限度額いっぱいまでデパートで散財を繰り返す、そんな状態が2年ほど続いた。見かねた母親にカードを取り上げられると、薬を手当たり次第に大量摂取。1カ月、入院した。

 退院後は抗うつ剤を徐々に減らしながら、在宅でリサイクル企業のウェブマーケティングの仕事を続けた。気力と体力が回復した今年の夏ごろから、もともと興味のあった接客の仕事を探し始めた。

突き返された履歴書

 しかし、車いすの障害者を対象にした求人はなかった。ファストファッションの大型店なら働けるかもと問い合わせたが、「(障害者の)法定雇用率は満たしている。あきらめて」と言われたり、面談開始早々に履歴書を突き返されたりした。

 狭いバックヤードでの作業に向かないと判断された面もあったようだが、中久保さんには、通路に段ボールを不用意に置いているように見えた。「どうすれば受け入れられるかとの検討や工夫もなく、無理だと決めつけている。悪意はなくても結果的に差別になっているのに気づいていない」と憤る。

 古くからの友人に「障害者の採用に理解があるかも」と勧められたのが、オープンを控えた「ムーンド」だ。主力商品の生理用ショーツはナプキン数枚分の経血を吸収でき、障害者や介助者の支持も高い。経営者の北原みのりさんは、「人前に出る仕事がしたいのに事務職しかない」という中久保さんの言葉にハッとした。「ユニバーサルな商品を販売しながら、一緒に働くという選択肢を考えていなかった」

誰もが過ごしやすい店に

 秋に大丸梅田店での期間限定店舗で働き、ものおじしない働きぶりが評価されて採用が決定。車いすで動きやすいように当初の設計よりもカウンターの高さを10センチほど下げ、棚の幅を狭めた。「中久保さんを迎えたことで、多くの人にとって過ごしやすい店づくりができている」と山口敦子店長は話す。

 大丸側も車いすの従業員への対応が必要になった。従業員用の出入り口は階段を上った先にあるため、別の入り口を使うことを特別に認めた。ただ、退勤時のエレベーターは混雑するため、何台もやり過ごすこともある。広報担当者は「ダイバーシティーの観点から従業員の働きやすい環境を整えていきたい」と言う。

 中久保さんは当面、従業員の態勢が手厚い週末を中心に店頭に出る。指先に軽いまひがあり、焦ったり緊張したりすると、紙をめくる、クリップに挟むといった細かい作業に時間がかかる。「焦らず、どしっと構えたい」と語る。

 勤めてみて、車いすでの接客を気にかける客はなく、問題なく働けると感じている。「企業も障害者自身も前例のないことに挑むことをおびえ、障害者の社会進出が遅れてきた。やりたいと思ったことに挑戦する前からあきらめさせる社会であってほしくない。大丈夫だよと伝えたい」

 今後は、車いすユーザーをはじめ、障害を抱える人たちと生理や性に関する困りごとを語り合い、問題を解決できる商品の提案にもつなげていきたいと願っている。




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Author:gogotamu2019
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