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大川小、遺族の思い(2020年2月5日配信『朝日新聞』)

 臆病だった息子は、津波の恐怖で立ち上がれなくなっていた。生き残った児童が、そう教えてくれた。東日本大震災で、日本中の人たちが、その名前を知った「大川小学校」。先生たちが守ってくれていると信じた学校で、長男を失った今野浩行さん(57)が語った。

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仙台高裁の判決後、仏壇に判決文を供え、手を合わせる原告団長の今野浩行さん。仏壇の上には震災で亡くなった長女麻里さん、次女理加さん、大川小の6年生だった長男大輔君、父親の浩さん、母親のかつ子さんの遺影が飾ってある=2018年4月、宮城県石巻市

 大川小学校の被災校舎には、いまも年間10万人を超す人たちが全国から訪れている。

    ◇

 ――校庭に子どもたちがなぜ、約50分間もとどまったのか。詳しい経緯は結局、裁判でもわかりませんでした。

 現場にいた教職員の中で唯一生き残った教務主任の先生の証人尋問が、心の病気を理由にかなわなかったからです。いまだに行方不明の児童もいて、親は現場で捜索を続けています。生き残った教師が、子どもたちがどの方向に流れていったかだけでも話してくれれば、捜す範囲を絞り、見つけられるかもしれない。

 ――大川小には震災前から、危機管理マニュアルがありました。でも、校庭の次の避難場所は「近くの公園や空き地」と書かれているだけでした。

 どの公園や空き地を指すのか教員間で共有されていなかったと、震災時、学校に不在で助かった校長が証言しています。俺が高校を卒業し、仕事に就いた会社でまず教えられたのは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のPDCAサイクル。計画を立てて実行し、反省して次の手を打つ。高度な教育を受けた人たちがいる学校現場は、もっと進んでいると思っていました。ちゃんとした避難訓練をやれば『近くの空き地や公園』がどこなのか、教員からの疑問が当然出るはずなのに、マニュアルをつくっただけで終わっていた。

 ――裁判では、一貫して教育委員会への不信を主張されていました。

 石巻だけでなく、どこの教育委員会も閉鎖的なのは、いじめの問題を見ても同じだと感じます。昔は「自殺といじめの因果関係は認められない」などのお役所答弁で終わっていたのが、教育委員会が調査し、真相を解明しようという方向にはなっています。でも、親が声を上げなければ積極的に動かない体質は変わっていないのではありませんか。「学校は間違ったことはしない」という神話を親は信じて、あまり声を上げてこなかったけど、声を上げていいんだという風潮になっていかなければいけないと思います。

 ――今後、全国の教育委員会や学校は変わるでしょうか。

 南海トラフ地震が想定されていますが、ある学校では子どもの命が守られたが、別の学校では守れなかったとなってはいけない。子どもの命の重みが変わっては駄目なんです。震災から9年近くたつ今も、大川小には全国から多くの人たちが訪れ、新人教員の研修の場にしている教育委員会もあります。自分が大川小の教員だったら、何ができたのかを自問自答してくれている。そうした先生が一人でも増えることで学校現場が変わっていくと信じています。

 ――裁判をへて、気持ちの変化はありましたか。

 裁判に勝ったところで、息子の大輔は戻ってきません。悲しみも怒りも変わることはない。学校が子どもたちの命を救えなかったように、今野家で言えば、自分に責任がある。「何かの時にはここに逃げなさい」と明確に決めておけば助かった。

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大川小学校の被害について話す今野浩行さん=2019年11月、島根県浜田市

 地震直後に、自宅にいた次女の理加と電話がつながったんです。「家は大丈夫」って言うので、「津波が来るから逃げろ。近くの中学校に避難しろ」って電話を切って。でも、それからつながらなかった。もっと強く指示していればと後悔しています。子どもたちの仏壇やお墓に手を合わせるときは、ずっと謝罪です。俺は死ぬまで謝罪しなければならない。

 ――判決確定後の昨年11月には島根県を訪れて講演するなど、大川小のことを語り続けています。

 俺は弱い人間なんで、原告団長という柄じゃない。けど、原告団長になってから、自分の役割ってなんだろうと考えました。俺にはもう子どもはいないけど、未来の子どもたちの命を守るためのバトンを、自分もつないでいかなければならないんじゃないかと。過去の事実は変えることはできない。でも、未来を変えることならできます。たとえ、何十年かかっても。きれいごとに聞こえるかもしれないけど、それが大輔の生きた証しになるから。




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Author:gogotamu2019
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