生活必需品の売り切れ 情報見極め冷静な行動を(2020年3月3日配信『毎日新聞』-「社説」)

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 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、各地の小売店でトイレットペーパーやティッシュペーパーなどが売り切れる現象が起きている。

 実際は十分な在庫があるのに、買いだめをする人が相次いだためだ。

 インターネット上で「マスクの増産に伴って紙製品が品薄になる」とデマが流れたのがきっかけという。店頭から商品が消えていくと、さらに人々が買いだめに走り、品薄に拍車がかかる悪循環が生まれる。

 47年前にも、石油ショックの際に店頭からトイレットペーパーが消えた。先の見えない状況に社会の不安が高まり、デマに人々が動かされる。当時の様子は、今に重なる。

 そのうえ、現在はSNS(交流サイト)の普及でデマが瞬く間に広まる。政府の説明とは裏腹に、マスクの品薄が解消されないことも、不安な心理を増幅させている。

 米やパスタ、缶詰など保存食品が売り切れる店もある。政府の一斉休校要請によって、家庭が急な対応に追われている面もあるのだろう。

 身近な場所で生活必需品を容易に入手できない事態は、人々の暮らしを脅かす。特に、1人暮らしの高齢者ら生活弱者への影響は深刻だ。繰り返されると、社会的なパニックを誘発しやすくなる。

 新型コロナウイルスに関する政府の対応は、後手に回ってきた。今回の現象は、国民の間に募っている不信感と無縁ではないだろう。

 政府は商品の生産態勢や在庫について数値を示しながら、消費者に落ち着いた行動を呼びかける必要がある。品薄が起きないように、監視を強めることが求められる。

 とりわけ、ネットを通じた高値での転売や、そのための買い占めは問題が大きい。経済産業省は大手ネット通販業者に、今月14日からマスクなどの出品を自粛するように要請したが、もっと早めるべきだ。

 業界団体や企業がメディアなどを通じ、在庫状況を紹介することも有効ではないか。広く小売店に並ぶように流通段階で工夫をしてほしい。

 消費者の自覚も大切だ。軽い気持ちで必要以上に買い増すことが品不足につながる。品薄で高値になった商品を大量に購入すれば結局、損をすることになる。情報を見極めて、冷静な行動を取りたい。



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それは大阪の千里ニュータウンのスーパーで始まった…(2020年3月3日配信『毎日新聞』-「余録」)

 それは大阪の千里ニュータウンのスーパーで始まった。当今、こう聞いてピンとくるのは1973年の石油ショックを知る世代の方だろう。今は歴史となったトイレットぺーパーの買いだめ騒動の発端である

▲安売りで売り切れたトイレットペーパーの補充にスーパーが倍の値段の高級品を出したところ、紙の価格高騰が始まったと思った客が列をなした。騒ぎは広がり、小紙は翌々日に兵庫で起こった混乱による高齢者の負傷を伝えている

▲当時、政府が紙の節約を求めていたのが原因の一つとされるが、ことトイレットペーパーの在庫は十分だったという。背景には諸物価急騰のほか、水洗トイレの普及など庶民生活の大変化による不安定な心理があったとの指摘もある

▲時代変わって、こちらのトイレットペーパー騒動はソーシャルメディアで広がった品薄になるとのデマが発端だった。新型コロナウイルスの感染拡大で起きた香港やシンガポールのトイレットペーパー買いだめの影響もあったようだ

▲「予言の自己実現」とはある事が起こりそうだと人々が思って行動することで、そう思わなければ起こらぬ事が実現する次第をいう。品薄予想がデマと知る人も、デマの自己実現に備えて品薄を加速する行列に加わるから始末に困る

▲首相の一斉休校要請は、米やカップめん、レトルト食品など、家での食事のための買いだめももたらしたが、どれも供給体制に不安はない。あしき予言の実現に手を貸さない冷静さを過去の経験に学びたい。




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