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湖東記念病院事件再審無罪に関する社説・論説集 

元看護助手に無罪/再審のルール整備が必要だ(2020年4月1日配信『河北新報』-「社説」)

 裁判をやり直す再審のルール整備が必要だろう。無実の人を救済する再審制度には、証拠開示や審理の迅速化といった課題が少なくない。制度の見直しは、喫緊の課題ではないか。

 改めてそう指摘せざるを得ない判決が出た。

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者=当時(72)=の人工呼吸器を外し殺害したとして、殺人罪で懲役12年が確定、服役した元看護助手西山美香さん(40)の再審公判で、大津地裁はきのう、無罪の判決を言い渡した。

 西山さんの無罪が確定する見通しで、04年の逮捕から16年近くを経て冤罪(えんざい)が晴らされる。汚名を着せられ、理不尽な扱いを強いられた西山さんが失ったものは大きい。

 今回の事件では、西山さんは滋賀県警の聴取に「呼吸器のチューブを外した」と自白し逮捕、起訴された。公判で否認に転じたが、懲役12年の判決が最高裁で確定し、服役を終えた。

 判決は「患者が殺されたという事件性はない」と述べ、自白は警察から誘導されたと指摘し、信用性や任意性を否定した。事件そのものが警察の「でっち上げ」だったということになる。判決は捜査を批判する一方で、冤罪の背景には言及しなかった。

 冤罪がなぜ、生まれてしまったのか。再発防止のためには、ずさんな捜査の経緯や誤判を招いた裁判所の審理も含め、検証が求められよう。

 再審制度の在り方も問われている。刑事訴訟法は「無罪を言い渡す明らかな証拠を新たに発見した場合」に再審を開始すると定める。だが、証拠の取り扱いや、具体的な進め方の規定はない。

 とりわけ問題なのは、元の裁判に提出されなかった証拠の扱いだ。検察側証拠は有罪立証のためのものが中心だ。無罪を推定させる証拠があったとしても法廷で示されなければ、再審請求側はその存在すら知ることが難しい。

 裁判員裁判では、検察側証拠一覧を弁護側が開示請求できるが、再審請求審は対象となっておらず、開示を担保する制度はない。

 今回の再審では、無罪につながる証拠を県警が示してこなかったことが判明した。他殺ではない可能性を指摘する医師の所見が記された捜査報告書が、再審まで非開示のままだった。

 また、多くの再審請求審では、再審開始が決定されても検察が抗告を繰り返し、審理は長期化している。それでは救済が遅れるばかりだ。再審開始が決定した場合、直ちに再審が開かれるよう見直すべきではないか。

 日弁連は2018年の人権擁護大会で、状況改善のため「再審法」制定を求めるなどの決議を採択した。無辜(むこ)の人の一刻も早い救済、名誉回復に向け、政府や国会は速やかに対応してほしい。



滋賀患者死亡で再審無罪 自白依存の脱却が必要だ(2020年4月1日配信『毎日新聞』-「社説」)

 あらかじめ立てられた捜査の筋書き通りに自白が誘導され、被告に有利な証拠は開示されなかった。捜査機関は冤罪(えんざい)を生んだ経緯を検証し、信頼回復に取り組まなければならない。

 2003年に滋賀県の病院で入院患者の人工呼吸器を外して殺害したとして、殺人罪で服役した元看護助手、西山美香さん(40)の再審(やり直しの裁判)が大津地裁であり、無罪が言い渡された。

 大西直樹裁判長は判決理由で、不整脈などによる自然死だった可能性に言及し、「患者が殺害されたという事件性すら証明されていない」と弁護側の主張を認めた。

 逮捕から約15年9カ月ぶりに「名誉回復」が現実のものとなった。だが、懲役12年、最初の再審請求から9年半。自由を奪われ、失われた年月はあまりにも長い。

 まず浮き彫りになったのは、自白に依存する捜査体質である。

 判決は、取り調べの警察官が、軽度の知的障害がある西山さんから恋愛感情を寄せられていたのを熟知しながら、捜査機関のストーリーに整合する自白を引き出そうと誘導したと断じた。

 過去の冤罪事件でも密室での取り調べがうその自白を作った。取り調べの可視化は進んでいるが、再発を防止するには、弁護士の立ち会いを検討することが必要ではないか。

 警察、検察による恣意(しい)的な証拠の取り扱いも明るみに出た。

 検察が189点もの証拠を裁判所に出したのは再審決定後である。うち、58点は警察から検察に渡っていなかった。

 「たん詰まりで死亡の可能性」を指摘した医師の報告書が検察に提出されたのは昨年だった。西山さんが人工呼吸器を外していないと主張した自供書も長らく非開示のままだった。

 刑事訴訟法は警察が捜査記録を速やかに検察に提出するように定める。捜査の常道から逸脱した行為であり、看過できない。

 虚偽の自白に基づく警察や検察のずさんな捜査をチェックできなかった裁判所の責任も重い。

 捜査機関は自白に頼る手法から脱却し、客観的な証拠に基づいて捜査しなければならない。二度と冤罪被害者を生まない取り組みを進める責務がある。



再審無罪 冤罪生んだ警察の「証拠隠し」(2020年4月1日配信『読売新聞』-「社説』)

 警察も検察も、真相の究明に背を向けたと批判されても仕方がない。

 滋賀県東近江市の病院で看護助手だった西山美香さんの再審の判決で、大津地裁が無罪を言い渡した。入院患者の人工呼吸器を外して殺害したとして、殺人罪で懲役12年が確定し、服役を終えていた。

 判決は、新証拠となった鑑定書などから、自然死の可能性を認めた。「そもそも患者が何者かに殺害されたという事件性すら証明されていない」との指摘は重い。

 当初の裁判で有罪の決め手になった自白について、任意性を否定した。西山さんは軽度の知的障害があり、取り調べた警察官に恋愛感情を持っていた。判決は「やってもいない殺人を自白することはありうる」と結論づけた。

 迎合しやすい傾向がある容疑者の取り調べには、細心の注意が必要だ。西山さんの特性に乗じたかのような誘導的な取り調べで、虚偽の自白を誘発した警察の捜査は強い非難に値する。

 さらに問題なのは、再審が始まるまで、警察が検察に多数の証拠を渡していなかったことだ。

 この中には、故意に呼吸器を外したことを否定する西山さんの供述を記録した書面や、西山さんの逮捕前から解剖医が自然死の可能性に触れていたことを示す捜査報告書が含まれていた。

 仮にこうした証拠を早くから検察が把握し、十分吟味していれば、西山さんは逮捕も起訴もされなかった可能性が高い。

 有罪立証に不利な証拠を警察が隠蔽いんぺいしていたのなら、犯罪にも相当する悪質な行為である。

 再審における検察の姿勢も看過できない。当初は有罪を主張すると表明しながら、その後、何の説明もなく、立証を断念した。把握していなかった証拠が警察から送られてきたため、有罪の維持が困難と考えたのだろう。

 本来であれば、再審段階で確認した証拠を踏まえて、事件をきちんと再検討すべきだった。その上で、有罪が立証できなければ、その理由をつまびらかにし、無罪の論告をするのが筋である。

 それをしなかった検察はあまりに不誠実であり、「公益の代表者」の名に値しない。

 判決の言い渡し後、地裁の裁判長は法廷で、「刑事司法に携わる全ての関係者が自分自身の問題として捉え、改善に結びつけていくべきだ」と語った。

 冤罪えんざいを生んだ警察や検察はもちろん、誤判を重ねた裁判所も猛省しなければならない。



再審無罪判決 刑事司法を改革せよ(2020年4月1日配信『東京新聞』-「社説」)

 やっとこの日が来た。「呼吸器事件」で殺人犯にされた西山美香さんに大津地裁は「事件性なし」と再審無罪を言い渡した。自白の誘導などで殺人事件に仕立てた捜査と司法の責任は、極めて重い。

 滋賀県の病院で2003年、72歳の男性患者が死亡。看護助手だった西山さんが「人工呼吸器のチューブを外した」と「自白」して殺人容疑で逮捕され、懲役12年が確定した。この判決で、死因は自白に沿う「低酸素状態」、つまり窒息状態とされた。

 「自白」は虚偽で、鑑定による死因も誤っていた-。今回の再審で無罪を言い渡した判決文は、明確に書いた。「何が何でも有罪を」と前のめりになる捜査と、それをチェックできなかった司法を批判した。

 なぜ捜査段階で「自白」したのか。判決は「取り調べの警察官の不当な捜査によって誘発された」と断じる。

 その背景として、西山さんには知的障害によって迎合的な供述をする傾向があると認定。取り調べの警察官は、自分に好意を持っていたことに乗じて「西山さんをコントロールする意図があった」とまで述べ、西山さんが捜査側の術中にはまった過程を分析した。

 また、死因について無罪判決は、「低カリウム血症による致死性不整脈」などを認定。つまり呼吸器はつながったままの自然死だった可能性が高いと判断した。

 今年2月に始まった再審が素早く無罪判決に至ったのは、西山さんの早期汚名返上の見地からは喜ばしいものの、担当の警察官を法廷に呼ぶなどして虚偽の自白に至る経緯を検証してほしかった。

 大津地裁の裁判長は、無罪判決の言い渡し後、明確な謝罪はなかったものの、西山さんに「刑事司法を改革する原動力にしていかねばならない」と決意を述べた。「もう、うそ(誘導された自白)は必要ない」とも語り掛けた。

 この冤罪(えんざい)事件では、捜査のずさんさを見抜けなかった裁判所にも大きな責任がある。最初から数えて7つの裁判体が有罪判決や再審請求棄却を続け、8つ目の大阪高裁がようやく再審開始を決定、最高裁を経て10番目の大津地裁が無罪判決を出した。事件発生から17年がたっていた。

 この間、20代と30代を獄中で過ごした西山さんは大きな損失を被った。メンツのための捜査、あるいはいったん下された判決に忖度(そんたく)するような訴訟指揮はなかったか。検証して出直してほしい。



すみませんと頭を下げるべき機関や人が存在する(2020年4月1日配信『東京新聞』-「筆洗」)

 政治犯だった韓国の詩人金芝河(キムジハ)さんは7年前に再審無罪となった。獄中の心情を思わせる古い詩がある。<夜ごとの夢に黒雲をついて開かれた真っ青な空/こぼれる陽(ひ)ざしを浴びて/しばし立っていられるなら/青い囚衣に包まれたまま死んでもよい>

▼『青い囚衣』の一節。闇の中にのぞく青い空や日差しが象徴するのは、不当にも刑に服した人が、なにより熱望してきた正義や名誉であろう

▼呼吸器事件の西山美香さんは青い空をようやく実感することができただろうか。大津地裁での再審公判で無罪判決が言い渡されると、喜びの言葉を口にしたという。殺人犯とされた長い闇の時間を経ての名誉回復である

▼判決は、警察官による虚偽の供述への誘導など不当に科された刑につながったずさんさを認めた。事件であったことすら認める証拠もないとしている

▼20代からの大切な時間を奪われた非運にはかける言葉も想像できないが、西山さんは同じ境遇の人を助けたいなどと話したそうだ。自分を教訓にしてほしいとも

▼「すみません」の語源は「澄まない」ことに関係しているという。濁った水や心が澄むはずなのに-という意味を含む言葉だそうだ。西山さんの心を覆った黒雲がさらに晴れるように、この件で暗さが際だった司法の闇が少しでも澄むように。すみませんと頭を下げるべき機関や人が存在するはずである。



元看護助手無罪 冤罪を防ぐ検証が必要だ(2020年4月1日配信『信濃毎日新聞』-「社説」)

 滋賀県の病院で2003年に起きた「呼吸器外し事件」の再審公判で、元看護助手の西山美香さんに無罪判決が言い渡された。

 大津地裁は、不当な捜査で虚偽の自白を誘導したと厳しく指摘し、自然死の可能性が高く事件性はないと認定。捜査機関が事件をでっち上げた冤罪(えんざい)であることを明確にした。

 西山さんは、男性患者の人工呼吸器を外し殺害したとして殺人罪に問われ、懲役12年が確定、既に服役を終えている。

 24歳で逮捕されてから15年以上が経過している。無実の人から人生の貴重な時間を奪った重大な人権侵害だ。名誉回復のためにも、捜査機関は速やかに誤りを認め謝罪すべきだ。

 特に県警の責任は重い。

 再審判決は、担当刑事が見立てに沿った供述を得るために、軽い知的障害がある西山さんの恋愛感情を利用したと指摘した。

 再審に至る中で、自然死を示唆する医師の解剖所見が載った捜査報告書などが地検に渡っていなかったことも分かっている。

 冤罪は、県警の「自白の誘導」や「証拠隠し」によって生み出されたといえる。

 再審公判では、自白調書を作成した警察官らの証人尋問がなく、取り調べの実態や証拠隠しの真相が解明されなかった。

 裁判長は判決で「西山さんのせいではない。問われるのは捜査手続きの在り方です」と述べている。捜査機関は、捜査のどこに問題があったのかを自ら明らかにする責任がある。

 西山さんは一審で否認に転じ最高裁まで争った。再審請求は2度に及んでいる。それぞれの審理で裁判官の判断や弁護活動にも問題点はなかったか。

 近年、再審無罪判決が相次ぐ。裁判員制度導入に伴う05年施行の改正刑事訴訟法で証拠開示の対象が拡大したことや、鑑定技術の進歩が背景にある。

 一方で、検証は、ほとんどされていないのが実情だ。

 日弁連によると、最高検や警察庁の報告事例はあるが、捜査のシステムや体質に踏み込まず、冤罪の原因究明には極めて大きな限界があるという。

 英国やカナダでは、誤判事例があると、政府から独立した第三者機関が原因を究明し、政府に防止策を勧告する制度がある。

 冤罪がなくならない現状を考えれば、検証は必要だ。日本の司法にも調査権を持つ第三者機関の設置を考えたい。



再審で無罪 指弾された「自白偏重」(2020年4月1日配信『京都新聞』-「社説」)

 「真っ白な無罪」判決である。

 東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人罪で懲役12年が確定、服役した元看護助手西山美香さん(40)に、再審の大津地裁が無罪を言い渡した。

 判決は、男性患者の死亡は事件性がなく、自白も自発的になされたものとはいえず、内容も信用できない-と認定した。

 滋賀県警と大津地検のこれまでの主張を根底から否定し、西山さんの「冤罪(えんざい)」の払拭(ふっしょく)へ大きく踏み込んだ判断である。県警と地検は捜査や立証の在り方を深く反省し、経過を検証すべきだ。

 ただ、裁判所も再審請求を含め7回も西山さんの無実の訴えを退けている。誤った判断を示してきた理由を省みる必要があろう。

 判決は、捜査や訴追の在り方に改めて疑問を突きつけた。

 取り調べについては、県警が西山さんの刑事への好意を利用して不当に供述を誘導したとした。

 公判では、県警が規則に反して勾留中に飲食の提供をしていたことも明らかになった。迎合的な供述をする傾向がある西山さんから有罪の立証に有利な発言を引き出そうとしていた可能性がある。

 「自白偏重」捜査の不当性を指弾したといえる。取り調べ可視化や弁護士の立ち会いなどの制度化論議を加速させねばならない。

 いったん起訴すれば、新証拠が出ても方針を変えない検察の硬直した組織体質も浮かび上がった。

 再審公判で、地検は当初の起訴内容を維持する一方、求刑を放棄した。無罪判決も想定される状況で「有罪」の姿勢を崩さなかった態度は、西山さんの人権よりメンツを優先させたようにみえる。

 無罪判決が出た以上、確定を長引かせてはならない。控訴権を放棄し、西山さんに謝罪すべきだ。

 再審に至る過程では、県警が西山さんを逮捕する以前に他殺以外の死因に言及した医師の所見を記した報告書を作成しながら、昨年7月まで地検に送致していなかったことも判明した。

 早期に見つかっていれば、起訴されなかった可能性もある。

 刑事訴訟法は、検察側証拠のリストを弁護側に提示するよう求めているが、再審は請求審も含めて証拠開示に関する規定がない。

 無罪をうかがわせる証拠が出ても、元の裁判に提出されていなければ再審でも開示されない、との懸念を裏打ちする出来事だった。

 再審における証拠の扱い方についても議論を深める必要がある。



雪冤(2020年4月1日配信『京都新聞』-「凡語」)

 雪が白いのは、美しい樹枝状をはじめ多彩な六角形をした結晶の粒が、光の全ての波長を乱反射させるからだそうだ。曇りのない純白の象徴といえよう

▼そんな待ち望んだ「真っ白」な無罪判決だった。東近江市の湖東記念病院の患者死亡を巡り、殺人罪で懲役12年が確定し服役した西山美香さん(40)が「雪冤(せつえん)」を果たした

▼白い雪の清らかさから、無実の罪だと潔白を示し、汚名をすすぐという意味だ。大津地裁の再審判決は、患者が自然死した可能性が高いとし、そもそもの事件性さえ認められないとした

▼一方で、西山さんを苦しめてきた「白」もあった。捜査段階のうその自白だ。これも判決で警察による不当な誘導の可能性から信用性が否定された。後悔と自責の重荷が多少下ろせたのではないか

▼それにしても、確たる物証もなく、決め手とされた自白の真偽を正すのに15年以上も要した理不尽さ、口惜しさに言葉を失う。過ちに気付き、引き返す機会は幾度とあったのに、行き過ごしたのはなぜなのか、刑事司法に問われている

▼雪の博士として知られた物理学者の中谷宇吉郎は「雪は天から送られた手紙」と記した。降る雪の結晶の形は、上空の気温や湿気の状況を伝えるという。白さをめでるだけではなく、その成り立ちを顧みる必要がある。



悔し涙に暮れてきた長い長い歳月(2020年4月1日配信『神戸新聞』-「正平調」)

中国文学者の高島俊男さんは昔、国鉄駅でのちょっとしたもめ事で鉄道公安官の詰め所に連行された。悪いことはしていないと訴えたものの、えらいけんまくで怒られたという。「悪いことをしない者が捕まるわけないだろう」

◆むちゃくちゃな論理ではありながら捕まったが最後、覚えのない罪状を自白させられる人間の恐怖や絶望が分かった気がしたと、高島さんがエッセーで振り返っていた

◆滋賀県の病院で患者の人工呼吸器を外して殺害したとして、看護助手だった西山美香さんが逮捕されたのは24歳のときである。懲役12年の刑に服して、いまは40歳になっている。きのう、再審の無罪判決が出た

◆やってもいないのに捕まるわけないだろう-。自らはもちろん、家族に向けられたまなざしのどれほど痛く、つらかったことか。わたしは無実ですと、獄中からご両親につづった手紙は350通を超えるという

◆父は裁判記録をかばんに詰めこんで、助けてくれる弁護士さんを探してまわったそうだ。のちに明らかになった不当な手法でかよわき市民を罪人と決めつけ、その人生を狂わせた司法権力の罪こそ裁かれていい

◆「両親に喜びの涙を流させてあげられた」と西山さんは語った。悔し涙に暮れてきた長い長い歳月を思う。



呼吸器外し再審 冤罪の背景、徹底検証を(2020年4月1日配信『中国新聞』-「社説」)

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年に起きた「呼吸器外し事件」の再審公判で、大津地裁はきのう元看護助手西山美香さんに逆転無罪を言い渡した。入院患者の人工呼吸器を外して殺害したとして殺人罪で懲役12年が確定し、服役した。

 西山さんが望んだ通り「名誉回復」を果たすことは一応できた。だが、失った人生の貴重な時間は戻ってこない。信じがたい人権侵害をもたらした事実はあまりに重い。

 判決理由で、大西直樹裁判長は「患者が何者かによって殺されたという事件性は認められない」と言い切った。ありもしなかった「殺人」事件によって冤罪(えんざい)がつくり出された。驚くとともに恐怖心さえ覚える。

 事件をでっち上げた滋賀県警はもちろん、それに同調し続けた検察には、あらゆる角度からずさんな捜査を徹底検証し、公表する責務があるはずだ。

 そして捜査当局の主張を受け入れ、無実の訴えを何度も退けた裁判所自身も審理の経緯を厳しく点検し、司法改革につなげていく姿勢が求められる。

 西山さんは04年、警察の聴取に「呼吸器のチューブを外した」と自白し、逮捕、起訴された。公判では否認したものの、一審の大津地裁は05年、自白の信用性などを認めて有罪判決を下し、最高裁で確定した。

 患者の死因について、確定判決は「酸素途絶による急性心停止」としていた。大西裁判長はしかし、「不整脈やたんの詰まりで低酸素状態に陥った疑いがある」とし、自然死の可能性が高いと認定した。

 西山さんの自白も、チューブを故意に外したかどうかなど主要な点に変遷があるとして、供述の信用性や任意性を否定し、証拠から排除した。踏み込んだ判断を示したと言えよう。

 さらに取り調べの刑事が、軽度の知的障害のある西山さんの特性や恋愛感情を利用し、見立てに沿った虚偽の供述を誘導した可能性が高いと断じた。

 知的障害者ら「供述弱者」は迎合的な傾向があるとされる。強要や脅迫などがなくても虚偽の自白をしてしまうケースがある。きのうの判決が「問われるのは捜査手続きの在り方」と指摘するように、より慎重な対応が求められるのは当然だ。

 再審公判で、検察は当初全面的に有罪を立証しようとしていたが、途中で方針変更した。弁護側が求めた証拠開示によって、県警がこれまで検察に示していなかった資料が明らかになったためとみられている。

 逮捕前に西山さんが人工呼吸器を故意に外していないと述べた自供書や、事故死の可能性を指摘した医師の所見が記された県警の捜査報告書があった。

 これほど重要な証拠が再審公判まで埋もれていたことに驚く。集めた証拠が検察に送られ、適切に検討されていれば、西山さんが起訴されることもなかったのではないか。

 再審請求をするためには新たな証拠が欠かせないが、捜査機関が収集した証拠にどんなものがあるのかを知る手だてはほとんどない。再審請求の手続きとともに、請求する側が証拠開示を求めることのできる制度の法制化が急務である。

 冤罪事件を繰り返さないためにも、決して西山さんだけの問題で終わらせてはならない。





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