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呼吸器外し無罪確定 冤罪生んだ捜査の検証が不可欠(2020年4月3日配信『愛媛新聞』-「社説」)

 滋賀県の病院で2003年、男性患者の人工呼吸器を外し殺害したとして殺人罪で懲役12年が確定、服役した元看護助手西山美香さんの再審公判で、大津地裁は無罪判決を言い渡した。大津地検はきのう上訴権を放棄し、無罪が確定した。

 逮捕から15年9カ月、最初の再審請求から9年半を経て、西山さんはようやく「名誉回復」を果たした。だが、奪われた貴重な時間は戻ってこない。長く汚名を着せられ、人生を狂わされた結果はあまりにも重大だ。

 判決は、男性は自然死の可能性が高いとし「何者かに殺害されたという事件性すら証明されていない」と断じた。警察官による自白の誘導にも言及しており、もはや事件ではなく、典型的な冤罪(えんざい)といえる。県警と検察は、事件をでっち上げた捜査の経緯を徹底検証し、信頼回復を図らなければならない。

 再審を通して明らかになったのは、信じがたい捜査のずさんさである。

 殺害を認めた西山さんの自白は、呼吸器のアラームが鳴り続けていたかどうかなど重要な点で目まぐるしく変わっていた。

 取り調べに関し、担当刑事が軽度の知的障害がある西山さんの特性や恋愛感情を利用し「事件性あり」との見立てに沿った自白を引き出すよう誘導した可能性があった。内規に反した食事の差し入れもあったという。判決で捜査を「虚偽供述を誘発する不当なもの」としたのは妥当といえよう。

 障害などが原因で自分を守る反論がしづらく、誘導されやすい「供述弱者」は、冤罪被害のリスクが高いとされる。知的障害がある人の取り調べでは、検察が11年から録音・録画や福祉関係者の立ち会いを一部認める運用を開始している。こうした対応を広げ、障害が疑われる人の取り調べに専門職や弁護士が立ち会えるよう、制度化を急ぐべきだ。

 さらに重大な問題は、県警による「証拠隠し」だ。再審決定後、県警が大津地検に送致していなかった証拠約120点を新たに開示し、その中には「患者の死因はたん詰まりの可能性がある」と、自然死を示唆する医師の報告書があった。

 刑事訴訟法では、警察が捜査記録を速やかに検察に提出するよう定めている。捜査側が、無罪につながる証拠を適切に検討していれば、西山さんは逮捕も起訴もされなかった可能性が高い。証拠の恣意(しい)的な取り扱いは看過できない。県警や検察は調査を尽くす必要がある。

 大津地裁の大西直樹裁判長は判決理由の朗読後「この裁判は刑事司法の在り方に大きな問題を提起した」と述べ、関係者に改善を促した。捜査機関だけでなく、ずさんな捜査をチェックできなかった裁判所の責任も重い。再審開始が決まっても検察の抗告で審理が長期化する課題もある。無実の人を迅速に救済するための制度の見直しなどに早急に着手せねばならない。




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Author:gogotamu2019
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