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「高齢者お断り」の賃貸住宅が増えている理由(2020年4月12日配信『東洋経済オンライン』)

入居者を守るための法律が逆に足かせに

一井 純 : 東洋経済 記者

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賃貸住宅にとって、高齢者は「招かれざる客」となりつつある(撮影:今井康一)

「正直、高齢者に家を貸すことには躊躇してしまう」。都内の賃貸仲介業者はこう打ち明ける。高齢者だから、という理由だけで賃貸住宅への入居を拒まれる。そんな時代が訪れつつある。

全国宅地建物取引業協会連合会は2018年12月、会員に対して高齢者への賃貸住宅の斡旋に関する調査を行った。それによれば、高齢者への斡旋を「積極的に行っている」と回答した事業者はわずか7.6%。「諸条件により判断している」が56.1%、「消極的」が11.5%、「行っていない」が24.8%と、高齢者の入居に対して前向きでない回答が大半を占めた。

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不動産業者は何を懸念しているのか。調査から浮かび上がったキーワードは、「認知症」と「孤独死」だ。

高齢者トラブルを懸念

認知症については、前述の調査での自由記入欄にて「バルコニーでの放尿」「(入居者が)パニック症候群で警察を呼んだ」など、家主や管理会社が高齢者の対応に手を焼く様子が伺える。認知症の高齢者による奇行は近隣住民との摩擦を起こしやすく、結果的に同じアパートやマンションの別の入居者の退去を引き起こしてしまう。

孤独死も悩みの種だ。遺品整理が必要になるほか、発見が遅れれば、室内の汚れや異臭を取り除く特殊清掃が必要になる。加えて孤独死が「事故物件」にあたると考える大家や管理会社は多く、通常の賃貸物件に比べて入居者に敬遠されるため、家賃や契約条件で譲歩せざるをえない。

賃貸住宅でのトラブルで累計2300件以上訴訟手続きを行い、高齢者の賃貸住宅への入居が困難になることに警鐘を鳴らした『老後に住める家がない!』の著者でもある司法書士の太田垣章子氏は、「現在の法制度では、こうしたトラブルに対応できない」と指摘する。

家賃滞納でも住み続ける

認知症を患う高齢者で問題になるのが、家賃の滞納だ。太田垣氏が対応したある案件では、70代の男性が月5万円の家賃を滞納。滞納額は70万円超に上っていた。

日本の法律では、家賃を滞納されても、家主はすぐに入居者を追い出すことができない。裁判所に建物の明け渡しを求める訴訟を提起し、裁判所の判決を待つ必要がある。被告である入居者から何ら反論がなくても、判決までには少なくとも2~3カ月間はかかる。

明け渡し判決を勝ち取っても、素直に退去するどころか、そのまま居座る入居者も少なくない。すると次は強制執行の手続きに移るが、おどろおどろしい文言とは裏腹に、高齢者の場合は力尽くで退去させるわけにはいかないのが実情だ。

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築古物件の建て替えに際しても、高齢者の退去は問題になる。写真はイメージ(撮影:今井康一)

強制執行では、家主が勝手に入居者をどかしたり荷物を撤去したりするのは許されず、明け渡したい建物がある地域を管轄する地方裁判所の執行官が中心となって行う。だが、「執行官は高齢者に対する強制執行をしたがらない。入居者を追い出した結果、命に関わる事態に繋がれば、執行官の責任問題になりかねないためだ」(太田垣氏)。

転居先が決まっているなど、入居者の身の安全が確保されていれば別だが、資力のない認知症の高齢者を受け入れる賃貸住宅はほとんどなく、強制執行が行われることなくそのまま居座られてしまう。幸いにも退去が決まったとしても、家主は滞納された家賃や現状回復にかかった費用は諦めざるをえないという。

賃借権も相続される

孤独死の場合、最大の問題は相続だ。入居者が死亡したとしても室内遺品は相続人のものであり、家主が勝手に撤去することはできない。さらにその部屋に入居する権利である「賃借権」まで相続されてしまうため、相続人は自分が住んでいない家賃を支払う債務を負うほか、家主は相続された賃借権を解除するまで次の募集をかけられない。

遺された契約について相続人と話し合おうと思っても、孤独死に追い込まれた入居者はもともと親族との関係が希薄で、誰が相続人かがわからない。家主自ら調べようとしても、「個人情報の関係で、行政機関は情報を出したがらない」(太田垣氏)。相続人を特定できなければ、建物明け渡しの訴訟を提起することもできず、家主は八方塞がりとなる。

一応、入居者が死亡した時点で契約が終了する「終身建物賃貸借制度」も存在するが、入居させる建物に対して家主が知事の認可を得る必要があり、使い勝手はよくない。

民間住宅の活用も進まず

昨年9月時点での65歳以上人口は3588万人で、今後もこの水準は変わらない。全員が持ち家に住めるわけではない一方で、自治体などが提供する公営住宅の数も限られ、入居が抽選となることも多い。

2017年10月には、高齢者や低所得者などの社会的弱者と、彼らの入居を拒まない民間の賃貸住宅をマッチングする「新たな住宅セーフティネット制度」が始まった。2020年度末までに賃貸住宅の登録戸数17万5000戸を掲げるが、今年1月末時点で2万424戸にとどまる。登録戸数1ケタ台の都道府県もあり、制度の認知も道半ばだ。

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引っ越しが負担となる高齢者は、一度入居したら長期間住み続けるため、空室リスクが少ない。賃貸住宅にとっては本来歓迎すべき客のはずだが、滞納や孤独死のリスクを憂慮し、家主は二の足を踏んでいる。

借主保護に傾きすぎ

不動産業者からは、「(賃貸住宅の入退去を規定する)借地借家法は入居者の保護に傾きすぎだ」という声も上がる。(期限が終了したら契約も終了する)定期借家契約を除いて、一般的な賃貸借契約は1カ月や2カ月程度の家賃滞納では、大家は退去を求めることはできない。契約期間が満了しても入居者が更新を希望している場合は、家主はそれを断れない。

さらに、孤独死によるトラブルを避けるべく、契約書において「一定期間連絡がつかない場合、室内の私物を家主が破棄してもいい」という特約をあらかじめ設けていても、「入居者に不利な条項であると判断され、認められない」(太田垣氏)。入居者を守るための法律が、逆に入居者を縛ってしまっている。

賃貸住まいの人はもちろん、現在持ち家の人でも子供の独立を機にコンパクトな賃貸マンションに引っ越したり、利便性の高い都市部に移ったりする可能性がある。入居者と家主のすれ違いを解消するには、賃貸借のあり方まで踏み込む必要がありそうだ





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